●寒さが満ちる空の下 ソレはずっとそこにいた。 今では人が来ることのない山の中、その一角に立つ一本の寒桜。 春が訪れる前に先、まるで冬の終わりが見えたことを教えるように。 大きく広く拡げた枝の先に薄桃色の花を咲かせていた。 だが、時は移って人々は変わった。 遠き昔の人はこの桜を愛し、例え上に広がるのが寒空であっても、集まり、寄り添い、この桜に負けぬ笑顔の花を咲かせていた。 だけどそれも昔の話、今の人は全て遠くの街に移ってしまった、桜を愛でる人は無く、ただ季節が四つ廻るたびに寂しく花弁を揺らすだけ。 嗚呼、このまま誰にも看取られず寂しく終わってしまうなら、それならば。 ――せめて、最後に一つ、大きな花を咲かせよう。 真っ赤な真っ赤な血の花を。 ●せめて最後の花道を 「昔は有名であった桜が革醒してしまったの」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が集まったリベリスタ達に説明を開始する。 「対象は現在フェーズ2のE・エレメントよ。 場所は過疎が進んで人がいなくなった山村地域のさらに奥、頂上近くに根を生やしているわ。 そして、かつては此処で多くの人が笑っていたの」 E・エレメントの能力は硬質化した枝を振りまわす近接攻撃と、刃の様になった花弁を飛ばす全体攻撃。 そして近接攻撃を繰り返す、動く樹の人形型配下が3体。 それぞれボードを示しながら説明を加えていくイヴ。 「今ではこの桜はもう枯れかけているのよ、そこで革醒してしまったのね、自分を見捨てたという人間全体を憎んで見境なく襲うわ」 このままだと遠く無い未来、たまたま近くを通った家族が殺されてしまう。 「そんな事態は絶対に避けないといけないわ、お願い。この桜を殲滅してきて」 美しい桜を美しいままで終わらせるために、と少女はその瞳をリベリスタ達に向けた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月04日(日)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雪解の空に サクリ、サクリ。 地面を踏む音を残しながら、今は人が訪れることのめったにない山をリベリスタ達は移動していた。 「運命を持たない以上、倒すしかないが……」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は事前にアーク調査部より渡された今回の事件の発端となった桜についての書類を捲りながら呟く。 それによれば、その寒桜は今では廃村となった村が出来る前から息づいており、数十年、ともすれば百年以上、村を見守り続けてきた御神木とされていたそうだ。だが、時の流れは残酷なものだ。寒桜を思う人はいつの間にか減り、今では看取る者すらいない。 「忘れ去られるのは、酷く辛いものですから」 だから、人がいなくなった後、その寒桜は暴走して革醒してしまったのかもしれない、と『』蘭堂・かるた(BNE001675)はまだ見えぬ寒桜を思う。 「最後にただ己が為に咲く、という心意気もまた美しい。が、それでも歪みは歪みだ、正さねばならんのだ」 「悲しいよね、でも、それでも誰かを傷つけちゃいけないんだ。だから、私達が終わらせてあげないといけないんだ。」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)と『癒し風の運び手』エアウ・ディール・ウィンディード(BNE001916)の二人は寒桜の気持ちを尊び、それでも世界を守るという使命を全うしようとしていた。 言葉を交わしながら確実に山道を登っていくリベリスタ達。 きつい傾斜を乗り越え、たどり着いた先。衣擦れのような音が聞こえた。開ける視界、差し込む光。 舞う一枚の花弁を見つけて、目線を上げてみれば、そこに、それはあった。 ●過去に根付く大樹 大きく大きく、下から見れば天を衝くのではないかと思えるほど延びた枝。 その全てに薄桃色に揺れる花弁を咲かせ、風が吹けばその花弁が一枚、二枚とゆっくりと持ちあげられて落ちていく。 歴史を感じさせるその威容と、革醒したことによって隆盛を取り戻した存在感はそのアンバランスさと、美しさを持って此処を訪れる人間を迎えているようだった。 「綺麗で御座りまするなぁ」 「そうね、とても、とっても綺麗ね」 『』風音 桜(BNE003419)と『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213)が思わず漏らした言葉は、その場にいる全ての人間の言葉でもあった。 「これが、お前が見せていた景色か」 『求道者』弩島 太郎(BNE003470)もしみじみと、言葉を投げかける。 この場にいるリベリスタ達に今一度最後に広げた花を見せた寒桜。しかし、それでは終わるはずは無く、濁った気配が場に満ちる。 不自然にガサリと枝が揺れた瞬間、美しい光景に異物が混じり始めた。 「どうやら、お出ましの様ですよ」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎの声に応じるかのように、地面が捻じれ、三体のヒトガタが姿を現す。 過去に囚われた想いは歪み、人を笑顔にしていた寒桜は今では世界の仇敵。 歪んだ想いを実現させる為に、寒桜はその存在を持ってリベリスタ達の敵となった。 ●打ち倒すべき敵 突如現れた異形に対しても彼らは冷静だった。 「任務開始だ、行くぞ。」 ヴォロシロフが逆手でナイフを抜きながら先陣を切る。鋭く切りつけたナイフはヒトガタの枝を数本まとめて切り落とした。 それに続くようにうさぎが手近に出現したヒトガタにきっちり張り付く。 「打ち合わせ通りに、ですね」 自分の仕事はこのヒトガタを抑えることだ。そう考えながらうさぎはヒトガタが重さを込めて振るった枝を受ける。体に鈍い痛みが走るが許容範囲に収まると感じ、すぐさま愛用の武器で切り返す。 リベリスタ達の作戦は後衛を後方において攻撃が届かない様にした状態での配下の殲滅。 それを忠実に行うため、二人を除いた前衛が動き出す。 「では、まずコイツからだな」 「はい、そうなりますね」 先に動いたかるたの巻き起こした烈風が三体目のヒトガタを撃つとそれに合わせるように動いたアラストールの剣がヒトガタの腹の位置に深く沈みこむ。 リオのクロスボウでの正確な射撃までを貰ったところで一体目のヒトガタが地面に倒れ込む。 このままもう一体を削り落さんとするリベリスタ達、それに水を差すように寒桜はその巨体を少し揺らすと、自らが咲かせた花弁を散らせた。 「……何だ?」 その動きにいち早く気がついたのは一撃を貰ったうさぎに天使の息をはなった直後の太郎だった。 枝から離れた花弁は先程までのようにゆっくりと落ちることなく、一枚一枚が鋭い刃のように変じてリベリスタ達に降り注ぐ。 刃の吹雪は前衛を担当していた者達を全て飲み込んだ。 吹雪が止んだ後には体を切り裂かれ、自分達の装備に赤い血を垂らす仲間達がいた。その中でもヴォロシロフは両腕をクロスさせてガードを取ることが間に合ったが、直後にヒトガタの腕を叩き込まれて膝をつくほどに追い込まれていた。 「響いて、私の癒し風…」 すぐさまエアウの福音が響き、傷口をいくらかふさぐが流れ出る血は止まらない。 予想以上の被害の大きさにヒーラーを担う太郎とエアウは焦りの色を見せるが、ヴォロシロフは自らの体を自動回復に任せて立ちあがる。 「この程度ならまだ大丈夫だ、落ちついていくぞ!」 こうして体勢を立て直しを図る間にも他の前衛達はうさぎが抑えるヒトガタに攻撃を加えている。正確な射撃やブローは忽ちに二体目のヒトガタをへし折った。 「もう一度寒桜が吹雪を撃つ前に戦闘を進めなければなりませんね」 うさぎはすぐさま移動、多少ダメージの残るヴォロシロフとヒトガタの間に立ち、死の刻印を撃ちこむ。 直後にうちこまれた多数のスキルによって配下のヒトガタ三体は全て地に伏した。 リベリスタ達は寒桜へ視線を向ける。 寒桜は配下が全て倒されたことすら何の関係もないかのように当初から少しだけ減った花弁を揺らした。 ●咲いて、咲いて咲いて 配下を全て倒し終わったリベリスタ達は素早く桜を囲むように動く。それに合わせて寒桜はヒトガタのソレとは比べ物にならない程太い腕を振りかぶり、思い切り叩きつけようとする。 アラストールは怒りでその攻撃を引きつけようとしたが、寒桜はそれを持ち前の生命力で強制的に打ち消した。 「行きます!」 かるたはスピードに乗り、寒桜に登ろうとするが、それをうっとおしがるように思い切り叩きつけられた一撃はその重さでかるたの体力を削りきる、がかるたはフェイトを消費して立ち上がる。 「今回復するぞ、はあぁぁっ!」 太郎の気合一発、癒しの詠唱を声に変えてかるたに飛ばす。飛んだ癒しは起き上ったばかりのかるたを回復させた。 こうして一進一退の状況が続く、作戦の考えが当たったのか近接攻撃を繰り返すリベリスタ達を迎撃するように寒桜が枝を振るう御蔭で桜吹雪が飛ぶことは少ない。 だが、それでも枝の一撃の威力は凄まじく、エアウも太郎も常に回復を飛ばすことを強いられる。 「仲間を傷つけるのは私が、許さないっ!」 仲間半分の回復を任されたエアウは溢れる音を紡ぎ、癒しの福音を歌って癒しをもたらし続ける、その息は次第に荒くなるが、絶対に倒れてなるものかという決意の炎を瞳に映している。 「桜よ、お前を、倒すぞ」 精一杯の回復を受けて立つアラストールは振るわれた枝を両腕で受け止める。凄まじい衝撃に飛ばされそうになるが、靴底で土の地面を削りながら減速、靴底をすり減らしたが完璧に勢いを止める。 「例え死んでも、貴方は記憶の中に咲き続けるの」 止まった枝をリオが狙い撃つ、狙いたがわず撃たれた矢が枝を穿ち罅が入る。ダメージに身をよじり枝を引き戻そうとするがアラストールは決して枝を離さなかった。 「此処で決めるぞ!」 ヴォロシロフの逆手に握ったナイフ煌めかせた。 リオが傷をつけた枝にヴォロシロフの全力の力を持って振るわれたナイフがそのままリオの矢が刺さって出来た一点の罅に叩き込まれる、的確な一撃は罅をさらに広げ、ビシリという音と共に決壊を迎えた枝が落ちる。 「これで貴方はこの世から去るかもしれない、でも終わりじゃない 私が忘れないから、絶対に」 うさぎは素早く振るわれる枝を掻い潜る、間合いを殺した瞬間に走る斬撃、寒桜の幹に刻むのは死の刻印。鮮やかに、深く刻まれたそれはスピードと、うさぎの想いが込められ、寒桜の巨体を削って揺らす。 「そうで御座る!そなたは散った後も拙者達の中で生き続けるので御座る!」 桜はつぶった目を見開き、斬馬刀を振り下ろす。高めた集中力と、己が受けた痛みを込めた一撃は半月状の斬線を描いて一直線に寒桜へと飛ぶ。 その一撃は幹を半ばまで断ち切る。 だがそこまでしてもまだ寒桜は生きている。もはや趨勢は決していたが積もった恨みだけを込めて咲かせた花弁を落とす。 再び花弁の吹雪がリベリスタ達を襲い、花弁のドームが後衛に至るまで囲んだ。 吹雪が晴れればそこにはズタズタになったリベリスタ達、傷の量に多少の違いはあれどその場にいた全員が血を流していた。 「私は最後まで倒れないわ!」 活力を全て消費したエアウだが、決意の炎が消えることはなく、運命に抗って立ち上がる。 皆がかろうじて立っている状態、しかし吹雪を乗り越えて再び剣を突き立てる。 「貴方は『誰にも看取られず寂しく死ぬ』ことはないです、だから、安心してください」 もう一度うさぎが言葉と共に死の刻印を幹に刻んだと同時に、寒桜はその動きを止め、二度と動くことは無かった。 こうして人を恨み、孤独を悲しみ革醒した寒桜は最後の瞬間を八人のリベリスタに看取られ、その時を終わらせた。 ●私を忘れないで 戦闘が終わって静寂を取り戻した広場。 「また咲くことが出来るかもしれんぞ」 ヴォロシロフと桜、エアウが探し当てたのは一本の枝。比較的若くあったそれは成長の余地を残していた。 この枝は三高平にある公園に植える事が出来る、と事前に調べたヴォロシロフは言う。 「そうね、そうなったら今度は綺麗に咲いた貴方を皆と見に行くわ、笑顔の花を見せて欲しいわね」 リオが笑顔でその枝を一撫でする。 「もう一度皆に愛される桜になりますように、だよ」 その隣でエアウも優しく微笑む。 一方で折れた幹のそばでは、太郎が寒桜の想いを読みとっていた。 「楽しかった頃の記憶は色褪せない、そうあるはずだ」 太郎が少しだけ垣間見た記憶。その中に出てくる人々はいつも笑顔だった。ならば、これからも自分はこの思い出の証人であろうと太郎は考えた。 「そうさ、共にあった人々は死ぬまでその桜花忘れないものだ、勿論私もな」 太郎の見た記憶を聞いてアラストールも最初に調べていた資料に目を落とす。そこにはかつての村人達が桜と一緒に笑顔でうつっている一枚の写真があった。 「では、最後に皆さんで花見と行きましょう」 うさぎが超幻影を用いて先程までと同じ、美しく咲いていた寒桜をその場に再現する。 全員がその姿を視界に収め、再現された最後の一咲きを、その美しさを心に刻んだ。 「これで貴方が終わることはなくなりましたよ」 うさぎが幻影にそうつぶやく、貴方の美しさは確かに皆の中に残ったはずだ、と。 そうしていると自ら作ったはずの幻影である桜から一枚の花弁がひらりと落ちてうさぎの掌に収まる。 『ありがとう』 ――その花弁はそう言っている気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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