● 「さて……依頼よ」 『硝子の城壁』八重垣・泪(nBNE000221)は集まったリベリスタ達にそう告げた。 モニターには既に映像が映しだされている。下水の入り口、それは何処かで見たような場所だ。 「再戦か?」 リベリスタはそう問いかけた。しかし泪は首を横に振る。 「残念ながら、そうではないわ。再戦ならばここまで時間が開きはしない。以前、撃破がかなわなかった八雲・耀は、あれからすぐに姿を消している。あちらにしても撃退しただけなのだから、当然だとは思うけど」 リベリスタ達は頷いた。別段、其処は守るべき場所でもない。 討手が来てなお居続けるのはその方が不自然というものだ。 「では、他の連中も?」 「それが、残り三名に関しては残ったままなのよね。余程その場所に思い入れがあるのか、自分達に狙われるような覚えは無いと考えているのか、それとも、何が来た所で撃退など容易だと考えているか」 最後は少し考えづらいけれどね、と泪は言葉をついだ。 所詮、ある程度のレア・アーティファクトを所有するフィクサードと言っても個人は個人。 リベリスタ組織が狩るつもりでやって来るのなら、把握された拠点に居続けるのは自殺行為だ。 「私としては二番目だと考えている。これまでの罪状だけで撃破のための部隊を編成しなければならないほどタチが悪いのは、この間の一人くらい。残り三人は概ね、ただの引き篭もりなのでしょう」 素性は特定されていないけれどね。そう言い添える泪の声には、わずかに弁解じみた響きがあった。 「さて、ここからは仕事の話。腕試しとしては、つついた甲斐はあったという所かしら。彼等は蜘蛛の消えた2層に、それに代わる番犬のつもりか、アーティファクトを一つ配置している」 これまでにも似たような物を見たことはあるだろう。 それは自動的にエリューションを発生させる類のものだ。 「リベリスタからすれば、何でそんな物を保有しているのか、また欲しがるのか、不思議だと思うでしょうけれど。フィクサードは時折エリューションを戦力として用いる事がある。でも、進行性革醒現象によりエリューションの『道具』としての寿命は短い。大抵の場合、使い捨てにするしかないのね。だからこの手のアーティファクトは向こうとしては使い易く、ポピュラーな物というわけ」 仕事の内容は回収か、破壊かといった所になるのだろうが、当然ながら皆には使えない。 泪は苦笑しながらそう告げていた。 「さて、アーティファクトの詳細について説明するわ。それは『レギオン』と呼ばれている。チェスの駒一式が革醒した物よ。効果は周囲に存在する物質を使ってE・エレメントを作ること。作成されるE・エレメントは駒と同じ形で、駒の種類に応じた能力を持っている。なかなかに面倒ね」 つまり敵の内訳はキングが1体、クイーンが1体、ルークが2体、ナイトが2体、ビショップが2体、それにポーンが8体で計16体という事だ。泪の言葉に訝しげな顔をするリベリスタ達。 「それは……それぞれの駒が1体までしかE・エレメントを作れないって事でいいのか?」 「その前に『同時に』が付いていれば御名答、だったわね。ただ、素材となる物質さえあれば幾らでも補充が可能。今回は1層に穴を開け、そこから引いた汚水をその素材として利用しているみたいよ」 なるほど、とリベリスタ達は頷く。 つまり今回の仕事は、なるべく敵との交戦を避けながらアーティファクトを探し、破壊か回収を行う。 しかる後にエリューションを殲滅する、と。そういう事な訳だ。 「16の駒は4つずつほど、分けられて配置されているわ。戦場となるフロアは格子状の通路で構成されているから、追い詰められないように、というのが注意点かしらね。……あと、貴方達の聞きたそうな事は、駒が地面もその素材として利用するのかって事くらいかしら?」 その心配は無いと泪は言う。いや、実際アーティファクト効果から言えば石や土を素材としてE・エレメントを作る事は十分にありうるのだが、その場合侵入者がE・エレメントを破壊するだけでアーティファクトは埋まって行ってしまう。 「穴の底にE・エレメントが生成されて進退きわまってる……なんて姿は酷くシュールよね。番犬としても役に立ちやしない。という訳で、あちらもそんな配置にはしていないわ」 飽くまで水のみを素材として使用するよう設置しているだろう、そう泪は言った。 「それでは、この依頼を貴方達に託しましょう。……健闘を祈るわね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月27日(月)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 下水には『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が以前訪れた時と同様、冷えた闇が広がっていた。 いや、一層から水が引かれているからか、更にその温度を落としたかのように思える。 空気はわずかに湿り、臭気が増している。この場に充ちた墓所のような気配は幾分薄らいでいた。 「……噂には聞いてたけど、ほんとに地下ダンジョンみたいな所よね」 自身を発光させた来栖・小夜香(BNE000038)の周囲で、闇が押し退けられる。尤も、彼等8名のうち実に5名が暗視を活性化させているとあって、元よりそれらの目には暗さなど問題とはならなかったのであるが。 ともあれ、これで此処に足を踏み入れた者達全ての前に、此度の戦場はその姿を晒したというわけだ。 壁は洞穴と呼ぶのが憚られる程には滑らかであった。 白く描き出された蜘蛛の巣は、もう此処には居ないかつての主を思い起こさせる。 「蜘蛛の巣は、転じてチェス盤と化しましたか」 指を沿わせて検分しながら、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)。 その言葉を受けて、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)は呟きを返す。 「しかし何故、下水にチェスなのか……。何とも似合いませんね」 「いえ、面白い趣向だと思いますよ。色々な意味で」 モニカはふと、取りようによっては苦笑とも思えないではない息を吐く。そして続けた。 「汚水を素材としているという事は、きっとあちらは黒駒なのでしょう」 「……どういう意味なの?」 『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)は傍らの『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)に問う。そうですね――と一息を置いて、ユーディスは答えた。 「黒の駒は上手、挑戦を受ける側が使用する駒です。差し詰め私達は白駒ということですか……」 チェス盤を思わせる戦場。チェス駒を模した敵。 深読みをするなら、この配置は多数の意味をはらんでいた。単純な防備としてだけではなく挑戦を受けるという意思であり、侵入者も所詮何処かの組織の手駒に過ぎないのだろうとの嘲弄である。 「不愉快なものだ……」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は低い声音で吐き捨てる。 「その様な遊びに付き合う義理はない。我々はただ、任務を遂行するのみ」 「そう……ですね。アーティファクトの乱用は許容出来ない。それだけですから」 ノエルは言った。だが、その言葉は先程よりも僅かに怒気を帯びたかのように聞こえただろうか。 「では、任務を開始する」 懐中電灯を持ち、最前列を進むウラジミール。その後にリベリスタ達は続いてゆく。 今回、リベリスタ達が探すのは、エリューションを生み出すアーティファクトである。 その際素材として利用するのが周囲にある物質。それには一層から引いた汚水を使用する。 壁や床を素材として使わぬよう配置されている――との説明が在り処を示す手がかりになるのではないかとノエルは考えていた。すなわち吊るされるなり、或いは水の中に浮かべられるなりしているのでは、と。 水音を追って反時計回りにフロアの探索を始めたリベリスタ達が発見した一つ目の『レギオン』は、まさにそのようにして設置されていたのだった。 「いやはや、隠されるでもなく堂々と」 「ですが、この配置では無理からぬ事と言えましょうか」 天井に開いた穴。そこから流れ落ちる汚水。 アーティファクトはその水の中に、ワイヤーで一まとめにされて吊るされている。 「所詮は急ごしらえの仕事……少し、考え過ぎたのかもしれませんね」 ノエルはそう言った。しかし、さて破壊なり回収なりとリベリスタ達が動き出した時、ぐるぐは言う。 スプレーの缶を持って。壁面に『ぐるぐ参上』との落書きを記しながら。 「あ、ポーンみっけ」 即座に臨戦態勢に入るリベリスタ達。 しかしそれに先んじて動いたのは『底無し沼』マク・アヌ(BNE003173)であった。 これまでは呻き声をあげながらふらふらと付いて来るばかりであったのだが、流石、敵を見かけた際の反応は迅速である。主に食欲の関係で。 ひらめく牙。一撃で倒れ、消失するポーン。 同時に後方――水音の側から異音が発し、一体の柱にも似たE・エレメントが生成される。 「こんなに補充が早いって……」 闇紅は呻いていた。もう少し猶予はあるものだと思っていたのだが。 そして、それと時を同じくして彼等と『レギオン』の間に開いた十字路からは、新たな黒駒が姿を現す。 ● 「ナイトか……」 馬を模ったその駒に、ウラジミールは視線を据えた。 「だが、やる事は決まっている。破壊して道を切り開くのみ」 コンバットナイフを構え、彼は自身にオートキュアーの付与を行う。 「さて、ここからは忙しくなりそうですね」 言いつつ砲を構えるモニカ。どの程度の間隔でキングとの連絡が取られているのかは分からないが、まさかこれで気付かれないという事もなかろう。直ぐに敵はこの場所へ集まって来る筈である。 「そういえば、あれは破壊しても良いのですか?」 ふと、思い出したように問う。 出発前の確認では、その方針や誰が停めに行くのかといった物はなかったように思うのだが。 「基本的には回収の方針で行きたいわ」 小夜香が返す。無論、無理そうであれば仕方がないが。 モニカは肯き、そして耳を聾する砲撃音が鳴る。火線に導かれるかのように、既にマクは突進していた。 破砕されるポーン。ナイトに食らいつくマク。 「チェスの駒と戦う等、なかなかできる経験ではありませんね」 続くノエルは騎士槍を振るい、人間大のチェス駒、ナイトへと突きかかる。 反撃は重い刃風であった。痛打を食らったマクが転がり、しかしすぐさま立ち上がる。 「ん……理性さんオンライン。困るわ、すぐにお腹が減って」 「そう、頭がはっきりしたなら手伝って……」 闇紅は言い、ナイトの脇をすり抜ける。先程あった再生成の様子を見る限り、殲滅を待って回収などと考えていては追いつかないだろう。戦闘の最中に奪い取る必要があった。 「まず、4つ……」 ワイヤーを叩き切る広刃剣。水流に流される駒を、闇紅は片手に掴む。 「後方、ルークとビショップ!」 告げるユーディス。モニカの抱える砲が弧を描いて回転し、そちらの側を向く。 だが、ウラジミールがそれを制していた。先へ進む事を促す。 「この程度の数ならば、あえて戦う事もあるまい」 「あ、そうだ。停止の方は? あと駒の種類って何でした?」 ワイヤーを外しにかかる闇紅にたずねる、ぐるぐ。ポーン4つとの返答と共に、駒が一つ投げられて来る。 手早く指先を駒に走らせ、ぐるぐはそれを停止させた。 「これをあと3回……気長に、すら出来たものではないのね」 闇紅は言い、背後を振り向いた。追い縋る駒は更にポーン2体をその数に加えていた。 「ああ、もう……こんなに慌しい事になる筈じゃなかったのに……」 前方に飛び出した駒を槍が穿つ。 更にその先へ現れる駒へと肉薄するノエル。しかしその姿を見た時、彼女の瞳は大きく見開かれた。 「クイーン……ッ!」 既に『聖約』を纏う『摂理』の一撃。ダメージに顔を顰めながら後退するノエル。 だが、それと入れ替わるようにぐるぐが放つアデプトアクションに、駒の身を覆っていた付与は揃って霧散した。 「ねぇ、せっかくの自付ブレイクされちゃったけど今どんな気持ち? どんな気持ち?」 クイーンは無言のままに再び自付与を開始する。 「一番つまらない反応を!」 「遊んでいる場合ですか!」 何やらショックを受けたらしいぐるぐに、飛ぶユーディスの叱責。わずかに頬を膨らませたぐるぐはクイーンの打撃を回避し、ついと身を滑らせたウラジミールのナイフが駒の中央を抉る。 「戦闘は出来る限り回避しましょう。アーティファクトを抑えない限り、きりがないんですから……!」 焦りはユーディスの胸中に膨らみつつあった。基本、押し通るため以外の戦闘は無益である筈。だと言うのにあまりにも味方にその意識が乏しく思える。 「祝福よ、あれ」 ノエルの傷を癒す小夜香。次はどちらへ向かえば良い――その目配せに、モニカは先導して応じる。 彼女には見えていた。空気中の温度の違いから、湿度が高まる方向が。水源は4つあるためあまり精度が良いものとは言い難いが、現状その程度しか『レギオン』の在り処を辿るに適した手段は無い。 次々と現れる敵をいなし、打ち砕きながら、リベリスタ達は駆けて行く。 ● 「二つめ!」 先程と同様に、流れ落ちる水の中、ワイヤーのきらめきが目に飛び込んで来る。 未だ20メートル以上はあり、その前には守るように幾つかの駒が立ちはだかっていはしたのだが。種別は最前列に置かれたポーンのせいで判然としなかった。 「自ら射線に身を投じる……。まさに、捨て駒ですね。お望み通りに散らせてあげるとしましょうか」 弾幕を張るモニカ。前列のポーンがあっけなく四散し、更に舞うようにして数十の破片へと散る。 だが、後列に居たルークはその城砦を模る姿に数発の弾痕を刻みながらも揺らぎすらしなかった。歩兵との明らかな耐久力の差を見せつけ、こちらに迫って来る。 「迂回路を取るべきでしょうか?」 「今更ながら……隊を分けるという選択も有りだったかもしれないわね」 冷や汗を拭きながら言い交わすユーディスと小夜香。駒の戦力を過小評価し過ぎたのだ。その間もノエルとウラジミールが果敢に打ち掛かりルークを沈めるも、目前にした『レギオン』が同じ駒を生み出したのを目にし、彼女も目標の下方修正を心に決める。 「……破壊して」 「ええ……私は元より、そのつもりでしたから」 吊られたアーティファクトを対象に含んだハニーコムガトリングが、4つの駒を打ち抜いた。 「先に回収したのがポーン4つ。初期配置の並びと同じであるなら、ルーク・ナイト・ビショップ・クイーンを破壊した筈ですが……」 思案するように言うユーディス。破壊を躊躇った理由、そのデメリットは此処にあるのだ。 壊した駒が何であるのか分からないという事。結果、無益な戦闘を行わねばならない確率が幾分か増えるというだけではあったが。 「それで間違いは無い。自分の記憶が確かであれば、だが」 ウラジミールはぼそりと告げていた。彼の暗視を併用したイーグルアイは、駒の小ささも、あの程度の距離も問題とするものではなかったのだ。 しかし―― 「今、思ったのですが。此処は格子状の通路で構成されたフロア。見通し自体は良いのです。最初からその視力を使っていれば、アーティファクトの発見は容易だったのでは……?」 継がれた言葉にウラジミールは沈黙でこたえていた。 残るアーティファクトは8つ。敵数は、それより数体ほども多いか。 アーティファクトの回収と停止、そして対応する駒の破壊がスムーズに行けば、敵の数は徐々に減り楽になって行く筈である。 このまま行けば最後に残るのはポーン4つか。僅かな余力でもあれば容易な事だろう。 「そういえば、キングの姿を見ていませんね……」 ユーディスは言った。確か、キングには戦闘能力は無く、代わりに指揮と通信能力があったのだったか。 であれば積極的に姿をみせる筈も無い、というのは納得が行くことではあるのだが。 「いやな予感がするわ。……だって、いつの間にか、後ろから追って来る筈の駒達が消えているのだもの」 引き攣るような微笑を浮かべ、マク。最早この先の展開は予想されたようなものだ。 「……福音よ、響け」 それを悟った小夜香は全員の傷を回復させる。この先――キングを含む『レギオン』の配置位置では、残りの駒達が全て揃い、それを固めているに違いないのだから。 ● 鏡を使い、曲がり角の先を伺うウラジミール。 ポーンが見えるだけで2体。その後方にルークとビショップ、ナイト。 流れ落ちる水の近くにはキングとクイーンが揃い、それらは微動だにしない。 「……最後の山場とは言え、嫌になるわね……」 闇紅は呆れたような笑みを浮かべた。これまでは数体と出会い、戦うのみであったが、全種の駒が揃い守りを固めるこの陣容はまさに『軍団』である。 「騎士同士、正々堂々……とはいかぬのが手間ですね」 だが、ノエルの声に惜しむような響きは無い。相手が駒では――騎士と言われても興が乗るでもない。 「まぁ……これはゲームです。楽しんで行きましょう、ほどほどに」 そして、モニカは面白くもなさそうにそう告げた。 ハニーコムガトリングの一撃に、掃き散らされるポーン。 その後ろから進み出るルーク2体に、ノエルとウラジミールは突進する。 「どちらかは再生されない筈、ですか。残念ながら見分けはつきませんが」 とりあえずは一体を飛ばす――と、ノエルは右のルークに向かいメガクラッシュを叩き込んだ。 僅かな隙間より見えるビショップ。其処に闇紅は壁を蹴って空中から斬撃を入れる。雷撃の槍が閃き、退避する闇紅の傍をかすめ過ぎてゆく。 キングはどうやら、十字路の端に身を隠しているようだった。リベリスタ達が姿を現すのと同時、その特徴的な駒は視界の中から消えている。 だが、今気にかかるのは攻撃能力を持たないそれではない。 「ナイトが居ない……?」 待機しながら駆け抜ける機会を伺っていたマクが言う。先程までは確かに見えていた筈だが。 「ぬっ……!」 急加速するルーク。駒の側面が拳のような形に分離し、ウラジミールを襲っていた。直撃を受けたウラジミールは苦い吐息を肺から搾り出す。それでも一撃程度なら問題は無いが―― 駒たちの間をすり抜けるようにして、突進するクイーン。雷光のような一撃を食らい、ウラジミールが膝を折る。更に雷撃と前衛に復帰したルークの拳を受け、ノエルが床を転がった。 「……このような場所で死ぬのは御免ですからね」 途切れそうになる意識をかき集め、再び立ち上がる二人。 流石に、単体で出会った時とは話が違うという事か。額に冷や汗が流れ落ちる。 入れ替わりに前衛へ出たぐるぐはクイーンにアデプトアクションを放った。しかしこれは庇いに入ったルークを叩き、ビショップがその傷を即座に回復させる。 アーティファクトへのたかが30mがやけに長かった。立ちはだかる壁は分厚く、各々が能力特化しているとあってその連携には隙がない。じりじりと体力とエネルギーが削られて行くばかりである。 その時、状況を変える声は後方より響いた。無論、悪い方向に。 ポーン2体を伴ったナイトが背後に姿を現したのだ。モニカはそちらへ砲を向け、ポーンを一掃するもその一撃ではナイトは砕けない。 陣形内へと踊り込むナイトを、迎撃するユーディス。 同時に前方のE・エレメント達も攻勢に出る。ルークの一体にギガクラッシュを叩きこむノエル。回復が飛ぶ前に、跳躍したマクは爪の一閃をその城壁に頭上より突き入れる。 破砕されるルーク。再生成は――なされなかった。どうやら二分の一を引けたらしい。 次いで、ウラジミールのヘビースマッシュ、ぐるぐのアデプトアクションがクイーンを捉える。絶望的な罅を刻みながらも反撃を行うクイーン、そしてもう一体のルークが至近距離にいたぐるぐを叩き伏せた。 「福音よ……!」 小夜香は仲間たちを癒していた。響く福音にあと押されるように、再び跳ぶ闇紅。 剣は最も大きい罅へと沈み、それを割り砕いて行く。 「さて。……道が開けましたね」 ルーク、ビショップはほぼ一直線に並んでいた。キングは視界に無く、ナイトは後方でユーディスに停められている。モニカとアーティファクトの間に遮るものはなく、確かに射程内にそれをおさめていた。 掃くように、銃火が閃く。太い火矢は水柱を貫き、アーティファクトの破片を散らしていた。 それを待ってユーディスは目前のナイトに魔落の鉄槌を振り降ろす。 耐え忍んで来た時間を思わせるように、渾身の力を込めて。吸い込まれるかのように。 二分されるナイト。同時、一気にキングのひそむ十字路へと駆け込んだぐるぐは、身を強張らせるその王冠を手の届く距離にみつめていた。こんな姿でも、直感的にその急所を悟る。 まずはその先っちょ、細く括れている所をぶっ壊してやるぜ! 「チェックメイト!」 残るポーン4つの回収には、特に語るべき事もあるまい。 彼らは適当にポーンをぼてくり回し、彼らの手には8つのチェス駒が握られていた。 「う~ん……結局半分か。上手く行かないもんですねぇ」 シンプルな黒駒を眺めながら、言うぐるぐ。 「おなか、へった、れす」 かじかじと駒を齧っているマクから慌ててそれを取り上げたユーディスは、一度後ろを振り返る。 「ともかく、これで……この先には、何があるんでしょうね」 そう。一層で出会った騎士の主についても、確かな事は未だ語られないままだ。 一応の警戒の目を投げる小夜香。だが、暗い下水の中は不気味なまでに静まりかえっており、リベリスタ達以外の動くものの気配はやはり感じられない。 「……とにかく、もう終わったのよね。これをアークに押し付けて、さっさと帰りましょ……」 疲れ果てたかのような闇紅の言葉に、リベリスタ達は頷いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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