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<鬼道邁進>黒い刃の昴


 蒜山の麓、古い平屋の日本家屋の奥の間にて、庵戸昂(イオト・スバル)は無言で眉を顰めた。
 もののけの気配が一層濃くなったのである。
 神棚へとお座なりに手を合わせ、そこに奉られていた宝剣を手にし、庭へと出て一喝する。
「世をかき乱す悪鬼めが! 彦五十狭芹彦命が子孫、庵戸昴が相手になろうぞ!」
 ――張り上げる声は、幼く高い。
 昴は、神秘のことをまるで知らない中学生である。
 祖父の死により天涯孤独となった、中学生である。


「鬼だ」
 机の上に書類を並べ、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は一言告げる。
 何を言いたいのかわかりにくいのは、いつものことだ。
「岡山で鬼が関わる事件が頻発していたが、それについて進展があったのは知ってるな?」
 リベリスタたちの表情を見回してうなずきながら、 伸暁は言葉を続けた。
「この間の事件で接触した『禍鬼』たちだが――あいつらの目的はどうやら、鬼の王『温羅』の復活らしい。
 鬼たち自体、強敵だ。だがその王ともなれば、唯のアザーバイドじゃすまないかもな」
 言葉は軽いものだが、その端整な顔に浮かぶ表情は険しい。
「あいつらはずっと昔に封印されたらしいが……多分、日本の崩界が進んだせいだろうね。
 封印が緩んで復活し始めた、ってとこだろうさ。
 だが所詮は緩んだ程度、さっきの王様を含めて、ほとんどはまだ封印状態のようだ。
 ――理由はわかってる。封印のバックアップが機能している為だ」
 言いながら、一枚の書類を指し示す。
 伸暁が示したその書類には、岡山に存在する霊場、祭具、神器等がいくつかリストアップされていた。
「この状態ではキングを起こすことはできない、となれば――お前たちならどうする?」
「……バックアップを、壊す……」
「そういうこと」
 リベリスタの答えに、満足そうに頷いて伸暁はまた別の書類を取り出した。
 今度の書類は、少し厚みがある。
「今あいつらの中心にいる『禍鬼』は、リベリスタってのがどういうものか、よくわかってるみたいでね。
 白昼堂々いろいろやらかしてくるつもりみたいだ。その間にバックアップを壊しに行く、と。
 どっちも放って置くわけに行かないのが、リベリスタってもんだよな」
 ふう、とため息を吐いて伸暁が言葉を切る。
「何か今聞いておくべきオラクルはあるかい? 奴らのサルヴァトーレがアドヴェントすることはなんとしてでもフロム・ザ・クレイドル・トゥ・ザ・グレイブだ」
 ――どうやらさっきまでは説明の為に我慢してたらしい。


 ヤマト王権が彦五十狭芹彦命を遣わして、温羅を倒し吉備を平定したとして吉備津彦となったという。
 その吉備津彦命が亡くなった時、281歳だったと言われている――これが日本史の授業中であればただの神話、伝承であると笑い飛ばすこともできただろうが、リベリスタにはそうすることもできない。
 なんせ、ざっと300歳などという魔女でさえ三高平に顔を出しているのだから。
 それはさて置き。
 この『庵戸』という姓は、彼らの子孫だとされる一族に伝わるものなのである。
 はたして、庵戸昴はその名を継いで現代まで来た、末裔といえる存在なのだ。
 その手にした宝剣は、代々伝わる物であった。そう、アーティファクトだ。
 物質は切らず、しかして神秘に属するものだけを切る。
 血縁者にしか扱うことの出来ぬ剣であったが、もののけ――エリューションの気配を感じ取ることの出来る力を所有者に与えることができた。
 今までは、祖父が――父は十数年前にふらりと行方をくらませたままだ――その剣を用いてもののけを切り裂いた。だがその祖父が亡くなった今、昴にしかその剣を使えるものは居なかったのだ。
 祖父を真似て口上を上げても、震える腕は隠せない。
「キシシ……ッ! 勇ましいなあ、ボーズ!
 あんまり勇ましいから、おいちゃん、びっくりしてびっくりして、ボーズをたべっちまいそうじゃ!」
 人の装束を身に纏っていても、その塗ったように青い顔は人にはありえないものだ。
 どこから調達したものか、ニット帽に赤いパーカーというその服装はカジュアルとしか言い様がない。
 だが、そのニット帽を突き破らんとしているのは、肌と同じ色のツノだ。
 ――青鬼。
 昴は、嫌な汗が背中を伝っていることを自覚する。
 目の前の鬼をそのまま矮小にしたような小鬼が、同じようにキシキシと笑って昴を取り囲む。
 赤、黒、白の3体。
「まあ、おいちゃんにはな、ボーズのことはどうでもええんよ。
 その剣、そうそうそいつをな、ちょいとこっちに渡しちょくりゃええんじゃ。
 したらおいちゃん、そいつをぽきって折っちゃるけえね。
 わざわざボーズ一人殺したとこでな、たいしたことあらんのよ。
 もっとでーれぇことせんといけんけ、ここいらで時間使いすぎるわけにもいかんけぇね。
 あれじゃ、武士の情け? そういうやつじゃの」
 気楽に言いながら、ほれ、と言って手を伸ばす。
 昴は思わず、宝剣を強く自分の方に抱き寄せ、引きぬいた。
 昼の光をぎらりと反射する黒刃に、青鬼は目を細める。
「……難儀なもんじゃのぉ。しゃーねぇがー、ボーズ、そのままじっとしちょれ。
 ボーズごとその剣、へし折ってくれるけえの!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月02日(金)23:55
ももんがです。
似非岡山弁には目をつぶっておくんなまし。

●成功条件
宝剣破壊の阻止

●場所
過疎が進む田舎町の、更に少し郊外。
人通りがないわけではありませんが、近所に住むのは皆顔見知り、という環境です。
庭は広く、戦闘に支障はないでしょう。

●庵戸昴
中学生です。
ジーニアスとして革醒はしていますが、機会に恵まれず、神秘のことを何も知りません。
ただ祖父が時折エリューションを退治するのを見ていた程度です。

●宝剣
封印のバックアップのうちのひとつです。
刃は非常によく研がれた黒曜石にも見えます。
所有者に幻想殺しの技を付与します。
神秘に属する物を切れますが、物理ダメージを与えることはできません。

●青鬼
服を揃えてコーディネートしてみたり、会話などを楽しむ傾向がありますが、ただの趣味です。
会話はできますが、やはり鬼の倫理であり、人の基準で説得はできないと考えてください。
状態異常からの回復がとても早いです。

がちなぐり
たこなぐり
ぶんまわし
かみなりだいこ

●小鬼×3
赤・黒・白。幼稚園児ぐらいの大きさですが、成体です。
それぞれナイトクリーク・マグメイガス・ホーリーメイガス初級相当の技を使用します。


OPの、最後の鬼の一喝のタイミングで乱入することができます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
デュランダル
鯨塚 モヨタ(BNE000872)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
インヤンマスター
環 澪(BNE003163)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
覇界闘士
翡翠 夜鷹(BNE003316)


「……難儀なもんじゃのぉ。しゃーねぇがー、ボーズ、そのままじっとしちょれ。
 ボーズごとその剣、へし折ってくれるけえの!」
 言葉と共に振るわれた拳は、余りにも早く、余りにも強大だった。
 実力が違いすぎると、体の全細胞が理解してしまう。
 その破滅的な破壊力を受ければ、宝剣は未だしも、自分の脆い身体なんか一撃で砕け散る。
 そして、あの拳より速く動く事なんて、自分には無理。絶対に避けられない。
 ――負けたくは無い。負けるわけには行かない。
 なのにその一瞬、昴の脳裏に浮かんだのは絶望ばかりで。

 だからその拳を、疾風の如く現れた褐色の影が受け止めた時。
 昴の思考を埋めたのはただただ驚きと混乱だった。

「ケガしてない? 犬でも猿でも雉でもないけど、鬼退治、すけだちするね!」
「……え? な、何だお前ら!?」
 今だ状況がつかめない昴に『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)は、傷の痛みを押してにこりと笑いかける。
「彼の命も宝剣も鬼にくれてやる訳にはいかない。変身!」
 更に続いて現れたのは強襲型戦闘服に包まれた『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)の背。滑らかなその構えは、昴の目から見ても練達の技を思わせる。
「キギッ!?」
 更に闖入者に眉根を寄せた白い小鬼が悲鳴を上げて飛び退いた。
「あの剣を壊したいなら、俺たちを倒してからだ」
 現れたのは片眼鏡の男、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)。避け切れなかった白い小鬼の脇腹を切り裂いたのは、彼の放った鋭い蹴撃が発生させた真空波だ。
「だいじょぶか? こんなカッコしてるけどオイラたちは敵じゃない、おまえを助けに来たんだ!」
 ついで駆けつけたのは機械の半身を持つ少年。
 誘導しようと手招きをするその姿にメタルフレームと言う存在を知らない昴は目を瞬くが、それを承知の上で掛けられた『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)の言葉に少し戸惑いながらも歩み寄ろうとする。
 勿論それを放置する鬼達ではない、赤い小鬼が追いすがろうと身を屈め、しかし突然投げつけられた一本の煙草にビクリとその身を留める。
「大事な剣と受け継がれる意志、どちらも折らせはしないわよ」
 落ちた煙草のたなびく煙の向こう、白衣の女性が呪符を構えた。
『探究者』環 澪(BNE003163)の眠たげな目の奥には、見目と違い冷静な決意が光っている。
「こりゃあ参ったのう。もうちぃと急ぐべきじゃったか」
 次々駆けつける『敵』に青鬼が大げさに溜息を吐く。
「最近の鬼さんはなかなかカジュアルね……でもそのセンスは、ちょっと女の子にはウケないかも」
 挑発するような言葉と共に十字の加護が現れ、仲間達の身体を守護する。
 口にしたのは『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)だ。
 だが青鬼の目が見ているのは十字ではなく、その豊かな胸。あまつさえピューと口笛を吹く。
「ほな、ねーちゃんにはウケよんかの? だったらおいちゃんそれで充分満足じゃが」
 言外に女の子ではないと言われた由利子が、あらと呟く。

 そんな様子を見て、昴は気付いた。
 どうやら自分は助かったらしい事に。
 それと、もう一つ。


「剣を折るなんて絶対にさせないし、昴だって守るんだから!」
 言葉と共に放たれる真独楽の流れるような連続攻撃に、白い小鬼が小さく悲鳴を上げて転げ回る。それほどまでに全霊で回避しようとも、いくらかはその身を掠める。
「白、わっしらの事はええけぇ粘っちょれ。
 ……しっかしやっぱ来たのうにーちゃんら。よう嗅ぎ付けよんなあ? よっぽど優秀な巫覡がおるんか」
 前半は小鬼への指示、後半は己の前に立ち塞がる疾風への言葉。
 青鬼はこの期に及んでもなお、軽口を仕舞わない。
 だが、疾風の返答は火炎を纏った拳、そしてにべもない言葉。
「鬼の戯言に付き合う気は無い。それとも口先だけ達者なのか?」
 焼け焦げた脇腹の痛みに眉をしかめつつ、青鬼は大きく肩をすくめて見せる。
「その剣、大事に持ってなよ」
 癒しの吐息を吐き自らの傷を癒す白い小鬼。その鬼に向かって絶対零度の拳を振るいながら、クルトは昴を振り返りそんな一言を贈る。
 多くの言葉は要らない。それよりもただ己達の戦いを見せる事で、何かを感じて貰えればと。
「こういうのを倒すにゃこうすりゃいいんだ、しっかり見ててくれよ!」
 愛用のプロミネンサーブレードに電雷を纏わせたモヨタの言葉は、もう少しストレートだった。
「ま、お姉さん達は正義の味方といったところかしら。後は私達に任せて、坊やはそこで見てなさい」
 戦場の中を符が舞い、生み出された力場がリベリスタ達の防御を寄り堅固にする。
 ――澪の展開した守護の結界だ。
「ボーズ、気持ちは分かるが今のお前じゃ勝てない。それは分かってるんだろう?」
 ずいと昴の前に立つ新しい人影。金の髪、緑の瞳、纏う西洋甲冑が、彼が鬼に関わる者では無いとこれ以上なく如実に示していた。
 最初に強結界を展開したツァイン・ウォーレス(BNE001520)が追いついたのだ。
「その剣を壊されない様にしっかり守るのがお前の役目だ。分かったか?」
 にやりと笑ってそう言いながら、全身のエネルギーを何やら収束させているのが昴にも見て取れた。
 一体どんな効果までは、昴には分からなかったが。
「じゃあ……おっ始めようぜぇ!!」
 ツァインの叫びが、覇気が、その自信のほどを喧伝している。
「さあ皆……未来の後輩に、格好いい所見せてあげてね!」
 由利子が、そう仲間達を激励する。

 その言葉通り昴の見るリベリスタ達の姿は、正に神秘に纏わる戦いの専門家と言えた。
 昴が今の道を志すなら、目指すべきは先ず、そこだ。
 その姿に羨望を覚える。
 だが、かけられた言葉には正直悔しさと反発を感じた。
 さっき気付いた事を。再認識させられるから。
 彼らは――否、彼らにそんなつもりはないかもしれない。だけどこの状況は、現実は、間違いなく。
『お前では祖父の代わりには役者不足だ』
 と、そう言っているのだ。
 そしてそれは――間違いなく、事実。
 指示には大人しく従った昴だが、その顔は俯き、噛み締めた唇から僅かに血が滲んでいた。

「燃えろ……」
『みにくいながれぼし』翡翠 夜鷹(BNE003316)は赤い小鬼の前に立ち塞がり、その視界を防ぐように美しい翡翠の翼を広げ、赤い小鬼にトンファーを振るう。
 業炎を纏ったその一撃は宣言通り、赤いその肌を更に赤く焼いた。
 赤い小鬼は苦しそうに呻くものの、積極的には動こうとしない。
 術士だからだろうか?クルトに継続し続ける癒しの力を振り撒きながら、由利子は一瞬だけそう考え――すぐに違うと気付いた。
 違和感の正体。
 赤鬼はまだしも、ナイトクリークに似た力を持つはずの赤鬼、そして頭抜けて強力なはずの青鬼。
 この2体の攻撃が、遅すぎる。
 青鬼は勿論だが、小鬼達も見目に反して成体だ。
 ――つまり今相対しているアザーバイド達は皆、相応に知恵が回る。
 敵を見、機を見、判断と指示を待てる程度に。
「先ずはパツキンのにーちゃんじゃ。赤、黒、合わせえ」
 青鬼の言葉と同時、赤い小鬼の手から放たれツァインの身体に突き刺さったその木片。
 ――それに描かれているのは、破滅を予告する傾いた服装の鬼。
「がはっ!?」
「ギヒヒッ!」
 その身を不吉の力に浸食され苦しむツァインに、青鬼の『本気の拳』が叩き付けられ、黒い小鬼の笑い声と共に、その身を更に四色の呪いが次々と覆う。
「ぐ……う……すげぇな、それが鬼の力か! でもよぉ……倒すぜッ?」
 ツァインの言葉は頼もしかったが、血を流し肌を黒ずませ不吉と痺れに縛られるその姿が、どうしようもなく言葉を裏切っていた。


「悪いなぁ。にーちゃん美形なもんやさけ、おいちゃんちぃとやっかんでもうたわ」
 カカカと笑う青鬼の目の前には、倒れ伏したツァイン。
 対して己を癒し続けている白い小鬼は今だ倒れていない。
 由利子が唇を噛んだ。ツァインが傷付いた際は昴の庇い役を交代する約束で、事実そうした。
 だがその上で鬼達は後衛に下がりはしなかったツァインへの攻撃を継続したのだ。
 だからと言って昴の守りを外す訳には行かず、回復手段が澪の符だけになれば――こうなるのは当然の結果だった。
「次邪魔なんは、そっちのイケメンかいの?」
 ニット帽の下の目が、ぎょろりと疾風を見やる。
 とっさに真独楽が、モヨタがその視界に飛び込む。
「昴よりちっちゃいまこなんか、まさかコワくなんかないよね?
 コドモだってナメてたら知らないよ。二度と忘れられなくしちゃうんだから!」
「鬼さんこーちらっ♪ 悪い鬼はとっとと退治されちまいな!」
 ぶつけるは挑発の言葉――抑え役である疾風を落とされる事は、昴を守る為には出切るだけ避けたいのだ。例えそのために、幼い身を危険にさらそうとも。
「怖がっちゃおえんのか、舐めちゃおえんのか、どっちなん?」
 だが青鬼はポリポリと帽子越しに頭を掻き。
「悪いけどなあ。おいちゃん達悪い鬼じゃけぇ、退治されんよう全力で悪あがきせんといけんのよ」
 ニタリと笑うと、破壊的なオーラを纏った両の拳を次々と疾風に振り下ろす。
 振り下ろす。振り下ろす。振り下ろして振り下ろして振り下ろして振り下ろして振り下ろす。
 間断なく次々と振り下ろす、それはまるで拳の霰。
「ぐっ……うぐぐ……!」
 強烈な攻撃には防御に専念する心算だった疾風だが、行動を揃える為に常にワンテンポ遅らせて動く青鬼の攻撃には、後の先を通す事は難しい。
 その威力の奔流に成す術もなく圧倒され、続く赤鬼の呪い札と黒鬼の邪術を身に受けてよろめく。
「次は急いでヤるぞ。おっぱいねーちゃんの方は胸重いんかして遅えけ、上手く行きゃー決めれる」
 セクハラを交え、しかしその指示は的確。
 治療を挟ませず疾風を追い詰めると言うその宣言に、リベリスタ達が一様に顔をしかめる。
 ――だが、リベリスタ達にも策はある。

「代わろう。……さぁ、しばらくは俺が相手だ。」
 疾風が倒れる前に、クルトが位置を変わり、青鬼を通すまいと立ち塞がる。
「ずっと思ってたが。似合ってないぞ、その服」
 安い挑発だと、彼自身分かっている。飄々としつつも、3体の部下に指示を投げるこの青鬼はこの程度の言葉には乗るまい。だが、本心でもあった。
 人の服装をしても鬼はしょせん鬼なのだと見下すその顔にか、振るわれた足技の鋭さにか――あるいは狙いを定めた獲物が離れてしまった事にか。青鬼がはじめて顔を顰めた。
「ギギャー!?」
 そしてダメ押しのように上がる、小鬼の悲鳴。
「よっしゃあ!」
「ナメてたら知らないよって言ったでしょ!」
 子供達の快哉の声、そして天より降る冷結の雨。
 真独楽とモヨタの連撃が、ついに白い小鬼の強靭な肉体と癒しの力を押し切ったのだ。
「……ギッ……」
 夜鷹の攻撃を一方的に受け続けた赤い小鬼の傷も、浅いながらそろそろ無視し切れない程度になっている。倒れた仲間の姿に気が弱ったか、牙をぞろりと備えた口の端から苦痛の声が漏れた。
「この程度か? ……フン、弱いな」
 夜鷹の言葉は冷たい。
 だが、反面その身は鬼に拳を叩き付けるごとに熱を帯び、彼のボルテージを上げ続けている。
「酷い傷ね。向こうに回復手はいなくなったことだし、最後の止めくらいは昴君にやらせてあげたかったんだけど……これは流石に危険過ぎるか……」
 少し残念そうに呟きながら澪が治癒の符を疾風に貼る。
 青鬼が一つ溜息を吐いた。
「――こっからは潰し合いかの。……気にいっちょるんじゃがの、この服」
 その言葉通り、そこからは消耗戦。
 アーティファクトですらない市販の服などあっという間にズタボロになるほどの、死闘である。


 真独楽のクローが黒い肌に死の刻印を刻み、よろめいた所に強引に踏み込んだモヨタが更に強烈な打ち込みを振るう。黒い小鬼は必死にかわそうとするが親しいが故の2人の連携をどうしてもいなせず、やがて力なくその場に倒れ伏した。
 癒しを受けて復帰した疾風とクルトは交互に青鬼の抑えをこなす。
 ――途中、倒れる直前の黒い小鬼の術と青鬼の拳の乱打に、クルトの膝が折れるかとも思われた。
「くくっ……悪いなぁ、まだ倒れてやれんよ」
 しかし封印も命も守り、戦い倒れぬ背中を見せると決めた彼は、運命を燃やし己の限界を否定する。
 疾風が粘る中、澪の符がその身を続けて癒し続ければ、やがてその傷を持ち直す。
「甘いな」
 回復が多くを一斉に癒すのに向いている事を見て取った青鬼は、この局面に置いてもなお一人ずつを狙う戦略を継続した為、夜鷹は未だに無傷のままの翼をひらめかせ拳を振るっている。赤い小鬼はその身のこなしで直撃を避けるが、その蓄積はやがて大きなものとなり、ついにその身を焼かれて崩れ落ちた。
「……本当に参った。『お前等』は、封印される前より弱なってるて思ってたんじゃがなあ」
 1人残された青鬼がリベリスタを見回す。
「剣も、昴の未来も、まこの心も……ゼッタイに折らせない!」
 真独楽は両腕のクローを交差させる。
 疾風が、クルトが、流れる川の水が如き構えを取る。
「おまえのじーちゃんも、こんな風に鬼と戦ってたのかもな?」
 モヨタが昴に声をかけ、由利子に庇われた昴は俯きながらも、戦いから目を逸らさず見つめている。
「折角の宝剣を、鬼達の汚い手なんかで穢させる訳にはいかないわ」
 符を構える澪はあくまでも冷静。夜鷹は翼を羽ばたかせ青鬼に特攻突撃の構えだ。
 ――完成された布陣。
 青鬼自身にはまだまだ余裕がある。その拳の威力も強力無比だ。
 だが、これまでリベリスタ達の戦力を、動きを冷静に見続け作戦を練った彼だからこそわかる。
 自分1人で勝てるほど彼らは温くない。
 ならば抜けて逃げるか、それも無理だ。そもそも、部下3鬼と連携しても突破できないと判断したからこそ、彼は昴の手の中にある宝剣を一旦諦めたのだから。
「まー、しゃーない。せめて最後は派手に行くけぇ、そっちも覚悟しちょりぃよ!」
 妙に透明な、からりとした笑い拳を振り上げた青鬼に、リベリスタ達の猛攻が一斉に始まる。
 鬼は、その身を砕け散らす最後の瞬間まで、楽しげに笑っていた。
 それはいっそ親しげであると同時に、暴力を振るう事その者を楽しむ者特有の、凶暴な笑顔で。

 その一部始終を見ていた昴は、思わずぎゅっと手の中の宝剣を抱き締めた。

「かつて鬼の王を倒した英雄の子孫だなんて、面白いわね。
 尤も、私としては宝剣の方も興味深いけど」
 新しい煙草を取り出して縁側に座り、澪がそう切り出す。
「行く宛てが無いなら一緒にどうかしら。ずっと一人でいるより良いと思うわよ。
 それに研究対象としても申し分無いし」
「……研究対象ですか? 解剖されたりするんですか!?」
 変な方向に妄想が走った昴が、慌てて自分の肩を抱く。
「ふむ、どうせナンパされるなら若い娘の方が良かったかしら」
「否定してくださいよ!?」
 煙草を吸いながらちょっと意地悪そうに笑う、澪。
「貴方が勇気を以って鬼の前に立った事はちゃんと解っているわ。
 でもその力は、これから磨かれていくものなの……その剣の様にね。
 望むなら、私たちアークは幾らでも貴方に協力出来ると思う」
 由利子もまた縁側に腰掛けて、昴に語りかけた。
「……なってみる? 正義の味方」
「アークに来ないか? 神秘界隈の事は知る事も出来るし」
 もっともアークのリベリスタが戦う相手は鬼だけじゃないけどね、と由利子に続けて畳み掛けた疾風が一言付け足す。

 鬼の話を、その宝剣の意味を昴が知ったのは、一息付くことができてからのことだ。
 いくらか荒れてしまった庭に少し気落ちした表情を浮かべながら、昴はなんとか笑顔を作ってみせた。
「――今はまだ、どうしたらいいか、わかりません。
 父がいなくなったのも、もしかしたら、そういう何かと戦いに行ったから――かもしれないんですよね?」
 言葉を選びながら、ぽつり、ぽつりと続ける。
「普通の人生は送れないかもしれない、んですよね……。
 そっか……」
 昴は深くため息を付いて、空を見上げ。

「もう少し、考えさせてください。
 今はまだ、吹っ切れない――なりたかったなあ、フツーのお嫁さん……」

「なれるよ、昴なら!」
「えっ?」
「えっ」

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
宝剣の破壊を阻止しました。成功です、お疲れ様でした。

青鬼の服装、ダサかったですね……(´・ω・`)