● 人生とは、常に己との戦いであると言える。 戦い続けなければならない。 最大の敵は自分自身。 如何にして昨日の自分を越えるのか。 いいや、昨日だけではない。 ほんの一分、一秒前の自分を、如何に越えていけるか。 人生とは常に、戦いなのだ。 戦う事を止めれば成長は無い。 安寧は裏返せば停滞。 平穏は怠惰。 己を高め、己に打ち克たんとする者こそが素晴らしい。 逆を言うならば。 それ以外は必要無いのだ―― ● 「件の公園。……三ツ池公園の現状については皆も知っていると思う。 穴から来たのか、それとも誘われてきたのかは分からない。エリューションが出現する」 皆には、それを倒してきて欲しい。 何時に無く緊張した面持ちで『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は話を始める。 「エリューション・フォース。フェーズは2。どちらかと言えば3に近い。 形は安定しない。多分、皆が遭遇する時は白い靄の様なもの。正直、その状態なら無害。 でも、……今回の奴は、少し厄介な能力を持ってる」 厄介、とは。 フォーチュナにつられ緊張感に満ちた表情を浮かべていたリベリスタ達の視線が、問い掛ける。 「……彼なのか、彼女なのかは分からない。このエリューションの元になった人物は、非常にストイックな人間だった。 常に己と戦い続けて戦い続けて、死ぬその時まで、己の死にさえ打ち克とうとしていた。 その想いが、エリューションになったみたい。……皆にも、同じ事を要求してくる」 つまり、今回の戦う相手は。 「自分自身。とは言っても、エリューションが作り出したコピーね。実力は本物とほぼ同じ。 スキルも、武器も同じ。ただ、1つだけ違うとすれば、コピーには心は無い。意志は無い。決意は無い。 覚悟も、無いよ。だから、勝てるとするならそこしかない」 らしくない。けれどフォーチュナはそうとしか言えなかった。 リベリスタの顔が引き締まる。その面々を、ゆっくりと見回して。 「全員が自分自身を倒せれば、それで終わり。エリューションは消える。 因みに、人の分身は倒せない。自分の力でなんとかするしかない。……頑張って来て」 静かに、見送りの言葉を告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月23日(木)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 自分の敵は自分自身。 その言葉を、口内で呟いて。 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は静かに、剣を構えていた。 鏡写しの自分を、確りと見据えて、孝平は自身の体内のギアを引き上げる。 即座に襲って来た、幾重もの斬撃は軽やかにかわす。 「……陳腐ですが、正鵠を射ているかもしれませんね」 この戦い、敵は自分自身。けれど、その自分自身は、所詮は紛い物だ。 紛い物に無いものが、本物にあることを証明する。 今、求められているのはきっと、それだけなのだ。 踏み込むと見せかけて、足を止めかける。そして再び、踏み込んで。 相手を翻弄しつつ澱み無き連撃を叩き込んだ孝平の動きに、分身は戸惑う様にその刀を振るい返した。 立ち込める白。 水気の無い、しかし酷く重いそれに包まれ、仲間の姿は酷く遠い。 だが、ハイディ・アレンス(BNE000603)の瞳は欠片も揺るがなかった。 自分との対決。結果は分からない。 けれど、どんな結果になるにせよ。これは自分を見直すいい機会だ。 だが、そうは言っても。 「……無論、負けるつもりなどないが」 自信と決意。合わせ鏡の相手が持たぬそれを覗かせて。 彼女は同じく、鏡と向き合う仲間へと守護の障壁を巡らせる。 黒い煌めき。死を告げし刃が視界を掠める。身体を捻るも、掠めた脇腹から鮮血が飛び散った。 それにも構わず、彼女は静かに集中を高める。 飛んできた漆黒の式神は軽くいなして。狙いを定める彼女の横顔に迷いはなかった。 盾を、掲げる。 各々の敵と向かい合って居るであろう仲間達に十字の加護を与えてから、『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635) は深く、息を吸う。 飛んでくる重い一撃は盾で弾いて。脳に働きかけ集中を高めながら、問う。 私は、何者か。 私は、世界を護る者。祖父の、母の、父の道を引き継ぐ者。 だからこそ、何があっても負けられない。負ける訳にはいかない。 相手は自分自身、長期戦になるだろう。けれど。 「覚悟など、当に六十億人分背負っているのであります」 接近し、全身の膂力を込めて叩きつけられた一撃を、その身体で受け止める。 負けない。否、負ける訳が無い。 自分にあって、この、己の影に無いもの。 それは既に、理解していたから。 分身と同じ、けれど重さの違う一撃を見舞って。ラインハルトは凛と、影を見据えた。 「私の分身さんって事は凄く弱そうだねー」 少しだけおっとりとした声が響く。 『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405) は先手を取り、己の分身へとおぞましき呪詛を込めて矢を放つ。 抉られた分身の肩口から、靄が飛び散る。しかし、大したダメージは見受けられない。 分身は同じ様に呪詛を込めた一撃を見舞うも、矢張り正確には当たらない。 次いで巡ってくる、仲間の呼び寄せた癒しの福音。それを受けながら、シャルロッテは小さく頷く。 作戦通り。相手の攻撃を誘う様に様子を見るシャルロッテの前で、分身は再びその弓を引き絞った。 ● 難しい事は、どうでもよかった。 既に幾度か殴り合った後。『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471) は、透ける水色の瞳に激情を湛え、目の前の女を睨み付ける。 気に入らない。いかにも不幸ですって顔をして。 その癖、マシになりたいとも言いやしない。 それに。口に溜まる血を吐き出して。再び、きつくその手を握り込む。 「弱いのが、ゆるせないんだよ……!」 頼れるものはこの拳ひとつ。全力で、けれど隙は見せない様に。 問答無用で拳を叩き込む。カウンター気味に飛んで来る拳は、半身で辛うじてかわして。 前に出ろ。一歩も退かずに。ただ全力で、殴り飛ばせ。 滾る心をそのままに。身体ごと投げ出すように、涼子は再びその拳を叩き込む。 重たいものが、空を切る音がする。 己が身に叩きつけられんとする鉄球をかわして、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064) は小さく笑い声を漏らした。 鏡写し。面白い趣向だ。目の前の、自分と寸分変わらぬ女の姿を、愉快げに見詰める。 惜しむらくは、『彼女』に心が無い事だろう。 だって。 「……貴女、悲鳴も苦悶もあげないのでしょう?」 つまらないわね。そう付け加え、ティアリアは目の前の敵には目もくれず、幾度目かの福音を戦場に響かせる。 ルール無用のはずだ。なら、この行動だって問題ない。 その行動を嫌悪する様に、再び飛んでくる鉄球。 横合いから叩きつけられたそれに微かに眉を寄せるも、その口許に浮かぶ笑みは崩れない。 再び響く、癒しの音色を耳にしながら。 鮮血の色に染まる武器を振るい合う『執行者』エミリオ・マクスウェル(BNE003456)は荒い呼吸を繰り返していた。 敵は自分自身。不思議な気分だが、だからこそ負ける訳には行かない。 互いに削り合い、癒し手の回復でも傷が癒えぬ状況で。彼は必死に、我慢比べに競り勝とうとしていた。 自分とほぼ同じ戦い方をしてくる相手。ある意味厄介だが、耐え抜けば正気は見えて来る筈。 負けない。何故なら。 この戦いは、自分を乗り越える為のものだから。 これは、ほんの少し前の自分だ。 身を苛む瘴気に耐えながら。『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488) は鋭く、目前の男を見遣る。 心無きもの。自分自身。まさに、『自分との』戦い。 「さて、……今の俺は前の俺を越えているのかな?」 収束させた漆黒のオーラを、自分と同じ顔に叩き込む。再び空気を穢す魔の瘴気には、余裕の色を瞳に浮かべた。 何故なら、それすらも作戦なのだから。 「……威力に拘って仕掛けてくるのなら、それがお前の命取りとなる」 意志と冷静さ。その両方を兼ね備えた彼の戦術が目に見えた効果を表すまで。 揺ぎ無い瞳で状況を見据えたハーケインは、確りと次の手へと思考を巡らせていた。 ● 終わらない。消耗戦。傷が癒えていくシャルロッテに対して、分身は既に明らかな疲弊が見えている。 引き絞られる弓。幾度目か分からぬおぞましき呪いで身体が激しく痛む。 本来なら、これだけ傷付いた身体で呪詛を込めた一撃を放つのは得策ではない。 けれど。 彼女には仲間がいた。守護を、癒しを、齎し続けてくれる仲間が。 自身の背丈よりも巨大な弓を構える。既に彼女には確信があった。この勝負、自分の勝ちだ。 そして。じれったくも続いた戦いの結末は、ただの一撃で齎された。 自身の痛みを全て呪いに変えて。放たれた矢が、身体を抉る。傷口から全身へと広がる、おぞましき呪詛。 ぐらり、シャルロッテと同じ華奢な身体が、地面へと崩れ落ちる。 積み重ねた計算。それを武器に、彼女は誰よりも早く、己の影を消し去った。 ひとつの決着が着いた頃。違う場所でもまた、勝敗が決しようとしていた。 握る刃が、禍々しく煌めく。 漆黒の烏を身に受けふらつく足に力を込めて。ハイディは全力を以ってその刃を分身に突き立てた。 意志もない、決意もない。そんな自分に負けるのは、屈辱以外の何物でもない。 人を呪わば穴2つ。自身に跳ね返る呪いも耐え切って。決意を込めた瞳に呼応する様に、刃に込めた呪詛が蠢いた。 告げるのは、死。文字通り自身の分身を呪い殺して、ハイディは凛、と前を見据える。 他人に同じことを強要する存在になってしまったのはいただけない。だが、感謝しよう。 自分を見直す、良い機会を得られたのだから。 読み通り。威力に拘る一撃を繰り返し続ける相手に、攻守を器用に入れ替える事で対応する。 ハーケインが放つのは。漆黒のオーラのみ。味方の癒しと、状況を冷静に見極める目が、完全に彼の有利を構築していた。 幾度目かの攻撃。遂に、耐えかねたのだろう敵の膝が崩れる。 地面に倒れ伏す前に靄と成り果てたそれに、茶の瞳を細めて。 「礼を言うよ、まだまだ強くなれる事がこの勝負で知る事が出来たからな」 灰髪の騎士は、小さく言い捨てた。 唇を、噛み締める。全力で防御に徹しながら、エミリオは状況を見極めていた。 不意に、振りかぶられる一撃。来る、と、掲げた十字の重火器に、おぞましき呪詛が叩き込まれる。 凌ぎ切った。微かに笑みが浮かぶ。 自分が受けたこの痛みは、それを超える為の苦しみ。 必ず、強くなる。大切な人を護る為にも。こんな所で倒れてなどいられないのだから。 集中を、高める。再びの攻撃は軽やかにかわして。 だから。 「その決意も覚悟もない偽者なんかには、絶対負けないよ!」 魔力の奔流が、放たれる。 自身の痛みを力に変えて。強き意志の元振るわれた呪詛は、幻影を跡形も無く消し去った。 顔面に叩き込まれた拳に、目の前が白くなる。 思った通り。血の昇った頭で狙いをつけるのは、互いに顔や、腹ばかり。 強烈な一撃を腹に叩き込んでから、涼子は口に溜まった血を吐き出す。 ふらつく。けれど、容易く読めた相手の拳を寸でのところでかわして。 文字通り全力の一撃を、同じ顔の女へと叩き込んだ。ぐらり、傾ぐ体。そして、靄に変わる。 「……べつに、」 それで何かあるとは思っていないけれど。最早形無き自分に、涼子は呟く。 わたしは、わたしを倒さずにはいられない。 「……アンタもそうだった?」 答える者は、既に居ない。 ● 孝平の動きは、やはり自分自身を上手く翻弄していた。 自分の癖を、積み重ねているものを思い出して。予想外の行動を。テンポを。 加護が、癒しが上手く彼を後押しする。もう、結果は見えていた。 澱みなき連撃が、全て完璧に決まったのを最後に。呆然と此方を見る自分は、忽ち靄に掻き消えた。 魔力の弾丸に打ち抜かれ、表情を微かに歪める。 自分と同じ相手。確りと見据えて。ラインハルトは声を張る。 「小器用なのはお互い様でありますか。……ですが、私と貴女では決定的な違いがある」 例え何でも出来ようと、一人では決して世界を救えない。 例え大それた力を持とうと、独りでは決して世界を護れない。 そう、自分にあって、影に無いもの。それは。 仲間という、頼りがいのあるものだった。例え己が朽ち様とも、後を託せるだけの。 同じ、けれど決意の重さを込めた魔の弾丸を放って、彼女は告げる。 「貴女には分からないでしょう。志半ばで倒れても、その後を誰かが歩いてくれると言う信頼が」 だから戦える。だから命を賭ける事が出来る。 笑みが、浮かぶ。肉薄して放たれた一撃は確りと受け止めた。己の影。必ず、此処で倒して見せよう。 ――全身全霊を賭けて不退転を任ずる。この身は何時だって世界の盾。 「死ぬのは恐い、戦えなくなるのは恐い、二度と皆と会えないのは恐い。けれど」 矜持を捨てた自分はもっと恐い。だから、自分は自分に負ける訳には行かないのだ。 全力を、十字の盾に込めて。 迷いなき一撃は、確かに己の影を打ち倒す。 「……ああもう、貴女鬱陶しいわ」 わたくしと同じ顔をして、ただ振り回すしか能が無いだなんて。 遠くに聞こえていた戦闘の気配が消えた事を確認して。ティアリアは苛立ちを込めた微笑を浮かべる。 「ようやくわたくしの番ね。……お待たせ。まあ、待ってなどいないでしょうけど」 煌めく鎧を、自身に纏わせ直して。肌を食い破らんとする牙は軽やかにかわした。 冷静な目で見れば、自分とはなんとアンバランスな事か。 けれど。 自分たるには、それだけでは不十分だ。やはり所詮、紛い物に過ぎない。 喰らい付く。牙を突きたて、その鮮血を啜る。 敵の攻撃を受けても、それを止めない。可憐な唇を、鮮血の紅で彩って。 常の愛らしい微笑を浮かべたティアリアは、攻撃の手を休めない。 嗚呼、折角だから身体の触り心地でも堪能しようか。そう思い、手を伸ばしかけるもやはり止めた。 先程から一つも動かない、自分と同じ顔。 心無いものに触れても、反応が無い。そんなのはつまらないのだから。 癒して、喰らいついて、喰らいつかれて。 幾度、血を啜っただろうか。ぴたり、と、分身の動きが止まる。 ゆっくりと、肩口から顔を上げる。頬に付いた紅を、指で拭い去る目の前で。 鏡写しの自分は、ふわりと靄に溶けた。 面白い、と。思っていたのだけれど。 「……思ったよりもつまらない趣向だったわ」 他の子だったら良かったのにと、好色な台詞を漏らす。 ざわり、と。靄が揺らめく。 満足したのだろう。何処の誰とも知れぬ思念は、最初の様に一所に収束して。 まるで初めから何もなかったかのように、冷たい夜の空気に消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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