●人ならざる所業 それはまるで作業だ。 ベルトコンベアに流れる何かに手を伸ばし、一つの工程を終えてはベルトの上に戻して流す。 今でも用いられる、昔ながらの手法。 「助け……」 再び命が摘み取られた。 耳を貸さず、容赦なく叩き潰された頭部からは血飛沫と内容物がぶちまけられる。 司令塔を失った体が膝から崩れ、地面に伏す。 角の生えた、人ならざる存在に無理矢理引きずり出されては、破壊される繰り返し。 無数の死骸が転がり、最後に残ったのは二人の姉妹だ。 「とうとう残り2匹か、あっという間だな」 屍のソファーに腰を下ろし、二人を見下ろす男。 粗暴な周りの化け物たちと比べ、悠長に言葉を紡ぐ彼こそが、この惨劇の首謀者。 愉快そうに見下ろしながら、『やれ』の一言で破壊の限りを尽くしたのだ。 「お、お願い……妹だけは許して……」 15~16ぐらいだろう年頃の少女が、自分よりも小さな幼女を抱きしめ、懇願する。 腕の中の幼女は嗚咽を零し、彼女の胸に顔を埋め、恐怖に必死に耐えていた。 「妹だけは……か。 どうするか、逆に妹からじっくりとなぶり殺しにしてやりたくなったな」 小さな悲鳴が上がり、取り巻きの化け物達は愉快そうに姉妹を見下ろす。 「やめて……何でもしますから……」 首謀者は目を丸くすると、にんまりと口元が厭らしく歪む。 「何でもか、じゃあ……何でもしてもらおうか」 周りの化け物を顎で使い、姉妹を引き剥がさせると、姉を彼の前へ投げ出したのだ。 「チャンスをやろう」 地面へ押し付ける様に伏せられた少女、そしてその手を地面へ押し付け、指の間を広げさせる。 「今から一本ずつ指を抉ってやる、悲鳴を上げずに10本耐えたら……その願い、考えてやろう」 命に比べればマシな話ではあるが、いたいけな少女が耐えれる話ではない。 息を呑み、体を震わせる少女の視線は濡れ、見上げる世界は滲んでいく。 「気は長くないんでな? 二人そろって嬲り殺しか、それとも賭けに乗るか……さっさと決めろ」 後ろからは自分を制止しようとする妹の声、もし耐えれなければ、すべては無駄な事。 けれど、一抹の希望でもあるならばとギリッと奥歯をかみ締めた。 「や、やります……ですから、堪えれた時は……!」 「考えてやる、約束だ」 契約は成立。 地獄のショーが幕を開ける。 「じゃあ行くぜぇっ!」 子分の1人が刃毀れ満載の小刀を手に、少女へと近づく。 そして容赦なく小指を掴めば刃を這わせていくのだ。 「~~~~っっ!!」 ゾリゾリ、ゴリゴリと体に響く振動が音となって少女の鼓膜を揺らす。 そんなことも認識できないほどの激痛が、無数の波となって脳へ打ち付けられるのだ。 白黒する意識、今にも激痛に声を上げそうな唇をかみ締め、桜色の上を鮮血で彩る。 「そらっ! 一つ目!」 「っっ!!」 ゴキリ、ブチブチッ……! 聞こえてはならないだろう音、左手の小指の感覚が完全に消え去り、代わりに痛みだけがすべてを埋め尽くす。 まだ、これが9つある。 少女への責め苦はこれからだ。 「……」 最後の10本目が地面に転がり、賭けが終わった。 結果は少女の勝利だ。 唇に歯が食い込み、すぐ下の地面には小さな血溜りが出来上がり、指があった場所からあふれる血が地面いっぱいに広がる。 「やるじゃないか、お前の勝ちだ」 勝利を耳にすれば、少女は油の切れた機械の様に顔を傾け、彼を見上げる。 「じゃあ……妹を……」 彼も小さくうなづく。 「あぁ、考えた。 だが、駄目だ」 少女の表情が凍りつき、彼の視線が化け物達へと向かう。 目配りで指示を出すと、泣きじゃくる幼女の前へ、少女と千切れた指を投げつけたのだ。 「楽しかったが、満足しきれる結果ではなかった。 2人そろって仲良く地獄へ沈めてやろう」 指を鳴らせば、どこからやってきたのか巨大な烏の群れが2人へと襲い掛かる。 「いやぁぁぁっ!?」 「やだぁっ、やだぁぁぁっ!!」 生きたままの2人の肉を啄ばみ、引き千切り、租借する。 鳥葬よりも酷い結末を差し向ける首謀者と、そしてその部下達は愉快そうに2人を眺めるだけ。 せめて妹だけでもと、必死に走馬灯が巡る頭をフル稼働させ、答えを探るが……少女が見つけられたのはたった一つの分岐点。 「もう、痛くない様に……して……あげる、から……」 妹に覆いかぶさり、自らの体を捧げて守る少女が取った答え。 転がっていたガラス片を、必死に掌で握ると、刃となった切っ先を妹の首へと突きつけたのだ。 「おやすみ……」 吹き零れる命の水は、一気に枯れ果てていく。 痛みが一瞬で感じられなくなる傷は、幼女の意識をすぐさま暗転させてしまう。 「……ごめんね」 重なった胸元から消えた鼓動、そして精根尽き果てた少女は冷たい体へと崩れ落ちる。 何も感じない、見えない、聞こえない。 両親から託された命を守れなかった事を永遠に悔やみ、悪魔の宴は終わっていく。 ●希望はその手の中に 流された映像を目の当たりにしたリベリス達は、恐ろしい光景に平常心を易々保てる状態ではないだろう。 この未来を頭の中で直接叩きつけられた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)も例外ではない。 現に、ブリーフィングルームに姿はない。 映像が消えると同じくして、青い顔色の彼女がふらふらと入ってくる。 「……大丈夫、もう、落ち着いたから」 心配するリベリスタ達に、やせ我慢の苦笑いを零すとコンソールに触れ、情報処理を開始。 「あの映像は失敗した場合の映像……必ず成功させる事」 念押しするようなイヴの言葉に一同がうなづく。 「鬼事件が岡山県で頻発しているのは知っているわね? この間アークのリベリスタが『禍鬼』と呼ばれる鬼と接触したの。 どうも、この『禍鬼』をリーダーに共通の目的を持って動き出そうとしているの」 そして映し出される情報は、鬼の王『温羅』。 それを見る限りでも、唯のアザーバイドを超えるレベルであった事は理解できるだろう。 目的とはこの温羅の復活であろう。 「鬼達はジャック事件で崩界が進んだ事で封印が緩んで、復活したと考えるのが妥当ね。 でも、幸いな事にまだ『温羅』を含む鬼の大部分は未だ封印状態で自由に動けない」 続けて表示されるのは岡山県内に数多く存在する霊場、祭具、神器等といったもの。 どうやらこれが鬼を封印の中に閉じ込めるバックアップとして機能している様だ 「今も鬼は次々復活しているわ。 だけどこのままなら大きな敵が目覚めることはない。 だからは封印のバックアップをする各施設を蹂躙し、これを解こうとしているの」 どうやらそれはまた別のリベリスタ達が対応に当たっている様で、それぞれの作戦予定のデータがスクリーンへと広がっていく。 「貴方達は街中で暴れる鬼達の退治に当たってほしいの。 恐らくこれは陽動でしょうけど……これだけの被害をもたらす結果を放っておくわけにはいかないわ」 無数のリベリスタ達の総力戦となることだろう。 これはその内の一つ、かけてはならない歯車でもある。 「引き受けてくれるわね? じゃあ……敵の情報説明に移るわ」 この小さな希望を大きな未来へ変える為。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)08:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●それはまるで 変わった人、気ぐるみでも着てるみたい……オオカミかな? 何を叫んでるのかな? ぜんぜん聞こえないや。 『な……事、バリ……ド自体を……代わ……す……んてっ』 あっ、こっちみた。 『だ……夫!? 怪……なさ……ね? 立……早く!』 立つの? でも、すごい景色。 ずっとぼやーって影が残ってる。 きぐるみさんもすごいグシャグシャに見えるよ。 『……て! 逃げるのよっ!!』 そうだった、私は……逃げてたんだ、鬼から。 時間は少し戻る。 リベリスタ達が到着した街の様子は、日常を全て剥ぎ取られていた。 至るところからけたたましい音が響き渡り、北側の道路から死に物狂いで一般市民が逃げ惑う。 そんな人ごみを掻い潜り、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は垂直にビルを駆け上がる。 「予測道理に北側から敵が来てる……」 拡声器で広がった声はメンバー全員に行き届く。 「落ち着いて、押さないで……あっちに向かって、全力で逃げてっ」 『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)が拡声器で呼びかけながら一般人達の誘導を開始。傍では『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が道を塞ぐ物を押しやり、退路を広げていた。 「大丈夫だから、僕達に任せて避難してくれ! 誘導に従って!」 鬼の進行を阻む『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、怯えた子供達へ語りかける姿は心強く、覚束無いながらも子供達は走り出す。 (「疎らに散っているな、一網打尽にされるのを避けたのか……?」 『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は、敵の陣形を見据えつつブロックに回る。 同じく『白虎ガール』片倉 彩(BNE001528)も、接近を試みる鬼達へ拳を振り下ろし、行く手を阻む。 救援に駆けつけたリベリスタ達の誘導に従い、南側の方へと一般人達の避難は順調な滑り出しを見せた。 (「妙ね、鬼達に勢いがないように見えるわ」) 東側の方のブロックを担当する『似非侠客』高藤 奈々子が、最前衛の背中を見ながら何かに気付いた。 てっきり、近づいて残忍な攻撃をするのかと思いきや、ブロックされている敵達は早々進行を止めていたのだ。 そして1体の敵がブロックを掻い潜りながら口から火の玉を吐き出す、その狙いは逃げる一般市民……その頭上だ。 「蘭さん、衛守さん! 上よっ!」 アザーバイドの攻撃は一般市民に直撃すれば無事ではすまない、だが効率が悪い。 敵は建造物の破壊を狙ったのだ、倒壊せずとも砕けたガラスや金属片が降り注げばどうなるか? 敵という脅威に気付けども間接的な手段は予想外だろう。 爆音と共に降り注ぎ凶器、他の鬼たちも一斉にその辺の物体を攻撃開始。 倒れる観葉樹、捲れ砕けるコンクリート、鈍器と化して飛来する看板。 怪我人が1人出ただけで済んだのは幸いだろう、これも前衛のライン維持あってこその結果だ。 羽音が怪我人を背負い、避難誘導を続け、準備を終えた『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)とアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)が前衛へ走る。 「下がれっ!」 攻撃に参加させない様にオーウェンが鬼達へ爆発を叩きつけ、吹き飛ばすも、それぞれの鬼達の距離が開いているため1体ずつしか効力を与えられない。 歯痒い思いをしながらも、リベリスタ達の避難誘導と防衛線が続く。 「あせらずこちらへ!」 準備を終えた羽柴・美鳥(BNE003191)が避難誘導に加わる。 困難な闘い、その上で命を預かる大事な役目を担うプレッシャーに跳ね上がる心音。 羽音が怪我人を運ぶ間、しっかりと誘導のサポートをこなしていく。 そして、避難路の確保は凪沙が支える。 道を塞ぐ瓦礫を壊れたガードレールや柱で払いのけ、道の確保だ。 アクシデントにも崩れることのない避難誘導はスムーズに進み、7割という目処を通り越すと、リベリスタ達は合間をあわせ、AFからある物を取り出す。 鬼達の侵入を防ぐためのバリケード、そしてそれに選んだトラックだ。 トラック同士の隙間を抜けて、あとは残りを避難させるだけ、誰もがそう思った時である。 「皆トラックから離れてっ……!」 拡声器から全力の叫びを吐き出すアンジェリカ。 上から見下ろす映像はとんでもない事に気付かせた。 バリケードを築いた途端、敵がそれを一瞥し飛び道具を放つ。 炎、電気、投げ飛ばされた原付、真空波。 その向かう先がトラックだったからだ。 必死の言葉は届いただろうか? 今はそれ以上に大きな爆音が世界を包んでいた。 ●狼煙 トラックを一斉攻撃し爆発させると、後は広がるように連鎖を起こす。 誘導に当たっていたリベリスタ達が寸前のところで直撃を回避させるも、人々の足は浮き立ち、避難どころではない。 怪我人も2人出てしまい、バリケードが裏目に出てしまったようだ。 「マズいな」 ここで前線を離れ、オーウェンが市民を担ぎ出すのに加わればラインが崩れかねない事を理解していた。 「絶対に、誰も死なせない……!」 気合を入れた羽音が、意を決して怪我人2人を同時に両脇に抱え上げる。 力があれど、小さな体で2人を抱えるのはかなり難しいだろう。 決意はそれを覆すのか、運搬速度は落ちたものの確実に南側の向こうへと運び始めた。 「このっ!」 卑劣な手段をとる鬼へ、彩の拳が叩き込まれる。 先程までよりも鋭い一撃が、まるで体を貫くかの様に直撃し、予想以上のダメージを与えてしまったようだ。 「うぁっ!?」 勢いあまり撃破、さらには自爆の酸をモロに返され、爆発の勢いに地面を転がる。 アルトリアも敵を撃破するも、自爆は回避し、敵の勢いを押さえ込む。 「西寄りのトラックはもう燃えてないから大丈夫だよ! そっちから避難を!」 アンジェリカが通り抜けらそうなポイントを確かめると、美鳥と凪沙が急行。 「こっちは大丈夫です、落ち着いて避難を!」 「これを退かせばっ!」 美鳥が再び誘導を開始し、進路上にある障害物を凪沙が撤去していく。 ガードレールでも振り回して敵を追い払おうと思いきや、違うものを追い払う事になるとは思いもしなかっただろう。 二度目の奇策も破られ、堅牢な守りを見せるリベリスタ達に、鬼達の動きが再び変わり始めた。 攻撃の手を止め、ゆっくりと距離を保ち、終結し始めたのだ。 「来たみたいだぜ?」 夏栖斗の表情が歪み、トンファーを強く握り締める。 あの最悪な終焉を見せられた気分はなんとも言い表せない、愛する人を殺すことが最後の愛とさせる程の惨劇を思い出す。 リベリスタ達の視線のはるか先。 急接近するそれは人ではなく異形、この世界を破壊せんとする将の一つであった。 「手駒共が何をてこずっているのやらと思えば……そういうことか、使えん駒だ。 まぁ……」 そういう自分もきっと駒、そして奴らも誰かの駒。 いずれ使い捨てられるものならば、その前に全てを終わらす。 楽しむことで、奪うことで、壊すことで。 そして今日も鬼畜にとっての当たり前が始まろうとしていた。 ●最後の勝利者 「ここからが勝負どころだな!」 張り付いていた敵から離れると同時に振りぬいた脚から、風の刃が放たれる。 牽制の一撃を確実にぶつけ、鬼を1体撃破。 続けて上としたから合わせるようにアンジェリカのカードと、凪沙の蹴りの波動が同時に放たれ、リーダーを狙う。 蹴りを回避し、直撃しそうになったカードは傍に居た仲間を掴み投げ、盾にするという酷い守りを見せる。 その間にオーウェンは前衛の鬼達へ再び爆発を放ち、後ろへと追いやるがまだリーダーとの距離はあり、接近するのは難しそうだ。 「邪魔っ!」 「どいてっ!」 追い討ちを掛けるように待機していた羽音と彩が突撃し、追撃をかける。 しかし。 「またですか……っ!」 彩の攻撃から仲間をかばった鬼が目の前で自爆、再び酸を浴びせられ、体力を抉られてしまう。 「片倉さんっ!」 美鳥の詠唱が響き、それが徐々に音色を変えれば、福音のメロディへと変わる。 仲間たちに伝わるその優しい旋律は傷を癒し、彩の体力を補っていく。 (「様子見しているみたいね、それなら……」) 今なら攻撃するチャンスと奈々子も攻撃に加わる。 リボルバーから放たれる光は、十字の閃光を一瞬だけ見せ、リーダーへと吸い込まれる。 確実にダメージを与え、真琴が鬼へ光の大槌を叩き込み、2体目を撃破。 勢いにのり、ラインを押し上げるリベリスタ達をリーダーは冷静に見据える。 そして彼が狙ったのは彩だ。 手負いから確実に始末しようということだろう。 「っ……!」 弱ったところへ襲い掛かる鞭が、華奢な体を叩きつけ、直撃した脇腹を抉り、真紅の飛沫が舞う。 リーダーは傷に庇い手を当てた一瞬に先端を腰元へと絡み付け、捕縛すると、じりじりと引き寄せようと手繰り始めたのだ。 「彩ちゃんを離せっ!」 引き寄せようとするリーダーへ再び凪沙の蹴りのインパクトが走る。 若干そこに気を取られていたリーダーは回避が間に合わず、肩へ直撃し、黒く濁った体液を撒き散らす。 その瞬間、僅かだが自身を縛る力が弱まったのを彩は感じ取ったのだ。 「リーダーを攻撃すれば解けそうです!」 意外と物理的な拘束力らしい、だがタネが分かればそれほど怖いものではなかろう。 「それならこれで解いてもらうよ……っ」 「現世の異能者、高藤奈々子。悪逆非道な外道の鬼よ、吉備に代わって貴様を討つ!」 アンジェリカの不吉なオーラを纏うカードと、聖なる光の一閃が交じり合う様にリーダーへ射線を重ねていく。 先程までと違い、何故か部下を盾にせず、寧ろ前衛へと送っているあたり、何か考えがあるのだろうか? 甘んじて直撃を受け、拘束力は弱まるもまだ解ける様子はなく、このままでは引き寄せられてしまう。 「そろそろ突破させてもらおう!」 オーウェンは只管に思考の奔流を武器に具現化し、爆発を叩き込む。 彩が引き寄せられた時、突破が間に合わなければ彼女が危ない。 だが、前で防壁と並ぶ仲間を庇いに飛び出した鬼が1体だけ爆発の餌食となるだけで、ラインが崩れないのだ。 身を削ってでも、部下にラインを維持させる。 そして部下の死すらも厭わない、冷酷な手段だ。 夏栖斗の蹴り、羽音の刃、真琴の打撃にアルトリアの闇のオーラと、力ずくで防壁を破壊しようと掛かるが、緻密な立ち回りで最低限にダメージを抑えていく鬼達が行く手を阻む。 (「せめて1体でもっ!」) 必死に突破しようとする仲間達、彩も手負いの一体へ回し蹴りでカマイタチを放つ。 またしても飛び込んできた鬼の自爆に巻き込まれ、もがけど沈む蟻地獄の様な有様だ。 「クソッタレ共、血肉の踊る蹂躙のお時間だ」 その言葉と、全力で引っ張られた鞭が一気に彩をリーダーの下へと引き寄せる。 鬼達は防衛網を必要最低限に切り替え、攻撃態勢に入っていく。 肩から不時着する彩の瞳には、己の腹を貫こうと迫る爪が映り、地面を転がり回避を試みるが。 ぐしゃっ。 狙い外れたが、肩の関節を貫き、肉の潰れる嫌な音が鼓膜を揺るがす。 痛みに意識を失う暇もなく、浴びせられる鬼達の攻撃に命の灯火すら消えかけていく。 「これで突破出来るはずだ、後は任せる」 防御体制が崩れたそこを狙い、オーウェンが全身全霊の力を集中させ、大爆発を巻き起こす。 現象化された破壊力が、彩との間に割り込んでいた鬼達を一気にリーダーの方へと吹き飛ばし、2体を爆死までさせ、大きな一本道が生まれる。 真琴とアルトリアの攻撃で先陣を切り、リーダーへ手傷を負わせたところへ、チェーンソーを唸らせつつ羽音が突入。 「鬼は、鬼らしく……さっさと、退治されて?」 迸る電撃の刃で袈裟斬りを放ち、リーダーは自慢の爪でそれを受け止めるが。 「ぐぅっ!? 貴様ぁっ!」 爪が耐え切れず、たやすく砕け散り、胸元に大きな裂傷を刻む。 仕返しと、反対の手に宿した爪でカウンターを狙うリーダーへ、奈々子の弾丸が腕へ命中し、反撃を許さない。 「今よ、続けて!」 呼応して全力疾走で飛び込む凪沙へ、勢い任せの爪が迫る。 「ねじ伏せるよっ!」 軽く身を横に揺らし、フェイントを掛けて空振らせると、隙だらけの脇腹へ掌を叩きつけた。 ドンッと体が浮かび上がり、滞空するそこへ、アンジェリカの追撃が迫る。 「地獄で極卒にでも就職するんだね……!」 死をもたらすとすら言われるオーラの塊、その爆弾を拳ごとリーダーの顔面へ叩き込む。 振り抜かれた勢いで後ろへと飛ぶ姿が爆ぜ、勝負がついたと思いきや、煙の向こうから殺気まみれの眼光が向けられ、彼女へ爪をねじ込もうとしていた。 「セコイ手ばっかり使って、お山の大将気取りは楽しかったかっ?」 アンジェリカの影から迫る夏栖斗が一気に距離を詰める。 認識できる爪の切っ先がスローで焼きつき、頬を掠めながら通り過ぎ、掌底が穿つ。 そのまま体を捻る様にして腕を押し込み、螺旋の動きが奥底まで衝撃を逃さず与え、リーダーを吹き飛ばす。 瓦礫に激突した鬼の頭が、息絶えると共に部下の鬼達も散り散りに逃げ出し、戦いは終わりを告げた。 ●乗り越えた未来 「あっ、お目覚めですね?」 戦いが終わった後、美鳥は彩の治癒に当たっていた。 治療しやすい場所までは羽音に運んでもらい、今に至る。 こうして術を掛け続け、それなりの時間は経過するも、リーダーの最後を確かめたと同時に気絶した彩も無事意識を取り戻したのだ。 一般市民の避難は成功といえるだろう、これだけの奇襲に見舞われながらも死者が出なかったのは十分な成果だ。 起き上がった彩の目に飛び込んだのは安堵にざわつく人々の姿だ。 「それに、あの姉妹も無事ですよ」 美鳥が指差す先には、イヴに見せられた悲惨な運命を迎えるはずだった2人がいた。 あの時は殺されてしまった両親も無事生き延び、家族そろって存命だ。 他のメンバーも、2人の無事を確かめ、表情が緩む。 ただの陽動に潰されかけた幸せはこうして今も無事に輝く。人知れず世界を守っていたリベリスタ達にとっては、何よりもの喜びなのかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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