痛い……痛いよ……。 ヒロキ……どうして来てくれないの……? 痛いよ……苦しいよ……ねぇ……どうして来てくれない……の……。 ●サユリ パチン。カパッ。パチン。カパッ。 「――ヒロキ、遅いなぁ……」 サユリは先ほどから、何度も携帯を何度も開いては閉じ、開いては閉じ。 そして、溜息をつく。 (待ち合わせすると、いっつも寝坊するんだもん。やんなっちゃう) 恋人のヒロキは何事にもルーズな性質で、待ち合わせをしてもいつも時間通りには来ない。 あらかじめ携帯に連絡しても、メールは気づかない。電話には出ない。 仕方なく、いつも待ち合わせ場所で待ちぼうけを喰らう、サユリ。 「こーやって待ってる間に、アタシに何かあったら、どーすんだっつーのよねぇ」 既に待ち合わせ時間を1時間過ぎているが、何の連絡もない。 喫茶店にでも入っていようかと考えた時に――悲劇は起きた。 ●ヒロキ 「あー、ヤベ……。もーこんな時間じゃん……」 ベッドの中で目を覚ましたヒロキは、寝ぼけ眼で時計を見ると頭を掻く。 恋人のサユリと待ち合わせをした時間から、既に3時間が過ぎていた。 「昨日ってか、今朝までゲームしてたからなぁ……。アイツ怒ってんだろーなぁ……めんどくせ」 恋人の怒る姿が思い浮かぶ。 とりあえずメールでもしておこう、と、携帯を開いたとき。 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。 ドアチャイムがけたたましく鳴り響いた。 怒ったサユリが迎えに来たのか?と、ヒロキはドアを開ける。 其処にいたのは――。 ●結末へ導くために 「エリューション・アンデッドが出現しました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向かい、資料を開いた。 「生前の名前は、野宮サユリ。休日に待ち合わせしていた恋人を待つ現場で、暴行目的で近づいてきた男に殺され、エリューション化しました」 スクリーンに映されたのは、生前のサユリの姿。少し明るめの茶色の髪、メイクは薄め。明るい笑顔で友人と話す姿が映し出される。 「サユリは、恋人のヒロキ――坂崎ヒロキの元へと向かい。その命を奪います。皆さんには、その救出と、エリューション・アンデッドの討伐をお願いします」 次いで映されたのは青年の姿。長めの金髪に耳には複数のピアス。煙草を咥え、捻ねたような笑顔。 「これが、ヒロキです。サユリにとって彼は―――。あまり……いい恋人とは言えなかったようです。何においても彼女は後回し。自分の欲望最優先と言った青年で……すいません、余談が過ぎました」 和泉は、感情的になりそうな言葉をしまうと、エリューションの詳細を説明する。 「現場となるヒロキの家では、サユリの他に4体のエリューション・ゴーレムが出現します。彼女が身に着けていた、時計・携帯・財布です。エリューション化の影響で、サユリと同程度まで巨大化しており、様々な攻撃方法を持っています。サユリも含め、全てがフェーズ2です。なお、戦闘場所はヒロキの家となりますが、40㎡ほどの広さのかなり広い1LDKです。一人暮らしですので、他に人はいません。大きな音が鳴っても隣家から人が出てくる気配などもありません。戦闘にはさして困らないでしょう」 資料を閉じると、和泉は瞼を伏せる。 「サユリは、ただ彼を待っていただけです。それなのに、エリューションとなってしまいました。けれど、エリューションを捨て置くことは出来ません……」 和泉は、よろしくお願いしますと告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月07日(水)23:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。 「あー……、サユリかぁ? ……めんどくせーなぁ」 先ほど起きたばかりのヒロキは、3時間近く待ちぼうけを食らわせている恋人が迎えに来たかと思い、面倒そうに頭を掻いた。 朝までゲームしてたし、早く起きろっつわれても無理だし。などとボヤきつつ、鳴り続けるドアチャイムに辟易した様子でドアを開けた。 「るっせぇな、いつまでも鳴らしてんじゃねぇよ……昨夜寝てなくて寝不足なんだっつーの」 自分の事など棚に上げて、ヒロキはドアを開けた先に居るのはサユリだと決めつけ文句を言い放つ。 だが、其処にいたのは――。 異国の香りを思わせる美しい顔立ちの美少女、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)で、あった。 「――。えーと、どっかで逢った事あったっけ?」 ヒロキは目の前に現れた女性が予想していた恋人ではなく美少女だったことに驚きつつ、ミュゼーヌに見惚れ、鼻の下を伸ばす。 その瞬間、ミュゼーヌはスタンガンを取り出し、ヒロキの首筋に押し付けた。 「――っ」 ヒロキは叫びも上げられず、その場に崩れ落ちる。 「……眠りなさい。この痛みが、貴方への罰よ」 恋人を蔑ろにした事に対する罰。あとはきっちり守って見せると、ミュゼーヌは意識をなくしたヒロキに囁きかけた。 「んじゃま、ヒロキちゃんベランダでいい?」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)はヒロキを蹴り転がす。勿論、手加減して、だ。 「じゃあ俺も手伝おう」 奥にあるベランダまで蹴り転がすのでは時間がかかると、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は葬識に声をかけると二人でベランダまでヒロキを運ぶ。 ヒロキをベランダの柵に凭れるように座らせると、葬識は顔を覗き込んだ。 「女の子騙すなんてひどいなぁ~。俺様ちゃんは少しくらい、怖い思いしてもいいとは思うけどねぇ~」 まぁね。と、言葉を返すのは『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)。 「ろくでもない男に引っかかったものね。恋愛ってそういうものなのかも知れないけど……」 けれど、サユリがヒロキに会ってしまえば、万華鏡が察知した結果が待っている。 「ま、彼女を止めてあげないといけないわ。ろくでなしを結果的に助けないといけないのは気が乗らないけど、ね」 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は、以前、酷い彼氏の元へエリューション化した彼女が復讐に訪れるというケースが在ったことを思い出していた。 しかし、今回は少し様子が違う。 ただ待ち合わせで彼氏が現れなかっただけでなく、何らかのことが彼女におきたからこそ、エリューション・アンデッドとして現れたのだろう。 サユリを倒すとしても、そのあたりの事情を知ることはできないか。と、考えていた。 でなければ、健気に待っていて、死を迎えた彼女があまりにも――。 ● ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。 ドアチャイムが何度も音を立てた。リベリスタ達はすべて室内にいる。とすれば、今チャイムを鳴らしているのは。 すかさず、リベリスタ達は配置につく。ミュゼーヌはヒロキを退避させたベランダの前に立った。 ガチャリ。と、ドアが開く。 扉の向こうには、少女の姿。――サユリ、だ。 サユリは、生気を失った虚ろな瞳で室内のリベリスタ達を見詰める。 「……ヒロキ、は……?」 「ヒロキを探しているのかい? 君は一体何をしにここに来たのかな。復讐……ではないだろうね、相手が違う」 クルトは、つと前に出るとサユリに言葉をかける。僅かでも意思があるのなら話を聞いてやりたいと、問う。 「あんな男でも何か伝えたいことでもあるのかな」 「……」 サユリは、虚ろな瞳でクルトを見詰めたが、何の言葉もない。 「何か伝えたければ、聞いてあげるよ」 「……ヒロキ、どうし、て……」 どうやらこちらの言葉を理解し、返答することは出来ないようだ。 そう判断すると、リベリスタ達は各々自己の強化を行い、京一は翼の加護を仲間に与え、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)の唇からは真言が紡がれる。 「おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった……」 (Eアンデッドになってでもヒロキのところに来る。その想いの強さには、尊敬するような困るような……複雑な気持ちです) 思いは複雑。けれど、エリューションとなってしまったものは、滅ぼさなければならない。螢衣を中心に守護結界が展開した。 ぽたり、ぽたり。 サユリの涙が床に落ちるにあわせ、彼女の周りにエリューションゴーレムが現れる。 時計、携帯、財布。 少女が所持していた物は、人間ほどの大きさに姿を変えると主を護るようにサユリを包囲した。 戦いの姿勢。サユリはヒロキを探し求める。それは、彼を殺めるため、だろうか。 「痴情のもつれとは、呼べないかもしれません。そう呼んでは、少々気の毒でしょう」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は、サユリのブロックを行うべく、彼女へ向かう。 他のエリューションと比べても、サユリがヒロキを狙う確率ははるかに高い。 「せめて、最低の男ではあっても彼女自身が愛した相手を手に掛けるような事だけは阻止して差し上げるのがせめてもの救いだと。気休めでもそう思う事にしますわ」 彼女が恋人の命を奪い、魂を穢してしまう事のないように。それが自分に出来ること。 彩花の雷電は全てのエリューションを巻き込み、室内は雷光に満たされる。 「待ってて、殺されてアンデッドになって。なんとも切ないお話すぎて、殺人鬼でも涙しちゃう!」 葬識は、リベリスタに向かおうとする財布の前に立つと、ブロックした。 「まあ、どっちもどっちなきがするけどねぇ~」 飄々と言い放つと共に、暗黒を放った。 「……っ、いたい、です」 攻撃を受けたわけではない。けれど、『ナーサリィライムズ』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)の胸は痛む。 「体じゃなくて、こころ、が。ああどうかどうか、泣かないでサユリさん」 サユリの涙は、頬を伝い、幾筋もの後を残す。その姿を見るたびに、胸が痛む。 「でもでも、サユリさんの痛みに比べたら! これくらい! どうってことありません!」 苦しげに胸を抑えつつも、アルトゥルはサユリから目を離さない。 ヒロキを探し続けるサユリ。この苦しみから解放できるのは、自分たちしかいないのだから。 「アルは、アルトゥルは。おわらせますおわりにします。ぜったい!」 葬識を追いかけるように、暗黒を放った。 ● 彩花はサユリをブロックしつつ、再度雷電を纏うガントレット『White Fang』を振るう。 「闇よ、喰らえ!」 闇を纏ったレイチェルは自らの生命力を暗黒の瘴気に変換すると、エリューション目掛けて放つ。 葬識とアルトゥルに続いて放たれた暗黒により、財布と携帯が不吉に囚われる。 その財布目掛け、葬識の奪命剣が襲い掛かる。真っ赤に染まった巨大な鋏は、巨大な財布を切り裂いた。 バッドステータスという枷を回避した時計は、クルトの身体をバンドで締め付け、麻痺を試みる。 ギリギリと締め付けられるクルトの視線は、サユリに向けられている。 先ほどの問いに対する反応。流れる涙。サユリは、何をするために此処へきたのだろう。 「ヒロキ……ヒロキ……」 壊れたレコードのように、繰り返される恋人の名前。その言葉は、復讐のために紡がれているとは思えない。 「こぼれたミルクを見て泣いても……か」 もしヒロキが約束を守っていれば、待ち合わせに間に合っていれば――。そう思っても、此れは『既に起きてしまったこと』だ。 出来ることなら最後の言葉を伝えてやりたいと思う、その情は捨てはしないが、だからといって攻撃の手を緩めることはない。 エリューションが『倒すべき存在』である事。何があっても揺るがない真実であり、それが現実だ。 「いずれにせよ、ここが君の愛の終着点だ」 呟くと、クルトは視線を眼前の時計に向け、バンドを巻かれた腕をそのまま振り上げる。締め付けを振り切って、冷気を纏う拳を文字盤に叩き付けた。 すると、ピシっ、と、音を立て、時計は凍りつき動きを止める。 「どうして……、どうして来てくれないのー!!」 サユリは叫びを上げた。エリューション・ゴーレムのバッドステータスを解除するためなのか、ヒロキを探すためなのか、それは判らないけれど。 その声は、悲鳴にも聞こえる、悲しい叫び。たちまち、エリューション・ゴーレムのステータスは回復し、元の動きを取り戻した。 サユリの攻撃方法を一種類に絞るため、リベリスタ達の攻撃はバッドステータスを与えるものに終始する。 暗黒で、魔氷拳で、奪命剣で、バッドステータスの印を打ち込んでいく。 そして、その度に響く、サユリの叫び。その言葉はやはり、ヒロキを探し求めている。 「ヒロキ、ヒロキぃぃぃ!」 「どこにいるのぉ!」 その悲しい声に、堪らずアルトゥルは後方からサユリに問う。 「サユリさんは、死んだ今もヒロキさんを愛しているのでしょう?」 ただただ、恋人を捜し求める叫び。其れは、ヒロキを憎んでいるとも、恨んでいるとも、思えなかった。 「だから! きっと! ヒロキさんを傷つけるのはサユリさんの本意じゃ、ないと思うの!」 けれど、エリューションとなってまでヒロキに会いに来た彼女は、結果としてヒロキを殺めてしまった。そうなのでは、ないのだろうか。 愛する人に会いたかった、その思いだけが、亡骸となった彼女に残り、恋人に会いに来た。 それが何故、恋人を殺してしまう結末となったのかは、判らないけれど。 「だから、もう、ヒロキさんを傷つける前に終わらせましょう。ね」 ヒロキを求めれば、彼を殺してしまう。それは万華鏡が察知した結末。彼女の魂を、これ以上悲しませぬ為に。 けれど、アルトゥルの気持ちを断ち切るように、携帯からけたたましいコール音が鳴り響く。 「あ……っ」 耳をつんざくような響きが、アルトゥルの脳髄に染み込み、彼女の前に巨大な獣を出現させた。 「おっきい、獣……っ! でもっ、アルは、アルトゥルは。負けないです!!」 アルトゥルは、目の前に居る巨大な獣が混乱による幻覚だとも判らずに、仲間達に向け暗黒を放った。周囲に居たリベリスタ達は、暗黒の瘴気をモロに受け、動きを止める。 すかさず、京一がバッドステータスの解除を行うが、ダメージはリベリスタ達の身に残る。特に、暗黒を打ち続けたアルトゥルの生命力は限界に近い。 「私が、回復します」 状況を見て取った螢衣。京一の手だけでは回復が足りない場合を想定して準備していた傷癒術を以って、アルトゥルの回復を行った。 「あっ、ありがとうございます……っ」 正気に戻ったアルトゥルは、二人に礼を告げると再び戦場へと復帰する。 「恨みじゃないとしてもさぁ~」 財布に奪命剣を打ち込んだ葬識は、鋏から吸収した財布の生命力を飲み込み、アルトゥルから受けたダメージを回復する。 「でもさぁ、もう死んじゃってるんだからそのまま死んじゃったままでいてほしいんだよねぇ~。後処理させられる方の身にもなってよ~」 恐らくは、それも真理であろう。だが、其れに対する返事は、無い。 その代わりとばかりに、サユリは彩花を一刀のもとに斬りつけた。 「あ……っ」 彩花は、小さく叫びを上げると、その場に膝を着く。斬りつけられたダメージは大きく無いが、毒に侵され、傷から噴出す血は止まらず、手足は徐々に痺れて来た。 「今、解除します」 京一は、バッドステータスの解除を試みる。その隙に、サユリは彩花を突き飛ばし、ヒロキを探す。 「ヒロキ、どこ……?」 サユリはふと、ベランダに続く窓に顔を向けた。 カーテンを閉められたそこを守るように立つミュゼーヌ。銃口をサユリに向けて構えた姿に、先には行かせぬ決意が見える。 「そこにいるの……?」 サユリはベランダに向かい声を上げる。 まずい。と、リベリスタ達は思う。ヒロキをベランダに隠した際に、葬識が窓に鍵をかけ、カーテンも閉めたのは確認している。けれど、窓を壊されればそんなものは何の役にも立たない。 それに対し、いち早く動いた者が居る。 「知らせばや成せばや何にとも成りにけり心の神を身を守るとは」 螢衣は呪印封縛を試み、言の葉を紡ぐ。呪印はサユリの動きを束縛し、ミュゼーヌがリボルバーの引鉄を引いた。 「行かせないわ。貴女の恋はおしまい。ダメ男を忘れて、来世でもっと良い人と出逢いなさい」 弾丸はサユリや他のエリューションまでも巻き込んで炸裂し、サユリの足を止め、時計を消し去った。 サユリの回復の技を封じた事でゴーレムたちのダメージは着実に蓄積していた。そして、此処で漸く最優先で倒すべき時計が倒れた。リベリスタ達は他のゴーレムの終わりも近いのではないかと思う。 「これでとどめかしら、ね」 レイチェルは携帯に向け、ソウルバーンを打ち込んだ。携帯は半分から折れ、ばらばらに砕け散る。 残るは、財布とサユリのみ。この状況から見て、財布を倒すのは容易だろう。 バッドステータスから回復した彩花は再度サユリを押さえ込みながら森羅行を使い自己回復を試みる。残るリベリスタは葬識の抑えるエリューションゴーレム、財布へ一斉攻撃を行った。 眼前に居た財布が消え去ると、葬識はサユリを見遣る。 「さぁて、野宮ちゃんもこれで最後だねぇ~」 未だ、涙を零し恋人の名を呼び続ける彼女の姿は、哀れと言えば哀れ。だからと言って、ヒロキに会わせてやる気などはない。 「まあ、この世に未練を残して消え去ってもらっちゃお~」 巨大な鋏が襲い掛かり、身を翻し回避したサユリの長い髪を切り落とす。 追いかけ、クルトの長い脚が宙を舞い、サユリの腹を打つ。けふっと、サユリは咳き込み腹を押さえる。まるで、まだ生きているかのように。 「痛い……。痛いよ……」 サユリの頬を涙が伝う。 「ヒロキ……どうして、きてくれないの……?」 先ほどまでの涙とは違い、溢れてくる雫。その涙が、サユリの傷を癒していく。 「呪印封縛が解除されていますね」 京一は呪縛が解除されたことに気づき、仲間達に知らせる。 「長引くと少し面倒になるわね」 ミュゼーヌがピアッシングシュートを撃ち込む。 「おわらせますおわりにします。ぜったい!」 こんな姿を、もう見ていたくない。早く、早く安らかに。 アルトゥルは自らも泣き出しそうになるのを堪えながら、アーリースナイプを撃つ。その魔弾は、サユリの胸を貫いた。 「ヒロ……キ……」 サユリは、恋人の名を呟く。血の気を失った唇に、咥内から溢れた血が色を添えた。もう、終わりは近い。 螢衣は瞼を伏せ、見開くとサユリに告げる。 「あなたの行く手は、計都星と羅喉星の陰に閉ざされています。待つのは破滅だけです」 其れを止める為に来たのだと。放つ影は不吉なものなれど、サユリに再び訪れる『死』は、破滅への道しるべとならぬよう。 「ヒロキ……、待って……た、の、に……」 黒い影に覆われ、サユリはゴトリと床に倒れた。 ● カーテンの向こうに居るヒロキは、未だ意識を取り戻した様子はなく、彩花は仲間達を見遣る。 「しっかり口止めをと思いましたが、必要ないでしょうか。尤も、こんな情動を逸した話を口外したところで周囲に信じてもらえる人望の持ち主とも思いませんが」 問われたリベリスタ達の答えも是であり、ヒロキは起こさずにおくこととした。 「んじゃま、後はアークの処理班に任せて帰る~?」 葬識が、くるりと踵を返すと部屋から出る。 「……」 クルトは、床に伏して動かなくなったサユリに視線を落とすと膝を折る。 「Wiedersehen(さようなら)」 今度こそ、本当に安らかに旅立って欲しい、そう願って。 「せめて、彼女のご家族には何らかの伝言があるなら伝えてあげたかったですね……」 京一は、口惜しそうに呟いた。きっと、命を失う刹那には家族のことも思っただろう。けれど、その思いすらも飲み込まれてしまった。 ただ、待っていた。会いたかった。その思いは、少女を埋め尽くし、何故こうなったのか、何をしたかったのか、それさえも告げることは叶わずに。 それほどまでの未練だったのだろう。と、思う。 「せめて、彼女の未練が少しでも晴れます様に」 彩花は、意識を失ったままのヒロキへ忠告を。記憶を操作され、忘れたとしても告げておきたい。 「女性を甘く見るのはやめた方がよろしくてよ。人生狂わされても知りませんから。金や命を取られるなんて安い方ですわ」 苦言を呈する姿を見ると、レイチェルも言葉を続けた。 「その舐めた態度を変えないと、いつかまた同じような事になるわよ。次も助けて貰えるとか思わない事ね」 そして二人は出ていく。後の対処はアークの処理班が上手くやってくれるだろう。 葬識が『意図的に』鍵を開け忘れられたベランダから、ヒロキが救出して貰えたら、の、話になるが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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