● あぁ。……あぁ、なんと忌々しや。 永き時間。その短き生など幾度繰り返してもなお足りぬほどの時間、我らを縛り付けた愚かなる下等生物。 我らが王をも封印せし忌々しき呪縛。忌々しき人間。 今こそ解き放とうぞ。 我らの悲願。我らが御大の復活。 まずはその第一歩を踏み込もうぞ。 古き封印を打ち壊し。我らの時を取り戻そうぞ。 今再び、その顔を絶望に染めるがいい。 我ら鬼の為に泣き叫ぶがいい。 我らの味わいし無間地獄。その血肉を以て購わせようぞ――! ● 「……最近、岡山付近で鬼がよく出没してるのは、皆知ってる?」 ブリーフィングルームに皆を集めた『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)が開口一番、最近多発する鬼事件について皆の認識を確認する。 大半の者が、その理解に差はあれど頷くのを見てから、 「その件に関して、進展があった」 イヴが手元の資料をリベリスタ達へと配る。 「とある事件で私達アークと接触した禍鬼という鬼が今回の事件の元凶」 彼らは、ジャック事件の際に進んだ崩界の影響で弱まった封印から抜け出した鬼の一団だという。 元々、アザーバイドとしてこの世界にやってきた彼らは、その数と凶暴さ故に封印され、永き時間を次元の狭間にて幽閉されていた。 「正確には、現在も殆どの鬼が幽閉されている」 鬼を閉じこめる封印は、大きな網のようなものだ。大きな存在になればなるほどそこから抜け出すことが困難になる。 「だから禍鬼を始め、少数の力ある鬼を除いて、現在岡山を徘徊する鬼の大半は下級の鬼。彼らはそのことを利用して、わずかな綻びからも抜け出すことができた」 そして彼らの目的は、 「その封印の綻びを広げて、彼らの王……温羅を復活させること」 王の名を冠するアザーバイドの名に、一同の空気が一層張りつめる。 「岡山には、彼ら鬼を封印するためのバックアップとして霊場、祭具、神器なんかが数多く残されているわ。禍鬼達の目的は、それらの破壊」 そして今回、万華鏡が大規模な戦力を編成した禍鬼らがそれらバックアップの破壊、及びリベリスタの陽動としての街の破壊を行おうとしているのを捉えた。 「街の安全ももちろん大事だけど、かといってこれ以上鬼の勢力を増やすわけにもいかない。だから今回、貴方達にお願いしたいのは、神器を破壊しようとしている鬼の討伐よ」 街の方も気になるだろうがそれは他の仲間に任せろと、そう言外に告げるイブ。そうやって役割分担できるが故の組織だ、と。 「今回の神器は、森の中に聳える大木が3本。高さ数メートルのところで伐採されていて、それぞれ注連縄が巻き付けられているから見つけるのは簡単だと思う」 それが一辺を50メートル前後とした巨大なトライアングル状に設置されているという。 そして3本は互いに干渉しあい、力を高めあって封印をバックアップするための力場を作り出している。 「この大木を狙う鬼は全部で3体。それぞれ別の方向から別々の大木めがけて、ほぼ同時に襲ってくる」 それはリベリスタの介入を前提とした、リベリスタ達を一カ所に纏めさせない為の作戦。つまりそのくらいには知恵の回る鬼が今回のターゲットということだ。 「……本来、この大木は2本もあればバックアップとしての役割は果たせる。3本あるのは、安全装置みたいなもので……だから最悪、1本は捨ててもかまわない」 つまり2本は何が何でも死守しなければならないということ。 「下級とはいえ、鬼は鬼。その剛腕が振るわれたなら、大木は最悪の場合一撃で粉砕されるからそのつもりで」 よほどのことがなければ一撃は耐えるだろうが、油断は禁物だと釘を刺し、 「鬼は驕り、人に退治されるのが世の常。こっちも無傷じゃ済まないかもしれないけど……でも、貴方達ならできるって信じてるから」 だから頑張ってきてと。 そうイヴに送り出され、リベリスタ達は鬼の住まう地、岡山県へと急ぐのであった――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「鬼共が、各所で大暴れねぇ」 よっといった感じで木の根を蹴り、着地した先。目の前に聳える神木を見上げながら、『論理決闘者』阿野・弐升(BNE001158)が現状を確認するように言葉を紡ぐ。 『まったく……鬼退治って聞いてたのに木のお守りをする事になるとはついてねえぜ』 弐升の言葉を受けてか、常時接続状態を維持させたアクセス・ファンタズムから『捻くれ巫女』土森・美峰(BNE002404)のぼやく声が聞こえる。 「ま、折られる前に殴り倒せとは解りやすいですし、それはそれでいいんじゃないですか?」 違いない、と通信の奥から聞こえてくる苦笑は『背任者』駒井・淳(BNE002912)の声。 『吸血鬼も鬼の一種……にしては、遠く感じるな。全く共存できる気がしない』 それは今までに報告があがってきている鬼達のことであり、今回の三鬼のことでもある。 『それは多分、向こうも同じ事を思ってるんだろうな……と、こっちも無事に到着。どうやら全チーム、鬼が来る前にたどり着けたようだな』 通信状態の確認と軽い報告を兼ねて『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が通信上に登場し、だが……と皆に注意を促す。 『やれやれ、鬼とは随分豪快に走って来るものだな。音を隠す気もないとは。……あちらさんもそろそろ来るぞ』 『……香夏子、今日は本気でいきます』 『第16話:鬼退治だよ全員集合』宮部・香夏子(BNE003035)がその決意を言葉に乗せ、『少しだけ強くなった香夏子を見ててくださいね』と懐かしい人達の前で誓いを立てる。 「でかい地響きだ……。鳥が驚いて逃げてしまった」 そして、通信からではない生の声……『蒼い翼』雉子川・夜見(BNE002957)が嘆き、剣を構える。 「雉子川夜見、参戦させてもらう」 鬼と人との抗争が今、始まる。 ● それは、人の形に似た人ならざる姿をして登場した。 否、彼らに言わせれば人こそが彼らに似た出来損ないなのだろう。 「嗚呼、忌々しき下等生物。再び我らの悲願を阻もうとするか」 人の体躯を一回りも二回りも上回る体から発せられる声は図太く、常人ならばそれだけで竦み身動き一つ取れなくなるプレッシャーを放つ。 だがここに立つのはリベリスタ。この世界を代表する者達は不敵に笑い、鬼の行く手を阻む。 「いきなり下等生物とはご挨拶だね」 「事実を事実として指摘して何の不都合があろうか」 鬼がこの場における話し合いの無意味さを嘲笑うように、弐升の言葉を切り捨てる。 どこまでも傲慢に、鬼というものを象徴するその姿に、弐升は肩をすくめる。 「下等生物で結構。そも、強き者を倒してこその誉れでしょうに」 鬼に対して言いたいことはたくさんある。だけど、今はそれよりも時間が惜しい。だから、 「さぁて、鬼退治といこうか」 その言葉を合図に、鬼の背後の木から飛び降りた影が鬼へと迫る。 「いくぜ、お前が鬼なら俺は修羅だ」 森に差し込む光に照らされた正体――『合縁奇縁』結城・竜一(BNE000210)は両の手に収まった厚刃の剣を二本、重ねるようにして鬼の背後から切りつける。 完全な不意打ち。その手に返る確かな肉を切る感覚に手応えを覚えながら、しかし竜一は鬼の大きな高笑いを聞く。 「嗚呼、嗚呼。下等生物にふさわしい、なんと小賢しい一撃か」 振り向きざまに振られる腕は竜一を掠め、竜一の姿を隠していた木をへし折る。 それを片手で掴む鬼めがけ、さらに死角に潜り込むように身を隠していた『紅炎の瞳』飛鳥・零児(BNE003014)が突撃を仕掛ける。 鬼の発した小賢しいという言葉に同意しながら。 常に自分の無力さを痛感しながら、 「だからこそ常に必死なのさ!」 全力を注ぎ込む。 木を守るように立つ夜見と鬼の前に立つ弐升。そして竜一に零児で、計四人。Aチームと称された、最大火力を集めた短期決戦チームの総員が出揃った。 鬼は背と腕に大きな裂傷を受けながらもそれ見定め、 「ーーーー!」 咆哮とともに常人の何倍も太く隆起した腕を用いて強引に木を振り回した。 まさしく力技で行使されるそれは、周囲の木々をも巻き込み弐升、竜一、零児を襲う。 「ちっ、木は完全に消耗品か……!」 見れば鬼が掴む木は衝撃に耐えきれず半ばから折れており、それを確認した鬼はつまらなそうに木を投げつける。 あまりにも自然に、無造作に投げられた木に対し、反応が遅れる前衛の三人に反し、夜見の行動は迅速だった。 元よりその鬼の投擲のみに集中していたのだ、反応できない道理はない。故に木の斜線上、神木の前に身を投じる。 盾を構え、可能な限り身も守りながら神木を死守する。 「ぐっ……! さすが、一撃で神木を破壊しうる攻撃、重い……!」 その勢いに負け、背後の神木へと激突する夜見。前と後ろから受ける衝撃に息を吐き出しながらも何とかサンドイッチ状態から抜け出し、神木の状態を確認する。 「もしこちらへの攻撃がおろそかになるようなら援護をと思っていたが、きびしいか……」 歯がゆくはあるが、ここで焦りすぎて神木を折られては元も子もない。 『――阿野、右から来るぞ……!』 故に通信よりも早く、明確に言葉を送れるテレパスによって状況を三人に伝える。 夜見によって辛うじて鬼の姿を捉えた弐升が木の軌道に合わせて飛び乗り、鬼の肩を突く一撃を放つ。 「甘いわ!」 だが鬼は木を手放すことによって反動を作り、それを回避する。 「っ、動き方が変わった……!?」 鬼の動きがいつの間にか力任せなものから筋肉のしなやかさを使った素早い動きへと変化していることに気がつき、弐升が思わず声を上げる。 「何が目的か知らんが、ぶっ飛ばすまでだ……!」 弐升と距離をとった鬼へと追撃を仕掛ける零児。鉄塊のように分厚い剣の振り降ろしは、しかし鬼が振り上げた木により威力を相殺されてしまう。 「……! そうか、こいつの目的がわかったぞ!」 その閃きは不意のものだった。 先ほどまでと違い、大きく立ち振る舞う鬼。その顔に浮かぶ強い嘲りの色に、竜一は怒りを覚えつつ叫ぶ。 「こいつの目的は、他の鬼が木を潰すまでの単なる時間稼ぎだ!」 ● 『――単なる時間稼ぎだ!』 恋人の叫びを通信の先から聞いて、ユーヌはつくづく思う。 「浅知恵か。そんなだから負けるんだ」 ――猿の方が余程知恵が回る、と。 「そら、どうした。はやく捕まえてみろ!」 続けて何度も何度も鬼を挑発し、攻撃を誘発させる。 鬼の前には常に香夏子がおり、ユーヌを攻撃する手段は木の投擲しかない。だがそうやって繰り出される投擲は軌道が読みやすく、避けやすい。 「ははっ、小娘すら捉えきれないとは滑稽だな、高等生物?」 そしてそれを笑い、さらに怒りを燃やさせる。 今までの鬼の攻撃から察するに、ユーヌも香夏子も連続で直撃を食らえばフェイトの使用を免れない事態へと陥るだろう。 一瞬の油断が生死を分かつ戦場。だがそんな中でも朗報はある。 「っ掛かりました!」 ――この鬼は状態異常に対する耐性をほとんど持っていない。 『ほれ、貴様らの嫌いな封印だ!』 それは美峰・淳の班でも同様らしく、両者を乗せた戦いの天秤は危なげながらも均衡を保っていた。 「宮部……!」 鬼が気糸に縛られている間に、香夏子へと傷癒術を施すユーヌ。 致命的な直撃は何とか避けているが、それでも腕や肩、急所を守るために用いた箇所の損傷や、飛び散る木片からの裂傷は多い。 「大丈夫です……」 だが香夏子の声は強く、はっきりとした意志を示しながら響く。 「香夏子は本気です……簡単には手出しはさせませんよ?」 それは神木のことであり、ユーヌのことであると。 再び動きを取り戻そうとする鬼を睨みつけながら一歩を踏み込む香夏子。 その意志を汲み取り、ユーヌも香夏子の背に頷きを返す。 鬼が拘束する気糸を引きちぎるのと同時に、香夏子は気糸を紡ぎ、ユーヌは呪印を結ぶ。片方が失敗しても、もう片方が捉えられるように互いをフォローしあいながら。 ――だが。 「そのような小癪な手に、何度も掛かるものか!」 鬼が振り上げた木に気糸は絡めとられ、結ばれた呪印は拳で打ち砕かれる。 「昔も、今も! 何一つ変わらぬ忌々しき人の子! 忌々しき紛い者!」 昔と、そして現在。人によって幾度も飲まされた苦汁を発散するように、全ての怒りが香夏子に向かって解き放たれる。 「きゃあっ!?」 今まで見せたどの動作よりも素早く、力強く振り回された木が香夏子を直撃し、その華奢な体を吹き飛ばす。 「宮部っ!?」 木を一本、二本とへし折りながらもなお勢いは止まらず、三本目の木に埋まる形でようやく停止した香夏子に、ユーヌは駆け寄りかける衝動をぐっと堪える。 ――位置が悪い! 今香夏子の元へと駆け寄れば、神木が無防備に晒されることになる。 「まずはお前からだ……!」 しかし、鬼の怒りは現在完全に香夏子に向かっている。なら多少のリスクを負ってでも駆け寄るべきか? 数瞬の間に巡る思考。 援軍はまだこない。ならば―― 「――大丈夫です」 ユーヌが決断し、まさに動こうとした寸前、埋まった木から香夏子がゆらりと立ち上がった。 「……まだ終わってませんよ? 最初に、そして先ほども言ったはずです……今回は、本気だと……」 その瞳はまだ輝きを失っておらず、意志は折られていない。 だったら、こちらのやることはただ一つだ。 ――十秒でも、ほんの数秒でもいいからこの戦闘を長引かせること。 再び香夏子と交差する鬼に向けて呪印を結ぶユーヌ。 「むしろここからが本当の正念場、か……踏ん張ってくれ、宮部……!」 援軍を伝えるはずの足音は、まだ聞こえてこない。 ● 「あー、ちきしょうっ! これで何体目だっ!?」 自らのわきを通る風切音と、影人の消える音を聞きながら、美峰が悪態をつく。 「神木を庇って消えた影人の数なら五体、だな」 淳が言って、ちらりと見た神木の周りに転がった木の数を確認する。 その数は消費した影人と同数の五本。……つまりまさに影人は一回限りの使い捨て状態だ。 「ちっ、せめて二回保ってくれたら大分楽だったのに……!」 先ほど淳を庇って消えた影人のことも思いだし、これで合わせて六体。そろそろ影人を作る余裕がなくなってきた、という状況が二人の精神状況を追いつめていく。 七体目を作り出し、神木へと向かわせながら考える。 (ここ数回、明らかに攻撃パターンが変わってきている) 最初は前衛を担当する淳に対して集中的に木が振われていた。だが今回、そして前の攻撃と続けて神木が狙われた。 「まずは私の息切れを狙おうってか……!」 相手の意図に気づき、即座に対策を練る。 「淳っ!」 今までの呪印を主軸に据えた戦法から、鴉でもって怒らせ、距離を取らせる戦法へとシフトさせる。 「こっちを向け。そうだ。ほら、こっちだ!」 その分淳に向かう攻撃は苛烈になるが、これは初めから堪え凌ぐ戦いだ。その覚悟はとうに出来ている。 だが鬼人の式符や美峰のフォローで最低限の負傷で済んでいるが、それでも無数に出来た細かな傷が熱を持って集中力を妨げようとする。 「ガァァァァア!」 それを、気休め程度ではあるが癒すために鬼の懐に入り込み、吸血を試みる淳。 人とは似て非なる存在の血はお世辞にもおいしいとは言い難いが、それでも雀の涙ほどにはなる。 口元に滴る血を拭い、鬼の振る一撃の勢いを利用して大きく後ろへと跳躍しながら、何度目になるかわからない呪印を結び鬼を縛り付ける。 これでまた少し時間が稼げるか。そう僅かに安堵を漏らしながら、駆けつけた美峰からの治療を受ける。 「他の班の状況は確認できるか?」 「あぁ、さっきA班が一体目の鬼を撃破したって。……こっちには弐升が来る」 美峰の返答にそうか、と頷く淳。 こちらも激しい鬩ぎ合い繰り広げていた最中、最後に確認できた向こうの状態はこちらよりも厳しいものだったように思えるし、妥当な判断だろう。 ――と。 「嗚呼。忌々しき。忌々しき……嗚呼、嗚呼!」 今までよりも更に強く、慟哭するように鬼が雄叫びを上げる。 呪印の拘束が解け、同時に本来の目的を思い出した鬼がこちらに背を向けて再び木へ向けて侵攻を開始する。 「オイオイオイ、悲願とか恨みとか置いておけ。戦場にそんなもん持ち込むな」 だがそんな鬼の前に幾重にも張り巡らされた気糸の網が出現し、その足を鈍らせる。 「弐升!」 予定よりも僅かに早い到着は、こちらが若干でも距離を稼げたからだろうか。 「ならばこそ、この状況には意味がある」 状況は援軍が一人来ただけ。鬼の攻撃をまともに食らい続ければピンチなのは変わらず。だけど、この精神の昂ぶりは何だろうか。 戦いを愉しめ。命を賭けろ。そして、 「さぁ、KOOOOOLに行こうか!」 ――そこに意味を見いだそうじゃないか。 「論理決闘者にして群体筆頭、推して参る!」 ● 「弟子や彼女の前で、情けない姿は見せられないだろうがよ……!」 聞こえる声に、香夏子の意識がぼんやりと覚醒する。 「竜一、師匠……?」 「弟子の成長は見届けた。なら今度は師匠の意地を見せつけてやらぁ! お前らを倒し、温羅とやらもぶっ倒す!」 覚醒しきらない意識の中で、師匠は変わらないと苦笑しながら、香夏子は状況を確認する。 「宮部が倒れて、私もよもやというタイミングで、ぎりぎり竜一達が駆けつけてくれた」 立っているのがやっとという有様で、ユーヌがぼろぼろになった左腕に右手を当てて傷癒術を施しながらやってくる。 「宮部の頑張りがあったからこそ、あいつが間に合った。感謝する」 「そんな……香夏子の方こそ、ごめんなさいです」 強くなったところを師匠に見せることが出来なかったと、視線を向ける先。鬼へ追撃をかける竜一が零児と夜見に向かって叫んでいた。 「こっちはもう俺とユーヌで大丈夫だ! 二人はもう一本の方へ行ってやってくれ!」 あちらの班でも、粘っていた淳がついに倒れ厳しい状態に陥っているから、と竜一が促し、二人はわかったと踵を返す。 「ユーヌ!」 「わかってる! ……やれやれ、私のヒロインは人使いが荒いな。まぁ、これも信頼の証か」 さて、とユーヌが進み出ながら、再び意識が沈み始めた香夏子に告げる。 「戦局は既に防衛戦から殲滅戦へと移行している。安心して眠れ」 現状で既に戦闘不能が二名、フェイト使用が二名という状況だが、この状況は元より想定できたこと。何も心配はいらない。 不吉を象徴する影が実体を伴って鬼を覆いつくし、やがてその影に喰らわれるようにゆっくりと鬼が倒れる。 「これであとは一匹だけ……竜一も、先に行け」 竜一の傷を癒してやりながらユーヌが言うと、竜一がお前はどうするんだ? と目で問いかける。 「私は宮部を背負ってそちらへ向かう。……さすがにこの状況で一人にさせるわけにはいかないからな」 ――それとも、私がいなければ不安か? ――まさか。 ――なら、行ってこい。 声に出さずともそれくらいの意志疎通は出来る、と。頷きあい、竜一が駆け出す。 ユーヌはゆっくりと香夏子を背負い、皆が鬼と戦う場所へと向かう。着いたとき、まだ決着が付いていないようなら支援できるようにと態勢を整えつつ、他の依頼へ向かった仲間達へも思いを馳せる。 こちらと同じように、劣勢を強いられているだろうけれど、でも必ず成し遂げるだろうと信じつつ。 ――私も早く駆けつけなければな。 静けさを取り戻しつつある木々の中。一度だけ自らが守りきった神木を見遣り、ユーヌも仲間の元へたどり着くために、その歩を早めた。 油断はしないが、けれどきっと自分が着く頃には最後の鬼も打ち倒されているだろうと信じながら――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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