●触手の名前は『ばっかるこーん』 奴がいた。 名前はクリオネ。 丸い頭と逆三角形のボディ。二枚の羽。透明な肌。 別名水の妖精と言われるクリオネが、デパートの駐車場に立っていた。 嘘じゃない。 オッサンの足(別名脛毛ジャングル)を生やした全長2mのクリオネが、立っていたのである。 彼はその辺のサラリーマンを頭上に展開した触手でひっつかむと、凄まじいバックドロップを繰り出した。 「バッ――カルコオオオオン!!」 「ウワアアアアアアアアアアア!」 奴の名はクリオネ。 正式名称――エリューションビースト『クリオネ・マッスル』! ●いきとしいけるもの全て食べられるという観点から言えばきっとクリオネも食える 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)とリベリスタたちは黙ってテレビを見つめていた。 『クリオネちゃんの捕食シーン100連発』というジョークみたいな映像である。 映像が終わり、一同の肩がゆるやかに落ちる。 「動き早ぇ……」 「物凄く機敏なんだな……」 「まさかあの可愛い耳が、折りたたんだ触手だったなんて……」 「おい、食われたヤツからっからになってるぞ」 で、なんでこんなの見せたんだ? そういう声が彼等から上がる。 イヴはその程度の質問最初から分かっていたわという風に、テレビにある画像を表示させた。 「今回戦ってもらう、エリューションビーストよ」 「…………」 「…………」 沈黙、再び。 覚醒したクリオネ四匹が覚醒。田舎デパートの駐車場をうろうろし始めていると言う。 結界を自動発動しているらしくまだ一般人は立ち寄ってこないが、その内強い理由があって入ってくる一般人が現れるだろう。 そうなれば『クリオネちゃんの捕食シーン100連発』なんてお遊戯に見えるくらいの壮絶ホラーショーが展開されるに違いない。いち早く現場へ行き、エリューションを倒してほしい。 ……という説明だった。 ちなみにそれを全て真顔で言ってのけた。 イブすげえ。 「数は先述の通り四体。素早い動きと近接物理攻撃がメインよ。クリオネだからって、油断しないようにね」 「…………」 もう一度画像を見る一同。 巨大クリオネにオッサンの足が生えた生き物に、どう油断しろというのか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月27日(月)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●クリオネに足が生えていたかどうか真剣に記憶を探る所から始まる依頼 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」 真昼間のデパート駐車場で『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の悲鳴が天高く木霊した。 左右入れ替わりながらひたすら反復横跳びをし続ける四体のクリオネマッスルの所為である。 劇場版ドラ何とかのオープニングかと勘違いしただろうか? だとしたら申し訳ないので。前売り券購入者にクリオネマッスルの脛毛をプレゼントします。 「ナニコ……え、ナニコレ!?」 ひたすら二度見三度見を続ける『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)。 雷音の肩をゆすりながら首を振っているのだが、当の雷音は口からエクトプラズム的な奴(魂らいおん)を吐きだしたままうつろな目をしていた。 「くりおね足生えてないもん。帰りたい。帰りたいのだ……」 「脚が無くても……あの……うん」 横で帽子を目深に被る『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)。 「またオッサンかっ……気持ち悪い脚を晒して陸に上がってくるな。せめて脛を隠せ脛を!」 「そうだな、名前は確か……ク……クリ……」 眉間を指でおさえる『闇狩人』四門 零二(BNE001044)。 「クリオネ・アルティメット・バイオレンス・ダイナマイト・マッスル」 「……長いな」 「ああ、名前の時点でプレイングを圧迫するとは、汚い奴だクリオネ」 「何の話か分からんが、確かに汚い脛だ」 「え、これ元はクリオネなのか!? 覚醒現象すげえ!」 チェンソー剣を構えてじりじり後ずさりする『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)。 さりげに囲もうとしてくるクリオネから距離をとりつつ、二人は気持ちを整え始めるのだった。 さて。 「ええぇ、気持ち悪いぃ……(カチッ)ちょっとしたトラウマねこれ」 使用上の注意。 『アルガリ系魔王羊アイドル』伏見・H・カシス(BNE001678)はモード切替の際にスイッチ音が鳴ります。 どっから鳴ってるのかなんて気にしてはいけないが、どうしても理屈を付けたい人は以下の三つから選んでいただきたい。 1・首を振るので眼鏡とヒツジ角が当たる。 2・ガントレットの指を叩き合わせる癖がある。 3・おっぱいの中に切り替え装置がある。 「筆者は3番だと思っていると……はっ、あたしは一体何を」 ぶんぶん首を振る『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)。 ンなこと気にせずカシスはマナサイクルの準備を始めた。 「殴り倒したい所だけど、回復役あたしだけなのよね。ちょっと悔しいけど……開き直ってやるわ!」 「その意気っスよ! さっすがカシスさん話が分か」 カチッ。 「……所で足生えてますけど、分類は裸殻翼足類でいいんですか?」 「うおお予告なく切り替わるとリアクションしずらいッス!」 わたわたし始める計都。 そんな時、デパート駐車場の中心にスポットライトが降りた。 「フハハハハ、ハーッハハハげっほげっほ」 ビールケースに乗った『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)がむせ返っていた。 一度咳払い。 そして深呼吸。 「今度の敵はクリオネか。前に一世風靡したのが懐かしいがと思っていたらオッサンの足つきジャン! ワケ分からんわ! 責任者出て来い! あんなの飾りですエラワカッ(偉い人にはそれが分からんのです)、とか言うつもりか! 気合入れたアーク来たのにがっかりだぞちくしょう! ちくしょう! ちくしょおおう! かっこいい敵をかっこよく倒して『キャーフレイヤサーン! ステキー! ダイテー!』みたいな未来を予定してたのにクリオオネ・ザ・ダイナマイツカッコよくない! むしろ気持ち悪いちくしょう! ちっくしょおおおう!」 いつの間にかビールケースから降りて地面を叩いてた田中。 「田中ってゆーなー!」 泣きながら顔を上げる田中。 「ゆーぅなーぁ!」 ガチ泣きである。 名前に嫌な思い出でもあるのだろうか、フレイヤ田中。 「混ぜるなーぁ!」 などと、泣き伏せる田……フレイヤを差し置いて戦闘は始まったのだった。 ●バッカル語は上位世界クリオネ星のバッカル王国で使われている言語だって設定を今考えました。 というわけで、なんだかんだ言いながら激しいバトルシーンが巻き起こ――。 「ばっ……かるこおおおおん!」 カシスが腕を高らかに掲げ、身体を奇妙に捻り曲げながら叫んだ。 「バッカル、バッカルコオオンッ!」 頭の上で両手をうねうねさせ、相手を睨みつける計都。 対してクリオネは。 「バッカル!?」 「バッカルコーン!」 「バッカ、バッカル!」 「カルコオオオンゥ!?」 「バッカルバッカル、カルカルコーン!」 「カルコオオオン!?」 「バァァァカル!」 「かる?」 「かるかる」 「ばぁぁかる!」 「帰りたい」 「コオオオン!」 「コオオオン!?」 「コオオオオオオオオン!!」 完璧意味の解らないやり取りだと思うので、日本語に翻訳してみようと思う。 『ゴルァ群れんと何もできんのかワレェ!?』 『バッカルコーン!』 『バッカ、バッカル!』 『ヘヘッ、ビビッとるのう。所詮流氷のエンジェルちゃんかぁ!?』 『バッカルバッカル、カルカルコーン!』 『カルコオオオン!?』 『アァ、舐めとったらポン酢で食うぞワレェ!』 『かる?』 『かるかる』 『ばぁぁかる!』 「帰りたい」 『薬味はモミジオロシとアサツキじゃコラァ! 漢じゃったらタイマンでかかってこんかぁい!』 『あ、私女です!』 『マジでか!?』 というわけで、計都はひたすらぐねぐねしているカシスをよそに驚愕していた。 その横から飛び出していく零二とアナスタシア。 「まずはこいつらを分断する。準備はいいか」 「いつでもいいよ!」 零二は大剣をフルスイングしてクリオネを吹き飛ばす。 べにょんという奇妙な音と共に吹き飛ばされ、クリオネはその辺のワゴン車に激突した。 よろめいた所にアナスタシアが掴みかかり、とりあえず羽っぽい所を掴んで足を払うとコンクリートに叩きつけた。 「さっ、早く終わらせて帰ろ! 本気で!」 「え、あ、はいッス!」 「バッカル……あ、はい!」 未だにうねうねしていた計都とカシスは我に返った。 一方その頃影継は。 「うおおおっ!?」 触手(ばっかるこーん)に掴み上げられ、今まさに投げ落とされようとしていた。 「ヤバイヤバイ路上で投げ技はマジヤバイ――出ろ布団六点セット!」 カードを翳す影継。 アスファルトに頭から激突する影継。 上にそっと布団が被せられる影継。 沈黙する影継。 「……どういうことだよ」 布団でダメージ軽減はちょっと。 「……まじでか」 まじす。 その横では、クリオネがひたすら高速反復横跳びしていた。 脚を弾こうとパカパカ足元を連射する福松。 実際やってみれば分かることなのだが、足撃とうとしてる時に反復横跳びされると物凄くムカつくものである。 当たりづらいわおちょくられるわで。 バウンティだから命中率が下がらないとはいえども、である。 「無駄にいい回避しやがって、その汚い脚で反復横跳びなぞするな! 鳥肌が立つ!」 「かるこんっ」 とりあえず頭(?)に鉛玉をぶち込む福松。 クリオネはもんどりうって倒れた。 「うおー、くらえー!」 後ろから四重奏を連射する田中レイヤ。 「混ぜるなー!」 「うおっ、おい田中! なぜ虚空に撃つ!」 「田中ゆーなー!」 安定のガチ泣きである。 ちなみにその間雷音は。 「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい(おっさんの足が来るのだイヤなのだ)」 「本音と建て前の意味がほぼ一緒だと!?」 速攻でぶん投げられ、空を眺めながら独特の鳴き声を繰り返していた。 「帰りたい(帰りたい)」 「完全に一致しただと!?」 雷音の目からは既に、ハイライトが消えていたと言う。 ●バッカル語講座『両手を頭の上で開いてバッカルコーン!(意味:SUN値チェック入ります!)』 頭上の触手をうねーっと伸ばして突っ込んでくるクリオネ。 「ゲェーーッ! 奴の頭部が割れて触手が現れたぞ!?」 零二が一瞬だけ違う人のタッチになって目を見開いた。 直後、腰回りをがっちりホールド。 軽くジャンプされたかと思うといつの間にか足を開いた状態で尻から墜落していた。 「ぐああああああああ!」 「大丈夫零二殿――はうあ!?」 アナスタシアが振り返った瞬間、背後に(高速すり足で)回り込んだクリオネが背中から彼女をホールド。身体をぐいっと反らして後ろ方向に叩きつけた。 「クリオネバックドロップ!」 「クリオネバックドロップって言った!?」 はぎゃんと言いながら地面に叩きつけられるアナスタシア。 依頼が依頼ならアスファルトを血の海にするグロシーンなのだが、今回は彼女が地面に頭めり込ませてもがもがするだけで済む。 でも、フェイトは使った。 「こんな奴にフェイトを使うとか屈辱的! も、もとは取ってやるからねい!」 がほっと頭を抜くと、今度は逆にクリオネの背中を掴んでバックドロップをぶち込んだ。 「アナスタシアバックドロップ!」 「バッカルコオオオオン!?」 頭(?)からアスファルトに突っ込んだクリオネは、足を暫しびくびく痙攣させた後絶命した。 「くふっ、一匹ヤったか」 口を拭って立ち上がる零二。 その後ろで計都が素早く身構える。 具体的に言うと、頭の上で腕を打ち上げられたイソギンチャクみたいにぐにゃんぐにゃんしながら腰を器用にスイングさせた。 「バッカルコォォオオン!?(意味:おいおいなんて小さいことを気にしてるんだトォム! 思い出せよ、あの雄大な北の海を。たかが二倍の敵を相手に殴られるくらいどうってことないのさHAHAHA!)」 「バッカルコーン(意味:いいえ私はボブです)」 「マジすか!?」 またも驚愕する計都。 そんな彼女を無視して零二はクリオネの顔面(?)をオーララッシュでぶん殴る。 ぐらぐらとよろめくクリオネ。 そこへカシスがスライディングしながら接近した。 「脛毛ジャングルなんて――」 クリオネ手前で停止。からの、しゃがみ強パンチ(業炎撃)。 「除毛っ!」 「ばっかるっ!?」 想像してみて頂きたい。 巨乳の眼鏡っこがしゃがみ強いパンチを……じゃない。 脛を思いっきり女の子に殴られ……じゃない。 すね毛に思いっきり火を付けられる恐怖を。 「コォォォン!!」 炎に包まれてへにょんとなるクリオネ。 彼はそのまま、何か不思議な郷土料理みたいになって焼け死んだのだった。 ぴたっと止まる計都。 カシスはしおしお焼けていく羽を見つめ。 「天日干しにしたら美味しいかも」 「怖すぎる想像はやめるッス!」 一方その頃雷音は。 「さんぜんせかいのからすよここここここここここここここ」 「帰って来い朱鷺島ぁー!」 バグったファミコンソフトみたいなことになった雷音を、田中レイヤは必死に揺すっていた。 「は、早く帰りたーい!」 「それは我も一緒だ! そ、そうだ。何か別の事を想像しろ。かわいい物とかを」 「か、かわいいもの……」 「インコとか」 「インコ……」 目にハイライトが戻り始める。 目の前を反復横跳びするクリオネ。 脳内で反復横跳びするインコのオッサン(アレ)。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」 雷音はSUN値チェックに失敗した。 「彼女はもう駄目だ……ええい、あとは我に任せろ!」 振り向いてフレアバーストを乱射するフレイ子。 「はっ、忘れてた! 世を忍ぶ仮の名前と混ぜるなー!」 「おいだから何故虚空に撃つ!」 うおーと言いながら荒れ狂うフレイヤをよそに、福松と影継はクリオネに向き直った。 「前に出て来てよかったのか?」 「なに、適材適所というやつだ。気にするな」 二人はリボルバー式拳銃を指でくるりと回すと、同時にクリオネへと飛び掛った。 「バッカル!」 触手を展開して身構えるクリオネ。 影継の振り込んだチェンソー剣が掴まれ、身体ごと振り上げられる。 しかし影継とて、これまでただ投げられていただけではない。 「その汚い脚を撃ち抜いてやるぜっ!」 上下反転の姿勢で銃を構えると、曲げた膝を上から思いっきり撃ち抜いて見せた。 「コォン!?」 態勢が傾く。 影継は体重を移動させ、そのままクリオネの頭を地面に叩きつけた。 一方福松は、銃を流し打ちしながら突撃。高速すり足で銃撃を避けるクリオネ。素早く福松の側面に接近する。 そのタイミングで福松は裏拳を叩き込んだ。 のけ反るクリオネ。 福松はぐっと踵と腹、そして腕に力を込めると。 「三千大千世界の果てまで吹っ飛びやがれ!」 強烈なアッパーカットを叩き込んだのだった。 ぐしゃぐしゃりと同時にアスファルトに転がるクリオネ。 「バッ……バッカル……コォンッ!」 暫く痙攣した後、がくりと力尽きる。 そして、この世から完全に消滅したのだった。 ●ウーパーの例を見ればクリオネが丼物になる日も近い 「………………」 「………………」 雷音と田中フレイヤ涼子が折り重なるようにしてくたばっていた。 具体的なことを言うと、口から魂みたいのが飛び出ていた。 ハイライトの無い目つきも相まってエロくないでもない。 「凄かった……あと強かった……」 フェイト使っちゃったよコレ、と言いつつ汗をぬぐうアナスタシア。 「どっと疲れたな……」 「寝て起きて忘れよう……」 短くため息を吐く零児と福松。 その後ろでバッカル語講座を繰り広げるカシスと計都。 「バッカルコーン!」 「バッカルコーン!」 頭上でぴーんと伸ばした腕を左右に高速で振る二人。 シンクロ技能のムダ遣いである。 そんな中で、影継は一人空を見上げた。 「あばよクリオネ・マッスル……お前が脚にタイツを履いてたら、ヤバかった」 後ろで更なる悲鳴が聞こえた気がしたが、影継は聞かなかったことにした。 だって空が青いから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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