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<鬼道驀進>Pigeon Blood 『紅玉の騎士』


 嗚呼、嗚呼、漸くだ。
 漸く、私はあの方を助ける事が出来る。

 愛しい貴女。麗しき貴女。
 さぁ、早く目覚めて、私に微笑んで。

 投げ出された御神体らしきもの。木っ端微塵になった祠の残骸。残る、何か石の様なもの。
 そして、濁った目をした幾人もの人間がその前に並んでいる。
 そんな、奇妙な霊場の様子を眺めながら。ソレは、恍惚の笑みを浮かべていた。
 もうすぐ。もうすぐだ。紅く煌めく瞳が細められる。
 並んでいた女性が、石の前へと立つ。下卑た笑みを浮かべた大鬼が、一振りの小太刀をその手に持たせた。
 落ちる、沈黙。静かに、小太刀が鞘から抜かれる。
 煌めく刃。その切っ先がゆらゆらと揺れて。
 次の、瞬間。

 ぞぶり、と。
 白刃は、それを握る彼女の胸へと、飲み込まれていた。
 骨を、肉を断つ嫌な音。ぼたぼた、滴り落ちる血液が石を濡らしていく。
 それでも躊躇い無く、手は動いて。最後に。
 肉や骨の障害が無くなった、胸の中心。未だ脈打つ心臓を。
 女性はやはり何の躊躇も無く、小太刀ごと引き摺り出した。
 ぶちまけられる紅。ひくつくまだ温かい、心臓だったもの。
 彼女の血液に塗れたそれは、次の人間へと渡される。
 続く、陰惨な儀式。見守る大鬼は心底愉快と笑い続けている。

 霊場の入口からは、ぞくぞくと人間共が登って来る。
 紅の瞳はそれを、確りと確認して。
 心底幸福そうに、その端正な面差しを笑みの形に、歪めた。


「大変な事になってる。手が空いているなら話を聞いて欲しい」
 資料を差し出す。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、リベリスタが揃い次第即座に話を始めた。
「岡山の鬼事件の頻発は、もう皆知ってると思う。あの事件について、進展があった。
 この間、アーク所属のリベリスタがとある鬼、『禍鬼』と呼ばれる鬼に接触したんだけど……その時、気になる情報を手に入れてきた」
 曰く、鬼達はその『禍鬼』を中心に据え、共通の目的の元動き出そうとしているのだ、と。
 その、目的とは。
「鬼の王。『温羅』復活。……鬼自体は強敵では有るけど対処可能。でも、王は分からない。
 詳細な情報こそ無いけれど、大変な脅威である可能性が高い。だから、復活を見逃す訳には行かない」
 だから、皆に協力を願いたい。そう、フォーチュナは続ける。
 その指先がモニターを操作する。即座に表示されるのは岡山県の地図と、霊場の位置。
「鬼が目覚めたのは、……ジャック事件で崩界が進んだ所為みたい。封印が、緩んでしまったのかもしれない。
 けれど、鬼の大部分は未だ、復活出来て居ない。……今後も、此の侭ならこれ以上の復活は有り得ないと思う。
 理由がこれ。岡山県内に点在する霊場とか、祭具、神器が、鬼達を封印に閉じ込めるバックアップとして機能してるから。
 ……当然、鬼達、そして『禍鬼』はこれを壊そうとしている。王の為、そして、自身と同格の大物の復活の為に」
 そして、今回。破壊活動を行おうとする『禍鬼』と、彼が纏める鬼達が動き出す姿を、万華鏡が感知したのだ。
 其処まで語り終え、フォーチュナは深い溜息をつく。
「……彼らの狙いは封印の破壊。でも、『禍鬼』はリベリスタを良く知ってる。
 封印を壊すのと同時に、……白昼堂々鬼達を街に放ち、大惨事を起こそうとしてる。
 アークとしては当然、こんな強力なアザーバイドを放置する訳にはいかないし、……陽動であるとしても、街中の鬼を捨て置けない。
 だから、今回は。霊場に赴き鬼の企みを阻止するのと同時に、一般人の命も、護らなきゃいけないよ」
 難しい依頼だ。分かっている。微かに眉を寄せながらも、フォーチュナは言葉を続けた。

「今回、此処に居る皆に向かってもらうのは、とある霊場。何故か分からないけど、他と比べて厳重な封印が施してあったみたい。
 それ自体はもう壊されている。そして、……其処には、鬼と一緒に、たくさんの一般人が居る。
 彼らは、自ら破壊された霊場にある、何かの石に血液を、そして、心臓を捧げて死んでいっているよ。
 目的は分からないけど、多分儀式みたい。……皆には、その儀式の阻止をお願いしたい」
 要するに、その場の鬼を全て倒し、これ以上の一般人虐殺が行われないようにすれば良い。
 言葉にしてしまえばそれだけだが、それが非常に難しいのだとフォーチュナは告げる。
「霊場への入口は1つだけ。一本道。そして、其処を8体の鬼が塞いでいる。
 攻撃自体は薙ぎ払う、声による衝撃波みたいな簡単なものだけど、威力は桁違い。後、……彼らは自身の死が近付くと、捨て身の攻撃を行ってくる。
 その攻撃を行うと戦闘不能に陥るけれど、まぁ、喰らえば大変な事になるかも。詳細は分からない。
 続いて、霊場の中。此処には、一般人を見張る大鬼が6体。後、リーダー格とも言える鬼が1体。
 大鬼の方は入口に居た奴らと似てる。捨て身の攻撃が無い代わりに、耐久に優れてるよ。そして、リーダー格なんだけど」
 微かに、言い淀む。表情の優れないフォーチュナを気遣う声に、彼女は首を振って口を開き直した。
「青年の姿をしている。見た目こそ人間だけど、非常に優れた戦闘能力を持ってる。
 判明している内容に関しては資料にあるから、適宜そっちを確認して貰えると助かるかな。
 嗚呼、後。……一般人について。彼らは何らかの催眠にかかっている。
 多分、その霊場に封印されている何かの力が漏れ出てる影響みたいなんだけど……この力は、周辺住民にも影響を与えてる。
 だから、一般人は抵抗しないし、……周辺の民家から続々と、誘われる様に遣ってくるよ。例えリベリスタと鬼の戦闘に巻き込まれても止まらない。
 因みに、彼らに紛れて霊場まで行くのは不可能。……隠蔽してもリーダー格に看過されるから、その辺り気をつけて」
 話は以上。そう打ち切って、フォーチュナは立ち上がる。
「……分からない部分が多い。でも、危険だと思う。良い予感はしない。どうか、気をつけて」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月03日(土)01:00
黒麻子になろうと思います。
お世話になってます、麻子です。EXです、以下詳細。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

●成功条件
鬼の儀式の阻止
(全ての鬼を倒す事は条件ではありませんが、恐らく倒さなければ儀式は終わりません)

●場所
岡山某所。森林の中にある霊場。
最初の戦場となる一本道は比較的広いです。障害物などはありませんので気にせずに。
しかし、鬼の間をすり抜ける事は不可能です。
霊場自体も広く、中心に儀式の行われている石があります。
入口に2体、石の周りに4体。リーダー格は石の目の前に立っています。

●一本道の鬼×8
攻撃特化。攻撃は荒め、命中に少し劣る様です。
いかにも鬼と言った感じ。

薙ぎ払う(近域 ノックバック)2012.2.18修正(遠域→近域)
衝撃波(遠全)
加えて、HP3割を切ると捨て身の攻撃を行ってきます。
詳細不明。単体攻撃の様です。喰らうと一発戦闘不能もあるかもしれません。

●大鬼×6
霊場を護る鬼達。耐久に優れている、捨て身の攻撃が無い以外は大体一本道の鬼と同じです。
攻撃も同じですが、彼らは全員、儀式に使うのであろうアーティファクトの様な物を所持しています。
(斧と鎌があるようです)
仮に一般人から小太刀を取り上げても、彼らが殺戮を続けるでしょう。

●リーダー格
鬼達の纏め役。前衛型の剣士の様です。
命中、回避に非常に優れています。速度も中々。
血を啜る妖刀を所持しているようですが、失血のBSを与える以外の効果は不明です。
また、一般人と覚醒者を完全に見分ける事が可能です。隠蔽系スキル不可。

攻撃の詳細も不明ですが、傾向としてはクロスイージスに近いようです。
加えて、下記を使用します。
・空蝉 戦場全体に白い靄の様な物を放つ事で、敵の命中を大幅に下げます。

●一般人
霊場から漂う謎の魔力によって強い催眠状態にあります。
近隣からどんどん集まってくるようです。リベリスタの声も、攻撃にも止まりません。
儀式の場についてからは、順にアーティファクトらしい小太刀で自身の心臓を供物にして死んでいきます。

以上です。それでは、武運を。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)


 両手の指ではとても足りない。足の指を足してもまだ足りないほどの人間が、蠢いている。
 そんな中、現場入口に辿り着いたリベリスタ達は、ずれていた認識に頭を悩ませていた。
 招かれる侭進んでいく一般人達。彼らへの対策を如何するか。其処まではきちんと噛み合っている。
 しかし。
「……封鎖は交戦前に行うのではないのか?」
 と、言うのは『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)。
「いいや、鬼を始末した後のはずだろ?」
 異なる意見を唱えるのは、『悪夢と歩む者』ランディ・益母(BNE001403) 。
 リベリスタ達の表情に困惑が浮かぶ。丁度半分ずつの人数が、相反する認識を抱いていた事がより事を厄介にしていた。
 此の侭では悪戯に時を消費するだけ。
 取り敢えずは動く事を決めたリベリスタ達は、けれども一度動くと決めたならば先程までの困惑等無かった様に各々の役割へと移る。
 ただ目的を、速やかに。
 それが結果として一番多くの人を救えると信じて。『ばけねこ』レイチェル・ガーネット(BNE002439) は非殺の閃光を放つ。
 奇妙な呻き声と共にばたばたと。巻き込まれた人々が地面に倒れ伏した。
 全身を苛む激痛。しかし、自我の無い彼らはそれを感じないのだろう。動かない身体を気にする風でもなく、這いずってでも進もうとする人を、リベリスタは素早く抱え上げる。
 道を塞ぐ為の障害。それを置く為に、邪魔な人間は速やかに退かす必要がある。
 しかし、既にリベリスタの倍では済まない程の人数を運び出す事は、幾ら覚醒した彼らとは言え容易い事ではなかった。
 悪戯に、時間は消費される。後から後からやって来る人間をレイチェルが、来栖・小夜香(BNE000038) が閃光で動きを止める。
 微力ながらスタンガンでそれに協力する『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は、止まらぬ一般人に軽く眉を寄せた。
 強結界を張る事で防げないか。そんな考えが頭を過ぎるも、即座に振り払う。
 強い、目的意識。それだけを頭に刷り込まれた人間に、結界は意味を成さない。
 そして、戦闘に支障が出ないだけの道幅は同時に、完全な足止めが難しい事も示していた。
 それに、忘れてはいけない。
 リベリスタが封鎖に手間取っていようと。敵は、お構い無しにやってくるのだと言う事を。

「……騒がしいと思ったら、とんだ大物が釣れたなぁ!」
 地響きの如き笑い声。直後、一般人諸共、全てを弾き飛ばすような衝撃波がリベリスタに襲い掛かる。
 即座に振り向く、リベリスタの目前。巨大な金棒を握った大鬼がぞろぞろと、此方にやってきていた。
 時間をかけてなどいられない。人を巻き込む事の無い位置に、なんとかバリケードの車を呼び寄せる。その間にも飛んでくる、衝撃波。
 突如現れた障害に、越えられぬ人間達がわらわらと群がる。それを確認してから、レイチェルは素早く鬼達に向き直った。
 封鎖に時間を食った分、戦況は芳しくない。既に道を歩いていた人間達は、儀式の場へと足を進めてしまっている。
 急がなくてはいけない。厳然たる意志を秘める閃光を放つ。
 それに続くのは『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618) 。
 今日、求められるのはただ一振りの刃。剣士としての己を押さえ込んで。霧香は儀式を止める事のみを頭に置く。
 その為の覚悟なら、とうに出来ていた。
「禍を斬る剣の道、絢堂霧香。……参る!」
 神速の動きと共に現れた幻影で、周囲の鬼を全て巻き込む様に切り裂いてみせる。
 その後ろ。中衛にの位置に立つ『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)と七布施・三千(BNE000346)は、己の職務を全うしようと攻撃に備えていた。
 仲間の半数が、癒し手としての力を持つもの。
 それは癒しが手厚い以上に、下手を打てば前衛が手薄になりやすいと言う事でもある。
 それを軽減する為に。前に出られる癒し手、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)と同じく、彼らが前に出ているのだ。
 十字の守護を仲間へと与える。前衛ではランディが、凄まじい勢いで回転させた斧によって生んだ烈風で、鬼を切り裂く。
「…鬼と呼ばれる事はあってもまさか本物と戦う羽目になるたぁな」
 面白いね、全く。小さく呟く。口笛でも吹きたい気分だ。
 霧香、ランディと続いた攻撃は、2体程の鬼の動きを止める事に成功していた。
 凛子が、仲間全員へと宙を舞う力を付与する。儀式の阻止。それは、必ず果たす。そして。
 出来うる限り、戦場で消える命も減らしたい。その為に全力を尽くす。そう決意する彼女の瞳は冷静に状況を見詰めている。
「ほらほら、もっとやってみろよ!」
 鬼が煽る様に下卑た笑い声を上げ、その巨大な腕を振り回す。単純な攻撃だが、威力は破格。前衛に立つメンバーの体が後退する。
 小夜香が全身に魔力を巡らせれば、続いて飛んでくる衝撃波。
 押され気味の状況で。一人、鬼の攻撃に耐え切り前に残ったのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024) 。
 線の細い美しさに反する頑強さで。攻撃を凌ぎ、十字の光で鬼を打ち抜く。
 人を守るのが、騎士の務めだ。しかし、その為に伸ばす事の出来る手は、限られている。
 だからこそ。必要ならば十の為に一を切り捨てねばならない。
 迷わない。
「――それがもっとも多くを救う道だろうから」
 ティアリアが、己の身体の魔力を目覚めさせる。近頃のろくでもない儀式の多さに、辟易した様に溜息が漏れる。
 流行、と言う奴なのだろうか。そんな訳あってたまるかと言ったところだが。
「……ま、悠長に構えている時間はないわね」
 そんな彼女の呟きを耳にしながら。戦況を分析し続けるオーウェンが素早く、一番攻撃を受けたであろう鬼を割り出す。


 戦闘は激化する。
 霧香の神速の連撃が、叩き込まれた直後。不意に。
 自分達の後ろ。そう、先刻トラックで道を塞いで来た場所から、酷い呻き声が、聞こえて来ていた。
 隙を突かれない程度に。誰もが一度、振り返って。
 其処に広がる光景に、表情を引き攣らせた。
 横倒しにされた、トラックの前。恐らくは詰まっていたのだろう。進めないのに、人は後から、後から押し寄せてくる。
 押され、転び。高さが出来たそこを。後続の人々は踏み越えてくる。
 意志が無いのだ。自信が踏み台にした人間の頭が潰れようと何だろうと、彼らは何も感じない。
 ただ只管に、進むという意志だけの存在。此方に歩いてくる一人が、転ぶ。
 しかし、彼が立ち上がる前に。その後ろから来た集団は、躊躇い無く彼を踏み砕いていくのだ。
 ぐちゃり、ぐちゃり。血と肉片に塗れた靴が、嫌な音を立てる。
 止めてやりたい。しかし、これ以上人間達に割く時間が無い事は、リベリスタ自身が一番良く分かっていた。
 ティアリアが、前に出るランディへと煌めく鎧を付与する横で。
 オーウェンは再び、今度は全体攻撃のみを受けているであろう鬼をスキャンする。
 成功。まだ、体力的には問題ない範囲だ。しかし。それ以外に読み取れていた情報に、彼の顔色が変わった。
 捨て身の、一撃必殺。
 フォーチュナが語る情報の中に、それの詳細は含まれていなかった。
 故に、彼らは鬼の力技ばかりと言う特徴から、突っ込んで来るのであろう、と推測を立てていたのだ。
 しかし。
「……気をつけろ、奴らの捨て身は、呪術の様なものだ!」
 オーウェンの声が飛ぶ。しかし、時は既に遅かった。
 幾ら全体攻撃であろうと、当たり所で蓄積されるダメージは変わる。
 加えて、時折混ざる単体攻撃。既に、一体の敵が、その体力を十分に削られていた。
 鬼の瞳が、爛々と輝く。
「道連れだ、あの方の為に、お前も道連れだぁ!」
 呪縛が解ける。しかし、未だ錯乱状態にある鬼の瞳が偶々捕らえたのは、三千。
 その命を削って。全身に呪詛の羅列を浮かび上がらせた鬼の指先が、三千に向けられる。庇うには、リベリスタは手番を消費しきっている。
 崩れ落ちる鬼。直後響く、破裂音。
 三千の身体が、内側から切り開かれた様に鮮血を飛ばす。
 傾いだ身体が、己の血液に沈む。しかし。己の運命を差し出す事で。彼は再び、その意識を取り戻した。
 ぐ、と手に力が篭もる。血液の海を掻いて、何とか立ち上がって見せた。
「誰にだって役割はあるはず……ですよね」
 自分の役割は恐らく、今此処で倒れない事だ。そう、微笑んで見せる。
 鬼の数は減った。しかし、戦況が芳しいかと言われればとても、頷く事は出来なかった。

「一般人、鬼共!! 邪魔だ、消えろ!!」
 俊介の声が飛ぶ。心を鬼にする必要がある。分かっている。閃光が、一般人諸共鬼達を焼き払う。
 けれど。生来の優しさは隠しきれて居ない。小さく、謝罪の言葉が漏れる。
 戦況は拮抗していた。オーウェンの指示の元、複数の鬼を一気に追い詰める事が無い様に、と行われる攻撃は功を奏し、既に鬼の数は半数になっている。
 しかし。此処からが正念場である、と言っても過言ではなかった。
 蓄積したダメージは凡そでしか分からない。厚い回復のお陰で、此方は殆ど痛手を負ってはいないが、一撃必殺を喰らえばそれも無意味だ。
 此処で仕留められるのか。分からないが、攻撃するより他無い。
 ランディの烈風が飛ぶ。凛子が産み出した魔の矢が、敵を抉る。再び、前衛を跳ね飛ばす一撃と、衝撃波が見舞われれば、体力を削られた霧香とオーウェンが倒れ伏す。
 しかし、彼らの瞳に諦めの色は無い。がりがりと、己の運命を削り取る事で立ち上がる二人には、高位存在の癒しを小夜香が贈る。
 欠けている前衛の分。仲間へと鎧を付与したティアリアが戦線を支えんと前に出た。
「伊達に場数は踏んでいないのよ、こちらも」
 不適に微笑む彼女の頑強さは、前衛に見劣りしない。前線に戻ってきたアラストールがもしもに備え十字の煌めきを放つも、鬼の怒りを掻き立てる事は叶わない。
 仕留め切れて、いない。恐れていた事態だった。狙うなら打たれ弱い後衛から。そんな定石を守るかの様に、鬼の瞳が凛子を見つめる。
 ばちん、再びの破裂音。切り裂かれた凛子はしかし、運命を削って立ち上がって見せる。
「諦めません!」
 そんな回復手の声に、押され気味のリベリスタ達は奮い立つ。
 再び、攻撃を繰り返す。レイチェルの気糸に絡め取られた鬼が、霧香の剣戟で崩れ落ちた。
 ランディの斧が産み出す烈風と、凛子の振るう聖なる神の癒しが戦場に拡散する。
「数も力も決定要素ではない。それを、示しておくとしよう!」
 片目を伏せる。オーウェンの脳内が、目標の完全な分析を終える。打つのは最善の手。弱点を抉る鋭い連続攻撃に、耐え兼ねた鬼がもう1体崩れ落ちる。
 しかし、後1体。それが、落とし切れて居ない。小夜香が、必死に厳然たる閃光を炸裂させる。
 目の前で死んでいく人々。自分の手は変わらず、守るには小さい。しかし。
 守れる範囲は絶対に、守り切って見せると決めていた。
「死ぬ気で、支えるわ……!」
 彼女の決意に応える様に。放たれた閃光は確かに、鬼に衝撃を与えていた。明らかに、ふらついている。しかし、倒れはしなかった。
 巨大な瞳が、捕らえる先は俊介。身構えようと落とされかねない。覚悟を決め、瞳を伏せる。
 広がる呪いが拡散する。しかし、何時まで立っても、その身体に痛みは走らない。
 目を開いた彼の目に飛び込んだのは、紫と黒。
 攻撃を読み、仲間を庇う事に徹さんとしていたアラストールの行動は、間違っていなかった。切り裂かれ血みどろになる騎士はしかし、膝をついてはいない。
 小夜香の攻撃のお陰もあるだろう。しかし、アラストールの頑強さあってこそ。運命を削るには至らなかったのだ。
 ティアリアが素早く、煌めく鎧を与える事で傷を癒す。
 道を塞ぐものは消えた。未だ進み続ける一般人には目もくれずに、リベリスタ達は先へと駆け出していった。


「まずは先手、行きます!」
 鳥居だったモノを潜り抜けて。初めに境内に駆け込んだレイチェルが、一般人諸共鬼を閃光で焼き払う。
 不意討ちだったのだろう。衝撃でふらつく鬼を確認してから、彼女は前を見据える。
 中央まで届いた閃光は、儀式を行う一般人も行動不能にしていた。此れで、取り敢えずは儀式の進行は遅れるはず。
 そう、安堵の息を漏らす彼女の前。
 腰に佩いた剣を抜く事も無く。無表情に此方を見ていた青年が、ゆっくりと口を開いた。
「目覚めを邪魔する覚醒者か。まぁいい。……お前達、やれ」
 言いながら、手を掲げる。ふわり、周囲を満たし始める、白い靄。
 空蝉。攻撃を妨害するその技に、後から駆け込んで来たリベリスタの眉が寄る。
 集中を重ねる他無い。前衛に位置取り目を細める霧香の後ろでは、吐き気を堪えながら俊介が状況を見極めていた。
 血は嫌いだ。それでも、今は堪えなくてはいけない。拳を握り締め堪える、彼らの前で。
 指示を受けていた石の周りの鬼が動き始める。
 攻撃を、してくるのか。身構えるリベリスタの、目の前で。
「ほれほれ、さっさと片付けんとなぁ……御前の御怒りを買いたくはないぞぉ」
 ぐちゃり。
 振り下ろされた大斧が、石の周囲に倒れる一般人を細切れにする。
 他の鬼も動き出し、倒れ伏すだけの一般人をまるで、みじん切りにでもするかの様に切り刻み始めたのだ。
 言葉を、失う。
 堪えていた俊介が我慢し切れなくなった様に目を背けた。ぐちゃぐちゃ、響き続ける粘着質な音。
「……何か、勘違いをしていたようだが」
 青年が口を開く。儀式は陰惨であった方が良かっただけ。
 邪魔をされる事が目に見えている今ならば、より多くを殺す方が効率が良いのだから。
 レイチェルの身体が、怒りに震える。
 全てを救うのは無理だ。分かっていた筈だ。惑わされてはいけない。目的に、集中しなくては。
 それでも、怒りは収まらない。握り締めた掌から、鮮血が滴り落ちる。
 それを死ってか知らずか。首謀者の青年は柔らかに微笑んで。
「協力を感謝する、覚醒者。……後は、お前達の命も捧げて貰えるなら完璧だ」
 戦闘開始を高らかに告げた。

 戦闘音は止まない。
 疲弊の色の薄い鬼に対して、ほぼ連戦と同じ状況のリベリスタは、非常に苦しい状況に追い込まれていた。
 癒し手の厚さ故に、傷こそ癒えはするものの、大技を連発する度に磨り減る精神力はどうにもならない。
 そして。辺りに漂う靄。三千が試した破邪の煌めきは一度それを切り裂いたものの、鼬ごっこに過ぎなかった。
「もう少しだ、頑張れ、なっ!」
 気が狂いそうな怒りを堪えて。俊介が傷の酷いアラストールに癒しの鎧を与える。
 倒す、倒してやる。憎い敵の鮮血に汚れた口許を拭う。
「さて、勝てるとは思わんが……少々付き合ってもらうとしよう」
 呟いたオーウェンが、瞳を眇める。
 相対するのは首謀者。読み取れたのは、拘束への耐性。微かに眉を寄せ、その事実を仲間へと告げる。
 斧を、鎌を振るい一般人諸共此方を攻撃してくる鬼に対しては、ランディと霧香が前線に立つ事で戦線を支えていた。
 しかし、2人で押さえ切るには、数が多い。霧香と鬼の間に、一般人が紛れ込む。
 躊躇いそうになる。けれど、今その甘さが邪魔な事は、誰より自分が一番良く分かっていた。
 幾重もの幻影と共に、見舞うのは澱み無き連撃。
「躊躇いは、甘さは、今は要らない」
 迷いは、必要ない。それは、彼女の覚悟だった。
 鬼の数が減る。しかし、前衛だけでは押さえ切れなかった鬼の攻撃は、中衛にも及んでいた。
 鎌と共に振るわれる、薙ぎ払い。小夜香を庇った三千が、遂に堪え切れずに地面に倒れ伏す。
 次いで、もう一発。振るわれたそれが、凛子の胴を抉り取る。
 癒し手が2人、地面に倒れる。それは、手厚い回復で戦線を維持していたリベリスタ達には大きな痛手だった。
 レイチェルが、超遠距離射程を以って首謀者を打ち抜く。
 苛立った様に眉を寄せた彼は、禍々しく煌めく刃を漸く引き抜いた。
「……お前は中々に頭が良い様だ。此れが全てお前の指示の元成り立っているのなら」
 まずはお前から始末せねばならんな。
 そんな言葉と共に。踏み込んだ彼の腕が、煌めく刀ごと上段から振り下ろされる。
 深々と、抉れるオーウェンの上半身。ぐらり、崩れる身体が紅の海に沈む。
「私が動くのは、あの方の為。これは大義。邪魔をする方が悪いのだ」
「戯け、他の領域を侵し無法を働く輩に大義など無い」
 青年と相対するのは、これでアラストールのみ。不適に言い返したものの、芳しくない。
 危険だ。しかし、これ以上前衛を其方に裂く訳には行かない。
「…ふふっ。流石に少し寒気はするわね」
 す、と進み出たのはティアリア。抑えが欠けた場合の作戦も練ってあったのだ。
 怖い、と言う感情を覚えたのは何時振りだろうか。しかし、怯んでもいられない。
 もし、此処で彼女が倒れたなら。危険に陥るのは仲間なのだから。癒し手として。戦う者として。
 誰も死なせない事を誓う彼女は微笑と共に、自身に堅牢な煌めきの鎧を纏わせた。 
 
 鬼の首が跳ね飛ぶ。
 精神力の磨耗。肩で激しく息をつく霧香が、幻惑の剣戟でまた1体、鬼を屠ったのだ。
 残りは、首謀者を含め2体。状況を見ていたランディが、不意に駆け出す。
 目指すは、青年の下。剣を構え、小さく手招きする。
 速い、と言うなら攻撃させてやる。先に来れば良い。
 そう言いたげな彼の挑発に、青年の柳眉が跳ね上がる。
 身の程知らずが、小さな呟きと共に突きの要領で此方へ伸びてくる、刃。
「貴様が鬼だってんなら俺は!」
 ランディが声を張り上げる。己に向かう刃を、避ける事無く敢えてその身で受け止めた。
 身体を貫く刃。瞳が力を失う。けれど、己が運命を差し出す事で彼は意識を失う事無く、刃を身を以って捕まえていた。
「もっと強く! 鬼を喰う鬼神へと到るだけだ!!!」
 裂帛。捉えた相手、後は此の侭攻撃を仕掛ければ良いだけだ。
 此れだけ近いのだ、命中も何もあったものじゃない。そう、笑みを浮かべるランディの体内。
 納まる刃が不意に、躍動する。
「その度胸は買おう。……だが、聊か浅薄過ぎないか、人の戦士」
 刀が血液を啜る。途端に、持主である青年の傷が癒えていく。隠されていた能力を悟ったランディの表情が、変わる。
「……さぁ、地に伏せ。あの御方を喜ばせろ!」
 ぐちゃり、と。突き刺さっていた刀が、捻られる。そして、そのまま。
 ランディの胴を切り開いて、その刃は再び自由を取り戻した。
 
 どさり、とその巨躯が崩れ落ちる。
 本来ならば死に至っても可笑しくはない一撃はしかし、運命の気紛れか、辛うじて致命傷には至っていなかった。
 そして、尚且つ。
 彼は倒れる時確かに、その斧で。青年の身体に、浅くは無い傷を負わせる事に成功していたのだ。
 リーダーの表情が、歪む。
 チャンスは、今しかない。俊介が前に出る。
 仲間を助ける。それが自分。ホーリーメイガス。ならば。
「鬼のお姫様は、眠らせといてもらうかんなぁあ!」
 絶叫と共に、彼は青年に喰らい付く。この刀が、危ないのなら。
 今自分が出来るのは、身を以って刃を止め、チャンスを作る事だけなのだ。
 驚いた表情を浮かべる青年を尻目に、俊介は仲間に目で訴える。
 今此処で、こいつを攻撃しろ、と。
 意を汲んだレイチェルが、逃れる隙さえ与えぬ魔弾を放つ。霧香が、剣を振るい、アラストールが全力を込めた武器を叩き込む。
 それら全てを受けた青年が、初めて怒りの表情を顕にした。
「よォ、騎士様。死ねよ、なァ?」
 不適に笑う。そんな彼に向かって、青年は無慈悲にその刀を突き刺し、抉った。
 重い一撃。運命を差し出すだけでは耐え切れぬそれに、俊介の意識がブラックアウトする。
 それでも、離そうとしない彼の身体を、無造作に放り投げて。怒りに燃える紅の瞳が、リベリスタ達を睨み据えた。
「下等な覚醒者如きが! よくも、この様な仕打ちをしてくれたな」
 もう決して、生きて返す事などしない。そう、地を這うような声で告げる。
 既に、立っているのは5人だけ。祝福よ、あれ。そう呟く小夜香の癒しが全員の傷を埋める。
 終わりは、見えなかった。


 ざわり、と。感じたのは、酷い寒気。そして、泣き出してしまいたくなる様な、威圧感。
 ティアリアの鉄球に殴り飛ばされた鬼が、死に様に笑う。
 一般人に突き刺さった、彼の斧。それが恐らくは、最後の供物となったのだろう。
 未だ諦めず戦い続けるリベリスタの目の前で。儀式が行われていた岩が、罅割れる。
 直後。
 閃光と共に跡形も無く砕け散った、恐らくは封印だったのであろうものがあった場所に。
 うずくまる、人影が現れていた。
 空気が、張り詰める。それまで標的と定めていたアラストールから、視線を外して。
 青年が、歓喜に咽びながらその場へと駆け寄る。
「嗚呼、嗚呼……! お待ちして、おりました……っ」
 その声に、応える様に。人影はゆっくりと、立ち上がる。
 白い着物の肩を滑り、地に広がる髪は墨の滝の様。
 白磁の肌に、淡く色づく頬。酷く華奢な身体は、人のモノにしか見えない。
 長い睫に縁取られた瞳が、緩々開かれる。紅玉が、周囲を確認する様に彷徨って。
 鮮血の如き紅を引いた唇が漸く、すうと笑みを浮かべる。
「お早う、私の愛しい子。……良い匂いね、素敵な目覚めだわ」
 私の衣装だけが味気ないわ。残念ね。くすくす、笑い混じりに囁く声は鈴が転がる様に可憐だ。
 現実味の欠けた美しさを除けば、見た目は精々二十過ぎの普通の女性。
 しかし。その瞳が動き、リベリスタを捉えた瞬間。
 胃の中身を全て、吐き出したくなる様な。怖気と、死の予感が胸を満たす。
 出てきてはいけなかったモノ。厳重な封印の意味を、リベリスタは改めて悟る。
 警鐘が鳴る。危険だ。
 半数が倒れ伏す今、これは出会ってはならなかったものだ。早く退かねば。気が逸る。
「あらあら、随分沢山のお客様もいるのね? ……ますます素敵!」
 少女の様に微笑んで。女は、楽しげに歩き出す。
 とっさに身構えるリベリスタには興味も示さない。無防備に歩き回り、そして、不意に。
 己の足元に倒れ伏す、ランディに視線を落とした。
「嗚呼ねぇ、貴方とっても綺麗ね。髪も目も真っ赤。……流れる血も、真っ赤」
 素敵よ。耳元に寄せた唇が、甘く囁く。戯れる様に頬に口付けを落として見せてから、彼女は再び、立ち上がる。
 地に溢れる鮮血を吸い上げて、着物に描き出される、鮮やかな紅のグラデーション。
 黒檀の髪を引き摺る彼女が、再び、花が綻ぶ様に微笑んでみせる。
 目で、合図を送りあう。未だ戦える霧香が、アラストールが、傷つく仲間を庇う為剣を構える。
 同時に、レイチェル、ティアリア、小夜香が仲間を引きずり、何とか背負い上げた。
 撤退戦の覚悟を決める。殿はアラストール。駆け出したのは霧香。
 入り口を塞ぐ鬼に、全力の一太刀を見舞う。怯んだ隙に、仲間を背負うリベリスタが一気に駆け抜ける。
 追いすがる様に振り下ろされた青年の刀を受け止めたのは、アラストール。
 弾き返して、彼女もまた境内から抜け出した。
 ──さようなら、素敵な覚醒者さん。
 その声は耳にこびりつくように、甘かった。

「……追わないのですか?」
 恭しく黒檀の髪を持ち上げる青年が、嫉妬の色を湛えた瞳でリベリスタの背を睨む。
 麗しき女鬼は、悪戯な微笑みを浮かべて首を振った。。
「いいの。今日は気分がいいもの」
 また会えたら素敵ね。夢見るような声音で、彼女は呟く。



 残ったのは、濃密な血のにおい。
 そして、事切れた肉塊と、何人もの無関係の人々。
 洗脳は解けたのだろう。恐怖と痛みに呻く声を背にしながら。
 リベリスタは手痛い敗北に、きつく唇を噛む事となった。



■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
お疲れ様でした。

結果に関しては全てリプレイ内で示したつもりです。
ご参加有難うございました。またのご縁があることを。