● たまには裏道を通るのも良い。けれど、それが命取りになるとも知らずに。 「!?」 「なんだよ、どうしたんだよ?」 一人の男子中学生が、もう一人の少年の背後を見て硬直した。 全身から嫌な汗が出る。目の前のモノが現実では無いと思い始めた。 夢だと頬を引っ張ってみるが、痛い。これは現実。 「なんだよ! どうしたって、いう……ん……?」 もう一人の少年も、影った背後を見た。 見えたのは。 それは、とてもとても、この世では有り得ない形をしていて。 「ぎ……っ!!!?」 「う、うあ……!!!?」 ――そして、叫び声が上がった。 ● 「皆さんこんにちは、鬼の依頼も大変ですが……いつもの如く依頼です」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)はブリーフィングルームに立っていた。 だが、顔色は悪い。また何か変なものでも見たのだろうか。 「今回はとても厄介ですね……いやまぁ、なんと言いますか……」 杏里は表現に困っていた。 だが、思いついた言葉を繋いで伝えようとする。 「今回の敵は、えと……アザーバイドでは無いのです。でもノーフェイスでも無いのです。 他のエリューションの型とも一致しません……つまり、その……」 分からない。 それが杏里の答えだった。 「分からない? フィクサードでも無いのか?」 「はい……人型だったらまだいいのですが……」 リベリスタの一人が問うが、それも違うらしい。 とりあえず、百聞は一見に如かずだ。杏里はモニターを捜査し、映像を出す。 見えたのは――。 「……なんだ、これ?」 上半身は女性だった。 だが、下半身はムカデそのものの様に長い。 その恐るべき数の足の所には、人間の手と足が交互に生えている。 「人であり、人では無く。アザーバイドでも無いけれど、エリューションです。 これが、一般人を襲っています……いえ、誘拐している、が妥当ですね。 一般人の救出は勿論。このエリューションをほおっておくのも危険です。 能力値も不明なものが多いです。ですが、強敵でしょう……油断せずに、ですよ」 分からないモノを倒せと言うのは無茶振りだが、倒せると杏里が断言したのであれば倒せるのだろう。 「六道のフィクサードが、何処かに居るみたいです。 おそらく、回収した賢者の石で何かしているのかもしれませんね……。 彼等は此方には、何もしてきません。手を出すのは駄目です。 なんといいますか……研究員を戦闘の精鋭部隊が守っているみたいなのです。 兎に角、フィクサードと関わるのはNGです。エリューションに集中して下さい! 宜しくお願いします」 杏里は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月15日(木)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●白昼の謎 未だに太陽は煌々と、天高く昇っていた。 エリューションといえば、普通は夜に活発化するものだ。 だが、今回は何かがおかしい。 識別不能の未知の敵。その影にいる、六道の存在。 これは何かが始まる前兆なのか……いや、もう始まっているのかもしれない。 「これってキメラか何かか!?」 『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)は、目の前の存在に対して最もであろう言葉を言った。 見てくれは気持ち悪く、生態の秩序が混ざりに混ざって混沌。 確かに、上半身だけは小奇麗な女性の姿なのだが、下半身はムカデのそれ。更には、足はムカデのモノではなく、人間の手足だ。 「……分かりません。ですが、やるべきことはあります」 『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)は静に答える。 今までに異形化したノーフェイスを始めて、あらゆるものを見てきた。 だが、どうだ。今回の様な異形は始めてだ。 正直、分からない事だらけである。だからこそ、やるべきことを成すのみ。 「気味な相手だが誘拐を見過ごす事は出来ないな。変 身 ! !」 その中で『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が咆哮する。 その瞬間にAFが光り輝き、七色に輝く光達が疾風を包む。トランスフォーム! 戦闘体勢だ。 「報告書を見たら、アザーバイドを拉致したとかもあった」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が調べてきた事を話し始める。 目の前のモノも、どこかの世界のアザーバイドなのだろうか? いや、それは違う。『目の前のモノ』は、違う。 「そういえば、六道が見てるんだっけか」 「そのようですね、何処に居るかは検討もつきませんが……」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の言葉に『下策士』門真 螢衣(BNE001036)が答えた。 辺りを見回すものの、やはり六道の姿は無い。 だが、見られている。遠くの遠く。もしかしたら千里眼なら届くのかもしれない遠く。 今回は彼等に関わってはいけないとフォーチュナは言っていた。 リベリスタ達はそれをきちんと守った。だが、とてつもなく不愉快であることには違い無い。 「嫌な予感がします……」 螢衣は虚空に呟いた。 それは誰かに聞いてもらおうと思って呟いた訳では無い。 純粋に率直な意見だ。確かに、この場にいる誰もが同じことを考えただろう。 「今はこいつを何とかするのが先、か」 義弘はそれに答える。螢衣は一度だけ顔を縦に振った。 「私はこの世界に足を突っ込んで間も無いけど……目の前のは悪趣味だわ」 『夕闇のガンエンジェ』ロザリンド・チェスナッツ(BNE003581)は大きく息を吐いた。 しかし、すぐに顔を横に何度も振っては自身を叱る。 そう、気おくれしている場合では無いのだ。目の前には危険な命がふたつほどある。 『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)は大剣をAFから取り出し、軽々と持ち上げた。 「さて、害虫退治と参ろうかのう」 賽は投げられた。 投げられていた。 リベリスタ達が顔を見合わせ、こくりと頷いた。 ●その攻撃はまるで 先手はムカデに譲られた。人質確保に動くため、機会を伺う静。 ムカデの長い尾が二人の中学生を巻き取り、離さない。麻痺か、呪縛にでもかかればすぐに飛びつこう。 「ギギギ……」 辺りを見回したムカデが、口から音を出しながら行動を起こした。 一般人確保という名の成果が出たため、帰還するのだろう。 此処は太陽に照らされ、ビルに挟まれた場所だ。勿論、影は存在する。その中へとずぶりとムカデが沈んだ。 「なっ!? させませんよ!!」 咄嗟にフィネが動いた。トラックは持ってくるのを忘れてしまったが、懐中電灯のスイッチをいれ、影を無くす。 逃げ延びる場所が無くなったムカデは、そのままフィネに攻撃を仕掛けた。 「これっ、魔曲四重奏ですよね!?」 ムカデが詠唱すると共に、四色の光がフィネを襲う。疾風が攻撃を庇おうと走り出したが、一歩ムカデの方が早かった。 見たことある。そりゃそうだ。リベリスタ、フィクサードのマグメイガスのスキルだ。 威力は確かにでかい。そしてそれ相応の呪いがフィネを襲った。 フォーチュナから聞いてはいたものの、まるでそっくりなものを撃ってくるとは予想外だ。 「……このっ!」 螢衣がムカデの周りに呪印を放った。 それがムカデの体を縛り上げ、動きを封じる。 呪印の中でムカデは力強く暴れていた。これでは封を保てる時間が少ないやもしれない。 仲間達は皆、自付強化のために時間を割いてしまっている。 (早く……っ) そう螢衣が思った瞬間に、光輝く気糸がムカデを貫いていった。『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)のピンポイントだ。 それに続く様にして静がここぞとばかりに走り出す。 「返してもらうぞ!!」 走りながら、鉄槌を振り上げた。 デュランダルの、高威力のその一撃――デッドオアアライブ。 勢いよく振り落とし、ムカデの気味悪く輝く甲へと直撃させれば、赤い血が静を染めていく。 「ぎぃぃいいあぁあ!!!」 狂ったように叫ぶ女の声……ムカデの声が路地裏に響く。 だが、まだ中学生達を縛るそれは解ける事はなかった。 「う……うぅ」 未だフィネは麻痺や毒に体を侵されているため動くことができない。 口から荒く息を吐いたムカデが再び何かを詠唱し始める。 紡ぐ言霊につられて形成されたのは、確かにマグメッシスと呼ばれる大鎌。 それが静の胴を射抜き、かっ裂いていけばそこから血が飛び出す。思わず静の顔が痛みに歪んだ。 更にムカデの女の口が開く。正面に雄雄しく佇む義弘へとその口を近づけた。 義弘の肩口を捕らえては、そのまま引きちぎったのだ。 「……なかなか、強烈な攻撃だな。だが!」 義弘の強化された肉体は、その攻撃の威力を確実に抑えた。 ――その瞬間だった。静かな風が吹き渡った。 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の力だ。 それが傷ついたリベリスタ達の傷を埋め、更には呪いの枷から解き放っていく。協力な回復は、チームの要だ。 体勢を立て直し、リベリスタ達は再び走り出す。 ●無数の妨害 再び、螢衣の呪縛がムカデを縛れば、好機と見た疾風が走り出す。 それと共に、疾風の腕には炎が巻きついていった。 「離せ、彼等は関係ない!!」 疾風は叫ぶ。それに応える様にして炎は火力を増した。 その拳は守るための力だ。今このときに振るわずして、いつ使うというのか!! 攻撃はムカデの甲に当たった瞬間に、その炎がムカデを飲み込む。 それに続いて義弘の十字の眩い光がムカデを襲った。ムカデの怒りを買うその攻撃。それが決め手か。 ムカデは本来の『帰還する』という意思を忘れて、『怒り』の感情が胸を埋めた。 女の血走った目が義弘を見る。 「おお、怖えな」 呟く義弘。そんな中、リベリスタ達は走り出していた。 振るわれる羅生丸。陣兵衛がその大剣を担ぐ様にして振り上げたのだ。 「はは、害虫駆除じゃの」 狙いはムカデの女である部分。その大剣では中学生を巻き込んでしまいそうだ。 そのまま勢いよく振り落とされた羅生丸は、煌くオーラの光を吸い込みながらムカデへと当たる。 一撃を受け、威力が収まらないまま、ムカデの上半身は大きく仰け反った。 その背後に見えたのは、大型の盾だ。真琴が近づいている。 「ここで、終わらせる……!!」 大きく跳躍し、盾を地面の方向へ、体を上へと上げる。 盾に体重と神秘の力を込めて、仰け反ったムカデの上半身へと勢いよく叩きつけたのだ。 まだ攻撃は終わらない。ジョンの精密な一撃がムカデを射抜いていく。 それと同時に静が再び、鉄槌を振り落としていた。再び同じ場所に鉄槌を穿つ。 「ぎぎいいいいいいいいいい!!!!」 再び、女の断末魔が響く。先程よりも、一オクターブ上に上がったその声が。 絶好の好機だった。これを逃したら、再び消耗戦となるであろう。 数々の攻撃か、義弘への怒りか。全てが重なって、中学生に巻きつく手足やムカデの胴が目に見えて緩んだ。 「今です!!」 「了解!!」 フィネとロザリンドが中学生の確保のために動き出す。 蠢くムカデの手足。人間のそれがフィネとロザリンドに中学生を渡すまいと掴み掛かる。 意識の無い人間は今、大きな荷物となっている。 取り出そうと、手足の中で二人は必死に手を伸ばした。 早く、早くしないと――ムカデの魔力で作られているであろう大鎌が、上空で形を成そうとしている。 フィネが一人の学生を力任せに引っ張っては抱きかかえた。そのまま来た道を走るのみだ。そう思い、フィネが振り返る。 あと、もうひと……り? 「手足が……!! 絡み付いて!!?」 せめて一人は誘拐しなくては。そう思ったか、このムカデ。 とうとうロザリンドが多くの手足に身体を押さえ込まれ、身動きが取れなくなってしまった。 目の前には少年がぐったりと倒れている。 上を見上げれば、魔力の大鎌がロザリンドを狙っていた。 もう駄目か? もちろん、フェイトを捧げる覚悟くらいはしてある。回転しながら降り注ぐ鎌に目を瞑った。 ――けれど、ちっとも痛く無い。血しぶきがロザリンドを染めあげる。 ふと目を開いてみれば、静の腹部に大鎌が貫通していた。彼の早さは幸だったか。身を挺して、庇ったのだ。 「これくらい……ちっとも痛くねえよ!」 共にフェイトは飛んでいく。その姿を見たロザリンドは早く抜け出そうと、数十の手足の中で精一杯もがいた。 ●止まらず、向こうへ 絡みつかれている二人を助け出そうとリベリスタ達は動き出した。 早いテンポで息をする静。だが、きちんと役割は果たすために鉄槌を振った。 それに続いてフィネも動く。 このまま来た道を走っても、全員救出しなければ意味が無い。何より、仲間を置いて行く訳にはいかない。 確保した中学生を背後に置き、自身は気糸を構成する。 目の前ではムカデは、力任せに魔力で多くの針を生み出している最中だった。 「させませんからね!」 フィネはすかさず、気糸をムカデへと巻きつけては、その行動を縛った。それと同時に針が消えていく。 それを見た螢衣が仲間達へ結界を送った。 きっと次で人質は解放され、逃亡劇が始まるだろう。だから、そのための結界だ。 「当たってくれよ!!」 この一撃が、再び中学生を助けられる一撃になればいい。 義弘は力を一撃に込める。 再び放たれる、神々しい十字の光。その光はムカデの怒りを買う。だが、それでいい。 直撃し、十字が弾けていく。その横から疾風が炎を従えて、拳を振り上げていた。 「離しやがれえええええ!!!!」 咆哮しながら、拳はムカデの胴を貫通させる。痛さと熱さに、思わずムカデが悶えた。 リベリスタ達は着実にムカデのダメージを削っているはずだ、だがムカデの動きは弱まる事を知らない。 ジョンの精密な一撃がそこに加わるものの、未だに健在。 「……く、何度やっても駄目か?!」 思わず疾風が、奥歯を強く噛み締めた。謎のエリューション達は皆、恐るべき体力と治癒能力を併せ持っている。 此方にも強力なヒーラーであるあひるが居るため、これではイタチごっこ同然だ。けれど討伐が目的では無いのは確かである。 「いえ、絶対助ける!!」 真琴の言葉は力む。何度目だろうか、いや、何度でもやる。 盾を振り上げてはムカデの頭を地面に叩きつける。その威力で、ムカデの視界は回る。 「抜け出すんじゃ……ロザリンド!!」 陣兵衛が羅生丸を振りきり、再びムカデの上半身を捕らえた。 「……大丈夫、いけるわ」 麻痺に痙攣する、ムカデの手足。ここで抜け出さねば、仲間に申し訳無い。それにはきちんと応えよう。 ロザリンドは抜け出し、もう一人の中学生をその手で抱えた。 「走りますよ!!」 フィネのよく通る声が、二つの建物の間で木霊した。 素早いフィネは来た道を戻り始めていた。 それを追う様にして、ムカデも同時に駆け出そうとしていた。その軌跡を塞ぐようにして静は立つ。 「こっから先にはいかせな……おおお!?」 ブロックしたものの、ムカデのフリーになった下半身が野球バットの如く、大きく振りかぶられていた。 全て伸ばせば、恐ろしいほどの長さ。それが一気に弧を描いて飛んでくる。 薙ぎ払うのか、それとも絡みつくのか。その判断はできない。 静は反射的に後ろを見た。フィネはまだ、その射程圏内であるのは一目瞭然。勿論、ロザリンドもだ。 これはまずい。移動をしながらでは庇うことは不可能だ。静自身も、二人を一度に庇うことはできない。 ほかの者も庇うために走り出すが、早さがまだ追いつかない。思わず息を飲んだ。 だが、ムカデの攻撃はそれらを大きく反れて、義弘へと直撃した。 怒りだ。 ジャスティスキャノン。その一撃が必要不可欠だった。 義弘は絡みつかれ、毒の針を浴びた。フェイトの加護がおきたが、それでも構わない。 「走れ……走れ!!」 義弘は叫んだ。その声に押されてフィネとロザリンドは走り出す。一歩でも早く、安全な所へと!! ● 八人となったリベリスタ達。だが、まだ大きな仕事がひとつ残っている。 「あとは、お主だけじゃの」 陣兵衛は大剣を強く握る。 未だに義弘は捕まっているが、抜け出せるのも時間の問題であろう。 螢衣はムカデの背後へと回り込む。 「にしても……大きいですね」 数十、下手すれば数百とある手足のつくその巨体。回り込むにも一苦労だ。 「キメラ……でしょうか」 真琴は盾を持ちながら呟く。 見ると、治癒能力でさほど体力は減っていないようにも見える。八人が消耗した状態で大丈夫か。 そこにあひるの治癒が包んだ。 絶対に倒せるよ、その後押しだろう。 「うし、いくぞ!!!」 疾風が叫び、それがスタートダッシュの合図。 炎を従えて、疾風は飛び掛る――が。 どぷん 「「「!!?」」」 思わず全員の思考が止まった。 一番訳が分からなく、戸惑ったのは義弘と疾風だろう。 そこにあるはずの感触が完全に消えたのだ。 「ぁぁああぁあぅううはぁぁああああ!!!!」 ムカデは叫んでいた。その顔を歪め、何かに縋る様にして手足を動かしていた。 その下半身が上半身と千切れた。 落ちた上半身は、地面に着くと共に、真っ赤な血をぶちまけて形を無くした。 残った下半身が、千切れたトカゲの尻尾の様にして激しく蠢いていた。 その甲がリベリスタにも当たるが、痛くは無い。真っ赤な液体となって形が消えていくのだ。 「なんじゃ、何事じゃ!?」 陣兵衛がこびりつく血臭に鼻を押さえながら言った。 「分かりません、でも……死んだのでしょうか?」 螢衣は何が起きたかはさておき、敵がどうなったのかを考えた。 血臭の後に、腐臭が漂う。 「とけてる……?」 真琴は融けゆく身体の破片や、血を見ていた。 義弘と疾風の身体にもその残骸があるが全て融けていく。 融けて、融けて。 そしてそこには、何もなかった様な平穏が訪れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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