●深夜にコレを見た君……もう遅い! コンビーフを缶から出し、油を引いたフライパンに落とす。 更に卵を落とし、ゆっくり混ぜてスクランブルエッグにする。 その間端ではウィンナーを炒め、しっかり火が通った所で皿に盛る。 ……そんなイメージが、脳内に直接送り込まれていた。 「なんだこれはっ、お腹が……お腹が……お腹がすいて仕方ないぃっ!」 空腹のあまりばたばたと倒れだす近隣住民。 彼らは残った力(そして財布の中身)を振り絞って近所のコンビニでお弁当やフライドチキンを買い漁り無駄使いを重ねるであろう。 その上不摂生な生活が続き肌は荒れニキビはでき町は混乱の渦に巻き込まれるに違いなかった。 「フハハハハハハ! 飢えるがいい! 漁るがいい! 貪るがいい! そして飢餓の渦にのまれるのだ! この『魔剣コンビーフ』によってなあ! ハーッハッハッハッハッハ!」 自販機の上。 白服の男はコンビーフ缶をくるくる回して開けるヤツ(正式名称不明)を片手に、高笑いをしていた。 「……ふむ、感覚器官への直接干渉形アーティファクト。なかなか面白いじゃないか。研究を続けよう」 様子をはるか遠くから眺める男。彼は手元のノートに何やら書き記すと、再び観察を続けたのだった。 ●お腹がすいただろう!? 卵焼きとウィンナーが恋しいだろう!? 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がやけにキリッとした顔をしていた。 いつもそれなりにキリキリしているガハラさんだが、今日はいつも以上に顔つきが厳しい。 変な冗談でも言おうものなら手元のファイルで脳天かち割られるんじゃないかって気迫があった。 「……主流七派の一つで、鍛錬とAF研究に明け暮れ個人主義者の多い組織『六道』。彼らが行動を起こしました」 唇を噛んで暫く黙る。 「アーティファクト『魔剣コンビーフ』。コンビーフの缶をくるくるとやって開けるあの鍵状の道具が覚醒したもので、半径1キロ以内の人間を無差別に空腹状態にしてしまう能力があります。反動も強く、自我を失い無差別飢餓状態をまき散らし続ける機械となる……恐ろしい……道具……です……」 お腹の辺りにてをやる。 「空腹は、恐ろしいですよ……。自分の大好きな食べ物のイメージが、強制的に入り込み、お腹がすいて仕方なくしてし……まう……」 ちょっと顔を俯ける。 「そしてアレもコレもと食べているうちに、体重は増え、反比例するようにお小遣いは減り、肌は荒れる……不幸な未来しか、待っていません。深夜に夜食を食べる習慣なんて、言わずもがなです!」 何故だろう。凄まじい気迫を感じる。 ほんと何故だろう。 「性能研究のためなどと、こんな恐ろしいアーティファクトを放っておくわけにはいきません。恐らく六道のフィクサード達が邪魔しにくるでしょうが、力ずくて倒し、魔剣を確保して下さい!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月01日(木)23:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●このリプレイは食前、もしくは深夜にご覧ください。 鍵が導く螺旋の向こう。 巻き取る虚ろは果てなく。 甘露を世界に導き出せば、満たす空洞、不条理宴。 世界は飢餓を嘆き憐れむ。 「……つまりは、おなかすいたのよ」 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)がすごくいい顔で振り向いた。何かのストーリーテラーかと思った。 ここはとある街のとある道路。 魔剣所有者とのエンカウントまであと百m少々と言った辺りである。 だからじゃい。 皆既に凄まじいハラペコ状態なんじゃい。 「ここまで直接影響を及ぼすとは、魔剣コンビーフ……捨て置けんな」 『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(BNE003468)は満身創痍に傷ついた兵士のような顔でゆらゆらと歩を進めていた。 その横で、落ち武者みたいな顔をする『剣姫』イセリア・イシュター(BNE002683)。 「ふっ……やるではないか……剣姫にして剣鬼、このイセリアに四回目(当社スタッフがカウントしました)ぐらいの剣を抜かせるとは……なっ……!」 見ようによっては砂漠でオアシスを捜し歩くキャラバンのようにも見える二人。 その後ろを、二人の少女がゆーらゆーら歩いていた。 「とろ~りなめらかプリン……濃厚なクリーム……新鮮な卵の風味……隠し味の洋酒……満足、感」 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)の目がどっか異世界を見ていた。 頑張ればバグホールくらい越えられそうな目だった。 尻尾は垂れ、耳は折れ、見た目にもしょんぼりした猫娘である。 そんなティセの横顔を、『底無し沼』マク・アヌ(BNE003173)は只管ガン見する。 主に耳たぶを凝視していた。 にゅーっと顔を近づける。 「あむ」 「ひゃい!?」 噛んだ。 やめてーと言って暴れるティセ達を脇目に、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は帽子を目深に被った。 「三大欲求の一つ『食欲』を暴走させるとはな……飢えは恐ろしいぜ、人を簡単に狂わせやがる」 「やめてー、耳の中なめな……うわーっ!」 頭をがりがり掻く『自称正義のホームレス』天ヶ淵 藤二郎(BNE002574)。 「飢えた獣、もとい飢えたリベリスタの恐ろしさを身をもって体験することになるだろうね」 「そこは肉まんじゃないからー! しらたまでもないからー!」 聞こえてくる声をフルスルー。 福松と藤二郎は空を見上げた。 「おじさん、コンビーフなんてぜいたく品だからねえ」 「分かるぜ。残飯漁りは経験済みなんでな」 「コンビニの店長とは間接的に仲良くするよねえ」 「ハンバーガーショップもな」 ニヒルに笑う二人。 ちなみに福松10歳、藤二郎45歳である。 なんて世の中だ。 「とにかく、終わった後のご褒美を心の支えにしましょ。自分の欲を抑える訓練は日ごろからしているし……」 角を曲がればエンカウント、という段階になって、『夕闇のガンエンジェ』ロザリンド・チェスナッツ(BNE003581)がぽつりと呟いた。 フラグっぽいっちゃフラグっぽいが。 今回ガチでそういうのが無いロザリンドお姉さんである。 いざ角を曲がる。 「う、うおおおお……!」 「トロ、マグロ、ウニイクラァ……!」 「ハンバァァァグゥゥゥゥウ……!」 白骨死体みたいに細っこくなった白服達がアスファルトの上でのたくっていた。 「…………」 無言で顔を上げる一同。 自販機の上で、白服の男がコンビーフの缶くるくるやるやつ(あくまでこの呼び方は変えない)を振り回していた。 「フハハハハハ、飢えるがいい! 飢えるがいい! そして深夜にも関わらず高カロリーなものを食べてしまうがいい! フーハハハー!」 「…………」 無言で見上げ続ける一同。 そんな中、ロザリンドはため息交じりに呟いた。 「あぁ、お腹すいた」 ●まだだっ、まだ食べるような時間じゃない……! 剣を抜き、鞘を展開する惟。 お腹を押さえてピクピクする白服達。 もし見た目に分からない人がいると良くないので補足すると、戦闘開始のシーンである。 開始早々暗黒をまき散らし、惟は目つきを鋭くする。 「古来から言われている。このような場合、『敵を南瓜だと思え』と」 「カボチャァァァァ!!」 牙(?)をむき出しにしたマクが白服達に食いついた。物理的に。 頭からくいつかれて血みどろになる白服達。もう白服っていうか赤福って感じだった。誤変換したけどピッタリな気がするから直さない。 その背後でうぼーっとするティセ。 「いちごしょーと……」 ティセの頭上にもやもやが浮かび上がった。 油脂100%の純生クリームを使ったケーキである。シンプルな、それでいて上品な卵味を残したスポンジ。互いに補い合う味わい。そこへたまにアクセントとして加わるイチゴの酸味。スポンジを噛みしめた時ぷちりと潰れる果実の食感と、大粒さゆえに溢れ出るイチゴ果汁。 ティセはその場にへなへなと倒れそうになった。 「もう駄目、女の子の半分はスイーツでできてるんですよ」 「スウィィィィツ!」 「うわぁ!」 マクが空中で180度ターンしてティセに食いついた。物理的に。 路上に押し倒されるティセ。マクは上唇を舌の先で舐めると、ティセの肩を腕で抑え込んだ。 既にマウントを取られたティセは腕で払おうとするも、しっかりと掴まれた手首が地に押し付けられる。 「ティセの半分。スイーツ食べるれる」 「やっ……」 あーんと開けた口から、僅かに涎が垂れた。 大きく伸ばした舌がティセの首へと近づいていく。 そしてティセは身体を大きく撓ら――おおっとここまでだ! 続きはBL・DVD版の特典映像で御覧ください。 イセリアは剣を抜き、そして目を瞑った。 「私はコンビーフに、勝利までは食わせないと誓った。その証として、私は購入したコンビーフを見える場所に置き、何日も耐えるという試練を自らに課したのだ」 風に揺れる前髪。 剣を持つ手が強く震えた。 両の目が、大きく開かれた! 「しかし食っていた! 次の日にはもう食っていたのだ! 我が誓いを破らせた貴様だけは許さん!」 「え、でも」 「うるさいお前の所為だ! 問答無用ー!」 三倍速くらいの動きで白服を八つ裂きにしていくイセリア。 「とにかくお前がわるいのだ! とに――」 「コンビーフはポテトサラダに入れるのがお勧め。柔らかめにふかしたおいもと人参のみじん切り。そして玉ねぎ。塩は控えめね。バターロールに挟んで食べれば」 「かく貴様だけは徹底的に――」 「あとは刻みキャベツと一緒に炒めて塩コショウ。丼ごはんにかけてマヨネーズでもいいわね」 「ええいルカルカその解説をやめろっ!」 アルシャンしながらぶつぶつと喋るルカルカに、イセリアは新たな怒りをぶつけるのだった。 よぼよぼの白服たちがボコされていく中、藤二郎は適当にチェインライトニングしながら咥え煙草(ノット着火)をしていた。 「いやあ、頼もしいねえ」 右を見る。 福松が白服のマウントをとってひたっすら殴りつけていた。 「クソが、嫌なこと思い出させやがって! たった一切れのパンを手に入れることがどれだけ大変か分かるのかオイ! ええオイ! 分かるってのかよ、あぁ!?」 「ゴメンナサイ、ホントゴメンナサイ! ウマレテキテゴメンナサイ!」 左を見る。 ロザリンドが白服の周りをくるくると飛び回りながら地味に鉛玉ぶち込んでいた。 「あら、両足潰れちゃったわねえ。弾が貫通しないと痛いわねえ? 逃げ場が無いと怖いわねえ? ねえ、今どんな気持ち?」 「ゴメンナサイ、ホントゴメンナサイ! ウマレテキテゴメンナサイ!」 藤二郎は頭の後ろで手を組んで、空を見上げた。 「いやほんと、頼もしいねえ……」 ●『コンビーフどぞー』で昔を懐かしむ世代へ 骨と皮だけになってた白服達をフルボッコにするまで、たいして時間はかからなかった。 しかし相対性理論のたとえ話をするまでもなく、彼らにとっては永遠に近い数十秒だったに違いない。 だがそれももうすぐ終わりだ。 最後の一人である魔剣所有者さえ倒せばこの地獄は、終わるのだ。 「でも、もうがまんできなぁい!」 ティセはポケットをまさぐると、猫型ロボットが何か出す時みたいな効果音と共に一個のプラスチックカップを取り出した。 否、それはカップではない。 「焼きプリン~♪」 「――!?」 びくっと背筋を伸ばす一同。 ティセは蓋を引っぺがすと、プラスチックスプーンでもって豪快にひとすくい。 ぷるんと揺れる薄い茶色のプリンを、大きな口に放り込んだ。 「んーっ、おいちー!」 耳と尻尾を立てて身体を震わせるティセ。 「おなかがすくと何食べても美味しいもんね、あたしがとろけちゃうっ! うらやましい? 味わって見たければそのアーティファ」 「うがーっ!」 明後日の方向からマクが飛び掛ってきた。 押し倒されるティセ。顔や胸にぶちまけられるプリン。 マクはまき散らされたプリンを丹念に舌で舐めとり始めた。 「え、うそっ!? このシーンはカットするんだよね!? だよね!?」 虚空に向けて何か訴えるティセを無視してマクは首やら頬やらをぺろぺろと舐めつくした。 そしてぽつりとつぶやく。 「口の中、まだある」 「――!?」 背筋を伸ばすティセ。 マクはティセの顎を掴むと舌を伸ばして――おっとこれ以上はいけない! やめてーと言って暴れるティセ達を背に、イセリアは剣を握りしめた。 「次はお前だ、ボス……」 何故か全身ボロボロで、何故か一回くらいフェイトで復活していたが、その辺を気にする人は誰も居なかった。 って言うかそれどころじゃなかった。 「剣姫たるもの、飯を食うまで死ねん」 「それ剣姫関係ないよ」 後ろの方でやんわり突っ込む藤二郎。 「『空腹美味え黙示録』を使った」 「お腹のフェイト激減だね」 正直突っ込む気のない藤二郎である。 「じゃあそういうわけで」 ロザリンドが話をさっさと進めるためか、それとも尺を気にしてか魔剣所有者の男へ銃を突きつけた。 ちょっと照準をズラして膝に射撃。 男は前のめりに倒れると、自販機から転げ落ちてきた。 「今だ!」 「ハンバーグ、スパゲティ、カレーライスにイチゴパフェェェ!」 落ちてきた男を徹底的にボコり始めるイセリアと福松。 アルシャンしながら呟くルカルカ。 「みじん切りにした玉ねぎとコンビーフを増せてパン粉と卵でからっとあげればメンチになるの」 「いいかっ、今日のためにあのくるくるするヤツを取っておこうと、爪に傷まで作って取り外し、よく洗って保管しておいた。しかし無くなった! どっかへ行った! それもこれもお前の――」 「キャベツに挟んでレンチンするの。オムレツに混ぜてもいいわね」 「オムライスウウウウウウウッ!」 「玉子との調和性においてコンビーフは」 「ルカルカそれやめろぉぉぉぉぉ!」 バッドステータスにもかかってないのに味方に掴みかかるイセリア達。 藤二郎はそんな彼らを他人事みたいに眺めながらマジックミサイルをぽかぽか撃っていたのだった。 数十秒後、魔剣の男はボロッボロの状態で横たわっていた。 「なあ、名も知らぬ魔剣の担い手よ……」 剣を握り、惟はゆっくりと歩み寄る。 「お前は少しでも料理はしたか?」 右足を踏み出す。 「野菜は食べたか?」 左足を踏み出す。 「献立を考えたか?」 鞘盾の淵をなぞるようにして、剣を高く掲げた。 「恥じることなく、生きて来たのか!?」 呪刻剣。 胸を貫かれ、男はついにこときれた。 手から、くるくるするヤツが零れ落ちた。 最後だけ、妙に真面目だった。 ●ご飯タイムッ、だああああああああああ!! 「終わったのね」 最後だけ真面目だったからか、ルカルカは乾いた目で夕暮れの光を見つめていた。 「皆、このあとルカたちは……」 肩越しに振り返ってみる。 藤二郎とロザリンドがやや遠くで立ち話をしていた。 「あのさ、この後ご飯食べて帰ったら経費で落ちんの?」 「凄い嫌な顔されそうね。まあ、最悪でも自腹でも食べるつもりよ」 「おじさん自腹はキツいなあ」 ルカルカはとりあえず表情をキープしておいた。無視なんてされてない。ぜったいそんなことない。 「……ファミレスか。よし」 ニヒルな顔をしてコンビニスイーツ食べていたイセリアが、口からスプーンを抜いた。 「スイーツゥー!」 「うわあああああ!!」 高速回転しながら飛び掛ってくるマク。 絶叫して押し倒されるイセリア。 その様子を、なんかハイライトの消えた目で見つめるティセ。 ……みたいな様子を完全にスルーして、福松達は歩き出した。 「行こうぜ。ファミレスに……早く、いこうぜ……っ!」 「うむ……」 目を瞑って歩く惟。 「食とは因果。因果を断つのなら、なるほど、コンビーフとはまさに魔剣であった」 手の中にある、あのクルクルやるやつを握る。 「これこそが、これの命か」 この後、彼等はひたっすらファミレスで食いまくり、空腹感の割には実際にお腹減ってなかったが為に死ぬ思いをするハメになるのだが、それはまた、別の話である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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