●鬼 人の耳では認識不可能な声が響く。 それが『鬼の術法』と知る者は少ない。そもそも術を使う鬼は少ない。生物学的に力に勝る彼らにとって、術法のようなものは小細工と認識され、その文化は深く浸透しなかった。 「むん!」 鬼の手が印を結ぶ。バチン、という音がして不可視の結界が爆ぜて消えた。 リベリスタ『吉備津彦』による封印。幾重にも重ねられた封印の一つ。それを破壊したのだ。 「あと一つじゃ。それを破壊すれば、ここの封印は解ける」 口を開いたのは先ほどまで術を使っていた鬼。 背中まで伸ばした黒い髪。赤い袴の巫女装束。額には、鬼であることを示す二本の角。 「あの世で見ておれ、吉備津彦。おぬしが作った封印、この『霧姫』が全て砕いてくれよう。 たかが人の封印など、鬼の前には無意味と知れ」 霧姫、と名乗った鬼はゆっくり歩いて大きさ2メートルほどの石に手をつける。これが鬼の封印。これを破壊すれば、新たな鬼が蘇る。 「おぬしら、術が終わるまで誰も通すでないぞ」 霧姫が配下の鬼に命じる。それに応じるように、雄たけびが上がった。 ●リベリスタ 「マルキュウサンマル。ブリーフィングを始めます」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「皆さんもご存知とは思いますが、岡山県に大量のアザーバイドが現れました。これらは昔『吉備津彦』と呼ばれるリベリスタが封じたものです。 アークはそれらを『鬼』と呼称しています」 伝承によれば、『鬼』は千年以上前に現れ世を乱していたのだが、吉備津彦なる存在が次元の狭間に追いやり封印を施したという。 「アザーバイド大量発生の原因ですが、先の戦いにおいて崩界が進み、吉備津彦の封印が弱まったものと思われます」 苦い顔をするリベリスタ。大先輩のリベリスタが封印したものが、ジャック事件の影響で復活したのだ。 「現在アークは集中的に岡山にリベリスタを送り、鬼への対応を行なっています。 鬼の目的は『鬼を封じている結界の破壊』『人への攻撃』……例外はいくつかありますが大きく分けてこの二つです。あなたたちには『鬼を封じている結界の破壊』を行なっている鬼のほうに向かってもらいます」 和泉が端末を操作し、岡山県の地図を映し出す。人里離れた神社。そこからさらに山の中。そこにある大きな石。それが拡大される。 「この石が鬼の封印の要となっています。ここを破壊されれば新たな鬼が現れ、被害が拡大するでしょう。それを防いでください」 「破壊されれば、って事は破壊するヤツがいるって事だよな」 リベリスタの言葉に首肯し、和泉は別の画面を拡大する。巨大な鬼が四体と、一人の女性。女性の方は頭に角さえ生やしてなければ、神社の巫女といってもいいほどに人間に似ていた。 「四体の鬼はその豪腕を振るって攻撃してきます。一撃が大きいパワーファイターです。 対して女性型の鬼は遠距離から鬼独特の術法を用いて攻撃してきます」 説明と同時にリベリスタの幻想纏いにデータが送られた。う、と顔を青ざめるリベリスタたち。地味だがいやらしい攻撃を仕掛けてくる。 「急いでいけば、石の封印を解こうとしているところに間に合うでしょう。この封印が解かれるのは時間の問題です。 皆さん、よろしくお願いします」 和泉が一礼する。リベリスタたちはそれに応じるように笑みを浮かべた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 風が吹く。二月の冷たい風が戦場を冷やした。 「何者ぞ? ここから先は死地。鬼に挑む覚悟、あるやなしや?」 巫女服の鬼がやってきたリベリスタたちに告げる。霧を操る鬼の姫。 覚悟などとうにできている。リベリスタたちは各々の武器を持ち、一歩を踏み込んだ。 さぁ、鬼退治だ。 ● 「へ、鬼がそろってお出ましかい。姫を守る鬼達、って所か」 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)が剣を構える。並ぶ鬼たちを見据え、その一匹に向かって疾駆する。相手にとって不足はない。剣にオーラを集め、吹き飛べとばかりに気合を入れて叩きつけた。 「てめぇの相手は俺だぜ!」 「ふん、たかが人の子が鬼と力比べか? 面白い、乗ってやろう」 「たかが人の、か。先人の意思を引き継いで協力して戦う俺らも、封印の1つみたいなもんさ」 剣と思しき鉄塊を手に『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)が地を蹴る。宗一が吹き飛ばした鬼に迫り、裂帛の気合を込めて鉄塊を振るう。生かすか殺すか? 無論相手を殺すつもりで。振り下ろされた武器を受けて、鬼の顔から侮りの表情が消える。 「悪ぃーな大将! 手前はオレと遊んでて貰うぜぇ?」 『鬼』と『爆』と書かれたガントレットを互いに打ちつけながらに『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)は吼える。振るわれる拳は炎に包まれ、鬼を焼き尽くそうと輝き爆ぜる。炎は鬼の腹に穿たれ、火傷の跡を残す。 「よかろう。鬼と戯れるがいい! 撫でて首根っこが折れても加減はせぬぞ!」 「最近は鬼騒動が多いですが、中々に厄介な背景があったのですね」 『万華鏡』で得た情報を思い出しながら『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は体内のギアを上げる。活性化していく肉体。時間の流れがスローになる感覚。眼鏡の位置を治し、相手をしっかり見据える。覚悟をこめて目的を口にした。 「僕たちには封印なんてことは出来ないのでただ殲滅するのみです」 「ふん、鬼を殲滅できぬと判断したから封印されたのじゃ。王が蘇った暁には、逆に人間を封印してやろう」 「随分こちらを過小評価しているようですな」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)がショットガンを片手に霧姫の発言に答える。霧姫が封印解除を取りやめていることを確認し、仮面の奥で瞳を閉じて集中を始める。一秒前に見た景色から次の一秒を予測。その一秒から次の一秒後を予測。思考は一瞬。研ぎ澄まされた集中は稲妻よりも早い。 「霧姫さん、私、私達人間が勝ったらお話をして私とお友達になってください」 霧姫と同じ巫女装束を着て戦いに挑むのは『初代大雪崩落』鈴宮・慧架(BNE000666)。拳をガードするガントレッドを装備し、重心を据える。体の中心に鉄の芯が入ったかのような立ち様。流れる水をイメージさせる構え。 「友と言ったか、人間。戯言だな。人と鬼が相容れる余地がどこにある?」 「なければ作ります!」 言い放つ慧架。世の中は始めから良好な関係の相手ばかりではない。歩み寄りの一歩はどちらかが作らなければ始まらないのだ。 「神秘的、綺麗な鬼ですね……他の野蛮な鬼とは大違い……でしょうか?」 虚ろな瞳で霧姫を見ながら、『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は剣を構えて意識を集中する。加速していく肉体の速度。風に飛ばされる木の模様さえ感じられるほど、体感速度が上がっていく。 「見所があるな、娘。貴様は封印せずに飼ってやろうかえ?」 「人様の世界を土足で踏みにじる『お客様』には、とっととお帰り願うとしようか!」 刀身から柄まで、継ぎ目の無い一体構造の剣を構え、『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が地を蹴る。剣は風斗のオーラに反応するように赤く光っていた。かつてのナイトメア・ダウンのように、異世界からやってきて生活を土足で踏み抜くやつら。知らず風斗は剣を強く握り締めていた。 「どれ、戯れるか」 鬼の姫が動く。気がつけば、戦場を薄い霧が支配していた。 ● リベリスタの作戦は短期決戦だ。持久力よりも火力に特化した構成なので、混乱を与える霧姫を真っ先に抑えて闘う。風斗が霧姫を遠くに飛ばし、回避力の高いリンシードがそれを押さえる作戦だ。そのためには後衛にいる霧姫に近づかねばない。そのために前衛にいる鬼を抑えてもらうことが肝要なのだ。 リベリスタたちが前衛の鬼を抑えるまでは霧姫はフリーに動くことになる。無論、それはわずかな時間だ。それ自体は塞ぎようがなく、誤差といってもいいレベルだろう。 そのわずかな時間に霧姫は、宗一と零児が闘っている鬼のところに入る。 「我が霧に惑え」 二人のリベリスタと一匹の鬼の心が乱れる。視界がぼやけ、標準が定めにくくなる。 風斗が霧姫に近づいて、剣を振るう。加減なく振るわれた剣の圧力に飛ばされるように霧姫が離れ、リンシードが作戦通りにそこに飛び込んだ。 「これ以上、日本を不安定するわけにはいきません……斬らせていただきます」 小さな体で剣を振るうリンシード。その素早さを生かして連続で刃を振るう。大上段から振り下ろし、跳ね上げるように右腕を。そのまま真横に振りぬいた。鮮血が舞い、霧姫の顔が苦痛に歪む。任務は着々とこなすべし。人形のように剣を振るう。そこに何かの価値を見ながら。 「――ひゅ!」 慧架は向かってくる鬼の力を利用し、体制を崩す。互いの腕を交差させ、軽く体重を落とすようにして相手がそれに釣られたところを押し返す。如何に鬼とはいえ、二本足で立つ者。重心が崩れてしまえば倒すのは容易い。 「やるなぁ、嬢ちゃん」 痛む体を押さえながら立ち上がる鬼。倒された衝撃で視界が揺らぐが、だからといって倒れているわけにはいかない。戦闘前は緩んでいた慧架の雰囲気は、いつの間にか武術家の顔になっていた。 「テメーらのお姫様を助けにいかねぇのか?」 火車は殴りあっている鬼に問いかける。足を止めての殴り合い。炎に包まれた拳と人一人軽々と吹き飛ばす豪腕。火車は鬼が霧姫のところに向かうことを懸念していた。が、 「助ける? 人如きに負けるようなら守る価値もないわ。 そっちこそ、仲間を呼ばなくても大丈夫か? 足が震えてるぞ!」 火車に拳を叩きつけながら、鬼は哂う。人如きに負けるはずがない。事実、タフネスの面では鬼が優位。パワーも鬼が優位。負ける要素はない。 「おうおう。この前闘った人間の作った鉄骨で攻撃してくる鬼よっか骨あんじゃねーの!」 火車は構えを取り直す。追い詰められてのことではない。ここからが本番とばかりに気合を入れたのだ。力と体力で劣るのなら、気力と技術で勝てばいい。研ぎ澄まされた感覚と熱い拳が鬼を捕らえる。タイマン上等。むしろ歓迎。口元をゆがめ、拳を握り締めた。 「拳士なら拳で語ってみろ!」 「はっ! いわれるまでもねぇ!」 火車と鬼の拳が激しく打ち合わされる。肩、胸、腰、顔。拳を握って叩き付ける。人と鬼とのステゴロが再開される。 「僕たちには封印なんてことは出来ないので」 孝平はバスタードソードを構え目の前の鬼に迫る。速さは武器。鬼のパワーに対抗する速度という切れ味。鬼の目には銀の糸が交差したようにしか見えなかっただろう。それが剣閃と気付く余裕もなく、切り刻まれる。 「ただ殲滅するのみ」 「いてぇ! そこを動くな餓鬼!」 丸太のような腕が振るわれ、孝平を吹き飛ばす。幾多のエリューションを倒してきたが、これほどのパワーの相手は数えるほどしかない。まったく古代のリベリスタが良く封印出来たものだと今更ながら感心する。先輩のリベリスタに敬意を抱きながら、孝平は剣を構え鬼の下に疾駆する。 「鬼で巫女さんとは、あざとい……!」 これが需要です。それはさておき九十九も前衛の鬼を突破してショットガンを構えた。自らの中に流れる魔力を銃口に集中させる。鋭く、鋭く、鋭く。研ぎ澄まされた弾丸は貫通力を増し、鬼の一体を貫く。 「例え鬼の筋肉だろうと、私の銃弾は撃ち貫きますぞ。……おや?」 そして九十九はそこで起きている事を見て顔を蒼くする。先ほど霧姫が入っていった場所。宗一と零児が闘っている鬼だ。 (視界がぼやける……だがここで剣を止めるわけには行かない!) 零児が霧姫の霧でぼやける頭の中破界器を振るう。目標が誰だか認識できない。しかし、近くにいることだけはわかる。体内の気を放出するように、加減なく刃を振り下ろした。 「……っあ……!」 響いた声は宗一のもの。その宗一も、時折零児を斬りつけている。大火力を持つ二人が混乱し、互いを傷つけあっていた。刃は鬼にも向かうが確率的には半々。そして鬼は大きく横なぎに腕を払い、宗一と零児を傷つける。デュランダルの火力が災いして、宗一と零児は早々に血溜まりに膝をついた。 霧姫が口を笑みの形に歪ませる。鬼霧と呼ばれる霧術を最大限に生かすには、攻撃力の高いものを惑わし、同士討ちさせること。火力の高い宗一と零児の二人を霧に惑わせたことは、リベリスタの足を充分に止めた。 高火力の集中砲火の作戦が仇となったと言えよう。作戦自体は悪くなかったが、霧姫との相性が悪かった。 「くそ……っ!」 二人は運命を燃やし立ち上がる。心の中に霧は晴れた。しかし肉体の傷は深く、鬼の傷はまだ浅い。 「まだ諦めるには早い!」 風斗は鬼と霧姫の間に移動して風の刃で鬼を切り刻む。オーラに反応して赤く光る剣が、横なぎに振るわれた。鋭い一撃が鬼の肌を割き、出血させる。しかしそれがどうしたとばかりに鬼は口をゆがめ、まずは目の前にいる人間に襲い掛かる。 回復のない構成ゆえの短期決戦。時間をかければ押され始めるのは必至だった。 「……あ……」 次に倒れたのは、霧姫と一人で戦っていたリンシード。運命をエネルギーとして剣を杖に立ち上がる。高い回避力を持つ彼女だが、それでも一人で霧姫と戦うには無理があったようだ。 「ほぅ。まだ立つか?」 「その程度の霧では……私を止めることはできませんよ……」 仲間を信じて自らを犠牲にする。それが自分の役割。回避に専念する為に剣を盾のように構えて防御に専念する。その姿を見て霧姫は口をゆがめた。よい玩具を見つけたわ、といわんばかりに。 「言うたな。ではその程度の霧、存分に味わうがいい」 霧が濃くなる。冷たい空気がゆっくりと体温を奪っていく。 ● 息を吐き、吸う。大切なのは必要以上に力まないこと。 「はあああぁ!」 慧架は呼吸により体内の調子を整える。自然の気を取り入れて体内に循環させる。新鮮な空気が染み入り、傷を癒していく。 一対一の総合的な戦闘力ではリベリスタではなく鬼の方が軍配があがる。しかし時間を稼ぐ戦い方をすれば、あと幾分かは持ちそうだ。慧架は鬼との間合いを計りながら大地を踏みしめる。鬼にもダメージを与えてはいるが、倒れる気配はまだ見えない。 「そろそろ倒れなぁ!」 「ぐ……はっ!」 慧架とは逆に、防御を考えずに拳を振るっていた火車が背中に土をつける。今の拳打は真芯を捉えた。もう起き上がってこないだろう。火車を殴った鬼は次の目標を探す為に火車から視線を外し、 「目ェそらしてるんじゃねぇ! まだ勝負は終わってねぇんだよ!」 「てめぇ。まだ痛み目見たいのか? 何度やっても人が鬼に勝てるわけねぇんだってわかりやがれ!」 運命を燃やし、起き上がりざまに火車に殴られた箇所を押さえながら、鬼は怒りの表情を向ける。 「知るかよ。何度でも……何時まででも相手してやらぁ!」 叫ぶ火車。追い詰められて体内の血が燃えるように熱くなる。逆境に追い込まれてから燃える炎。ここから逆転するぞと硬く握り締めた拳を、思いっきり振りかぶった。 「さすがに楽な相手ではありませんね」 孝平は左右にステップを踏んで相手を惑わし、相手の虚を突くように剣を振るう。生まれた残像が相手の視界を惑わし、防御の隙を突いて刃が鬼の肌を裂く。 お返しとばかりに鬼の拳が飛んでくる。それを受けて孝平は吹き飛ばされた。地面を転がり、眼鏡にひびが入る。気を失いそうな痛みの中、まだ倒れるわけには行かないという使命感を起爆剤にして運命を燃やす。 「一度くらい倒れたことくらいでは心を砕かれることはありません」 まだ負けと決まったわけではない。こちらにはこの世界に愛された運命の加護がある。それが尽きるまでは、立ち上がる。その思いはリベリスタ皆同じだった。 「強い一撃をいかに上手く当てるか。これに関しては俺は誰にも負ける気はしないよ、例え鬼だろうとな」 零児が大上段まで破界器を振り上げ、鬼に向かって振り下ろす。大地をしっかりと踏みしめ、重量と全身の力、そして不器用なりに積み上げてきた努力を載せて振るわれた一撃。その一撃が鬼の命脈を断った。 「待たせたな。此処からは俺達のターンだぜ!」 宗一が孝平に近づく。宗一自身も孝平同様かなり傷ついている。もう数発殴られれば倒れるかもしれないが、それでも顔には笑みが浮かんでいた。相手にとって不足はない。真正面から叩き潰す。そのために、近づいて力の限りにぶった斬る。 これで流れが変わる。安堵するリベリスタの耳に、やわらかいものが地面に倒れる音が聞こえた。 「リンシード!」 鬼の姫を一人抑えていたリンシードが、ついに力尽きたのだ。 「仕舞いじゃ。捨て駒にしてはよく踊れたな」 「捨て駒でも……いいんです……ニンゲンを、舐めないで……」 攻防の末倒れたリンシードは力なく霧姫の袴を掴み、鬼姫の足を止めようとする。霧姫はそれを鼻で笑い、振り払った。這って動くこともできず、リンシードは気を失う。 「さて、次は誰が相手してくれるかのぅ?」 「オレが相手してやる。教えてやるよ。どんなお話でも、悪さをした鬼は最後には退治されるんだ!」 鬼と霧姫の間に陣取っていた風斗が叫ぶ。オーラに呼応して風斗の刃が赤く光った。まともに決まれば革醒仕立ての人間なら切り裂けるだろう威力が篭った剣を前に、霧姫は余裕の表情で応じる。 「知っておるか? 本当に強い鬼は人の物語になどならぬ。人を食らって書き手まで殺してしまうからな」 ● 風斗の放つカマイタチが跳ぶ。霧姫の霧で心惑わされ、敵味方の区別がつかなくなっている。 それは鬼と戦っている火車を切り裂き、赤い液体が服を染める。予期せぬ方向からの一撃に虚を突かれる。生まれた隙を逃さぬとばかりに鬼が拳を振るい、大地に叩きつけた。 「クソ……ったれ!」 回復なく最初から最後まで拳打で闘った火車の拳から、炎が消える。彼と相対していた鬼は肩で息をしながら、炎の拳で火傷だらけの体で勝利を示すべく両手を上げて勝鬨の声を上げた。横槍が入らなければ、負けていただろう。ギリギリの勝負だった。 「これはまずいですぞ」 九十九は持ち前の回避力の高さで霧姫の霧から逃れてはいるが、いずれは飲まれるだろう事はわかっていた。九十九の持つ破界器の射程はこの戦場全てをカバーする。そんな自分が敵味方の区別ができなくなれば戦場はさらに混乱するだろう。 数の上で有利であることは、この状態だとマイナスに働く。敵に当たる確率よりも味方にあたる確率の方が高い。 「二体目!」 孝平が振るう剣が、二匹目の鬼を倒す。そして戦場を見直し、戦況を確認する。リンシードと火車が倒れ、鬼と戦っていた者で傷が浅いものはいない。比較的ダメージの浅い風斗と九十九は現在霧姫を抑えているが、それは逆に言えば鬼姫に心乱されて味方を攻撃する可能性がある。 何よりも、霧姫自身あまり傷を負っていない。リンシードが入れた傷が見えるが、それだけだ。残った人数で攻めて、勝てるか? 三匹目の鬼は火車が寸前まで追い込んでいたため、倒すのは容易だった。しかしそれとほぼ同時、防御に徹していた慧架が飛ばされる。派手に地面を転がり、そして動かなくなる。 焦燥が背中を押す。鬼をあと一体倒して、霧を回避しながら鬼の姫を倒しきるまでには、こちらが先に力尽きる。全員戦闘不能になれば、鬼がこちらを生かしておくことはないだろう。 「引くぞ」 零児が霧姫に向かって走る。破界器の重量と自らの筋力で鬼の姫を弾き飛ばす。その隙に戦闘不能のリベリスタを回収する。 「この借り、いずれ返させてもらいますぞ」 九十九はリンシードを抱えて霧姫に告げる。そのまま山道を下っていく。 鬼の追撃はない。 ただ鬼の咆哮と乳白色の霧が山の上を支配していた。 「わらわの名は七瀬白蘭が第三の娘、霧姫。起きるがいい、我が同胞達よ! 狭間に閉じ込められた鬱憤、今果たすときぞ!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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