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How is the wound painful?

●殺意の中心で母の名を叫ぶ幼子
 運命とは平等なものである。
 それが与えられるも与えられないも平等なのだ。そこに善悪も貴賎もない。本当に平等に運命は訪れる。
 たとえそれが――生まれたばかりの赤子でも。

 元リベリスタの母は、自らが生んだ子供がノーフェイスに覚醒したことに気付いた瞬間、膝をついて泣き崩れた。父親もまたリベリスタで、戦いの中命を失った。生まれてきた子は愛する人の形見なのだと自分に言い聞かせて悲しみを乗り越えて子を生んだ、のに。
 運命は遺伝する。リベリスタ同士の子供なら、その子供もまた運命を得る。そのはずなのに。何万、あるいは何億分の一の例外。神か悪魔の悪戯。この不運もまた運命なのか。何故この子が。何故この子が! 問いかけても答えは返ってこない。現実は非常に、彼女に押しかかる。
 生まれたての赤子のノーフェイス。今なら簡単に、殺せる。涙を拭いて、子供の首に手をかける。力を込めてこのまま――

「――まー、まー」

 聞こえた。そんな声が聞こえてしまった。
 それは幻聴だ。生まれて3ヶ月にも満たない子が喋るはずがない。ないのだ。だからこれはエリューション能力だ。敵意を持つものに幻覚を見せ、自らの身を守ろうとする能力。そんなことはわかってる。
 だから、その手は。
 母親は我が子を抱くように、そのノーフェイスを抱いていた。それが世界にとって誤りだとわかっていても、自らを母と呼ぶ子をどうして殺せようか。ただ子供を抱きしめ、激しく泣いていた。
 子供の顔は、母に抱きしめられて無邪気に微笑んでいた。

●アーク
「討伐対象はノーフェイス一体。覚醒したばかり」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそういって説明を一旦結び、集まったリベリスタたちに向き直った。
「能力は唯一つ。『精神に作用して、戦意を奪う』。その人が失ったもの。もう取り戻せないもの。そういったものを見せられる」
 リアルな幻覚。それは自分が経験したことだから、その痛みも喪失感もリアルに再現されるという。
「そのノーフェイスの持つ力はそれだけ。それさえ乗り越えれば、1人でも倒せる」
 イヴは淡々と説明を続ける。
「例え幻覚でも……会いたい人とはいると思う。失ったことを後悔することもあると思う」
 彼女もナイトメア・ダウンで大事な人を失っている。だからこそ、強く思う。
「でもそれは幻覚。ただの過去。大事なのは、きっと今」
 リベリスタたちをしっかり見つめ、イヴは告げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月15日(水)23:30
 どくどくです。
 大切なものは、心の中に。それは良いものも悪いものも、全て。

◆成功条件
 ノーフェイス『漣タクマ』の打破。
 
◆敵情報
 ノーフェイス『漣タクマ』(フェーズ1)
 戦闘能力は皆無です。誰かが『ノーフェイスを殺す』と書けばそれだけで事足ります。
 圧倒的な速度を誇ろうがどれだけ距離を離そうが、ノーフェイスに殺意を向けた瞬間に能力に捕われます。

『心の虚(うろ)』
 自らが失ったもの。もう取り戻せないものを強制的に思い出してしまいます。具体的には過去の失敗や、人の死等です。未来に得るはずだったのに得られなかった事もあるでしょう。OPの母は『もう戻らない我が子』の幻覚を見ています。
 乗り越え方は人それぞれです。BSではないので、ブレイクフィアーなどによる解除は不可能です。精神無効も同様の理由で無意味です。
 ちなみに、難易度NORMALは伊達や酔狂じゃありません。復活するところまで含めてのプレイングとみなします。

『漣カスミ』
 元リベリスタ。ノーフェイスの攻撃を受けて、そのまま泣き崩れています。幻覚から『帰ってきていない』状態です。
 能動的な行動はできません。

◆場所情報
 マンションの一室。カギは開いています。
 その一室で子供を抱いている母を発見できるでしょう。

 相談機関は5日となっております。
 皆様のプレイングをお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)
ソードミラージュ
雪白 凍夜(BNE000889)
クロスイージス
カイ・ル・リース(BNE002059)
デュランダル
イーシェ・ルー(BNE002142)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
覇界闘士
李 腕鍛(BNE002775)
クロスイージス
高藤 奈々子(BNE003304)
ダークナイト
シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)

●家族
 59年前、『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)は革醒する。血を吸う為の牙が生え、見た目の成長も止まった。白髪に深紫の瞳という他に見ない容姿を得た。他の人を圧倒するほどの筋力も得た。
 革醒時、マリアムはそのことを深く考えなかった。周りの人の視線が変わったのだろうが、14歳の少女に嫉妬や羨望の視線が理解できるはずがなかった。
 それが理解できるようになるのは年を重ねてから。成長期なのに一向に変化しない身体を不審に思う人が周囲に現れ始めたのだ。
「化け物。まるで血を吸って若さを保つ吸血鬼だ」
 マリアムは周りが怖くなり、旅に出る。自分を知らない人のところに逃げるように。
 様々な出会いがあり、やがて一人の男性に出会う。
 少しずつ思慕の思いが強くなり、やがて彼と一緒に暮らすことになる。共に過ごす時間の中、彼の身体はどんどん大きくなっていき、私の身体は何一つ変わらなかった。
「化け物」
 彼はそんなことは一言も言わなかった。
 だけど彼にそう言われる事を想像するだけで、心が張り裂けそうになった。
 だから逃げた。最愛の人からも何もかも捨てて逃げた。
 泣きながら歩き、気付く。隣に誰もいない夜が、こんなに空虚なものだったなんて。

 イングランド北部――
 鼻を刺激する木々の香り。温かな風が葉を揺らし、心地よい音を立てる。
 森に囲まれた小さな郷。もはや存在しない場所。そして森に隠れた小さな家。
「じっちゃん……ばっちゃん……。ただいま」
 その家の中にある二人の老人。『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)はその二人に微笑んだ。暖かなシチュー。温かな老人の笑顔。帰ってきた故郷。
 ――もう存在しない、故郷。
 その故郷はエリューションに襲われて今は存在しない。これはノーフェイスの生んだ幻影で。
 だからこの祖父と祖母も幻影だ。
 なのにどうしてこんなに懐かしいのだろう。
 シチューを口にして、団欒する三人。昨日あったこと。今日の天気。明日のこと。そんななんでもない会話。もう戻らない日常。
 暖炉の炎が暖かい。このまま、眠りにつけそうなほどに。

 それはどこにでもありそうな家。父親がいて母親がいて。そして妹がいて。
「腕鍛、帰ってきたか」
「腕鍛、お帰り」
「兄上、お帰りなさいませ」
 日本に旅立つ前と同じように、迎えてくれる家族。例え幻覚とわかっていても『女好き』
李 腕鍛(BNE002775)は家族達の笑顔に騙されそうになる。このままでいいと思ってしまいたくなる。
 子供の頃、甘えることができなかった家族。今でも母国に帰ればそこにいる家族。郷愁感が腕鍛の胸を襲う。
「修行は辛くないのか? 一日ぐらいゆっくりする時間はあるんだろう?」
「今日は貴方の為に飲茶を用意したのよ」
「兄上、その後で一手教授願います」
 家に帰ればこんな光景が見られるのだろう。明日には死んでしまうかもしれないリベリスタだ。このまま闘えば命を落とすか、ノーフェイスとなって仲間に狩られるか。終わりの見えない戦いに身を投じるなら、いっそリベリスタをやめて家に帰るのもいいのではないのだろうか?
 腕鍛は自然と椅子を引いて、家族と向き合っていた。

 揺れる。大きな衝撃と共に座席が揺れ、重力に惹かれて落ちていく感覚に襲われる。
『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)は知っている。これは飛行機事故だ。パパとママと一緒に飛行機に乗って、このときの事故で二人は死んで……自分は革醒して九死に一生を得るのだ。
 シャルロッテを襲う衝撃。即死でなかったのはパパとママが庇ってくれたから。冷たくなったパパとママの体。衝撃で吹き飛んだ親の四肢。アークが保護してくるまでの間、ダンボールに身を包み冷えから身を守っていた。
「ロッテ、日本に旅行に行こう」
 日本は紙と木で家を作っているんだ、と教えてくれたパパは既に骸。そんなわけないでしょう、とたしなめたママも腐り始めている。
 何故? 運命の加護を得たシャルロッテは運命を呪う。何故自分が助かってパパとママは助からなかったのか?
 パパとママが死ぬ。その事実が心に蘇る。

●刃
 刃が振るわれる。その白刃を『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)を一生忘れないだろう。妹の命を奪ったその刃を。
 運命の加護を得てなお勝てなかったそのフィクサード。圧倒的な力と技量。守れなかった妹が地面に落ちる。虚ろな瞳はまるで凍夜を攻めているようだった。どうして守ってくれなかったの、と。流れる血が網膜を通じて脳裏に刻まれる。
 凍夜の横を通り過ぎるフィクサード。心折れた彼はただ妹の亡骸を見ていた。からん、と落ちた刀が音を立てた。それを拾う気力は、なかった。
 激しい喪失感。何故俺は生きている? 運命に選ばれたからか? ならば運命に選ばれなかった妹は死んで当然なのか?
 理不尽なことなどいくらでもある。運命に選ばれなかったことなんてただの偶然だ。だけど何故だ。死ぬべきは守れなかった俺じゃないのか?
 気がつけば刀は自分の心臓に向けられていた。肋骨の隙間から心臓へ。これで確実に死ねるだろう。人を守ることはできないくせに、人を殺す技術だけはある。そんな自分に反吐が出る。
 脳裏に浮かぶ妹の瞳。どうして守ってくれなかったの。言葉なく凍夜を責めていた。

 トライアンドエラー。試し、失敗し、また試す。そのたびに命が消える。トライアンドエラー。
『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)という存在はとある組織の実験の末にフェイトを得た。トライアンドエラー。激しい痛み。トライアンドエラー。耐え難い苦痛。トライアンドエラー。呼吸が止まるほどの痙攣。トライアンドエラー。
 繰り返される実験。実験の『サンプル』はどんどん数を減らしていく。毎日少しずつ。見知った顔が消えていく。
 これはリンシードが忘れていた過去。心の平穏の為に記憶から消えていた過去。自らを守るために、黒く塗りつぶしてきたもの。
 過去を思い出させると聞いたとき、失われた過去が見えると思ってた。でも大丈夫。思い出しても感情のない人形として闘える。
 これを乗り越えれば――
 一人の子供が見える。あの時実験で一緒になった子だ。
 思い出してはいけない。本能が警告する。
 だけどリンシードの脳は『あの時』を思い出していた。
 
 襲撃があったビルの中は既に血の海。『敵』の姿は既になく、あるのは『敵』ではない者の血と死体。
 死体は『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)の仲間だった『菊水』のものだ。奈々子はかつてエリューションに襲われ、一人の革醒者に救われた。その革醒者はフィクサード組織『菊水』の一員。奈々子はそこで神秘と、そして義理と人情を教わった。
 その『菊水』はもうない。フィクサード組織の抗争で潰されてしまったのだ。
 そう、まさに目の前に広がる幻影がそのときの光景だ。
 昨日まで笑いあっていた友が倒れ、気の効くヤツだった若造の体が真っ二つになって転がっている。
 幻影が揺れる。思い出されるのは過去。自分を襲ったエリューション。家族と、そして友人を襲う化け物。目の前で消えていく命。死、と言う理不尽が奈々子の絆を切り裂いていく。
 奈々子に襲い掛かろうとしたエリューションは、目の前で真っ二つに切り裂かれる。嗚呼、そうだ。この人が私を助けてくれた革醒者。奈々子はその手を――幻影はまた『菊水』が襲われたビルに戻る。
 掴んだ手の先には何もなかった。自分を助けてくれたフィクサードもまた、襲撃で灰になるまで燃やされた。
 喪失感。死んだ人間は蘇らない。エリューションに家族を奪われ、そして今また『家族』と慕っていた場所を失った。
 仲間の死体の中、奈々子は孤独感に苛まれていた。

●現実
 漣桂太郎。リベリスタ。アザーバイドとの戦いで命を失う。撤退するリベリスタたちの殿を努め、帰ってこなかったという。
『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が出発までに調べられたのはこの程度だった。
 それでも、その人柄はわかる。
(自分も子供も死んでしまったラ……妻に後を追って欲しいカ? 過去に囚われて生きる事を望むカ?)
 カイにも子供がいる。妻は今自分の元にいないが、それでも愛している。意見を押し付けるつもりはないが、それでも強く思う。
(どんなに辛くとモ、やっぱり生き続けて欲しいと願うのダ!)
 死は終わりだ。辛いという感情も生きているからこそだ。
 カイはノーフェイスに殺気を向けず、ノーフェイスを抱く母に念波を送っていた。彼に子供を殺すことはできない。だから彼は必死に母親を幻覚から呼び戻そうとその心に語りかけていた。
「漣桂太郎――彼ならきっと望むのダ。君に幸せを掴んで貰いたいト」
 首を振るカスミ。幸せになどなれない。夫を失い、子供も失った。何を支えに生きていけばいいのか?
「今すぐには無理かもしれなイ。だガ、いつか笑える日が来るのダ」
 いつか。それは未来の話だ。きっとこの傷は時間が解決するのだろう。
 だけど今、幻覚から立ち上がるにはその言葉では足りなかった。優しい虚から抜け出す為のきっかけにはなったが、立ち上がろうと力を込める理由にはならない。
 そんなことは分かっている。それでもカイは語り続ける。

●家族
 思えば、マリアムの人生は逃げてばかりだった。故郷から逃げて、そして愛する人から逃げて。
 それでも。
 楽しかった故郷の空気を忘れない。優しかったあの人を忘れない。
 辛い想いばかりしてきたと想っていたけどそうじゃない。
 辛いと想えるのは楽しさや嬉しさを覚えているから。
「だからきっと私は不幸ではない」
 辛い想い出を乗り越えたわけじゃない。ただ受け入れただけ。
 それでもマリアムの顔は、
「幸せだった」
 確かに笑っていた。

 イーシェは立つ。震える手で椅子を引いて。
「じっちゃん、ばっちゃん」
 語りかける相手は自らの祖父と祖母。
 幻影ではなく、もう戻らない祖父と祖母へと。天国にいるじっちゃんとばっちゃんへと。
「アタシには仲間がいるッス。アークの仲間が」
 アークでの戦いの日々、仲間達と語らう他愛のない時間。それを心の支えに息を吸う。
「だから、大丈夫ッスよ。
 アタシは一人じゃねぇッスから、大丈夫ッスよ」
 目頭が熱い。頬を伝い流れる熱い何か。震える喉で、だけどしっかりと告げた。天にいる二人届けとばかりに胸を張って。
「貴方達のお陰で、私はここまで来れました。だから……心配しないで欲しい」
 幻影が消える。消える直前『行ってらっしゃい』と背中を押す声が聞こえた気がした。
「また逢えて、嬉しかった」
 だから、ありがとう。心の虚に別れを告げて、イーシェは仲間の元に戻る。

「父上」
 腕鍛は正面の家族と向き合い、しっかりと告げる。
「俺はこれから仕事があります。母上、飲茶は食べられないです。今度帰ってくることがあればぜひいただきます。妹よ……綺麗になったね。兄は体を張ったかいがあったよ」
 幻覚だ。そう分かっていてもここにずっといたくなる。いや、ここにいるのが当然だと思うようになる。だけどそれはダメなのだ。ここにいては、俺はダメになる。
「仕事? どんな仕事をしているんだ?」
 腕鍛は自らの胸に手を当てる。
「拙者の仕事は世界を護るリベリスタでござる!」
 自らの仕事に対する誇り。世界を守るという矜持。それが腕鍛の心を支える。
「将来なりたかった強い正義の味方に拙者はなれなかった。でも、世界の味方にはなれたでござる! 拙者はそれで十分でござるよ!」
 幻影の家族に腕鍛は誇らしげに語る。霞のように薄くなっていく幻影。いつかこの言葉を本当の家族に伝えられるだろうか。いや、今は――
「まずはあの娘のフォローでござるかな……」
 
 揺れる。大きな衝撃と共に座席が揺れ、重力に惹かれて落ちていく感覚に襲われる。
 何度目の飛行機墜落だろうか? 何度この光景を繰り返しているだろうか。
 何度パパとママは死んだのだろうか?
「許さないよ」
 シャルロッテは服のすそを掴んで繰り返される幻影に目を向ける。
「パパもママはもう死んじゃったの。
 どんなに悲しくても辛くても理不尽でも死んだ人は絶対に本当の意味で生き返えらない、生き返っちゃいけない。何度も殺しちゃいけない」
 繰り返し『殺される』パパとママ。繰り返される再生と破壊。
「私から二人の死を奪わないで、生を奪わないで、二人が生きていた思い出を穢さないで、私の想いでも未来も貴方が好き勝手にぐちゃぐちゃにしちゃ駄目なの……」
 シャルロッテは何度も繰り返される悪夢に怒りの声を上げる。
 しかし。そこまで。
 心の中にある虚に向き直っていても、抗うわけではない。強い怒りで精神を保っているものの、虚そのものを乗り越えているわけではない。
「私の運命を変えていいのは私と私と一緒にいてくれる人だけなの絶対に許さない幸せな夢は自分でこれから見ていくの」
 シャルロッテは強い意志で自分を保つ。怒りは最も純粋で深い感情だ。それが心にある限り、虚に飲み込まれはしないだろう。
 そしてまた、飛行機が揺れる。

●刃
 忘れてしまえば楽になるのだろう。過去と割り切ってしまえば少しは心が落ち着くのだろう。
 だけど凍夜はそれをしない。自らに錨を打ちつけるように、その光景と向き直った。
「ただの過去。分かってんだよ、んな事は。でもな、それも俺の一部なんだ。それだって俺なんだ」
 心臓に向かっていた刀が止まる。
「乗り越えたりしねえ、出来ねえ。心臓絞られる様な恐さも後悔も呑み込んで、足掻いて藻掻いて地べた這いずって漸く、一歩だ」
 忘れない。この怖さも後悔も忘れないと誓う。あの赤い血も、妹の顔も。全て忘れないと心に誓う。
「進まなくちゃなんねえんだ。あいつの死が無駄何かじゃなかったって証明する為に」
 前に進む義務はない。そんな証明なんてしなくてもいい。そう割り切って刀を捨てる選択肢もあっただろう。
 だけど刀は捨てられず。
 そして足はようやく、前に進んだ。
「あの日上げた慟哭も、流した涙も、今尚続く苦しみも、誰恥じる事ねえ俺の軌跡だ。俺のもんだ」
 虚を乗り越えるのではなく、虚を受け入れ歩むと決めた。それが雪白凍夜なのだと。不器用でもそれが自分なのだと。だから、叫ぶ。
「人のもん勝手に持ち出してんじゃねえ!」
 幻影が消える。そして妹が死んだ辛い現実に戻る。そこは優しくはないけれど。
 だけど凍夜は、後悔しない。

 頭が痛い。
 リンシードが封じていた記憶が蘇る。記憶の空白は意図的なのか無意識なのか。ただ記憶が蘇る度に頭が痛く、動悸が激しくなる。
 その子は実験を一緒に乗り越えてきた友人。その子はフェイトを得られず、自分は得た。
 そして最後には、自分の手で殺してしまった。
 これはノーフェイスの幻覚だとわかっている。だからこれを斬れば――
『助けてよ、リンシード!』
 カラン、と音を立てて剣が落ちる。頭が痛い。胸が痛い。痛い部分を抱えるようにうずくまった。胎児の様に、殻に篭る様に。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
 助けることはできない。殺すしかない。その事実に涙を流すリンシード。
「なぜ……今まで、忘れてたんでしょう……」
 友人を殺した罪。それから目をそらして生きていた自分。
 アークのリベリスタとして生きてきて、最近は幸せになってもいいと思っていた。
「やはり……私は、感情のない、人形で、生き続ける、しかないですよね……」
 助けて。
 友人の声がリンシードを人形に戻していく。罪という糸で縛られた人形に。
 
 血の海の中、奈々子は一人の男に出会う。
 致命傷を負い、余命幾許もないだろう『菊水』の組長。その口が開く。
「失った物を無理に取り戻そうと思うな。心の中に置いたまま新しい物を手に入れていきゃいい」
 そうすればどんな運命の荒波の中でも前に進んでいける。家族を失った自分に口癖のように告げてくれた言葉。
 いつも自分を支えてくれた言葉。ポケットに入っていた硬貨を握る。
 確かな手ごたえ。それを支えに口を開く。
「菊水一党の皆々様と縁持てた運命に心から感謝致す。親分の心意気を胸に此の先も生を全うする所存。
 次は地獄にて顔を遇わせやしょう」
 あの時いえなかった言葉を、ここで告げる。再会することがあるのなら、そのときは地獄で。
 それまでは、前をむいて生きていこう。

●現実
 心の虚から戻ったリベリスタにより、ノーフェイスは討たれる。
 子を失った母の心は深く消沈していたが、カイに強く支えられたこともあり最後のところで踏みとどまっていた。
 もはや動かぬ我が子を抱き、アークのリベリスタたちに礼をする。世界を救ってくれた者たちになのか、我が子の幻覚から戻してくれたからか。それはわからない。
 シャルロッテとリンシードは心の虚により深く心を傷つけられ、忘我状態となっていた。心ここにあらず、といった感じで他のリベリスタに抱えられて家をでる。
(親に愛されながら運命に愛されなかった幼い命に、祈りヲ)
 カイが黙祷する。彼だけではない。各々が各々の形で、漣タクマの死を心に刻んでいた。

 この出来事も過去となり、今を形どり、未来への礎となるのだろう。
 願わくば、よき礎とならんことを。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 9割心情という変則的なリプレイとなりました。
 他の5Wシリーズは戦闘はありましたが、今回はまるでなし。なのに文字数きちきち。あれー?

 自分自身との戦いお疲れさまでした。
 皆様の思いを受け止めて、リプレイで全てを返しました。最後の二行はSTからの切なる思いです。このリプレイが皆様の一歩になれば。
 
 それではまた三高平市で。