● 成り上がってやろうと、あいつは言っていた。 子供一人救えない世界なんて奴は、自分が変えてやるのだと。 あいつはそう、言っていた。 何時から。何時からだろうか。 力ばかり追い求める様になったのは。 金が無くては何も出来ない。 力が無くては変えられない。 ならば、悪事に手を染めてでも、必要なものを得てやると。 互いに誓い合ったのはもう、どれほど前か。 変わってしまった。 目指すものは同じはずなのに。 俺とお前は、いつから道を違え始めて居たのだろうか。 もう、それすら分からない。 俺が。俺達がしている事は、していた事は、正しいのだろうか。 俺達が、目指した姿は。 あの時の、彼らだったのでは、無かったのだろうか。 答えの出ない問答の中。 青年は深い溜息を一つ漏らして、相棒の待つ戦場へと向かう。 来る日も来る日も殺して奪う。負けるはずはないと信じている。 確かに、強くなった。力を得た。 けれど。 本当に、これで良かったのだろうか。 答えはやはり、出ない。 ● 「あー、集まった? ……それじゃ、今日の『運命』って奴を話すわよ」 ブリーフィングルームモニター前。 椅子に完全に身体を預け切っていた女性は、リベリスタの姿を確認すると漸く、その身を起こした。 見ない顔だ。怪訝そうな顔をするリベリスタをぼんやり、眺めて数秒間。 嗚呼、と納得した様に頷いた彼女は、矢張り怠そうに立ち上がり首を傾げた。 「月隠響希。この間アークに入った新米フォーチュナって奴ね。……あ、あたしの事は響希ちゃん、でよろしく」 さん付けでも良いけどね。適当な自己紹介。 何とも言えないリベリスタの表情は意にも介さず、フォーチュナ――『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は眉間に皺を寄せて資料と見詰め合っていた。 「えーと、字小さいわね……後宮シンヤについてはまぁ、あんたら知ってるのよね。 あいつについてた残党共が、事件起こそうとしてるのよ。今回のお仕事は、ソレを止める事」 リベリスタの様子を窺いながら、飾り立てられた長い爪が文字を辿っていく。 「アーティファクト『阿芙蓉』。後、フィクサード、イツキとケントって言えば、覚えがある奴も居るんじゃない? ……あたしは良く知らないけど、そいつらはシンヤが死んでから、新たなパトロン探しをしていたみたいね。 何でも、目的があるとか。まぁ、金はあって困るもんじゃないしね」 そうして、彼らは現在、新たなパトロンを見つけ、彼に従っているようだった。 「パトロンは……まぁ、フィクサードだろうね。悪魔信奉者。宗教狂いの爺。ジーニアス×アンノウン。 戦闘能力は無いに等しく、非常に臆病。脅す…っつーか、イツキとケント片付ければ黙るんじゃない? ただまぁ、そう簡単でも無いみたいでさ。……一番の問題は、爺が依頼してる内容なんだよ」 悪魔召還。 何処で仕入れた情報なのか分からないが、迷信以外の何物でもないそれを、彼は信じ、依頼していた。 「必要な供物は純真無垢な幼子の命。それも複数。悪趣味だよねぇ。 嗚呼、勿論依頼されたイツキもケントも、そんなもん信じてないわよ。でもまぁ、金の為だし実行するつもりよ。 儀式の場所は寂れた講堂。ぼろいから床が脆い。嵌んないようにね。 イツキとケントについては……まぁ、資料参照。あ、当然2人とも前回より強くなってるからね。経歴見てるとかなりの手練れだね。 勿論、『阿芙蓉』の使用もあると思うよ。効果の強力さは実証済みだし、気をつけといてね。 あ、それと。……講堂内には、雇われフィクサードが20人居る。正直雑魚。阿芙蓉の対象外。 阿芙蓉って便利そうだけど、所持者が対象そのものやその位置を確り認識してないと発動しないらしいね」 要するに、雇われ共は蹴散らせば良い。 そう暗に告げて、フォーチュナは眠たげな目を細めて腰を下ろす。 「イツキとケントの付き合いは長いみたいよ、強い信頼関係にある。……だけど、少し。なんだろうね、すれ違いもあるみたい」 ま、それがどう影響するかは分からないけどね。 軽い調子で言い切って、フォーチュナは小さく、欠伸を噛み殺した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月02日(金)00:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● それはまさに、不意討ちだった。 「僕たちはアークだ! お前たちの暴挙、これ以上許さないぞ!」 行動一杯に響く名乗りと共に。雷撃纏う『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の演武が入口のフィクサードを叩きのめす。 続く、怒れる蜂の群れの如き打撃音。 「全員潰す! 生かして帰さないわよ、このクソ外道!」 腹の内は冷静に。けれど、表に出す言葉は烈火の如く。 『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960) は自身の幻想纏いにも聞かせる様に怒声を上げる。 相手に脅威を感じさせねばならない。ならば、出来る限り派手に。 そう配慮した彼女の後からは、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)と『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が位置取りを行う。 「ふふっ。お節介なアークが儀式の邪魔をしに来たわよ?」 悪魔召還の儀式だなんて、こればかりは趣味が悪いと言わざるを得ない。 幼子は庇護し愛でるべきものである筈なのに。 癒し手は後衛。それを覆す様に前に立って微笑む彼女が微かな苛立ちを含め鉄球を振るえば、上がる悲鳴。 同時に撃破される事が無い様に。ティアリアとは離れた位置に立つカルナも、幼子を思い眉を寄せる。 儀式の真偽など問題ではない。その代償が子供である時点で、看過など出来ないのだから。 同じく、後衛に位置取った『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は足場の不利を回避する為宙を舞う力を仲間に与える。 悪ならば悪の矜持がある筈。だが、それを芥子の力に良い失っているのであれば、そんな相手に負ける訳には行かない。 「……必ず子供達を救ってみせます」 そして、最後。 3度目。今度も、あの時と同じ悪魔が与えし果実の名を冠す禁書を抱えて。 『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996) は静かに前を見据える。 視線の先の2人組。彼らが齎した手痛い敗北は未だ記憶に新しい。 言いたい事はある。けれど、今は子供達の為にも、戦闘に集中させるのが先だ。 「……感情論は勝ってから」 あなた達の言葉よね。皮肉を込めた挨拶と共に、イーゼリットは素早く詠唱を始める。 「……儀式ごっこは後だ、伊月。構わないな」 様子を窺っていたのだろうか。中央の2人組の片方、漆黒の剣士がそっと、子供を下ろす。 任務遂行を思えば、優先すべきは明らかだ。けれども彼は、それを後回しにした。 そう、それは。彼が見せた、微かな迷い。 「嗚呼いいさ、……また遊ばれに来たんだろ――」 そんな相棒の様子にも気付かずに、銀色の魔術師が愉悦を堪え切れないと笑い声を上げる。 見知った顔も居るようだ。そう呟きながら、青年は抱える魔本を開く。 動く唇。即座に展開される、複雑な魔法陣。 「――丁度良い、そいつらも邪魔だ」 一緒に消えろよ。言葉と共に、凄まじい魔力が戦場を貫いた。 まさに、砲撃。 戦場を一直線に貫いたそれの線上に居たフィクサードが、悲鳴も上げる事無く息絶える。 狙われたのは悠里。そして、後ろに居たイーゼリット。 想像以上に重い一撃に、呻き声が漏れる。微かに漂う、芥子の香り。 彼の香炉を使いこなす彼らの力に寒気すら覚える。しかし、此方にも頼りになる仲間が居るのだ。 状況を見極めて。カルナが即座に呼び寄せた福音を響かせる。 その脇では、残る雑魚を片付けんとジルが射撃の手を緩めない。持ち直した2人が、強烈な範囲攻撃を以って敵を片付ける。 己が生命を力に変える剣士を横目に、攻撃に回るティアリアが、何とか立っている者も片付けて。 一気に人数の減った戦場で、銀の青年は微かに、余裕の笑みを浮かべていた。 ● スイッチを入れたままにしている幻想纏いから、戦闘開始の合図が聞こえる。 外。作戦上、正面に敵が集中する今、窓から突入すべき2人――『不屈』神谷 要(BNE002861)と『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)は、入口へと走っていた。 宙を舞えば容易く入れる筈であった窓。 しかし、彼女達にはその力が無い。本来ならば付与される筈であった翼は、何の行き違いか術者との間を隔てる壁によって届かなかったのだ。 正面の入口はもうすぐだ。子供達を護りたい。己が身を盾にしてでも。そう、硬く決意する要。 その隣を走る霧香もまた、青い瞳に激情を湛える。 イツキとケント。彼の公園での借りを返す日が、遂に来たのだ。 あの日。その意志に見合うだけの力を持たないと言われた少女は、きつく唇を噛み締める。 今の自分に、その力があるのかは、分からない。けれど。それでも、戦う事を止めるつもりは無かった。 必ず、止める。戦場まであと、少し。 一方、室内では。 「何故もっと正しいことに力を使えないんだ!」 遅れている仲間を思いながらも。少しでも道を作る為、悠里が再び雷の演武を舞う。 言葉の先は伊月。少しでも挑発する事で気を引こうとする彼の思惑通り、伊月は苛立ちを顕に舌打ちをする。 全滅を狙い怒涛の射撃を行い続けるジルの横。長い詠唱の最後を小さく呟いたイーゼリットの血液が、宙を舞う。 漆黒の鎖に姿を変えたそれは、中央の2人さえ飲み込み荒れ狂う。 「あなた達は、自分の手で、意思で、道を切り開いたつもりかもしれない」 真直ぐ、見詰める。リベリスタとフィクサード。行動以外に差異の無い両者。 しかし。其処に居る限り。その場その場で勝っても負けても、今日の様な日がずっと続くのだ、とイーゼリットは語りかける。 そして、彼女自身も。終わるまで続けるつもりだった。 「……私が嫌い? わずらわしい? 私を」 殺してみる? すう、と、唇が弧を描く。やりたいならやればいい。だって例え、私を殺したって。 「また、他の誰かが来るだけだけれど」 如何するの? 彼女の問いに、答えは返らない。無表情を貫く漆黒の剣士が、雷撃と共にその蛮刀をティアリアへと叩きつける。 その後ろでは、魔本を抱えた青年が、詠唱を開始する。芥子の香りが、強くなった。 ルカが、カルナが呼び寄せる聖なる音色が仲間の傷を癒す。 状況判断に努めていたからだろうか。静かに己の役割を果たしていたカルナには、剣士の瞳に浮かぶ迷いが見えていた。 「……私は、強さとは前に進もうとする意思そのものを指すと思います」 澄んだ声音が凛、と響く。 目的は知らない。けれど、と、カルナは言い募る。その目的とは、こんな行為を重ねた先で目指せる物なのか、と。 剣人の瞳が、微かに見開かれる。それを確りと見据えて。癒し手は続けた。 「貴方は、……今の道を是とするのですか?」 ぐ、と、剣を握る手に力が篭もるのが見える。 相棒の異変に漸く気付いたのか、それとも、リベリスタの言葉に苛立ちを募らせたのか。 柳眉を跳ね上げた銀の青年は、ふと。思い付いた様に、未だ生き残っていたフィクサードへと、指示を出す。 掴み上げられる、幼い少女。 「子供、助けたいんだろ? ……高尚な説教じゃあ如何にもならない事もあるって」 教えてあげるよ。其処まで告げ、子供を抱える男に目で合図する。 何が起こるか、等言うまでも無い。しかし、気付いた時には既に、間に合わなかった。 鮮血が、飛び散る。首を掻き切られた少女が、力無く地面へと放り出された。 一気に、空気が張り詰める。顔色の変わったリベリスタに、青年は満足げに微笑んでみせる。 呆然とその光景を見ていた剣人が微かに、唇を開きかけた、その時。 駆け抜ける、銀色。続いて響く、鋭い金属音。 反射的に差し出された大剣に、あの日と同じ玉鋼を叩きつけて。 「会いたかったよ、ケント……!」 霧香は真直ぐに、因縁の剣士を見上げていた。 少し遅れて、駆け込んで来たもう一人の銀色、要も己が剣を振り上げる。 纏うは、曇り無き破邪の煌めき。大上段で振り下ろされた一撃は、伊月の肩を深く抉る。 「今度こそ、……護ってみせます」 低い呟き。既に事切れた少女を見つけて、その表情が痛みと怒りに彩られる。 新たな敵の乱入に、青年達は驚きと苛立ちを浮かべて己が武器を握り直した。 戦闘は、激化していた。 「この、外道がっ」 ジルの言葉に呼応する様に蠢いた漆黒が、伊月の頭部を狙う。詠唱を続ける彼は、最小限の動きでそれをかわして見せた。 悠里が青年達両方を巻き込める位置で、電光石火の舞を叩き込む。 剣に迷いが見えるよ。因縁の相手と相対して、霧香は呟く。 あの日、彼が自分に告げた言葉。それを、彼女は今でも忘れていない。だからこそ。 「あんな偉そうな事言っておきながら、そんな剣で受けて立つの?」 そんなの、許さない。澱み無き動きで、鋭い連撃を打ち込む霧香に、剣人の表情が苦さを帯びる。 真直ぐさ。甘さ。そして、強さ。それらを全て持ちうるのは。 「……お前達、なんだろうか」 対峙する霧香にすら、微かに聞こえる程度の声で呟く。 要が、己が身を防御に特化した状態に切り替える。それを感じながら、青年は迷いを振り切る様に剣を握り直す。 全身の闘気が刃に集中し、荒れ狂う。そして。 「だがそれもっ……今更だ……!」 凄まじい勢いで振り抜かれた剣は、霧香の華奢な身体を軽々と跳ね飛ばした。 そんな状況にも興味を示さず。ただ只管に、苛立ちを浮かべる伊月も、詠唱を終え魔本を掲げる。 荒れ狂う、漆黒の鎖。狙いから外れたのは、カルナとイーゼリットのみ。 重い一撃。そして、その身を苛む重なり合った呪いに呻く声が上がる。 「貴方達の未来の為に、子供の命を犠牲にしていくのね。救うこともせずに」 力が勿体無いわね。説得と言うよりは挑発だろうか。 冷ややかに微笑んだティアリアが、戦場全体に脅威を打ち払う煌めきを放つ。 厚い回復。投げ掛けられる言葉。そのどれもが、興奮しささくれ立つ心を逆撫でる。 伊月が苛立ちを込めて、再びの詠唱を行おうとした、その時。 縄が、緩かったのだろうか。足の拘束が解けたのであろう子供が、怯えた顔で逃げ出そうとする姿が目に入った。 浮かぶ、暗い微笑。 「……正義の味方気取りが、鬱陶しいよね」 さぁもう一度。絶望する顔を見せてくれ。魔法陣が広がる。指先が示すのは、逃げ出そうとする子供。 二人目。悠里が、ジルが走る。けれど、それを嘲笑う様に。 魔力の砲撃が、一直線に駆け抜けた。 ● 考える間も無く、身体が動いていた。 頭に過ぎったのは、遠いあの日に失ったもの。 誰も護れない、何も救えない、そんなこの身に一体何の価値があるというのか。 今度こそ。そう、今度こそ。 この手を届かせて、護ってみせるのだ。 半ばその身を投げ出す様に。凄まじい魔力の射線を遮ったのは、要だった。 地面に、倒れ込む。その腕の中には確かに、無傷の幼子が収められていた。 「……護ります。私が、立っている限り何度でも……!」 己の運命と引き換えに。一度倒れ伏した身体が、立ち上がる。限界を超えて尚、その瞳は輝きを失っては居なかった。 幼子を射程の外へと走らせる最中。詠唱を続けていたイーゼリットが、再び己が血液を舞散らせる。 迸る漆黒。軽い眩暈を覚えながらも、彼女はゆっくりと、唇を開く。 「ケントさん。……こうしていて楽しい? 幸せ?」 望みは、叶った? 紫の瞳が、瞬きもせず問いかける。 これからもこうして進んでいけそうか。本当にこれで良いのか。 本当にこうしていたいのか。本当に、自分達にぶつけるだけで良いのか。 そこまで問いかけて、ゆらり。瞳が伏せられる。答えを聞くつもりは無かった。だって。 「押し付けることは出来ないから。……答えは自分で選んでね」 漆黒の瞳が、微かに揺らぐ。ぐ、と唇を噛んだ彼は、それでも、答えない。 一方の伊月は、悠里やジルの猛攻で、段々と疲弊し始めていた。ティアリアの振るう鉄球が掠め、微かに表情が引き攣る。 澱み無き連撃を、再び。あの時より強くなった少女は、迷い無く剣を打ち込む。 微かに、瞳を細めて。それでも、剣人は迷いを振り払う様に裂帛の声を上げる。 瞬間。闘気が爆発する。今の彼の、全力。まさしく生死を容易く分けてしまうであろう太刀が、霧香の胴を薙いだ。 ぐらり、その膝が落ちる。しかし、彼女は此処で、地に伏すわけには行かなかった。 「あたしの剣は……まだ、折れてない……!」 運命を、がりがりと削り取る。鮮血に濡れた髪を振り払って。再び立ち上がった彼女は、長身の相手を睨み上げる。 自分と彼。まだ、力量差はある。追いつけては居ない。けれど。 「でもあたしは、そんな剣には……負けない!」 燃え滾るような青。迷い続ける青年は初めて表情を歪めて、視線を逸らす。 要の破邪の剣が、イツキを傷つける。対抗する様に、小さな詠唱と共に放たれたのは、灼熱の業火。 狙う先は癒し手。芥子の力を上乗せした一撃が、ルカに見舞われる。 重すぎる一撃に、膝が折れる。しかし、彼もまた、その運命を削って立ち上がった。 口許を汚す血液を、拭う。 他人の言いなりになり、無抵抗な、しかも子供達に手をかけて。自分自身に対して恥ずかしくないのか。 そう、言い募って。彼は一言、重く投げ掛ける。 「……この子達位の時の自分が今の貴方を見たらどう思うのでしょうね」 同時に呼び寄せる、福音。カルナも補う様に再びの癒しを呼び寄せる。 「ほら、そろそろ決着つけるわよ!」 破滅的な漆黒のオーラ。ジルの使うスキルが、ついにイツキの膝を折る。 しかし彼もまた、運命に愛されし者なのだ。 立ち上がる。血に塗れた銀を、鬱陶しげに振り払って。 「ほら、まだまだ。さっさと俺を片付けてみろよ!」 魔術師は心底愉快と、笑い声を上げた。 ● 戦闘は続く。しかし幾ら青年らの力が秀でてるとは言え、終わりは見え始めていた。 経験と実力。その2つを併せ持つが故の立ち回りでリベリスタを苦しめ続けた魔術師にも、限界はある。 既に傷は深い。それでも、彼は攻撃の手を緩める事はしなかった。 そう、まるで。 それ以外にもう道はないとでも言うかの様に。 「っ……お前らみたいな、……綺麗事しか並べられない奴らになんて……」 負けられるか。掠れ切った声。抱える魔本を媒介に、練り上げた魔術を解き放つ。 濁流の如き、黒の鎖。目に入らなかった霧香とルカ以外のリベリスタを飲み込んだそれによって、悠里の身体が揺らぐ。 力を失いかける瞳。しかし。 「まだまだ、こんな程度で諦めてたまるもんか!!」 彼もまた、運命に愛された者。生死の境の意を冠す篭手を、硬く握り締めて。再び立ち上がる。 折れない。彼らの目的は知らないが、何であっても子供を犠牲にする、何て事を認める訳にはいかないのだ。 それに。格好悪いところなど、出来ればあまり見せたくないから。 構えを取り直す青年の後ろで、翡翠の髪の少女が素早く、聖神の力の一端を振るう。 要が、全霊を込めて煌めく剣を振るう。確かな、手ごたえと共に、ついに伊月が再び、地に倒れ伏した。 「う、ぁ……っ、未だやれる、どうして……立てない……っ」 上手く力の入らない指先が、必死に地を搔く。その度に、傷ついた身体は大量の紅を溢していた。 負ける訳無い。負ける訳が無いのだ。綺麗事ばかりで、何も救えやしないリベリスタになんて。 自分は、自分が、変えるのだから。救うのだから。こんな所で、彼らになんて。 小さく呟き続ける相棒。それまで霧香と打ち合っていた剣人が、剣を下ろす。 「……もう良い。やめろ、伊月」 静かに近寄って。彼の服の中から、芥子の香炉を取り出した。 途端に薄くなる、匂い。がくり、足掻き続けていた青年の意識も失われる。 「もう、戦うつもりは無い。……斬るなら斬れ」 剣を仕舞う。黙って膝をつく姿に、リベリスタ達は言葉を失う。 「ま、素質はあるものね。二人ともアークにいらっしゃいな」 ふ、と表情を緩めて。ティアリアがひとつ、提案をする。 なんてったって『せんせい』だ。迷える子を導くのは自分の役目。そう悪戯に微笑む彼女に一瞬驚きの表情を浮かべるも、彼は首を振る。 今更だ。道は違えている。そう告げる剣人に、霧香が勢い良く反論した。 「そんな事ないよ。今からだって、その気があればできるよ」 目指した物をもう一度一緒に目指そう。そう、必死に訴える霧香に、青年は微かに笑う。 「……だから、お前は甘いと言った。だが、そうだな」 縁があれば、再び会う事もあるだろう。その時は。 そう告げて。青年は相棒を背負い、静かに立ち上がる。 リベリスタに後を追う気配は無い。ゆっくりと背を向けて、歩き出す。 「……また会いましょう」 「あたしは、待ってるよ」 イーゼリットが、霧香がその背に言葉を投げる。 それはもう、振り返る事無く。芥子の香りを纏う二人は、静かに明け始めた夜に消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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