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<鬼道驀進>嘆きの石子

●嘆きの歌
「うがぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……え?」
 ――とある中学校の一室に、白昼堂々大声を上げて雪崩れ込んで来たのは、一見すると、十数人の少年少女達であった。皆一様に、変わった外見をしている。
 しかし今時の若者は妙に冷静だ。オープンキャンパスの真似事なんてしてたか此処、だの不審者用の抜き打ち避難訓練……にしては何故子供を起用する、だの様々な推測が小声で交わされてゆく。
 ――次の瞬間、乗り込んできた少女の一人が、その拳で一人の生徒の頭部を粉砕するまでは。

 程無くして、学校は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す――



●子鬼、猛る
「鬼事件が岡山県で頻発しているのは、皆さんご存知ですね?」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は静かに問う。リベリスタ達が頷くのを認めて、彼女は二の句を継いだ。
「既に伝わっているかとは思いますが、その件について進展がありました。先日、アークのリベリスタが『禍鬼』と呼ばれる鬼と接触した際、リベリスタが気になる情報を入手したそうです」
 情報によると、どうも鬼達はこの『禍鬼』をリーダーに、彼等の王――『温羅』を現代に蘇らせようとしている、というのだ。詳細な情報があるわけではない。だが、鬼の王、ともあれば唯のアザーバイド、では済まされないような強敵である可能性が極めて高い。
「彼等鬼達は、先のジャックとの決戦で日本の崩界が進んだ事により復活したものと見られています。しかし『温羅』を含む鬼の大部分は未だ封印状態にあり活動出来ない状態に留まっています」
 と言うのも、岡山県内に数多く存在する霊場、祭具、神器等が彼等鬼を封印の中に閉じ込めるバックアップとして機能している為だ。つまり、これ等が正常に機能している間は、『温羅』含めた大物級が出現することはないであろうとされている。
 だが、これ等が破壊されるなり何なりで機能しなくなれば――封印が更に緩み、大物級出現の可能性がぐんと跳ね上がる。現に『禍鬼』はそれを目的に動いている。即ち、県内各所の施設の蹂躙、それによる『温羅』達の復活の為に。
「今回、蘇った鬼達を纏め戦力を編成した『禍鬼』が動き出す姿を万華鏡が感知しました。目的は封印の破壊。皆さんにはこれを阻止して頂きます」
 しかし敵もさる者、リベリスタを良く知っている。封印の破壊を阻止しに来るであろう事は、察知しているだろう。故に、彼等は白昼の街中に大惨事を引き起こすべく、鬼達を放ったのだ!
「アークとしては、人間に害意を持つ危険で強力なアザーバイド達がこれ以上勢力を増す事を看過出来ませんし、街中の鬼を捨て置く訳にはいきません。それが陽動であっても」
 岡山県内の各霊場に戦力を派遣し、封印の破壊を目論む『禍鬼』の企みを阻止する。一般人の命も守る。今回はこの両方をアークで熟す必要がある。
 両方為さねばならないのは辛いところではあるが――やらねばならない。
「皆さんには鈴岳神社、通称鈴の宮周辺に存在する、ある中学校に向かって頂きます。其処では、十三人の鬼の子供が白昼堂々襲撃を行い、児童達を襲っているとの事」
 鬼とは言え子供までを戦場に駆り出し、陽動の為とは言え罪無き子供達を襲わせる。その作戦の何と卑劣な事か。リベリスタ達は唇をきつく噛み締める。
「……皆さんのお気持ちは、痛い程判ります。ですがだからこそ、今は冷静になって下さい。そして、お手元の資料を」
 リベリスタ達が資料に目を落とすと、其処には敵の詳細が書かれている。ただ、今回は火急の事態であった為か、情報量が通常より少ないように見受けられた。
 ――子鬼達のリーダー格となっているのは、『花梨』という名の少女だそうだ。
 外見は贔屓目に見積もっても小学校高学年程度、角も未発達で一見すると見え難い。だが、橙の長髪に褐色の肌、虎皮の甚平と、かなり判り易い格好をしているらしいので、人間の子供と判別がつかないという事は無いだろう。
「彼女達の親は『温羅』同様、未だ封印の中にあるそうです。恐らくはその封印を解く時間稼ぎの為と、戦場に駆り出されたのでしょうが……リベリスタ達への恨み、延いては人間達への恨みから、圧倒的な防御力を身に着けているそうです。子鬼とは言え、侮れない相手となるでしょう。ですが私は、アークは、皆さんを信じています」
 和泉の言葉に、揺るぎは無い。
「皆さんのご武運を、お祈りしております」

2012.2.21修正(オープニング内「五人の少年少女達」⇒「十数人の少年少女達」)


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:西条智沙  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月03日(土)00:13
新たな戦いの火蓋が、切って落とされようとしています。
ご挨拶が遅れました、西条です。今回も宜しくお願いします。

今回は、中学校を襲撃する子鬼達を殲滅して下さい。
子供とは言え鬼は鬼。手加減は無用です。


●敵データ

・花梨
今回の首領。子鬼。
角は見えにくいものの、ちまい上に格好が目立つので一目瞭然。
親を退治・封印された恨みで驚異的な防御力を手に入れました。
その為、通常よりもダメージを蓄積させ難いです。
特攻が得意ですが、射撃もそれなりに熟す模様。

・他子鬼(十二人)
花梨の友人の子鬼達。
虎皮の甚平が花梨とお揃いで、これまた一目瞭然。
花梨程ではないものの、彼等の防御力もかなりのものです。
難しい事を考えるのは苦手なようで、兎に角突撃してきます。

今回は火急の為、詳しいデータが取れませんでした。


●地形データ

中学校の一教室です。
机等が障害物となりますが、条件は相手も同じです。
また、可能な限り生徒や教師を避難させてあげて下さい。
犠牲者を増やさない為にも。


以上です。
皆様のご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
花咲 冬芽(BNE000265)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
デュランダル
マリー・ゴールド(BNE002518)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)
クロスイージス
黒金 豪蔵(BNE003106)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)

●火花散る時
 血飛沫飛び散るその狭い空間に、悲鳴が木霊する。
 教師も必死で教え子達を教室の後方スペースに避難させようと尽力するも、最早パニックに陥った現状において、最低限の統率を取る事すら極めて困難となっていた。
 そして逃げ遅れたもう一人の背後に、憤怒の形相をその顔に張り付けた、鬼の少年が歩み寄る。怒りのままに振り上げた棍棒は、そのまま新たな犠牲者を生み出す――筈だった。
 だが、一瞬の震撼。
 同時に、鬼の少年が、吹き飛びこそしなかったものの、よろめき、倒れ込んだ。机を二、三巻き込み、それ等はがらがらと煩く音を立てて、呆気無く倒れた。
「さて、元気が余っているなら遊びに付き合うぞ?」
 その衝撃の主――『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)は、それと判らぬ程に薄く笑んで、子鬼達の前に立ちはだかった。
 同時に教室内へ突入したリベリスタ達。幻視によって淡い桜色の羽を神秘から隠し、服装も大人っぽく見えるように工夫した『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)が、教師を正気付け、早口に捲し立てた。
「私達は警察の特殊部隊です。この子達はとあるテロリストに育てられた子達で……さる情報から付近を警戒していたのです。ここは我々が引き受けます。先生は生徒達の避難と緊急放送をお願いします」
「え……」
 突然の事に躊躇う教師を後押ししたのは、廊下から漏れ出てきた鈍色の煙であった!
「火事だー!」
「その子達が仕掛けた爆弾が。急いで避難を」
 発煙筒を仕掛けてきた浅倉 貴志(BNE002656)がわざと叫び、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)も同調して避難を促す。
「此処はわっし等が食い止める! はよう、逃げい!」
「さあ、お急ぎなされ!」
 同じく幻視によって、ガタイが良いだけのおじ様達と言った風情に日常に見せかけた『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)と『超重型魔法少女』黒金 豪蔵(BNE003106)は、机をバリケード代わりに子鬼達の進撃を押し留める。
「今この場で、その子達の命を護れるのは貴方だけだ、さあ」
 『バニーに拘るテクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)の言葉で漸く教師も多少なりと落ち着きを取り戻し、生徒達の誘導にかかった。
 子鬼達はと言えば、リベリスタ達を憎悪に満ちた双眸にて睨み付け、敵対心を隠そうともしない。
「りべりすた、だな」
「おっとうとおっかあを刻んで、閉じ込めたやつらだな!」
「おまえらぶっとばして、ジカンカセギしたらおっとうとおっかあに会わせてくれるって、貪穀のじっさまゆってただ!」
 子鬼達が口々に叫ぶ。
(……貪穀?)
 別の戦場に向かった仲間から、そんな名前の鬼がいるらしいと聞いた気もする。子鬼達は、その貪穀とやらの入れ知恵で、今回の作戦に参加したらしい。
「確かに合理的です。子供も戦力として活用するあたりは我々にも似ている。はは」
 ならば此方も、容赦は要らぬと。ユーキ・R・ブランド(BNE003416)が、薄く笑った。ひどく薄く、冷たい微笑であった。
(……まあ、どうでもいい、どうでもいいけど)
 涼子が、リベリスタ達が、武器を構える。
「たまには同級生を守るのも、なしじゃない」
 子供であろうと、どんな理由があろうと、罪無き人々を、それも子供達を襲うのならば、許しはしない。



●優しくある前に、強く
 どうやら、リベリスタというだけで子鬼達の憎悪の対象になるようだ。
 子供達や教師より優先順位を高くして貰えるのは却って好都合だが、油断は出来ない。
「おおおおおお!!」
 子鬼達は障害となる机や椅子を、それぞれ棍棒で滅茶苦茶に破壊しに掛かっている。ばきばき、めりめり、と木材が軋む音が耳障りだ。
 道を塞ぐものがあれば退ければ良い。退ける事叶わぬなら破壊すれば良い。道が出来ればそれで良いのだ。如何にも子供らしく単純な発想ではあったが、微笑ましいものではない。目の前の子鬼達は棍棒の一振りのみで連なる机や椅子のバリケードを破壊してしまうのだから。
 これも、親を奪われた憎しみの為せる業か。
(親を思う子の気持ち。今回の敵のことは確かに頷ける点もありますが、襲われる人のこのことを考えますと、倒すしかないようです)
 人と鬼――アザーバイド。悲しいかな、その時点で既に、相容れざる存在同士。崩界の事もある。ならば今は、情けの心は自らの奥底に、封じ込めるしかあるまい。
 そう考え直し、貴志は子供達が避難する教室の後方出入り口の前に立ち塞がり、構えを取った。一見緩慢で、しかし一切の無駄も隙も無いその動きは、流れる水を想起させる。
 その間、仁太に豪蔵、ユーキに涼子が、挑発を交えながら机をバリケードにしたり、投げつけたりで、子鬼達の妨害工作を行っていた。仲間の為に、そして罪無き命の為に。
「おう、子供達を狙うたぁ弱い者いじめしか出来んのか、鬼っちゅうんは?」
「弱者を狙うしか能がなくなりましたかな? これでは親の度もたかが知れておりますな」
「っ!」
 挑発に乗せられた子鬼達が、彼等へと向かう。花梨も、その双眸に宿る憎しみの色を更に深め、ユーキに、不可視の衝撃波を放つ!
「くう!」
 咄嗟に防御態勢を取り、何とか受け止めたユーキではあったが、その一撃は、重い。
 だが、それでも、彼女は怯まない。
「……は。大した事、ありませんね?」
 お返しにと、近くにあった机の脚を掴むと、未だ数人で固まっていた子鬼達に向けて、放る。回避した鬼達が更に分断された。その一方に、涼子が破壊された机の破片を投げつけた。
 敵意を以て敵意を睨み返す。涼子の目の前にいるのは、子供である前に、敵。
 鬼達は、横一列に広がり、三人ずつで、それぞれ妨害工作班の四人を攻め立て始めた。
 その光景を目に焼き付けながら、マリーは自らの力を一度抜き、そして限界まで解放する。熱く奔る気力に身を包まれながら、彼女は思った。
 鬼とは角の生えた種族を言うのではないらしい。非情、冷酷、恐れ、それ等の負の感情が、鬼を生むのだ。要するに、『酷い奴』を人は鬼と呼ぶ。
 ならば、目の前の子供達からすれば、マリー達リベリスタこそ、

「ああ、鬼だ」

 そうと知っても、止められない。
 平和な世であれば等という過程に最早意味は無い。
 それでも、思う。
「Wer einen Menschen rettet, rettet die Ganze Welt.」
 助けてやりたいのだと。
 ならば、解放を。
 達哉の放ったそれは光の糸の雨。意志の風に乗って子鬼達に等しく降り注ぐ。咄嗟に反応し、屈み込んだ花梨以外は皆一様に、その身に雨の弾丸を受ける。
「狭い教室、障害物。まさに曲弦師の得意とする戦場だねっ♪」
 罪悪感と迷いは、心の深い部分に仕舞い込んで蓋をした。陽気な振る舞いにその真実を隠して、あくまで冬芽はにこやかに。躊躇う様子は一切見せずに、影の共闘者を寄り添わせる。
「おおおおおおっ!!」
 其処へ、子鬼達の猛攻!
 妨害工作班は、ひたすら耐える。耐えて耐えて耐えて、“その時”を待つ。



●修羅場の渦中
 冬芽が踊り、貴志が穿ち、マリーが突く。
 そして、挑発の言葉で敵を引き付け、耐え忍び、気を待つ仁太にユーキ、涼子。
 彼等に浴びせ掛けられる連打に対し、癒しを与えて対抗するのは達哉。想像よりも敵の勢いが激しい為、彼と共に豪蔵も回復を担う。
 もう少し、耐え抜けば、反撃のチャンスは必ずやって来る。リベリスタ達はそれを信じて、耐え抜く覚悟を決めていた。
 だが、一瞬、ほんの一瞬だけ、隙が生まれた。
「あ、あれっ?」
 神の意図を糸として操り影と共に踊り、子鬼達を斬り付けていた冬芽が、僅かにバランスを崩した。そして子鬼達も難無くその乱舞を全て避け切ってしまう。
 其処へ、棍棒を持った花梨が、迫っていた。
「冬芽さん!!」
 貴志が叫ぶが、間に合わない。
「おっとうとおっかあを、ひでぇ目に遭わせた、りべりすた……!」

 ごつっ。

 鈍い音が、はっきりと聞こえた。冬芽だけでなく、花梨を含めても足りず。その場に立つ全員に。
「~~っ!!」
 熱さえ伴ったその激痛に、冬芽は思わず歯を喰いしばった。左肩をやられたようだ。周辺の骨が、いっそ清々しいまでに砕かれてしまっているのが、自分でも判った。堪え切れなかった涙が一筋、左の双眸から零れ落ちる。肩を押さえてふらふらと後退し、だが、それでも彼女は倒れない。倒れる訳には、いかない。
「今回復いたしますぞ! フン!!」
 可愛らしい魔法少女のコスチュームは意にも介さず、肉体美を強調したポージングを豪蔵が取ると、煌めきの微風が冬芽を取り巻き、僅かながらその痛みを和らげた。
 まさに、その瞬間の事。
「避難、終わった!」
 涼子の声に、リベリスタ達が背後を振り返ると、先程まで慌てて避難していた子供達と教師の姿が、無い。
 何に遠慮するでも無く本気を出せる、絶好の条件。好機が、来たのだ!
「そいじゃ、こっから本気出して行くぜよ。恨みのままに生きたら悲しい結果しか生まんっちゅうこと、教えちゃるわ」
 仁太は微かに哀しげな笑みを浮かべ、その禍々しき銃口を、子鬼達へと向けた。


 其処から、リベリスタも少しずつ押し始めた。
 防戦一方だったが為に疲弊していた冬芽やユーキ、そして涼子も、回復手たる達哉と豪蔵に癒され、臆する事無く正面から、子鬼達へとぶつかってゆく。
「……人はすぐ死ぬ。おじけてる暇はない」
 首筋に銃口を突き付けられ、子鬼は一瞬の判断で前のめりになるも、その弾丸は首のやや後ろを貫く。貫いた、のに。子鬼は忌々しげに涼子を睨んでくるだけだ。
「矢張り防御力が飛躍的に上がってるという事か」
「いや、“防御力の問題じゃない”らしい」
 達哉が唸るのに、マリーがかぶりを振った。
 と言うのも、マリーは如何なる防御法を以てしてもその護りを崩す、内部破壊の衝打を繰り出し、子鬼を攻め続けていた。三発は、避けられる事無く完璧に入った筈だ。それなのに、未だ子鬼に疲弊の色も、動揺の色すら、無い。
「どういう事!?」
 冬芽もその目を丸くした。
「この子等の怨念そのものが、ダメージを“削り取っている”とでも言うのか」
 達哉の首から冷や汗が流れる。つくづく末恐ろしい少年少女達だ。
「あんまり攻撃が通らんっちゅうなら、無駄に苦しませるよりも一瞬で終わらせてやるんがわしにできる情けぜよ……!」
 パンツァーテュランの銃口が弾ける。次々群蜂が如く撃ち出される弾丸、弾丸、弾丸、その、雨霰。何処へ逃げても逃れられはしない。
 弱ってきたその内の一人に、マリーが跳び込んだ。
「この世には人間が蔓延っているよ。お前らの敵ばかりだ」
「!」
 彼の子は見た限り、子鬼達の中では尤も勇ましく、リベリスタ達にも我先にと食いついてきた。もし、普通の子供であったのなら、きっとお山の大将として、同年代の子供達に慕われ元気に野山を駆け回っていただろう。
 この世界の中では、それが叶う事はきっと永遠に無いのだろうけれど。
「栄吉!」
 衝撃に耐え切れず、数歩よろめくその鬼の少年を、別の子鬼が助けようと割って入ろうとして、しかし、貴志に止められる。
「邪魔すっでねぇ! りべりすた!」
「そうもいきません。残念ながら……この世界に貴方達は、必要とされるものではない」
 子鬼の拳を、貴志は拳で受け止める。突き合わせた拳の先端から放たれた冷気は子鬼の腕を凍結させ、刹那の内に動かぬただのお飾りへと変えた。
 また別の方向から割って入ろうとした鬼は、ユーキがその身を挺して止めに入った。剣で受けるのが間に合わず、仕方無しにその腕で受け止めた。みしみしと嫌な音が鳴る。そして彼女を護るように覆っていた、漆黒の衣が剥がれ落ちた。
 それでも、すぐさま彼女は新たな衣を纏って、不敵に嗤う。
「しつけーべ!」
「生憎、此方も情けという言葉は捨ててきたもので」
 そうこうしている間にも、涼子の放った一発の弾丸が、遂に一体の子鬼を捉え、その身を地に崩した!
「やりましたな!」
「ん、まずは一人」
 豪蔵を顧み、頷く涼子。倒れ伏し動けない子鬼に、すかさず冬芽が歩み寄る。
 子供。しかし、この子は鬼だ。世界の敵。そう生まれついてしまったのだ。
 殺すしかない。
 その心の臓を一息に突き刺そうとして――冬芽は、右の頬に違和感を感じた。
 薄くではあるが、生温かいものが伝ってゆく感覚。涙か。違う。“血”だ。
 いつ、傷を負ったのだったか思い出せない。考えながら振り返ると、仲間が皆、一人を視線で指していた。ある者は驚愕にその瞳を見開き、ある者は苦々しく眉を顰めながら。
「達哉、さん?」
 彼は左手でキーボードを抱え、右手を冬芽に向けていた。決定的であった。

 “撃ったのは、彼だ”。

「なんと! 離反されるおつもりか!」
「離反? 違うな」
 豪蔵の言葉を、達哉は緩やかに否定する。
「貴重なサンプルをお前らに壊されたくないだけだ」
「サンプル!?」
「敵を知る為にも生体素材は必要だ。十分、彼等を“生け捕り”にする理由になるだろう?」
 子鬼達もまた、驚きの表情で達哉を、いや、リベリスタ達を見ている。言い切る達哉の表情も声音も、余りに冷静だ。けれど。
 達哉は“生態サンプル確保”の為に鬼を生け捕りにすると言う。けれど、マリーは聞いていた。彼が言っていたのだ。
 出来る事なら彼等を生かしてやりたいと。
(賛成だ。そうしよう)
 マリーの中でずっと声がしている。そうだ、共存出来るのならば素晴らしい事は無い。今は無理でも、待ち続ければ未来には可能性があるかも知れないじゃないか。
 そう、諭す声を――しかし、マリーは振り切った。
 “今”滅さねばならない相手なのだ。だから踵を返す。尽きかけた命にとどめを刺す為に。
 糸の弾丸が、放たれた。マリーは寸ででそれを躱す。
「……私は、殺す事を躊躇わない。庇うなら、押しのけてでも命を奪う」
「そうか」
 マリーは振り返らずに告げた。残念だ、と背後で声がした。
 次の瞬間には、達哉とマリーは、真っ向からぶつかっていた。



●乱れ、交錯す
 仁太の生み出す弾丸の暴風雨、そしてユーキの展開する黒の瘴気に、流石の子鬼達も翻弄されてゆく。そして遂に、一発の弾丸が、花梨の腕に突き刺さった。
「ぐ!」
 ぎり、と歯噛みする花梨。勿論、これで勝った等とはリベリスタ達も思ってはいない。当初の目的は、あくまで花梨の取り巻きを殲滅する事なのだ。花梨は、それまでに範囲に及ぶ攻撃に巻き込めて、彼女独りになった時に少しでも弱っていれば、程度の神算である。
 そもそも堅いと明言されている敵相手に、そう簡単に事が運ぶ訳が無い。それを、リベリスタ達も理解していた、筈だった。
 だが、認識が少々甘かった。
「……あ」
「花咲様!」
 豪蔵の放った癒しの風も間に合わず。最初から突出し過ぎた冬芽が、花梨と数人の子鬼に包囲される形で、その乱打を躱し切れず――やがて、その姿は子鬼達に呑まれ、見えなくなった。
 運命を燃やして立っていた彼女が、再び叩きのめされたのだ。
 そもそも範囲攻撃は単体攻撃のそれに比べて威力、そして命中率で劣るものが多い。ただでさえ堅いと明言されている敵が相手なのだ。集中攻撃で一人ずつ潰していく方が得策だっただろう。しかし、思惑に多少の差異はあれど、今回、範囲攻撃で多くを巻き込む事を選んだ者が多かった。
 否、そんな事は些末な問題に過ぎなかったかも知れない。持久戦に持ち込めれば、この戦法でも勝算はあっただろう。だが、持久戦に癒し手は無くてはならない存在だ。しかし達哉は、他の仲間は兎も角、真っ先に子鬼にとどめを刺そうとした冬芽に、情けを掛ける事が無かったのだ。
 そして、崩界を食い止める為に、子鬼を撃ち滅ぼす事を選んだ者が、この戦場では殆どであった。寧ろ、“アークのリベリスタ”として、それは正しい判断だ。そういう任務だ。
 それを判っていても、達哉を納得させられなかった。彼は今や全ての仲間に幻滅し、回復の手を止めつつある。第一自らを阻止せんとするマリーの相手で精一杯だ。豪蔵だけでは回復が間に合わず、状況は時が経つにつれ、不利な方向へ転がりつつある。
「へっ、おらたちの友情ぱわーをやぶれねぇだか!」
 得意げな花梨の咆哮に、今のリベリスタ達は返す言葉を見つけられない。
 既に、ユーキも涼子も、一度は燃やしたその運命を焼き尽くし、ぐったりと動かなくなっていた。
 そして、マリーの渾身の一撃に、達哉が吹き飛んだ。壁に身を打ち付け、全身に走る痛みに身体が動かなくなる。彼も、運命を削ってでも子鬼達を助けようとしたが、此処までであった。
 しかし、マリーも達哉の光糸を連続で受け続け、満身創痍だ。
「一旦、体勢を整えるしかあらへんな」
 拳を握り締め、掠れる声で絞り出す仁太。実際、彼自身はまだ戦える。だが、余りに疲弊した仲間、そして健在の敵が多過ぎた。
「悔しいですが、今はそれしか」
「全校生徒の避難は終わっちょる。さっき放送があったわ」
「では……参りましょう。この借りはいずれ必ず返しますがな」
 仁太がマリーを助け起こし、彼女と共に達哉に肩を貸し、貴志は冬芽を背負い、豪蔵はユーキと涼子を抱え上げ、教室を出た。
「逃げるだか!」
 背後から子鬼達の罵声が聞こえる。それでも彼等は追ってこなかった。
 それが、リベリスタ達の“敗北”を、この上無く物語っていた……。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
ご参加有難うございました。
このような結果となった要因は、リプレイの中に詰め込んだ心算です。

ひとつだけ。
結果的に、子鬼の殲滅は果たされませんでした。故に、この結果です。
しかし、子供達、教師達の避難誘導には、成功しております。
全校放送を教師にかけさせたお陰で、一般人の被害は最小限に食い止められました。
皆様の奮闘が、無駄だった訳ではありません。それだけは確かです。
因みに暫く、この中学校は学校閉鎖になるようです。

ともあれ、今はゆっくり休んで英気を養って下さいませ。
それでは、ご縁がありましたらまた宜しくお願いします。


===================
以下のキャラクターがアーク『監視』状態となりました。
今後の活動に制限が課せられる可能性があります。

如月・達哉(BNE001662)