●アーク 「イチハチサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「今回皆さんには『まだ救える命』を救ってもらいます」 は? 怪訝な顔をするリベリスタたち。和泉はその疑問に答えるべく端末を操作した。モニターに浮かび上がる地図と、研究所と思われる建物。 「順を追って説明します。遠くない未来、七派フィクサードの一つ『剣林』がある研究所を襲撃します。この研究所は人体実験により人工的に革醒者を生み出そうとする研究をしていました」 リベリスタたちの表情は様々だ。人体実験に怒りを覚えるものもいれば、おのれの境遇に重ねるものもいる。 「剣林は武闘派で知られるフィクサード集団です。その戦闘力は七派の中でも一番と言ってもいいでしょう。研究所の破壊は避けれません。 問題は、彼らの破壊対象の中に人体実験に使用された『サンプル』が含まれていることです」 人体実験に使用された『サンプル』……つまり、それは。 「はい。人間です。年齢10才を超えるか超えないかの子供が20名。それが研究所内にいて、しかも『剣林』はそれを見つけ次第殺すつもりのようです」 「何のために?」 「研究書の存在を痕跡も残さず消す為です。そのためには、実験に使用されたものすべてを破壊する。それが彼らの目的のようです。 その難易度から研究完了の目処は立っておらず、研究所を放置すればさらに犠牲者が生まれたはずです。剣林は対抗組織や何らかの事情から研究所の破壊を請け負ったのでしょう。……未来を見た景色からの推測ですが」 最後、和泉は一言追加した。彼女自身確信はもてないが、そう言い切る根拠はある。そんな口調だ。 「フィクサードの足止めは別働隊が行ないます。皆さんは子供たちの救出を」 モニターに映し出される研究室の地図。ARKとかかれた赤い矢印。施設の一室に向かい、そこで子供を回収。そして赤い矢印は二手に別れ、片方が青い矢印とぶつかり合う。矢印は剣林の戦力だ。 そして『Unknown』と書かれた黄色の矢印が。横から迫っている。 「子供たちをアークのトラックに乗せて敷地からでるまでの間に、一人のフィクサードと一体のEゴーレムがトラックに接触してくる未来を予知しました。子供を襲い、回収する為に。 戦いが始まれば『剣林』もトラックの存在に気付きます。そうなれば妨害のためにトラックを攻撃してくるでしょう」 面倒だな。渋い顔をするリベリスタたち。トラックは戦闘用のものではなく運搬用のものだ。革醒者の攻撃に何度も晒されれば、トラックはともかく荷台にいる子供たちにも影響が出る。 「受動的に突破を待っていれば、耐えられないでしょう。乗り物を使って『Unknown』や剣林を攻撃するか、荷台に残って子供たちを守るかが考えられます。 施設を出てしまえば、彼らも追う事はないでしょう。おおよそ五分」 五分。平時ならともかく戦闘においては長い時間だ。ましてや相手は武闘派のフィクサードなのだ。上手く作戦を立てないと、ガス欠で倒れることになる。 「これはエリューションに関係なく、崩界には全く関係ない事例です。フィクサードたちも無実の一般人を攻めているわけではありません。 ただ、救える命がそこにあります」 覚悟を問うように和泉は言う。これはリベリスタとの本業とは違うが、それでもリベリスタにしかできない仕事だ。 アナタの答えは―― ●Unknown 「『青い水銀』?」 「はい。それがあの研究施設にあります。正確には、あの研究施設の『サンプル』内にそれが含まれているようです」 「サンプルってあれでしょう? 人間」 「はい。B棟にいる『サンプル』のどれかがそれを有しているようです」 「どれかって……また探すの? 今度は20人だから確率5%? 冗談じゃねぇよ。 大体血液中にアーティファクトを隠すとか人としてどーよ!」 「私は人ではないのでその答えには答えようがありません。 強いて意見をいうなら、貴方の姉はそれに似たことをやっていたとデータベースにあります」 「ねーさんは人じゃねぇ。実験て言う思考に生きる亡霊だ。 とにかく、その『青い水銀』を回収しましょ。ちょうど『剣林』がドンパチ始めたしそれに乗じますか」 「はい。それでは行きましょう『氷原狼(ツンドラウルフ)』」 「あいよ『車輪屋(ラウンドバイヤー)』」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月08日(木)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 軽快なエンジン音と共にトラックが走る。その中には20人の子供たち。 「ありゃま。先越されたか」 「アークの介入は想定内です。剣林が本格的に攻撃をする前に『青い水銀』を回収しましょう」 「トラックが二台あるんだけど……あれも想定内?」 そんな会話をするフィクサードとEゴーレムのバイク。そしてその後ろから迫る『剣林』の車とバイク。 研究対象となった子供たちの命をかけて、五分の攻防が始まる。 ● 互いに寄り添うようにトラックの荷台に乗る子供たち。それを見守るリベリスタ。 (手を伸ばせば救える命があって、私達は手を伸ばすことができる) 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は一本の刀を手にして瞳をつぶる。言っての曇りない心で、水のように静かに留まる心。心を落ち着かせ、そして瞳を開ける。この命は手を伸ばせば救うことができる。ならば救わない道理はない。 「お金のために子供を殺す方も、子供の身体にアーティファクトを仕込む方も、どちらも正気の沙汰ではないわ」 幻想纏いを操作し、武装をダウンロードする『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)。夜の闇よりも深い黒の服がふわりと舞う。トラックの中の子供たちよりも少し年上の彼女は、迫る剣林の車の音を聞きながら皮肉下に息を吐いた。 「じゃあ、子供を戦いの場に出すアークは? ふふっ、同じ穴で狢が哂うわね」 狗でもだけど子供を助けることはできる。さぁ、子供たちを助けに行こう。 もう一つのトラックにはリベリスタが五人。荷台のトラックは同じタイプのものを用意し、外から荷台が見えないようにテントで覆っている。 「相手は剣林。さてこのチームは何処までやれるでしょうか?」 スナイパーライフルを組み立てながら、『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)はおどけた口調で言う。口調はおどけていても瞳は真剣に。正体不明の敵と剣林。両方を押さえながら勝つつもりでいる。 「実は子供好きなんですよな」 奇妙な服装に身を包んだ『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が含み笑いをする。見るからに恐ろしい。子供が見てなくてよかった、と他のリベリスタが思った。もっとも九十九が子供を好きなのは本当なのだが。 「人工的に革醒者を、ね」 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は火縄銃を手に研究所を見る。人体実験を行い革醒者を作る。人体実験の犠牲者は? そして成功したらその人間をどうするつもりだった? 握り締めた拳をゆっくりと解き、心を穏やかにする。今は目の前の任務をこなすのみ。 「人工革醒者の精製などアーネンエルベで既に通った道」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は『偽典・ユダの福音書』を手に、迫ってくるEゴーレムとそれを駆るものを見た。おのれの知識にはない神秘を持つもの。それに興味を引かれた。 「E・ゴーレムを駆るフィクサード。此方は中々面白い。何が件のE・ゴーレムの成長と暴走を抑制しているのか」 偽典を閉じ、意識を戦場に向ける。さぁ、神秘探求を始めよう。 「崩界を防ぎたかったのは何の為か」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は自問する。その答えは人それぞれだろう。だが大多数の人間がこう答えるはずだ。……『子供たちへの未来を守るため』と。 「それを考えればこれがリベリスタの本業とは関係ないとは言えないと思う」 「どのような理由が有れど、力有る者がその命を一方的に奪って良い事にはならない」 『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)は短剣の形状をした光の刃を手にする。剣林には剣林の。UnknowにはUnknowの事情があるのだろう。もしかしたらそのほう正しいのかもしれない。だけど、 「例え私のエゴだとしても、救える命が有るのならば何としてでも守り抜くのだよ」 子供たちを守る。その言葉にリベリスタたちは首を縦に振る。 剣林のエンジン音が迫る。追いつ追われつの戦いの始まりだ。 ● リベリスタたちはダミーとしてトラックをもう一台用意した。同じ形の車を二台。テントで子供を隠し、相手を混乱させようという作戦だ。 「見えざれば当たらず。手当たり次第で効果が出るほど銃と言うのは応用力の高い武器ではありません」 「なら知ってるお前たちに聞くまでだ」 イスカリオテの言葉に剣林のフィクサードは車から乗り出して銃を構える。『どちらか』を狙い一手を無駄にするよりは、確実に邪魔をしてくるリベリスタを排除する方に趣を置いた。降り注ぐ弾丸の雨。それがリベリスタ達に降り注ぎ、宣戦布告となる。 そしてトラックの荷台の上から車のタイヤを打ち抜こうとした彩歌と九十九と龍治はそれぞれの破界器を構えて、一瞬動きが止まった。トラックの荷台の上から真後ろの乗用車のタイヤを狙うには、フロント部分がどうしても邪魔になる。 ならばバイクにと目をつけたリベリスタたち。フィクサードの乗っているバイクのタイヤを狙い撃ちする。弾丸はタイヤを傷つけ―― 「……防弾タイヤ……!?」 空気の変わりにムースを入れて、パンクしてもある程度なら走行可能の状態にするタイヤである。本来悪路を走るラリーレース用なのだが、荒事を予想していたのだろう。もっとも神秘で強化された弾丸に抗するには脆弱だが。 「二発。もって三発かな」 「狙えるならホイールも狙おう」 「くっくっく、私の銃弾からは逃れられませんぞ?」 彩歌が手甲から気の糸を、九十九がショットガンを、龍治が火縄銃を構える。一秒後の相手の居場所をイメージして、五感の全てをカットする。呼吸すら止めて『狙う』以外の行動を止め、撃ち放った。弾丸はイメージどおり目標に叩き込まれる。 「こんにちは『氷原狼』。そして『車輪屋』。貴方もあの子達に御用かしら?」 自らに影を纏わせ、糾華がUnknowに接触する。 「あらま。可愛らしいお嬢さん。実験対象の子供に会わせてくれるのなら、エスコートをお願いしたいですねぃ」 「貴方のクライアントの思惑がどうであれ、無粋な剣林がいる間だけでも共同戦線を張れないかしら?」 「剣林の目的は子供たちの殺害です。このままでは貴方は目的を果たせずに困ることになりますよ」 馬に乗った大和もやって来る。『氷原狼』は仮面の下半分で怪訝な表情を見せると、 「うへぇ、バレバレだ。ま、いいでしょ。こっちの目的はわかってるみたいだから言うけど、適当なところで裏切りますぜぃ。 妥協案で子供を一人渡せ、っていっても渡してくれそうにないですしねぃ」 「妥当な所ですね。契約書を書く余裕がないところが難ですが」 『氷原狼』を乗せている『車輪屋』も同意する。リベリスタとフィクサードの共同戦線……というよりは不可侵な関係が結ばれた。笑顔の下に刃を隠しながら、剣林のほうに向かう。 「うわ、すっごー。ほんと喋ってる! ジョークとか言える? お互いオフの時とか遊びにいかない? マジかっけー!」 ぐるぐは喋るバイクこと『車輪屋』に興味津々である。目を輝かせてトラックの上で喜んでいた。 「お嬢さん、オレの後ろにタンデムしない?」 「あ。素顔に自信のないヤツには興味ないからパス。とっとと剣林叩いてきて」 「ひどっ!?」 『氷原狼』のナンパをスルーしてぐるぐはライフルを構える。硬い骨でライフルを固定し、相手と自分を結ぶラインをイメージする。風や湿度、重力などの要因を頭の中にいれて弾丸の進むべき道を導き出した。あとは引き金を引くだけの簡単なお仕事。放たれたタイヤを貫いた。 「くそっ!」 蛇行するフィクサードのバイク。倒れる寸前。後ろを走っていた仲間の車に飛び乗った。 「何ゆえ子供を殺そうとするのか、聞きたいところではあるが」 聞いても教えてはくれないだろう。卯月はヘルメットを通して戦況を確認し、手のひらから気の糸を出して剣林のフィクサードに向けて射出する。糸はフィクサードの腕に絡まり、締め付けていく。 「今は闘うのみ。別働隊もこちらの勝利を信じて耐えているのだからね」 「すみませんね、我々は貴方方とまともに事を構える気が無い」 イスカリオテが幻想纏いから車を取り出し、トラックから躍り出る。その手から放たれるのは神の光。それは剣林の目を焼き、その動きを鈍らせる。イスカリオテ自身は神など信じてはいないのだが。 バイクに乗ったフィクサードがトラックに向かって加速する。その前に立ちふさがったのは大和と糾華。髪を風に揺らしながら、破界器を構える。 「そこをどきな、リベリスタ。あんた等に用はない」 「退きなさい、フィクサード。子供たちは守ります」 フィクサードの勧告に引く気はないと馬上から刃を振るう大和。刻む傷は不吉を告げる業の剣筋。目に見えない何かに幸運を吸い取られる呪い。 「あの子たちは何のサンプルなのか、知っているのでしょう?」 「答える義務はない」 「子供を殺してでも、奪い取るべきもの? 人でなしの所業よ? そんなことは私達がさせはしない」 糾華からゆらりと漆黒のオーラが放たれる。糾華の動きにあわせるように動き、フィクサードを殴打する。しかし、 「舐めるな」 二人のフィクサードは消えるような動きで二人の不意をつき、気がつけば肌を斬られていた。流れる血液が地面に落ちる。 射手のフィクサードは減速してトラックから離れる。リベリスタからは射程外だが、射手にとっては射程内。呪いをこめた弾丸をトラックの上にいる龍治とぐるぐに放つ。相手の射程外から削っていく戦略に切り替えた。が、 「ふん。射手として遣りあう機会ができたようだな」 しかしリベリスタにも射手はいる。龍治は自らの一族に代々受け継がれてきたといわれる火縄銃を構えた。時代遅れということなかれ。殺傷力という点においては小銃よりも強い。それが鍛錬を重ねた射手によって扱われれば、その威力は推して知るべし。 「ぐあ!」 悲鳴を上げるフィクサード。純粋な射手としての腕は互角か、あるいは龍治が一枚上か。 状況は少しずつ混戦めいてきた。 ● Unknowは大和や糾華と一緒に剣林のフィクサードを押さえていた。積極的に戦う気はないのか、スキルを使わず通常攻撃でフィクサードを攻撃している。隙を突いてトラックのほうに目をやるが、 「くっくっく。予想通りですぞ。トラックには行かせません」 九十九が一輪車に乗ってトラックのすぐ後ろで待機していた。両手でショットガンを構え、Unknowを牽制しながらフィクサードを撃つ。 「いやー、実は一度カーチェイスってしてみたかったんですよな」 「どっちかって言うとチェイスされてるんですけどねぃ、リベリスタさんは」 肩をすくめて抜け駆けを諦めるUnknow。 「残念ながら出番ないですよ。早めに退場願いたいですね」 バイクを押さえている間にぐるぐがトラックの上から、タイヤを穿つ。数度にわたる正確な射撃で、前輪の形が崩れて走行不能となった。ホイールだけで横転を塞ぎ、後続の車に何とかしがみついてその上に登る。 「剣林にも事情があるのだろう。これからの研究材料となる人の犠牲を減らす目的や、あるいは子供達が既に危険な存在になっている、といった可能性も考えられるが」 卯月は糸を使って射手のフィクサードの腕を封じる。可能性を考慮し始めればきりがない。なにが正しいのか。何が間違っているのかなんて誰にも分からない。もしかしたら災厄の元を守っているのかもしれない。だけど。 「今の子供達は捕えられた一般人に過ぎない」 それを一方的に奪っていい理由などない。それだけは確かなのだ。 残る剣林は車部隊のみ。そのタイヤを狙うべくイスカリオテが車を走らせた。天井にしがみついているクリミナルスタアのフィクサードからの弾丸を受けながら、細く練った糸をタイヤに向けて放った。こちらもある程度の耐久性はあるようだが、足を封じられるのは時間の問題だろう。 それを察したのか剣林のフィクサードは短期決戦に出た。一気にトラックに近づき、弾丸を雨あられのように降らす。車の屋根にいるフィクサードは近くにいるリベリスタに、頭部を撃ち抜かんとする殺意を乗せた弾丸を叩き込んだ。最大火力がリベリスタに襲い掛かる。 「子供たちは絶対に助けだしてみせるから」 「あなたたちには屈しません!」 殺意の弾丸を受けて、運命を削ってその場に留まる糾華と大和。その目の端にUnknowが何かを決意したように手に氷を生み出すのを見た。 「……っ、まだまだ!」 「コンテニュー躊躇わない派!」 トラックの上で狙撃されて体力が落ちていた龍治とぐるぐも、フィクサードの弾丸の雨に膝をつく。しかしその目に絶望はない。勝利を信じて立ち上がる。 「悪いけど子供たちを狙わせるわけにはいかないの」 自転車に乗った彩歌が子供たちとリベリスタに鉛のシャワーを撃っている車にむけて鋭く糸を放つ。神経にリンクした手甲は、まさに自分の体の一部。そこから放たれた糸は吸い込まれるようにタイヤを貫き、車を脱落させる。 「さすが七派フィクサードの中でも、武闘派と呼ばれるだけのことはあります」 イスカリオテが銃弾の嵐の中、最後の車を脱落させた。車はかなり傷つき、イスカリオテ自身もかなりのダメージを負っているが、問題ない。残るは―― PAPARARAFUUUUUUUUUUUU! 突如鳴り響くけたたましいクラクション。それがリベリスタの聴覚を乱し、脳を揺さぶった。 「約束どおり『剣林を倒すまで』は待ちましたぜぃ。 そんじゃオレは『青い水銀』の子供をいただいて――ぐぇ!」 Unknowは全員を混乱させて、その隙に目的のものを奪おうと思っていた。戦力を温存していたのはそのためだ。さすがにリベリスタ八人とやりあうのは分が悪い。だから最初の十秒が勝負だった。 が、その動きはあっさりと止められた。彩歌が全力で糸を放ち、その速度を封じたのだ。 「悪いわね。この手の攻撃は効かないの」 「そいつぁ、手厳しいねぇ」 思考は数秒。判断は刹那。Unknowはリベリスタのバイクから離れるようにハンドルを切った。逃げるならこの瞬間しかない。 「くっくっく、逃げますか。小心者ですな」 九十九は遠くなるバイクとフィクサードにショットガンを向け……その引き金を引くことはなかった。脳を揺さぶられた状態では狙いは正確にはならない。下手をすると味方にあたる可能性がある。 それは他のリベリスタも同じだった。何よりもリベリスタの目標は相手の討伐ではない。そしてその目標は、成立したも同然だった。 研究所のゲートが近い。そこから出れば、二十の命を救うことができる。 ● 「任務完了。神秘探索は不十分ですが、まあよしとしましょう」 イスカリオテはぱたん、と書物を閉じて武装を幻想纏いに戻す。E・ゴーレムを駆るフィクサードに興味は尽きないが、今は研究所から離れることが先決だ。追っ手が差し向けられないとも限らない。 「うむ。こちらはうまくいった。そちらも作戦通り撤退してくれ」 卯月は別働隊に成果を告げる。安堵の息を吐き、通信のスイッチを切った。 「青い水銀……賢者の石でも作ろうとしたのかしら?」 糾華は遠くなる研究所を見ながら、そんなことを思う。それが理論として可能かどうかはともかく、それが為されることは永遠にないだろう。子供たちはアークの元に。 「そんなことはどうでもいいです。子供たちを守れたんだから」 子は宝。ぐるぐは助かった命を見ながら笑みを浮かべた。人体実験に使用されようとしていた子供たち。そしてそのために殺されようとした子供たち。 しかしそれは全て過去だ。この子たちには未来がある。リベリスタはそれを繋いだのだ。 トラックは軽快に三高平市に向かって走る。 子供たちの道を邪魔する者は、何もなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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