●ベレッタ・K・トンプソン 金髪でセミロングの女だった。 腰にはリボルバー式拳銃を一丁。 手には木製ブリップの古臭い旧ソ連製短機関銃が一丁。 ドイツ人からはバラライカと、日本人からはマンドリンと呼ばれたそれが彼女のお気に入りだった。 初めて銃を手にした日の事を、グリップを握るたびに思い出す。 初めて覚醒した日の事も。 初めて神秘の弾で人を撃った日の事も。 全く吐き気がする。 「作戦区域に到達した。目的を再確認しろトリガーハッピーども。命令内容はビル内における一般人全員の射殺。くそったれの上司が口から吐き出した汚物のような命令だが黙って遂行し続ければその内いいこともある。分かったら返事をしろ」 『アルファ了解』 『ブラボー了解』 『チャイナボイジャー了解』 「よし。あとチャーリー、今度コードネームを変えたら尻をぶち抜く――以上、突入」 ●AM4:35 アーク本部・ブリーフィングルーム 「主流七派に数えられるフィクサード組織、裏野部のことはご存じですね? 今回は裏野部に所属する私兵隊、『セブンスガンナー』に関する内容です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はデスクの上に七枚のフェイススケッチを並べ、そのうち一つを突き出した。 「セブンスガンナーは各地で傭兵として育ったフィクサードを寄せ集めた七人の部隊です。攻撃的な敵性フィクサード組織を追い払うために、ある幹部の下で組織されたとされていますが、今回は些か目的が違うようなんです」 戦場となったのは三階建てのオフィスビルである。 一般的な小企業が入っており、それこそ一般人しか存在しない筈であったが、セブンスガンナー達は鍛え上げた腕でもってビル内の人間を一人残らず射殺した。 どうやらこの後も別のビルを襲撃し、一般人を射殺する予定があるようなのだ。このまま放っておけば確実に取り返しのつかないことになる。 「皆さんの手でこの作戦を阻止して下さい。お願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月21日(火)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●bebop 300BPM スチールデスクが真っ二つに分断されたとして、おおよそにして三つの理由が考えられる。 大型メタルカッターの真ん中に通したか。 V8エンジンのモンスターチェーンソーを叩き下ろしたか。 『LawfulChaticAge』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329) が間を通って行ったか、だ。 「……」 カトラスを十字に交え、無数に分裂していた彼女の身体が一つに集まる。 背後で倒れるスチールデスク。 デスクに身を隠していた『晴空のガンマン』灰戸・晴天(BNE003474) が慌ててその場から転がり出た。 スチールデスクがハチの巣か蓮の花と化す。 「通りにくいからって障害物を切って行くな。インベーダーゲームか!」 「飛び回ると言ったでしょう?」 「言ったとしてもだ!」 紗理は入り乱れたデスクの間をジグザグに駆け抜け、晴天はいくつかの柱の間をS字を描いて飛ぶ。 そして二段重ねにしたデスクの後ろへと回り込んだ。背を付けて煙草を咥えていた男が慌ててその場から飛び退いた。 デスクに剣が振り込まれ、銃弾が叩き込まれる。 「あーあ、もうこれだから覚醒した連中は」 床を転がりながら拳銃を流し打ち。紗理はそれをカトラスのガードで撃ち弾いた。二発目が腹に命中。歯を食いしばって痛みを無視する。 男のこめかみに晴天の銃口がぴたりと合わさり、紗理のカトラスの先がぴたりと向く。 「どうして弾幕に正面から突っ込むかね。人の命は儚いんだぞ。鉛玉一発で死ぬぞー?」 「それは一般人の話でしょう。あなたがつい先ほど殲滅した」 「無抵抗の一般人を撃つなんざ認められねえ。全力でお仕置きしてやる」 「あーあ、仕事してるだけで恨まれる世の中だよ」 引金を引く晴天。剣を突き出す紗理。 男はそのタイミングで頭を急速に下げた。目を見開き身体を逸らす二人。 二人の顎に突きつけられる銃口。引金は既に引っ張られている。 撃鉄が下りるまでの間に紗理は分裂。 炸薬が破裂するまでの間に晴天は腕を下す。 銃弾がライフリングを刻んで銃身を飛び出した頃には、男の頭部は吹きとんでいた。肩から先が左右ともに切り落とされる。 どさりと倒れる男の死体。 「なかなかの腕前でしたね。ですがこちらも――」 二人は頬に走った傷を親指で拭うと、即座にその場に身を伏せた。 先刻まで頭があった場所にマシンガンの弾が横一文字を刻む。 晴天のカウボーイハットが空中に取り残される形になったが、一秒遅れて引っ張り込まれる。 マシンガンを構えた男が柱の後ろに身を隠す。 「何遊んでんだアイツ……こりゃ人生終わったな。こんなことならバーの女の子にもっと貢いどくんだった」 間を置いて、柱から身体を出す。 紗理がカトラスを構えて突撃してきた。 「『剣は銃よりも強し』を示してみせましょう」 額を『狙わずに』連射。残像を作って頭をかわそうとした紗理の額に数発命中。その場で半回転して天井を真っ赤に染めた。 「紗理っ」 デスクを飛び越え、一足飛びで離陸する晴天。横回転をかけて銃弾を回避。無理やり避けすぎてデスクに頭から突っ込んだが、構わずバウンティショットを乱射した。 男の手にあったマシンガン(MG4という短機関銃である)が軽く上方向に跳ねた。 「ちぃっ!」 歯を食いしばって男は支え手を引き戻す。 その途端、紗理は飛んでいた。 顔を引き攣らせる男。 紗理の額から大量に血が流れていたから、ではない。 デスクの上を飛び越え、下の空間をスライディングで抜け、左右の脇を回り込み、計四人の紗理が一斉に斬りかかったのである。 「これで、終わりです」 四肢を解体され、その場に文字通り崩れ落ちる男。 コピー用紙やら何やらでごちゃごちゃになった山から晴天が顔を出す。 「うお、なんだ紗理。倒されたかと思ってたぞ」 「フェイトの使用は宣言していませんでしたからね。まあ、危ないところでした」 ガチンと鞘に剣を収める紗理。 晴天は帽子をしっかりと被り直すと、天井を見上げた。 「他の連中はうまくやれてるかね」 ●child play 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517) 。 『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)。 『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213) 。 この三人が肩を並べるちぐはぐさを、是非理解して欲しい。 齢10歳にしてシルクストールとブレードハットを着こなし、サタデーナイトスペシャルを携帯する福松。 一方45歳という年齢に反して10歳並の容姿を持ち、頬肉を僅かに上げるだけのサディスティックな笑みを日常的に浮かべているようなリィン。 そこへ来て70歳と言う最年長でありながらやはり10歳ほどしか育たぬ容姿と、外見に見合った弱々しい顔と言動を出ないリオ。 なんとも前後の付け難い、年功という言葉の無意味さを如実に教えてくれる三人組であった。偶然にしては出来過ぎたトリオだとも言える。 だがそんな彼等とて、トミーガンを持った兵隊二人が辺り構わぬ牽制射撃を繰り返す中にあっては平等に人間だった。 「やっぱり傭兵だよね。使ってる銃はシカゴマフィアみたいなのに……」 十歳の子供が持つにはあまりに不釣り合いなヘビーボウガンをリロードするリィン。 ここへ来るまでにわざとエレベーターを起動させて来たのだが、傭兵上がりという彼らは罠の可能性を考慮に入れてしっかり後方の障害物に身を隠していた。そして安全策のハニーコムガトリングぶっ放しである。互いの位置確認はできているのか、とにかく弾幕がやまない。顔を出せばどちらか片方が1¢シュートを叩き込んで来ると言う親切設計だった。 「堅実な大人って嫌だよね?」 「お前が言っていいセリフなのか、それ」 固い柱の後ろで肩をくっつけるリィンと福松。 匍匐前進でリオが寄ってくる。 「あの、なるべく殺生は、避けたい……ですけど」 「奢りだな」 「甘いね」 「です、よね」 肩を落とすリオ。 それならば仕方ない。 リオとリィンは同時に柱の左右から頭を出すと、スターライトシュートを乱射した。 ムカつくことに部屋の両角に身を隠されているので、かなり限られた場所からでしか二人を巻き込んで撃てなかった。その所為で足止めを喰らっているというのも事実である。 が、そういう時に毒気づかないのがリィンという非実在非少年である。 「銃でお相手できればよかったけど、こちらで失礼するよ。退屈はさせないから……避けて見せてよ」 両角の兵士を狙ってスターライトシュート。光の矢が相手の足や腕に刺さる。 刺さったが、避ける様子すらなかった。 片眉を上げるリィン。 「当たって!」 ややタイミングをズラしてリオがスターライトシュートを乱射。 リィン程の命中精度は無かったが相手をそれなりに牽制する。 すぐに頭をひっこめるリオ。 その際、部屋の隅に丸められたブルーシートが目に入った。 「死体は入ってないと思うよ」 「……!」 リィンの温度の無いセリフに、ビクリと肩を震わせる。 「ビル内の人間を皆殺しにしておいて、既に『片付け』が済んでいて、しかも次の予定も立ってるなんて……何か探してるのかな?」 「どのみち連中は傭兵だ。金で人を殺す生き様もまあ、あるだろ」 「そんな……」 言い捨てる福松に、リオは一層肩を小さくした。 撃鉄を上げる福松。 「だが、堅気の人間に手を出したのなら話は別だ。キッチリ落とし前付けて貰う」 福松は柱から転がり出る。足元を跳ねる銃弾。実際数発は当たったが、痛みに呻いている場合ではなかった。 「オレの相棒は出来が悪くてな。お前たちの銃ほど綺麗には仕留めてやれん」 銃を構えて敵方向へダッシュ。 その際膝と腹に着弾。上半身を出した兵士が正確な1¢シュートで福松の帽子を跳ね飛ばす。否、額を狙った弾をギリギリで避けたのだ。 「お前らにはお前らの、オレにはオレの依頼がある」 柱の裏へ滑り込む福松。 「潰すぞ、クソが」 心臓めがけて連射。 兵士は声もあげずに死んだ。 「あ、あっ……!」 慌てて身体を出すリオ。ボウガンを構えてアーリースナイプ。 残りの兵士に当てようとした、のだが。兵士は矢をわざと食らって、リオへ銃を連射した。 「ぅ……!」 「馬鹿野郎!」 リオの前へ駆け込み、代わりに弾を受ける福松。 「はい、ごくろうさま」 次の瞬間、悠然とした歩みでリィンが姿を現した。 ボウガンの矢が兵士に向いている。 いや、既に放たれていた。 左目に矢が刺さり、兵士は仰向けに倒れる。 そして二度と起き上がりはしなかった。 リィンは首を傾げて、子供の声で言う。 「クリア」 ●early fox アルミデスクが後ろの壁ごと吹き飛んだ。 『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759) と『執行者』エミリオ・マクスウェル(BNE003456) は左右に跳んで逃れる。 その間に、スキンヘッドの大男はライフルの弾をリロードした。 ライフルもライフル。12キロと1mの巨体にアイアンサイト。ボルトアクション式のそいつは――。 「アンチマテリアルだコレ」 KSVK。コルボフ大口径スナイパーライフルだった。 「どう考えても一般人制圧用じゃないじゃろうに……」 などと言っている間に、壁に二つ目の穴が開いた。 十字型のランチャーを肩に担ぐエミリオ。 「そっちがライフルならこっちはランチャーだからねっ、これは挨拶代りだよ!」 と言いつつ暗黒をぶっ放す。 ワンテンポ遅れて与市は義手を展開。弓型に組み上げるとアーリースナイプを打ち込んだ。 「まあ、どうせ当たらんじゃろうし」 言いつつ連射。 三本ほど矢を受けて、大男は瞬きをした。しただけである。 その横で、物陰から流し打ちしていた男が呟く。 「本当に来たな、リベリスタか」 「……」 「だとしたらアークだな」 「……」 「あの組織が二人ぽっちしか寄越さないわけがないから……下は交戦中だな。退路の確保は絶望的、と。どうするバレッタ」 男は顎を上げる。 金髪の女が物陰で何かの作業をしていた。 「通信も切られた。どうやら捨て駒にされたらしい」 「それ、作戦説明する時にも言わなかったか」 「資本主義の豚めが。まあいい、クソ汚い金貰って銃撃って死ねばいい。命が惜しいならハンバーガーショップでアルバイトでもしているさ」 「それもそうだ……ん?」 男が流し打ちをしながら首をかしげる。 「あいつら、回り込んでこないな。罠でも警戒してるのか? いや、えーっと……視線がこっちの壁向いてるから、意識してるのは位置じゃなくて俺達の向きか。どうすっかな」 男はぶつぶつと独り言を述べてから、背後の壁に銃弾を乱射した。 一瞬与市とエミリオの銃撃が止む。 目を細めるバレッタ。 「お前たちは部屋の中心を陣取れ。そして撃たれて死ね」 「うお、すげえ命令。バレッタは?」 「一人で高みの見物をする」 「ははっ、すげえ!」 男はゲラゲラと笑うと、物陰から飛出した。 別の物陰に隠れるものと思って与市はアーリースナイプで狙い撃つが、なんと彼が立ったのは部屋のど真ん中。それもデスクの真上である。 「手ぇ上げろ! バッグに金を詰めな――なんつって!」 全身を露わにして短機関銃を乱射する男。 その隙に大男がライフルを抱えて彼の足元へ移動する。 眉間に皺を寄せる与市。 「バレたかの」 「だったらもっと違う動きすると思うな……とにかくっ」 魔閃光を景気よくぶっ放し、デスクの上に立っていた男を弾き落とす。 射撃後、ランチャーを抱えてダッシュ。 今度はエミリオが机に乗っかり、上下さかさまにみっともなく倒れた男に銃口を突きつけた。 彼女の銃は、名を『メメント・モリ』と言う。 時代によって意味が異なり、元はいつ死ぬか分からぬのだから好きにせよ、やがていずれ死ぬのだから奢るなとなり、現代では時折こういう時に使う。 「何か言い残すことは?」 「ない!」 魔閃光が男を、文字通り弾き飛ばした。 男の欠片を頭からかぶる形になった大男。 彼は構わずエミリオに狙いをつけてライフルをぶっ放した。 「わっ!」 ランチャーで受け止めたはいいものの、そのまま転げ落ちるエミリオ。 その後ろで与市が口をぎゅっと閉じてアーリースナイプを打ち込んだ。 目と胸に刺さる矢。これまで何本もの矢を刺された大男はついに、ライフルを担いだ状態のまま動きを止めた。 義手の弓を一度畳んで息を吐く。 「やるだけはやったぞ。あんな武器が出てきた時には、ひやひやしたがな」 さて、ここへ来て疑問を持ってはいないだろうか? これまできっちりと仕事をして、出番を使い切ったであろう七人のリベリスタが登場したが、唯一登場していない者がいる。 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659) 。 彼女は風に晒されていた。 コンクリートに手足をつき、流暢なロシア語で囁く。 『おつかれさま。あとは任せて』 ここまでを見れば、彼女は街中で奇行を働いているようにすら見えるかもしれないが……さて、彼女が手足をついているコンクリートが、地上10mの外壁だとしたらどうだろうか? 彼女は仲間の戦闘中、上下逆様の状態で壁に張り付き、じっと身を小さくしていたのだ。 軽く身を捻り、両足をハンマーのようにして窓ガラスを破壊。 今、リュミエールは3階のフロア奥へと奇襲を仕掛けたのだった。 「そっちか――!」 振り向くバレッタ。 幾重にも集中を重ねていたリュミエールは狙い違わずバレッタを押し倒し、マウントポジションをとってナイフを振り込んだ。 ほぼ同時に額にくっつく銃口。 『キツネがバラライカを破壊するよ』 『やってみろ犬が』 早口のロシア語で囁き合う。 バレッタの腕にナイフが走り、リュミエールの額に鉛玉がしこたま叩き込まれる。 大きく仰け反るリュミエールのシルエット。彼女はマウントを解いてバク転すると一気に壁を駆け上がった。足跡代わりに刻まれる弾痕。 頭から血を流すリュミエールと、腕から血を吹くバレッタの視線が上下反転で交わされた。 天井を蹴って跳ぶリュミエール。バレッタは片腕をだらりと垂らしたまま短機関銃を乱射。 弾の中を掻い潜り、リュミエールはバレッタの腕を切り裂いた。 ●犬 手首をワイヤーで固定し、全身を椅子ごと柱に括り付ける。 人間を捕縛するというより、人型の物体を固定するといった有様である。 片目を開けるバレッタ。 見える人影は八つ。視界が赤い。 「殺さなかったのか」 『仲間になるなら』 途中から日本語に切り替えるリュミエール。 首にナイフが食い込んでいる。 「折角ダシアーク来ルカ? 結構良イ事アルカモヨ?」 「お前が同じ状況だったら何て言うんだ?」 「……ハハッ」 舌を出すリュミエール。 バレッタは同じように舌を出した。 そして、噛んだ。 状況は、終了した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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