●ぼんぼんぼーん 濃霧だろうか。 白昼の平和な町。薄白い霧が漂う。 何処も彼処もシンと静まり返って。 風が吹く。 風が吹けば霧が棚引き、何も知らない空の鴉の姿を包んだ。 途端の出来事である。 鴉の身体が、その羽が皮膚が肉が血が臓物がグズグズと融けて溶けて解けて、骨になって。 カランと落ちた、街の上。 また一つ白い骨死体が増えた、アスファルトの上。 「どいつもこいつもスッキリサッパリ無駄を省いて身軽になって極楽浄土の永久白骨ってもんですよねぇぇーー!」 けらけらからから鬼が笑う。 白が、死が、恐怖が積み上げられる街の中。 ●切り開け 「岡山県内で頻発する『鬼』による事件、先日報告された『禍鬼』『温羅』『吉備津彦』――等々についてはもうご存知かと」 そう言って事務椅子をくるんと回し『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がリベリスタへと向き直った。 その眼差しの真剣な色合いに促され、思い返すのは先日の報告。鬼達は『禍鬼』を筆頭に彼らの王たる『温羅』の復活を謀っている――詳細は未だ不明なれど、『王』ともなればその脅威など火を見るよりも明らかであった。 「この鬼達は件の『ジャック事件』によって崩壊度が進んだ事によって『封印』が緩み、復活したものだそうで。皆々様の中にもこれらと交戦した方々はいらっしゃるかと思います。 ですが、未だ『温羅』を含む鬼の大部分は封印状態にあり活動出来ない状態ですぞ! これは岡山県内に数多く存在する霊場、祭具、神器等が封印のバックアップとして機能している為でございます。凄いですな。 とは言え……今この瞬間も鬼は復活を果たしております。更にその鬼達が同胞――ひいては『王』――の封印を解こうと目論んどりましてな。 『ならその封印のバックアップたるものを守ればいい』――という訳にもいかないのですよねぇ、これが」 その為に皆々様に集まって頂いたのですと言う。 「『禍鬼』の狙いは封印の破壊。しかし彼等はリベリスタを良く知っているようで……陽動、とでも言いましょうか」 苦々しい物言いと共にモニターが光った。町の景色。何処にでもありそうな、平和な。だが、嫌な予感がリベリスタの脊椎を這う。不快感が鎌首を擡げている。言い放つフォーチュナの声。 「白昼の町に鬼が現れました。陽動とは百も承知ですが、捨て置く事は出来ません。これの討伐を皆々様には行って頂きますぞ」 的中する予感。ズームされる町の景色は白い霧が部分的に覆っていた。――悲惨だった。白骨化した死体があちらこちら、折り重なって幾重にも。 その真ん中に唯一立っている者――これが鬼なのだろう、骨を寄せ集めて鬼の形にした異形。ポッカリ空いた眼窩に復讐を晴らす愉悦を孕ませて。どうやらこの謎の霧はコイツが発しているらしい、骨の隙間から絶え間なく漏れ出でるそれは風に乗ってまた町へと広がって行った。 「アザーバイド『骨々鬼』。真っ正面からガチで殴り合うだけならそこまで脅威ではないかもしれませんが……特筆すべきはこの瘴気」 機械の指が霧を差す。 「一般人ならばこの中に居るだけであっと言う間に骨だけになって死んでしまいます。神秘耐性のある皆々様ならそれなりに保つでしょうが、それでもじわじわと体力が削れていく上に防御値も下がってしまいますぞ! この状態はブレイクフィアーとかで解除できませんのでご注意を。ガスマスクとかも役に立たないでしょうな」 次いでメルクリィがこの町の地図を広げた。人数分ある辺り、支給してくれるのだろう。 「この『骨になる瘴気』によって一般人の被害は甚大です。が、まだ、それでも、生存者は零ではありません。物影。建物の中。何処かできっと、まだ、生き残っている筈です。彼らを一人でも多く助け出して下さい、彼等は皆々様の助けを待っているのですから。 瘴気に関しましては骨々鬼を倒せば消滅するでしょう。兎に角、時間との勝負ですぞ!」 ではエネミーデータについて。 「先程、『真っ正面からガチで殴り合うだけならそこまで脅威ではない』と申し上げましたよね。言葉通りです。8人全員で思いっ切りフルボッコに出来れば、の話ですが」 物言いからそう上手くはいかないだろう事を悟る。話の続きを傾聴した。 「骨々鬼の特徴はその狡猾な性格、あざとい知性。……これは自分の『陽動』の役割を良く心得ております。真っ向から皆々様へと襲い掛かって来る事ァ無いでしょう。見た目によらず素早いですし、気配遮断に良く似た能力も持っております。 救助の隙を見て。死角を突いて。物陰から。不利と見るや一旦離れて。絶対に油断はなさらぬよう、お気を付けて!」 守りばかりでは勝てないだろうし、攻めの事だけを考えても難しい。何かしら考えておかねば――フォーチュナの視線にしっかと頷いた。メルクリィはそれに頷きを返すと「サテ」と間を開ける。 「以上で説明はお終いです。 皆々様なら、きっと大丈夫! 私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ――御武運を!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ホワイトアウト 白。正に死が我が物顔で横たわって居る。 黒い地面に転がった骨、骨、骨。死。物陰に隠れて蹲って、ただ震えて。誰か助けて。 「もう大丈夫だよぅ」 掛けられた優しい声は『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)のもの。飲食店の机の下を覗き込んで。 最中にもアナスタシアは透視によって周囲を見渡していた。はふ、と息を吐く。橙の双眸に宿すのは一人残らず助ける心意気。 下衆野郎め、命を何だと思ってやがる―― 助け出された一般人を仲間が安全圏へと連れて行くのを見遣りつつ『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)は心の中で舌打ち一つ。感情探査。助けて、怖いよ、痛いよ、死にたくないよ。遠く、近く、疎らに。反吐が出る。 「たっぷり灸を据えてやンねェとな」 自分が感知できるありったけを幻想纏いで仲間に伝え。 「直接手を下さずに目的達成だなんて……楽で良いわね、妬ましい」 左目から脳に伝わってくる仲間の信号。それに従い『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)は超直感を活かして一般人の捜索を開始する。既に亡くなってしまった人には申し訳ないが、生きてる人は最大限助けよう。全員と言えない辺りが辛いけれども――漂う瘴気に顔を顰める。クラリ。マスクで防げない性能だなんて妬ましい、等と思いながらも蹲っていた人影を認めるや静かに言い放った。 「あら、生存者発見。この状況で生存できるなんて、妬ましいわね。死にたくなかったら言うこと聞いて……私達はあなたを助けようと動いてるのよ?」 地図に印が増えていく。また一人救った証。 しかしそれを見詰める『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の表情は険しかった。漂う瘴気の苦痛が理由では無い。 (骨々鬼……必ず殲滅しましょう) 放置しておけば、残っている街の住人は全滅必至。それだけは避けなくては――仲間と情報を共有し、特技を活かし、確実に救い、且つ少しずつ『瘴気の濃い』方向へ向かっている。一先ずは順調か。 息を殺し、神経を研ぎ澄ませた。 「人をじわじわと弱らせ命を奪う鬼……外道必罰、鬼退治と参りましょう」 この小さな町、千里で届くならば『ミス・パーフェクト(卒業予定)』立花・英美(BNE002207)の視界内。超視覚、第六感。地図と照らし合わせて、周囲より始めて徐々に全体を見る。濃霧は視界を阻むが、それがどうした。英美が探すのは一般人と鬼。 「見つけましょう……必ず」 逆に千里眼で見えぬ位置にいるなら、自然と場所は限られる筈。千里を見渡す鋭い視線は得物を逃さぬ狩人の目。 その視界内を誰よりも速く駆け抜けているのは『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の花風の如き姿であった。 瘴気に吐き気がする。呼吸が苦しい。咳の中に混じる赤。けれど、こんなの平気。早く助けないと――誰よりも速く走って、守れる命があるのなら。 (お願い……どうか生きていて、すぐに迎えにいくから!) この身が侵されていようとも、運命を焼き潰そうとも。仲間の『目』を信じるこの足は決して止めない。絶対に、一人でも多くの人を助けたい――否、絶対に助ける!! 「大丈夫。もう大丈夫よ!」 呼びかける声、伸ばす腕。そこに守れる命があるなら。救える命があるなら。 「頑張って、もうすぐだよ。今、助けるから」 幼い姉弟か、真っ赤に泣き腫らした二人を抱え、瘴気が少ないルートを選んで走り出す。命の重みを感じる。瘴気の中を走り回った所為で痛む足の悲鳴を無視してただ前へ。 (瘴気をばら撒く鬼か……) 己を、仲間を蝕む瘴気。発見次第、渾身の力で倒してやる――『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)は獣の因子を孕んだ神経を研ぎ澄ませる。その間にも『ペインキングを継ぐもの』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)がその卓越した第六感を用いて救助に当たっていた。 救助した人々は更に英美がルアと共に車で遠くに運んで行く。 「アウラさんから運転を習ってるんですよ。上手いものでしょう?」 遠くまで運べば後は自力で遠くへ行ってくれるだろう。 サテ。 アイコンタクト。瘴気の濃い方へ向かう道中 に救助できる者は救うだけ救った。その時間だけリベリスタは瘴気に傷付いたが、今はそんなことどうでも良い。そろそろ件の作戦を始めよう。 始まったのは声の大きさを憚らぬ口論、仲違い。 「少なねェ方が動き易いだろ? 全く最近の若ェ奴は……」 「少人数で動くのは確かに、時間の短縮にはなりますが鬼に襲われる危険性が高いかと」 暖簾の皮肉な物言いに、紫月の辛辣な声。少人数で探索か、大人数で探索するかを理由に二つに分かれたリベリスタ。激化する口論。瘴気の中故、余裕が無い 「もうそっちは賛同者だけで行ったら良いよぅ! こうしてる間にもタイヘンな目に遭ってるヒトは居るんだからねぃ、あたし達もさっさと行こっ!」 「……仕方ありませんね、行きましょう。彼らもリベリスタ、何かあれば自分達でなんとかするでしょう」 「俺達もさっさと行こう、奥にもっといそうだ。……あいつらより大勢助けて見返してやろうぜ」 真っ二つ。アナスタシア・ルア・英美・愛美・紫月の大人数派に、ディートリッヒ・暖簾・ユーニアの少人数派。背中を向けあって、反対方向に。少人数派更に正気の濃い方へ、大人数はその真逆へ。 (心にもねェ事言うのはアレだな……) 遠退いて行く足音を聞きつつ、暖簾は同班の仲間へオートキュアーを施してゆく。そのまま仲間の影に潜もうかと思ったが、感情探査は同時発動できない――唯一の探査持ちであるが故、影に潜む事は諦めて探査に専念する事を決めた。 「……流石にコレはキツいぜェ」 予想通り――嘲笑っている、虫唾の走る感情。瘴気の濃い方に向かう程に増える白い軽い死体、それに軽く手を合わせつつ一般人のそれとは明らかに違う感情に向けて歩き出した。 ユーニアは不機嫌そうな表情で落ち着かなさげに辺りを見渡している――と見せかけて、瘴気の出所に集中していた。あそこに生存者がいるかもしれない。そんな直感を振り払う。ごめんな、後で必ず助けるから。 (鬼が隠れるかくれんぼってのも妙だよな) かくれんぼならガキの頃得意だった。任せとけ。 「頑張ろうぜ!」 ディートリッヒもゴキリと拳を鳴らし、暖簾の感情探査とユーニアの超直感を頼りに瘴気の中を行軍する。回復に特化した者はいないが、世界から借り受けた癒しの力で瘴気のダメージがほぼ打ち消されている事が僥倖か。 近い。 狙い通り、人数の少ない此方に来たか。 張り詰める緊張。 濃霧の彼方。 「―― ッ!」 認識したのはディートリッヒの反射神経が働いた直後だった。 禍々しい気で出来た骨の檻を間一髪で躱せば、白の向こうから現れる影。薄笑い。 骨々鬼。 「出やがったな……!」 ペインキングの棘を構えたユーニアが言い放った――その声は通信状態をオンにしっ放しだったAFを通じて仲間へ届く事だろう。 「よう、悪ィがまた眠ってもらうぜェ!」 真っ先に攻勢に出たのは暖簾、構えた銃指ブラックマリアから超速の早撃ちを放った。響く銃声、跳び躱した鬼へ棘を構えたユーニアが肉迫する。足止めせんと放たれる骨の檻は棘の一振りで薙ぎ払い、膂力を込めて吶喊する! 「足止めしようったって俺にはきかねぇ――さっくり消してやるよ、骨野郎ッ!!」 ペインキングに禍々しい黒い光が宿る。突き立て、刻み込むのは告死の呪い。それは彼自身の身体すら蝕む一撃。 「グッ、ゴミ人間風情がァア!」 「ッ!」 苦痛の声と共に鬼は大きく振るう拳でユーニアを吹き飛ばすと同時に棘をその身から引き抜いた。骨を砕く豪撃にユーニアの身体が血潮を飛ばしてアスファルトを転がる。効いた。瘴気の所為で護りが弱まっている所為もある。それでも先を削って拳を地面について立ち上がった。まだ戦える。 「おい大丈夫か、踏ン張れよ!」 「ったりめぇだろ!」 戦線復帰。視線の先では戦気を漲らせたディートリッヒが銀剣Nagleringを構えて骨々鬼と激しい打ち合いを繰り広げていた。 「瘴気ぐらいでは俺の燃える心は止められないぜ?」 澄んだ刃に映る不敵な笑みは血に彩られながらも。防御が落ちる?それがどうした。肉を殺がれ鮮血を迸らせようとも。 「悪ィな、正々堂々ってのは苦手なもンでよ……バランス崩しちまえ!」 暖簾のブチ抜きマリアが吐き出した幾つもの弾丸によって作り出されたその刹那の隙を獣戦車は見逃さない。強引な踏み込み。零距離。 「防御より攻めの姿勢でいくのが――」 込めるのは裂帛の気合。振り上げるのは己が正義。 「デュランダルってもんだ!」 粉砕の重撃。圧倒的な火力。 ユーニアも続いて赤く染まった棘で骨々鬼の生命力を我がものにする。息を吐く。確実にダメージは与えているが――流石に3人だけで相手をするのは厳しいか。こちらも決してローペースとはいえない速度で削られている。舌打ち。1秒でも長く食い止めねば。1秒でも早く合流してくれ。 「頑張れ、今が踏ん張り時だァ!」 砕けて臓腑に突き刺さった肋骨を先を代価に『無かった事』に、片膝を突いた暖簾がブラックマリアを下ろす事は無い。銃声が響く。 「往くぞオラァア!」 「ブッ潰す!」 棘を、刃を。打ち出される弾丸と共に白亜の中を駆ける。赤を散らして。 視界は白く、白。 ●穿 大人数班が英美の千里眼、暖簾の感情探査によって予め地図に記した人々を救う最中だった。 『出やがったな……!』 全員のAFに届いたユーニアの声。直後に始まる戦闘音楽。 それは紛れもなく仲間が鬼に遭遇した事を表していた。 「はふ、出たねぃ!」 「急ぎましょう!」 GPS機能を頼りに全速で移動を開始する。 だがそんな中、一人立ち止ったのはルアだった。視線の先に物陰に潜んだ生存者、瘴気にやられたのか傷を追っている。弱っている。認識した瞬間には走り出していた。救う為に。そんなルアへ振り返る仲間達に、彼女は申し訳なさそうな――泣きそうな目で、声で。 「ごめんなさい……鬼を優先すべきだと分かってる。でも、見捨てるなんて、出来ないよ……!」 答えたのは英美だった。その目には、信頼。 「では、救助が完了し次第合流して下さいね!」 「ありがとう――すぐ、行くからねっ!」 命を救う為。リベリスタは駆ける。 そして辿り着いた――息を飲んだ。 血潮に倒れたユーニアと、暖簾。Nagleringを地に突き、満身創痍で立っていたディートリッヒ。 「よう。やっと来た、か……」 振り返り、視界に映した仲間の姿――安堵の声と共に、遂に彼も。 鬼は忌々しげに現れたリベリスタを睨み付ける。その骨の身体がボロボロだったのは三人が決死の覚悟で戦った証に違いなかった。斯くして異形は濃密な瘴気の中に姿を断たせ消える。 「!」 急いで白の景色を見渡す一同。しかし英美だけは違った。凛と意識を狙い定める弓が如く張り詰めて。 その視界はコマ送り、千里を見渡す狩人の目。許すまじ、狡猾で人をじわじわ嬲り殺そうとする鬼。 気配を消せても姿は隠せぬもの、見えぬはずがない。 誰かが命を落とすより早く、鬼に襲われるより早く。 この目で鬼を見つけてやろう。 自身の微力は知っている――けれど、人に差し伸べる手もなく無力とは思わない。 守るべきものを守れぬ力など望みはしない。 複合弓【木花咲耶】に静かに矢を番えた。 玄を引き絞った。 命を救う。その為に。 戦場に乙女盛大に咲き乱れよ。 「やってみせましょう――そのために手に入れた運命です。届き貫け! 木花咲耶!」 常に自分のパーフェクトを行なえ――脳裏をよぎる父の言葉。放たれる弓は一直線、正確無比、恐るべき命中精度の下に濃霧に紛れる骨々鬼の足に突き刺さった! 「がっ!? な、何故俺の場所が」 「私は完璧(パーフェクト)ですので」 毅然と言い放ち英美は次の矢を番えた。姿を現した鬼――英美の目が在る限りもう逃げられないだろう。その姿を愛美は左の紅睨で捕捉する。研ぎ澄ませた射手の感覚、既に重弩は狙い定めて。瘴気でフラフラするが倒れる訳にはいかないのだ。 「あなたの体、体力不足とか疲労に縁が無さそうね……妬ましいわ」 放つ矢は高速、再度霧に消えようとした鬼の動きを妨害する。 「落ちろぉぉぉおお!」 その隙を突いて鬼との間合いを詰めたのはアナスタシア、その顔面を引っ掴むや雪崩が如く轟然と大地に叩きつける! 一気に決める――そう思うのは、仲間が既にボロボロだから。救う為に長時間瘴気の中を歩いた為だ。回復出来る自分は大丈夫なのだが、他の者はそうはいかない。 「穿て!」 紫月の放った符術の鴉が鬼を追い詰めるが、応える様に投げ付けられた骨が愛美の頭部を直撃した。仰け反る頭、白亜に乱れる青い髪、赤。 「ちょっと、ひ弱な私になんてことするのよ」 されど先を燃やして踏み止まり、妬ましいと吐き捨てながら嫉妬でできた呪印を放った。動けぬそこへアナスタシアが容赦なく猛撃を叩き込む。追い詰める。後少しだ。あの三人の健闘のお陰もあるだろう。彼らの分も、絶対にここで。 「く、糞人間共がァアア!」 刹那、呪印を振り解くや鬼は骨の檻でアナスタシアを抑え込んだ。そこへ迫る硬い拳―― 「花風の双刃で、切り裂くわ!」 Otto Verita、Nemophila。8つの真実、可憐と成功。 身体のギアを極限にまで高め、唯只管に速く迅く白の領域へ。息を切らせて駆け付けたルアのソニックエッジが横合いから炸裂した! 「!? まだ居やがったのかッ」 殴り飛ばす小さな体。されどルアは運命を焼いて立ち上がる。血に濡れながら走り出す。切り裂く。アナスタシアの真空刃と同時。踏鞴を踏む鬼であったが、その動きが急に止まった――のは、英美と愛美の矢が鬼の足を地面に縫い付けたから。 「ぐッ――!」 鬼の目に最期に映ったもの。 それは、紫月が放った鴉の鋭い嘴―― ●白くなくなる 晴れ上がった青空があった。何だか、久々に太陽を浴びたような感覚。 誰もが瘴気にやられた所為で傷だらけだが――勝ったのだ。 「……、」 ユーニアは己が血沼に仰向けに倒れながら燦々と降り注ぐ太陽に目を細める。これでもう一般人は、この町は大丈夫だろう。長く息を吐いて目を閉じた。 直にアークの職員が迎えに来るだろう。 佇み、ルアは血が滲むほど拳を握り締めて涙を流していた。 足元や其処彼処にあるのは白い骨――助けられなかった人々。ごめんね、と。 そんな彼女の頭にポンと手を置き、暖簾も静かに目を閉じた。 (すまねェな、申し訳ねェ) 救った者は多いが、救えなかった者も居る事は事実。 救えなかった人々に黙祷を捧げる。今の自分にはそれ位しか出来る事が無い。 空は何処までも青く澄んで、燦然と晴れ渡っていた。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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