●バレンタイン爆破計画 2月14日、聖バレンタインデー。 乙女たちの聖戦か、あるいは製菓会社の陰謀か。 想い人がいる者もいない者も、多くの人たちがお祭り騒ぎに参加するその日を、憎む者たちがいた。 昼前の街中を、高いビルの上から双眼鏡で見下ろす1人の男。 坊主刈りの筋骨たくましい男であった。 けれども外見に反して、その瞳には暗い色が宿っている。 「……こちらエス。皆、配置についたか」 腰につけていたトランシーバーを片手で取り出し、彼は語りかけた。 『アイよ。準備オーケー』 押し殺したような女性の声を皮切りに、3人の仲間たちが通信を返してくる。 「よし……今こそ我らの逆襲の時だ」 彼は双眼鏡をしまうと、今度は赤と青の2つのボタンがついた機械を取り出す。 「では行くぞ! 3・2・1……0!」 カウントダウンと共に赤のボタンを押す。 仲間たちも今頃ボタンを押しているはずだ。 4つ一組のアーティファクトが持っている力が、発動する。 最初の事件が起こったのは、数分もしないうちだった。 爆発が空気を揺らす。 引き裂いたような悲鳴が男の下にも響く。 街中で、次々に爆発が起こっていた。 4人が囲んだ範囲内に存在する、あらゆるチョコレートが爆発しているのだ。 「ははは……! 素晴らしい! リア充どもめ、みんな爆発してしまえ!」 双眼鏡をつかみ、男は高らかに叫んでいた。 「さあ、この調子で次のポイントに行くぞ! 俺たちの恨みはこのくらいでは晴れはしない!」 トランシーバーに向けて呼びかけると、彼はビルの上からその身を躍らせた。 ●ブリーフィング リベリスタたちのうちの誰かが、深い深いため息をついた。 「動機は馬鹿馬鹿しいですが、被害は深刻です」 淡々とした口調で『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE000222)は語る。 「犯人は4人組のフィクサードなのですが、彼らは『ニトロ+』というアーティファクトを所持しています。使い勝手はよくないですが、強力な品物です」 アーティファクトは同一の『何か』を強く憎む4人の人間がいなければ発動させられない。 そして、4つあるスイッチをそれぞれ1つずつ持ち、同時にボタンを押す必要がある。 「発動すれば、所有者4人が憎む『何か』が大爆発を起こします」 爆発が発生するのは、発動時に4人が囲んでいた範囲ということになる。もちろん、囲める範囲には上限があって、いいところ街1つくらいしか巻き込めない。 「今回事件を起こす4人が憎んでいるものは、『チョコレート』です。正確に言えばバレンタインデーのチョコレートということになりますね」 憎むにはもちろん理由があるが、ありていに言えば『恋人がいない』という一言に尽きる。 リーダーの沢井昭二は29歳。彼女いない暦が年齢とイコールで結ばれる。彼は女性にモテるために必死に体を鍛えたそうだが、しかし下心を隠すのが苦手で結局恋人ができることはなかった。 2人目は灰村冬樹という高校生である。沢井ほど致命的にモテないわけではないが、不幸なことに彼が片思いしている相手にはもう恋人がいた。その片思いの相手も今回の犠牲者に名を連ねている。 それから、3人目は女子大生の伊原和泉。殺人的な料理の実力を持った彼女は昨年のバレンタインに手作りチョコで恋人を病院送りにし、手ひどく振られるという経験をしている。 最後の1人は高城当真。彼は元パティシエであった。かつてはバレンタインのチョコを作ることに喜びを覚えていたが、殺人的な多忙さに嫌気がさしてしまったのだという。 「彼らはそれぞれの頭文字をとって、エス、エイチ、アイ、ティーと互いを呼び合っています」 舞台になるのは東京23区からほど近い場所にあるとある都市。 中心部を囲んで4人は散らばっている。 「皆さんには、彼らを探し出して撃破していただくことになります」 沢井は高いビルの上、灰村はどこかの駅、伊原は大きな公園、高城は広い橋の上にいることまでわかっている。全員を探し出さなければならない。 「ボタンを押してから発動するまで数分の間があります。それまでにアーティファクトを奪い取り、4つ全ての青いボタンを押すと効果が解除されます」 もちろんそのためにはフィクサードたちを撃破する必要がある。もし奪うことができればそれで事足りるが、むしろ倒すよりも難しいのは間違いない。 沢井はジーニアスのクロスイージスである。生半可なことでは倒れない耐久力を持つ。 灰村はビーストハーフのナイトクリーク。動きを奪う技を受ければ時間切れの可能性も出る。 伊原はフライエンジェのマグメイガスらしい。比較的組しやすいとは言えるが、いざとなれば飛んで逃げられる可能性がある。 そして、高城はジーニアスのインヤンマスターだ。影人を作り出して自分を護衛させている。 ネタのような集団だが実力は高いので注意が必要だ。 「アーティファクトについてですが、破壊しても解除はされないのでご注意ください。まあ、危険な品なので片付いたら破壊しておいたほうがいいかもしれませんが」 楽しいイベントを破壊するようなことを見過ごすわけにはいかない。 虹乃はがんばってくださいとリベリスタたちに頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月24日(金)22:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●2月14日 浮かれる街の喧騒をよそに、リベリスタたちは町を探し回る。 一台の軽自動車に、そのうち3人が乗っていた。 「やっぱり中心部、カップルが多いデートスポットとかにいる可能性が高いんじゃないの?」 華奢な少女、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が、『赤備え』山県昌斗(BNE003333)の用意した地図を見ながら言う。 「いや、中心部じゃたいした範囲は巻き込めないだろ。外のほうにあるでかい公園が怪しいな」 赤いコートを羽織った昌斗は、三白眼で地図を睨みつける。 ハイディ・アレンス(BNE000603)が運転席から声をかけてきた。 「伊原さんは女子大生なんだよね。近くに大学がある公園を探してみたらどうかな?」 「ありえるかも。外側にあって大学が近い場所なら、だいぶ絞り込めそうだよ」 綺沙羅は同意し、昌斗と共に地図を検討する。 伊原和泉を発見したのは、程なくのことだった。 一点がわかれば、次に把握が容易なのは橋だ。 「どのあたりにいると思う?」 さわやかな笑顔を浮かべて『殺人鬼』熾喜多葬識(BNE003492)が問いかける。 大きな橋となると、そう数が多いわけではない。公園の位置がわかればだいぶ絞り込める。 「そうですね……このあたりが、気になります」 赤い瞳で地図を眺めて、『バレンタイン守護者★聖ゑる夢』番町・J・ゑる夢(BNE001923)が答える。 革醒により研ぎ澄まされた彼女の直観は、絞り込んだ中で1番可能性が高い場所を選択する。 「リア充爆発した所で、自分が幸せになるわけでもなし、もっと平和に博愛の精神をもって世界を愛してほしいものだよねぇ~」 殺人鬼には不似合いな台詞を、葬識は当たり前のように口にした。 果たして、人通りの多い橋の上に、フィクサードの姿は確かにあった。 地図上に引かれたラインを参考にして、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)はいくつかの駅を選択する。 さらに、彼女は策をろうした。 「ユーキさん、なんでチョコ見せびらかして歩いてるん?」 関西風のイントネーションで、『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)が問いかける。 身長は190cm以上。眼光鋭くロングコートをスタイリッシュに着こなすユーキだが、その手には一目でバレンタイン用とわかるファンシーなチョコレートがあった。 「囮ですよ。……ほら、来ました」 自分に向けられた殺気を感じとり、ユーキはさりげなく視線を送る。 珠緒も横目でそちらを見ると、そこには2人を睨みつける同年代の少年がいた。 3人までを見つけたなら、残る1人が見つかるのにさして時間はかからない。 とあるビルの屋上に、金髪の女性が姿を現す。 筋骨隆々の男、沢井昭二はアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)を見て、角ばった顔に警戒の表情を浮かべた。 「沢井と言ったか。良かったらこれを受けとってくれないか」 取り出したのはチョコレートだ。 通りかかる者などいるはずのないビルの上で、突然差し出されたチョコレート。 常識的に考えれば、そんなものを普通受け取るはずがない。 「お前のために持ってきたんだ。さあ」 だがしかし、生まれてこのかた母親以外からチョコレートなどもらったことのない男が、チョコを前にして常識的な判断ができようか。 蛾が街灯に吸い寄せられるように、沢井はアルトリアに近づこうとする。 『影たる力』斜堂・影継(BNE000955)が壁を登って現れたのは、その瞬間だった。 力の意を持つタロット型アクセス・ファンタズムより、チェーンソー剣とリボルバーが出現する。 「バレンタインを滅茶苦茶にするような奴らは俺が許さないぜー」 棒読みだった。 なぜか知らないが、影継の台詞はありえないほど棒読みだった。 しかしチェーンソー剣に宿ったエネルギー球の威力は真剣だ。沢井を屋上の中央付近まで吹き飛ばす。 アルトリアの背後から、もう1人のリベリスタが姿を現す。 「バレンタインで落ち込む奴なんて、常に一人だろうが。夢見んなよ」 白衣の男、『塵喰憎器』救慈冥真(BNE002380)は他の2人とともに沢井を囲む。 だが、沢井は影継も冥真も見ていなかった。 幽鬼のごとき形相でアルトリアへと突進する。 アルトリアがレイピアとシールドを構えたことさえ気に留めていない。 「チョコ……俺に、チョコをぉぉぉっ!」 その瞳には、ただ彼女の持つチョコレートだけが写っている。 手作りか、それとも既製品か。殺人料理の使い手であるアルトリアが用意したチョコレートがどちらだったかは、結局謎のままであった。 ●橋の上の守護者 葬識は橋の反対側へと回る。千里眼で見つけた高城当真を挟み打ちにする形だ。 目標の向こうから、ゑる夢がサムズアップするチョコレイトを手に橋を渡ってくる。 自らがバレンタインの守護者であることを示すその姿は、聖人と見まごうばかりに気高い。たぶん。 ただならぬ様子に、高城が気づいた。 挑みかかるような視線を受けて、彼は護衛の影人を増やし始める。 葬識は、背後から近づいていった。感知能力も有するらしい敵だが、ゑる夢に気を取られて彼には気づかない。 ゑる夢が動いた。 チョコレート色の斧……いや、斧の形のチョコレートを手に、残像を残して豊満な肉体が踊る。 傷ついた影人を操ろうとしたところで、葬識も動いた。 手にしているのは斬馬刀にナイフを固定した鋏。 殺した母の形見でもある三つ編みを揺らし、闇を纏う青年はいびつな鋏を振るう。 吹き出した闇が影人たちを薙ぐ。 「今日も殺戮衝動は止められないねぇ~」 ゑる夢が対峙し、高城が影人を増やしている間、集中して狙いを定めていた攻撃は確実に直撃する。 人型の影が音もなく消え去っていった。 ゑる夢は、式符を放つ高城にチョコレートを突き付ける。 「……あなた達は、決定的なものを間違っています」 烏が彼女の体を貫く。 「家族チョコ、友チョコ、自分チョコ。もはやバレンタインはリア充だけのイベントに非ず。チョコとささやかな幸せを愛する人々の為の聖なる日なのです」 痛みに耐えて、彼女は鋼の威力を秘めたチョコレートを構えた。 「それを爆発させようというのなら……バレンタイン守護者として、許す訳には行きません!」 胸に秘めた想いが彼女に力を与えてくれる。 高城が2人を呪印で封じる。そして、式神が順に射抜いていった。 呪縛を振り切り、ゑる夢の残像が高城へと斧を叩きつける。一歩遅れて、葬識の鋏も赤く染まって体力を傷口から吸い上げている。 「堕ちたパティシエ……覚悟しなさい!」 やがて、チョコレートの斧が重く、しかし鋭い幻惑の一撃を加えた。 敵の懐から転がり出たアーティファクトを拾い上げる。同時に意識を失った敵の首を、葬識の鋏が刈った。 ゑる夢は青いボタンを押す。 「これで、バレンタインは護られました……」 アーティファクトから力が失われたのが、ゑる夢にはわかった。 ●公園の死闘 大きな公園には、人の姿がいつの間にか消え去っていた。 リベリスタたちが張った結界の力である。 監視カメラを乗っ取って、伊原和泉は簡単に見つかる。 「んじゃまぁ、害虫駆除といこうや」 昌斗がライフルを構えたのが、開戦の合図だった。 綺沙羅は高速でキーボードを叩く。 連なる雷撃が公園を走った。それは、背後に回っていた昌斗を含めて戦場にいる3人を巻き込む。 だが、綺沙羅の張った結界が攻撃の威力を減衰させていた。 「バレンタインは悪くない。他の者のコトなど気にせず適当にお祭り騒ぎの雰囲気を楽しめば良い」 ハイディが弓矢を放つ。 綺沙羅は所持していたノートパソコンに、伊原の殺人チョコ事件の情報を呼び出す。 「自分の殺人的な料理センスを棚上げしてチョコを爆発させようなんてお門違い。むしろチョコに謝れ」 幼い少女の一言に、伊原が大人げなくも怒りの形相を浮かべた。 「あんな酷いチョコを食べてくれたあんたの元彼は御仏みたいだね。ほんとに仏になりかかってたけど」 「うまいこと言うじゃねえか」 昌斗が笑い、引き金を引いた。 「御仏の心を持ってしても受け入れがたい殺人チョコ酷す」 「黙れ!」 4つの魔光が綺沙羅を狙ってきた。 昌斗は注意がそれた隙に、伊原の背中を狙う。 獲物を狙う銃弾は、広げた翼を撃ち抜いていた。 革醒によって得た翼は、そうそう折ったりはできない。だが、動きは多少鈍ったようだ。 振り向いた伊原の手に魔力の鎌が現れた。 回避は間に合わない。 昌斗の体が切り裂かれた。 「なんだ、意外とやるじゃねぇか。少しは楽しめそうだなぁ、オイ?」 黒いシャツの下から、血が吹き出す。 肩から落ちそうになったロングコートをつかみ、昌斗は凄絶な笑みを浮かべた。 ハイディは呪印を組み上げて伊原の動きを縛り上げる。 呪縛していても回避することはできるため、即座にアーティファクトを奪うようなことはできなかった。 昌斗の銃撃がさらに翼を傷つけて、綺沙羅のキーボードから現れた式神が嘴で突く。 印を振りほどいた伊原は、たまらず空中へと逃れた。 「逃すものか!」 黒い翼を広げて追いかけると、ハイディは背中から彼女を羽交い絞めにする。 そこに昌斗や綺沙羅はさらに攻撃を加えていた。 逃れようとした伊原が一条の雷を放った。 拡散する雷が戦場を走る。 昌斗と綺沙羅が雷に焼かれて倒れるが、ハイディは倒れなかった。 (……あと少し攻撃すれば倒せるはずだ!) ショートボウが黒い光を帯びる。告死の呪いは式神の攻撃が与えた毒を増幅していた。 至近距離から矢を受けた伊原が落下して、ポケットからアーティファクトが転がり落ちる。 拾い上げて、ハイディは大きく息を吐いた。 ●駅前に響く音 灰村冬樹がいたのは、駅舎の窓際だった。 結界の効果により、駅からは人の姿が目に見えて減っている。 珠緒はアクセス・ファンタズムから取り出した愛用のギターを肩から提げた。 「はい、どうも、バレンタイン爆破中止のお知らせです♪」 ユーキがバスタードソードを手に灰村の前に立ちはだかる。 灰村もすでに臨戦態勢だ。高校生としては平均的な体格であろう彼より、明らかに背の高い女性を目にしても動揺はなかった。 「……僕らの邪魔をするつもりですか」 「爆発とか、コント辺りで笑かしてくれる分にはええねんけどな」 灰村の影が意思を持って動き始める。 珠緒が爪弾く力強い旋律が、4つの魔光を生んだ。光は灰村をかすめて少年を傷つける。 剣を手に踏み込んだユーキの体から漆黒の闇が発生する。それはあたかも鎧のように、長身の女性を包んだ。 影がユーキにまとわりついた。 そこに、灰村が気糸を放って縛り上げる。 「悪いけど、時間稼ぎされるわけにはいかないんや」 攻撃的な調べと共に、珠緒のギターが輝く。 気糸が吹き飛び、灰村が舌打ちをした。 時折オーラの爆弾をしかけながら、灰村は呪縛を狙ってくる。 珠緒が呪縛を振りほどき、ユーキは前衛で少年と切り結んでいた。 ユーキは灰村の首筋に牙を突き立てる。 武器に拘らない戦い方が彼女の持ち味だった。気糸による攻撃は呪縛されるのみならず、体力も削り取ってきていたが、漆黒の闇が傷をふさぎ吸い上げた血が体力を回復させてくれる。 「出し惜しみ無しの超速弾きや、遠慮せんと聞いていけ!」 後方で珠緒の調べが響く。 前向きな少女の旋律は、実力はともかく後ろ向きな少年とは比べ物にならない意志力がこもっている。 弦を弾くと光が生まれた。 4種の異なった音階を組み合わせ、4種の異常をもたらす激しい攻撃が灰村へと飛ぶ。 隙ができた瞬間に、ユーキはバスタードソードに黒い光が宿らせていた。 一閃した。傷口から呪いが染み込んでいく。 「……何と言いますか、アーティファクトまで利用して爆破とは、気合の入った方々も居たものですね。その努力を真っ当に向ければ恋人の一人も出来ようものですが……ともかく、これも仕事ですので」 倒れた灰村から、ユーキはボタンを奪い取った。 ●ビルの上の残念な男 冥真は経典を開く。死符毒銘戯画百景と書いてどくどくしいじんせいのあしあとと読むそれは、まるで呪符の群体のようだった。 アルトリアのレイピアが沢井に向いている。 影継も、敵との距離を詰めた。 「貴様ら……何者だ?」 チョコレートを前に我を忘れていた沢井がようやく誰何の声をあげる。 「俺は! バレンタインを滅ぼす為に闇から生まれし影の剣士! シャドウブレイダー!」 突っ込みどころしかない名を影継が告げた。 「なに! ならば、何故我々の邪魔を……」 「貴様ら、手ぬる過ぎる!」 沢井の言葉を、影継の怒気がさえぎった。 「チョコレートへの憎悪なぞ生ぬるい。爆破するならリア充そのものを爆破しろ! でなければチョコ抜きでサカっている連中を爆破出来ないだろうが!」 「ちょっと待て。いや、気持ちはわからんでもないがな」 冥真は思わず呆れた声を出していた。 「そういう問題ではなかろう」 アルトリアも影継をいさめる。 「どちらにせよ爆発するとチョコも巻き込まれる。食べ物を粗末にするのはよくない」 「それも違うだろ……なんで俺が突っ込み役やってるんだよ」 息の代わりに毒を吐く、それが冥真だ。ただ、毒以外を吐くことが多い気がするのは気のせいだろうか。 考えている間に沢井が守りを固め始める。 アルトリアが闇を纏うと、影継が爆発的な気を放った。 冥真も体内のマナを活性化させる。 「チョコレートに罪はないんだよ、むしろ爆破されたら買えなくなるだろうが自重しろ!」 その言葉に、沢井がアームガトリングを向けてくる。 「お前が暗い感情で時間を無駄にしてる間、努力してる奴だって居るんだよ。バレンタインくらい打ち勝ってみせろ、この弱虫が!」 全身の膂力を爆発させた重い一撃が冥真に叩き込まれる。 ……目から汗が流れるのは、その痛みのせいだろう。たぶん。 アルトリアはレイピアの先に黒いオーラを収束させる。 それは沢井の頑強な体に命中し、その力を弱めた。 今度はアルトリアへと沢井の武器が叩きつけられる。強力なフィクサードの力が、纏った闇の上から激しく細身の体を打った。 ただ、オーラが弱めたその一撃に、致命的なほどの威力はない。 冥真の経典が微風を送って回復してくれた。 影継はチェーンソー剣を構えて突進する。 「チョコでなくリア充を爆発させる、その程度の事も思えぬならば貴様らの憎悪などそんなものだ!」 裂帛の気合と共に爆発させた闘気が、沢井の生命の力を無力化した。 アルトリアは癒しきれなかった傷を呪いに変えて沢井に刻み込む。 冥真は攻撃役の2人を回復し、支援していた。 いかに頑強なクロスイージスといえども、回復なしではいつかは限界が訪れる。 魔法の矢が頑丈な体を貫く。 次いで、呪いのこもった剣が沢井を切り裂いた。 「まだだ! 俺は……俺はバレンタインに復讐を……!」 必死に立った男がアルトリアにアームガトリングを叩きつけ、打ち倒す。 「悪あがきはやめて、そのスイッチを俺に渡せ。さらなる惨劇の闇を貴様らにも見せてやるぜ!」 そこに影継が放つ必殺の一撃が直撃した。 闘気が爆発し、沢井の筋肉が弾ける。 「なんて憎しみだ……俺の……俺たちの嫉妬など……」 影継の想いを身に受けた男に、もはや立ち上がる力は残っていなかった。 ●新たなる脅威 リベリスタたちは、沢井と仲間が戦っているはずのビルへと急いでいた。 敵はすでに倒した……そのはずだった。 なのに、何故かビルからはまだ戦いの続いている音が聞こえてくる。 駆けつけた者たちは驚くべき光景を見た。 「HA・NA・SE! 俺はこれでリア充どもを爆破してやるんだ!」 影継を冥真とアルトリアが押さえ込んでいる。 「……なにをしているんでしょうか」 ユーキが誰にともなく聞いた。 「斜堂ちゃんがアーティファクトを持ち逃げしようとしてるみたいだね~。俺様ちゃんには理解できないけどね。もっと博愛の精神でもって殺さなきゃ」 葬識は影継を止めるのには加わらなかった。とりあえず青いボタンはもう押されているようだったし、仲間を殺すのは面倒が多そうだからだ。 「待ちなさい! たとえ仲間であろうとバレンタインの守護者として見過ごすわけにはいきません!」 ゑる夢も参戦し、影継の手からボタンを奪い取ろうとする。 綺沙羅は自分たちの班が回収したアーティファクトを眺めていた。 大ダメージを負った彼女は騒動に加われる状態ではない。怪我していなければ加わったかどうかはともかく。 「この爆発スイッチ…武器開発に技術転用できそう……。神秘特化型の片手射撃武器って確か無かった気がするし、智親に言ってみよう」 少女の興味はもう別のところに移っていた。 ハイディはクールに影継たちを眺める。 「……ふむ」 思案顔をした後、彼女は屋上の扉へと向かった。 「せっかく都市付近での仕事なんだ。仕事が終わったら自分で楽しむ為のチョコレートを買いに行くか」 緑茶に合うチョコレートはあるだろうか。 ハイディは縁側に座ってつまむチョコレートを想像する。 「離せぇーっ!」 背後からは最後まで、影継の叫びが聞こえていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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