●戦陣の覇者 『おう、変わった服着てんなぁ、おっさん』 『何なに、中年のコスプレ? マジかっこいーんですけどー』 『このバッジとか、なんだっけ『勲章』? みてぇじゃねぇ? すげー』 ゲラゲラと笑う若者は、公園に立ち尽くす男に声をかけた。馴れ馴れしく傍により、上着の襟を引っ張る。 「……何だ、貴様等は」 『聞いたー? キサマラだって。こえー』 若者のうち一人が、はやし立てる。 『おっさん、調子こいてんじゃねぇぞ? アンタ一人なんて、俺らで簡単にボコれんだからな』 腕っぷしに自信があるのだろうか、別の若者が男の前に立つ。 『そーそー、狩られたくなかったら、財布おいてきなー?』 にやにやと笑い、男の頬にナイフの刃を突きつけた。 「僕の命を奪おうと言うのか」 『ボク!? ボクとか言ってるよ、このおっさん』 若者の一人が噴き出す。 『んー、金さえおいてきゃ、命は要らねぇけどねぇ。俺らだって捕まりたくねぇしー』 『でも、下手に警察に連絡とかしたら、殺しちゃうよーん。ボクちゃん?』 ゲラゲラ、と、また笑う。 バッっと男の手が挙がった。 その動きに合わせるように、茂みから巨大な影が飛び出した。 ガァァオォォゥ!! 猛々しい獣の吼え声が、若者たちの断末魔と溶け合って、消えた。 男は、脳にかかった霧を払うようにゆるりと頭を振った。 傍らに寄り添う獣が、ぐるると喉を鳴らし、主を案じている。 「大丈夫だ。心配しなくとも、やるべきことはわかっている」 『此処』は、自らが在った場所とは違うと認識した。 空気も、風も、日の光さえも、記憶にあるものと違わぬというのに。 けれど、『此処』は、『違う』。 再び喉を鳴らし足に擦り寄ってきた獣の絨毛な毛に覆われた首筋を撫でると、男は足元に転がる塊を見遣る。 「何とか、生きて帰らねばな……」 ● 「今回の件は、ディメンションホールから現れたアザーバイドの対処です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、詳細を告げるべく資料を捲った。 「アザーバイドは人型が1体。体長約2m、獣のような姿をしたものが1体。特に悪意もなく、偶然こちらの世界に来てしまったものですが、現状を把握できないままに、所謂『オヤジ狩り』に遭い、一般人を殺害しました」 画面に映し出されたのは、30歳ぐらいに見える男性。軍服のような服を着ており、襟章と多くの勲章のようなものをつけている。それと、大きな牙を突出させた虎、サーベルタイガーによく似通った姿の獣が映し出された。 「殺害されたのは16~17歳の男性3名です。アザーバイドが出現した公園近辺で頻繁に『オヤジ狩り』をしていて、何度か警察にも捕まっていました」 まぁ、これは余談ですが。と、話を切ると画面は変わった。 「ここが現場となる公園です。緑地公園と言われており、噴水広場に滑り台やブランコなどの遊具。ほかは芝生におおわれており、公園の周囲は大樹が植えられています。戦場としては、障害物も少ないのであまり気にせず戦えるでしょう」 リベリスタ達へと向き直る、和泉。 「アザーバイドはフェイトを得ていません。このままでは危険です。彼らを倒すか、噴水の中にあるディメンションホールへ戻すか、対応してください」 その後は、ディメンションホールの破壊もお願いします。と、付け加えると、和泉は資料を閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月21日(火)21:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『A-coupler』讀鳴・凛麗(BNE002155)が辺りを透かし見ると、少し先に男と獣を見つけた。 「この世界に落ちてくるのはどんな気持ちなのでしょうか……」 風景の向こうに見た姿に、少なからず憂いた印象を受ける。 見知らぬ地、それも何故ここに居るのかすら理解できない状況で、突然に受けた侮辱と脅迫。 若者たちに、本当に命までも奪う意思があったかは判らないが、それでも。 「過剰でも、身を守ると言う事は至極自然な行動なのかもしれません」 自分も、同じ状況であればそうしていたのかも知れない。そう思いつつ歩を進める。 「つくづくこの世界は不安定だな。色んな世界と繋がってるとは」 だからこそ、柔軟に対応をしたい。その為には、まず話をしなければ。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は、自らの感知力を極限まで高め、奇襲に備えつつ呟いた。 「異世界の迷い人か。平穏無事に帰ってもらえればよかったのだが……」 (全く、愚かな――) 先の若者たちが取った行為に、アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)は小さく頭を振り、辺りに結界を張り巡らせた。 「本当。バカが多いせいでキサ達の仕事が面倒になる。戦っても疲れるだけだし、キサ達まであんなバカと同列に扱われるのは癪だし」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が、溜息をつく。彼らが余計な事をしなければ、男と獣を送還する。それだけで良かったのに。 「とはいえ……既に亡くなっている方は兎も角……。これ以上の被害はなんとしても食い止めませんと」 現状、戦う意思を持つアザーバイドであるのは確か。このまま放置するわけには行かない。 できれば穏便に。そう望む『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の紫の瞳が物憂げな色彩を放った。 ● グルルルルルルル……。 サーベルタイガーは主より早くリベリスタの存在を察知し、主を護るべく警戒の唸りを上げる。 男は唸りに促され、此方へと向かってくる新たな登場人物を見遣った。 (今度は8人か……。さすがに無傷とはいかないかな) こちらは『2人』だけ。2人で生きて帰るには、頭を使わなければ。 「疾風(はやて)。僕が合図するまでは静かにな」 男は獣の名を呼び、首を擽る。すると、低く響いていた唸り声が静まった。 精悍な顔立ちの男性が、すっと仲間たちの前に立つ。 「すまない、まずはこちらの話を聞いて欲しい。手は、出さない」 義弘は両手を上げると、武器の不携帯と、戦う意思のないことを示す。 「はじめまして異邦人殿。我々は特務機関アーク。この世界の守護を担う者です」 その姿に倣うように、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)も武器を所持してないことを示した後、頭を下げた。 「先じてこの世界の者が働いた御無礼、心より謝罪を。ですが誓って、我々に貴方方への害意は有りません」 (『この世界』、か。此処が僕の在った場所とは異なる世界であると言う嘘を言ったところで、奴等に特にメリットはない筈) 男は、二人の発言から正しい回答を導き出す。 (だが、害意をなさぬというのは、まだ判らないな) 敵意を現さずに相手を油断させるなど常套手段だ。まだ、全て信じるわけにはいかない。 「この度の非礼、真に申し訳ない」 アルトリアは、イスカリオテの言葉をサポートするように、この世界について説明する。 この世界はボトムチャンネルであり、男の世界とは異なる事。更に、多くの人間が別世界の事を把握すらしていない無垢な世界である事を告げる。 「貴公が手にかけたこやつ等とは仲間でもなんでもないが、それでも同じ世界の民として恥ずかしく思うし申し訳なく思う。特に、貴公の持つ勲章を侮辱した非礼、心からお詫びしよう。謝罪で何が変わるわけでもないかもしれないが、少しでも心穏やかになっていただけば、貴公を元の世界に返すのも楽になるだろう」 男は、アルトリアの言葉に瞳を見開く。 (元の世界に帰る方法が、わかるというのか? そして、何故奴等が僕を侮辱した事を知っている?) 「そちらの命を危険に晒してしまった事、お詫び申し上げます。此方には、ある程度の未来を予測する術が存在します。……ですから、此処で起きた事もある程度は把握している心算です」 男の困惑した様子を見て取り、紫月が言葉を重ねる。 「お二人は、生きて帰らねばならないのでしょう? でしたら、リスクを背負って私達と交戦する……という事態は避けたい筈です」 (未来を予測する術だと? そんなものを持っているというのか?) 更に困惑する男の前で、少女が深く頭を下げる。 「お二方には、そこにある彼らが無礼を働いた事を彼らに代わり深くお詫び申し上げます。貴方へ無礼を働いた少年達は生涯の十分の一程しか生きていない者で、まだ道理も知らない子供同然でした。どうぞ彼らの成した事を寛大なお心で許してはいただけないでしょうか?」 凛麗は再度頭を下げ、しっかりと男の目を見詰める。地べたに転がる若者よりずっと年下に見える少女が謝罪する状況に男は怪訝な表情を浮かべたが、黙って言葉を聞いていた。 (全く、アークってのはお人好しの集団だな) 仲間たちが次々に謝罪する姿に、『赤備え』山県 昌斗(BNE003333)は内心で呟く。彼は、説得する必要性など感じていなかった。 けれど、他の仲間たちが謝罪及び説得を試みたいと言うのを甘受したのは、もし戦う事となれば、男と一対一でやりあって良いと約束した為である。だからこそ、話を合わせ、謝罪もしてみせる。 「よぉ。うちの世界のモンが迷惑かけたな。悪ぃ」 ガゥ。 その声に、男の傍らに居た獣が反応した。まるで昌斗の闘気を感じたように、彼を睨み付ける。 「っ!!」 けれど、昌斗は獣の声にも動じず。代わりに彼の背後で、体を跳ねさせた者が居る。 (ぐ、軍人さんも怖いけど、サーベルタイガーはもっと怖いです) けれど、先に手を出したのはこちらの世界の住人。悪いのはこちらだと、如月・真人(BNE003358)は考える。 (け、けど……) 他の仲間たちのようには言葉が出て来ない。恐怖で喉の奥が張り付いた感じになっている。 それでも、男と獣の姿を見ようと昌斗の後ろから頭を覗かせる。 グルルルルル……。 一瞬垣間見えた黒髪に、獣は唸りを上げた。 「――!」 (ごめんなさい、ごめんなさいっ) 真人は声にならない叫びを上げると、ただひたすら頭を下げるしかなかった。泣き虫の真人が泣かなかっただけ、よく頑張ったというところだろう。 そして男は、考えこむ。 (此処が、僕の居る世界と別世界であるのは間違いないだろう。ただ、彼らに闘う意思がない事、元の世界に帰る方法を知っているという事が真実かは、判らない) 揃って頭を下げてくる事、それが信用に値するかと言えば、否だ。 「元の世界には、後ろにある噴水の中にゲートから帰れる筈だ」 義弘の言葉に、男は噴水を振り返ろうとする。 だが――。 「そう言って、背中をバッサリやられては、困る」 男は後ろを振り返る事を止め、言い放つ。業を煮やし、イスカリオテは一歩前に出た。 「疑われるなら、どうぞ如何様なりと納得行かれるまで御調べ頂きたい。なんなら人質となっても構いません」 「そう、言われてもな。近づいたところで、貴公の仲間が動かぬとも限らぬ」 どう告げても消えぬ警戒心。 「御怒り御尤も。ですが、我々は極力、貴方方と争いたくは無い」 「僕は怒って等いない。ただ、貴公らの言葉は、信用に足るものだとは思えない。それだけだ」 無抵抗の自分に刃を突きつけてきた若者達も、害意は与えないと告げる者達も。現状では同等の『驚異』でしかない。 「もし、たった一人で見知らぬ地に迷い込み、命を奪われかけたとして、その後現れた大人数の人間の言う事を信じることが出来るか?」 多勢に無勢とも言える状況で『信じろ』と言われても、それを信じられる訳がないだろうと、男は告げる。 「待ってよ。キサ達はあんた達を元の世界へ送り届ける為に来た。だから何度でも謝る。そちらの世界では謝罪を示したい時どうするの?」 綺沙羅を男はまっすぐに見つめる。 「謝罪するだけで信頼を得られると思っているのか? それならば残念だが、何度謝罪されたとしても疑念は晴れない」 その言葉に、紫月は表情を曇らせた。 「……お帰り、願えませんでしょうか。戦う力はあれど、戦いは好きではないんです」 「この世界には貴方をお迎えする用意は整っておりません。どうか一度元の世界お戻りいただけませんか?」 凛麗も真剣に告げる。 「貴方も軍人で在られるなら、どうか合理的判断を」 これが最後だろうと、イスカリオテも言葉を重ねた。男は暫く黙った後、言葉を発する。 「帰れと言われても、その術を知らぬ。合理的、且つ僕に貴公らを信じさせる方法があるとすれば、1つ。僕と疾風を命を奪わずに倒し、その噴水の中にあるという『ゲート』とやらに放り込むだけだ。結果、僕らが元在った場所に戻る事が出来れば、貴公らが言っていたことが、真実だったと信じることが出来るだろう」 結果なき状況では信じられぬ、と、結論が出る。 「僕も、一個師団を任されている身、そう簡単に初見の者の言葉は信じられない。『信じる』とは、この者になら裏切られ殺されても構わないと、覚悟を決める事だ。残念だが、貴公らにはそう思わせるだけの力はない」 交渉は決裂。そう判断した真斗は、男に銃を向けた。 「んじゃ、いっちょやりあおうぜ」 ● ガァァァオオォォゥ!! リベリスタ達が武装を行った直後、吼え声は高く響き、音の渦に彼らを巻き込んだ。 その声に、綺沙羅と凛麗の体が震えだす。 「まずい、すぐに解除をお願いしま……。痛ぅっ」 イスカリオテが二人の様子に気付くと同時、綺沙羅の鴉が飛び掛かる。更に凛麗の気糸が真人に襲いかかった。 「わ、わ、凛麗さん落ち着いてくださいっ」 混乱の元に放たれた糸に絡め取られ、真人の体に痺れが走る。 「戦いたくは、ないのですが……仕方ないですね」 バッドステータスの余波は瞬く間に広がった。最早、戦うしかないのだと覚悟を決める。 紫月から生まれた光は、神々しいまでに輝きを放ち、全ての災いを打ち消した。 「もう少し、話が通じる人だと思っていたがな……。残念だ」 説得が望まぬ結果となった事を理解した黒衣の女騎士は、眼前の獣を見据え。放つは、黒い閃光。 「……すまないな、許せ」 獣の力を弱らせると、アルトリアは誰へともなく、呟いた。 予めサーベルタイガーから距離を取っていた昌斗は、吼え声の脅威を回避し、男と対峙する。 「よぉ、オッサン。俺の名前は山県昌斗だ。覚えときな」 「もし元の世界へ戻る事が出来たなら、その名、覚えておこう」 男は、剣を抜き構える。 (漸くタイマン勝負だ。至近距離で殺しあってやる! 殴られようと殺されようと一歩も引かねえ!) 昌斗の瞳が熱くギラつく。まさしく、この時を待っていた。男は『命を奪わずに倒せ』と言ったが、本気でやりあって上で死んでしまうのは不慮の事だ。加減などしない。でなければ、意味がない。 「かかって来い!!」 地に響くような男の声。先程とは一変した雰囲気と声音から、一気に攻撃力が跳ね上がった事を知る。 「こういうのを待ってたんだよ!」 昌斗は闘士を吐き出すように、弾丸を放った。 「甘い!!」 弾丸をかわし、男は前に出る。その体は一気に昌斗へと迫り、凄まじい気合と共に刃が襲う。 「なんだとぉ!!」 咄嗟にライフルで剣先を変えると、真斗は後ずさり、崩れた体制ながらも銃を撃つ。 「――!」 弾丸は男の頬を掠め、切り口から血が伝う。 「オッサン、テメェにはこだわりってあるか?」 地へ片足を着きライフルを構えたまま、男に問う。 「拘り?」 頬を伝う血を拭いもせず、男は剣を構えたまま問い返す。 「俺にはある。これがそれだ! これだけがそれだぁあ!!」 気合と共に、再度、バウンティショットを放つ。 「舐めるな、若造!!」 男は、剣先で弾丸の勢いを止めた。そして、まだ硝煙立ち上るライフルの銃口を掴むと、ライフルごと昌斗の腕を捻り上げる。 「貴公の拘りは、命のやり取りか? 己の欲望の為だけに、戦うのが拘りか?」 「……ぐだぐだ言うんじゃねぇ!!」 昌斗は説教をされたかったわけではない。怒声と共に腹を蹴り上げ、男を突き放す。 男は腹に受けた衝撃によろめきながらも、まだ倒れない。そして、襟章に触れる。 「僕の拘りは、生き続ける事だ。僕と疾風を待つ者が1人でもいる限り、僕の国は亡びない。僕を護ることは、人を、国を護ることだ。だからこそ――、生きて帰らなければならない」 「ぐぁ……っ」 男は、渾身の一撃を放つ。その軌跡は昌斗の急所を確実に捉え、倒した。しかし、自らを覆う暗闇が広がる中、一筋の光の帯を捕まえた昌斗は立ち上がる。 「さぁ、続きをやろうぜ! まだ終わりじゃねえぞ!」 満身創痍で叫ぶ昌斗。 アァァォォーーーン……。 その時、獣の声が聞こえた。 昌斗を除く7人を相手取っていたサーベルタイガーに、終わりの時が近づいていた。 「殺しはしません」 イスカリオテの聖なる光が、獣の身を焼き払い、義弘が鉄槌を叩き付ける。 「静かにゲートに送り込むためだ、我慢しろよ」 リベリスタ達の猛撃に耐え続けた獣は、うずくまるように倒れこんだ。 「――残るは僕だけか。いいだろう、信頼を勝ち取りたいと願うなら来るがいい。そこの、山県とやらもな」 獣が倒れた事を知ると、男の闘気が爆発する。 (他者に暴力を振るいたいだけの人物ではないのだな……やはり) 先刻からのやり取りと、昌斗との戦いの最中聞こえた言葉に、アルトリアは確信した。 (だが……仕方があるまい。こちらも仕事だ) こうなれば、先に倒れた獣同様、男も倒しディメンションホールに放り込むしかない。そして、それは男の口から出た願いでもある。 「その力、奪わせてもらう」 アルトリアの黒い光が男を貫いた。そのダメージに男はガクンと膝を着く。そこに義弘がサーベルタイガーを屈したのと同じ様に、大上段から鉄槌を叩きつける。 「くっ」 男は構えた剣で、義弘の振り下ろしたメイスを受け止めた。しかし、昌斗と死闘とも言える戦いを繰り広げ、魔閃光に力まで奪われた体は魔を落とす鉄槌に耐え切れず、体中の傷から血が噴出した。 「そうまでして……戦わなければならないのですか? ……貴男の敵は私達ではない。別の存在なのではありませんか?」 自分たちの言葉を信じて貰えれば、それで良かったのに。 「……僕が信じられぬ以上、貴公等は敵だ。何があっても負けを認める訳にはいかない」 「キサたちは、戦いたいわけじゃない。そちらの世界に戻ってから、思い出してよね」 戦わずに元の世界へ戻したかった。綺沙羅の鴉が男へと向かい、頭上から攻撃を加える。 「その覚悟。貴方は、相当な立場に立つ方なのでしょう。その所以も伺いたいところでしたが……」 それも、信頼を得られねば無理な話。 「願わくば……」 イスカリオテの願いは聖なる光となり男を包み焼き尽くす。 「昌斗さん、もう大丈夫ですよ!」 命は繋ぎとめたものの、受けたダメージが深かった昌斗は、真人の歌声に癒されると再び銃を構えた。 「トドメだぁあ!!」 弾丸は、まっすぐ男の眉間へと向かう。それを見止めると、凛麗の悲鳴にも似た叫びが響く。 「駄目です、殺さないでください!」 その声が聞こえたか、黒い影が蠢く。 「疾風!!」 主の命を護るのが使命たる獣は、残る力を振り絞り立ち上がると昌斗の弾丸を噛み砕いた。 しかし、それが限界。咥内から血を吐き、獣は地へと倒れこむ。 「もう……、もう戦わないで下さい……」 紫月の声が冷たい雨を呼ぶ。悲しげな表情を浮かべる彼女の、泪の様に。 「貴方の世界へ、お帰り下さい」 凛麗の全ての力を宿した生糸が、男の傷ついた体に突き刺さる。そして彼は、――動きを止めた。 ● 綺沙羅は意識を失った男に傷癒術を施す。あちらの世界に戻って、痛みに苦しまぬように。 「じゃあ、送るぞ」 義弘は、サーベルタイガーを抱えると、ディメンションホールへとその大きな身体を捧げる。 吸い込まれ、見えなくなる獣。はぐれぬようにと、男もすぐ後を追わせた。 「じゃあ、閉じますね」 真人がディメンションホールを破壊する。消えていくホールを見つめながら、イスカリオテは先刻言いかけた言葉を呟いた。 「願わくばこの出会いが次へと繋がらん事を」 「……見送りの挨拶を教えて欲しかったです」 紫月は、噴水を見つめる。 いつか、出会えることがあるのだろうか。そして、今度は信じて貰えるだろうか。 それはまだ、判らないけれど。 「ご武運を」 飛沫立つ噴水は静寂を取り戻し、美しい光を放っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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