●女と男 夜の公園で、何度目かの口づけが交わされる。 女は男の舌を貪るように吸い付き、男の方は台の上に寝転がってされるがままだ。どれ程の間繋がっていただろうか。情熱的な口づけを行っていた女が、唇を離すと2人の口の間に唾液が糸の様になり、それは切れた。 女は顔を上げると、赤みがかった髪をかき上げる。胸の双丘はドレスの下から、これでもかと自己主張をしており、女の成熟した魅力を演出する。 対して、男は起き上がらない。幸せそうな笑顔を浮かべて、寝そべったままだ。その笑顔は虚ろで、まともな精神状態をしているようには見えない。 「あなたと付き合った1年、それなりに楽しかったわ、ありがとう」 褐色肌の女は妖艶に微笑むと、手に黒光りするナイフを握る。 「そして、さようなら……。あなたのことは忘れないわ、儀式の全てが終わる位までは、ね」 女は月を背に、ナイフを振り下ろす。 赤い飛沫が飛び散る。 その様を見て、女は笑い声を上げる。 楽しそうに。 とても楽しそうに。 男は抵抗もしない。苦しみもしない。ただ、虚ろな瞳で自分の胸から流れ落ちる血を見ているだけだ。 「さぁ、カーニバルの時間よ」 ●謎の中へ迷い込み 2月も半ばを迎える、ある日。リベリスタ達はアーク本部に招集を受ける。ブリーフィングルームに向かうと、そこには『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)が待っていた。どうやら仕事のようだ。 三々五々集まるリベリスタ達。そして、全員が集まったところで守生は説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。今回、みんなにお願いしたいのはフィクサードの撃退だ。ただ……ちょっと妙な、というか厄介そうな事件だ。気をつけてくれ」 守生が機械を操作すると、表示されるのは都内にある公園の地図。都内にしてはそれなりに木々の生い茂った、大き目の公園だったはずだ。 「ここで怪しげな儀式を行っているフィクサード連中がいる。……黄泉ヶ辻の連中だ」 黄泉ヶ辻。 国内フィクサード、主流7派の1つとして知られる組織だ。だが、何を目的とし、何のために集う組織なのかを問われて答えられる者はいない。 あえて知ることを挙げるなら閉鎖主義。他の組織と交わることも無く、不気味な事件や理解出来ない陰惨な事件に関わっていることだけが知られている。正直言って、可能ならば一生関わりたくない連中だ。 「ここで若い男が1人殺される。どうやら儀式に生贄として使われているようだ」 残念ながらどう足掻いても間に合わない、と予知されているらしい。悔しそうに吐き捨てる守生。 「主流派との休戦協定も失効しようとしてるこの厄介な時期に、何を考えているのか……正直、見当もつかない。だが、相当にやばいことになりそうな予感もある。十分に気をつけて向かって欲しい」 そう言って説明を始める守生。 「相手は全部で10人。人数の上では同じで、こちらの方が実力は上に思える。だが……いや、だからこそ逆に不安になる。それだけの備えで何らかの儀式を行う、ってのも妙な話だしな」 貧弱なフィクサード組織ならそういうこともあるだろう。だが、相手は主流7派の1派なのだ。何らかの備えがあると考えた方が良いだろう。 そして、リベリスタの1人が資料を読む中で疑問の声を上げる。ある女フィクサードに関しては詳細が不明となっているのだ。 「それに関しても、すまない。その女が儀式の主導をしていることまでは分かるんだがな。後はフライエンジェのフィクサードってこと位しかわからねぇ」 なんともモヤモヤする話だ。 だが、放っておくわけにも行かない。 「出来る説明はこんな所だ。中途半端な説明になってすまない」 説明を終えた少年は、普段よりも自信無さげに、それでもリベリスタ達に精一杯の送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月26日(日)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 都内、夜の某公園。 『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)は、愚者の聖釘を指で握り締める。 「色々と奇妙な点が多くても、儀式は必ず阻止してみせる……」 元々フィクサードであった彼女にとっても、黄泉ヶ辻の行動は不気味なものだ。ただ1つ言えるのは、放置しておけば、碌なことにならないということだけだ。そして、胸騒ぎが尽きることは無い。謎、未知というのは、人間にとっては恐怖の対象となるのだ。 「儀式ねえ……供物は捧げられたけど完了した訳じゃないか。全力で阻止させて貰おう」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は、闇の中で戦いの覚悟を決める。彼は黄泉ヶ辻がここ一月で起こした様々な事件に関わってきた。それは1つの線を描くのかも知れない。あるいは、それぞれに別の事件なのかも知れない。どちらにせよ、いい加減に尻尾を掴みたい所だ。 「サバトじみた儀式をしてる女フィクサードねぇ。目的が何にしろきっちり邪魔して銭をもらうさねぇ」 『√3』一条・玄弥(BNE003422)にとっては、相手が何者であろうとさして変わりは無い。任務を果たせば、金がもらえる。それだけの話だ。今、彼の頭の中では如何に相手を倒すかと、もらった金で何をするか。その計算が同時に行われている。 そして、『紫煙白影』四辻・迷子(BNE003063)も方向性の差はあれど、敵の不気味さに恐れは抱いていない。元々、戦うことが好きで、数々の修羅場を潜ってきたのだ。 「儀式とかよくわからぬな。わしはいつも通り戦いを楽しませてもらうとしよう」 それ故に、口からはこのような言葉がついて出る。もちろん、戦いのは相手の本気である以上、本来の任務に対しても手を抜く気は微塵も無い。 そして、それぞれが闘気を高めていく中、別働隊が鬨の声を上げるのが聞こえた。 相手が何を考えているのか分からない以上、下手に考えても意味は無い。 そして、相手の備えに関しても曖昧だ。 そこで、リベリスタ達が取ったのは、メンバーを半数に分ける囮作戦。囮班が現時点で目に見える敵を引きつけ、その隙に本命が儀式を行う本陣に突入するというものだ。 『宿曜師』九曜・計都(BNE003026)が祈ると、リベリスタ達に小さな翼が与えられる。この作戦の肝。早急な突入を行うための飛行能力を得るためのものだ。 「まあ、皆倒してしまえばよいのじゃろう?」 迷子が笑う。 直行班の全てに加護が行き渡ったのを確認すると、リベリスタ達は飛び立った。 謎に包まれた、闇の中へと……。 ● 「七大フィクサード黄泉ヶ辻。情報収集者としちゃ興味をそそる相手だぜ」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は口元に笑みを浮かべると、「力」を象徴とするアクセス・ファンタズムを起動させる。 「何を企んでいようが構わねぇ。直接殴って、謎のヴェールを引っぺがしてやるぜ!」 謎があれば解き明かしていきたくなる、それがこの少年の性分だ。 「怪しい儀式、いかにも悪のフィクサードといった感じだね。見た目の方は……ウン、嫌いじゃないけど。敵は敵だしね、容赦はしないよ」 情報に聞いたリーダーの姿は、多感な少年にとっては少々刺激が強過ぎた。だが、『名前はまだない』 木田・黒幸(BNE003554)は帽子を被り直すと、能力を発動して集中力を高めていく。今は戦いの時だ。 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)も、ポニーテールを揺らすと、全身を闇で包み込み武装する。 「敵が手の内を見せないのはそう珍しい事でもありませんが……こう、形だけ見てすらろくでもないというのは気分が良くありませんね」 闇が形を成した所にいるのは、1人の魔剣士。その長身も相俟って、敵対するものにとっては恐怖の化身であろう。 「致し方ありません。慎重かつ迅速に処理しましょう」 黄泉ヶ辻が起こしたこの事件には不明な点が多い。 相手が何者なのか。 何のためにやっているのか。 何一つ分かっていないのだ。 なればこそ、素早い解決が求められる。そのために、別働隊が儀式の場に突入する間、護衛と思しきフィクサード達を相手にするのが彼らの役目だ。 「黄泉ヶ辻め。なにかアークに隠して実験しようるのう。今度こそは貴様らの神秘を暴いてやるのじゃ」 以前にも黄泉ヶ辻の事件に関わっている『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)は気合十分な様子だ。そして、囮班の準備が整ったのを確認すると、気合の雄叫びを上げて突入をした。 「ヒャッハッハッ! 儀式だ! フィクサードもいやがるのじゃぁっ!!」 ● 園内の林に剣戟の音と銃声が響き渡る。囮班とフィクサードの戦いが始まったのだ。 その機に乗じて、突入班は林の中を低空飛行で一気に駆け抜ける。 はたして、その作戦は成功を収めた。どうやら、林の中にいたフィクサード達は、囮班の方に引きつけられたようだ。後は一気に女リーダーを倒すだけだ。 「相手は儀式に注意がいってるから奇襲可能かねぇ……おや?」 前方に注意を払っていた玄弥の目に儀式を行う女の姿が入った。 フォーチュナから聞いた情報通りの景色が展開されている。ドレス姿で褐色肌の美女が、男の心臓を刺した。彼女がナイフを引き抜くと、鮮血が飛び散る。そして、そのナイフで空を切り裂くと、空間に亀裂が走っていく。 「アレはD・ホールやねぇ。開かせたら、儀式は完遂ってことなら……邪魔しやすか、くけけっ」 言葉と共に玄弥の握るクローが赤い光を帯びていく。そして、笑い声と共に一足飛びに女に切りかかった。しかし、敵もさるもの。気配に気付くと、バック転で、回避した。切られた髪が宙に舞う。 「あら……さすがは、アークね。結構隠蔽には気を使っていたんだけど」 「ほう、わしらがアークと分かるか」 微笑む女に対して、ちょっと驚きの表情を見せる迷子。 「えぇ。この場所を突き止めることが出来て、なおかつ攻めてくる集団と言ったら、アークしか浮かびませんもの」 身体に付けていた装飾品を外していく女を見ている内に、迷子は彼女から発せられるオーラが膨らんでくるのを感じていた。おそらくは、この場に来た誰よりも実力は上なのだろう。だが、そんな思いはおくびにも出さず、相手の気配を探る。 「わしはアークの四辻迷子。お主らの行おうとしてる儀式の成否は正直どうでもよいが戦いに来た。お主の名は?」 「ふふ、こうなった以上、名前なんか隠し立てしても意味は無いわね。わたしの名前はミランダ。ミランダ・鍵守(-・かぎもり)。今後ともよしなに」 ミランダと名乗った女性は優雅に一礼をすると、目の前に魔法陣を展開し、そこから矢を放つ。 迷子も四辻式格闘術でいなそうとするが、全てを消しきれるものではなかった。その魔力に勢いを削がれながらも、相手がホーリーメイガスであることを確信した。 そして、ミランダがさらなる追撃に入ろうとするのを、七海が正鵠鳴弦より放った呪いの矢が止める。 「ミランダ殿、この状況で勝てるとは思っていないでしょう。1つ聞かせて下さい。『一人目』の相馬さんと顔見知りだったりします?」 七海は再び矢を番えて、いつでもミランダを狙えるようにしている。 それに対して、ミランダは臆する様子も無い。 「相馬? あぁ、彼。なるほど、あれに関わっていたリベリスタなのね。ふふ、教える義理がわたしにあると思っているのかしら?」 それどころか、挑発的な笑みを返すだけだ。しかし、そんなことはリベリスタ達も先刻承知だ。 「聞いても答えてくれる訳ないわよね。なら、私達は貴女達を止めるだけ」 囲む木の幹を足場に、クローチェの聖釘が襲い掛かる。 描いた魔法陣でミランダは防ぐが、それはフェイント。 伸び上がる影に隠れて、クローチェが放った気糸がミランダに迫る。 今度は防御が間に合わず、クローチェは見事にミランダを縛り上げる。 「闇が真実を隠すなら、私達はそれを祓うのみ。でも、貴女の魂は、永遠に闇を彷徨いなさい」 トドメを刺すべく、クローチェは手元にオーラを集中する。しかし、それを見ながら、ミランダは含み笑いをする。 「ふふ……ふふふ……」 その異様な雰囲気に警戒するリベリスタ達。 「あなた達の作戦は見事だったわ。そして、それを実行する勇気も。『相手に対する完全な情報を得る』、これだけが『伝説』を破った理由でないのは良く分かったわ……ふふふ」 これだけの劣勢にあって、ミランダは笑っている。笑っている。 「諦めましょう、この場で『カーニバル』を完成させることを。少なくとも、最低限の目的は達した」 「逃げられると思っておるのか?」 迷子が放った牽制もかわさない。着ていたドレスがはだけられ、ミランダの背中に漆黒の翼が開く。 一瞬、そちらに目を奪われそうになった玄弥だが、別の気配に気が付いた。先程開いたD・ホールが動き出したのだ。 「旦那方! 何か出てきやすぜぇっ!」 玄弥の言葉が早かったか、『それ』の出現が早かったのか。 その小さなD・ホールから、2mを超える巨人が2体、姿を現わす。アザーバイドだ。 頭は猫型の肉食獣に思える。 そして、巨人達は木剣を振り上げると、大きく雄叫びを上げた。 ● 一方その頃、囮班のリベリスタ達も、フィクサードと激戦を行っていた。 実力では概ねリベリスタ達の方が勝ってはいるが、数においてはフィクサードが勝っているのだ。 そして、最終的に明暗を分けたのは持久力だった。メアリの癒しの力は、窮地に陥るリベリスタ達を癒し、着実にフィクサードとの差は開いていった。 もっとも。 「反魂とか実験してる悪い子はいねがー!? こっちにも実験結果よこせ!」 と叫びながら、暴れているようにしか見えないメアリが回復担当であるなど、歴戦の軍師リベリスタの目を以ってしても見抜けるとは思えないが。 「人使いが荒そうな職場ですけど、更生する気ありませんか?」 気糸で絡め取られた覇界闘士を相手に、黒幸がちょこんと首を傾げて質問する。しかし、それに対してフィクサードは視線で断りを入れる。その目には狂信的な輝きが宿っているようにも見える。まだそうした輝きに触れる経験が少ない黒幸としては、そのまま気絶させるしか無かった。 一方、影継の動きに迷いは無い。過去に幾たびもフィクサードには辛酸を舐めさせられている。リベリスタにとって最大の敵はフィクサード。この意味は身を以って経験しているのだ。 「さぁて、鉛玉の宅配便だぜ!」 勢い良く放たれた弾丸は、あたかも蜂の群れが襲うかのようにフィクサードを襲う。刃を赤く光らせてダークナイトが切りかかるが、それもチェーンソー剣で軽くいなす。 そして、隙だらけになったダークナイトに、式神の鴉が襲い掛かる。『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の放ったものだ。彼女はニヤリと邪悪な笑みを浮かべて、林の奥に警戒を向ける。 「くっ……もはや、ここまでか……」 残ったダークナイトは、逃げる隙を探すが、そのようなものは無い。目の前の長身の女がそんな甘い相手でないことなど、同じスキルを使うだけに分かり過ぎるほど良く分かる。 「私は……突き詰めて言うと、この儀式が何かなどに興味はありません」 「?」 ユーキの言葉が理解できないといった表情を浮かべるダークナイト。だが、訥々と彼女は語る。 「私の関心はそこではない。……ただ」 そう言うと、ユーキは大上段に剣を構える。そして、みるみる刃は赤く染まっていく。 「人を殺した、その報いは受けていただきます!」 言葉と共に剣を振り下ろす。それが、この場の決着となった。 ようやく一息つくリベリスタ達。だが、安息の時間はそれ程得られなかった。 「GAooooooooo!!!」 「!?」 少なくとも、獣が出るなど聞いていない。事前に分かっている敵ならば、全て倒しているのだ。ならば、『何か』が起こったのだ。互いに目で合図するリベリスタ。 「面白ェ。徹底的にやってやるぜ!」 影継は勇んで駆け出す。そして、他のメンバーもそれに倣って、敵のリーダーが待つ林の奥へと向かった。 ● 現れた巨人の戦闘力は高かった。その木剣から繰り出される剣技の技量は高く、決してリベリスタ達に劣るものではなかった。そして、先の戦いとは逆に、ミランダから繰り出される癒しの術により、巨人達は意気旺盛に襲い掛かってくるのだ。 そして、突入班がさすがにまずいと感じた時だった。 「ボトムチャンネルの覇王、最後方天魔王・沙織んが配下のアーク自由戦士じゃ! 名を名乗らんか!」 囮班のリベリスタ達が戦場に辿り着く。 「あらあら、思ってたよりも早いお着きね。なら……」 増援に気付いたミランダは、自分が殺した死体に向かおうとする。しかし、勢いのついたリベリスタ達が、それを安々と見逃すはずもない。 「やらせません」 「さすがにこうなったら……諦めるしかないわね」 七海の矢に妨害されたミランダは、舌打ちすると、そのまま空高く飛び上がる。そして、その時、計都の念が彼女の精神にアクセスした。 アーティファクトの起動、成功……。 アザーバイド、『戦士』の支配、成功……。 彼、仕方が無い……。 『カーニバル』、日を改めて……。 そして、アザーバイド、テ……。 断片的にイメージが入ってくる。そして、最深部に突入しようとした時、巨人が動く。残像を残しながらの、素早い攻撃は、木剣とも思えない鋭い切れ味でリベリスタ達を切り裂いていく。 「GAoooooooooN!!!」 さらに、もう1体が迷子を襲う。速さよりも威力を重視した、重たい一撃。誰もが、彼女の小さな身体が吹き飛ぶ姿を想像する。しかし、それは現実のものとはならなかった。 「名を名乗らぬとは無礼な奴じゃな。とは言え、お主。中々に楽しかったぞ」 軽やかな動きで、巨人の一撃をそよ風のようにかわす迷子。 そのまま、お返しとばかりに流れるような動きで、炎を纏った拳を放つ。その炎は、燃え広がり巨人の肉体を焼いていった。 そして、荒れ狂う巨人達の中へ、踊るように影が現れる。 クローチェだ。 「この世界から消え去りなさい、アザーバイド」 巨人とダンスを踊るかのように刃が舞う。そして、死の舞踏が終わった時、1体の巨人が倒れ伏す。それを見て、もう1体の動きが鈍る。間違い無く、隙が生まれた。その隙は、人の弱さを知り、それを突くことに何の躊躇も無い男の前では、余りにも致命的だった。 玄弥から放たれた闇の波動が、巨人の肉体を蝕み、たまらずに足元がふらつく。 そして、さらに玄弥は容赦無く追撃を行う。相手が弱ればそこに付け込む。彼はそうやって戦ってきた。 「きっちり始末させてもらいやすぜぇ」 巨人の腹にクローを突き刺すと、捻って空気を送り込む。しばらく悶える巨人だったが、その内に動きを止めた。 それを確かめて、玄弥はくけけっと笑った。 ● ミランダと名乗る女フィクサードには逃げられたものの、作戦の展開が早かったお陰もあり、儀式の場を制圧することには成功した。犠牲はそれなりに払ったが、これは大きな成果と言えよう。 「死んだ男はアザーバイドとかじゃ無さそうだな。死体から身元を探られるのを嫌がったのかも知れない」 ざっと確認した影継が分析する。誰でもいい生贄だったのか、彼でなくてはいけない理由があったのかは分からない。ただ、後者の方が可能性は高いだろう。 「肝はあのナイフなのでしょうね。アレでD・ホールを作り出そうとしていたわけですし」 「むぅ、聞いたことがある」 「知っているの、メアリ?」 額に大往生と書き込み、真面目腐った顔のメアリに、こちらは生真面目にクローチェが質問する。 「現物は見逃したが、ある程度の指向性を持ってリンク・チャンネルを繋げるアーティファクトがあるという。おそらくはその類なのじゃろう」 「あの巨人の世界に繋げようとしたってこと?」 黒幸の問いにメアリが重々しく頷く。 「そんなことのために……」 ユーキが悔しさに唇を噛む。鋭い目付きが一層の鋭さを帯びた。 そんな所へのん気な表情で玄弥が戻ってきた。捕らえたフィクサード相手に『聞き込み』をしていたのだ。 「いやぁ、あいつら、吐かんかったわ。中々に忠誠心あるやっちゃでぇ」 5本も折ればいけると思った、と小声で呟く玄弥。詳しいことは聞かない方が良いのかも知れない。 そして、これ以上この場で調べられることは無いだろう、とリベリスタ達は判断した。 引き上げる彼らの顔に、謎への恐怖は無い。神秘のヴェールに隠された黄泉ヶ辻。ならば、それを奪い去ってやるまでだと息巻いている。 「謎も秘密も、俺の『力』で打ち砕いてやるぜ!」 影継の言葉に頷くと、リベリスタ達は本部へと帰投するのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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