●瀬戸大橋を眺める鬼 岡山県倉敷市。 そこには、瀬戸内海の上を走る長い長い建造物があった。 対岸の香川県まで届くその橋は、瀬戸大橋と名付けられている。 橋からそう離れていない場所にある神社から、そこを眺める者たちがいた。 打掛を身に着けた1人の女性を囲む、10をゆうに超える数の鬼。 神秘の住人である彼らだが、白昼堂々姿を隠してさえいない。 誰かに見られたならば大騒ぎになるだろうが……アザーバイドたる鬼たちはそんなことに頓着していなかった。 「おい、猫目よ。この神社を壊しに来たのではないのか?」 背の高い、欠けた角を持つ鬼が女性に問いかける。 下津井の祇園神社を訪れ、力任せに社を襲おうとしたときに、女が止めたのだ。 「単細胞のお前らにはわからんか。私はここに来た時点で確信したぞ。復活したばかりとは言え、私のように少しは人どものことを学んでもいいだろうに」 女が鬼たちに呆れた声を出す。 「ここを含めて、海難避けを祈願する社は数多ある。……その集大成があの橋よ」 白く細い指が橋を指す。ただ、爪だけは奇妙に長く、鋭い。 「あれだけの橋を作るのにどれほどの人と時が費やされたか。あの橋は瀬戸の海の難より人を守る象徴。牛頭天王を始め、多くの神々の力が集まっている」 「……よくわからんが、そういうものか」 「そういうものだ」 「さすが、お前は知恵者だなあ」 欠け角の鬼が感心する。 「それに、あれは『鬼が島』のあるこの地へと渡る道でもある。御伽噺で吉備津彦めは海の上を渡ったそうだからな……2つの意味で、封印を弱める効果があろう」 猫目の指が、節くれだった醜い鬼の爪へと変わっていく。 彼女の背後では太陽が中天にさしかかる。 「そろそろ行こう。猫目と欠け角、夫婦鬼の力を見せてやろうぞ!」 鬼女の姿を現して、彼女は瀬戸内の海を駆ける。 欠け角がすぐに横に並び、他の鬼もあわててその背中を追い始めた。 ●ブリーフィング 岡山で鬼事件が頻発している。 リベリスタたちに配られた資料にはそう書いてあった。 「先日、『禍鬼』と呼ばれる鬼と接触した報告書を見た方も多いと思います。報告によれば、鬼たちはどうやら共通の目的を持って動き出そうとしているようなんです」 仮面のように表情を変えずに『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE000222)は言った。 「彼らの目的は、鬼の王である『温羅』の復活です。鬼は、対処不能ではないものの強敵です。その王ともなれば非常に大きな脅威になることでしょう」 鬼たちの復活は、先日のジャック・ザ・リッパー事件で崩界が進んだことによる影響が現れたと考えられている。 ただし『温羅』を含めて鬼の大部分はまだ封印状態にある。 岡山県内にある霊場や祭具、神器などが鬼を閉じ込めるバックアップとして機能しているからだ。 「今回、蘇った鬼たちをまとめて戦力を編成した『禍鬼』が動き出すのを、万華システムが感知しました。白昼の街中に鬼を放って、大惨事を引き起こそうとしています」 鬼たちが勢力を拡大することも、そのために惨事を起こすことも看過はできなかった。 「皆さんには瀬戸大橋を守護していただきます」 橋自体は封印ではない。ただし鬼は、橋を壊すことによって、瀬戸内海沿岸部にある封印をまとめて弱体化させることができるらしいのだ。 ちなみに破壊する方法は一言で言って力任せ。鬼の筋力で破壊するのだ。 「計画を立てたのは猫目と呼ばれる鬼です」 鬼たちの中では知恵者だという女鬼らしい。 夫である欠け角の鬼と共に、瀬戸大橋を襲撃するつもりのようだ。 橋の前に敵は下津井にある祇園神社を訪れるが、残念ながらそこに向かっても間に合わないようだ。 「瀬戸大橋を襲う鬼の数は15体です。ただ、すべて倒す必要はありません」 過半数を撃破すれば橋を壊すための戦力が足りなくなるだろうと虹乃は予測する。 「最大の敵は、猫目と欠け角でしょう」 猫目は動きが早い上に、怪しげな術も使う。 毒の雨を降らせたり、結界を張って動きを鈍らせる技を使ってくるらしい。 欠け角は瘴気を操る能力を持っており、遠近にそれを活用して攻撃してくる。 おそらくは彼ら2人でここに集まったリベリスタ全員と渡り合うことも不可能ではない。 倒すことを目指すより抑えに徹しておくのが利口だろう。 残る鬼たちの中には、欠け角には劣るものの瘴気を使う鬼が3体いる。 残る10体はただの力自慢である。もっとも、精鋭のデュランダルに匹敵するその攻撃力は、決して甘く見ることはできない。 「彼らは水上歩行の能力で橋へと近づいてきます。昼間ですから、橋を通る車や列車は確実にあるでしょう。一般人を守りつつ、鬼たちを撃退してください」 虹乃は手にしていた資料を机に置く。 「敵は非常に強力です。厳しい戦いになりますが、がんばってください」 リベリスタたちを見回して、彼女は言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● その日、瀬戸内海は波も静かだった。 鬼の襲撃に対応するべく多くのリベリスタが今、岡山に入っている。 1チームが瀬戸大橋で活動をしていた。 「瀬戸大橋は壊したらいけないと思うのよ……」 『重金属姫』雲野杏(BNE000582)は、直感的にそう感じた。 広島から上京した彼女にとっては、岡山も身近な場所なのかもしれない。 「瀬戸内海の景観は山の上や上空から見ると良く分かるのだけれど」 移動中、仲間たちへ向けて杏は語った。 「こう、海の中に島が点在していて、その島には少しの建物が建っていて、海には船が出ていて、そういう自然が多い中に人々の営みが垣間見えるのがとても好きなのよね」 特に、中国地方側から見る瀬戸内海が、太陽に照らされて白く光り輝く海に島が浮いているのはもはや神々しいとさえ言える。 「ん……上手くいえないけれど、そんな瀬戸内海に人々の営みを強く映し出すあの橋は壊しちゃダメ」 「そうですね……瀬戸大橋は関西の名所の中でも多く人に愛されている場所の一つ。その破壊は断固阻止せねばなりませんね」 穏やかに頷いたのは、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)だ。 「ええ、僕も資料を閲覧していて思いました」 源カイ(BNE000446)が同意する。 これが長い年月を掛けて築き上げられるまでに、どれだけの多くの人々の想いが込められた事か……。 「それを打ち砕く事なんて、させませんよ絶対に」 「こんなモノ壊されては封印云々はさて置いても事後処理が大変です。キッチリ撃退すると致しましょう」 眼鏡をかけ直し、ワイシャツの腕をまくりあげるのは、『静かなる鉄腕』鬼ヶ島正道(BNE000681)だ。 機械と化した右腕を軽く握り、彼は調子を確かめる。 橋が見えてきた。 「瀬戸大橋破壊とは、随分大それた事考えたわねえ。もちろん、そんなことさせないわよ」 「橋を壊すって特撮怪獣かよ。一般人と橋には指一本触らせないぜ」 『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)の言葉に、『輝く蜜色の毛並』虎牙緑(BNE002333)が不敵な表情だ。 近づいてくるはずの鬼たちを探し、海上をリベリスタたちは警戒する。 「まったく面倒な、鬼なら陰らしく潜んでいれば良いものを。うじうじ陰気を振りまいては格を落とすぞ?」 表情も少なくそう言ったのは、まるで小学生にも見える少女。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は、幼い容姿に似合わず皮肉げな口調だ。 橋にたどり着いたリベリスタたちは、まず2手に分かれる。 「それじゃ、私たちは橋げたに降りるわ。宵咲さんと雲野さんは橋の上をお願いね」 来栖・小夜香(BNE000038)が杏や『運命狂』宵咲氷璃(BNE002401)に声をかける。 2人は橋の通行を止めるための工作をしてから、鬼たちの戦いに向かう予定だ。 氷璃は橋げたの真上に向かう仲間たちを見送った。 (鬼の王『温羅』、最も危険な存在――ミラーミスかしら?) 崩界そのものを防ぐ最善の手段は最悪の存在を倒す事だ。氷璃の目的のためには封印を解く必要がある。 「けれど、我が物顔で暴れ回る鬼達を見過ごす訳には行かないわね」 一言呟き、ゴスロリの背中から白い翼を広げる。 橋を支える柱上にある風速計を目指して氷璃と杏は飛翔する。 強結界を張ってはいるが、その範囲に収まりきるような長さの橋ではないからだ。 その頃、カイの千里眼が近づいてくる鬼たちを捕らえた。 「来ましたね。食らうだけなのであれば、わざわざ人の姿を模す必要も無いと思うのですが……」 両腕が鬼と化した女性を見つけて、『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が眉をしかめる。 「敵の意図を考えるのは後でいい。今ボクたちがすることは彼らを止めることだ」 巫女装束の『鋼鉄の戦巫女』村上真琴(BNE002654)はアクセス・ファンタズムから盾を取り出して構える。 「そうだ、人を困らせるのが鬼なんだろうが、困らせる子にはおしおきせねばならない! 桃太郎の如く、退治してやるぜ!」 気合を入れる、『合縁奇縁』結城竜一(BNE000210)。 「……しかし、フライエンジェ多いな、雉ばっかで鬼倒せんのか……? サルと犬どこー?」 喋ったら残念と評判の彼は、仲間たちを見回して余計なことを言う。とはいえ、別行動中の2人を含めれば、今回集まったリベリスタの半数がそうであるのは事実だ。 「虎でよけりゃ、ここにいるけどな」 牙緑が笑う。牙が、八重歯のように口元から覗いていた。 ● 15体の鬼たちが橋げたに接近してくる。 リベリスタたちは敵が2手に分かれることも警戒していたが、その心配はなかった。 敵がまず狙っているのは本州側にもっとも近い下津井瀬戸大橋のようだった。橋を吊る主塔のうち、本州側にある塔へと向かってくる。 ティアリアは凛子の4WDから降りた。 塔と塔の間は1km近くもあるため、必要なら車で移動できるように準備していたが、その備えは幸いと言うべきか杞憂に終わったようだ。 「では皆さん、生きて帰りましょう」 凛子が皆に小さな翼を与える。 「もちろん。わたくしはこんなところで死ぬつもりはまったくないわ」 体内に魔力を循環させつつティアリアはスカートを抑えて落下する。 着水する寸前、彼女は翼の魔力でその身を浮かせた。仲間たちも同じようにしている。 「行ってきて。わたくしが力を貸すのだから、存分に危険を冒してもらうわよ」 強敵に向かっていく仲間たちのうち、彼女はまずカイにオーラの鎧を与えた。 「ありがとうございます。できる限りがんばりますよ」 水面に写るカイの影が動き出していた。イスタルテと共に、猫目の鬼に彼は立ちはだかるべく彼は前進する。 牙緑はユーヌと共に欠け角を狙っていた。 リベリスタたちの姿を見て、猫目は遠距離攻撃が可能な鬼に距離を開けて止まらせたのだ。 ただ、狙いはあくまで橋のようで、力自慢の鬼たちはそのまま前進してきた。そちらは橋の土台にいる仲間たちに任せて、牙緑は敵と入れ替わるようにして欠け角と対峙する。 牙のような形をしたアクセス・ファンタズムから、彼はすでに重く巨大な剣を取り出していた。 「勇ましい姿よな。我々を止めるつもりか?」 「そんじゃまあ1つ、俺たちの力を教えてやるとしようか」 欠け角の体が瘴気の鎧をまとう。 猫目が指先を天に向けると戦場に毒の雨が降り注いできた。 牙緑は強引に間合いに踏み込み、強烈な一撃を欠け角に打ち込もうとする。 一撃目は、かわされた。 ユーヌがもたらす不吉の影もかすめただけだ。 反撃の爪が毒に侵された牙緑の体をえぐる。 「お前らはこれ以上近づけさせないぜ。死んでも、橋には触らせない!」 裂帛の気合を込め、彼はもう一歩踏み込んでいた。 刃が瘴気を切り裂いた。 「呆気ないな、随分と見かけ倒しな鎧だな? 虚仮威しか?」 「……殺す!」 ユーヌが挑発する。鬼の視線に殺意がこもる。 怒気を、牙緑は正面から受け止めた。 杏は橋に設置されている風力計へ、手にしたギターを振り下ろす。 所詮はただの機械だ。リベリスタとしてはさして力が強い杏ではないが、簡単に壊れてくれた。 氷璃も魔法の矢で計器類を壊している。 瀬戸大橋の破壊を防ぐために機器を壊すのも本末転倒かもしれないが、橋自体が粉砕されるのに比べればずいぶんとマシなはずだ。 「こんなもの壊したら瀬戸内海の生態系に大きな影響が出るかもしれないじゃない! もういやよ! 赤潮で牡蠣がだめになったり小鰯が獲れなくなったりするし、何より見た目が悪いから駄目よ!」 広島に住んでいた時代の経験なのか。 計器類を破壊した2人は、そのまま戦場へと落下していく。 欠け角の視界から外れられる場所を探したが、海上ではそんな障害物はろくにない。唯一橋げたが視線をさえぎる役には立つが、そこに隠れると杏自身も攻撃ができなくなってしまう。 氷璃は戦場にたどりつくと、すぐに複数の魔法陣を展開して自らの魔力を増大させる。 杏は間を置かなかった。 「兎に角、絶対にこの橋の破壊は阻止しなくちゃ」 楽器を奏でて、一条の雷を呼ぶ。 拡散していく雷は鬼たちを巻き込んでいった。 真琴は猫目の結界に絡め取られる。 1人だけではない。結界の展開速度は速く、リベリスタの誰もが避けることはできなかった。 動きを遅らされた隙に、半数ほどの鬼たちが接近してきた。止める暇はない。 薙ぎ払われた爪が、痛烈な一撃を与えてくる。 防御に集中したエネルギーが、そして十字の加護が、爪の一撃で打ち砕かれていた。 「瀬戸大橋には、近づけさせない!」 竜一が近づいてきた鬼の1体へと刀を叩きつけ、弾き飛ばす。 正道はまだ近づいていない鬼を気糸の罠で縛り上げていた。 「ボクも、このくらいでやられるものか!」 盾を大上段に構え、真琴は鬼へと振り下ろす。 直撃した攻撃で、敵は目を回した。 ユーヌは牙緑と共に欠け角の周囲を飛びまわる。 単細胞な欠け角であったが、猫目のほうがうまく手綱を取っているようだった。 式神を用いても怒らせられない相手を、言葉で挑発するのは簡単なことではなかった。 イスタルテが輝きを放ち、低下させられた速度や猛毒を癒してくれる。 代わりに、欠け角の周囲にいた鬼たちが、瘴気弾でユーヌを狙い始めた。 全力で守りに集中し、ユーヌは直撃を受けずにしのぎきる。 「鬼さんこちら、手の鳴る方へ。童心を思い返して楽しいな? まぁ、私を捕まえて良いのは一人だけだが」 淡々と告げる少女に鬼たちがさらにいきりたつ。 「馬鹿ども、挑発に乗るな!」 カイが生み出した黒いオーラを回避し、猫目が怒鳴りつける。 いつまでも時間を稼げるほど甘い相手ではないらしい。鬼たちは狙いを変えていた。 「ならば、今度は凍り付いてもらうとするか」 術手袋に貼り付けたフィルムディスプレイが護符を投影する。 冷たい雨が、戦場に降り始めた。 小夜香は凛子やティアリアと声をかけあい、鬼たちの攻撃を受けた仲間を癒していた。 鬼たちの攻撃力は非常に高かったが、どうにか持ちこたえている。 ただ、欠け角の瘴気攻撃を受けると回復が阻害される。だんだんと追い詰められているのは事実だ。 猫目が再び結界を張った。 漆黒の弾丸が小夜香に連続して命中する。 さらに、薙ぎ払う爪の一撃が、小夜香ごと仲間たちを切り裂いた。 「……ダメ、こんなところで倒れるわけには……!」 倒れそうになる体を支えてくれるのは、かつて護れなかったことへの後悔。 「福音よ、響け」 クロスを握り締めると、戦場に福音が響く。 まだまだ、倒れるわけにはいかなかった。 ● 氷璃は低空を飛びつつ、鬼たちに語りかける。 「橋を破壊して封印が弱体化するのは本当かしら? ハッキリ言って猫目の勘違いとしか思えないけれど――」 その言葉に、鬼たちは顔を見合わせた。 「たぶん本当じゃねえのか?」 「まあ、猫目の言うことだしなあ」 単細胞の鬼たちは、深く考えていなかったらしい。猫目の言うことだから信じているようだ。 「この橋に封印の力は無いわ。それだけは教えて上げる」 それは、最後通牒でもあった。 多重魔法陣が氷璃の周囲に展開し、黒き閃光が放たれる。 味方を巻き込まないよう、狙うのは竜一に吹き飛ばされたり、正道の罠にかかって動けない鬼だけだ。 3体の鬼が閃光に巻き込まれる。 堕天落としを受けた鬼たちが石へと変化し始める。 杏が好機を逃さず雷を放つ。 雷が直撃した1体がまず砕けた。 氷璃が次いで放った爆炎が残る2体も打ち砕いていた。 凛子は仲間たちに翼を付与しなおす。 戦いは長期戦となっていた。3人もホーリーメイガスがいなければ、とても持ちこたえられなかっただろう。 イスタルテが輝きを放つ。 回復を阻害する瘴気が輝きに吹き飛ばされる。 けれど、回復する前に仲間たちは鬼の攻撃を受けていた。 猫目の一閃が、そのイスタルテの体を連続で駆け抜け、追い込む。 橋げたのそばでは馬鹿力だけはある鬼たちが爪を振り下ろす。竜一やティアリアが力尽きかけていた。 運命の力が、ギリギリのところで仲間を立たせている。 「まだまだ行けますよ!」 高位存在に呼びかけた。激励の言葉と共に、癒しの息吹が仲間たちに吹き付ける。 「祝福よ、あれ」 小夜子やティアリアも凛子の回復では足りない者に回復を重ねていた。 正道は、目の前に近づいてきた鬼の解析を終えていた。 最善の動きで拳を繰り出し、追い詰めていく。 完全解析された敵にもはや生き延びる術はない。 1体の鬼が沈み、視界が開けた瞬間に正道は見た。 牙緑が瘴気を纏った爪の一撃を受けて、意識を失いかけたことを。 「……虎」 「大丈夫さ。抑え役が倒れるわけには行かないからな」 ユーヌの呼びかけに、牙緑はどうにか応えていた。癒しの符をユーヌが貼り付ける。 「いったん下がってくださいませ、牙緑さん!」 小さな翼で空を滑り、正道は欠け角の鬼に接近する。 移動しながら正道は気糸の罠を張っていた。 「僭越ながら、次は自分がお相手をさせていただきます」 角の先端が欠けた鬼は、魔爪で彼を迎え撃った。 カイは猫目にオーラの爆弾を仕掛ける。 「知恵者であるなら、何故人と共に歩む道を探さないのです?」 爆発。 猫目は直前に逃れたが、弱点をつく爆弾の威力は敵の体力を削っていた。 「妙なことを聞く。我々はお前たちにとって招かれざる客なのだろう。共にいられる道理がないではないか」 女性らしい面影のある体と釣り合わない、鬼の爪がカイを襲う。 耐え切れないことを、彼は一瞬覚悟するほどの威力だった。 「まだ海の藻屑とはなりませんよ」 温和で争いを好まないカイであったが、鬼たちとは戦うしかないのかもしれない。敵だと、そう決めてしまえば彼はためらいなく冷徹に敵を倒すことができるのも彼の特徴だった。 イスタルテは猫目と欠け角の距離を離そうとしていたが、なかなかうまくはいかない。 攻撃をかわすときは多少動くことにはなるが、それで10m以上引き離すのはさすがに無理がある。 ただし敵も、広域攻撃の射程内にリベリスタたちを収めようという意図があるのだろう。配下の鬼たちもイスタルテの攻撃範囲に常に収まっていた。 「回復ばかりしていても勝てませんからね」 厳然たる意思を込め、輝きを周囲へと放つ。 その光で鬼を倒すことはできないが、十分に弱らせれば止めは仲間が刺してくれるはずだ。 竜一の打刀と真琴の盾、そして氷璃の4つの魔光が橋げた近くの鬼を撃破した。 痛烈な一撃がイスタルテの体を走り抜けたのは、その直後のことだった。 背後から、更なる一撃が彼女を捕らえる。 翼から羽ばたく力が抜ける。 「人の事を学んでいる方もおられるようですが、何故こんな事を……」 「敵を調べるのは当然のことだ。お前たちもそうしているのではないか?」 口をついて出た疑問に、返ってきたのは猫目の冷たい言葉だ。 イスタルテはそのまま海へと落下した。 竜一の体は傷ついていた。 けれども、彼の心はまだ折れてはいなかった。 「夫婦鬼とかいっても、俺にだって恋人いるし! リア充だし! 負けねえし!」 重傷を押して参加した彼だったが、恋人のことを思えば傷の痛みも忘れるというものだ。 杏の放つ雷光が拡散し、橋げたの鬼たちを焼く。 彼が持つ刀は雷を切り裂いた一品である。山城伝の来派の一刀……と言い張っているだけで実はアークの購買で買っただけの代物であるが、雷を切ったことは偽りではない。 「切り裂け、雷切いぃぃぃぃ!」 その刃を、傷ついた鬼へと振り下ろす。 吹き飛んだ鬼は水中に没して、もう浮かんではこなかった。 「あちらに鬼が逃げます!」 凛子が警告を発する。確かに鬼たちは逃亡を図ろうとしていた。橋げたを狙っていた鬼の残りも、あわてて追いかけていく。 逃げる敵の背中に真空刃を放つ。 凛子の魔法の矢や氷璃の炎、杏の雷も飛び、さらに1体が海中に沈んだ。 ● 猫目と欠け角、そして4体の鬼は海の向こうへと姿を消す。 「深追いはしません、決着は何れまた……」 カイはその背中を見送っていた。 「どちらかが全滅するまで戦うつもりなのでしょうか?」 結局、発する機会のなかった問いを、凛子が誰にともなく呟く。 「どうでございましょう。アザーバイドの考えることでございますからね」 正道がスーツの上着を着なおす。 「ま、なんにしても橋は無事だったわ。またなにかしてくるとしたら、そのとき考えればいいでしょ」 杏が言った。 「風速計を壊したから、職員が来る前に撤収したほうがいいわ。行くわよ、皆」 氷璃の呼びかけで、橋の上まで戻ったリベリスタたちは用意してきた車で引き上げていく。 言った氷璃が、海面を見やった。 「鬼の魔爪……手に入れば研究させてみたかったのだけど」 倒せたのは結局雑魚だけだ。もちろん、今回の目的は強敵を倒すことでないのだから問題はないのだが。 いずれまた、手に入れる機会もあるだろうか。 鬼との戦いはまだ終わったわけではない。 他の霊場の趨勢を確かめるためにも、リベリスタたちは帰路を急いだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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