●氷原狼と車輪屋 「賢者の石ねぇ。本当にその情報は正しいんですかねぃ?」 「はい。アークから『恐山』に渡った賢者の石が、あのトラックの中に運ばれてるみたいです」 「『みたいです』って言うのがネックなんだよねぇ。何割ぐらいの確率?」 「2割」 「つまり、五つルートがあって四つはダミーって事でしょう。あー、やだやだ。偽物かもしれないモノの為に命張る価値があるの? 賢者の石って」 「少なくとも、あなたの姉上は価値があると思って奪取したはずです」 「あのずぼらでいい加減なねーさんがねぇ。まぁ、賢者の石の価値自体はどうでもいいさ。 目的の物を奪う。お金をもらう。これだけだ」 「私たちは仕事をこなすだけです。トラックを襲い、目的の物を奪う。それを私が回収する」 「気楽に言いますねぇ。実際に襲撃するのは俺なんですよ」 「オフェンスがあなた。バックアップが私。 護衛の車をトラックから離すのも楽ではないことを主張しておきます」 「へいへーい。バックアップはよろしく頼みますぜぃ。『車輪屋(ラウンドバイヤー)』」 「了解しました。『氷原狼(ツンドラウルフ)』」 「……しかしこのコードネームはどうにかなりませんかねぃ? 本名をすこし文字っただけな上に、そこから闘い方が推測されるのはいただけませんぜぃ」 「シンプルイズベスト。ハッタリも重要です」 「はいはい」 適当に返事を返し、男は歩き出す。 切り立った崖の上。柵もなく10センチ先には足場はない。そこに男は躊躇なく歩を進めた。飛行の加護を受けていない男の体は、重力に従い落ちていった。 『恐山』への施設へ向かうトラック。操縦するのは『恐山』のフィクサードたち。彼らは賢者の石を輸送する為に選別されたチームである。 ズドン、という突然の音に彼らは警戒のレベルを上げる。トラックの上に誰かが飛び降りたのだと直感が告げていた。積荷は賢者の石――といわれている。ダミーかもしれないが、奪われれば彼らの沽券に関わる。 選択肢は二つ。トラックを止めて襲撃者と戦うか。トラックを止めずに振るおろすか。 彼らは後者を選んだ。アクセルを踏んで加速し、蛇行運転をしてトラックの上の存在を振り下ろしにかかる。 「無駄無駄。こんな襲撃するんだから、そういうことされる対策ぐらいは取ってますぜぃ」 トラックの上の男は自らの足をコンテナの屋根と一緒に凍らせて、簡単に落とされないようにしている。 「そんじゃ、いただきますか」 男は氷で作ったEゴーレムに命令し、コンテナの天井を攻撃させる。常人ではありえない打撃に、コンテナが少しずつ歪み始める。 「ありゃ? さすがに頑丈か。しかしどうにかなりそうか……おっと」 トラックを運転したまま、助手席のフィクサードが体を乗り出し銃を撃ってくる。その不意打ちを避けて、男は氷の矢を作り出し、打ち出した。その衝撃でフィクサードは車から落とされ、アスファルトを転がっていく。 「これで邪魔者はいなくなった、かねぃ?」 ●駆ける黒猫とリベリスタ 「お前たち、アクション映画とか好きか?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタたちに向かって言う。 「昔はスタントマンが命を張っていたが、今はCG技術の向上で派手なシーンも見れるようになったからな。派手なシーンが多くて見ごたえがあるぞ」 「まぁ、映像技術の発展をするために俺たちを呼んだのか?」 「まさか。アクション映画さながらの戦いだ。カーチョイスバトル。疾走するトラックの上での戦いだ。 まぁ、背景は少しきな臭いというかあまり係わり合いにならないほうがいいことだが」 「……なんだよ、それ?」 「『恐山』との協定は知っているよな? ざっくり言えば、裏の情報を渡す代わりに賢者の石をいくつか頂く、と言う内容だ。それ自体は既に行使され、バランスのいい男が報酬の賢者の石をもっていった。 この問題はそのあとの話だ。その賢者の石が『恐山』の実験施設に輸送されるときに襲撃された」 「襲撃? 情報がばれていたのか?」 「むしろ意図してばらしたのでは、と俺は睨むね。ミスリーディングとディスインフォメーション。あのバランス男がメガネの奥で考えていそうと思わないか? 本物と一緒にダミーを輸送したみたいで、『恐山の賢者の石を運ぶフィクサードが襲撃される』事件がなんと五件も予知された」 「でもそれは、フィクサード同士の事件なんだろう? リベリスタが関わることじゃないとおもうんだが」 「ま、そこはもうすぐ休戦期間が終わるとはいえ、『恐山』は情報を与えてくれたんだ。助けてやるのもいいんじゃねぇえか?」 声は別のところから聞こえた。イスに座って話を聞いていた『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)だ。 「賢者の石奪還を塞いで『恐山』に恩を売るもよし。第三者に奪われたところを奪い返してアークのものにしてもよし。その辺は良心だろう。俺としてはどうでもいい。 むしろ『恐山』に喧嘩を売ってまで賢者の石を奪おうとした者は誰なんだ、って方が問題だと思うぜ。七派に喧嘩売るなんて根性あって楽しい喧嘩ができそうじゃないか。誰なんだ?」 伸暁は徹の言葉に肩をすくめ、詳細は予知できなかったことを示した。 「賢者の石を積んだトラックは道路をかなりの速度で走っている。アークもそれと同じ型のトラックを用意して、並走させる。 お前たちはその上で待機だ。結構揺れるから気をつけろよ」 リベリスタの顔はメンドクサそうなものと、滅多にない戦場に心踊るものの二者に分かれた。 「……で、そのトラックは誰が運転するんだ?」 伸暁の指が徹を指した。指差された徹は、仕方ねぇな、とばかりに苦笑する。彼はトラックの上で戦いたかったのだろう。まぁ、これも役割だ。 「謎の襲撃者は氷を使う。数体のEゴーレムを使役しながら、自身も氷の矢を放ったり拳に氷を宿らせて殴ってきたりと遠近共に対応してくる。クールなヤツだ。見習いたいもんだね。 謎の襲撃者は目的がかなわない、とわかれば撤退するだろう。それを無理に追う必要はない。賢者の石さえ奪わせなければいいのだからな」 伸暁は端末を操作し、リベリスタに敵と状況のデータを送信する。予想以上の厳しい戦場に、呻きをあげるものもいた。 「こっちもクールにいこうぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月22日(水)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「こ、これ超揺れてるじゃないですか絶対落ちますってうひゃあああ!?」 『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)がトラックの荷台の上に捕まって悲鳴を上げる。他のリベリスタも一秒間に16メートル動くトラックの上で、必死に足を踏ん張っていた。 「撮影以外でカーチェイスバトルする事になるとはね」 遠くに見える目標のトラックを目に収めながら、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)はバランスを整える。幻想纏いの通信をONにして、不測時の連絡に備える。撮影と違うことは、今回はシナリオなしということだ。 「トラックでのカーチェイスとぁ、ワクワクするね」 二本の槍を各々の手に持ちながら『獣の咆哮』 ジェラルド G ヴェラルディ(BNE003288)は口を笑みの形に変える。普段とは違う戦場に心躍っているようだ。振り落とされる前に振り落とすとするかね、と槍を握り締める。 「どこの組織の手の者か知らないけど楽しそうな舞台と相手じゃないか」 戦場はトラックの上。敵はオリジナルの氷の闘技使い。これから始まる戦いに心躍るのは数世代続く闘士の家系故か。『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は拳を握っては緩める。 「こうも堂々と石を奪いに来るのも驚きね」 長髪を風になびかせながら片桐 水奈(BNE003244)は相手のことを思う。賢者の石を奪う為に『恐山』のトラックを襲撃する。七派フィクサード組織の一つに喧嘩を売ればどうなるか。弱い組織ならつぶされるだろう。七派の一つであったとしたら戦争の引き金にもなる。 「アークが援護を行う可能性も……いや、アークが援護したという事実を引き出したかったのだとしたら……考えすぎかしらね」 推理をするには手がかりが少なすぎる。水奈は肩をすくめた。 「賢者の石は、どうでもいいの。それはアークと恐山の問題。この私には、関係ないし……興味もない事だもの」 『死肉食らいのハルピュイア』藤宮・セリア(BNE003482)は物憂げな表情で迫るトラックを見た。包帯から滲んだ赤い液体。痛くすること。痛くされること。それのみがセリアの目的だった。傷の痛みのみが彼女の興味。それが彼女の『生きる』ということ。 「九条、もう少しスピード出してよいぞ」 運転席にいる『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)に『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)がスピードアップを要求する。瑠琵自身はこの状況でもバランスをとることができるが、他のリベリスタは若干顔を青ざめた。要求に答えて加速するトラック。 「ふむ、出来れば代わってやりたいところじゃが、わらわがアクセル踏むと目の前ハンドルなのじゃよ。そんな訳で、九条よ。運転はお主に任せるのじゃ。 氷璃たっての願いも聞いてやりたいところじゃしのぅ」 言って瑠琵は隣にいるフライエンジェの少女を見る。運命論者の彼女はこれから出会うフィクサードとの運命に歓喜していた。 「多彩な氷の技を使うフィクサード、ね? ふふっ、貴方と巡り合えた運命に感謝するわ」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は『万華鏡』で見た『氷原狼』の使う技の一つを見て、くすりと微笑んだ。その力、いただくわ。心の中で賢者の石と同列の目標を掲げ、迫るフィクサードと目を合わせる。 「おやまぁ。お客さんとは」 『氷原狼』……そんな偽名のフィクサード。仮面を被り、迫るトラックの上のリベリスタたちを見た。手でEゴーレムを制し、戦闘準備に入らせる。 「変身!」 疾風がアクセスファンタズムから自らの装備をダウンロードする。他のリベリスタも各々の幻想纏いから破界器を呼び出し、装備する。 二台のトラックが併走する。二つの荷台が重なりあい、戦場が形成される。 時速60キロの舞台の上で、賢者の石を巡る戦いの火蓋が切って落とされた。 ● 「白昼堂々『共食い』とは、精が出るのぅ? 『三尋木』の」 口火を切ったのは瑠琵。『氷原狼』を見ながら、符術を行使する。瑠琵の影が三次元化し彼女の分身となって水奈を守る。 「アークの力は日進月歩。神の目も侮られたものじゃのぅ」 「げ。アークかよ! 侮るも何もリベリスタが介入してくること自体が想定外だぜぃ!」 フィクサードは瑠琵の一言で襲撃者の事情を察した。まだ休戦状態じゃなかったっけか、と呟く。『三尋木』という単語に関しては否定も肯定もしない。意図して避けているのか、それとも見当違いなのか。 「一体何者だ!?」 「謎のフィクサード……ってことで納得してくれませんかねぃ?」 疾風の問いかけに『氷原狼』は頭をかきながら答える。その言葉を聞きながら流れる水を思わせる型を取る疾風。カップに入れればカップの形に、ビンに入れればビンの形に。まさにどんな状況でも自在に対応できるが構え。 「謎ってなんですか謎って! 人に喧嘩を売る時はちゃんと名乗るのがマナーでしょう!」 ヘルマンが体内の気を爆発させながら問いかける。返ってきた答えはなんと言うか、ふざけるなと叫びたくなるものだった。 「いやほら。俺フィクサードだし。マナーとかあまり守りたくないのよ。後、謎ってかっこよくない?」 「知りませんよ!」 そう簡単に正体を明かす気がないらしい。ならば暴力で聞き出すまでだ。 「まずは揺れ対策ね」 影に庇われながら、水奈が神聖な言葉をつむぐ。リベリスタが重力の枷から解放され、宙に浮く。慣性も働いている為、いきなりトラックから置いていかれるということはなさそうだ。 「本当に何も知らないのかしら? とにかく撃退しないと」 「さぁ、その総てを私に見せて? 私のモノにして上げる!」 氷璃の周りに複数の魔方陣が展開される。魔方陣単体の増幅効果だけではなく、その角度、位置等が相乗され氷璃の魔力を底上げしていく。 「粗野な狼の技ですがねぃ。見物代は安くはありませんぜ」 「走るトラックの上……素敵な舞台ね。クールだわ」 セリアは『氷原狼』に視線を向けて、口元をゆがめる。セリアの体内にある暗黒の力を解き放ち、氷人形を撃った。オーラは氷人形に侵食し、その力を削いでいく。 「そいつはどうも。招待した覚えはありませんがねぃ。ダンスはまたの機会にお願いしますぜぃ、レディ」 「残念ね。最後まで付き合ってはくれないなんて」 心底残念そうにセリアは言う。『氷原狼』が戦いに付き合ってくれないということは、痛くしたりされたりするというセリアにとって楽しい時間が少なくなる。それが残念なのだ。 「全くだ。こういう状況じゃなければ存分に闘いたいものだよ」 クルトが重心を落とし、足を振り上げる。その動くで生まれた風の刃が氷のEゴーレムを穿った。『何よりも誰よりも、まず自分に正直であること』……クルトの信条である。賢者の石やフィクサード同士の共食いという状況ではあるが、楽しめるものは楽しみたい。 「……待て、この状況はまずい!?」 ジェラルドは槍を構えながら作戦のほころびに気付く。気付いたのはEゴーレムと『氷原狼』が動く構えを見せたときだ。氷のEゴーレムは前衛で待機している五人の元に殺到する。 リベリスタたちの作戦は、氷璃が石化の雨を降らせてその後一気呵成に攻めるというものだ。石化によるペナルティを付与すれば、殲滅は確かに容易かっただろう。 しかし、それは敵側が行動を行なう前にやらなければ意味はない。石化の雨は敵味方を区別せずに降り注ぐ。つまり混戦状態になれば味方にもペナルティを与えることになり、へたをすれば戦線崩壊の可能性もある。 「先に堕天落としを仕掛けるべきだった……!」 「自己強化をして相手を迎え撃てたと思えば問題ない。 さて既に定員オーバーだ、ご降車を願うぜ」 言ってジェラルドは槍の穂先にオーラを纏わせ、迫る氷人形に渾身の力を込めて突き出す。氷のエリューションはその一撃を受けて『恐山』側のトラック荷台の向こうまで吹き飛ぶが、 「この位置だと落としきれないか」 落ちる寸前、氷の足で面接着を行いギリギリのところで荷台に張り付いていた。荷台の真ん中あたりで吹き飛ばせれば効果も違ったのだろうが。 「そんじゃお前たちはそいつらを押さえといてねぃ」 『氷原狼』は荷台の上を滑るように移動する。その先は――瑠琵、氷璃、水奈のいる後衛。Eゴーレムが前衛をブロックしている為、『氷原狼』は邪魔されることなく後衛に肉薄できた。拳を開いて独特の構えを取り、共に三人に凍える一撃を繰り出す。 「しまった……!」 影に守られた水奈は無事だが、瑠琵と氷璃はその冷気で凍え、動きが鈍る。 想定していなかった状況にリベリスタたちは逡巡する。しかし彼らの目的は一つ。賢者の石を奪わせないこと。そのためには、 「氷人形を先に破壊しよう。一体倒せば俺が後衛に行く」 クルトの言葉でリベリスタの行動が決まる。目的は皆同じ。そのために傷を負うことに不服はない。皆、その覚悟があって戦いに挑んでいる。問題は、 「それまでこのお嬢さんたちが持ちますかねぃ」 『氷原狼』の言葉はリベリスタたちの不安を的確についていた。 ● トラックが揺れる。宙に浮くことができるリベリスタはその影響を受けないが、油断すれば慣性の関係で置いていかれそうになる。それさえ注意すれば、足元はどうにかなりそうだ。 しかし、別の問題が発生していた。 「無粋ね。私が見せてほしい氷はそっちじゃないのに」 『氷原狼』の一撃で氷璃が膝をつく。運命を燃やし戦場に留まるも、物理的な保護に劣る彼女が長く戦場に留まれないのは明白だった。 「おや失礼。アークをやめて俺の下に来れば見せてあげるぜぃ」 「ふん。『三尋木』の元に下れというのか?」 答えたのは瑠琵。水奈を守るための影を呼び出しながら『氷原狼』を睨む。これ以上召還するのは瑠琵のスペック的に厳しい。目の前の男から吸血して気力を奪わないと、という思いを込めて睨んだ。 「この襲撃を仕掛けたのが誰なんて俺は知りませんぜぃ。余計なことを知ると殺されかねない世界なんでねぃ。 ま、俺はトカゲの尻尾ってヤツさ。物を奪ってお金をもらう。それだけさぁ」 「狼なのにトカゲってワケわかりませんよ! せめて名前ぐらい名乗ってください!」 ヘルマンは氷のEゴーレムの膝に足の裏を乗っけて、踏み込むように体重をかける。衝撃を内部に伝える足技で、硬い体の内部に衝撃を伝える。せめて何かの情報を手に入れようと、必死になって問いかける。 「水原良。お金で動くケチなフィクサードさ」 『氷原狼』はヘルマンの二度目の問いに答えを返す。一部のものはその名前が記憶に引っかかっていた。何処かで、その名を―― 「みずはら……水原静香の縁者か!?」 疾風はかつての依頼でそのフィクサードと関わったことがあった。正確にはそのフィクサードが生み出した存在と、だが。人の命を実験する科学者。その縁者。 「ありゃ? ねーさんのお知り合い? いや、リベリスタとなら碌な仲じゃないってーのは予想つきますけどねぃ」 「直接は知らないがな。しかしその非道は知っているぞ。自らを慕う少女に人体実験を施したとか」 『可変式モーニングスター[響]』に炎を纏わせ、疾風は氷人形に撃ちつけた。遠心力と重量で氷の胸部を穿ち、粉砕する。高速で移動するトラックの上で闘う様は、まさに撮影の様だが、今はそれを思う余裕もない。 「お嬢さんに手出しはさせないよ」 前衛に余裕ができたことで、クルトが後衛に移動して氷璃を庇う。『氷原狼』と氷璃との間に割って入り、構えを取った。 氷を纏った牙のようなフィクサードの一撃を払う。相手の立ち方から次の攻撃を予測し、頭の中で思考する。培われた格闘家の経験を武器に攻防を繰り広げるクルト。目まぐるしい手足の動き。やがて二人の間合いは開く。共に浮かぶ、笑み。 「姉はマッドサイエンティストで弟は泥棒か。手癖が悪いところはお互いそっくりじゃのぅ」 疾風と同じ場所で戦った瑠琵が口を挟む。クルトが来て余裕が出てきたのか、符術でカラスを生み出し、氷人形を襲わせる。『氷原狼』を攻撃するのではなく、Eゴーレムを落とす。そうされることが彼にとって一番困ることだと知っているからだ。 「否定はしませんがね。実際レディを殴ってるわけですし」 『氷原狼』の氷の拳が舞う。その一撃で瑠琵が足をついた。負けてられないとばかりに運命を削って立ち上がる。 「ふふ、いいわ。痛いから、痛くしてあげる。殴って、殴られて。私に愉悦を与えて頂戴」 セリアは体内のオーラを闇に変換して、氷のエリューションを痛めつける。命なき者が体をきしませるのは心地よい。お返しにとセリアに拳を振り下ろすEゴーレム。殴られた場所が冷え、血がにじんでくるのがわかる。痛みが彼女に愉悦を与える。 「ふふふ、殴って、斬って、穿って、折って、突いて、砕いて、ありとあらゆる痛みを頂戴。ありとあらゆる痛みをあげるから」 賢者の石などどうでもいい。ただ痛みを。与えて与えられて。一緒に楽しみましょう。セリアの口元に浮かぶ笑みは、サディズムでもありマゾヒズムでもあった。 「はっ! 舐めた真似してもらっては困るな」 ジェラルドはアクセスファンタズムからジャベリンをダウンロードする。 「ウオオオオオオォォォォォォ!」 ジェラルドは獣のように咆哮しながら投擲すると、またジャベリンをダウンロード。三本、四本、五本、六本、七本……トラックの荷台に降り注ぐ槍の雨。『槍』の名をもつ男は、降り注ぐ槍の一本を荷台に刺さる前に掴んで取り、近くにいるEゴーレムに突き刺した。 「実のところ、ツンドラウルフの正体には興味がなくてね。心躍る戦いがあればそれでいい。 無論、負けてやる気は欠片もないがね」 「俺も仕事じゃなければ楽しみたいんだけどねぃ」 槍に貫かれ半壊状態の氷人形を見ながら、『氷原狼』は拳に氷を纏わせた。 「そんな余裕は与えないわよ」 水奈が歌う。体内の魔力を声にのせて、心清らかに奏でられる声。それはリベリスタたちの傷を癒し、戦場に留まる活力となる。影に守られながら水奈はフィクサードを見る。その口元はかすかに歪んでいた。仮面の裏の顔が怒っているのか馬鹿にしているか判別がつかない。 「仕事といってもただの泥棒。悪いけど貴方に賢者の石を渡す気はないのよ」 氷璃が四種類の魔力を練る。形や波長の違う魔力を束ねることができるのは攻撃型の魔力を作製するのに長けたマスメイガス故。螺旋のようにうねりあい、パズルのように複雑に。重なり合った4種の魔力弾がEゴーレムに命中し、木っ端微塵にする。 「あらま。もしかして押し返されてきましたかね?」 『氷原狼』がおどけた口調で言う。 初志貫徹。状況に振り回されることなく、Eゴーレム攻撃を続けた結果か、確実に氷人形の数は減ってきていた。 ● 「……くっ!」 『氷原狼』の一撃でクルトが膝をついた。しかしそれはその間後衛を守ったということでもある。運命を燃やして立ち上がる。クルトの顔には笑みが浮かんでいた。 「これで最後……痛かった? ねぇ痛かった?」 セリアの暗黒のオーラが最後の氷人形を打ち砕く。 リベリスタたちがEゴーレムを闘った際に受けたダメージや凍傷は軽くはない。また『氷原狼』から受けたダメージも無視できるものではない。 「ありゃま。仕方ねぇ。撤退させてもらいますぜぃ」 八人のリベリスタのダメージ具合を確認して、勝てないと踏んだか『氷原狼』は躊躇なく荷台の淵から身を躍らせた。 「待ちなさい!」 水奈がその仮面に向けて魔力の矢を投げつける。しかし高速で離れていく『氷原狼』には当たらなかった。アスファルトの上で転がる『氷原狼』がどうなったかを確認する前に、トラックがカーブを曲がり、リベリスタの視界から消えていた。 「これで貸し1つ、だ」 「何かあった時にゃ頼むぜ?」 ジェラルドとクルトが『恐山』のフィクサードに言う。バツの悪そうな顔で「覚えてたらな」と言い放つ『恐山』のフィクサードたち。アークに借りを作るのは癪だが、この状況は助けられたことを認めざるを得まい。 賢者の石に関するリベリスタの意見は皆一致していた。『恐山に返して貸しを作る』……この貸しがどう生きるか。それはまだわからない。 「それにしても、あのフィクサードは何が目的で賢者の石を狙ったのだ?」 「それは賢者の石を狙った目的、ということかのえ?」 疾風の疑問に、瑠琵が応じる。 「お金で売るとか言ってましたよね?」 「つまり『賢者の石を欲する』誰かがいるということね? お金持ちの」 水奈が補足して、氷璃が結論を出す。 「どうでもいいわ……。でも、これで終わりじゃないって言うのはいいことね。また闘えるのかしら? 次はもっと痛い戦いがしたいわ」 「次あったら仕返ししてあげます!」 セリアとヘルマンが『氷原狼』を思い出しながら、再戦を願った。 「回収完了。クライアントにはなんと伝えます?」 「そのままでいいんじゃない? アークの介入なんて情報になかったんだし。多少お目こぼしはあるでしょう。 それにあれ、多分偽物だし」 「根拠は?」 「勘」 「根拠がないということは理解しました。さて、次のお仕事がはいっています」 「愛想ないねぃ。ま、がんばりますか」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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