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<黄泉ヶ辻>こどもリサイクルセンタア

●なんでもないものになろう
 おなかがすいた。
 パパとママが優しい人だと思っていたのはいつ頃までだったろう。
 買ってきたリンゴに私の分が無かった日には、もう気づいていた筈だ。
 私の部屋から家具が無くなっていた日にも、気づいていた筈だ。
 そうだ、気づいていたのだ。
 私はいらない子になっていたのだ。
 パパとママに手を引かれ、『こどもリサイクルセンタア』へ行く。
 ここに行けば、私はなんでもないものになれるのだと言う。
 いらない子よりはいい筈だ。
 仮面の男に手を引かれる。
 それにしても、お腹がすいた。

●機械を作る機械
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の表情は芳しいとは言えなかった。
 詳細に説明することを控えたので、断片的な情報にはなるが。
 五歳程度の子供がベルトコンベアで運ばれる様を見たのだと言う。
 その先には何もなく、本当に何もない所に吸い込まれていく……そんな光景だったそうだ。
「それを差して、仮面の男が『なんでもないもの』と呼びました。意味は、解りません」
 もう一つ気になることがある。
 和泉が見たのは主流七派が一つ黄泉ヶ辻。
 真意の分からない不可思議なフィクサード組織であり、常識的思考から完全に逸脱した集団とも言われている。

 今回皆に託された依頼は『こどもリサイクルセンタア』に受け渡された少女の救助だった。
 既に受け渡しは済んでいて、暗い路地裏を仮面の男に手を引かれ、連れて行かれる所なのだと言う。
「恐らく今なら間に合います。女の子を、助け出してあげて下さい」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月24日(金)22:37
八重紅友禅でございます。
補足をお話ししましょうね。

●仮面の男
黄泉ヶ辻に関わるフィクサードであることは確かなようです。
彼は何故か周囲に複数の人型Eフォースを連れており、戦闘になれば彼らをけしかけてくるそうです。
Eフォースは12体。いずれも力の弱い相手です。
フィクサードの力量は計り切れませんでしたが、彼以外にフィクサードは現れません。あくまで一人です。

薄暗い路地裏を歩いているので、途中で襲撃が可能です。
少女を生きたまま連れ帰ることができれば、この依頼は成功です。

以上です。
あなたは、どうしたいですか?


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ホーリーメイガス
ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)
クロスイージス
姫宮・心(BNE002595)
ソードミラージュ
ネロス・アーヴァイン(BNE002611)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
ダークナイト
シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)
プロアデプト
アルバート・ディーツェル(BNE003460)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)

●やりたいことをやるな。したくないことはするな。
 灰色の建物に挟まれた路地には、漏れ込んだ街灯の光がまばらに点滅していた。
 仮面の男に手を引かれて歩く少女。
 少女は何も言わなかったが目だけは前を向いていた。
 声が、聞こえる。
 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の声だった。
「君は名を失っちゃいけない。君であることを失っちゃいけない。なんでもないものになりたいなんて、思わないで」
 仮面の男は立ち止まり、少女もまた立ち止まる。
 周囲を飛び交っていた形容しがたいフォースの群れが、目玉のようなものをしきりに周囲へ走らせた。
「ボク達は、ただ唯一、君を助けたいだけなんだ。君を、愛しているんだよ」
 仮面の男は少女から手を離した。
 ……だけ、である。
 その途端アンジェリカとフォース三体がぶつかり合った。
「――っ」
 索敵されたと察するや否やフォースを鋼糸でからめにかかる。
 建物の上を越えて降下してくる『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)。
「悲しい話はNOなのデス、超守りますデス!」
 上方を警戒していたフォースに激突。心はそのまま力ずくで押し込みにかかる。
 形容しがたい口のようなものが剣をガチリと挟み込むが、心はそれを無理矢理蹴飛ばした。
「こんなのっ」
「…………」
 沈黙する仮面の男。
 『リベリスタ見習い』ネロス・アーヴァイン(BNE002611) が建物の壁をジグザグに飛び交っていく。行く手を阻みにかかったフォースへと高速で切りつけた。
「師は言っていた。子供は世界の宝だと」
 自分の価値を自分で生み出せるのだと、そう伝えられればよいだけだ。
 愛されねば、それすら気付けないものか。
 生きてさえいれば、いつか愛にも出会える筈なのだ。
 そうでなければ、いけないのだ。
「邪魔をするな」
 包丁や釘が絡みついた腕のようなフォースに刀を止められる。ネロスはそれを一気に撫で切った。
 釘や螺子が無数に突き刺さり、ぎりぎりと捻じ込まれる。
「数が多すぎる。すぐに保護するのは無理か」
 舌打ちするネロス。
 傷はまだ浅い。その内に、『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)は天使の歌を発動させた。
「傷は気にするな。妾が癒してやるゆえ、存分に踊るが良い」
「……助かるデスっ!」
 フォースの塊に身体ごとぶつかって行く心。
 その光景を、女の子はただぼうっと見つめていた。

●言いたいことは言うな。言いたくないことは言うな。
 フォースがぶつかり合う中で、仮面の男は背後へ振り向いた。
 肉のはみ出たぬいぐるみのようなフォースを槍で突き刺し、振り払うように捨てる者がいる。
 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)であった。
「黄泉ヶ辻の方ですね。消えて頂きましょう」
「『歓迎します』……嘘です」
 仮面の男が変声機を通したような声で言った。
 目を細めるノエル。
 視線を素早く周りに廻らせた。退路は完璧に塞いでいる。上下左右全てだ。戦闘に入ったと言うのに仮面の男がなんら行動を起こさないのは不気味だったが、戦って負けるような相手とは思えない。
「……」
 ノエルは直感的に危険さを感じた。
 物理的な危険ではない。
 身体の中に手を入れられて、目に見えない心を柔らかく握られているような、言い知れない不安感と危険である。
 脚が六本程糸で括られたようなフォースを素早く斬り捨てる『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)。
「何をしてるんです。これらが何であれ、既に人でない以上手心は無用ですよ」
「……分かってます」
 戦闘の手を一時的に止めてフォースにリーディングをかけるアルバート。
 『ダメダメダメダメダメダメダメムリダメダメムリムリダメダメダメムリダメムリムリムリダメダメダメダメダメダメダメダメ』
「……っ!」
 激しいノイズを感じてすぐさま遮断。
「仕方ないですね。なら……ぅっ」
 額に手を当てる。
 仮面の男をリーディングしようとした……筈だ。
 そう思った時には既に、自分の頭にリーディングをかけられていた。
 『読まれている』と言う自覚からくる、この気持ち悪さ。

●好きなものは捨てろ。嫌いなものは捨てろ。
 放置されていた得体の知れないガラクタの陰に隠れて、『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)はボウガンをリロードした。
「こんなの、いらない」
 物陰から身体を少しだけ出して魔閃光を打ち込んだ。
 狙いは仮面の男。当たるかどうかも良く分からなかったが、相手は避ける動作すらしなかった。
 頭に命中。血が流れる。
 言い知れない不気味さがこみ上げるが、上手く口から出てこない。
「何してんだい、ぼうっとしてると襲われるよ」
 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は手首の動きで畳まれた銃を元に戻す。
 ガチンと鳴ったのを聞いてから、六角形の目玉が群がっているフォースにヘッドショットキルを叩き込む。
「いらないとか、なんでもないとか。いらいらする」
 知ったことかと思う。
 本当はどうでもいいのだ。
 自分にとっても。
 恐らく、あの女の子にとっても。
 銃を撃つ。
 女の子が、ぼうっとこちらを見ていた。

●良いと思うな。悪いと思うな。
 冗長であることを良しとしない。故に間のあれこれを省いて述べる。
 シャルロッテは首から上が鈴になったフォースを魔閃光で順番に撃ち落としていった。
 その過程で感じたことがある。
 彼らはこちらをブロックするばかりで、激しい抵抗をするそぶりを殆ど見せないのだ。
 特に仮面の男。逃げようと思えば、フォースを犠牲にして無理矢理逃げ切ることもできるだろうに。その場に静かに立ったまま、周囲をぼうっと見回してばかりいる。攻撃してくる様子が無い。
「もう、そろそろだね。何なんだアイツ……気味悪い」
 涼子は既に物陰から出て身を晒し、残りのフォースを徹底的に撃ち落としにかかる。
「心っ」
「はいデス!」
 空中でフォースを打ちあっていた心は身をひるがえしてターン。一度勢いをつけてから、女の子へと一直線に突っ込んだ。
 邪魔に入ろうとするフォースはいたが、ネロスが一刀のもとに斬り伏せた。
 血の固まりが浮遊しているようなフォースだったが、彼の攻撃でかききえる。
 残ったフォースが集まってくる。
 加速をかける心。
 そしてついにフォースの壁を抜け、女の子のもとへと転がり込んだ。
 勢いを付けすぎて地面に激しく激突したが、構わず女の子の手を掴んだ。
「お名前、聞かせて貰えますか」
「……」
「名前があった方が、いいのデス」
「……」
「よければ私達を信用してみて下さいなのデス。守って見せますから、何からでも」
「……名前」
「え」
 ぼうっとしたまま、女の子は口を開く。
「名前、ないわ」
 意味が分からず首をかしげる心。
「パパとママに付けて貰った名前のことですよ?」
「ないわ」
 両目にくっきりと心の顔を映しこんで、女の子は言った。
「名前は、ないわ」

 仮面の男はぼうっとしている。
 アンジェリカは彼の腕に鋼糸を括り付け、強引に引っ張り込む。
「……」
「このフォースはリサイクルした子供? 答えて」
 仮面の男は沈黙する。
「答えてっ!」
 仮面の男はぼうっとしたまま、変声機のような声で言った。
「『そうです』……嘘です」
「なっ」
「『ちがいます』……嘘です」
「……っ!」
 アンジェリカはギャロップレイをかけた。
 仮面の男は二の腕から先がすっぱりと切れ、腕が地面に転がる。
 拘束状態が続いているのを確認して、ゼルマが顎を上げた。
「ぬしら、一体何をしておる。なんでもないものとはなんじゃ?」
 問いかけつつ、アルバートに視線を送った。
 小さく頷くアルバート。仮面の男にリーディングをかける。
 いや、後の事を考えて、正確に述べておくべきだろうか。
 アルバートは、仮面の男に、リーディングを、かけてしまった。
 『嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘』
 慌ててリーディングを切る。
 頭がひどくぐらついた。
 眩暈がして、吐き気がした。
「何ですか、この男……」
 頭に流れ込んだ情報をかき消そうと、アルバートは必死に頭を振った。
 できるなら壁にでも叩きつけて血液ごと捨ててしまいたい気分にすらなっていたのだ。
「ダブル、キャスト……!」
 口でそう言ってみたが。その程度のものか? とも思う。
「どうした、アルバート」
「いえ……リーディングは、無理そうです」
 目を細めるゼルマ。
 一方仮面の男はと言えば。
「『なんでもありません』……嘘です」
 変声機のような声でそんなことを言うだけだった。
 その脇で、最後のフォースをネロスが切り落とす。
 槍を手に突撃するノエル。
「また何かしらの技術の実験ですか」
「『ちがいます』……嘘です」
 両手を広げる仮面の男。
 片腕はもう無かったが。
「……っ!」
 馬鹿にされたと思ったか、ノエルは槍でもって男の側頭部を激しく殴った。
 仮面が転げ落ちる。
「面で隠すなど無粋ですよ。素直に表情を」
 晒しなさい。
 そう言おうとした、筈だ。
 だが述べようとした言葉は頭からすうっと抜けていた。
 男の顔が、無かったのだ。
 わかるだろうか?
 男には、顔が無かったのだ。
 凹凸すらない、口も目も鼻もない、平らな何かが首の上に乗っていた。
「……っ」
 男は頭を手で抑える。
「アッ、アアアアアア、アアアアアアアアアアアッ!」
 変成機を滅茶苦茶に上下させたような、形容しがたい声が響く。
 そして男は懐から銃を取り出し、誰が身構えるよりも早く、自分のこめかみを撃った。

●今まで述べたことは嘘ですよ。
 自己言及のパラドックスくらい、誰でも知っているだろうか。
 『私の述べることは全て嘘である』という主張が、確かに嘘であった場合発言に矛盾が生じ、嘘でなかった場合でも矛盾になるというパラドックスである。
 しかし、嘘の無限ループをそのまま呑み込めたとしたら、どんな人間が生まれるか分かるだろうか。

 ノエル達は路地を出て、明るい公園へと移動していた。
 ベンチに腰掛ける。
「さて……保護はしましたが、この後どうします?」
「勿論連れて帰るデスっ」
 両手を上げて飛び跳ねる心。
 自分もそのつもりですよとノエルは胸に手を当てた。
 ベンチの背もたれに手をかけるネロス。
「『組織になんとかしてもらう』という姿勢の安易さは否めないが、親元に返せる状態とも思えんしな。今後の協力は惜しまないつもりだ」
 ただ、と言って顔を上げる。
「重要なのは、彼女自身がどうしたいかだ」

 パパもママも、私の前でいなくなっちゃったの。
 私は一人ぼっちになったけど、今はこうしているよ。
 シャルロッテはそんなことを言って、『名前の無い女の子』にココアの缶を手渡した。
「要らない子より、なんでもないものの方がマシだと思ってる? 本当に、なりたいの?」
「…………」
 女の子は沈黙している。
 涼子が鋭い視線で見下ろした。
「アンタはどうしたい。わたしはぶん殴ってやりたいね」
「……」
「気に食わないことの、なにもかもをだ」
「……そう」
 顔を上げて、女の子は言った。
 アルバートは重ねるように言う。
「寂しさや悲しさだけでなく、喜びも楽しみも感じないモノに、なろうと思いますか?」
「……」
 女の子は再び沈黙へ戻る。
 いや、ただ沈黙するだけの子供なら、良いのだ。
 難しいことが分からないと言う風に俯いたり、もしくは一生懸命考えようと相手の言葉を噛み砕く子供はよくいる。
 ただこの子の場合。
「…………」
 表情の無い顔でこちらをじっ……と見つめているのだ。
 自分自身が覗きこまれているようで、アルバートは君の悪さを感じた。
 そして、女の子は言う。
「感じていないわ」
 続けて言う。
「楽しさも、悲しさも、苦しさも、喜びも、感じていないわ」
「……どういう、意味ですか」
 リーディングをかけようか? そこまで思ってやめた。
 気分の悪さがまだ抜けないのだ。
 それに、嫌な予感がする。
「私は何も、感じていないわ」
 『名前の無い女の子』は、いともたやすくそう言った。
 アンジェリカが彼女を後ろから抱きしめる。
「それでも、忘れないで。ボク達が、君を愛していることを」
 体温が伝わる。
 生きているのだ。
 だがそれゆえに、体温以外の熱が、伝わる気がしなかった。
 振り向かずに、女の子は、ほんの小さな声で囁いた。
「あなたを信じるのは、無理よ」

 後日談にならぬ程度に述べておこう。
 少女を保護し、路地を去る直前のこと。
 ゼルマは死体から落ちた仮面を手に取っていた。
 サイレントメモリーを持っていたので、使っておこうという判断である。
「……ふむ」
 白い円形の仮面だった。
 淵に沿って黒い円が描かれていると初めは思ったが、よく見れば小さな目の模様が縁を描くように描かれた仮面だった。
 『巡り目』、と言う言葉が読み取れる。
 模様の名前だろうか。
 断片的ながらまだ情報が読み取れるだろうと、ゼルマはサイレントメモリーを継続する。
「……そう、か」
 そして、とあることに気が付いた。
「『なんでもないもの』とは……仮面の男自身のことか」
 事件はまだ、完全には終わっていないと、ゼルマはうっすらと感じた。
 風が、遠くへと去る。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
blank children

――not end...