●憂いの声 「ここだな!」 「ヤマジさま、ここだな!」 「ええ……そうね」 座敷童にも似た風貌の少年少女達を連れて、その女はとある村社を訪れていた。 憂愁の表情は、次の瞬間には凛とした眼差しを宿す。 「……千義様。温羅様達を、返して頂くわ」 鈴の転がるような声で、確かにそう言った。 ●鬼媛、往く 「クールビューティーの言葉が似合う、鬼の姫……か」 緊急事態にあってもこの男――『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は相変わらずだった。 「知ってるとは思うが、岡山県でトレンドになりつつある鬼事件……どうやら進展があったようだ。リベリスタと『禍鬼』とのコンタクトの結果、気になる情報をゲット出来たってワケさ」 どうやら鬼達はこの『禍鬼』をリーダーに、彼等の王――『温羅』を現代に蘇らせようとしているらしい、という情報が、『禍鬼』と接触したリベリスタから齎されたのだ。詳細は不明だが、鬼の王、ともあれば唯のアザーバイド、で片付けられる相手ではないだろう、という事は容易に予想出来る。 「俺達アークと、ジャックとの決戦。その影響で日本の崩壊が進んだのは知ってるな。恐らく、鬼共の復活の原因はそれだ。だが、鬼共の大半はまだ封印が有効な状態だ。それは『温羅』の奴も例外じゃない」 封印がある限り、彼等が復活し活動を始めることは無いだろう。だが、逆に言えば、その封印さえ弱まってしまえば、彼等が復活する可能性がグンと跳ね上がってしまうという事だ。 この封印は、岡山県内に数多く存在する霊場、祭具、神器等によってバックアップされている。これによって鬼の大半は未だ封印の中に閉じ込められている。この状態が続く限りは、『温羅』等大物級の鬼は目覚めない。 「つまり奴等の狙いは、封印をサポートする諸々の要素のブレイクってコトさ」 その為に、『禍鬼』は蘇った鬼達を纏め、戦力を編成した。そして、封印の破壊を目標に掲げ、動き出したという。万華鏡はその様子を察知し、確りと捉えていた。 「だが、ちょいと厄介なコトになったらしくてな」 と言うのも、敵もリベリスタの事を良く知っている。封印の破壊を阻止しに来るであろう事は、予想をつけているのだ。そして知っていてなお、対策を打たない筈が無い、という事だ。 結果、彼等は白昼の街中に鬼の軍勢を放ち、惨劇を引き起こさんと企てているのだ! 「古典的な陽動作戦だな。だが……シンプルなだけに効果は抜群ってトコだ。敵さんの思う壺だって判ってても、イノセント・ソウルは捨て置けない」 だが、と伸暁は、不敵に笑む。 「そうそう敵さんの思惑通りには、いかせない。そうだろう?」 岡山県内の各霊場に戦力を派遣し、封印の破壊を目論む『禍鬼』の企みを阻止すると共に、一般人の命も守る。一筋縄ではいかないだろうが、それでこそアークのリベリスタというものだ。 「今回は、高山千義神社ってトコに向かって貰おうと思ってる。其処でエンカウントするのは……憂愁の美を孕んだ、鬼の姫さ」 真弓の襲にも似た色合いの小袖を身に纏う、美姫ならぬ美鬼であるそう。だが、戦闘時には長い黒髪は白髪へ、澄んだ碧眼は赤眼へと、そして額には隠していた角も露になり、山姥が如く変貌を遂げるのだとか。 彼女は部下の鬼の童十人を連れ、高山千義神社の襲撃に向かっているという。彼女達を阻止し、神社も封印も守らなければならない。 「頼んだぜ。お前達のコンフィデンス・ソング……岡山に響かせてきなよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●相容れぬ、故に相対す ――ざり、と砂を踏む音がする。 山路は、そう簡単には封印が破れぬ事を悟った。 彼女の目の前には、八人の男女。彼等が鬼等の悲願を阻止せんと派遣されたリベリスタ達である事を、山路は知っていた。 「よくわからぬが、本物の鬼と戦えるとは正義の味方冥利に尽きるのうー」 『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)の言葉に、山路に付き従う子鬼達は一斉に身構える。 「ヤマジさま……?」 「ヤマジさま、あいつらテキか?」 「……」 無言を貫き、言葉は紡がず、子鬼達の問いにも答えず、山路は柳眉を顰め、リベリスタ達を睨み付ける。その様相にすら、何処か憂愁の色が含まれているように見受けられる。 とは言え、鬼は鬼。山路も、子鬼達も、見た目ほどヤワではないのは判り切っている事。 だから『√3』一条・玄弥(BNE003422)も『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)も、不敵な笑みを浮かべたまま、一歩も退かない。ゆるりとそれぞれの獲物を構え、山路達に突きつける。 「これより先は地獄への一本道でさぁ」 「この鬼巫女御龍が相手しよう。鬼退治と洒落こもうじゃないか」 それでも矢張り山路も退かない。見る見る内に、その美しい鴉の濡れ羽の黒髪が、その生え際から禍々しいまでの白へと染まってゆく。その澄んだ黒真珠が如き瞳が、妖しいまでの紅へと変わってゆく。 「そう……ならば、私達の望む道を拓くだけだわ。貴方達を越えて」 異形と化して尚、山路は美しかった。既に角も露わに、牙も、爪も尖り、その姿はまさしく山姥のそれであるにも拘らず、だ。それでも、先程とは比べ物にならない禍々しさをも彼女が内包しているのも、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は見逃さない。 「鬼姫様が直々にお出ましか。鬼の世での大儀が人の世を壊すのであれば。その謀、全力で潰してくれる!」 山路の静かな気魄にも怯まず、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は彼女を真っ直ぐに見据え、その闘志を奥底から湧き上がらせ、滾らせる。 じりじりと、山路達がリベリスタ達へ、境内へ、近付いてくる。 ならば、リベリスタ達はこれを迎え撃つ。 「きみたちが行いを改める気がない以上、このままには出来ないの。さあさ、とおいとおい昔話の終わりを、はじめましょう」 『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)のその言葉が、開戦の合図となる――! ●歌姫山路とその一団 前衛を担うリベリスタ達が、一気に駆け出す。ある者は子鬼達を相手取るべく、またある者は山路の抑えに回るべく。 疾風怒濤の勢いで、山路達を破らんと攻め寄せる彼等の姿を前にして、それでも山路は冷静だ。子鬼達の陣が破られないという絶対の自信でも有しているのか、或いは他に理由でもあるのか。 徐に、山路が口を開く。そして、この戦場に歌声を響かせ始めた。 「――ッ!?」 鬼のそれとは思えぬ、聞き手全てのその心を揺さ振る程に流麗な、妙なる調べ。しかし、リベリスタ達の中から、その歌に膝をつく者が一人出た。 『地火明夷』鳳 天斗(BNE000789)であった。 彼は何かに蝕まれるように、その胸を押さえては、苦しげに呼吸を繰り返す。毒に苛まれるが如く。痺れに縛られるが如く。鬱陶しい真での苦痛が、同時に彼を襲う。 「気を抜くでないぞ、その者、歌に魔を籠めるでのう」 迷子の見た所、どうやら山路は歌によって、敵への攻撃や味方への回復を行うらしい、まさに後方支援の鬼といった所であるようだ。しかもリベリスタ達に苦痛を与えるその歌声は、様々な異常を彼等に齎す。 「支援します、回復は任せて下さい」 自由の効かなくなった天斗を、翔太の後ろで清らかなる祓いの光を放つ雪待 辜月(BNE003382)に任せて、リベリスタ達は進撃を続ける。 しかし初手で山路に接近しようと試みたポルカの思惑は、残念ながら阻止された。 山路の前方を護る子鬼達は、一定の間隔を開けてそれぞれ配置についていた。つまり、間合いをそれぞれ補い合う形で陣取っていた。横合いから突破され、山路に害が及ばぬよう。 彼等は接近してきたリベリスタ達を見るや、勢いに任せて、無差別にその自慢の爪を振り回してきたのである。無理に突破しようものなら全身を引き裂かれてボロ雑巾になる所であった。 無論、ポルカは勿論他の前衛メンバーもそんなヘマはせず、咄嗟に一歩退いて事無きを得たのだが。 また、面倒な事がもう一つ。山路の左右に配置されている子鬼達が、全くその場から動かないのである。その場から、怨念の籠った暗黒の弾丸を撃ち込んでくるのだ。御龍、優希、迷子が僅かに躱し切れず、その身に黒の痛みを受ける。とは言え、直撃は避けられたようで咄嗟に体勢を整えた。 陣形と布陣には意味がある。これはつまり、完全なる山路の護りの陣形であったのだ。 「ぼくの相手は、きみたちでないの。ごめんね。通してくださる?」 しかしポルカはこの可能性も抜かり無く考慮していたようで、標的を眼前で闇雲に暴れる子鬼達に向ける。一点でも突破出来れば山路には近付ける筈なのだから。 鎌鼬が如き鋭い連撃を流れるように打ち込むポルカ。細く走った幾重もの痛みに子鬼の一人が悲鳴を上げる。 まるで自らが傷を負ったような顔を見せる山路に、優希は言葉を投げ掛けた。 「この地は吉備津比古命が賊を打ち払い、平定したとされる場所と聞く。封印を解けば良からぬ者が沸いて出そうだな」 「……賊というのは貴方達から見た私達の事? 少なくとも、私達とは比べ物にならない程の実力者が現れる筈よ」 優希は、問いながら疾き雷の舞いを展開し、子鬼達を薙ぎ払ってゆく。山路は、答えながら更にその表情に深い哀しみを湛えていた。 玄弥も後方から、奇怪な笑みを浮かべながら、己が魂から魂から絞り出した黒の瘴気で以て、未だ暴れ回る子鬼達を呑み込んでゆく。ほぼ同時に御龍が一歩踏み出し、尤も激しく消耗していた子鬼に向けて稲妻を纏い突っ込んだ。 崩れ落ちそうになるも、踏み止まる子鬼。翔太がちっと舌打ち一つ。 「めんどくせぇ奴等だなまったく……大人しくしてろってんだ」 「貴方達が邪魔をしないなら、やるべき事さえ済ませたら、大人しく帰るわよ……?」 「そいつは出来ん相談やのぉ」 にべも無く玄弥にあっさり即答され、山路は落胆に溜息を吐いた。 「そう。なら……矢張り手荒な真似をしてでも、押し通るしか無さそうね」 「今更になってご先祖の戦友に泥塗るわけにはいかないんだよ……!」 辜月によって異常を祓われた天斗が、駆け出した。 押し留める為に。 ●笑う者、嘆く者、嗤う者 「温羅が復活した後の世は、さながら鬼の理想郷とでもなりうるのか。何を夢見ているのやら」 「ばあちゃんが熱くなるほどのやつなんかいのぉ?」 「……あのお方の考えは、あのお方の足元にも及ばぬ私の知る所じゃないわ……それでも、あのお方の復活が叶えば、私達に恐れる所は無い」 何を夢見るにも、足る勢力へと、復興を。山路は、優希の、玄弥の問いにそう語った。 天斗が目にも留らぬ――否、余りの速さ故に残像すら目に留まらせる動きで翻弄し、子鬼の一人に斬り掛かれば、其処に生まれた隙を、迷子は見逃さず、熱く燃える紅蓮の一撃を続けざまに叩き込む。 無軌道な乱舞にその身を裂かれる事も意に介さず、優希が再度鳴る神の連撃にて反撃する。御龍も厳つ霊をその鉄塊が如き重量感を誇る刃に籠めて斬り崩す。 玄弥も山路を取り巻く者を排する暗黒の霧を拡散させては、その身を蝕んでゆく。 そして、遂に、前方を護る子鬼が二人崩れ、山路に至る道としては十分過ぎる隙が出来た。ポルカが子鬼達にひらりと手を振り、山路の方へ駆け出した。 山路が歌の呪縛をポルカに差し向けるも、彼女は風を切る程のスピードで、拒絶する。 「怒らないで。そんな顔しないで? 折角の美しさも、綺麗な着物も、台無し、よ」 にこり、柔らかく笑んで。今度は、劔のみで風を切る。切っ先は、山路に向かう。しかし山路は、緩やかな無駄の無い動きで、それを往なして見せた。 憂う山路に笑むポルカ。 「ぼくが勝ったら、その綺麗な着物ちょうだい。なんて、ね。ふふ」 片一方はひどく愉しげで。片一方はひどく沈んで。それは、奇妙な対峙であった。 そうしてポルカが山路への接近を果たした所で、ずっと後方で全体の動きを観察していた翔太が唸る。 「……まさか、とは思うんだが。狙われてないか?」 「言われてみれば……!」 更に後方の辜月も同意の意を示す。と言うのも、先程から山路の横合いから怨念の黒を狙撃してくる子鬼達が、ある特定の人物を先程から集中して、狙っているように見えるのだ。 狙われているのは――御龍。 体力的にも余裕があり、まず落ちる事は無いだろうと思っていたのだが、他のメンバーよりも大分疲弊しているように見える。尤も、本人が嬉々として迎え撃っているので、傍目には判り辛かったのだが。 だが――次の黒の雨が矢張り彼女に降り注いでいるのを見て、翔太は確信した。最早、決定的である。奴等は神秘を以て黒を放ち、比較的神秘に耐性の薄い者を狙っている! 「狙われてるぞ、御龍!」 叫ぶが、一歩間に合わない。雨は悉く被弾し、御龍の身体を貫いてゆく。 「遠野さん!」 辜月が悲鳴を上げる。けれど空しく、御龍は力無くその場に膝をつく――かのように見えた。 「我は鬼より怖いぞ?」 「!」 その身に宿る運命を、燃やし、気力に変えて、振り絞り、ゆらりと立ち上がる。その顔には、不敵な笑み。先程までの彼女と何ら変わらない、余裕。 「ここから先に行きたかったら我を倒せ。もっと楽しませて見せろ!」 ごう、震える空気。子鬼達の身が一瞬ではあるが、竦んだ。 「後悔はしたくないから……御龍さん、今癒します!」 「応! 済まないねぇ!」 今にも再び敵陣に突っ込んで行きそうな御龍を、辜月が癒す。 それでも既に、リベリスタ側からも天斗が倒れている。双方共に少しずつ削り合っている状態だ。 だが、先程判明した。前方の子鬼達は元より、左右の子鬼達も、遠距離からではあるが前衛にしか攻撃してこない。ならば、今の所は翔太、辜月、玄弥には攻撃が飛んでこない可能性が高い。 「なら、ポルカ! 援護するっ」 翔太は辜月の目の前で高く跳躍すると、山路の包囲網を越え、山路を護る子鬼に、高き天より斬撃の波を浴びせ掛けた。 狙われた子鬼はやや反応が遅れた事を自覚し、回避が困難と見るや咄嗟に防御態勢を取った。伴う風圧に僅かに仰け反りつつも、耐え切る。 「……大丈夫?」 「平気だべっ。ヤマジさま、お守りするためならどってこたねぇべ!」 気丈に振る舞う子鬼を、それでも山路は気に掛けるので。 「浮かない顔しておるのう。お互い遠慮なく暴れられる機会なんじゃ、もっと楽しもうぞ?」 「っ!」 言うや否や、迷子は脚によって風を生み、山路の左へ――狙撃を行う鬼へと飛ばしていたのである。見れば、前方を護っていた子鬼達は今や、その全てが地に伏していた。 蹴撃が子鬼達に躍り掛かり、土煙を巻き起こした。其処へ、優希が素早く跳び込むと、矢張りそのトンファーに纏わるは、奔る雷。 「これが人と鬼との戦争なら、打ち勝ってくれる!」 息も吐かせぬ雷雨が如きその猛攻に、子鬼達も狙撃の腕を止め、必死で抗うしか無い。そんな彼等を嘲るかのように、また、全てを呑み込み侵食する黒い霧は、今度は山路をも包み込んで広がった。 山路は矢張りその霧の中にあってもでも平然としていたが、子鬼達は一様に苦しむ。 「くけけっ、邪魔させてもらいやすぜぇ」 この霧を突破などさせぬ。突破出来るものならしてみるが良い。玄弥の言外の嘲りに、しかし子鬼達はぐうの音も出ない。耐えるのが精一杯。 御龍も大きな追撃を放つ。雷鳴が、境内に木霊する。宛ら、それは青天の霹靂。 雨無き日に響く雷鳴。そして、日常から神秘への、変動。 ●黒き歌声 山路が、ポルカの生み出す煽ち風の連撃から身を護りながら、或いは躱しながら、子鬼達に向けて癒しの歌を響かせるも、既に残った子鬼達からは疲労の色が露わになっていた。 一体一体、確実に子鬼の数を減らしてゆくリベリスタ達。しかし彼等の疲労も相当なものだ。既に今度こそ御龍が黒き弾丸の前にその身を横たえ、今は明確に山路に狙いを絞っているポルカが狙われている。彼女が踊るような動きで回避出来るものは回避しているのと、辜月が回復に専念しているお陰で、被害が最小限に食い止められているといった所であるが。 「吉備津彦も温羅も知らぬ、今はわしらとお主らが全てじゃ!」 迷子が、その風の一撃で最後の子鬼を、斬り裂いた。 「残るは……」 優希が、子鬼を、そして山路を睨む。美鬼と謳われたとて人間を魅了する術は無いと迷子によって知り、初めて彼は山路の顔を見た。 それでも、矢張り彼女は美しいまま。異形と化しても、悲憤にその身を震わせていても。 「……ヤマジさま」 その時、追い込まれた最後の子鬼が、山路に向けて微笑んだ。 「おらたちの、ひがんを。しんじておりますだ」 「あ……」 ポルカが振るった剣先を、子鬼はその身を以て、受け止めた。 「……あ、あ……あ」 山路の目が見開かれ、その紅き双眸の中に鮮血と、崩れゆく亡骸が映る。 二、三歩。山路は後退り、そして―― 「……っ! おっきいのやってくるでぇ!」 唐突に、玄弥が叫ぶ。強烈な悪寒に襲われて、翔太は咄嗟に辜月を庇った。 そして、次の瞬間、それはリベリスタ達に襲い掛かった。 「――っ――!!」 鈴が転がるが如き、美しい声の筈。 だが、その声が紡ぐ歌が、リベリスタ達を蝕んでゆく。先程よりも、強烈に。何より、今度は一人だけではない、全員が、その歌に内側から蹂躙され、不快と言うだけでは生温い程の苦痛に苛まれ、悶えた。 「っああああああああああ!!」 それが、誰の叫びであったかももう判らない。 その余りの衝撃に、迷子が、ポルカが、玄弥が、一瞬で力尽きる。彼等に手を差し伸べる事が出来ず、ただ踏ん張りを利かせるだけの翔太と優希が、歯噛みした。彼等も同時に、大幅に体力を削られ、猛毒により今にも意識を持って行かれそうになっている。 だが――その異常が、ややあって嘘のように、消えた。 「辜月!」 そう。翔太に庇われ、無傷で立っていた辜月が再び、聖なる光によって、二人を浄化したのだった! 「庇って頂いているんです、なら、僕もしっかり皆さんのお役に立ちますよ」 二人を安心させるように、辜月が微笑む。そして、更なる希望が、其処に姿を現した。 一度は倒れた迷子が、ポルカが、玄弥が、宿る運命をも惜しまず燃やし、立ち上がったのだ! 「出来るだけ楽しみたいし、遊び足りんしのう?」 「山路くん、ごめんね。これも、お仕事だから」 「ばあちゃんの冷や水やでぇ、大概にしぃやぁ」 一気に活気を盛り返すリベリスタ達の一方で、山路はたじろいだ。 リベリスタ達が、運命に愛された者達である事は、山路とて知っていた。しかし――本来なら最早動かぬ筈のその身体に鞭打って、七とも言うべき場所に再び身を投じるだけの、覚悟と、気概が、山路の想像を遥かに上回っていた。 鬼に無きその力を持つ者達との、死闘。これでは、一度敗れたのも道理ではないか。 慄く山路に、玄弥が嗤う。 「しやぁら、地獄行きやって!?」 ――敵う筈が、無いではないか。 ●山路断たれ 「これで、終わらせる!」 「冥途の土産じゃ、受け取れい」 雪崩を思わせる優希の重い打撃と、迷子の紅く熱い業炎の拳を立て続けに喰らい、遂に山路もその細い膝を折り、斃れた。 骸として地に伏すその横顔さえ、山路は美しかった。翔太は静かに、山路の瞼を下ろしてやった。 「後始末だけはしっかりしねぇとな」 「ほれ、しっかりせぇ」 玄弥が倒れたままの天斗の頭をぺしぺしと叩く。辜月は苦笑しながら、そんな天斗と御龍の手当てをしながら、ふと考える。 「姿が変わるみたいですけど、鬼の美的感覚ではどちらの姿が美しく見えてるんでしょうか?」 「奴さん等の考えよるこた考えもつかんのぉ」 玄弥にも、それは判らないらしい。尤も、判る必要も無いと思っているのかも知れないが。 「それにしても――山路くんのおはなし。温羅さまとやらは、とても、鬼たちに慕われてるみたい、ね」 「そのようじゃのう。それにその強さに絶大な信頼を寄せていると見える」 ポルカと迷子の推察の通りなら、矢張り温羅はリベリスタ達にとっても、相当な強敵たり得る存在であるのだろう。 「復活した際にどれだけの影響があるかだな。ま、そういうのは防いで見せるけどな」 にっと笑う翔太に、優希も頷く。 「ああ。俺達とてリベリスタ。言わば現代の侍だ。そこに守るべき平和があるというのなら、命を賭して立ち塞がろう」 命をかけて善道を守ると言われていた、楠正成のように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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