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疾走する鉄の塊。或いは、時速数十キロの暴走四駆。

●終わりから始まるもの
 空一面を、分厚い雲が覆っている。ここ数日、こんな天気が続いている。太陽が顔を見せることはなく、時折思い出したかのように、バケツをひっくり返したような雨が降る。
 しとしとと小雨が降りしきる朝一番に、それは町はずれの工場に運び込まれた。
 所々、深緑に塗られた塗装が剥げて金属の色を覗かせている。
 装甲はボコボコにへこみ、フロントガラスは粉々に砕け散っている。
 元の姿から程遠い、完全に大破したそれは、今では既に型遅れとなったジープだった。
 長い間、人を乗せて走り続けてきたのだろう。ぼろぼろの見た目とは裏腹に、エンジンや運転席、内部のパーツは綺麗に磨き上げられ、十全な整備が施されている。
 持ち主が、大切に乗っていたことが分かる。
 しかし、それも今日で終わり。
 交通事故で持ち主を失い、自身も車としての機能を果たせないまでに大破したそれは、この工場で使えるパーツを取られた後、近くの廃車置き場に運ばれることになっていた。
 工場内に運び込まれた車体に、男達の手が伸びる。
 その時。
 止まっていたはずのエンジンが起動し、傷だらけの車体が大きく震え始めた。

●暴走四駆を喰い止めろ
「というわけで、今回のターゲットは四輪駆動車のE・ゴーレムよ。フェーズは1」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、表情を変えないまま、机の上に資料を広げる。コピー用紙に印刷されているのは、今回のターゲットとなる車の写真だ。
「元はどこにでもある、少々型遅れの自動車だったんだけどね。どういうわけか、廃車寸前でエリューション化。工場に立て篭もっているようよ」
 と、今度は工場付近の地図が表示された。場所は郊外の山間部。むき出しの山肌と、舗装されていない地面。大きく開けた土地の隅に、件の工場がある。
「工場の扉が固くて、外に出てこれないようね。ただ、ターゲットは外に出たがっている。それだけなら、工場ごと爆破するのも手だったのだけど、面倒な事に、2階の居住スペースには従業員数名が取り残されている」
 幸いにも、取り残された従業員達はアークとも懇意にしているということもあり、エリューション化して直ぐに安全な場所に退避、難を逃れたと言う。
「とはいえ、放っておくわけにもいかない。ターゲットの撃破と、従業員の救出が今回の目的になるわ。それから、ターゲットは恐らく扉を開けると直ぐに外に出てこようとする筈よ。理由は不明だけど、どうやら街に向かいたがっているようね。相手は車だから、尋常じゃなく早いわよ。攻撃方法にしても、基本的には体当たりをしてくるだけ。まぁ、鉄の塊の体当たりなわけだから、それなりに威力はあるようね。それと、ガソリンを撒き散らしながら走行するわ」
 安全運転とは程遠い車というわけだ。
「街まで距離があるけれど、一度取り逃がすと追いつくのは困難と思っておいて。こっちも車があれば、話は別だけど。工場周辺は空き地になっていて、そこに至る道は未舗装の狭い道が一本だけ。工場2階の居住区には、工場内からしか行けない。街からは程遠いから、騒いでも特に問題はないわ」
 だから、工場を壊さない程度に思いきりやって、とイヴは言う。
「車には気を付けてね」
 なんて、昔どこかで聞いたような事を真面目な顔で言って、彼女は小さく頷いた。
 時速数十キロで疾走する鉄の塊のことを想像し、リベリスタ達の顔から、血の気が引く。
 交通事故には、気を付けよう。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月07日(水)23:46
病み月と申します。よろしくお願いします。
今回のターゲットは四輪駆動車のE・ゴーレムになります。
運転手もなしで、街に繰り出そうとしていますので止めてください。

・場所
町はずれの山間部にある小さな工場になります。
舗装されていないので足場はあまりよくありません。
半径数十メートルほどの土地があり、その隅に工場があります。
工場の反対側に、街へ向かう小道があります。皆さんはここから工場敷地内に入ります。
この小道以外からは、敷地内から出ることはできません。道の幅は、車二台が通れる程度です。バスやトラックの場合は、一台で一杯になります。
現在、工場の正面扉は固く閉ざされていおり、時折ターゲットが体当たりする音が聞こえてきます。
正面扉以外から工場内に入ることはできません。
扉は、扉わきにある操作盤で外からも開閉することが可能です。
なお、天気が悪く雨が降りそうです。雨が降り出した場合、足場はさらに悪くなります。


・敵
E・ゴーレム(四輪駆動車)×1
フェーズは1。
廃車予定だった型遅れの四輪駆動車。
ぼろぼろだが、E・ゴーレム化したことにより昔以上に性能は向上している。
街に向かいたがっている。そのため正面に立ちふさがらない限りは、攻撃しても無視される。
正面に立ちふさがると、邪魔ものと判断し襲ってくる。
時速60~90キロほど。
足場は悪いが、四駆なので関係ない。

【体当たり】→物近単[致命]
 スピードと固さを生かした体当たり。まっすぐ目標に向かって力いっぱいぶつかってくる。威力は高め。
【スピン】→物近範[ノックB][ショック]
 その場で高速回転。当たった対象を弾き飛ばす。
【オイルファイア】→神遠複[物防無][火炎]
 自身が撒き散らしたガソリンに火をつける。効果範囲は広く、回避し辛い。
 


ターゲットの破壊、或いは、走行不能状態にすることが成功条件。


情報は以上です。
生身で車と戦って来てください。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
デュランダル
★MVP
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
マグメイガス
オリガ・エレギン(BNE002764)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
クロスイージス
アルバロン・ヴァルハラウ・ブラッドルシファ(BNE003552)
スターサジタリー
ティセラ・イーリアス(BNE003564)

●工場へ
 地肌が剥き出しになった空き地の奥に、小さな工場が見える。そこそこの広さの土地にある、唯一の人工物だ。時折、金属と金属がぶつかるような音が辺りに響き渡る。
 そんな工場を遠巻きに眺める、八人の男女の姿があった。
「トラックで小道は封鎖したし、準備はこれで完了か?」
仲間達を見回しながらそう訊いたのは『合縁奇縁』結城龍一(BNE000210)だ。安全靴を履いた足で、地面をしっかり踏みしめ、工場を正面に据えて仁王立ちしている。彼の背後の小道にはトラックが停められていて、工場に通じる唯一の出入り口を封鎖していた。トラックの隙間からは、いざという時に備えて用意してきた、4WDや三輪オート、果ては馬の姿まで見える。
「ヒュー!」
 トラックと結城の間、シャベルで掘られた穴から、『ウルトラ紳士』アルバロン・ヴァルハラウ・ブラッドルシファが這い出てくる。裸の上半身で、ネクタイが揺れた。
 今回のターゲットである、四輪駆動車のE・ゴーレムの走行を邪魔するために掘った穴だった。
「そろそろ、行きますか。持ち主からの強い想いが、彼を付喪神のようにしてしまったんでしょうかね?」
 そう言って、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が、スキルで仲間たちの背に小さな羽根を付ける。決して整っているとは言えない足場で戦闘を行うための、事前準備だ。
「準備はいいわ」
 意識を最高まで自身の武器に集中させながら『封鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)が答える。
 その隣では『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)が目を瞑っている。彼女の足元で、彼女の影が蠢き、身を起こしていた。
「しかし、付喪神みたいな車だな」
 なんて、少しだけ哀しそうな顔で呟いたのは『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)だ。
「まぁ、僕も66歳でロートルですし、いつ廃車になるか……言ってて悲しくなってきました」
 『不幸自慢』オリガ・エレギン(BNE002764)が苦笑いを浮かべる。
「回復は僕に任せて、皆は思いっきりやってくれ」 
『アーク監視対象者』如月・達哉(BNE001662)が、結城の隣に立ち、そう言った。
 全員の準備が整ったことを確認すると、オリガが工場の扉に近づいていく。人の気配を察知したのか、工場の揺れが激しくなった。ジープが中で激しく暴れているのだ。
「多少の型落ちくらいなら、日本車ならまだ乗れそうなものですけどね……。さて、あけますよー? 大丈夫ですか?」
 操作盤に手を添えて仲間に訊ねる。
「ヒュー!!」
 答えるようにアルバロンが鳴いて、結城の後ろに立つ。
 それと同時に、ゆっくりと工場の扉が開く。
 奥に覗くのは、ガタガタに歪んだ車のライトと、深緑の車体。
 レースのスタートを告げるように、近くの山に雷が落ちた。

●最終走行(ラストラン)
 ドウッ、とそれはまるで矢のような勢いで飛び出してきた。迫力に負け、オリガの身体が後ろに倒れる。
 アルバロンと、ティセラがタイヤ目がけて射撃。しかし、命中はしない。二人が思っていたよりも、車の動きが早かったのだ。偶に命中しそうになっても撒き散らされる土くれに遮られて、逸れていく。
 深緑の矢は、足場の悪さも意に介さず、一目散に走ってくる。車体の正面に、結城が立ちふさがっている。2本の剣を構え、迎え撃つ態勢を取った。
「お前は俺を乗り越えねば、この先の、栄光への道はたどり着けないぞ!」
 そう吠える結城に向かって、車は突撃していった。結城と戦うつもりは端からありはしない。ただ、街へ行きたいのだ。もう一度、あの街を走りたいだけなのだ。
 その想いを感じとった不動峰が、辛そうな顔をする。
「そんな走り方をして、お前の主人はそんな危ない乗り方をしてたのか?」
 そう訊ねる声も、車には届かない。
 僅かな間、車を押しとどめていた結城だったが、勢いに負け弾き飛ばされた。一瞬、車のタイヤが空転し、再び地面を噛む。
 その前に、クリス、不動峰、アルバロンが立ち塞がる。なんとしてでも車をこの先に行かせないつもりだ。
「車よ、お前の主は死んだ。お前だけが蘇った所で、もう乗る人はいない」
 クリスの足元から、影が伸びる。人の形をとった影は、横から回り込むようにして車のタイヤに切りつけた。が、回転が速すぎるのか、弾かれてしまいタイヤを壊すには至らない。
 3人が車を押さえている間に、如月が傷ついた結城の治療を行う。結城は直ぐにでも前線に戻ろうとするが、体が痺れているのか、上手く立てないでいる。
「ヒュー!」
 アルバロンが悲鳴のような鳴き声を上げる。車が、その場で回転し、ブロックしていた3人を弾き飛ばしたのだ。
 車は回転を止めると、一番近くに落ちてきた不動峰に向けて走り出す。
「こっちは任せてください!」
 と、不動峰を助けに高木が飛ぶ。車に轢かれる寸前で、彼女の手を掴んで車線上から助けだす。
 車を止める者は誰もいなくなった。真っすぐにトラックへ向かって方向転換。
 このままトラックにぶつかるつもりだろうか? そんな事をすれば、ボロボロの車体はさらに傷つくことになる。そんなことすら分からないのか、それとも、自身の身体よりも優先する事情があるのか……。それほどまでに走りたいのか。
 アルバロンの掘った穴を飛び越え、トラックへ……。と、その時後輪目がけて1枚のカードが突き刺さる。勢いを殺され、車体は穴の中へと落下する。
「間に合いました!」
 道化のカードを手にしたオリガが、側面に回り込む。それに追随するように、ティセラも反対側へと走る。左右から車体を挟みこみ、穴の中から這い上ろうともがく車体目がけ、カードと弾丸を撃ち込んだ。
「速度を落とせば、いくらか対処もしやすいでしょ」
 ティセラの放つ弾丸が、正確に車のタイヤを穿つ。車の境遇に同情してか、ここに至るまで積極的な攻撃は見られない。あくまで走行不能にすることを念頭に置いた攻撃だ。彼女の全身から伸びるエネルギーコードから、緑の粒子が迸った。
 ティセラの攻撃が命中し、後輪が一つパンクした。それと同時に、車体が穴から抜けだす。
 数多の弾丸と攻撃を受け、黒い煙立ち昇らせている。それでも、ただまっすぐに街へ向かおうとする。タイヤが一つパンクしたせいで、ガタガタと車体が大きく揺れる。
「そうまでして……」
 辛そうな声を漏らしたのは、高木だった。その傍らでは、彼の治療を受けている不動峰がじっと車を見つめていた。
 車の感情が、彼女の頭に流れ込んでくる。
 車は、ただ走りたかっただけなのだ。持ち主と一緒に、あの街を……。それなのに、突然の事故によりその持ち主を失い、自身も車としての機能を果たせなくなった。
 それが辛くて、悲しい。
 だから、もう一度、走りたい。
 もっと、走っていたい。型遅れになった自分を、大切に使い続けてくれた主人の為にも、ずっとずっと、走り続けていたかった。
 それだけなのに、たったそれだけの願いも叶わない。
「走りたいだけなんだな、あいつは……」
 今尚、トラックに向かって体当たりを続けている車を見つめ、不動峰がそう漏らす。トラックが少しずつ後ろにズレていく。車体が小道の壁面を削る。
「突破されます!」
 そう言ったのはオリガだった。
 その言葉を聞いて、結城が立ちあがる。未だ痺れはとれないのか、力の入らない体を、地面に突き刺した剣で支えている。
「如月、バイクを出してくれ」
「なに? 何をするつもりだ、結城」
「こいつは、まだまだ走れるんだ!」
 いつの間にか、雨が降り始めていた。その雨を浴びながら、結城は叫ぶ。
 彼がそう叫んだ、その時、トラックを押しのけ、車が小道に飛び出した。

●カーチェイス
「動かしますよー?」
 トラックの運転席に座ったオリガが、AFを使って仲間たちに訊ねる。
「あぁ、構わない。頼む」
 クリスの返答を聞いて、オリガがトラックのアクセルを踏み込んだ。
 車がトラックを押しのけた際、仲間達の車や馬の進路を塞いでしまっていたのだ。唯一走行可能だった如月のバイクで、結城と如月の二人は先に車を追い越して先回りしている。万が一にも、車を街に逃がさないように、進路を塞いでいるのだ。
 泥を巻き上げながら、トラックの車体が前進する。
「先に行くぞ」
 馬に跨った不動峰が、トラックの隙間から一足先に抜け出し車を追って行く。先のダメージが効いているのか、車の速度は今までに比べ格段に落ちていた。
 車の攻撃対象にならないよう、馬を車の斜め後ろにつける。
大きくへこんだ車体、崩れ落ちるガラスに、外れかけのタイヤ。ポタポタとオイルを漏らしながら、それでも街に出ようと走り続ける。
トラックが移動し、空いたスペースから、高木の4WDが小道へ出てきた。泥を巻き上げ発進する。すぐに、車に追いつくだろう。追いついて即攻撃を開始すれば、あっという間に対象を走行不能にすることも可能だ。だが、そうはしないと決めていた。
 もう少しだけ走らせてやりたい、とそう言いだしたのは結城だった。
 仲間達も、それに反対はしなかった。
「本当に、いいんですか?」
 万が一取り逃がした場合の事を思い、高木がそう訊ねる。不動峰とは反対側を、彼の運転する4WDが走っている。
「知らない……。が、責任は結城が取ると言っている」
 どこか楽しそうにクリスが言った。
「まぁ、いいんじゃないかしら? 万が一の場合は、私がなんとかするわ」
 後部座席に座って、靴についた泥を払いながらティセラが答える。
「皆さん! 頼みましたよ!」
 トラックの運転席から、オリガが声を張り上げる。その声にサムズアップで答えたのは、アルバロンの逞しい腕だった。

「本当に、無茶をする」
 苦笑いを浮かべ、如月が言う。
「オレは自分のやり方を通しただけだ」
「ふん……。甘いな。まぁいい。後であの車、修理できないか訊いてみよう。費用は僕が出す。結城、彼女とドライブなんかどうだ?」
「はは、それもいいな」
 小道の先から走ってくる四駆と、その後ろに続く仲間達を遠目に、二人は静かに言葉を交わす。
 雨の勢いが強くなってきた。水滴が地面を打つ音。それに、苦しそうなエンジンが混ざる。最初に比べると、随分スピードは落ちたようだが、それでも四駆はまだ走っている。
 上下左右、ガタガタと苦しそうに車体を震わせながら、それでも前へ前へと。
「それだけ走れるなら十分よ」
 AFから聞こえてきたティセラの声からは、彼女の感情は窺い知ることはできない。
 それでも、きっと自分と同じ気持ちを抱いてくれているだろう事を願い、結城は剣を構える。
 最後に、少しだけでも走らせてやりたい。
「だけど、ここまでだ」
 地面に一本、線を引いた。これ以上先には通すことは出来ない。
 何故なら、この先は一般道路だからだ。
「さぁ、来い。お前の存在を受け止める」

 絶えず左右に動くワイパーが、雨の水を弾く。ガラスの向こうに見えるのは、ボロボロの四輪駆動車。それから、視界の端に映る一頭の馬と、それに跨る不動峰。
 工場で暴れ、街へ向かおうとしていた車のことを、高木は思う。
 走り続けたいと願った車のことを。
「でももう走る必要はないのです」
 せめて、ご主人様と同じ所に無事着きますように、とそう願い高木は車を止めた。
 十数メートル先には、結城と如月が待ち構えている。
 停車した4WDのドアを開けて、クリス達が飛び出した。反対側では、同じように不動峰も馬から飛び降りている。それに気付いたのか、車が悲鳴のようなエンジン音をたてて、急にスピードを上げた。エンジンの一部が壊れたのか、黒い煙の量が増す。
 これが最後だ、と誰もがそう思った。
「……エリューションになってまで蘇るなど、お前の主とて望まないだろう。天国へ行き、そこで主とドライブをするがいい」
 後輪を狙って、クリスが影で出来た剣を投げつける。
「そうね。それが一番いいと思うわ」
 と、タイヤに向かって正確な射撃を行うのはティセラだ。放たれた弾丸は、確実にタイヤを射抜き、車の動きを鈍らせる。
「ヒュー!」
 悲しそうに鳴いて、アルバロンもアームキャノンを放つ。
 そして車上空からは、不動峰による射撃。彼らの役目は、少しだけ車の勢いを殺す事だ。いくら結城が強い想いを胸に抱いていても、鉄の塊と正面衝突すれば命の危険も在り得るだろう。
 それを防ぐための攻撃だ。

「……」
 愛用のショルダーキーボードを構えた如月が、結城の隣に並んだ。二人の見つめる先では、黒い煙を上げながら走る車と、車に攻撃を加える仲間達の姿があった。
 あとは自分達が、正面からその想いを受け止める。
「来るぞ、如月」
 二本の剣を構え、結城が飛び出した。如月もそれに続いて、車に向かって体当たりを敢行する。
 ドン、という鈍い音。結城の剣と如月の身体が、車とぶつかったのだ。
 後輪をパンクさせ、エンジンからは悲鳴を上げながらも前へ進もうとする四輪駆動車。
 そして、それを正面から受け止める男が二人。
「一本の剣であれば、折れただろうさ。だが!俺が持つはニ刀……。そして俺自身が三本目の剣! アークの剣だ! 折れると思うか、この三本の剣をぉぉ!!」
「うお、ぉぉお!!」
 身体を車体に密着させたまま如月がキーボードの鍵盤を叩く。そこから伸びた気糸が的確にタイヤの軸を貫いた。精密に狙い澄まされた一撃により、車軸が折れた。泥と雨水を巻き上げ、タイヤが空転。勢いのままに、タイヤが横にはじけ飛ぶ。衝撃で車体がわずかに浮かび上がった。
 歪んだ後輪が高速で回転し車体を前へ押し出す。結城の身体が押し退けられた。
 弾き飛ばされながら、結城が左右の剣を振るう。気迫の籠った斬撃と、深緑の車体が交差する。
 そして、それが最後だった。
 弾き飛ばされた結城と如月の後方で、ジープの動きが止まる。エンジンと車軸を切断され、ついに走行不可能となったのだ。
 最後まで走り抜いた四輪駆動車は、こうしてその動きを止めた。
 雨に打たれる深緑の車体に向かって、リベリスタ達は静かに黙祷を捧げる。

●後片づけ
「後はアークでなんとかするでしょう」
 トラックの荷台から、壊れた四輪駆動車を下ろすのを手伝いながらオリガは呟く。
 最後まで走り抜いた車に、最大限の敬意を払いながら、優しく濡れた車体を撫でる。工場の奥では、数人の仲間達が、この後この車をどうするのか工場長と話合っている。
 また走れるようになればいいな、とそう願わずにはいられなかった。
 
「なぁ、頼むよ。無理を承知で。なんとか修理できないものかな?」
 と、不動峰は顔の前で手を合わせて工場長に頼みこんでいる。
「そうは言っても、この状態じゃあなぁ」
 無精ひげを撫でながら、工場長は難しい顔でそう答えた。
 それもそうだろう。元々事故でボロボロだった上に、無茶な走行。暴走。挙句、何度も攻撃を受け、エンジンは破壊されてしまっている。
 どう考えても、修理は不可能だ。
「せめて人の役に立つアーティファクトに生まれていれば良かったのに」
 寂しそうに呟いたのは、ティセラだ。破壊されたE・ゴーレムはもう動かない。手を出せる余地は残っていないし、運命はそれを望まなかった。
「だったらせめて、使えるパーツだけでも再利用して欲しい」
 そう言ったのは、如月だ。サングラスの奥の瞳は、真剣だった。
「それが可能ならな」
 そう言う如月の隣では、結城も同じように真剣な瞳で工場長を見つめていた。
「持ち主の墓に、供えてやりたいんだ。鍵だけでも譲ってもらえないか?」
 孤児院で育ったクリスにとって、家族の絆というものは、何よりも大切にすべきものらしい。
 例えそれが、人と車であっても、大事にされていたのなら、同じ場所に葬ってやりたいと、彼女はそう考える。

「ヒュー!」
 雨の中、自らが掘り返した穴を埋めなおすのはアルバロンだ。裸の上半身は、土と雨水でドロドロに汚れていた。しかし、彼は嫌な顔一つせず、シャベルを動かし続ける。
 何故なら彼は紳士だからだ。
 一仕事終えた後は、キチンと片付けをするのである。
「ほぉ……」
 そんなアルバロンを眺めながら、高木は感心したような声を漏らす。
 ヒュー! としか鳴かないアルバロンの事が、最初はよく分からなった。
 しかし、こうして一仕事終えてみれば、彼が間違いなく紳士だということが分かる。
 そんな彼と仕事が出来た事を、高木は良い経験だった、と判断した。

 こうして、四輪駆動車の暴走は止められた。
 戦いの後を洗い流すかのように雨が降り続けている。
 最後まで走り抜いた深緑の車体を、雨水が流れ落ちた。それはまるで、涙のようで……。
 どこか遠くで、車のクラクションが鳴り響いた。
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れさまでした、依頼は成功です。

ただターゲットを破壊するのではなく、走りたいという想いを尊重するプレイングが多くて、嬉しかったです。
中でも、結城さんは、車の想いを正面から受け止めようとしてくれていたので、MVPを送りたいと思います。

気持ちのいいプレイングばかりで、書いていて楽しかったです。
ありがとうございました。