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<鬼道驀進>万鬼行

●ヨロズの蛮行
「キィィィアッハァァァァ! これだ、この感じ!
 いい悲鳴だ、いい叫びだ、いーいィ血飛沫だなぁッハッハァァァァ!」
 嬉々とした絶叫が、恐慌に駆られた悲鳴が、車両の爆発する炎が、繰り返し反響する。
「……うん、やっぱり子供の髄はなんだ、その、格別というかね」
「オー……イオイ『間武(げんぶ)』! 食い気に走ってんじゃねえよ!
 食うならもっとまとめてからにしやがれ! オラ、部下共も食うのに手一杯じゃねえか!」
 次々と爆発が起きる中、ひときわ肥えた鬼が一心不乱に肉を食む音をひびかせた。
 周囲に散乱するのは、首無の子供の遺体。だが、背骨の部分が不自然に凹んでいる。
「ご、ごめん『白央(びゃくえ)』。封印されていた間、ずっと、腹減って、て」
「そういう問題じゃねえよ! 壊すならもっと派手に! もっと確実に! だろ? 『九頭原(くずはら)』」
 すらりとした体躯に、大型の人切包丁を携えたリーダー格、『白央』の叱責を受け、
『間武』の言葉はしりすぼみになる。だが、そこに割って入った『九頭原』の言葉も禍々しい。
「いや、いや……白央も間武も手緩いよゥ。車を壊すなら――こう!」
 言うなり、無造作に抱え上げられる乗用車。内部から劈くような悲鳴が聞こえるが、
 それがさも素晴らしいかのように九頭原の目は嬉々としている。
 ぐん、と振り抜かれた腕は乗用車を開放し、そのまま真っすぐ、数十メートル先にあるビルへと
 盛大に叩き付けてみせた。……中身は軽いミンチだろう。
 投擲された射線の車両も、人も、巻き込んで。
 それに群がる数多の鬼を巻き込んで。
「アー楽しい! これ以上の娯楽がどこにあるんだよ、えェ!?
 数百年の苛立ちだ、これじゃ足りねえよなあ!」
 白央の嬉々とした叫びに応じるのは、数にして四十五に及ぶ鬼の群れ。
 人の首、腕、剥がした車のドアなどを手に手に持ち、今この生を謳歌する。
 白昼の惨劇は、介入するものもなくただ狂ったように――。

●鬼列滅すべし
「……鬼、か」
「そう、鬼です。以前から頻発していましたが、どうやら『禍鬼』なる鬼が主導で動いてるようです」
 呆然と惨状を眺めるリベリスタに、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は大仰に頷いた。
 その凄惨な状況下に吐き気を催す者もいたが、夜倉はしかし、眉ひとつ動かさない。
「彼らの王である『温羅』……記録が乏しいのでなんとも言えませんが、ただでさえ凶悪な鬼達です。
 王となれば生半可なアザーバイドの能力を超えるでしょう。その復活は、避けたい。
 彼らが復活した理由ですが、件のジャック・ザ・リッパー事件によって崩界が進んだことで、
 その封印が緩んだと考えるのが妥当でしょう。しかし、復活しているのはごく一部です。
 幸いにして、岡山には霊場、祭具、神器などが多く、封印の支えになっています
 ――が、これらを鬼が破壊すればどうか?」
「より強い鬼が出てきて、その、『温羅』だったか? そいつの復活に寄与するってことか」
「そういうことです。それが彼らの目的の一つ、もうひとつは、純粋に復讐でしょう。
 今回、皆さんに討伐してもらう相手もそちらに該当する鬼達です。数は四十八。
 十五体一個部隊として三部隊、それに三体の大将がそれぞれ控えているようで。
 以前も子鬼の大量発生はありましたが、今回は我々と同等のサイズです。
 膂力も比較になりませんし、数の暴力もかなり強力だと思われます」
 ふう、と夜倉は一呼吸置くと、三枚の資料を引っ張り出す。
 それぞれ『間武』『白央』『九頭原』と見出しがつき、詳細な能力を記述しているらしい。

「詳しくは資料を見てもらうとして。大将格の能力を簡単に説明しましょう。
『間武』。身長200超、樽型の肉体を持ち、その身に違わず食欲旺盛。
 鈍重ですが一撃は重く、守りも硬い。吐く息は瘴気を纏っており、
 猛毒以上の毒だと思われます。
『白央』。リーダー格の鬼で、身の丈を倍した肉切り包丁を持っています。
 これを自在に操るため、彼の攻撃範囲は通常より広く感じるかもしれません。
 飽くまで感じるだけ、でしょうが……厄介かもしれません。
『九頭原』。卓越した投擲力と跳躍力を持ち、その気になれば
 練度の高い射手の間合いすら詰めてくるでしょう。
 布陣を誤ればあっという間です。
 ……この下に、相応の能力を持った鬼が四十五体。
 正直、この量をまともには相手したくありませんね……」
「やるしかないのですが」、と呆れたように首を振ると、夜倉は向き直る。
「戦場は、見ての通り。駅に面した大型ショッピングモールの周辺、
 大通りを跨いでの大蹂躙劇です。
 被害は避けられませんし、見たものは変わりません。間に合いません。
 ですが、生きている人も見たでしょう? その末路も見たでしょう?
 ……許しておくわけには行かないんです、なんとしても。
 人を呪わば穴二つ。四十八の首をして、弔いと参りましょうか」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月03日(土)00:43
 過去最大級に気分も気持ちも悪い依頼、開幕です。

●達成状況
・『白央』『間武』『九頭原』の三体、および配下45体の鬼の撃破。
・戦場の一般人の被害を出来るだけ抑える

●エネミーデータ
○白央(ビャクエ)――大型の肉切り包丁『マガツハラ』を持った筋骨隆々の鬼。
 剣の攻撃からあらゆるバッドステータスを発動させる。
 命中・WP値が高い。
『マガツハラ』のサイズ補正により、「近接範囲ギリギリ」でのヒットアンドアウェイによる回避ができない。
・鬼斬:片薙(物近単・重圧・隙)
・蛇腹鼬(物遠複・流血・不運
・地裂(神近範・呪縛・ブレイク)

○間武(ゲンブ)――2m超の身長、圧倒的な身幅を持つ巨躯の鬼。
 防御が異常に硬く、鈍重であるが一撃は非常に重い。
 呼気に瘴気を孕む。
・地獄谷颪(じごくだにおろし、と読む。P:2ターンに一度、ターン最初に「近範・ダメージ0・猛毒」を放つ)
・髄狩り(物近単・必殺)
・暴食の主張(神遠全・ショック)
・地団駄(物遠単・命中低・ダメージ大)

○九頭原―二の腕と足がした鬼。跳躍、接近に優れる。
 D.Act、回避が高い。
・大跳躍(移動30m)
・暴力的投擲(物遠2範・豪炎)
・乱跳(物遠複・混乱)

○配下の鬼×45
 人間大くらいの、これといって特徴のない鬼たち。
 15体単位で行動し、全体攻撃も大将格を除いては15体までにしか通らない。
 かなり統制のとれた動きを行い、実力はともかく面倒な相手。
 基本的に、通常攻撃とリベリスタが行える戦術を殆ど使用できる。
(かばう・ブロック・全力防御……など)
 逆に言えば、通常攻撃しかない。

●戦場
 岡山駅近郊のショッピングセンター付近・大通り。
 既に相当数の被害が出ており、被害軽減に際しても行動が必要です。

 葬列に並ぶのは人か、鬼か。
 見届けていただければ幸いです。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
マグメイガス
百舌鳥 付喪(BNE002443)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
デュランダル
館霧 罪姫(BNE003007)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
■サポート参加者 4人■
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
ダークナイト
バゼット・モーズ(BNE003431)

●鬼道死線に沿うて
「僕らが時間を稼ぎます、早く逃げて下さい!」
「落ち着いて! こちらからなら、鬼はいませんから……!」
 悲鳴、怒号、爆音、混濁した阿鼻叫喚。襲いかかる鬼達から必死に逃げ惑う人々にとって、冷静ともとれる源 カイ(BNE000446)とバゼット・モーズ(BNE003431)の声は一縷の救いを与えるに足るものだったといえるだろう。だが、精神を持ちなおして非難することと、鬼と人の性能差を巻き返して生き延びることでは根本的に異なるものだ。次々と襲いかかる鬼達が、しかし次々と銃弾を受け、或いはモーター音の下に一撃を受け、人々の退路への襲撃も敵わない。
「葬列に並ぶのは鬼ね」
「これだけ大勢を殺して良いって言う事は最近あんまり無かったから」
 冷徹に死を宣告する『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)と、楽しげに鬼を捌く『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)が退路に立ち、次々と迫る鬼に牽制を続けていくが、二人で抑えられる数、火力量には自ずと限界が生じてくる。
 駅前を中心として広く展開した鬼達の群れは、しかし空を駆けて次々と現れる人ならざる人、リベリスタの姿をその視界に捉えていた。欲望のままに暴れまわる鬼達であっても、その優先度を理解する程度の理性と知能は持ち合わせている。尤も――
「あ゛ぁ、美味そうな……餌……」
 間武の様に、本能のみで生きるタイプの鬼にとってはそれが何であれどうでもいいことになるのだろうが。

「そうです、通り魔です。地上に出ないよう、出口を封鎖してください」
 相手方――鉄道警察隊の対応を待たず通話を打ち切った『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の眼下では、未だ鬼達が跋扈し、逃げ遅れた者達の無残な姿が晒されている。そこかしこに漂う血臭、地獄の釜の蓋をこじ開けたような毒の残滓が鼻を衝き、悪夢を終わらせようとはしない。
「鬼の連中、楽しそうだねえ」
 くく、と苛立ちと高揚を綯い交ぜにした笑いを上げた『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)が降り立った建物から鬼達を睥睨する。
「こんなに暴れて殺して、ああもう、私苛々しちゃいますよ」
 付喪を庇うように位置取り、苛立たしげに声を張るのは『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)だ。この惨状は赦せない。その魂の奥の怒りに火を灯す程には、そこは最悪の場であった。
(鬼を討伐してめでたし、めでたしで終われるよう……頑張る)
 無言で手甲を構え、風見 七花(BNE003013)は魔力を練り上げる。鬼は討たれるためにある。決して、のさばらせておいていい相手などではない。
 彼女を護るように立ちはだかる『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)にも、幸せな結末を求める意思がある。力がある。

「これ以上、好き勝手にやらせてたまるかよ!」
 人払いの結界を巡らせた『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が吼える。己の在り方をただそのままに、倒してみせると強く、語る。
「失われてしまった命はどうすることもできないけど……これ以上被害を出さないように死力を尽くすことはまだ、できる」
『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の声には、気負いもなければ甘えもない。この状況下、やるべきことはただひとつ。

「さぁ。悪い鬼を懲らしめに行きましょうか」
 静かに告げられたその声が、開戦の合図として戦場に響く。

●悪意崇拝
「しゃらくせえぜ、リベリスタぁ! お前ら如きに何が出来るってんだ、えェ!?」
「痛い目を見る覚悟くらいはあるんでしょ。かかってきなさいよ」
 狂気に満ちた九頭原の叫び声、次いでその手が鷲づかみにした車両がソラの立つ建物へと叩きつけられる。爆風は足場を砕き、熱を孕むが、しかしそれを受け止めたのは彼女ではなく、カイだ。すでに、ソラは地上の鬼達へと雷撃を振るい、叩きつけている。
「鬼達よ、越えてはいけない一線を越えた……覚悟は出来ているんだろうな!?」
「恨むなら吉備津彦でも恨んでおきなァ、ボウズ!」
 飛び込んできた車両を拳でいなしたカイは、既に「その中」を見ていた。爆炎の向こう側も見ていた。赦せない、と九頭原へ吼える。
 対する九頭原は、挑発するように大きく手を広げ、笑う。

「さあて、私の雷で派手に散って貰おうかい!」
「もう一発、受けてください……!」
 ソラの雷撃に伴うように、付喪と七花のそれが次々と鬼達に炸裂していく。建物の上に陣取り、位置的優位に立つ彼らに気負いはない。優位に立っている以上、恐れるものなどない――そう、考えている。

「違ェよなあ……全ッ然、違ェ」
 ガリ、と『マガツハラ』が地を削り、緩やかなフォームからしなるように振るわれる。
 空を切った刃の余波は滑らかな切断面を築き上げ、京一、そして七花を庇うキリエを引き裂いた。
「分かってんだろォ? チョロチョロしてねえで引きずり落とせよ野郎共!」
 心底楽しげに、引き裂いた二人に刃を向けて白央は声高に指揮をする。三名の雷撃の集中は、幸運にも都合十五の鬼の群れをひとつ打倒してみせた。だが、それでも残数は多い。三名で一組を打倒してしまうなら、周囲に合わせようとした京一の鴉は行き場を失い、当たるを幸いに突っ込むことしか出来はしない。幸運にして、と言うべきか。避難支援に当たっていたバゼット、牽制にあたっていた罪姫とエーデルワイスの健闘もあって多少の頭減らしも効果を出し始めていた。
 それでも、鬼達の数に任せた連携は、甘受できるものではない。数体一組で足場を作り、リベリスタ達の居る足場へと容易に乗り込んでくる。知恵のある数の暴力は、決して簡単に御しきれる相手などでは決して無い。

 リベリスタにとっては些細といえる、一撃。
 回避も防御も容易な鬼達のそれは、しかし数を重ねることで可能性を生み出していく。
 僅かなタイミングでのミス。運が悪いと言う他の無い深手。
 戦いの上で考えたくはない可能性を生み出す悪意が、僅かな時間で積み重なる。

「させるかよ!」
「『醜い』姿に相応しい食い方だな、マナーというものを教えてやるよ」
 エルヴィンが癒しを、アウラールが魔払いを具現し、光として戦場に振りまいていく。
 一般人の影が徐々にその数を減らしていき、被害だけを鑑みれば可能な限り減らせはした、と。
 その状況を理解してなお、リベリスタ達の緊張と危機感は微塵も減りはしなかった。
 のそり、と。大きすぎるその身体が、遅すぎるくらい鈍重に、動く。
「え……さ、あァ……!」
 咆哮。指向性を全く無視した、領域ごと押し潰す轟音が駅前を蹂躙する。
 無論、まともに当たる程に鈍重なリベリスタは存在しない。それでも、僅かに受けた傷から間武の潜在能力を理解するのは難しくはなく。
 戦場に奔る緊張感が、焦燥感を上書きしていく。安堵はなく猶予もなく、戦いは激化する。

●地の獄たれと鬼は言う
「しかし……厄介だね、頭が働くというのは」
 五月を伴い、付喪が屋根を飛び移る。ビル群において、有効な足場はそれこそ山と存在する。だが、鬼達の膂力で倒壊、ないし登るに苦でない程度の高さのものもまた、多い。安全性と言う観点で言うなら決して悪い策ではないのだが、短期決戦である以上は四の五の言ってられるものではない。

「甘ェんだって、言ってるだろォ……!? ビビりすぎだぜお前らァ!」
「痛った……」
 九頭原の跳躍力は、単に移動のためだけに存在するものではない。その複雑な跳躍を繰り返し、視界に入れたものを混乱に陥れる技巧を以て、戦力に持ち上げた鬼である。それをまともに受けてしまえば、戦術における理性をかき回されるのと同じ事。
 回復も、庇うことも、ままならず切り崩され体力を消耗していく。
 配下の鬼が次々と倒れようと、三体の鬼は未だ意気軒昂。京一は既に戦力として用をなさぬほどに消耗し、キリエの思考も定まらず。迫る鬼達を撃ち落としていく戦いは、正しく精神を消耗する戦いだと考えざるを得ない。

「バゼットさん、避難はどうです!?」
『問題なく終わっている。私はこのまま九頭原へ向かう……!』
「いい感じに準備できた様ね。楽しいのよ」
 幻想纏いから流れるエーデルワイスとバゼットの応答を聞きつつ、罪姫は眼前の手下を力いっぱい殴りつけ、吹き飛ばす。
 多くを失した配下の鬼は、力づくで建物を倒すことに腐心するものの、決定的な戦力としては用を足さなくなっていく。都合三連の雷撃を繰り返したことで被害は着実に減少しているのは確かであり、避難も十全に行われた――ここからは、リベリスタ達が本領を発揮する番だ。

「えさ、ぁ……!」
「…………」
「叩き潰してあげます、鬼共」
 改めて、眼前へ現れた餌へ興奮を隠さず、地を揺らす間武をして、しかしその振動を凌ぎ切ったカイと五月に表情はない。首もなく、恐らくその根幹をごっそり抜き取られた子供の死骸。地獄谷の如き毒に晒され、ぶくぶくに膨れ上がったそれはカイの怒りを呼ぶには十分過ぎる。五月の怒りは既に怒髪天を衝いて過ぎている。今更に語られる物ではない。三者三様、全くベクトルの違う興奮を身に収め対峙する。

「ハッ、温いなぁ……そんなトロい動きで当てるつもりだったのかよ?」
「……ぐ」
 アウラールの手によって混乱から立ち返ったキリエではあったが、九頭原の回避の前にはその気糸の精度すら確実に当てることを許さない。
「楽しいかい、私は全然楽しくないよ」 
「楽しい時間はおしまい。さぁ、あなたたちが痛い目見る番よ」
 その間隙を縫うようにして放たれる付喪とソラの魔弾ですらも、しかし確実な手応えを見せず抜けていく。跳び回るその身をして、一切の油断が無いことを感じさせた。戦力の殆どを集中させての一斉攻撃が、唸りを上げて襲いかかる。

「お前の相手は俺だ、戦えるだろう?」
「面白いこと言うじゃねえか若造が! チョコマカと苛立たせることだけは上等みてェだな、やってやるよ!」
 刃を向け、宣戦するアウラールに、『マガツハラ』を傾けて白央は応じる。十字の光の命中精度は、その身が持つ回避を上回り、確実な成果を上げた形になるだろう。
 だが、その一撃の命中力を上回る回避性能が彼にあるわけではない。ただひたすら、足を止めず遅らせずついていくことだけに神経と鎬を削るだけ。

 三体の鬼と十一のリベリスタ。
 残された戦力は四倍に近くあれど、一切の油断も妥協も許されない。
 狂ったような戦場で、異形たちが死生の轍を踏む。

●驀進セヨ
「おォ……っりゃぁァ!」
「きゃっ……」
「くそ、厄介だね! ……!?」
「ッ、はっは――ァ!」
 腕力任せの大投擲。巨大な爆炎を伴ったそれが齎す破壊範囲と被害のほどは計り知れない。狙いを定めさせられるなら、或いは実りもあったであろう戦いで、最もネックとなったのは九頭原の能力にこそあった。十に二度、いやそれ以上か。連続攻撃を可能とする彼に定まった狙いがなく、乱雑であれ投擲を繰り返せば、その積み重ねはやがて大きな被害を呼ぶ。
 二連の爆炎、その何れもを受けてしまったキリエとソラ、そしてエーデルワイスに立ち上がることは許されない。蓄積した疲弊、消耗が徐々に戦況を支配し、悪意が戦場で裏返る。
「やらせない……!」
「ああ苛立たしい。罪姫さんは早く白央さんと殺し合いたいのよ」
 投擲五の硬直を狙うように、罪姫とバゼットの一撃が九頭原を見舞う。だが、狙いの乏しい罪姫の一撃は空を切り、バゼットのそれが辛うじてクリーンヒットを生じた程度。その挙動に翻弄され、優位性が通用しない。

「ちッ……!」
 エルヴィンが癒しの旋律を奏で、仲間を賦活に導くが、それだけでは未だ足りない。足を止めても、毒を受けても、運を汚されても、その元凶を払う能力は戦場には満ちはしない。三体をそれぞれで止める以上、開いた戦場は彼一人でカバーできる道理もない。
「ここで、止める……!」
「まァだまだまだまだまだ甘ェぜガキがァ! 付いてこいよ、楽しませろよ、その長物は飾りか、あァ!?」
 足を止めずに戦える、という点において、アウラールは優秀だった。白央の思念を常に十字の閃光で、或いは戦闘狂を狂わせる言葉でもって縛り続けた事実は称賛に値するだろう。それでも、流れだす血が齎す寒気は隠せない。位置を巧妙に調整し、エルヴィンの癒しを受けようとしてなんとか保たせる程度、という限界の危険性。

「……オオオオォ!」
「防御が硬くて鈍重。良いカモです。私の拳で打ち抜いて痺れさせてあげます」
「え゛、ざ……ァ」
 魂の底から搾り出すようなカイの声が響き、五月の静かな声が拳に整形されて間武へと打ち込まれる。その身を侵食する痺れに苛立ちを覚えながら、しかし叫び声を上げることすらできないその不遇は、巨体のそれをして焦らせるに足る状況だったと言えよう。未だ疲弊の色は見えない。しかし優位は揺るがない。
 三体の鬼をして、傷つき、或いは倒れ、それでも運命と矜持をその手に立ち上がる。何度でも、どのようにでもいい。「戦える」という意思だけで、彼らは鬼をも凌駕する。

 確実な一発を望めない、しかし数が凌駕する。傷と傷とのチキンレース。
 足を止めず隙を見せずただその時間を稼ぐことを目途とした、一対一の刃の向け合い。
 圧倒的堅牢性を誇る巨塊の牙城を突き崩す、鬼兵相手の攻城戦。
 これらが完全に分化した戦いなら――或いは、だったのだろうか。

「小賢しいぜリベリスタ……間武ゥ! 馬鹿正直に捕まってんじゃねえぞクソが!」
「く、ずは……」
 九頭原が、初めて焦りを露わにする。自らの傷も浅くはないが、立ちはだかるリベリスタの数名は沈黙させた。止められぬ歩みを自ら止める道理など、彼のどこにあったというのか。
 高々と、九頭原が跳躍する。地を揺らす着地の衝撃と、その後始まる狂乱がカイと五月を狙ってのものだなどと、想像するに難くない。
「くそっ……!」
「狼狽える暇があったかよ、じゃあもっともっともっともっと痛めつけてやんねえとなァ!」
 容易に成り立つ戦況の瓦解。白央の抑えで手一杯なアウラールに僅かな焦りを織り交ぜるほどの最悪は、しかし相手にとっての絶好機。
 二人がその意に反した戦いに弄した間を縫って戒めを振りほどき、反攻に出る巨塊の鬼。
 狂ったような笑い声を響かせ、しかし積み重なる傷の前に笑いながら倒れる、手長足長の鬼。
 そして、刃を向けて討ち合いを果たし、高々と吼える鬼――。

 血の海と瓦礫と狂乱と。
 毒と死と悪夢のような暴風が過ぎ去り、そしてその地は、「その地だけには」平穏が訪れる。

 ――間武ゥ、逃げた馬鹿共皆殺しにするよなァ!?
 ――髄が食えれば、おれ、いい。

 敗走も許されず。
 抵抗も待たれず。
 奇跡の具現すらも陳腐な敗北に飲み込まれたこの戦場に、何の凱歌があるというのか。
 なんの栄光が寄与するというのか。

 悪夢は終わらず、ただ屍を積み上げるだけだった。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 リプレイ以上に雄弁な言葉を私は持っていません。
 リプレイから、そして自分のプレイングから読み解いて頂きたく。
 ご参加、有難うございました。