● 真昼の所行。赤き大きな橋に頭に角を持った者達が降ってきた。 その瞬間に潰されて数人が死んだか。鈍い音も一緒に聞こえた。 周辺は彼等のせいで、うるさく、騒がしい。 どう見ても人外な彼等を見た瞬間に、人々は逃げたり叫び声をあげたりした。 本能が危険と言うままに、少しでも生きるために。 それと―― バリッ ガリガリッ クチュッ 固いものが壊れる音に、ゴムのようなものが擦れる音。 橋の上の命が蹂躙され、ただ赤に染まっていく。その上を鬼達は歩く。 足音は二つ。だが、気配は三つ。 身体の大きい一体の肩に、見た目は若く、角を三本はやした鬼が乗っていた。 「簡単な仕事すぎやしませんか?」 「んだんだ。これでは面白みのカケラも無い」 大きな足を交互に前へと出しながら、ぶつぶつと大きな鬼達は呟く。 「……」 だが、肩に乗っている一体は無言。 むしろ手元の赤く染まった肉塊を口の中に入れるのに夢中の様だ。 可哀想に、捕まったのだろう。子供くらいの大きさだろうか。その身体は歯型だらけになりながらも、鬼の動く顎と一緒に身体が揺れる。 それともう一つ。女の身体を抱えている。 女はまだ息があり、意識もある。だが何も言わず、何もせず大人しい。 軌跡は更に赤く染まっていく。封印へと、封印へと。 小さな鬼は、手についた血を綺麗に舐めとりながら先を見つめる。 (嗚呼、なんて忌々しい封印だ。一歩一歩近づくごとに吐き気がしてきた) 我等が鬼神を封じ込め、あまつさえ鬼を全てこの地に封印するなんて所行。 人如きにされた事が憎たらしい。 「不味い。いらん」 それまで食べていた肉塊をゴミの様に投げた。 それをもう一人の大きな鬼が受け止め、そのまま子供は口の中に収まっていった。 次に小さな鬼は、鋭い爪で女の頭部と胴体を切り離す。 それまで生きていた、その生き血は新鮮で甘美だ。 鮮血を浴びながら鬼は、楽しさに口端が裂けるほど笑った。 こんな遊び、いつ以来だろうか。少し前まで何も感じなかったというのに、こんなにも楽しいことは無い。 腹が満たされていく感覚もいつ以来か。美味しいねぇ。 一方、死んだ事を知らないまま、女の眼はぐるりと白目を向いた。 周辺では惨劇が起きているというのに、のんきなものだ。 ――封印の前へと来た。 本殿に一番近い狐の像。その像が鬼の気配を感じたか、白い淡い光りが像を包んだ。だが―― 「はっ!! 童の玩具じゃあるまいし!!」 それまで肩に乗っていた鬼が降り、横笛を奏でる。 破滅の旋律。音はひとつひとつ紡がれる程に地響きが共鳴する。 「……俺だって俺だって俺だって俺だって、ヒトの血を啜り、四肢を贄と捧げ、骨さえ粉砕し、絶叫たる断末魔をこの耳で堪能したい!! あの憎たらしい奴等に一泡ならぬ、臓物を吐かせる程に驚きと絶望を与えてやりてぇ!! だからぁ」 ――我等が王の復活を。 不協和音が地を走り、地面全てが彼の操り人形となる。 地面がいきなり盛り上がり、土が剣刀槍……様々な武器の形と成り、狐の身体に刺さっていく。 そして―― 「これで……一つ」 封じる像が罅割れて壊れた瞬間に、嫌な気配が近づいた。 鬼共よ、舞い踊れ。香る鮮血は心地よい。 殺せ、壊せ、踏み躙れ。宴はもう……始まっている。 ● 「皆さん、急いで岡山へ向かってください!」 リベリスタがブリーフィングルームに集まった瞬間、『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が慌てたようにリベリスタに話しかけた。 先日の『禍鬼』の一件はリベリスタ達の記憶にも新しい。その事で進展があったのだ。 どうやら鬼の目的は鬼の王『温羅』の復活だ。 「アザーバイド達。いえ、鬼達の能力も未知で強敵なのですが。 ……その彼等の王ともなると最も危険な存在としか考えられません」 ジャックの開けた穴のおかげで、日本の崩壊度が上がった。それに関連して鬼達の封印も解けてきてしまっている。 幸い、未だ鬼達の大部分は封印状態にある。 だが鬼達は温羅を含めた強力な鬼達の復活を目論んでおり、禍鬼を中心にその封印を壊さんと動き始めているのを万華鏡が察知した。 だが彼等はリベリスタの存在を知っている。白昼堂々一般人を遅い、その間に封印を壊そうとしていた。 だがアークとしては封印も一般人も見逃すことができない。どちらも止めるのがリベリスタの勤めだ。 「封印は岡山全域にある、霊場、パワースポット関連なものが多いです。今回、皆さんに行ってもらう場所もそのひとつです」 杏里は一通りの説明を終えると岡山の観光地図を取り出す。その神社仏閣の一つ、千代稲荷神社に丸をつけた。 「有名な稲荷神社です。此処の本殿に一番近い狐像が封印の役割をしていることが分かりました。 此処に鬼が三体やってきます。彼等に封印を壊させないでください!」 それが依頼内容。 鬼達は太鼓橋を渡り、神社へと向かい、封印を破壊するのが目的だ。 「ただ……時刻は真昼なのです。勿論、一般人も数十と居ます」 封印の防衛が主だが、敵は鬼。考える事も、人並み外れた動きもできる。ズル賢く戦闘してくるのだろう。 「式鬼と呼ばれた鬼と、その配下の前鬼後鬼です」 前鬼は物理に長けた鬼で、巨大な斧で攻撃してくる。 その逆、後鬼は神秘に特化した鬼で、攻撃方法は解析ができなかった。 「最後に式鬼ですが、この鬼が最も危険です。 前鬼後鬼の様に特化ではなく、ハイブリットな鬼です。 よく分からないのが……妖術の様な、不思議な攻撃をしてきます。操る力……と言っても過言では無いかもしれません。 エンチャントも得意の様で、前鬼後鬼に特殊な結界を張っています。これは異界の能力でして、ブレイクでは破壊できないようです」 兎に角、厄介な依頼になりそうだ。 今もなお、鬼達の暴行は続いている。 「いざ、鬼退治へ!! お帰りを、お待ちしております。どうかご無事で」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●響く声 響く人々の声。 それはほんの少し前まで穏やかだった。 だが――突如現れた鬼達によって、それも蹂躙される。 飛来と共に、人が潰れたか。風船が割れるような音と共に、命が複数消えていった。 鬼達の足下。元々赤いその橋を、更に赤い絨毯が垂れ落ちていく。 それまでは、万華鏡で見た必然の未来と現実。 「ああん? おいおい、こりゃあ宴だぜ」 風が鬼の黒髪を撫でる。そこから覗く赤い二つの目が楽しそうに笑った。 お前等ァ!! 喜べよ、くそ憎たらしい能力者御一行だ――!! 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が問答無用に走り出す。 封印のある神社を背中にし、向かうは橋の入口に立つ――前鬼!! 鬼は豆が苦手だと言うが。 「現代の豆は少しばかり強烈だよ」 「はっはぁ!! おいちゃんが相手よ、若造!!」 喜平のショットガンが前鬼の胴に綺麗に入っていく。 だが、その前に前鬼の大きく開いた口が喜平の肩を抉っていった。喜平は激痛に苦い顔をする。 そこから大量に血が吹き出す。それによって前鬼の顔面は赤く染まっていく。 そして、アルシャンパーニュは前鬼を魅了するのだ。 その喜平は前鬼に攻撃を仕掛けてる間に、横から風を感じていた。 「ああ? お前等おっせーなオイ」 式鬼が驚くべきスピードで『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の横を通り過ぎて行った。 誰より速く。封印へ。 そりゃあ、憎たらしい能力者が居るし、殺してやりたい。 しかし、己の仕事は忘れてはいけない。 行方はその場で爆砕戦気を発動させる。彼女さえスルーし、式鬼は封印へ向かおうとした。 だが『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)が立ちふさがった。 「まぁ、そー簡単にはいかねぇか。ってか、お前達……俺等の目的知ってやがんな?」 「……どうだか」 万華鏡の事は知らない式鬼が即座に悟る。 それにこの男は此処から前へ行かせないつもりだ。 ならば、この者は倒さなければいけないだろう。 「当主、氷璃さん。全力で守らせてイタダキマス」 美散の後ろに控える、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が目を細めて魔陣展開をしていた。 式鬼が鋭い牙で美散の腹を噛みちぎり、その後美散はリミットオフを発動させた。 「ちぇっ」 どうせなら人のいない時に来い。今の時間じゃあ、人の目も障害物も多過ぎる。 『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)がコンセントレーションを発動させながら、逃げる一般人をできる範囲で誘導していた。 式鬼達の後ろに位置をとっていた彼はふと潰された人達を見た。 昼に来るから、無駄に命も消えたじゃないか。 そんな事を思いながら、ウルザは神気閃光を放とうと手を前に出す。 「ふさわしい世界に帰るか、それとも封印されるか。あるいは死ぬか……選びなよ」 「あっしも動きますかいねぇ」 そこで初めて後鬼が動き出す。のろく動きながらも、巨大な腕を振り上げて風を起こした。それに行方が巻き込まれ、付与をかき消していく。 「ここで目覚めたのが運の尽きだったな。もう一度眠ってもらう!」 『red fang』レン・カークランド(BNE002194)がグリモアを広げて禍月を呼び起こす。 己の種族も吸血鬼という鬼だ。だが、目の前に居る鬼達とは違う。 人の心は忘れない。 紅月から放たれた呪いは鬼達を射抜いていく。 その頃、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が一般人を誘導する。 「皆さん、其方は指名手配されている凶悪なテロリストです。直ちに千代稲荷神社へ非難して下さい、繰り返します」 普段は落ち着いている彼だからこそ、緊迫した状況でそれらしく振舞えば演技であろうと現実味が帯びてくる。 同じ言葉を繰り返し、その言葉に導かれて、逃げる一般人はその通りに神社へと向かって行く。 橋の欄干に立つ『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が式符から小鬼達を呼び出す。 思わず式鬼が「お、仲間!」と言いたそうな顔をしたが、味方であるはずが無く。 狼狽える一般人へ、瑠琵は怒鳴りつけながら誘導していた。 「騒ぐでないぞ!! そこ! 腰を抜かしてる場合では無いのじゃ!!」 ●響く歌 「現在の耐性は、前鬼が――」 神秘無効。後鬼が物理無効をイスカリオテは直感で言い当てる。 それを聞いた式鬼が明らかに嫌な顔をした。それを彼は見逃さず、小さく笑う。 「これはこれは……偶然に一致ですね」 「ちっ」 偶然という必然。式鬼には分からない力さえある。益々厄介だ。 式鬼はそのままブロックしてくる邪魔な美散を巻き込んで、風の刃で引き裂きながら後退する。そのため精密さは著しく下がった。 「あんま舐めんなよ」 取り出したのは、紅に金色の装飾が着いた横笛。それを口元にあてがい、高音を響かせる。 ――不気味な不協和音が響き始めた。 イスカリオテはその笛を見る。真柄、源義経の様だ。 彼にとっては欲する神秘的知識の一端。是非ともその笛を我が知識として含みたいものだ。 「溜め……か」 喜平は影を纏わせ、呟く。 そう、時間を必要とするその技。だが、素早い式鬼には本来の半分の時間でやってのけるだろう。 「さてさて盟主様の名の下に、デスネ。アハ」 敬愛に信頼を置くイスカリオテを背後に、行方がハンドアクスを橋に引きずりながら駆け出す。 魅了された前鬼の斧をくぐり抜け、橋の側面を器用にくっついて走っていった。 その前鬼は隣の後鬼へと攻撃するが、それは後鬼には効かない。 瞬間的に、光りが辺りを支配した。 「面倒な事件起こして……!」 ウルザの精密な神気閃光だ。 とにかく面倒だ。それ以外にも言いたい事は山ほどあるが、とりあえず今はその身体に痛みを与える事で大目に見る。 「好き勝手しているようだけれど、身の程を弁えなさい」 「ハハッ! これでも下っ端でねぇ……あン?」 溜めに入った式鬼へ氷璃は魔曲を奏でる。 四色の魔力が弧を描いて飛んで行き、演奏中の式鬼を貫いては動きを止める。 「しばらくそれで居た方がお利口よ。美散、いきなさい」 氷璃がそう告げると共に、美散が走り出す。 「宵咲が一刀、宵咲美散――推して参る!」 式鬼は、前鬼と後鬼を結界によって守っていた。 だからこそ、後鬼が守ろうとしたが美散の方が早かった。 「我が全身全霊の一撃」 振り上げる真紅の槍。それは未だ高いところにある太陽の光りに照らされ、煌々と輝いた。 「その身を以て篤と味わえ!!」 デッドオアアライブが式鬼に直撃し、式鬼が奥歯を強く噛んだ。 続いて瑠琵が呪縛を後鬼へと放つ。 「陰陽狂の意地じゃ! とくと味わうが良い!」 放つ呪縛は後鬼の動きを封じる。 「如何した木偶の坊。わらわ程度も止められぬかぇ?」 「……ぐっ!!」 呪縛の中で後鬼は藻掻くが、解ける事は無い。 前鬼が魅了から自分を取り戻し、斧を振り上げた。 「ほらほら、邪魔だよお嬢ちゃん」 「な、何する、のじゃ!!?」 欄干に立った事が不運か、前鬼の斧が瑠琵の身体を吹き飛ばして川へと落とした。 「やれやれ、もう少し言う事を聞いて欲しいものだね」 すぐに喜平が今一度アル・シャンパーニュを放ち、再び前鬼は魅了される。 だが、同時に式鬼が四重奏の麻痺から抜け出した。心底機嫌の悪い顔をする。 「あーちょっとアレだ、そろそろどけっての」 式鬼は吐き捨てる様にそう言うと再び笛を奏でる。再び不協和音は周辺の無機物を操り、刃を形成する。 武器にも似た、その形。 それは式鬼の目の前のリベリスタ達を全て飲み込んでいく。 だが、イスカリオテがレンを庇い、その刃から彼を遠ざけた。 「なるほど、実に見事な切り札だ。だが――」 イスカリオテが式鬼との距離をつめ、至近距離から式鬼の腕にピンポイントを放った。 「肉を切らせて何とやら、御存知ですよね?」 笑うイスカリオテからは、無いにしても威風を感じる。そして直撃した腕はびきびきと激痛が走る。 「て、ンめぇ……ッ!! 俺達はお前等に構ってる時じゃねェんだよ……!!!」 式鬼の怒りを買う一撃は、完璧なまでに彼の体力を奪う。 ●響く攻撃 「アハ、よそ見は良くないデスヨ」 後ろから行方が魚雷の如く飛んできては、両刀を振り上げた。 「さあさあ引くか死ぬか、滅びるか! 時代を跨いで出会った両者が殺しあう、鬼と人間、そして都市伝説! 削りあうデスヨ、アハハハハ!」 光りのささない目は狂気に満ちているか。 古き妖怪と現代の怪異、都市伝説。どちらに軍配が上がるかはさておき、行方は楽しそうに式鬼の背を斬り飛ばす。 「ガぁああッ!?」 吹き飛ばされる式鬼は前鬼達の下へと吹き飛ばされる。今や三体は一箇所に固まっている状態だ。 「いまだ! 攻撃をまとめて!」 ウルザは神気閃光を放つ。 神々しい光りが、三体の鬼達を貫いていき、燃やしていく。 「王が居なければ何も出来ないか? 木偶の坊ども」 「うるせえ!! 説教は俺に勝ったらにしろ!」 リベリスタ達の攻撃は続く。美散が再びデッドオアアライブを放つために飛んだ。 それが式鬼を貫いた瞬間、美散に後鬼の呼び出した石礫が襲いかかると、その威力にフェイトが飛んでいった。 「ガアアア!! うぜええてめェら!! いい加減にしろ!!!」 確実に体力がすり減っていく式鬼の怒りはイスカリオテに向く。 「てめえ!! 殺す!!」 「落ち着きましょ、式鬼様」 「うっせえ! 黙ってろ!! 俺達は此処で、こんな時間くってる場合じゃねぇし、目的じゃねえ!!」 再び放った風の刃で、イスカリオテの身体を切り裂いた。 次に式鬼が笛によって放ったのは霊楽。 魅了に侵されたイスカリオテが、フェイトを飛ばしながらも灼熱の砂蛇を放った。それは仲間達に向かう。 麻痺や業炎とまではいかないが、リベリスタ達の体力を吸っていく。 主の体力がまずいと悟った後鬼は式鬼を守る形についた。 「アハッ、やばやばデス?」 飛んでくる行方。小さな身体でも、放たれたメガクラッシュの威力は大きい。 後鬼は吹き飛ばされて、橋の欄干にぶつかった。 「笛がうるさ過ぎて、寝られやしない……」 リベリスタ達の体力も厳しいものがある。だが、こちらが先に勝てば良い。 放つ喜平の幾度目かの魅了。だが、今回はぎりぎりで前鬼を掠ってしまう。 「おいちゃんたちも負けられなくてなぁ」 前鬼はそのまま美散の腹部を噛みちぎり、彼は動かなくなっていく。 「ハッ! そろそろ終わりの時間ってやつかもしんねーな!」 式鬼は笛を奏で、霊楽を発動させた。魅了して止まないその脅威たる音。 「踊れやぁ、踊れええ!! 鬼の宴だぜ!!」 喜平と氷璃を、それが貫く。 魅了を喜平は回避したものの、氷璃は魔曲を自らへと放った。 ●響く断末魔 式鬼と前鬼が動き出す。 本来の行動――封印へ!! レンの、氷璃の、イスカリオテの、喜平の横を通り抜け、式鬼は進む。 「あっ!? いかせないよ!?」 ウルザが咄嗟にピンポイントを放とうとしたが、進む式鬼には距離と早さが足りない。 思わず唇を噛んだ。当てる自信はあるものの、範囲外とはなんて悔しいことか。 ブロックをするには、あまりにも人数が少なかった。 式鬼達の目的はあくまで封印の破壊。命の蹂躙は二の次だ。だからこそ邪魔が無い今、彼は走り出す。 式鬼とて、リベリスタ達を全て倒してから封印を壊すなんて、リスクの大きい事はしない。 喜平が前鬼を追った。氷璃とイスカリオテが魅了で動けない今、前鬼にかかる無効を判断する術は無い。 だが魅了はかかるはずだ。すぐさま前鬼へと光りの飛沫をまき散らしながら攻撃していく。 「待て!! 封印は壊させないぞ!!!」 「ぁあん?」 レンが式鬼の後ろを追い、息荒く走る。 その封印だけは、壊させてはいけない。鬼は復活させない。 放つバッドムーン。確かにそれは当たる。当たるが、式鬼は耐えきった。 すぐさまレンは走り出す。だが彼より倍の長さを走れる式鬼に追いつくことができる訳も無く。 橋の中腹から封印までに距離があることが不運か。更にレンと式鬼の距離を開かせる。 式鬼は封印が攻撃範囲内に入ればすぐに不協和音を響かせた。 土が葉が、式鬼の刃と成り、形を作っていく。剣か、槍か、鋭きその神秘の武器。 「嗚呼、最高だなァおい。全部殺しちゃっていいんだよなあ!!」 集中攻撃を受けた式鬼の体力はすれすれ。だが、目的はもうすぐそこだ。 不運にも、神社の境内には複数の一般人が避難していた。 脅え、叫び声の中で、不協和音は嘲笑う。 「やめ、やめろよ……やめてくれえええ!!! やめろおおおおおお!!!!」 レンは反対側へと逃げていく一般人をかき分けながら、叫んだ。 その咆哮を聞きながら、式鬼の口端が横に裂けていく。 せめてあと二十秒か、三十秒あれば、レンは式鬼を殺せただろう。 あと三十秒か、四十秒あれば、レンは封印を守れただろう。 全てを、救えただろう……惨劇を、止められただろう。 無惨にも、無機物瓦落多の刃達は範囲内の命を丁寧に刈り取っていく。 鮮血が舞った。 叫び声が響いた。 泣き声が響いた。 笑い声が――聞こえた。 「くっ、あはっ!!! ギャハハハハハハハハハ!!!」 三本角はこれまでに無い程楽しく笑った。 そして大きな音をたてて、封印は壊れていく。 血の海の中心で、レンは頭を抑えた。 「すまぬ……すまぬのう」 全身を水でぐしょぐしょにした瑠琵が動かない少年の頭を撫でた。 リベリスタ達が追いついた頃には遅かった。 ――何も、かも。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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