下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<鬼道驀進>矢盾の石


 鳥居を潜り、長い参道を進んでゆく。
 その一行の姿は真昼の光に晒されて明瞭である。それは明らかに人ならざる異形の姿。
 大柄な体躯、簡易な具足を身に付けた身体は、はちきれんばかりの筋肉に覆われた赤銅の膚である。
 腰には太刀を佩く者も居れば、手に金棒をぶら下げただけの者も居る。後に続く二名は弓を負っていた。
 良く訓練されているのであろう物腰と、装備の不揃いさがアンバランスな一行。彼等は揃ってその額に一対の角をそなえていた。
 そう、彼等は鬼だ。鬼達は一声も漏らさぬままに、参道に草履の擦れる音のみを響かせている。

「……空斎殿。封印はこの先か」
 との問いは鬼達のひとりから、道が急な石段にさしかかる頃になって発せられたものであった。
 鬼達の身体に隠れ、これまで目立たなかった墨染めの法衣姿が「いかにも」と言葉をかえす。
 この遣り取りはこれが初めてではない。これまでの道中で幾度も行われていた。
 その度に空斎と呼ばれた法衣姿に付き従う鬼達は押し黙り、再び歩みを再開していたのだが。
 今回ばかりはそれでは済まない。何やらこの場の空気に中てられたのであろうか、彼らの胸には次第に興奮のようなものが広がりはじめ、ひとりの鬼が空斎に重ねて問うていた。
「そろそろ説明をして頂きたい。我等も封印がどのような形をしているのかが分からなければ働けぬ」
「……見れば、分かる。この上じゃ」
 ついと法衣姿が顎をしゃくってみせた。鬼達はなおも納得がいかぬといった風で、しかしそれ以上は言わず、石段を上りきってそこに広がる頂の景色を見た。
「これは。……空斎殿、何も無いではないか」
 周囲をぐるりとまばらな木に囲まれた広場。そこには大きな石が環状に立ち並んでいた。
 中央に一際大きい岩には祠が設けられ、なるほどこれかとばかりに鬼はその扉を叩き壊す。
 だが、その中は空であった。
「どういう事か、説明をして頂きたい」
 鬼は空斎を振り返る。その言葉は冷静ではあるが、表情は明らかに怒りを抑えたものであった。
「だから言ったであろう。見れば、自分には見えぬ事が分かるじゃろうと」
 空斎は被っていた笠を投げ捨てた。つるりと剃った頭に一本の角が生えている。彼もまた鬼である。
 しかしその身体は枯れ木のように細く、一般的な鬼のイメージとは程遠い。
 彼の言葉に色めき立つ鬼達。しかし彼はそれらに構わなかった。
 托鉢碗と錫杖も捨て、祠には見向きもせずに立石の一つへと向かい、まるで刀を握るかのように揃えた両手を振るってみせる。
 その瞬間、光を帯びた空斎の手が、ぞるりと空間を割る様が、周囲の鬼達にもはっきりと見えていた。
「まず一つ……残り5つを破壊した後、ここの何処かにあるという亀石を割る。その時には御主等の力も必要となるじゃろうて。わしは物理的な物を壊すには向いておらぬからのう」
 笑みすら浮かべずに言う空斎。しかし鬼達の彼を見る目に、疑念の色は最早なかった。


「さて……依頼よ」
 『硝子の城壁』八重垣・泪(nBNE000221)はいつも通りにそう告げる。
「今回の任務は結界の防衛。と言っても何の事か、すぐには分からないでしょうけれど」
 モニターに映し出されるのは岡山県の地図である。
 あえて全体像をみせたのだろう、彼女はすぐにそれを拡大し、ひとつの遺跡を映す。
「アザーバイド『鬼』の事件が岡山で頻発しているのは知っているわね。それに進展があったわ。ここでも今回の依頼を遂行するのに必要な事をかいつまんで説明するけれど、まだなら報告書は読んでおいた方がいいわね」
 泪は言った。鬼とは、一千年以上も前に当時のリベリスタによって封印された存在であるらしいと。
 何故それが今になって現れたのかと言えば、それはジャックの一件により日本の崩界が進んだ事で、封印の効力が弱まったからと考えられる。
「でも、未だ封印は完全に解けた訳では無いわ」そう彼女は続けた。
 岡山県内に多数存在する霊場や祭具などが、そのバックアップとなっているのだ。
 鬼は次々と姿を現しているとはいえ、鬼の王と呼ばれる『温羅』を含めその大部分は現在も封印状態にあり、現状の維持がかなうのであれば少なくとも『大物』が姿を現す事は無いと思われる。
 そう――現状の維持が成るのであれば。泪はくすと笑ってみせた。
「当然ながら、現在復活している鬼の目的はこの封印の破壊……という事になるわけね。『禍鬼』と呼ばれる鬼をリーダーとして動いている事が確認されているわ。ここまでは良いかしら」
 確認するようにリベリスタ達を見回す泪。彼女はライターを手の中で玩びながら、続ける。
「ここからが仕事の話よ。つい先刻、『禍鬼』が部隊を編成し各地へと送り出す姿を『万華鏡(カレイド・システム)』が感知したわ。既に告げたように目的は封印の破壊。そして貴方達には此方を防衛して欲しい」
 彼女が示したのは、先ほどよりモニターに映し出されている遺跡であった。
「楯築遺跡。弥生時代に作られたと言われる古墳。吉備津彦が温羅との戦いに備えて防戦準備をした地とも言われ、楯築神社には鬼神退治に関わったとされる人物が祭神とされている。そんな所らしいわ」
 しかし神社とは言われるものの、その実体は祠一つである。
 古墳であった為に幾度も調査が行われ、副葬品も当然ながらそのままではない。
 御神体とされる亀石自体も動かされ、現在は立石から少し離れた収蔵庫におさめられているのだ。
「これを聞いて思ったでしょうけれど……通常なら既に封印は壊れていてもおかしくはないわね。この状態でも変わらぬ効力を発揮しているのは、さすが縁の地と言えるのかしら」
 泪はそう言ってみせる。しかし今回此処へ送られた鬼は、その場に張られた高次結界ですら解除する術を持っているのだと彼女は続けて、僅かにその眼は細められた。
「破邪刀勢。そのスキルはそう呼ばれている。鬼が使う術としてはおかしいと思うかしら? 本来この地へ送られた鬼――空斎の持つ特性ってのは、ラーニングただ一つなのよ。つまりこのスキルは、古代のリベリスタが使用していたスキル。それが現代で、鬼の封印を解くために使われるって皮肉よね」
 それ以外には筋骨隆々たる赤鬼が7体。総勢8体が今回リベリスタ達が相見える敵だ。
「封印の防衛自体はそう困難では無いと思うわ。空斎が6つの封印を斬り終える前に彼を倒すか、最悪亀石が割られる前に赤鬼の数を1体以下に減らすか。だから、なるべく討ち漏らしが出ないよう注意して頂戴」
 泪は言い、そしてリベリスタ達を送り出した。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:RM  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月03日(土)00:05
ストーリーテラーのRMです。
全体依頼。皆様には封印防衛の任について頂きます。

◆成功条件
・封印が完全破壊されていない事
 場による封印が環状立石での6つ。神器による封印が亀石。二つ存在します
 片方が防衛出来れば不完全ながら防衛成功といたします
・鬼達の撃退

両者を満たしてシナリオ成功となります

◆敵数・敵能力

アザーバイド 空斎
神秘的なものの探知能力に優れ、ラーニング能力を持つ鬼。知能は高めらしい
スキルは回復・補助が殆どであまりアタッカー向きではありません

地湧泉 (回復 神遠単 HP回復)
金剛力 (補助 神遠味単付 物攻上昇・BS無効)
結界印 (補助 神遠味全付 物防・神防上昇)
破邪刀勢 (攻撃 神近単 神防無・ブレイク)

アザーバイド 赤鬼
太刀持ちが2、金棒持ちが3、弓持ちが2
パワーとタフネスに優れ若干脳筋ぎみな鬼達です
それぞれの能力は皆様の平均より若干高め程度。普通にぶつかり合っては押し切られるでしょう

◆戦場
岡山県、楯築遺跡内。時刻は白昼。
立石がある場所と収蔵庫がある場所、二つの広場が存在します。
収蔵庫がある側には中央に給水塔が一つ。それ以外に特筆すべき点はありません。
実在の地形を使用してはおりますが、ある程度アバウトに考えて頂いて結構です。

以上
皆様の参加をお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
デュランダル
神狩・陣兵衛(BNE002153)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
ダークナイト
ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ダークナイト
アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)


 赤鬼達の中に、この枯れ枝のように細く小柄な鬼に対する疑念は最早無い。
 だが結局のところ、この場の結界が全て破壊されるまで自分達に出来る事はないのだと理解するまでに、さほどの時は要らなかった。
 他の鬼達は如何しているのだろう。好きなように霊場を破壊しているのだろうか。
 それとも、逃げ惑う人を襲っているのであろうか。
 やはり貧乏籤を引いたのではないかと、疑念は無くともその思いはつきない。
 鬼がリベリスタ達の姿を認めたのは、そんなさなかであった。

 さて――少々時間は遡る。
 リベリスタ達がこの場に到着したのは、空斎が一つ目の結界を切り裂く僅かに前である。
 距離的には、間に何も遮るものがなかったと仮にしたならば、鬼の背を見る事が出来ただろう。
 無論、千里眼を活性化している『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)にとっては容易い事である。
「いるいる、おっかない鬼さん達が……。いやぁんこわぁい、俺様ちゃんたらちびっちゃいそ」
 彼は道化の如き気配を纏っていた。だがそれは、別段己の内面を隠すためのものでもない。
「ま、気張りましょうねぇ。愛するフィクサードちゃん達狩られたら、殺人鬼として嫉妬しちゃうし」
 そう。単に滲み出しているばかりなのだ。唇をゆがませながら、彼は笑ってみせる。
「ラーニングを用いる鬼、か……。御同輩ではありませんか」
 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は楽しげに呟いていた。『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)はその言葉を受けてこたえる。
「その本質が学習に根差しているというのは面白い。他者に依存するものであるとも言えますが」
 鬼は大抵の場合、異形と剛力によって描かれる。海を隔てた大陸では死者、或いは不死者の意味だが、この国ではむしろイメージとして欧州のオウガに近いのは不思議なことだ。分類不能な妖の類を総て鬼と呼んでいるとの一面はたしかにあるのだが。
 さて、そういった意味では今回、鬼の一団を率いている者は若干の変わり種であった。
 探知、解析、そして習得を特性としている。体力面に乏しく見えるのはその代償であろうか。
「鬼って言ってもいろいろな鬼がいるんだねー」
 『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)はそのように感想をのべる。
 ラーニングを使うという事は、人を沢山見て来ているのだろう。だが、人と鬼との違いは、岬にはあまり感じられなかった。何しろ、鬼よりも『鬼らしい』と喩えられるような人間を幾人も見て来ているのだから。
 彼は――いったいどう思っているのだろう。人や、鬼を見続けた結果として、その違いについては。
「変わった鬼とあって、興味は尽きぬようじゃの。されど此度は封印も捕獲もない……」
 『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)は諸々引き取ってそう告げていた。
 既に紫煙を吐き出し終えた煙管の灰を、掌に叩き出す。
「当時のリベリスタ――儂等のご先祖とも言えようか。その者達の意思は継がねばなるまいて。
 野望諸共、鬼共の命、断ってみせようぞ」

 後方を向いていた弓持ちの鬼。それとリベリスタ達が姿を認め合ったのはほぼ同時である。
 『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は鬼の姿を見るのは初めてではない、が。
 彼は赤鬼達の奥に見える、法衣姿に目をとめていた。
 ――厄介な手合いだ。そう心中にごちる。
「ふむ。止めに来たか……陽動は行うという話ではあったが、当然の事よな」
 空斎は驚くでもなく告げる。彼が命じるまでもなく、戦いたいとの素振りを隠さなかった赤鬼達は、空斎の発した言葉が制止ではなかったという時点で既に動き出していた。
「やい、鬼ども! 来るなら来やがれよ!」
 吼える『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)。
「……っ!」
 『ナーサリィライムズ』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)は、怯えたように。
 しかし同時に鬼達を哀れむような視線を向けて、身を縮こまらせる。わずかに身体を退かせていた。
「だが、止められぬよ」
 リベリスタ達の姿に視線を一巡させる空斎。その面に表情は乏しく、しかし無表情ではない。
 赤鬼にずっと向けられていた視線はそのまま変わらず、退屈そうな瞳がリベリスタ達を眺めている。
「さて……どうでしょうね」
 イスカリオテは穏やかな笑みをもってそれに応えていた。
 対照的に楽しむような眼が空斎には向けられ、唇が綻ぶ。では、神秘探求を始めよう、と。
 そして、リベリスタ達は殺到する鬼を迎えた。


 最早己の近くを離れつつある赤鬼達になにごとか、声を掛けながら空斎は印を結んだ。
 円を描いて周囲へと広がる光に、鬼達の身体が薄蒼の色を纏う。
「それにしても、アークって本当……ステキな正義の味方っぷりだよねぇ」
 葬識は愉快げな笑みを唇にのせていた。だが、その眼は笑っていない。
 奇襲の後、収蔵庫まで退いてから戦うつもりだったのだ。しかし――『奇襲』ですらないとは。
 鬼と人は正面からぶつかり合った。鬼は片手に得物をぶら下げ、もう片方の腕を頭を庇うように掲げていた。葬識がはなつ暗黒を当然のように受け流して、リベリスタ達へと迫る。
 対して、リベリスタの側はイスカリオテとジョンが矢を受けていた。
「馬鹿どもが……矢は集中させろと言ったではないか」
 空斎は片手で顔を覆い、諦めとも怒りともつかない嘆息を深く吐き出す。
「くっ……!」
 ジョンは全身から気糸を紡ぎ、繰り出した。足に跳ねる気糸に赤鬼の数体が呻きを漏らす。
 ピンポイント・スペシャリティ。ジョンは空斎を見ていた。これをもし習得されれば厄介な事になる。
 だが、それを恐れていては倒す事も出来ない。
「お前らがいた昔の時代とは違うんだ。現代人をナメんなよ!」
 フレアバーストを放つラヴィアン。焔に巻かれた鬼が喘ぐ。しかしそれも僅かなことであった。
 ぐっと口を閉じ、その双眸に怒りを燃やしながら、全身から黒煙をあげて突き進む。
 前衛同士の間合いが接し、鋼と鋼が打ち合わされて戦場音楽に高らかな一音を加えた。
 その瞬間、岬は駆け出していた。
 ぶつかり合う赤鬼とリベリスタ達を大きく回り、空斎へと一直線に駆ける。
 あれを抑える事が彼女の役目だ。遮るものとてありはしない。一足飛びに間合いを詰め、跳躍する岬。
 迎えた錫杖との間に金属質な悲鳴を上げて、ハルバードはがちがちと刃を噛み鳴らした。
「封印の方へは行かせないよー!」
「一人か。……わしも舐められたものよの」
 戦いの喧騒を背にきりきりと鉄が擦れる音を響かせ、一度打ち合わせて離れる一人と一体。
 すばやく印を結んだ空斎は自身に金剛力の付与を行っていた。

「……過日同様、俺に出来る事を成すのみ、か」
 ハーケインは苦く呟いていた。そして視界におさめた鬼達に向かい、暗黒を放つ。
 対してアルトゥルは、こちらも同じダークナイトでありながら、彼とは大分性質が異なる。
 彼女は射撃の技を修めていた。射程の優位を利して、ライフルを抱きしめながら更に後方へと下がる。
 そうしながら、彼女は思っていた。鬼――遠い過去に人によって封印されたもの。
 きっと寂しかっただろう。悲しいだろう、憎くもあるだろう。
 でも。封印が解けたら、もっともっとたくさんのひとが、悲しむから。
「アルは、アルトゥルは。まもります、まもりぬきます。ぜったい!」
 ライフルを確りと両手で抱え、アルトゥルは決意を唇にのせる。
 斬撃の風切り音。
 断続的に鳴る爆音。
 それらを心地良く聞きながら陣兵衛は刃を振るう。イスカリオテの放つ光に眩んだ鬼を刻み立てる。
 おのれ、と怒りの声を上げた赤鬼達は、しかし相手がそれなりの手錬れである事を直ぐに察しただろう。
 ただ踏み殺せるものではないとの思考が、歪んだその面には浮かんでいた。


「さて、それでは先ず私の奥義から参りましょう」
 頃合と見て告げるイスカリオテ。空斎は予想の通り、奥義との言葉に眉を動かしていた。
 眼前に据えた岬を視界からは外さぬまま、彼女から見て後方へ――赤鬼とリベリスタ達が刃を交えている側に退き、視界の隅にそれをおさめようとする。
「やらせないよー!」
 岬はそれを追走し、己のハルバード、アンタレスをもって空斎の視界を塞ぎにかかった。
「ちぃ……!」
 思わず錫杖を手から離し、光の刃を振り切る空斎。揺らぐように岬の胴に剣閃が撃ち込まれる。
 同時、巻き起こる灼熱の砂嵐。意図して空斎を標的から外した灼ける砂が乱舞する。
 堪らず鬼は悲鳴をあげた。身に張り付いた砂がその行動を阻害し、更に耐え難い苦痛を奏でる。
「フレアバースト行くぜ! 巻きこまれるなよ!」
 ラヴィアンは敵後方の上空を狙ってそれを炸裂させていた。背を叩く衝撃に苦鳴を漏らす赤鬼達。
 しかし、流石のタフネスか。鬼は未だ一体とても倒れない。
 アルトゥルの銃撃。少女は障害物に身を隠し、巧みに射撃を行っていた。
 鬼の持つ弓が返礼とばかりに飛来するが、それは彼女が身を隠す木に突き刺さって乾いた音を響かせた。
 ――アルのしていることは、ずるいですか? 少女は己のなかで問う。
 けれどいつだって、物語は勝者が語る。敗者は時に、人ですら無くされてしまう。
 だから。
「ごめんなさいごめんなさい、負けない負けられないんです、よ」
 唱えるように呟いて、彼女は撃った。
 撃ち続けていた。

「千年後の世界より、千年の間馴染んだ場所の方が過ごし易かろう。
 今一度封印されるか、それとも死出の旅路の方が良いかのう?」
 剣の鍔を鳴らし構えて、鬼の一体に視線を据える陣兵衛。
 うぬ、と唸った鬼はしかし、攻めあぐねた。来ないのであれば此方からと、陣兵衛は地を蹴って奔る。
「俺様ちゃんか弱いんだけどなぁ」
 ぎゃり、と音色をたてて歪んだ大鋏が金棒と絡む。滑るように受け流し、それは地面を叩く。
 赤鬼は振り下ろした姿勢のまま、暫し動けなかった。読まれているのか……と苦々しい表情である。
 確かに鬼の動きは単調ではあったが、まさかこの短時間に。
 嘲笑うかのように葬識は哄笑をあげ、鬼達へと暗黒を撃ち放つ。
「それにしても堅い……な」
 ハーケインは言っていた。彼等は他者回復を持たない面子であるため、始めから攻勢に全力を注いでいる。
 範囲攻撃で削りたて、単体攻撃を持つ者はつとめて集中攻撃を行い、鬼の数を減らしにかかる意図である。
 前衛の数は双方共に5。後衛の数も双方共に2。
 加えて、離れた場所で空斎と岬が一騎打を演じている。
 数の面で同じであるならば、先に倒れる者が出た方が単純に不利となる。
 よって、このとき――ジョンがまず始めに倒れた事は、彼らに不吉さを感じさせていた。

「……くっ!」
 普段彼はあまり前面には出ない。よって、どこまで役に立てるかとは思っていた。
 だが。真逆。ここまで無様を晒すとは。
 後衛に居る時にはあれほど容易く敵を捉えたピンポイント・スペシャリティが、使い難いこと甚だしい。
 周囲は乱戦。皆、後方に敵を流さぬ事には気をつけているものの、それ以上ではなく。
 フォローも受けられぬと見て彼は絶望的な心持ちになる。
「し……つっこいぜ!」
 ラヴィアンもまた苦戦していた。敵は――まだ誰も倒れないのだろうか。
 負傷が厳しい。一刻もはやく後衛へ退きたい所だが、思案した瞬間その胸に矢が突き立った。
「ぬ……」
 前衛が崩れかけているのを目にし、代わって前へ出ようとするハーケイン。
 どちらへ、とやや迷った。二名が相次いで倒れ、前衛陣は急速に決壊をむかえようとしている。
「これは……」
 それを見て取った岬もまた、空斎を置いて駆けていた。
 兎も角戦線の維持をはからねばならないが、しかし彼女自身も無傷ではない。
 また、何より。これまで留めていた空斎が易々とそれを許すだろうか。
「こちらに構ってていいのー?」
「優勢なれば、な。御主等を退けた後に、封印はゆっくりと破壊させて貰う事としよう」
 今度は彼女が留められる側であった。もし岬が積極的に空斎との交戦を選択していたのであれば、彼の手を自身への回復のみに向けられたかもしれない。が、彼女が狙ったのは彼を抑えながらの赤鬼への攻撃。
 それすらも、ほぼ果たせずにいた。


 この状況を覆す頼りは、最早イスカリオテのみである。
 再び彼が放つ熱砂は、ダメージの蓄積されていた鬼の一体を覆い、食らい果たした。
 主を喪った刀が地面へ落ち、寂しげな音をたてる。
 だが――
 砂が晴れる一瞬に、二本の太い矢がそれを裂いて飛来していた。
「……っ!」
 イスカリオテは跳ねた。失せそうになる意識を繋ぎとめながら、迫って来る金棒持ちの鬼を見る。
 そして、奮戦むなしく吹き飛ばされるハーケインを視界の中に認める。
「……油断、ですか。そのつもりはなかったのですが」
 呟き、そして逃れようも無い殴打が、彼の意識を一度は逃れた闇に沈める。
 鬼の片手を握るその刀ごと、斬り飛ばす陣兵衛。
 アルトゥルがライフルを構え、ひらめく銃声は一体の鬼を打ち、その頭部を吹き飛ばしていた。
 一瞬怯む鬼、しかし遅すぎる戦果である。
 未だ自分達が数に勝る事を勝利の根拠として、鬼は再び攻勢に出る。
 最早リベリスタ達も認めざるを得なかった。
 勝利と敗北の天秤は、片方の盆が既に地につくほどに、傾きを定めている事を。
 この場における戦いの勝敗が幾分も前に決しきっていた事を。

「……退くぞ!」
 苦渋を滲ませた陣兵衛の声に、肯くリベリスタ達。
 なおも追い縋る鬼どもを得物を振り向けて退かせながら、逃げて逃げて。
 彼等は逃げ延びていた。何処で鬼が追撃を諦めたのか、記憶は定かではない。
「封印は、守れなかったか……」
 振り返り、遺跡を見つめる8人の中に、ハーケインの呟きが重く落ちていた。



■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
残念ながら、今回はこのような結果となりました。

空斎は生き残ってしまいましたが、あちらがラーニング出来た技もなかったようです。
それでは、シナリオお疲れ様でした。