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<裏野部>ハンティング! ~狩られるのはリベリスタ!

●狩られるのはリベリスタ
 夜の闇の中、わたしは必死で奴らから逃げる。だが、逃げても逃げても奴らは追ってくる。
 さすがに多勢に無勢という奴か。現実は漫画の様に、上手くは行かないらしい。
「あっ」
 思わず、失意の声が出る。行き止まりだ、これはマズい。
「鬼ごっこは終わりかな? キャハハ」
 わたしは剣を抜いて、戦おうとするが、その途端にわたしの手の方が切られていた。たまらずに握った剣が落ちてしまう。
「抜きな、どっちが速いか勝負だ……って奴にはなりそうもないねー。残念残念」
「そ、そんな……」
 動き出したのはわたしの方が速かったはず。だが、目の前にいるセーラー服の娘は、あり得ないスピードでわたしに先んじたのだ。正直、何をされたのかすら理解できない。わたしと年は変わらないか、年下なのだろう。だが、実力は圧倒的に上なのが分かる。
 そして、武器を奪われたわたしの前に次々と彼女の仲間達がやって来た。
「な、なんで……?」
「あんたさー、やり過ぎたんだよね。正義の味方ごっこは好きにやってもらって構わないんだけど。うちらの縄張りに手出ししたらこうなるって……」
「違う!」
 わたしは質問の意図を勘違いしている彼女に、思わず大声で怒鳴る。
「なんで、あなた達はそれ程の力を持っているのに、こんなことをするの? この力は、人を護るためにあるんじゃないの?」
 この力は人を護るためにあるのだと信じていた。
 だから、今まで戦うことが出来た。
 それなのに、この人達はその力をこのようなことに使う。それだけは許せない。
 わたしの言葉に、何か考え込む彼女。さっき使ったのはあれなのだろうか? ナイフを抜き放つと、何かを思いついたように笑顔をする。
「楽しいから」

●とある夜の狩り
 2月。暦の上では春ということだが、まだまだ寒い。そんな中、ブリーフィングルームの暖房は、まさに天国とも言える。そして、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は、そんな天国に集まったリベリスタを見渡すと、メンバーが揃っていることを確認する。
「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか」
 守生が手元の端末を操作すると、スクリーンには地図が表示される。
「あんたらにお願いしたいのは、アークに所属していない、フリーのリベリスタの保護だ。ちょっとヤバいことになっている」
 言葉と共にスクリーンに映るのは、腰位までの髪をポニーテールに纏めた銀髪の少女。年の頃は10代半ば、高校生といったところだろうか? 所々についている機械じみたパーツから、彼女がメタルフレームであることを察することが出来る。
「彼女の名前は、聖・ゆりあ(ひじり・-)。メタルフレームのデュランダルって奴だ」
 守生が語るには、ゆりあは目覚めた力で現れるエリューションと戦っていたのだという。そして、その中で偶然街の暗部に巣食っていたフィクサードと戦い、それを倒した。
「そのフィクサードが、単独犯だったらまぁ、めでたい話だ。ところが、そいつのバックには裏野部派のフィクサードがついていて、資金調達の役割をさせていた」
 裏野部の名前を聞いて、リベリスタ達に緊張が走る。
 裏野部と言えば、ルールの無い無法者、外道の集団と言われている。必要とあればどんな悪事にも手を染め、必要が無くとも悪事に手を染めるフィクサード。損得や善悪は天秤にならず、言葉は通じても会話にならない人種である。
「そんな連中に戦う口実を与えるなんざ、血を流してアマゾン川で泳ぐようなもんだ。しかも、困ったことに、倒されたフィクサードは裏野部派幹部のお気に入りだったらしい。ゆりあは、その、なんだ。死ぬよりひどい目って奴に合わされる」
 一旦、目をそらす守生。だが、また顔を上げる。
「ともあれ、彼女は廃棄された工場を根城にしている。それを連れ出して、林を抜けた先にある道路まで連れてきて欲しい。そこにアークで用意した、逃亡用の車がある」
 それ以外のルートは無いのか、と質問をするリベリスタ。もし、動きを読まれたら困るのでごもっともな話だ。だが、守生はそれに首を振って答える。
「これが一番安全だ、周りにとってな。他のルートも検討したが、相手のリーダー格はこういう時に、喜び勇んで周囲を巻き込むタイプらしい」
 そう言って、守生がスクリーンに表示するのは24人の男達。いずれも、一癖も二癖もありそうな顔をしている。その後でリーダーとして紹介されたのは、意外にもセーラー服に身を包んだ中学生位の少女だった。茶髪を肩まで伸ばし、無造作に跳ねさせている。
「こいつがリーダーの牙塔・菖蒲(がとう・あやめ)。ビーストハーフのソードミラージュで、中々の腕利きで、残虐な性格をしている。十分に注意してくれ」
 実力的には菖蒲が抜きん出て高い他は、リベリスタ達と同格といった所のようだ。真正面からただただぶつかるには、危険な相手と言える。
「正直な話、正面から戦って勝利するのは難しいし、戦いの中でゆりあがやられる危険もあるだろう。もっと戦力が割ければ良いんだろうが、そういうわけにも行かない」
 だから、今回の主目的はフィクサードの撃退でなく、リベリスタの救出なのだ。
「一旦、アークで保護しちまえばこっちのもんだ。向こうが追撃する準備は間に合わないようだからな」
 他にも片付けなくてはいけないような問題もあるが、それはアークの方で準備がある。まずは、ゆりあの救出だけに集中して欲しい、ということだ。
「それと、ゆりあだが……正義感の強い女の子みたいだ。アークのことも知らないみたいだし、ただついて来い、といっても言うことは聞かないと思う。そこにも気を留めておいた方が良いだろう」
 ゆりあにしても、いきなり逃げるんだと言われても納得できないだろう。そこでもたついている間に、フィクサードがやって来たら……正直太刀打ち出来ないだろう。
「説明はこんな所だ。資料も纏めてあるので目を通しておいてくれ」
 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。
「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月21日(火)22:03
皆さん、こんばんは。
森の中で狩りの時間、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は裏野部派フィクサードと戦っていただきます。

●目的
 フリーのリベリスタ、聖ゆりあの救出
 アークが用意した車まで、全員逃げ切れば、達成されます

●戦場
 戦場は状況に応じて、下記のいずれかになります。
 また、リベリスタ達が到着するのは、準備の都合上、フィクサードが到着する前の夜になります。
 遠くまで逃げていれば、敵も広がっているので、戦闘するにしても相手する数は減るでしょう。
 林の中を逃亡する際には、一部の一般スキル(非戦)が役に立ちます(有効な作戦が取られた場合、戦わずに逃げおおせることが出来る可能性もあります)。
 ・廃工場
  ゆりあがリベリスタ活動の拠点にしている廃工場です。
  中は広く、明かりや足場に不自由はありません。
 ・林の中
  廃工場から車のある場所まで逃げると中に広がる林です。
  それなりに広いですが、夜なので暗く、足場も良くありません。
 ・道路
  アークの車が待っています。
  開けた場所で、明かりや足場に不自由はありません。

●リベリスタ
 ・聖ゆりあ
  メタルフレームのデュランダルで、フリーのリベリスタです。
  年齢は16歳で、目覚めた力に悩みながらも、エリューションの存在に気付き、戦っていました。そして、先日裏野部に属するフィクサードを倒してしまい、狙われています。
  実力はアークの標準的なリベリスタと比べると、2~3歩後れを取ります。
  世界に起こっていることに関して知識はありませんが、正義感が強い女の子です。
  ただ逃げろと言っても、納得はしないかも知れません。

●フィクサード
  聖ゆりあを探そうと動きます。もし、廃工場でゆりあを見つけられなかった場合、ある程度散開して探そうとするでしょう。
 ・牙塔菖蒲
  裏野部派に属するビーストハーフ(狼)のソードミラージュです。
  近くの街を資金源にしていた幹部の命令で、ゆりあを殺すため派遣されました。
  とりあえず、「速い」です。
  ソードミラージュの中級スキルまでを使用します。
  アークのリベリスタと比べて、実力は若干勝ります。

 ・デュランダル
  裏野部派に属するデュランダルで、ジーニアスとヴァンパイアが4人ずついます。
  オーララッシュと疾風居合い斬りを得意とします。
  アークのリベリスタと大体同じ位の力量を持ちます。

 ・クリミナルスタア
  裏野部派に属するジーニアスのクリミナルスタアで、6人います。
  無頼の拳を得意とします。
  アークのリベリスタと大体同じ位の力量を持ちます。

 ・ホーリーメイガス
  裏野部派に属するジーニアスのホーリーメイガスで、4人います。
  浄化の鎧とマジックアローを得意とします。
  アークのリベリスタと大体同じ位の力量を持ちます。

 ・スターサジタリー
  裏野部派に属するビーストハーフのスターサジタリーで、6人います。
  ピアッシングシュートを得意とします。
  アークのリベリスタと大体同じ位の力量を持ちます。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
ハイディ・アレンス(BNE000603)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
デュランダル
兎登 都斗(BNE001673)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)
■サポート参加者 2人■
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
ホーリーメイガス
ブランシュ・ネージュ(BNE003399)


 聖ゆりあは悩んでいた。
 このチカラに目覚めてから、自分は1人で戦ってきた。
 出会うのは化け物ばかりで、初めて出会った同じチカラを操る男も、我欲のままに拳を振るうものだ。だから、このチカラが何なのか分からなくなっていた。そんな時、彼らはやって来た。
「これがアークという組織です。そして、先日貴方が倒した同じ力を持つ者、その仲間が命を狙って来ています」
「いきなり、そんなこと言われても……」
 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は、ゆりあにアークと自分達が来た理由について、簡単な説明を行う。彼女を急かし過ぎないように、ゆっくりと、丁寧に。時間が無いのも事実だが、いきなり言われて納得出来るものでもないだろう。
「自分達は貴方を助けたいんです」
 真摯な想いを伝える亘。それに『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)が続く。
「お願い、一緒に来て欲しいの。時間が無いの。もうすぐ、敵が来るの。楽しんで人を殺す様な敵がきてしまうわ」
 ルアはゆりあの手を取って、心を込めて訴える。その瞳には涙が浮かんでいた。
 初対面の相手を無条件に信じることが出来るのか、というとそんなことは無いだろう。それこそ、命を狙いに来た相手かも知れないのだ。だから、心を込める。心までは、誠意までは、虚偽で作ることは出来ない。
 ゆりあも心動かされるものがあったのだろう。だが、まだ一歩信じる勇気が持てない。何か信じるに足る理由が必要なのだ。そんな彼女の心中を察したのか、今まで寝ぼけたような目でぼうっと窓の外を見ていた『偽りの天使』兎登・都斗(BNE001673)が声を掛ける。
「正義の組織が正義の味方を保護しに来た。胡散臭いかもしれないけど筋は通ってるでしょ」
「そ……それはそうかもしれないけど……」
 理屈は通っている。胡散臭いのも事実だが、これを嘘だとする根拠など何処にも無い。
「ここまで1人でやって来たなんてスゴイ! 勇気がなくちゃできないよ。でも、勝ち目のない相手から、生きのびるために逃げることも、勇気のいるコトだよ」
 その時、『ビタースイート ビースト』五十嵐・真独楽(BNE000967)がずずいと前に出てくる。それに続けて、『白の祝福』ブランシュ・ネージュ(BNE003399)が口を挟む。
「はい、闇雲に戦うだけでは何れ命を落とします。時には逃げる事も、勇気なのです」
「まこはゆりあの勇気を信じるよ。だから、ゆりあもみんなを信じて。お願い!」
 これは1人で戦っていたゆりあには無かった概念。たった1人で、何処に逃げればいいのかも分からなかった。だから、逃げることすら怖かった。それを、リベリスタ達は赦した。
「ありがとう……分かったわ。でも、あなた達も同じチカラを持っているんでしょ? だったら、ここで迎え撃つとかはダメなの? たしかに怖いけど、これだけいれば……」
「敵はボクらより上も普通にいて数は倍以上、意地を通すにも力がいる業界なんだよー。参考までに、試してみよっか。本気でいいよー」
 『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)は信じられないほど邪悪な見た目のハルバードを構えると、手招きをするような仕草をする。それを見て、ゆりあも察すると剣を取る。
「本当に良いの?」
 ゆりあの問いに、岬は笑顔で答えた。


 一方、外で残りのリベリスタ達は見張りをしていた。タイミング的に余裕はあるはずだが、時間が掛かったら敵がやって来る。その際のリスクを減らすためだ。
「相手が相手だけに気をつけないといけませんね……。そちらはどうです?」
 相手は主流7派の中でも、最も過激な組織、裏野部である。それがこれ程の人員を割いているのだ。ただ警戒しているだけでは、まだ不安が残る。闇に向かって目を凝らしていた『宵闇に紛れる狩人』仁科・孝平(BNE000933)は、空に向かって声を掛けた。
「無事にエスコートできるようにできる限りの準備をしておかないとな。こっちは大丈夫だ」
 上空から男っぽい口調で返事したのは、ハイディ・アレンス(BNE000603)。2人のフライエンジェは、目立たないように低空飛行しつつ、様子を伺っていた。高台からの見張りは古来よりの基本である。それをいとも簡単に実現してしまう辺り、神秘の神秘たる所以と言えよう。
 そんな時、ハイディとは逆方向を監視していた『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)が合図を送る。
「来た。車から降りてこっちに向かってる。懐中電灯も幾つかあるから……全員暗視持ちって訳じゃなさそう。でも、早くしないと」
「そうですね。ですが、まだ中の説得が終わっていない以上、下手に刺激するのも難しいです」
 強硬手段には訴えたくない。だから、ギリギリまで粘る覚悟を決める。
 その時だった。工場の中で人の気配が動く。
 孝平が目を向けると、そこから説得に赴いた仲間達が姿を現わす。
 当然、ゆりあも一緒だ。
 何故か、岬は鼻の頭に絆創膏を張っている。
 安堵の表情を浮かべて駆け寄ろうとする見張りのメンバーに、都斗は曖昧な笑みを浮かべて返す。
「安心するのはまだ早いよ。誰一人欠けることなく目的地に到着すれば勝ち。楽しい楽しい鬼ごっこの始まりだ」


「ここにいるって話じゃなかったっけ? ターゲットは」
 古びた工場の中、セーラー服の少女は機嫌悪そうに、横にいる男に質問する。口調は柔らかだが、その内側で今にも牙が飛び出しそうな雰囲気である。
「は、はい……。こちらには、先程数人入った形跡があります。おそらくは他のリベリスタの介入……それも、我らの先手を打ちそうな組織と言うと、アークでは無いかと……」
 部下の男が怖々と報告を行う。それはアーク以上に、目の前の少女を恐れているようにも見える。自分よりも年上の男達を、力で抑え付けている少女だ。暴れられでもしたら、手に負える相手では無い。
 幸いにして、男の心配は杞憂に終わった。
 少女の表情には獰猛な肉食獣の笑顔が浮かんでいた。
 獲物を見つけた狩猟者の表情だ。
「なるほど、『神の目』アークか。面白いじゃない。うん、あの女を炙り出すために、近くの町燃やそうかなーとか思ってたけど、それよか面白そうじゃん! まだ匂いも残っているだろうしね」
 声を弾ませると、ナイフを片手に工場の外へ飛び出していく。それを聞いて男は心の中でほっと胸を撫で下ろす。あの町には、まだ利用価値はあるのだ。
「キャハハハ、これから狩りを始めるよ! 相手はあの『伝説』を打ち破ったアーク様だ!!」


 夜の林の中を突き進むリベリスタ達。
 追っ手に見つからないよう、既に懐中電灯は切ってある。だから、彼らを照らすのは月明かりだけだ。
 頼るのは暗視能力を持つリベリスタの瞳のみ。周囲から伝わる気配と、アクセス・ファンタズムでの合図だけが互いの存在を確認する術である。
 一行の先頭を進む岬は、ふと思う。アークと出会えていなかったら、あるいは自分もゆりあのように孤独な戦いを行っていたのかも知れない。そして、自分や彼女のように運良く救われるリベリスタだけではないだろう。孤独な戦いの果てに死ぬものも少なくないはずだ。
 でも、と岬はその考えを打ち消す。
(そんなことはいっか。今は11人で帰るだけだよ)
『方角が少しずれている。もう少し、右に進んでくれ』
 さらに、アクセス・ファンタズムからも通信が入って、岬も意識を目の前に戻す。
 上空では林の木々が伸びたギリギリの位置を、フライエンジェの2人が飛び、ナビゲートを務めている。ハイディは撤退戦という、危険なシチュエーションであるだけに、やる気に満ちている。
 同様に空を飛ぶ都斗も、調子が出てきたように見える。むしろ、嬉しそうに見える。
(さて。どう逃げようか。ボクならどう追うか)
 自らの気配を隠し、周辺の気配を探りながら、相手の動きを推測する。
 どうやら、向こうは3つのチームに分かれたようだ。もちろん、合流するための手段も用意するだろうが、一旦別れてしまえば、それなりに広い林だ。簡単に合流は出来ないだろう。これで、さらに細かく分かれてくれればめっけもんだ。
「はは、本当に凄い組織なんだね。なんかもう……言葉も出ないな」
 リベリスタ達の連携に、ゆりあはただただ舌を巻くばかりだ。そんな彼女の手を引いていたとらは、人差し指を自分の口に当てると、小声で嗜める。
「必要の無い血は流さなくていいの。後ちょっとの辛抱だから」
 言われたゆりあは状況を思い出すと、顔を真っ赤にして首を縦に振る。
 そんなゆりあに、最後尾から真独楽が笑いかける。
「この力は誰かが傷つくのを止めるためにあるんだもん。楽しいから人を傷つけるようなヤツの好きにはさせないよ」
 自分よりも年下の真独楽に言われて、少し申し訳無い気分になる。しかし、こういう言葉を掛けてくれる「仲間」の存在は、孤独な戦いの中で求めていたものだ。だから、とても嬉しかった。
「命をかけた鬼ごっこ。無事に逃げおおせられるかは僕たち次第。それでも、それも何とかしてみせてこそのリベリスタです」
 孝平が笑いかける。確実に逃げ切れるなどとは、誰にも言えない。だから、全力を尽くす。だが、ゆりあを安心させるために笑った。それを察して、ゆりあも微笑を返す。
 そんな時、上空の都斗が敵の気配が変わったことに気付く。通信を受けたリベリスタ達は警戒を強めて先を急ぐ。
「何らかのスキルで、自分達の場所に確証を得たのでしょう。全員で向かってこないのは、慢心か、連携不足か……増援を警戒しているか、でしょう」
 前の2つなら問題無い。依頼達成の確率が上がるだけだ。
 だが、もしも警戒のためであったら……全く油断出来ない事態だ。用意した戦力は相手より少ない。既にゴールの道路まで出たというのに、全く安心出来ない。
 だから、ルアは改めて誓う。戦いの力とするために。
「ゆりあちゃんは絶対助けるの!」
「へぇ、出来ると思ってるの?」
 道路を走るリベリスタ達の側面から、林をぬってフィクサードが現れる。
 狩人が、姿を見せたのだ。


「あたしが嫌いなものは3つ。金持ちと、キレイごと言う奴と、納豆」
 裏野部のフィクサード、牙塔菖蒲はリベリスタ達にナイフを向けると、牙を見せて笑う。
「その2つが揃っているなら、殺しても問題無いよね?」
 言葉と同時に菖蒲は大きく跳躍すると、目に付いた銀髪の少女に素早く切りかかる。
 カキィン
「残念。外れだよ」
「すり替えたの? やるじゃん」
 菖蒲のナイフを受け止めたのは、『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)の刀。ゆりあと容姿が似ているのを利用して、すり替えておいたのだ。格下と舐めてかかった菖蒲の一撃は安々と受け流される。これは明白な隙だ。加えて、菖蒲が引き連れているのは6人のフィクサード。移動の利便性を考えて、ある程度人数を絞ってきたのだろう。であれば、十二分に勝ち目がある。
 体勢を立て直し、再び攻撃に転じようとする菖蒲。しかし、その前に亘とルアが立ち塞がる。
「初めまして牙塔さん。天風亘と申します。さて……申し訳ないですがこれ以上進ませる訳にはいかないのですよ」
「はい、そうですか……なんて、従うとか!」
 2人を一足飛びに超えて、ゆりあを殺そうとする菖蒲。だが、亘もルアもその速度に追いついている。
 こうして、超高速の戦いが始まった。

 ここでリベリスタ達は血気に逸って、敵を殲滅するようなことはしなかった。後衛に控えていた神経質そうな男が、通信機を操作しているのを察したからだ。だから、相手の足止めをしながら、少しずつ後退を行った。
 戦いの中で相手にもフィクサードの側にも焦りが見えてくる。少なくとも彼らは遠距離の追跡を行うつもりで来ていないのだ。少なくとも、リベリスタ達が逃亡の準備を済ませている位は察しているだろう。そこでより苛烈な攻撃を行うのが、裏野部という集団だ。
 なればこそ、この状況を切り開くために、孝平の剣が一閃する。
「これで終わりです」
「く……増援さえ来れば……」
 孝平が剣を鞘に納めると同時に、ホーリーメイガスのフィクサードが倒れる。先程、通信機を動かしていた男だ。それを見届けると、身を翻して、素早く敵との距離を取る。上空から仲間が降りてきたのを察知したからだ。
「窮鼠猫を噛む。ボクがまとめて狩ってあげる」
 都斗は急降下しながら、身の丈に合わない巨大なデスサイズを回転させる。それは激しい烈風を巻き起こし、前衛で殴り合っていたフィクサードの後背を突く形になった。
「こ、このガキ!!」
 だが、相手も歴戦のフィクサードである。この程度でやられていては、過激派などと名乗ることは出来ない。後ろで銃を構えていたネズミ頭の男が放つ魔力を帯びた弾丸が都斗を貫くと、たまらずに膝をついてしまう。
 仲間が倒れたのを見た岬はネズミ頭を見据えると、アンタレスを寝せるように構える。
 大火の名を冠する黒いハルバードに付いた眼がギョロッと見開かれたように見えた。
「アンタレス! ぶっ潰すよー!」
 岬は声を上げると同時に、超重量であることからは考えられないスピードで、アンタレスを振り抜いた。そのスピードは強大な真空波を生み出して、ネズミ頭を切り伏せる。
「舐めんな!」
「やらせない!」
 続けて剣から真空の刃を放ち、フィクサードを牽制するゆりあ。しかし、仲間がやられたのを見たフィクサードは、血を流しながら拳を振るおうとする。
 そして、その拳がゆりあに届こうとした時、ふと動きが止まる。良く見ると、男の周りには呪印が取り巻いていた。
「ボク達の目的は戦うことじゃないんだ。もっとも、もう遅いみたいだけどね」
「何!?」
 フィクサードの動きを縛っていた呪印が解けた時には、既に手遅れだった。
「楽しいから人を傷つける? 信じらんない! 絶対にみんなで生きて帰るんだもん!」
 真独楽の爪が男に向かって振り下ろされる。
 1回
 2回
 3回
 最早数えられない。
 怒りを込めた斬撃は、目にも止まらぬ速さで男を切り刻んでいった。

 一方、並んだ街灯の上では、あり得ない速度での戦闘が繰り広げられていた。
 刃を交えているのは、2人のリベリスタと1人のフィクサード。
 既に常人の視覚では、何かが動いていることしか感じられないだろう。
「まさか、あたしについて来られる奴がいるなんてね……」
「楽しんで人を殺すフィクサードなんかに負けない!」
 ルアの持つ花風の刃が閃くと、菖蒲のセーラー服の袖が切れる。
 実力は菖蒲の方が上だ。それは否定出来ない。
 だが、圧倒的な速度からの必勝パターンが通じず、2対1の戦い。菖蒲は先程までの余裕を保てなくなっていた。
 そこに、天使のような歌声が響き渡る。すると、みるみる亘とルアの傷が消えていってしまう。
 その様子を見て一層苛立つ菖蒲。
「ったく! あの機械女さえ殺せりゃ、こんな連中!」
「フフ、随分ご執心ね」
 菖蒲にとらが笑いかける。先程までと比べると、妙に大人っぽい。余裕をみせる彼女を菖蒲は不機嫌そうに睨む。だが、とらはそれに怯まず言葉を紡ぐ。
「弱いもの虐めがそんなに楽しい? あなたがゆりあちゃんに固執するのは自分にはないものを持ってる彼女が妬ましいからよ」
 とらの言葉が発された瞬間、菖蒲の表情が変わる。
「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
 先程までの「不機嫌」ではない。「怒り」だ。
 獲物をいたぶる猫型の肉食獣から、全力で獲物を狩る犬型の肉食獣に変貌した。あるいは、縄張りを侵された獣とも言えようか。
 怒りが神経を伝わり、菖蒲が動き出す。
 しかし、コンマの差でその超高速の戦闘を制するものがいた。
 極限まで己の速度を高めた亘だ。
 亘が刹那の差で菖蒲を切り裂く。
「感情に正直過ぎる。ですが、その隙は利用させてもらいます!」
 澱み無く襲い掛かる亘のナイフは、着実にその身体を削り、動きを封じていく。
 そして、その時、亘は仲間に声を上げる。
「今です!」


 アークが用意した専用の車両の中、リベリスタ達は狭い空間に汲々と怪我の手当てを行っていた。
 相手が分散してくれたからこの程度で済んだが、それなりに負傷者はいる。
 だが、無事にゆりあを救うことが出来た。それだけで、リベリスタ達は満足している。
 その一方で、傷の浅いゆりあは申し訳無さそうだ。
「ごめんなさい……わたしのせいで迷惑をかけてしまって……」
「こっちこそ、ごめんね。本当はゆりあちゃんもあいつらから逃げたくなかったと思うの」
 意に沿わぬ選択をさせてしまったことを謝るルア。
 すると、逆にゆりあが慌ててしまう。
 そんな姿を見て、思わず笑ってしまうリベリスタ達。
「まぁ、ここまでは面倒見るけど、ここから先は好きにすると良い」
 おたおたしているゆりあに、都斗が声を掛ける。
「アークの正義だって一枚岩じゃないんだ。自分が好きな道を選べばいいさ」
 都斗の言葉にきょとんとするゆりあ。都斗は傷つきながら、いつものような曖昧な笑みを浮かべている。

 正義も悪も、詰まる所はその場によって決まるものと人は言う。
 だが、道に迷い、狼に食い殺されそうな少女を救うことを正義と思うものは少なくないだろう。
 リベリスタ達は、無事を確認すると、三々五々その身を休めに入る。
 その時、狼の雄叫びを聞いたような気がした。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『<裏野部>ハンティング! ~狩られるのはリベリスタ!』にご参加いただきありがとうございました。
逃亡戦という危険な戦闘、如何だったでしょうか?

隠密行動に関しては、大変に見事なものでした。
もし、林の中で追いつかれていたら、かなりの苦戦を強いられていたでしょう。

それでは、今後もご縁がありましたら、よろしくお願いします。
お疲れ様でした!