●散花 ――君が好きな花ばかりを集めて、とびきりの花束を贈るよ。 そう告げて街へ出かけた恋人はそれきり、帰ってくることはなかった。 彼を探しに出た娘が見つけたものは、血色に染まった道路の惨状と地に伏す死体――彼だったモノの、成れの果て。トラックに轢かれて引き摺られたらしき、その身体は人の形を成していなかった。 辺りには千切れた四肢が無造作に転がっており、淡い色を湛えていたはずの野花は無残に散り、どちらも黒く濁った血に塗れていた。 どれだけ泣き続けただろう。幾度、彼の帰りを願っただろう。 酷く憔悴した娘の心はいつしか思いに堪え切れなくなっていた。だが、それと同時に無意識のうちに革醒した彼女の中に異質な力と思いが宿ってしまう。 「そうだ……繋げてあげればいいのよね」 娘はうつろな瞳を虚空に向け、ぽつりと呟いた。 それから幾晩かが経ち――泣くことを止めた彼女は今、薄暗い廃屋の中で針と糸を手に黙々と、縫い物の作業に没頭していた。 「あと左脚と眼と耳と薬指と親指と二の腕と頬と踵と腿が足りない足りない足りないまだ全然足りないわ。あの人のためにも早く新しい体を見つけて集めて切ってもっと集めて縫い合わせないと」 ほとんど息継ぎもせず、娘は無表情で呟き続ける。 手にした肉片に針をぷつりと刺すと、滴る血が糸に絡みついた。零れ落ちる雫は、娘の纏う白い服を赤く汚してゆく。 彼女は信じていた。彼に『足りないもの』を集めて縫い合わせて元に戻せば、あの頃のように自分に微笑みかけてくれるだろう。そしてまた、自分に花束をプレゼントしてくれるのだと。 だから娘は集め続ける。自分が殺した人間の一部を、彼の体として繋ぎ合わせるため。 それが叶わぬ事にすら気付かず――狂った運命の中、歪んだ己の心が命じるままに、ずっと。 ●狂華 今回、倒すべきノーフェイスはそんな運命を辿った人。 万華鏡から視えた事件を語り、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、革醒して変異した彼女のフェーズが随分と進んでいる事を告げた。 「彼女のフェーズは2。このまま放っておけば、もっとひどい事になる」 既に彼女に殺された被害者も幾人か出てしまっている。だが今夜、娘は集めた身体のパーツを縫い合わせることに集中しているようだ。ゆえに今から彼女が死体置き場にしている廃屋に向かえば、これ以上の被害を出す前にノーフェイスと対峙することが出来るだろう。 名を奥居・由梨という娘の、エリューションとしての力は相当。 ハサミのように異形化した掌の刃は鋭く此方を狙い、神秘の糸を放つ一撃は一度に複数をも巻き込む。油断していては勝てぬ相手だということを、肝に銘じておかねばならない。 「それに、気を付けて。彼女の傍にはE・アンデッドと化した被害者の死体も付いているから」 その数は二体。どちらも青年の姿をしているが、元の顔までは判別できない。 身体のそこかしこを千切り取られ、見るも無残な姿となった青年達は近付く者に容赦のない一撃を仕掛けて来る。 人気の無い現場には余程のことがない限りは人が訪れたりはしないが、戦いは精神的にも過酷なものになるはずだ。 そして全てを語り終えた少女は静かに瞳を伏せると、小さな呟きを零した。 「散った花はもう、元には戻らないのにね」 だからといって諦めきれない思いが理解出来ないわけではない。 然しどのような理由が在ろうとも、彼女の凶行は決して赦しておけるものではない。だからお願い、とイヴが向けた眼差しは、真っ直ぐに注がれていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月09日(金)22:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●血に染まりし 廃屋に足を踏み入れた途端、酷い異臭が鼻腔を衝いた。 それはいつしか嗅ぎ慣れてしまった血の香りに他ならず、『忠犬こたろー』羽柴・呼太郎(BNE003190) は眉を潜める。荒れ果てた屋内には乾ききった血の跡が残っており、この場所で何が行われているかを如実に示していた。 「これはひどい。大事な作業をする職人なら、もう少し工房に気を使うべきだよ」 内部の惨状を懐中電灯で照らし、『落とし子』シメオン・グリーン(BNE003549)は、呆れた様子で肩を落とす。その視線の先には目的のノーフェイスの姿があり、彼女はどうやら今も死人の肉片を繋ぎ合せるという異常な行為を行っているようだ。 愛する人を失ったが故に、彼女の心は歪んでしまった。 何かを愛するということ自体は悪ではないのに、と独り言ちた『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の双眸と、ノーフェイスたる奥居・由梨の虚ろな眼差しが交差する。 正気を失っている相手だが、本能的にリベリスタ達を敵だと察したのだろう。 作業を中断した由梨は、未だ形を成していない骸の寄せ集めを横へ置き、ゆっくりと立ち上がる。 「邪魔をしないで、此処から出て行って」 「やれやれ。妙な方向に病みやがったもんだ」 身構えた『鋼鉄の渡り鳥』霧谷 燕(BNE003278)が素直な感想を零すと同時、ノーフェイスの傍に蹲っていた二体のアンデッドも身体を起こした。いいように切り刻まれ、生と意志を失くした彼等の姿は見るに堪えないものだったが、『A-coupler』讀鳴・凛麗(BNE002155)は視線を逸らさなかった。 大切な人を失ってしまった事実は、とても重い。そのことは理解できる。 だが、彼女の行為は正しいものではない。それだけは間違いの無い事実だと己の心に告げ、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)も亦、身構えながら背の翼を羽ばたかせた。 不穏な空気が漂う中、仲間達の最後尾にて『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)は、不気味なのは嫌いだと小さく呟いた。 「運命を変えられなかった人、可哀想だから私が止めてあげるの」 だから、躊躇はしちゃダメ。 そう自分に言い聞かせるように少女は闇の力を纏い、敵に左右非対称の瞳を向ける。 その根本に在ったものは、深き愛情であったはず。 彼女は理不尽にも奪われた半身を取り戻そうとしているだけ。なれど、なればこそ、歪んだ力を持つ彼女を斬らねばならない。僅かに瞼を伏せた『水龍』水上 流(BNE003277)は、己が瀧丸と呼ぶ太刀の柄に手を掛け、素早く鯉口を切る。 「介錯、仕る」 凛と響く流の声が闇に響いた刹那――戦いの幕が、上がった。 ●淀んだ狂気と 乾いて黒く変色した血の色は、まるで心に滲んだ闇のようだ。 アンデッド達を見据えたシメオンは生ける屍を標的に定め、罠の領域を広げた。同時に浮かべた笑みはその場に似つかわぬほどの穏やかなものだったが、撃ち放った一撃に容赦はない。 「キミはいい道具を持ってるけど腕がイマイチみたいだ」 そしてシメオンが紡いだ言葉は、奥に控える由梨へと投げ掛けたもの。それ、と示したのは横に置かれた作り掛けの骸――彼女にとっての『彼』のことだ。骸を作品として見ているシメオンは、こんな不細工な出来ではとてもとても、と批評めいた感想を零した。 その最中に燕が一体のアンデッドを相手取り、もう片方を流が受け持つ形で二人は散開する。 「それじゃ、正面からぶっ潰すぜ!」 流水の構えを取った燕が放つ掌は標的の腹を打ち据えた。叩き込む気の流れは敵の身体を揺らがせるが、未だそれは決定打にはならない。そしてアンデッドは肉薄した燕へと反撃を行うべく、腐り掛けた腕を振り回す。瞬間、彼女の身体に殴打の痛みが駆け巡った。 その様子を横目で確認した流は、この青年達も一筋縄では行かぬことを再認識する。 雷気を纏わせた水の刀に己の力を込め、振り下ろした一太刀は敵の身を鋭く裂いた。彼女を、そして彼らを救う術は今やただひとつ、この刃で以て斬り伏せること。勢いのままに後方に吹き飛ばされた青年骸がわずかに体勢を崩す。 その間に動いた由梨が、流達を糸で絡め取ろうと手を伸ばした。 「由梨さんの相手は、このオレっスよ!」 しかし、即座に駆けた呼太郎がそうはさせない。途端にギロリと向けられた由梨の視線に若干の怯えと恐怖を覚えながらも、彼は射線を塞ぐようにして前に立ち塞がる。その役目はアンデッドを撃破し終えるまで相手を抑え続けること。 そして生命の力を世界から借り受けた呼太郎は、仲間達を信じて剣を構えた。 「退いて退いて退きなさい邪魔なのよ」 息継ぎもせずに淀んだ瞳で青年を睨み付ける由梨。そんな二人の傍へと駆け、先に四神の守護を己に纏わせた紫月は刀儀陣を展開する。 「貴女の凶行は、今日までです」 周囲に浮遊する道力の剣は紫月の護りを更に強固にし、呼太郎と共に堪える意志を宿らせた。 自分に近付いた呼太郎達に標的を定め直し、由梨が放った糸はその身体を絡め取る。だが、耐えきると決めた彼らの身はこんな所で倒れるほど弱くはなかった。 そしてその周囲を、シャルロッテが解き放った暗黒の瘴気が見る間に覆ってゆく。 「思いきりいくのー」 暗黒の代償は反動となってその身に痛みをもたらすが、少女自身の瞳の奥は未だ曇ってはいない。戸惑わないと決めた、その幼い思いは確かな力となって敵の周りに不吉な空気を纏わせた。 動く力を徐々に失ってゆく青年骸を見つめ、凛麗は狙い澄ませた一撃を放つ。 何だか寂しくて、悲しい。胸を衝くような思いは消えてくれない。それでも、彼女は掲げた指先を標的へと示し、シメオンと共に気糸を繰り出し続けていた。 しかし次の瞬間、流を狙ったアンデッドの攻撃が猛威を揮い、同時に由梨の一撃が呼太郎を裂く。 呼太郎は何とか耐えて見せたが、殴打を受けた流の身体は後方に吹き飛ばされてしまう。すかさず凛麗がその穴を埋めるべく駆け、カルナが体力を大幅に失った仲間の傷を癒すべく、淡い声で詠唱を紡いだ。 そして、カルナの生み出した癒しの息吹は仲間達の身をやさしく包み込む。 「……忝い」 「大感謝っス!」 二人の礼に静かに頷きながら、カルナは胸を刺すような痛みを懸命に堪えていた。 思うのは、視線の先で歪んだ力を振るっている由梨のこと。説得する心算などないけれど、その行為は否定しなければいけないように思えたのだ。 「人は……一度失われてしまった命は、どうしようと取り戻す事は出来ないのです」 そして告げたのは非情な言葉。悲しいほどに、誰も抗うことの出来ぬ現実。 しかと前を見据えたカルナは紡ぐ。だからこそ――その凶行は止めなければならないのだ、と。 ●絶望に満ちて 紫月は転がったままの継接ぎの骸を見遣ると、肉薄した由梨へと囁くように告げる。 「……幾ら繋ぎ合わせた所で、あなたの愛した者は戻って来ませんよ」 「うるさい、煩い煩い煩い五月蠅い――!!」 此方の声に反応したノーフェイスは叫びをあげ、尚も激しく念糸を解き放つ。現実と狂気の狭間で揺れ動くのは、彼女の心に残ったわずかな想いだろうか。叫びに比例して攻撃はリベリスタ達を捉え、射線上にいた紫月と凛麗、そして燕の身を鋭く抉った。途端に縛りつけられるような感覚が彼女達を襲い、その動きは大きく阻害されることとなる。 其処へ、痺れてしまった身体を抑える燕目掛けてアンデッドが襲い来てしまう。 だが、先にシャルロッテが放っていた暗黒瘴気によって、敵の狙いは狂わされていた。その助けもあって何とか致命傷を受けずに済んだ燕は力を振り絞ると、頼みの綱である青年へと呼び掛ける。 「こんな所で止められてたまるか。呼太郎、頼んだぜ!」 「喜んで! 回復はいりますっス!」 燕の声に元気良く返事をした呼太郎は、尻尾があればそれを全力で振る勢いで応えた。 それこそが自分の役目だから、と彼が掌を宙にかざした刹那。解き放たれた神光は淡い光を周囲に宿し、仲間達を苛む麻痺の力を消し去ってゆく。 激しい攻防が巡る中、シメオンは的確に状況を把握していた。このまま押し続ければ、二体のアンデッドは撃破出来るだろう。ゆえにより弱った対象を狙おうと決めたシメオンは、流の相手取っていた標的へと気糸の罠を展開した。見事に青年骸を捉えた糸は瞬時にその身を縛りあげ、最後へのカウントダウンを刻む。 其処に隙を見出した流も前線へとふたたび駆け、凛麗が抑えるアンデッドとの距離をひといきに詰めた。 「我が剣を以って、其の因縁を断ち申す」 自分達に出来る事は、ただ安息を齎すだけ。流が刃に宿す気は、切実なる思い。瞬く間に斬り下ろされた一閃は、青年骸を真正面から裂き――その身体は仮初めの命を失って地に伏した。 一体目が動かなくなった事を視認した刹那、体勢を立て直した燕は残るアンデッドへと蹴撃を放つ。 そしてすかさずシャルロッテが魔閃光を撃ち込み、相手を揺らがせた。其処に再度の行動の機を見出した燕が更なる蹴りを叩き込み、生まれいずるかまいたちは一瞬にして青年骸を切り裂く。立つ事すらままならず、一気に力を失って崩れ落ちた。 「やったぜ! これで残るは――」 身構え続ける燕が向けた眼差しの先には最後に残ったノーフェイス、由梨が立っている。 憎々しげに此方を睨み付ける彼女の体力は未だ十分にあるだろう。アンデッドを倒しきったとて、戦いの本番は此処から。 文字通りの正念場となる最中、カルナは由梨へと思いの丈を告げ続けようと決めていた。現実から目を逸らし、世界の摂理が見えていない彼女に教えるべきは真実。 「繋ぎ合わせただけの歯車に魂が宿る事はありません。ゆえに、あえて言いましょう」 ――貴方の行為はすべて無為である、と。 カルナの言葉と共に聖なる閃光が迸り、由梨の身をわずかに焼いた。そして痛みに苦しげな声を零したノーフェイスは、我武者羅に腕の鋏を振り回す。運命に見放され、狂気の道を歩んでしまった彼女だが、頑なに真実を拒否する姿は哀れに思えた。 凛麗は精神を研ぎ澄まし、集中する。伝達演算の領域を高めながら紡ぐ声で伝えるのは、彼女自身が感じた想い。 「わたくしは貴方に忘れないでほしい。忘れていれば、どうか思い出してほしい」 彼の捧げようとした花の色を。貴方が好きな花の色、貴方が好きな彼の姿を――。 それはきっと、今作り上げようとしているモノとは全く違う。求めたはずの幸せとは掛け離れた、悲しみと絶望だけのもの。だが、由梨は現実を思い出そうとも、ましてや見ようともしなかった。 「違うわ、もっと彼の欠片が要るの。あと足りない部分が全部集まればきっと私はまた彼に逢えるのよ」 ぶつぶつと呟いて盲信を続ける彼女の姿に、凛麗とカルナは思わず瞳を伏せる。紫月までもが一瞬言葉を失いかけ、彼女が既に救いきれぬ存在だということを痛感した。 「愛ゆえに貴女は歪んでしまって、気付かないのですね。……貴方の愛した個人とは、唯一無二であり、寄せ集めの塊で決してない事を」 そんな中でシメオンだけは不思議に優しい笑みを湛え続け、不意に口を開く。 「それなら……何も見えていない、そんな目は要らないだろう?」 血の涙でも涙には変わりないから。狂ったまま、思いきり泣くといい。そう告げたシメオンは近付く最後に向け、標的目掛けて容赦の無い一撃を打ち込んだ。 ●最期は花と共に 呼太郎の剣が由梨を裂き、新たな赤い血が床を汚す。 ぐらりと揺れた敵の身体は既に傷だらけ。それでも、反撃代わりに放たれた糸は多くの対象を狙って宙を舞った。その激しい威力に紫月の身が揺らぎ、大きな衝撃が仲間達に飛散する。 「これでも男っスからね! 簡単に倒れたりはしないっス!」 倒れそうになる直前、呼太郎は荒い息を吐きながら耐えて見せた。 意志で引き寄せた運命は、その胸に――。 「抗ってみせるわ。貴方がそうしないのならば……代わりに、私が」 紫月もまた、遠退きかけた意識を手放さぬようにと強い思いを言葉へと変える。 そして、そんな二人の背を支えるようにカルナが癒しの力を施した。広がる息吹は聖なる力を仲間達へと宿し、最後の後押しとなる。 「どうか、眠りについてしまった貴方の大切な人が悲しむような行為をこれ以上重ねないで下さい」 言の葉に込めた思いは切実に、戦いの収束を願ったカルナの白い髪飾りが凛と揺れた。 そして、シメオンが狙い打った一撃に続き、燕の拳が一気に叩き込まれる。一度は麻痺を受けた由梨だが、その淀んだ瞳は最早『敵』であるリベリスタ達を切り刻む事しか考えていないように思えた。 残った力で以て拘束を解き、ノーフェイスは無軌道に鋏を振り回してゆく。その哀れとしか感じられぬ存在に凛麗は首を振り、気糸の一撃を放った。 苦しげな声を漏らす由梨の力も、あと少しだろう。 シャルロッテは前に出ると、今まで自分が受けた痛みを解き放つが如く、呪いの力を具現化する。 「私の傷は何倍にもして貴方にあげる」 少女から解放されたおぞましいほどの念が彼女を包み込み、体勢を崩した由梨がその場に膝をついた。立ち上がる気力さえ残っていないであろうノーフェイスを見据え、流が刃を向ける。 彼女が望んだことは何ひとつ、叶えることが出来ない。ならば歪んだ幻想に生きるより、正しい現実で死すべきなのだろう。 「人は死ぬ。花は散る。水は流れる。無かった事になど神仏にも出来ぬ」 疾風の如く、抜き放たれた刃が起こす真空刃に最期の一言が添えられる。 斯様な死は慣れない。そう零した流の刃がふたたび鞘に収められた時――女の身体は力なく崩れ落ち、戦いの終幕が訪れた。 何も遺す事なく死した娘の亡骸を見下ろし、リベリスタ達は短い黙祷を捧げた。 すべてが終わった静けさの中、漂う血の香りだけは未だ色濃く残っている。思うことは、其々違うだろう。横たわる遺体にカルナは祈りを紡ぎ、燕は僅かな視線を向けて語り掛ける。 「もし、あの世なんてもんがあるなら向こうで幸せにな」 せめて、その先に続く何処かで――。そんなものを本当に信じているわけではないが、そう言わずにはいられなかった。 そうして、リベリスタ達は死の香に満ちた廃屋から踵を返しはじめた。 「彼と同じところに行けるといいね」 無理だと思うけど、とシメオンがふと零した言葉は冷たく、部屋の中に小さな反響を残した。 仲間達が一人、また一人と部屋を出ていく最中。凛麗は最後に、と用意していた花束を部屋の前にそっと置く。 彼女の好きな花がその内のひとつに見つかれば良い。 そして、此処に散らばる者達の手向けの花となるように――。 凶行と狂気は此処で閉じられ、二度と繰り返される事はない。 幽かな願いと共に朽ちた廃屋に残された花は、悲しいほどに鮮やかな彩を宿していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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