●理由 時折自分が怖くなる。人が死ぬかもしれない場面に遭った。人が死ぬ瞬間を見た。人が死んでいる光景を目にした。そんな目に遭っているのに、どうして自分は生きている? 死んでもおかしくない状況には、もう何度も出くわしているのに。偶然、奇跡。言葉は違えど、指しているものは変わらない。 部屋の隅で膝を抱えている。何か用事があるとき以外は、ほとんど部屋から出ていない。本当は用事があっても出たくないくらいだけれど、他人に迷惑をかけるのはいいことではない。誰かに会えば必ず死ぬわけでもない。 ただ。人と関わることで、その人が死んでしまうかもしれない。不安がふと過ることがある。死神が脳内を通り過ぎる瞬間を感じる。それを想像してしまう自分が、恐ろしい。 コンコン、とノックの音が転がった。無言で、転がっているのを無視した。ノックの主は返事を待たずに、部屋の中に足を踏み入れた。 「まーた引きこもってるの?」 絵里子、恋人だ。唯一、俺の心中を打ち明けている相手。俺のことを心配してか、頻繁に俺の家を訪れてくる。鍵は渡してあるし、チェーンなんて掛けないから、出入りも自由だ。俺はどこかで期待しているのかもしれない。彼女に会って、何かが変われば良いと。何が変わったかなんて、知る術もないのに。 「ほら、外明るいよ」 彼女は閉め切ったカーテンを開けて、日の光を部屋に受け入れる。光に照らされた彼女と、影に包まれている自分が、隔てられているようで心苦しい。 「なーにが自分の周りで事件が起きるよ。そんなの偶然偶然。思い過ごしだって。毎日無駄にするより、どっか行こうよ、久し振りに」 彼女は俺の手を引いて、立たせようとする。抗う気力もなく、俺は彼女に従った。 全く、何を期待しているんだか。自分で自分に呆れていた。 ●理由なんてぶちこわせ 「フィクサードが一般人を誘拐しようとしています。それを食い止めて頂きたい」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)はキビキビとした口調で概要を伝える。 「フィクサードは六名。ほとんどが男性で、女性が一名いるようですね。今宮圭というみたいですね。彼女は誘拐対象の男性、結城蓮の『恋人役』だそうです。彼らは……マッドサイエンティストといいますか風変わりとでもいいますか、わけのわからない研究をしている科学者フィクサードらしいのですが、以前から彼を観察対象としていたようです」 「なんで彼……蓮はそんなことされてるんだ? 特別な力を持っているようには見えないが……」 「最近の彼らは研究テーマは『革醒を誘発する非革醒個体の存在証明』。調べてみた所、結城蓮は以前エリューション関連の事件に三度巻き込まれています。彼に関係のある人間や場所で、です。それもあって、彼らに目をつけられたのでしょう……そんな人間が果たしているのか、彼が実際そうなのか、定かではありませんがね」 そんな人間が存在したとしたら。世界への悪影響は計り知れない。フィクサードでもエリューションでもないのに、間接的に世界を壊すことができるのだから。 ただ彼がそうであるとはわかっていないのに、殺したり、あるいは彼に実験を施して、彼の精神を害することは、あってはならない。彼はそんなことができるかどうかという前に、まだ純然たる一般人であるのだから。 「彼が誘拐された場合、実験サンプルとしてアーティファクト等による人体実験が予想されます。考えを広げると、彼が何をされるかわかったものではありません。是非とも彼を救ってください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月25日(土)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 自分の周囲で人が死んでいく。偶然に。偶発的に。何度か繰り返したとき、ふと思う時は来るのだろうか。自分の周囲で、人が死んでいく。気のせい。思い過ごし。杞憂にも思えるそれを時折信じてしまいそうになる。確たる証がないにも関わらず。 気の持ちようと言ってしまえばそれまでですが、と蘭堂・かるた(BNE001675)は言葉に詰まる。それは誰にでも起こりうる事なのだ。誰の前でも人が死ぬ事がある。誰の前でも自分が死ぬ事がある。偶々それが自分の前で何度か起こっただけの事。ただその『何度か』が、偶然をより確固たる運命として見るきっかけになることは、往々にしてある。 偶々、そう偶々。『名前はまだない』木田・黒幸(BNE003554)が思い返すと、人生は偶々で溢れている。偶々でナイトメアダウンに巻き込まれた。革醒もしたし、師匠にも助けられた。幾重にも重なる偶然。その中で印象的だった部分を拾い集めて、運命と言っているだけの事だ。結城蓮がもし革醒を誘発する、ひいては革醒者を集める能力を本当に持っているのなら。こうしてリベリスタやフィクサードが彼に集まってくるのもまた、運命が彼を逃さなかった結果なのだろう。自分が昔助けてもらったように、彼が自分たちを信じるのならば、絶対に守ってやろう。 運の悪い奴もいたものだと『晴空のガンマン』灰戸・晴天(BNE003474)は思う。多くの神秘が存在すると言えど、自分から好んで巻き込まれに行かなければ、同じ人間が偶然異なる神秘に巻き込まれるケースは、それほど多くないだろう。それも三度、いや、今回で既に四度目となる。蓮が特別かどうかは別にして、これ以上ついていない目に遭わせるのも酷というものだろう。日常はできる限り平穏の方がいい。 今宮圭は蓮様の誘拐を画策している。その身に宿しているかもしれない性質を研究したいがために。彼がそれを知らないのは、幸福だろうか、或いは罪とも言えるのだろうか。『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は思索に耽る。だがその実、彼に何の罪もないのは明白だ。彼を危険な目に遭わせるわけにはいかないだろう。 カレイドの大まかな予測とかるたの集音装置等を用いて、圭や蓮、フィクサードたちの居場所を探る。圭とフィクサードたちの合流は、まだ果たされていないようだった。好都合だ、とリベリスタたちは彼らの動きに気を配りつつ、機会を待つ。 蓮は圭に手を引かれながら、人通りの少ない道を進んで行く。圭は彼に優しく微笑みつつ、彼の視線に隠れて怪しく笑う。フィクサードとの距離は徐々に近くなる。彼らが辿るルート、意図、それが浮き彫りになっていく。 蓮がその角を曲がったとき、五人の男が道の真ん中で立っているのが見えた。何をしているのだろうか、と彼らを見ていると、彼らもまた蓮たちの方を向いた。目が合い、マズいと思って目を逸らした。彼らは静かに圭と目配せし、ニヤッと笑う。 「おい、そこのにいちゃん、俺らを睨むたぁいい度胸だな」 「……何のことでしょう?」 「とぼけるなよ」 フィクサードたちは威勢よく凄む。 「生意気なガキだな、ちょっと俺らと『遊ぼう』ぜ。女も一緒になぁ!」 棒読みで言った彼らは駆け出し、蓮と圭に襲いかかろうとする。圭はフィクサードたちに上手く捕まるように、移動しようとする。そのとき、『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)がその間に割り込んだ。後から続々とリベリスタが集結する。 「良かった間に合いました。今宮さんが教えて下さった通りでしたね!」 桜は圭の顔を見つつ、周囲の人間全てに聞こえるように叫ぶ。圭は一瞬頓狂に表情を無くしたが、すぐにそれは消えて、安堵の表情になる。彼女のその場における優位性は、蓮の信用を得ていることにあった。それが無くなることを避けなければ、穏便に蓮を動かすことは難しくなる。取り繕うため、瞬時に判断した苦渋の選択。 「え、えぇ、ありがとう」 裏切り、謀略。彼女にその意図はなく、むしろいつ仲間の戦列に加わるか、思考を巡らせていたのだが。彼女の一切の思索を無視して、桜は話を進めていく。 「其処なる5人! 裏切られたとも知らないでのこのこ出て来ましたね。貴方たちのお相手は私たちが行います!」 ● そこにいた誰もが言葉を無くした。あるものはイレギュラーの介入に、あるものは計画が齟齬したことに、あるものは状況の理解が追いつかないがために。 「結城蓮さんですね、私達は特務機関アーク。あちらの5人は私達が追っている犯罪者なんです」 桜はフィクサードたちを指差して言う。その視線の一切が圭に向けられることなく。 「こういうケース、初めてじゃないですね? じゃ少し後ろに下がって下さい。伏兵が居るかもなので御注意を」 桜は圭と共に蓮を後ろに下げる。圭は黙ってそれに従った。リベリスタの声のあまり聞こえない位置まで彼らは下がり、待機する。 「確定もしていない者を強制的に神秘に関わらせるのは認められない」 かるたは威風堂々と言う。その身から表れる貫禄は、身体の小柄さからは想像できない程の威厳を醸し出していた。 「あなたたちの情報は既にこちらに割れているんですよ。ここにこうしているというのがその証拠」 「……それで、何がお望みで?」 フィクサードの一人が矢継ぎ早に話題を切り出す。その表情からは怒りの感情が在り在りと見えている。 「アークへ協力するのはどうです? 拉致なんかするリスクを負うよりよっぽど利口ですよ」 「それに殺したりってのは嫌なんだよね、大人しく投降してくれるのが嬉しいんだけど、どうかな?」 かるたと黒幸は冷静に提案する。対照的に、フィクサードの声に徐々に怒気が溢れ出していた。 「決裂だ。俺らにはそんなの関係ねぇ。あいつもろともぶち殺してやる!」 誰が嘘を吐いているか、吐いていないか。既に彼らにはどうでもよかった。想定外に対する怒り。それをぶつけること、晴らすこと。目的の逸脱。心情の乖離。恐らく本来の仲間という括りでは、彼らはなかった。 「壊して良い対象も居るみたいだしそれなりに楽しめそうかしら」 弾む声が辺りに響く。闇のオーラを纏った『bloody pain』日無瀬 刻(BNE003435)が上機嫌に微笑む。彼らがリベリスタに敵意を向けたことで、面倒を被る必要は、失せた。各人が一対一で、フィクサードと対峙する。先制してフィクサードから飛ぶ攻撃から蓮を守るため、残りの三人は圭と彼を庇いに向かった。 「色々考えないと駄目なアーク流ってやつは面倒ね」 放たれた暗黒の瘴気が自身を刻むと共に敵に傷を与える。不吉な気配がそこかしこに立ち上る。 「存分に楽しませて頂こうかしら」 ● 仕掛けられる攻撃をかいくぐるように放たれる聖なる光。ジョンの放ったそれが幾人かのフィクサードの身を焼く。彼らの目は微かに眩む。 「恋は盲目、と申しますが。いやはや、恐ろしい女性ですね」 明神 暖之介(BNE003353)は圭をチラと見つつ言う。研究のためとはいえ、恋心を0から育て、虜にする。卑しい企みを抱えているなど想像すらしない程に。この先、女性に対して絶望を抱かなければいいのだけど、と暖之介は戦場にいながらにして蓮を気遣った。 「よそ見している暇があるたぁ、余裕だねぇ!」 振り下ろされるナイフ。暖之介はそれを受けつつ、反撃に転じる。伸びる気の糸がフィクサードを絡めとる。 「きちんと敵の動きに気を配れば余裕だって持てますよ」 身体の痺れた男は膝から崩れ落ち、自身の身体を抱くように腕を巻く。その目は苦々しく暖之介を見つめ、同時に後ろにいる圭の方へと向けられる。 「ねえ、蓮さん。圭さんのこと、おかしいと思ったことありません?」 『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)が問いかける。蓮は軽い催眠状態に入っていた。圭は黙っている。先ほど仕掛けたリーティングで読み取れた情報はそれほど多くないが、動揺しているのは間違いがない。彼女が口を挟む余地は、今の所ない。蓮は率直に疑問を述べる。 「どういうことでしょう?」 「あなたが不可思議な事件に遭うたびに、そこにいませんでしたか? あなたが奇妙な目に遭うようになってから、『何故か』彼女に惹かれるようになりませんでしたか?」 考える。深く、深く、奥底に埋まる記憶に問う。彼女と初めて出会った時、恋人となった時、そして今に至るまで、何があって、どうしてそうなったか。 「圭さんが、裏で操っていたと考えたら」 全て辻褄が合いませんか? 突然、圭が計都と蓮の間に割って入る。彼女の心は乱れている。読まれていることがわかっていても、彼女は次々と溢れ出る思考の噴流を抑えきれない。 「変なこと、吹き込まないでよ」 読む。彼女が彼に対して抱く想い、謀略の全てを。そして、有する得物の在処を。 「わたしたち、アナタを助けにきたんです」 揺らぐ心に語りかける。蓮の心は今、圭への感情と猜疑に揺れ動いている。駄目押すならば、今。 「圭さん、あなたが蓮さんを絡めとる得物、そこに入ってるんでしょう?」 指差す先には圭のハンドバッグ。彼女は反射的にそれを背中に隠す。明らかに、その顔が青ざめた。 「中、見せてくださいよ。それで疑いは全て晴れる」 ほら圭さん、バッグの中、見せられないの……? 圭がキッと顔をしかめて計都と距離をとり、ハンドバッグを投げ捨てつつウィップを取り出す。それが計都を狙うのと同時に、嘴の鋭く尖った鴉の式神が飛ぶ。計都は身体の痺れを感じながらも、ニヤッと笑った。圭は怒りに満ちた表情で計都を侮蔑する。 「これがどうかした? ただの護身用よ」 彼女の手が震える。動揺、体裁の保護。心を読まずとも感じ取れることは、少なくない。 計都は触れた彼女の心に些細な違和感を覚える。微かに、僅かに、異物が混じっているような。 「後はご自身で判断してください、蓮さん」 桜に蓮を庇わせながら、計都は蓮に言った。 ● 鳥の形をした無数の符が放たれ、晴天を襲う。式符の雨に打たれながら、フィンガーバレットを構える。生じた傷は浅い。彼は攻撃の隙を狙う。 「とっととカタをつけちまうか」 構えてから撃つまでの時間は一瞬。驚異の早撃ちで晴天は敵の急所を狙い打つ。発射される連続的な弾丸に敵は足を止めた。 しかしまだ倒れたわけではない。彼が呪力を放出すると凍える風と雨が生まれる。晴天は痛みに顔を歪ませながらも、自分の担当する敵から目を離さず、抑えようとする。 現状一人が一人ずつ、フィクサードを抑えることに成功している。圭、蓮を抑えている仲間も、圭の意識を逆撫ではしたようだが、それほど問題のないようにも見えた。ならば、自分たちは自身の役割を果たすだけ。 自分で自分に与えた傷はもう適当な量溜まっている。後はこの攻撃が有効だろうと刻は得物を構える。敵、そして自らが刻み付けた傷を呪いに変えて、矢に込める。打ち出されたそれは空を斬り、呪詛の願いを刻み付ける。自分と敵。与えた傷の大きさは後者が遥かに大きく、彼は虫の息になってよろけた。 刻は圭を見る。激昂してはいるようだが、彼女が仲間に対して回復や攻撃のサポートをするような気配はなかった。彼女の目的は、その方向性にこそ問題があれど、蓮と一緒にいることだ。第一義的にそれを達成できなければ彼女は行動ができない。彼女がフィクサードたちの仲間であるという素振りを見せれば、蓮の信用は瞬く間に失墜していくだろう。例え仲間を見捨ててでも、ということだろうか。 ならば圭を攻撃することには意味がない。彼女が蓮の信用を保とうとする限り、フィクサードたちを回復することはないのだ。こちらから戦闘を劣勢にするのは的確な行動とはかけ離れる。 現状で自分が蓮の側に立っているには、手を出してはならない。誰であろうと、何であろうと。彼の持っているかもしれない能力に興味があった。だが、この『恋人ごっこ』がつまらなかったかと言えば、嘘になる。人を研究するということは要するにその人を知ることだ。その人の心の底に眠る想いや、その人が抱える痛みを知り、理解することだ。その道は『恋愛する』ことと似ていた。研究の対象として興味を持つにつれて、蓮という人間に惹かれていったのも、また事実だ。誘拐なんてして動かしたかったのは、彼の能力か、心か。 蓮は研究のサンプルだ。それは今も変わりはない。一刻も早く、彼の研究がしたい。その真相を暴きたい。彼のことを、知りたい。全てを。 「ねぇ、アークに来ませんか?」 桜が提案する。計都によって、彼女の心は全て筒抜けだった。かろうじて、蓮には届いていなかったけれども。 「蓮さんは、アークで保護します。彼が本当に神秘を誘うかは、調べてみないとわかりませんが、いずれわかると思います。そこに一緒に行けば、彼を誘拐しなくても、知ることはできると思うんです」 圭は口を噤む。合理的なのはどちらか。現実的なのは。彼女は自分の心を理解していなかった。 ● 綿密に練られた気糸が鋭く伸び、複数の対象を撃った。身に降り掛かる身体の重みに、意識は途絶えそうになる。かるたはそれに追撃して、得物を振るう。描かれた幻想的な軌跡は、それをなぞる激しい烈風を生み出した。一人がその熱気にあてられて、気を失った。 一方黒幸は苦戦する。敵対する彼の正確無比かつ強力な気糸の狙撃が、彼を容赦なく傷つける。かろうじて、直撃こそ免れても、一撃一撃がとても重かった。 彼も気糸を展開し、罠を形成する。彼を捕らえ、動きを留まらせるために。しかし、彼はそれを的確にかいくぐり、一閃。その軌道から離れるように、力を失った彼の身体が逸れていく。倒れる身に、なお追撃を試みるフィクサード。だが、それを暖之介が遮る。 「手早く、地に伏せて頂けますか」 伸びた糸が敵の身体を締め付ける。身体の痺れも全く関係なしに、彼の身体は崩れ落ちる。 敵は残り少ない。リベリスタは集中攻撃を仕掛ける。雨霰。着実な戦いの終わりを暗示する。 雨を掻き分けて光が直進し、晴天を貫く。もつれる足、しかし彼の運命は倒れることを許さない。前へ、前へと進むための力を欲する。 「運の悪い奴を、救ってやりたいだけなんだがね」 バウンティショット。その精密な早撃ちが敵の急所を撃抜く。彼は痛みに打震えて銃創を抑える。ジョンの放つ気糸が彼を突き、いよいよ瀕死になった。 刻が、矢を射出する。突き刺さったそれは呪いとして彼に刻み込まれ、彼の動きを止めた。 「人助けのお仕事、完了ね」 蓮は、自分の今いる状況、圭の仕草、表情、それらから幾つかを感じ取ることができた。圭が自分に対して何をしようとしていたか。何故ここに来たのか。男たちは何だったのか。彼らは何故助けに来たのか。曖昧ではあったけれど、それらが指し示す道はそれほど多くはない。 けれども。自分が今どうしてここにいるのかを考えると、彼女を拒絶することは、彼にはできなかった。自分はどんな状況であれ、彼女を信じたのだ。自分と彼女が、付き合ってから重ねた経験、交わした言葉。それは優しかった。恋人に向けるそれのように。とても、非人間的なものを見るような目ではなかった。 少なくとも彼女が実験動物を見るような眼で自分を見ていたのなら。今すぐに拒絶することもできただろうに。 「ねぇ、絵里子」 状況は既にわかっていた。でも彼は、彼女を過去の形で呼ぶ。 「……ごめんなさい」 呟き。消え入るような。今にも気化しそうな。蓮はそれを聞き漏らさぬように、じっと耳をそばだてる。 「私、本当は圭って言うの。今宮、圭」 「うん、わかった」 彼女が企てていた未来を断ち切るために、それは必要だったのだろう。彼らがこれからどういう道を歩みたいかは、彼らの問題だ。既に圭が蓮に危害を加える様子はないのだから、これ以上手を出すのは野暮というものだ。 「これが前を向く転機になればいいのですが」 かるたは未来を憂いて言う。蓮について何もわかってない以上、彼はこの先も何らかの事件に巻き込まれるかもしれないけれど。それを耐えるだけの心の支えは、まだ維持されているようだ。 「取り越し苦労だったようですね」 黒幸は静かに納得する。これがだって一つの『運命』なのだろう、と。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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