●封印 彼らは眠っている。千年を超える永きに渡り、その力を封じられて目を醒まさないでいる。 あの『吉備津彦』などという憎き人間の手によって。 弱々しい人間の手によって我らが挫かれるなど、末代まで語られる恥となるだろう。今一度我らは果たさねばならぬのだ。力の権化たる我ら鬼の勢力の復活を。 我らはこうして再び封印を解かれ、この地に降り立っている。これが運命でなくて何であろう。これでは、世界が我らの復活に力添えをしているようなものではないか。そう我らの脅威を、人間共に知らしめてやるのだ。 ●復活を 「お前ら、人間喰うだけで満足か?」 彼は問う。異形の足下に散乱した人肉に、周辺が異様な匂いに包まれている。異形にとってはそれは馳走から漂う甘美な匂いであり、彼と彼に付き従う者たちにとっては憎き人間たちの哀れな末路を示す愉快な匂いであった。 「……美味いもん喰って、満足でないわけないだろう」 「ま、一理あるな」 彼は目の前の異形を見定めるように、目を尖らせる。醜悪、残忍、大逆。莫迦であるが故に欲望に忠実で、無知であるが故に彼らの認識は疎かになる。何をすべきなのか、何ができるのか。恐らくは未知を示してやるだけで、道は明らかになるのだろう。 「だが、それが偽りだとしたら、どうする」 「何も。知らないことはわからない」 「まぁ聞け。俺らの目的は王の復活にある」 「王……『温羅』か。だが、まだ復活しておらぬ同胞も沢山おろう。奴らの復活が先ではないか」 「あぁ。だが尚早などと言ってられない。封印を弱める儀式が執り行われる。成功すれば、王やそれに準ずる同胞の復活は時間の問題だ」 「して、その話の中で我らの何が不満足だと言うのか」 「まだ封印されている同胞に、お前らの『母』がいるとしたら?」 そこにいた全ての異形が、一斉に彼の方を向く。愉快に顔を歪ませながら、彼は挑発するように見下すように視線を投げる。異形の一つが重たい口を広げる。 「……確かに、それは満足すべきではないな」 「霊場を襲撃し、封印を破壊する。従え、牛鬼ども」 「いいだろう。刃向かう人間共は喰らい尽くしてくれる」 ●阻止せよ 「鬼の王『温羅』。もし復活すれば、重大な危機が訪れることは免れないでしょう。その復活を目論んで、『禍鬼』率いる鬼の集団が動き始めました」 天原 和泉(nBNE000024)は疲れた顔で詳細を述べる。三ツ池公園において繰り広げられたジャック・ザ・リッパーの事件。その影響は早くも現れ始めていた。封印が弱まり、次々と復活を遂げる鬼たち。まだ大部分は封印に身を縛られたままである。この状態を維持すれば、所謂大物と呼ばれる類いの鬼は封じられたままであるだろう。 「ですが、鬼たちは封印の破壊を企てて動き出す姿を、すでに万華鏡が予知しています。彼らの陽動作戦などで厳しい状況が見込まれますが、彼らの企ては食い止めねばならないでしょう。あなた方には封印の破壊を目論んで霊場を襲撃する鬼の部隊と交戦して頂きたい」 霊場、祭具、神器、或いはそれに準ずるもの。そういったものが鬼の封印を補助する役目を果たすものだ。バックアップと言っても差し支えないだろう。もちろんそれらを破壊すれば、封印はより脆弱なものとなってしまう。 「急を要する事態です。この際襲撃されている霊場のバックアップに関しては目をつぶりましょう。しかしこれ以上被害を広げられるわけにはいきません。必ず彼らをその場で討伐してください。よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 磯山の 峯の松風通い来て 浪や引くらん 唐琴の迫門 告げた現世からの別れの歌も時を超え、詠んだ菅原道真も恐れを鎮め、学術の神へと転じた。彼が死んだのは延喜元年、西暦にして901年のこと。鬼が封印されたのは恐らくそれより以前のことだ。あまりにも、長い。それだけの時間を経てなお、彼らは復讐を胸に、闘争に生きている。もっと優しくなればいいのに、と『ENDSIEG(勝利終了)』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)は彼らの待つ五香宮に目をやる。波が引けば我らが船が訪れる。鬼のお偉方は急がず待つよう願いたい。 彼らの願いは鬼の王の復活だ。阻止しなければならないし、阻止できなくとも私たちが倒せばいい。だけど、と『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)は目に角を立たせる。鬼たちの所業で数多の被害が出ている。人が傷つき、死んでいる。それを許すことは絶対にできない。絶対に負けない、必ず勝って帰るんだと京子は覚悟を決める。 雪待 辜月(BNE003382)は鬼たちの恨みを少しでも理解したいと考える。深くわかり合うのは無理かもしれない。しかし彼らの言った『母』の存在も気になるし、彼らが何を考え、思うのかにも興味はある。自己満足かもしれない。けれども聞きたかった。ただ、それを聞いて何かを考えるのは、彼らを止めた後だ。 『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は塵鬼の持つ攻撃の特性に、思わず笑いそうになる。心を闇に染める。強引に、性急に、心を闇に染めなくとも、人の心も人ならざるものの心も、簡単に闇に染まるというのに。ましてそれは鬼にとっては光となるものだ。致命的な矛盾。正確性の欠落。可笑しさに微笑を顔に浮かべながらも、必ずや人に光をもたらさんと決意する。 鬼たちと相対する前に、リベリスタたちは塀の影に隠れて、様子を見る。集音装置、熱感知、千里眼。おのおのの能力が敵の姿を探る。彼らはそこに一切の見張りも付けず、悠々と破壊の限りを尽くしているようだった。ただ、見張りという名目でなくとも、外で神社を破壊している姿は散見される。あれだけの巨体だ。人の大きさで作られた建造物は、彼らが入るには小さすぎたのだろうか。壊すのは、きっと楽に違いない。 「こわぁいのいるよ! 俺様ちゃんちびっちゃいそう!」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)がはしゃぐように言う。実際は、彼の殺戮衝動は怪獣やヒトでなければ満たされない。まして、あんな『運命』を持たぬ異形を倒した所で、高揚感は得られない。上がらないテンションを無理矢理高めて、彼は役目を果たそうとする。 見張りはなくとも、見張りと同等の存在がいる以上、見て見ぬ振りはできない。数は大鬼が二、牛鬼が二。まずは彼らを対処することからだ。齟齬のないよう打ち合わせてから、突入を開始する。 結界に覆われ、人気の一切ない五香宮をリベリスタは駆ける。折角初めから分断されているのだ。これを扱わない手はない。リベリスタは事前に決めたそれぞれのペアに別れて散開し、鬼たちを襲撃する。 「悪鬼、退散して頂きます!」 『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)は威勢良く叫びながら、先制とばかりに高速で突く。突かれたことがわかってやっと、牛鬼はこちらの存在に気付いた。攻撃は確かに突き刺さったはずだが、平気な顔をしている。痛みが伝わるのが遅いのか。強靭な甲殻や外皮が痛みを感じさせないのか。牛鬼は重苦しく口を開く。 「……人間が、何のようじゃ」 疑念。憤怒。敵意。徐々にこちらに向けられる殺意。噴出した感情が、周りにいた仲間にも異物の存在を伝える。だが言葉には明らかにゆとりが感じられた。彼らの心が持つのは自信か、傲慢か。彼らはただ防ぐばかりだった。 彼らが攻撃を放つより先に、バゼット・モーズ(BNE003431)と葬識が暗黒の瘴気を放って不吉な気配を漂わせる。攻撃を集中し、神社内にいる鬼が出てくる前に、少しでも多くを削ろうとする。だがこれから大きな波が押し寄せることがわかっている以上、準備を怠るのは情けのないことだ。少しでも有利な状況を保てるように、彼らは状況を見て自身を補強していく。ツヴァイフロントはその中にあって、本堂入り口にトラックを置く。 「殴って撃って叩き伏せて、馬鹿な事が出来ないようにしてあげる」 放たれる弾丸。幾本の平行線が描かれて、鬼に当たる。山川 夏海(BNE002852)は攻撃対象に得物を向ける。だが、まだこれは本番前。敵が全て揃ってからが、本当の勝負の始まりだ。 「早く出てこい、何をしている」 吠えるように大鬼が叫ぶ。空気を割るかのような大声は決して耳に優しくない。漂う気配に、リベリスタは不穏さを感じ取る。突如吹き飛ぶトラック。出て来た鬼の行列。百鬼夜行とは言わないまでも、そのおどろおどろしさは心をざわつかせるものだ。今すぐここを抜け出したい、この空気を、抜け出したい。妖気が空気におもりを付加していく。 ぞろぞろと繋がる列の最後尾に、その異形の群れにあって貧相な体格をした鬼がいた。痩身の異形は目を爛々と輝かせ、踊るように外に出て来た。 「あぁ、そりゃあ来るよな、愚人共」 口調は軽く、彼は本堂の入り口から周囲を見回す。人、鬼。入り乱れているが、その姿の差は歴然。人の姿の一つ一つに向ける怨嗟。来ることはわかっていた。偉大なる者の復活に邪魔はつきものだ。 「闇に溶けてもらおう。貴様らは我らの行く道の邪魔になる」 ● 「千年の封印御苦労さんだな。けど、この世界は俺達のもんだ。好き勝手をされてたまるかよ!」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は視界内の全ての敵に向けてリボルバーを乱射する。彼は自分の位置に注意しつつ、鬼が仲間の近くに行くように仕向けていた。 仲間は各々のペアで固まって散らばる。鬼たちは無自覚に散開した彼らに寄って、自身も散らばっていった。 ただ、塵鬼だけがそれを理解する。だが飄々とした笑みは消えない。 「へぇ、そんなことするんだ。上手く撒けるといいね」 「そんなに余裕でいいのか」 接近する影。影継は塵鬼を拳で吹っ飛ばす。『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)と影継が、主戦場から離れた塵鬼の移動に支障が出る位置に、移動する。 「なぜ、愚かな人に臆する必要がある」 「人に封印されたんだろう。その割には落ち着き過ぎじゃあないかい」 挑発、しかし塵鬼は一切の表情を変えない。他の、本能のまま暴れ回る鬼と比べて、雰囲気が異なった。とても王の復活に執心し、力を奮ってなんとしてもそれを果たそうとする野望を抱えているように、塵鬼は見えない。 「吉備津彦、ねぇ」 遥か昔を、塵鬼は想う。自分たちを封印したヒト。怨恨を向けるべき対象。全ての鬼は彼と彼の種族である人間の全てを駆逐しなければならない。未来永劫、鬼の栄華を再興するために。 「過去を恨んで何になる。全ては我らが華やかなる未来のため」 貴様らこそ、見ている場合かと、塵鬼は呟く。 振り上げられる棍棒。溢れ出る黒い瘴気がそれのもたらす不吉や不運を予感させる。悪鬼羅刹の身で練り上げられた闇を力に変える『悪刹棍』。 素早く振り下ろされた攻撃をエルヴィンは受け止める。入り乱れた戦場に、この闇の気配が蔓延するのは、あまりにも危険だ。ここで抑えなければと二人は壁を作る。 「楽しませてくれよ。闇ばっかじゃ飽きるんだ」 ● 突進、二本の角が夏海に刺さり、衝撃に飛ばされる。ツヴァイフロントは彼女に合わせて下がり、合流した。傷のできた腹を摩りながら、彼女は殺意に満ちた目で牛鬼を見る。 「排除する。それが私のたった一つの掟」 ツヴァイフロントを攻撃範囲から除外しつつ、銃弾を乱れ撃つ。荒れるように狂うように、入り乱れる直線が鬼を突き刺していく。 「ヒトの掟を破るのが我らの役目よ」 吐かれた毒が散乱する。毒々しい紫は腐臭を放ち、それの宿す異常の危険さを暗示した。直接被らぬように、ツヴァイフロントと夏海は避ける。地に当たって跳ねたそれが夏海の服に当たる。ツンとした臭いがほんのりと漂い、鼻孔を刺す。当たった部分から微かに白い煙が立ち上っていた。だが、気にしていられない。ツヴァイフロントは残像と共に敵に斬り掛かる。 バゼットが暗黒を放つ後ろで、エリス・トワイニング(BNE002382)が詠唱により福音を呼び寄せる。響く音が味方を癒し、攻撃へと進む力を与える。数こそリベリスタの方が多いが、力は勝っているとは言いがたい。少しでも戦場に立てる時間を長くしなければ、負けてしまうだろう。 紗理の連続攻撃が鬼を突く。だが同時に接近した彼女を牛鬼の足が襲った。素早く繰り出されるそれは、しかし彼女を捉えられない。彼女は以前も目にしたその動きを追い、すかさず避ける。 「いい動きだ、ヒトにしては」 「前回の雪辱、晴らさせて頂きましょう」 「……そうか、我が同胞を殺したのは、貴様か」 恐らく多くの牛鬼がいたのだろう。前回と今回表れた牛鬼は、その一部に過ぎないのだろうか。この異形がまだ多く存在するとしたら。そして、彼らが『母』と呼ぶ鬼が復活したとしたら。彼女は身震いする思いだった。 「こちらも同胞の屈辱、晴らさせてもらおうか」 同じく見たことのある動きを確認し、彼女はその身を傾ける。覚えているとはいえ、全ての攻撃を避けきれるわけではない。彼女は猛進する牛鬼を避けきれず、はね飛ばされる。辜月はすかさず彼女に天使の息で回復を施した。 奮った棍棒がティアリアを掠める。巨体に似合う巨大な得物は、当たればひと溜まりもない分、その軌道が読みやすい。大鬼の感情を煽るように、彼女の纏う光のオーラがキラリと輝く。 「でも……二体は厳しいわね」 相対する数は同じということは、つまり拮抗している、気の抜けないということ。早くに数が減らせればいいのだけど。ティアリアは視線を他者に向ける。京子は厳しい顔をしながら、敵に向けてリボルバーを乱射し続けている。思いの外攻撃が避けやすかったので、塵鬼を抑える二人にも鎧の付与は完了している。少しだけできた余裕。ティアリアは大鬼の視界から外れ、接近する。そして無抵抗の大鬼の身体に歯を突き立てた。まずい。気持ちの悪い生温さ。異様な臭い。口の中で暴れる苦み。嗜みに飲みはしないだろうそれから、彼女は生気を抜き取って、離れる。 「ふふ、守り癒すだけだと思ったら大間違いよ」 口を拭った後には嫌らしい苦みだけが残った。 力のみを汲み取れば鬼の圧倒的優勢であった。回復の要員は多く、一人として地に伏すことはなかったのだが、手数はそれほど多くなかった。ジリ貧、HPのデフレスパイラルの到来が、徐々に訪れようとしていた。 だが、それは鬼とて同じこと。まして回復の手段のない彼らなら当然のこと。 まず大鬼の動きが鈍くなった。大振りで避けるに容易い攻撃が更に鋭さを失った。ただその重量から、威力の衰えはない。 咆哮する。叫びに、嘆きに、似ていた。苦しみ。悲痛。それは一度も言葉を発していない。無知か。無能か。自律した木偶の坊。操り人形。それはただ本能のままに金棒を振るう。 「全く、弱い。用心棒にもならねぇ」 感情のない言葉。ゴミを見るような目。それは彼にとって戦う人形でしかないのだ。王の復活、それに達するのに必要な犠牲の最下層。 耳に響く音に怯むものも少なくない。ツヴァイフロントはもろに大鬼の一撃を食らう。苦痛に顔が歪む。身体の動きが思考に追いつかない。地に伏し、しかしグッと足に力を込めて立つ。 「冥途の土産に2つ教えよう。我々も吉備津彦命も人ではない。修羅、すなわちリベリスタだ。鬼が人より弱い訳ではない、気にするな」 高速で跳躍する。今しがた彼を攻撃した鬼を狙い急降下、強襲。運命をねじ曲げてでも、ここで倒れるわけには、いかなかった。 「……そしてもう1つ。これが君達を殺す理由。フェイトを持たぬ者は人間のみならず、この世界を滅ぼす。結局ここは君達の家では無い。悪いが、授業料は君達の命だ」 大鬼の一つが地に倒れ伏す。巨体は轟音を立てながら倒れ、動かなくなった。 「あなたも倒れてしまいなさい」 連撃が牛鬼を襲い、傷つける。心なしか異形の顔には狼狽が伺えた。牛鬼は交代しつつ、苦し紛れに毒を吐く。 「調子に乗るな、小娘よ」 猛然と、鬼たちはそれぞれの攻撃を繰り出す。繰り出される猛攻がリベリスタの足をすくませる。牛鬼の振るった足の一つが夏海を捉え、突き飛ばす。夏海は地を転がり、手でそれを止める。 「何度でもやるよ…排除しきるまで、ね」 視線は殺意に満ちていた。彼女を動かすのは異形への憎悪。その完遂まで、彼女は戦うのを止めない。 「まだ、寝るには早い…殺す!」 自身に血の掟を刻み込む。そして急速に牛鬼へ接近し、拳を叩き込む。泡を吹きながら、それは気を絶した。ツヴァイフロントが追って攻撃し、その命を絶った。 刻々と、リベリスタは優勢へと転じ始める、また一つ、また一つと鬼は倒れていく。リベリスタは各々の運命を消費しながら、彼らを斬っていった。 葬識は相手をしていた鬼を斬り倒す。身に宿していた異常を『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が、周囲の仲間とまとめて手早く癒した。 葬識は周囲を見渡す。鬼は大分数を減らした。動いている敵は既に片手で十分すぎる程だ。仲間は困憊しながらも、鬼を駆逐せんと得物を振るっていた。 一方で塵鬼は、影継とエルヴィンを相手取り、戯れるように意表をつくように戦っていた。何度か攻撃も飛んで来たのだが、こちらにとってタイミングは良かったために、それほど大きな被害は出ていない。奴は何を思っているのだろう。仲間が倒れていく、この戦場において、何を。 都合良く、射線は通っていた。 「ちょーっと厳しいとこむかうけど、サポートよろしくねぇ~」 力強く踏み込む。集中して一呼吸置き、接近する。そして逸脱者のススメに魔力を込め、振るう。 「闇で心を染める? 殺人鬼がいまさらだよねぇ~」 しかし。塵鬼はそれの峰を掴んで、攻撃を防ぐ。 「殺人鬼は、ヒトを殺すのがお似合いだろう」 振るわれた棍棒が葬識の腹に衝撃を加える。飛びそうな意識を必死で保ちながら、受け身をとる。膝で立ち、彼はその目で塵鬼を見据える。 「殺人鬼が起き抜けの鬼に負けるなんて恥ずかしいよねぇ」 ● 「アナタたちはお母さんに会いたいの? でも分かって欲しい、人間達の中にもお母さんや大切な人と離れたく無い人が居る事を。死なせたく無いの! もうそんな悲しい思いは誰にもさせたくないの!」 京子の言葉に、カカッと虫の息になった牛鬼は笑う。 「戯けたことだ。貴様らが、虫を殺すように、家畜を殺すように、しているだけだというのに。傲慢が過ぎるものよ」 吐かれた毒を京子は直に受ける。ティアリアが彼女の前に出て、鬼を吸血する。彼女が離れると、牛鬼は生気を抜かれたように動かなくなった。 「対話は無用よ。価値観が違うもの」 「……そうね」 痺れる身体に鞭を打ちながら、彼女は視線を映す。これで残るは、塵鬼のみ。 「奈落へと導かれし魂よ。我らが敵に死という名の慈悲を与えん!」 破壊的な一撃を、影継は塵鬼に叩き込む。傷は浅い。彼は悪刹棍を構える。吹き出る漆黒の瘴気が、辺りに蔓延する。怨みの念が、リベリスタから生命力を奪っていった。 「奪われるなら、補充すればいいことです」 辜月は癒しの息吹を辺りに吹かせる。回復の手は尽きていない。リベリスタは押し切ろうと手数を集めた。 「畜生が」 悪態を吐きつつ、彼は棍棒を振るう。それを合図に、数人の身に刺さるような痛みが走る。身に宿した異常が暴れる。しかし、攻撃の手は、もう止まらない。 「ほらよ」 葬識の得物が塵鬼の血を啜る。険しい顔で彼を悪刹棍で殴るが、生命力の供給は、止まっていた。 「まだ、終わるかよ」 乱れ飛ぶ攻撃。よろけた塵鬼は、影継の攻撃を見る。突き出された剣を、塵鬼は素早く避ける。 「煉獄の羅刹と謂えども、我が力の前には散りゆくのみ……無明の闇に眠れ」 銃撃の描き出す線分。ライン上にいた塵鬼を突き抜けて、それは直線を描いた。銃弾と同じ軌道を描いて、塵鬼は倒れる。顔に浮かぶのは無念、残心。微かに混じる達成感。 「遅かったんだよ、ちょっとだけ、ね」 本堂の中を確認する。目に入ったのは無惨に荒らされた神具の残骸。封印が既に破壊されているだろうということは、想像に難くなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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