●ちょこの色したまんまるうさぎ とある商店街で、それは行われていた。 特設会場となった通りには、ガラスケースや木製、金属の棚で作られたブースが並ぶ。 そこはバレンタインに向けた特設会場。 噛み砕けばとろりと流れ出るプラリネ入りのキューブチョコ、砕かれた赤いフリーズドライの苺が塗されたトリュフチョコ、オレンジのコンフィをダークチョコレートに潜らせたオランジェットに薄いチョコの上にナッツが並ぶマンディアン。 チョコレートは勿論の事、恋人同士で訪れた者にはペアリングやペンダント、ベルトの太さを変えた揃いの時計、合わせると一つの文字が現れるバングルに、軽いものならば携帯のストラップ。 この催しのマスコットキャラクターである『チョコろっぷ』――チョコレート色の丸々としたロップイヤーのぬいぐるみや雑貨も売っている。 色はビター、ミルク、ホワイトの三種類。寄り添うように首を傾けているペアのぬいぐるみは、うさぎのつぶらな瞳でこちらを見詰めているだろう。 小さなぬいぐるみの中にサシェを閉じ込めたものは、手に取るとほんのり甘くチョコが香る。 バレンタインには男性から女性に花を贈る習慣もあると言う。 特設の花屋に並ぶのは色とりどりの花。真っ赤な薔薇の花束は正面に飾られているし、シンプルな一輪に希望の色のリボンを巻いたっていい。薔薇は気恥ずかしいのなら、ガーベラとスイートピーのラウンドブーケもある。ピンクのチューリップをメインにしても可愛らしい。取り揃えられたメッセージカードには何を書こうかと悩む人もそこかしこ。 選ぶのに迷ったら、通りのカフェに。 一番人気は、ホットミルクと一緒に出されるチョコレートスプーン。 棒の先に付いたハート型の苺チョコを溶かせば、ほんのりピンクのホットチョコレートのできあがり。お酒が好きならば、ホットミルクにチョコレートリキュールを混ぜたホットカクテルもある。 通りに並ぶチョコに我慢できなくなったなら、ガトーショコラだってある。 甘さ控えめのほろ苦いスポンジとムースは、飲み物とはまた違うチョコの味わい方。 温かいフォンダンショコラとバニラアイスもまた格別。 もしくは少し寒いけれど、テイクアウトにして傍らの公園で珈琲のカップを傾けるのもありだ。 甘くない物が欲しければ、ピタパンにチキンソテーのチョコソース掛けを挟んだ変り種だってある。 疲れを癒したならば、もう一度歩こう。 通りの入り口で見かけたあれと、出口で見かけたあれ。 どちらにするか悩むには、時間が幾らあっても足りないのだから。 ●チョコろっぷは甘い香り 「さてバレンタインですね、無関係に過ぎていく人もいれば、この日が一世一代の勝負になる人もいるでしょう。ぼくは余り関係ないんですが。皆さんのお口の恋人、断頭台・ギロチンです。で、ぼくはどうでもいいんですよ、そんな日ですがちょっとお仕事お願いしますね」 机に肘を突いた『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)がぴらぴらと振ったのは一枚のチラシ。白とピンクはこの時期よく見るレイアウト。ただし踊る写真はチョコレートだけではない。 「何でも、どこぞの商店街が人を呼ぶ為に始めたらしくてですね。菓子屋は勿論、若手のクリエイターとかも集まって雑貨やらアクセサリーやら、ちょっとしたマーケットになっているそうで。で、そこの何かが革醒したんで探してきて下さい」 アバウト。 この上なくアバウト。 「あ。説明サボってる訳じゃないですよ。革醒したてで大変弱いもので、ぼくにはよく分からないんです。ここのどこかにあるのは確かです。でも場所の詳細までは分かりませんでした。そういう事です。別に通り歩くカップル見飽きたとかそんな訳でもありません」 一言余計だ。 「ああまあ、それで場所が場所なので折角だから楽しめる方に行って貰えれば良いと思いまして、そんな訳で選定が皆さんです。楽しむなりチョコ買い漁るなり食べ歩くなりご自由にどうぞ。一応『仕事』なので手当ても出ますよ。ワーカホリックの方々も仕事しつつ良い息抜きになるんじゃないですか」 振られる首。 「はい、それじゃあいってらっしゃい。ちゃんと見付けて下さいね?」 薄く笑うフォーチュナは、それなりに気遣ったのか否か。 適当に押し付けられたチラシからは、分からない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月28日(火)23:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 風は冷たいが、アーチの掛かったアーケードでは些かそれも弱く、何より行きかう人々の熱が、周囲の気温を上げるのに一役買っていた。 「おお、チョコがいっぱいだ」 「む、早速チョコろっぷもいるです」 長く続く通路に並ぶ沢山のブースを見て『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が感嘆の声を上げれば、位置口に置かれた一際大きいチョコレート色のロップイヤー……ここのマスコットであるチョコろっぷのぬいぐるみを『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)がてしてし叩く。 小柄な彼女らと同じ程度もある巨大なそれは、『Welcome!』の看板を下げて、もふもふの毛並みを惜しげなく晒していた。 もふーん。( ⌒ ・x・ ) (`・ω・´*)(´・ω・`*)きゅん。 分かりやすく言うとそんな感じ。 笑う雷音の手を、頷いてそあらが取る。 後ろでは『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)がもだもだしていた。 可愛い。雷音可愛い。 普段から惜しみなく発揮している雷音愛ではあるが、今日はそあらも一緒のデート。 流石にここはダンディーなところを見せねばなるまい。 葛藤は実はとっくにそあらに伝わっていたりする訳だが、それはそれでクールに。KOOOOOLに。 「雷音……手を……握って欲しいでござぁ……」 ダンディーは、雷音とそあらが手を繋いでから三十秒で陥落した。 「バレンタイン?」 通りに溢れる恋人同士。今日のイベント。そっと微笑んだ『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は呟く。 ――爆発しろ♪ ロンリーオンリーはリア充憎し。 何故ここに来たのか、破壊衝動も起こさせるようなこの場所に、何故来たのか。 それは簡単。 「リア充はともかく、チョコろっぷの可愛さは個人的にクリティカルヒットね」 先の雷音達と同じく、入り口のぬいぐるみを掌でぺしぺし。 「この可愛さに免じて今回は無罪よ」 冗談なのか本気なのか分からないエーデルワイスは、それでも機嫌は良さ気である。 何故ならここはチョコレートがみっしり。 好きなだけ食べて食べて食べられるのだ。 鼻歌交じりで歩き出しそうな背を見送りながら、綺沙羅も背伸びをして通りを見渡す。 そろそろ昼に近づいているだろうか、そういえば今朝は何も食べて来なかった。 考え直す。よく考えれば、昨日の夕飯は何を食べただろう。 年齢よりも更に幼い雰囲気を残す綺沙羅だが、頭の中身まではそうではない。別に年を取って忘却しているとかそこまでは行っていない。締め切り前のIT関係者の如く、徹夜でプログラムを組む事に没頭していただけである。 つまり、昨日の昼より24時間近く何も食べていない。 「……ちょっとおなかすいた……」 ちょっとどころじゃなく空いているはずではある。寒いのは風のせいか、それともエネルギー不足か。何か食事になりそうなものがあったら食べよう、決意して綺沙羅は歩き出した。 「お買い物~♪」 虚弱。そのはずだが、イベントごとで『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)が寝込む事はない。そこは気合で乗り切る。だって乙女だもの☆ 今日は食い気より色気……というかお洒落心が勝ったとらは、香水を探すべく並ぶブースに一つ一つモスグリーンの瞳を向けていった。ブースの上に、それぞれの特色を示す小さな看板も付いていたりして、見ているだけでも飽きない。 その中に、香水らしき瓶を模った一軒の看板を見つけ、とらは足取り軽く弾んで行った。 「私達も行きましょうか?」 「はい、ミュゼーヌさんっ」 人波に潜っていく仲間の姿に、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が微笑めば七布施・三千(BNE000346)も同じように返す。 伸ばされた手はどちらからか。自然と繋がれたそれは互いの掌から鼓動と体温を伝えた。 通りがかりの花屋に並ぶのは、沢山のブーケ。 ピンクと白の薔薇で作られた花束を見るミュゼーヌに対し、お客さんにお似合いだと思いますよ、と告げた店員に、三千は貰った花言葉の紙を見ながらこっそり頷いた。 「アーティファクトを探すのも大切だが……今日ぐらいは遊んでもいいよな」 「うん、ってなゆちゃん、早速寝ない!?」 「うーん……あったかい、の」 「流石にこれは非売品か……」 振り向いた『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の視界に入ったのは、入り口のぬいぐるみに抱きつくようにしてうとうとする『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)の姿。 ちょっと残念そうに『癒し手』クリス・ハーシェル(BNE001882)がその隣を撫でている。 マーケットの中で最大のチョコろっぷは間違いなくこの子だろうが、入り口でお客様をお出迎えする役目を負っている以上はこの場から離れられない。 ならば手に入るサイズで大きいのを探そう。そう考えて頷くクリスに、夏栖斗が嬉しそうに頬を緩めた。友人が楽しそうなのは嬉しい事だ。 一見した状況では夏栖斗が両手に花。 が、花は花でも造花的な伏兵がいる。この場合はプリザーブドフラワーかも知れない。しかし可愛いので何も問題はない。要するに『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203) だ。天然物ではないというだけの意味で悪い意味ではない。 「楽しむのはいいけれど、ハメを外しすぎないようにね?」 流石そこは年長者の貫禄、各々好きに楽しげにはしゃぐ三人を軽く宥めつつも目は優しい。 でも指先はおっきいチョコろっぷをもふもふしていた。 もふもふ好きですよね、おじいちゃん。 ● 齧りつけばほんのりと感じるチョコの風味と、スパイシーな鶏肉の旨み。 キャベツと薄いピタ生地がそれらの味を中和して、程好い風味が広がる。 「肉に甘いソースをかけるのは欧米や欧州の人間の発想だよね」 綺沙羅は考えるが、溶かしたチョコレートがそのまま掛かっている訳ではないのは舌で分かった。 本料理でいう所のみりんの様に、奥底の甘みがどこか深みを出してくれているようで、意外と美味の部類。そういえばココアに胡椒を入れる飲み方もあっただろうか、と綺沙羅はネットの海で得た知識を掘り返す。 合間に苺ホットチョコレートを一口。こちらは遠慮なく甘い。 「もっと甘酸っぱい感じのがいいな」 悪くはないが、やはりチョコ。もう少し苺の爽やかさが伝われば食事のお供にもいいのだが。 けれど、その暖かさは、喉を通って胸を通過していくのが分かる。 食事を終えたらまた歩こう、と綺沙羅はまた一口はくりと食いついた。 向かいのカフェには、雷音、そあらペア+こてつパパが入っていく。 「そあら、ここのチョコスプーンは苺で、ぜひそあらとご一緒したいとおもっていたのだ」 少女の言葉に、自他共に認めるいちご好きのそあらの(見えない)尻尾がぱたぱたと振られた。 ピンク色したハートのチョコレートスプーンでかき回せば、段々とほんのりピンクに染まっていくミルク。柔らかな湯気の奥のそれを口に運べば、ふんわり香る苺。 甘いそれは、友人と共有する幸せの味。 「おいしいな、そあら」 「すっごく美味しいのです。らいよんちゃんと一緒だからいつも以上に美味しいのです」 顔を見合わせて、笑う。 「……うむ、偶にはこういうのも……こうー、いいでござるなぁー……」 隣では若干空気となった虎鐵が珈琲片手に通常運転でデレていた。 奥ではエーデルワイスがチョコスイーツを満喫している。 「うーん、このオレンジココアタルトも中々。柑橘の爽やかさが良いですねー」 とは言え、チョコクリームで周囲をコーティングされたスポンジの間にたっぷりのバナナを入れたケーキのまったりとした甘さも捨てがたい。。振り掛けられた削りチョコと、時折入る胡桃の食感が、柔らかいだけの口当たりではなくしているのが憎い。チョコと抹茶のマーブルシフォンは、チョコとはまた違った苦味が口に広がる。 カロリー? 関係ない、メタルフレームだから。 第銃? 増えても大丈夫、メタルフレームだから メタルフレームでも生身部分は肉が付くんじゃとかは禁句だ。付かないのだ。メタルフレームだから。 「甘党だからいくらでもー」 歌うように、エーデルワイスはスプーンでチョコプリンを運ぶ。下に敷かれているのは甘いカラメルではなく、ビターチョコソース。チョコパフェに付いて来たオレンジで口内を少しさっぱりさせてから、彼女はアイスを舌に乗せた。 「……あ、捜索忘れてた」 蕩けるアイスを飲み込んでから、ふと思い出す真の目的。僅かな沈黙。 「そう! 喫茶店に立ち寄るお客さんの買った荷物に注意を払ってたのです」 今なんかぽん、とか手を叩きませんでしたかお嬢さん。 「決してただ単にリア充にむしゃくしゃして暴飲暴食してたわけでは~」 誰にともない言い訳。いや、言い訳ではない。そういう事にしておこう。 うん、本当本当。間違いない。 例えそう口にした次の瞬間、またエーデルワイスの表情がスイーツに綻んでいたとしても、だ。 通りではとらが香水瓶をじいっと吟味している。 「前衛的なデザインのボトルねぇ……もっと可憐なのがいいんだけど」 チョコの海をイメージしたというその瓶は、孔雀の羽が幾重にも折り重なった様な形のビター色で、どちらかというとシックな雰囲気。 可愛い、と思う瓶の香りはコットンキャンディやシトラス系でいまいち違う。 ううーん、と唸ったとらの視線に入ったのは、丸い缶。 ハートと可愛いバンビが描かれた蓋を外せば、濃密に香るチョコレート。 リップバームとも見間違いそうな色合いだが、香りは濃い。 「これならフタを外して置いておいても、風で倒れてこぼれなくていいかな」 蓋を外して置いとくな。そもそも倒れるような風が吹くような場所に置いとくな。という基本的な突っ込みは野暮である。どんな状況も想定しておかねばならぬのだ。とらだから。 「これください☆」 笑顔で差し出した缶は、ピンク色のオーガンジーで優しく包まれた。 片手に抱いて、次に覗くのは花屋。目的の花はアンモビウム。主役としてはあまり使われない花、和名はカイザイク。それでもドライフラワーのリースとして数を編み込まれれば見栄えも良い。 神の手というよりは人工物。そんなリースを手に、とらは思案する。 そういえば、しばらく前に出会った小規模悪の軍団(元)にもチョコレートを贈るべきだろうか。 「後でコンビニで全員分買って来ようっと♪」 確定で告げておくと、律儀な彼らはやっぱり律儀にお返しをしてくれた。 平和である。彼らはそれ以上道を踏み外す事もなく、お陰様で平和であった。 ● 最も人気なのは、やはりイベントの目玉であるチョコろっぷのぬいぐるみ。 商店街全体で推している事もあり、通りの中心で円状にブースが展開されていた。 「あたっ」 「那雪ちゃん、ちゃんと前見なきゃ駄目よ?」 「うう……気を付ける、の……」 電柱にぶつけたおでこを擦る那雪に、エレオノーラは通りで買ったチョコマシュマロを差し出す。外側のチョコをぱりっと噛み砕けば、中のマシュマロがしゅわりと溶けて、那雪の双眸が眠気とは違う意味で緩んだ。 「あれ、エレじーちゃんがお酒じゃない!」 「今日は皆未成年でしょ。カズトちゃんもチョコろっぷ探すんじゃないの?」 「ああ、こじりへの贈り物だったか」 ふむ、とクリスはラインナップを眺める。 粉雪の様なふわふわしたホワイト、ココアの粉にも似たミルク、そして深い色から受けるイメージともふもふ具合のギャップを誇るビター。 折角の彼女への贈り物ならば、何が良いか、とクリスは思案し――掌に乗る二体を持ち上げた。 「それなら、このチョコろっぷのぬいぐるみを色違いで二個買ってみるのはどうかな?」 ひとつは彼女に、ひとつは自分に。 選んだ色はホワイトとビター。色違いのお揃いは恋人の定番。 普段淡々とした真面目な雰囲気を貫く少女に夏栖斗が乙女チック、と笑っても、クリスは首を傾げるだけ。喜んでくれるかな、と言いながら夏栖斗が頼んだラッピング。ペアだと告げれば、耳に"Avec toi toujours"の縫い取りリボンが結ばれた。 「しーくんには、何がいいかな……」 「どれも可愛いわね……」 チョコが苦手な兄分でもチョコろっぷなら大丈夫、と土産に悩む那雪と、ガチでどれをお出迎えするか悩むエレオノーラ。なら、とクリスはまた違うぬいぐるみを抱き上げる。 「これなんかどうだ。三匹色違いのチョコろっぷが重なってるぞ」 数は三倍。けれど可愛さは相乗効果で十倍にも跳ね上がる。(クリス試算) これをお昼寝の時に抱けば三匹まとめてぎゅっとできる……! とか那雪が目を輝かせたのは内緒だ。 「私はお前、かな」 クリスは一際大きいチョコろっぷを抱き上げる。ぎゅう、と両手で抱いて足りる胴回り。 三匹揃っているのも無論可愛いが、大きくてあったかいそれはきっと抱き枕のように冬の自分を温めてくれるはずだ。 「ふふ……今から寝るのが楽しみだ」 こくん、と頷いた拍子に、頭の毛がぴょこりと嬉しそうに跳ねた。 「……まだ見付からない?」 そこに現れたのは綺沙羅。幻想纏いで状況は適宜報告していたが、並ぶチョコろっぷを捜索するには人手がある方がいいか、と彼女もぬいぐるみへ視線。お土産として記念として欲しい。綺沙羅も可愛いものは好きだ。言わないけど。 やはり一番『チョコ』といったミルクの雰囲気がチョコろっぷらしいだろうか。しかしホワイトも雪兎のようで可愛らしい。ビターだって可愛さと一緒に渋さがあって捨てがたい。 いっそ三種類ともまとめて、と思った綺沙羅は更に考えた。 「三匹買うと三角関係で修羅場……?」 三匹。何故ペアではないのか。パンフレットにはそんな事情など載っているはずもなく(単に色のバリエーションとして三種類が収まりが良かったのだと思われる)、綺沙羅は更に頭を悩ませる事となった。 と、そこに雷音、そあら、虎鐵の三人も合流する。 「これがチョコろっぷでござるかー」 虎鐵自身はそこまでもふもふに興味津々、という訳ではない。けれど。 「この三色兄弟はすっごくかわいいのです」 「どれもかわいいのだ……!」 可愛い物が好きな訳じゃない、と口にしつつも翼をぱたぱたさせる雷音が可愛い。超可愛い。 最も、虎鐵だけではなくそあらも微笑ましく見ていた訳だが。口では強がってしまっても、分かり易い友人に微笑む。ちなみにそんなそあらも大概に分かり易い。 悩む、悩む、どれにしよう。どれに? この三匹を引き裂くのか? そんな事はできない。雷音は少女だから。この際少女は余り関係ないにしても。 「……えっと、このこたちは三兄弟なのだ」 「ああ、らいよんちゃんは優しいですから、全部一緒にいさせてあげたいのですね」 そんな雷音の意図を汲んで、そあらが先を続ける。とは言え、十四歳にはまとめて買うには大きい金額。という事で虎鐵にハイテレパス。 (全部買ってあげるといいです) 「ふ、拙者を誰だと思ってるでござるか? 貯蓄は十分にあるでござるよ? そんなもの……三匹だろうが五匹だろうが買ってくれようでござる!」 びしっと言い切る虎鐵パパ、男前。 べ、別に……といいながら目をそらす雷音だが、指先ではメールをかちかち。 その内容のいじらしさに虎鐵が顔を赤らめて娘可愛い状態に突入するまで、あと一分。 そあらは親子を微笑ましく見守りながら、愛しの眼鏡の彼とお揃いのチョコろっぷを選んでいた。 幸せそうに寄り添う、このチョコろっぷの様になれれば――。 願いはまだ遠くも、あくまでも一途に。 握られた手は暖かく、離れず。 「わ、わ、ほんとうにもふもふだ……」 「ふふ、ねえ三千さん、この子、凄く可愛いの」 目を細める三千の前、ホワイトの掌サイズのチョコろっぷがこんにちは。 意図を察した彼は、ミュゼーヌさんのうちの子になりたいと思ってますよ、と言葉を添えて彼女へ。彼女の澄んだ目は、次の瞬間細められた。 ふわふわの感触。三千の掌に収まるロップイヤーからのご挨拶。 「お邪魔しますのキスです。……なんて言ってみたり……」 いつものように少しはにかんで笑う彼の掌、白い兎を彼女も指先で宜しく、とくすぐった。 お礼に、とミュゼーヌが問えば、三千は更に小さなキーホルダーサイズのチョコろっぷを示す。 「……このくらいのサイズなら、鞄や携帯につけて、学校に連れていけると思いますし」 それは即ち、彼女との思い出をいつでも傍に置いておけるという事。 「きっとこの子達も、私達と同じで恋仲よ」 「ええ。離れていても、いつも一緒、ですね」 ぬいぐるみ同士、頬を擦り合わせるチークキス。 お互いがそうしたようにくすぐったそうな笑みを浮かべた二人の視線が、ふと隣へ向いた。 「……あら?」 「あ、これですかね」 三千が掬い上げたのは、ミューゼヌが持っているのと似た掌サイズのチョコろっぷ。 それが、ぱちりと瞬いた気がして――二人で顔を見合わせる。 「……この子も一緒に行きたいんですかね」 くすくす笑った三千は、回りの仲間に手を振った。 瞬くだけの、玩具となんら変わりのない可愛い無害なアーティファクト。 仲睦まじく、温かく。 三千の愛しい彼女が淡い茶の髪を寄せた時、またチョコろっぷは瞬いた様だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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