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【共食い】Scarlet Garden


 冬の夕暮れ。
 ドレス姿の少女が、真逆様に空から落ちてくる。その背には翼。
 異常な事態をジュブナイルと分け隔てている要素は二つある。
 一つ。それは少女が持つ炎のように波打つ刃の両手剣を握り締めていること。
 もう一つは、少女の眼下に見据えられているのが黒塗りのヘリであることだった。

 刹那の交差。あどけなく透き通る笑顔で、少女は刃を振るう。
「――イィイヤッホーウッ!!」
 ただの一撃でプロペラをもがれ、大きく傾くヘリは、そのままゆっくりと森中に開けた草地へと舞い落ちていく。
 ガラスの破片が飛び散る。鉄の巨体が鉄板を散らせながら横滑りし、冬枯れの野草達が引き裂かれた。
 激しい振動を伴う不時着は、いっそ墜落と表現したほうが適切かもしれない有様だ。
 ヘリコプターから転げるように飛び出した人影は、皆スーツやコートを纏っている。
 アタッシュケースを抱えて起き上がる男が頭を振る。額から血が流れる血が、彼の白いスーツを汚した。
 このケースだけは死守しなければならない。この中には『賢者の石』がおさめられているはずだ。
 男達はケースを『恐山』の施設に移送しなければならないという任務を帯びていた。
 その背をヘリコプターの爆発が更に彩る。
 事態はそれだけでは済まなかった。
 男達を取り囲むのは十名を越える少女達。いずれも華やかなドレス姿で、武器を帯びている。

「ヘタクソ!」
「大丈夫だって」
「バランス眼鏡が居なけりゃ、こんなもんかよ」
「余計なこと言わない!」
「あはっ!!」
 華やかで姦しい罵声に混じり、銃弾が男達に振り注ぐ。
「テメェ等、どこのモンだ」
 何故こんなことになったのかと、男達には思案を巡らせる暇もない。
 男達とて神秘の世界を生きる者達だ。かなりの実力者も混じっているはずだが、不意打ちとはいえあまりに一方的な展開だった。
「きゃははッ!」
「ヒミツ!」
 銃弾をかわしながら反撃を試み始めるが、数も実力も明らかに劣勢過ぎる。
「鈴ヶ崎、行けるか?」
 中年の男が白スーツに目配せした。どちらも見るからにその筋の人間だと分かる。
「どうにもねえ」
 少女達の二人をかわし、一人に銃弾を叩き込み、男達が走る。鮮やかである。熟達した手並みだ。
 だが、そして。程なく吹き付けられる銃弾の雨に、男達は踊る。
 墜落してからわずか三十余秒の出来事は、それでお仕舞いだった。


「状況を。その。説明します」
 生真面目そうな少女が、ぺこりと頭を下げた。
 無機質なブリーフィングルームに、桃色の髪が揺れる。
 新人フォーチュナの『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)だ。
 緊張しているのだろうか。モニタを指差す手付きは、どことなくぎこちない。
「恐山が所有している『賢者の石』を輸送中に、謎のフィクサード組織に襲撃されました」
 恐山は、日本のフィクサード主流七派の一つで、あの千堂が所属している派閥である。
『謀略の恐山』等と呼ばれ、キレ者の千堂まで抱える彼等が、早々謎の組織に醜態を晒すとも思えない。
「これってアークからの輸送なの?」
 そんな話は聞いてもいなかった。
「いえ。恐山が拠点から別の拠点へ石を搬送している際の出来事です」
 なるほど。
「また今回、輸送中の襲撃が数件同時に起こっています」
 どういうことだろうか。
「アーク本部は、移送中の賢者の石が、多数ダミーである可能性を推測しています」
 どれが本物か偽者か、わからないということか。
「あるいは、全て偽者かもしれません」
 なるほどね。
「状況から、千堂さんが関わっている可能性も、極めて薄いようです」
 それだと最早単純に、フィクサード同士の食い合い出しかないのではないかとリベリスタ達は思う。
 アークがわざわざ手を出すまでもないように感じられるのだが……
「アークと恐山は停戦協定を結んでいますが、その終りが近づいています」
 そう言えばそうだった。もう、そんな時期になるんだった。
「協定期間中ですし、石はあくまでも恐山のモノですから、持ち帰らせてあげるのがいいと思います。が」
「が?」
「でも、場合によってはアークが確保すれば。……えっと」
「その後の交渉の材料なんかになるかもしれない、と。そういうこと?」
「はい。そのままアークのモノにするという選択も、ないわけではありません」
 なるほど。もちろん石を無理矢理ブン盗るわけにはいかない。難しい所だが、これも政治というやつだろうか。
 石がアークに与えた恩恵が非常に大きい以上は、一つでも余計に確保したいものではある。
「結局、どっちのほうがいいの?」
「そのあたりは、現場にお任せするという判断です。謎の組織にだけは、渡さないで下さい」
「それじゃ、あとは」
 謎のフィクサード組織について、知れる限りのことが知りたい所だ。
「敵の構成や能力は、可能な限り割り出しましたが、全てを判明させることは出来ませんでした」
 ごめんなさいと、少女が首と垂れる。きつい条件ではあるが、致し方ない。
「それじゃ、やってみようか」
 桃色の髪の少女は、静謐を湛えるエメラルドの視線をリベリスタに送る。
「どうか、ご無事で……」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:pipi  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月21日(火)22:19
 ヘリばびゅーん。
 pipiです。三つ巴の厄介な依頼です。
 今回、他の『共食い』依頼とは、成否の連動はしていません。

●戦場
 夕暮れの森の中に、開けた草地です。
 戦うには十分な広さで、一般人の影は一切ありません。
 リベリスタ達は、最短でヘリが墜落炎上した辺りで、現場に到着することが出来ます。
 ほぼ同時に、謎のフィクサード勢力全員が戦場に到着します。
 敵は墜落したヘリコプターを中心に散開しています。
 リベリスタの介入がなければ、3ターン程でスーツの男達は全滅します。

 リベリスタ達は到着のタイミングを遅らせても構いません。
 恐山のフィクサードが全滅した直後、とかです。
 ですが、メリット、デメリットを判断して下さい。

●目標
 謎のフィクサード勢力に『賢者の石』を奪われないこと。
『賢者の石』が本物であるかどうかに関わらず、謎の勢力に持ち逃げされた場合は『失敗』です。

●謎のフィクサード勢力
 賢く動きますので、注意してください。
『アマリリス』
 二丁のサブマシンガンを扱う高レベルのスターサジタリーです。
 命中回避に優れているようです。
・カースブリット
・プロストライカー
・インドラの矢
・不明なAスキル
・超反射神経
・精密機械
・二刀流
・残像
・不明な非戦スキル2種

『シズル』
 斬馬剣を持つ高レベルのデュランダルです。
 命中と威力に優れているようです。
・ハードブレイク
・リミットオフ
・デッドオアアライブ
・不明なAスキル
・デュエリスト
・当て勘
・超重武器熟練LV2
・高速再生
・不明な非戦スキル2種

『プリムローズ』
 フランベルジュを持つ高レベルのナイトクリークです。
 CTと回避に優れているようです。
・ダンシングリッパー
・テラーオブシャドウ
・メルティーキス
・不明なAスキル
・飛行
・ブラッディロア
・歴戦
・美学主義
・不明な非戦スキル2種

『ネームレス・ソーン』
 徒手のプロアデプトです。チームのリーダー格であるようです。
 アーティファクト『カタヴェラス・ブロッサム』を所持しています。
 死者を高い確率でEアンデッドに革醒させるアーティファクトです。
 行使には相応の代償が必要なようですが、代償は不明です。
・不明なAスキル4種
・不明なPスキル4種
・不明な非戦スキル2種

『ウィーズ』*10名
 拳銃で武装しています。ランク1のスキルをバランス良く扱います。
 ランク2のスキルを多少取得している者もちらほらと居ます。
 デュランダル4名
 スターサジタリー4名
 ホーリーメイガス2名

●恐山派のフィクサード
・荻野誠司朗
 武器は拳銃です。分かりやすい任侠型の中年ヤクザです。
 ランク2のスキルをいくらか扱うクリミナルスタアです。

・鈴ヶ崎雅尚
 武器は拳銃です。理知的な性格ですが、あくまでヤクザです。
 ランク2のスキルをいくらか扱うナイトクリークです。
 アタッシュケースを持っています。
 アタッシュケースは厳重に封印され、非戦スキル等で中身を確認することは出来ません。

・黒服:残存4名
 全員拳銃で武装しています。
 生きているのはデュランダル2名、スターサジタリー2名です。
 他、数名が倒れています。
 ランク1のスキルを適度に扱います。

●マスターコメント
 様々な可能性や作戦が想定出来るかなと思います。
 いずれにせよ、パーティの足並みは揃えたほうがいいと思います。
 pipiでした。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)

●長すぎる10sec.
 ドレス姿の少女達は、たった今墜落したヘリコプターを囲む。
 その全員が、戦場にはあまりに不釣合いなクラシカルロリィタ達だ。
 各々の手に握られた銃器はどれも軍用品である。これがまた、この上もなく似合わない。
 ころころと楽しげな笑みで。くるくると輪になって惨劇を祝う。

 悪趣味な舞踏を阻まんとするのは戦羽織を纏う幾人もの少女だ。
 その全員が敵陣に一斉に切り込む。
 敵の見分けはつけづらいが、そこはリベリスタ達が持っている情報でどうにかなるだろう。
 問題は、三名の幹部格と、リーダー格の能力だ。それぞれあまりに未知の部分が大きい。
『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)の刃が四人の少女を次々に切り裂く。二人は癒し手のはずだ。
「どこ?」
 血が溢れる。錆びた金属の生臭い香りが風に乗る。
「だれ?」
 間近な少女達には、相手の正体がつかめない。各々が思い描く敵の在り処に銃口を向ける。
「本物?」
「想定外の敵勢力」
 瑞々しいしい唇から、楽しげに紡がれるのは無機質甚だしい言葉だった。
「想定外の敵勢力」
 別の少女が繰り返し、くるりとターンした。ドレスのスカートがふわりと翻る。
「あは。咲いた」
 零れ落ちるあどけない笑みが、飛び散る鮮血に彩られていた。
「想定外の敵勢力」
「想定内の敵勢力」
 ただ一人、漆黒のドレスに身を包んだ少女が目を細める。
「想定内の敵勢力」
 ドレス姿の半数が、一糸乱れぬ整然さで順序良く振り返る。その動きは、どこか滑稽な人形劇を連想させた。
「「想定内の敵勢力」」「「「想定内の敵勢力」」」
 幼い子供達がスローガンを唱和するように、少女達は次々に同じ言葉を繰り返す。
 だが、その内容は先の言葉とは違っていた。

 次に飛び込んだのは太刀に雷撃を纏う『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)だ。
 包囲陣を崩すためには、やはり一点突破が定石であろう。
 強烈な膂力から繰り出される精密な一撃は、攻撃役の少女を強かに捕らえた。
 鮮血が舞う。鎖骨が折れる手ごたえを感じる。技量も経験も、虎鐵が勝っていた。
 平素哀れだとは、思わなくもないのかもしれないが、手加減などしていられない。
 幾多の修羅場が彼にそれを強いてきたのだ。いまさらというものである。

「ふふ、遊びましょう」
 黒ドレスの少女――ネームレス・ソーンがドレスの裾をつまんで腰を折る。
「虎鐵さん。霧香さん」
 言葉と同時に放たれる無数の気糸が、執拗な計算から狙い打たれる。
 それは名を呼ばれた二人の胸を、肩を、わき腹を瞬く間に貫き、茨のように深く食い込む。
 かわせなかった。痛打である。僅かに気おされる。だが、それは既知の技術だ。
 倒れるには早すぎる程度と言えど、僅か一撃で受けた傷としてはずいぶん大きい。
 痛打とは言え、その威力は虎鐵が放つ渾身の一撃すら上回っている。

「白いスーツを輪の中へ」
 大剣、機関銃、斬馬剣を持つ少女達を筆頭に、残る少女達は包囲網を狭めはじめた。
「踊りましょう」
 鈴ヶ崎は二度の銃撃をかわすが、斬馬剣の一撃を避けられない。
 黒服の一人が間に割り込むが、僅か一太刀で左肩から先を失い、溢れる血に沈む。
「新手。じゃあねえな」
「私たちはアークのものです。これよりあなた方の退路を確保します」
 響き渡る『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)の凛とした声。
 フィクサード同士の潰し合いなど望む所ではあるが、謀略の恐山の動き方がどうにもきな臭い。
 だが考えている暇はない。最初の目標はあくまで突破だ。
 そして恐山のエージェント達に賢者の石を持って逃走してもらうのが戦いの目的である。
「ハッ! 助太刀ってか」
 虎鐵と霧香が切り開こうとした道は、早くも壁になりつつある。だが回り込んでいる距離的な余裕はない。
 真正面から冴は愛刀を振るう。片手で振り回すことは困難な太刀であるが、彼女ほどの膂力があれば片手で扱うのがちょうどいい。
 暴風を伴う剣閃は風を切り裂き、少女の一人を跳ね飛ばした。
 いまやその向こうで防戦を強いられている恐山のフィクサード達がはっきりと見える。
 ドレスの少女達の殺到が垣間見れる。
 恐山のフィクサード達は果敢な反撃を試みながらもずたずたに引き裂かれていく。
 さらに一名の黒服が倒れた。

 ならば――急げ。

●強行突破
「いっくよーっ」
 無邪気な声と共に機関銃から放たれる業炎の弾丸が、リベリスタ達の半数、恐山のフィクサード達に向けて掃射される。
 その弾丸は倒れた者の背にさえ突き刺さり、ある者はうめき、ある者は絶命した。
「恐山の人たち、共闘です」
 繰り広げられる凄惨な光景に、目を奪われてはいられない。
 たとえ愛らしい笑顔こそ翳らせても『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)の心が折れることはない。
 強大な魔力から放たれる天使の歌が、リベリスタ達を、恐山のフィクサード達を包み込んだ。

 直後に超長距離から巨大な砲身が火を噴く。その兵器は数奇にも『超絶悪戯っ娘』白雪 陽菜(BNE002652)が『賢者の石』に纏わる悲劇のために特別に誂えた一品だ。
 通常は人の身に扱えるはずのない高射砲から水平に放たれた狙い違わず少女の一人を突き破る。アハト・アハトのリズミカルな残響がこだまする。
「咲いた」
 胸を全て空にした少女は、そのままゆっくりと倒れた。
「咲いた!」
 血が冬枯れの野草を濡らす。少女達がころころと笑う。
 戦いを笑っている。仲間の死さえも。彼女にとって、最も許せない手合いだ。

「死ぬのは誰?」
 プリムローズがトランプの束を宙に放る。
「あはっ! あなたみたい!」
 カードの嵐が黒服の一人をずたずたに引き裂いて行く。
 だが、アーリィの癒しによって傷を癒されていた彼は戦場に踏みとどまることが出来た。
「やれやれ」
 飄々とした声で『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が呟く。仮面に隠れた表情は読み取れない。
 女の子を撃つのは、余り好きではないらしい。どことなく気が重そうにも見えるが。
「まあ、撃ちますけどな」
 漆黒の短弓を携える『ばけねこ』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は、赤い瞳で戦場を見据える。
 戦況は良い状態ではない。リベリスタ達に非があるわけではないが、敵には『数になる戦力』が多すぎる。
 眼鏡を持ち上げ、尻尾が揺れた。
 だが次手の彼女の行動が、作戦の鍵になっている。今はまだ、飛び出すわけにはいかない。
 色のない少女達が一斉に動き出す。リベリスタ達と恐山のエージェント達に、至近から、遠方から、次々に銃弾が降り注ぐ。
 だが未だ消えぬ霧香の幻影を狙った少女二名が、互いの胸に銃弾を穿つ。

 そして戦場の中心に翼をはためかせて少女が舞い降りる。ヘリを炎上させる至近の炎が美しい銀髪を赤々と照らしあげた。
 墜落したヘリの近くに飛び込むなど、常識だけを考慮するのであれば余りに危険な行為である。
 だが翼を持つ少女は、別の世界に生きている。彼女等は今後ここがどうなるかを知っているのだ。この程度は考慮にすら値しない。
「ギブ&テイクよ、貴方達に死なれると私達が困る」
 無愛想に投げかけられたのは、救援のサインだ。
「貴方達だって死にたく無いでしょ、協力して」
 言葉を裏付けるように『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)は少女達の眼前に立ちはだかる。
「しゃしゃりやがって」
 とはいえ、男達も背に腹はかえられない。
 こうしてリベリスタとフィクサード達の奇妙な共闘が始まった。

 状況そのものは一向に芳しくない。想定通り、敵の戦力はリベリスタ達の水準を上回っている。
 きわめて強力な水準にあるアーリィの癒しすら、味方勢力全域を万全に癒しきるには至ってはいなかった。
 だが準備は全て整ったはずである。ここまでは全て前哨戦のようなものだ。
 ここまで瓦解しなかったこと、準備を整えきることは出来ていること。どの要素も想定の範囲内に収まっている。
 後は――
 レイチェルがWryneckを引き絞る。チャンスは切り開く。
 短弓から放たれた凶兆の鏃は戦場の中央に到達し――閃光が弾けた。
「嫌っ」
 少女達が一斉に腕で目を覆う。瞳を妬かれたのは過半数どころではない。
 光の直撃を逃れることが出来たのは、僅か二名だった。
 絶妙なタイミングでの行動を可能にする速度と、絶大とも言える精度は、敵リーダーの少女さえも上回っている。
「『黒の』レイチェルさんね」
 まるでなきに等しい。黒ドレスの少女は先ほどもリベリスタの名を呼んでいた。
「これまた厄介な子が来たものだこと」
 情報はどこまで割れているのか。

●反撃開始
 霧香が唇をかみ締める。
 敵のリーダーが所有しているアーティファクトには死者をEアンデッドに変化させる力があるという。
 形は未だ見えない。どこに所持しているというのか。兎も角、死者を増やしたくはない。
 だが敵の少女達は、倒れた黒服達をあえて攻撃に巻き込み、積極的とは言えないまでも殺害を試みているのだ。
 とにかく、突破しなければ。幸いにも、彼女の技は、敵の癒し手をかく乱させることが出来ている。
 癒し手の一名は頭を振って、自分を取り戻したようだ。懸命に唱えているのは翼を与える魔術だ。
 これを阻止するためにも、突破口を切り開くためにも、多重残幻剣を放つ必要があるだろう。
 素晴らしい精度で斬禍之剣が風を切る。目を焼かれた少女達は、誰一人として回避することが出来ない。全て直撃だ。
 更に九十九が最前線に飛び出しながらショットガンを放つ。よほどの自信があるのだろう。黒ドレスの少女の周囲はがら空きだ。
「くっくっくっく……」
 強烈な貫通力を秘めたスラッグ弾は少女の腹部に突き刺さり、その背から赤い刹那の花を咲かせた。
「少女を撃つなんて嫌な仕事ですなあ」
「綺麗!」「ずるい」「私も」
 少女達が次々に歓声を上げる。リベリスタ達に怖気が走る。
 少女達は死を恐れていない。そこにあるのは、力強い肯定だ。
「強いのね。カレー屋さん」
 黒ドレスの少女が、にこりと笑う。
 差し出される細い腕に凝縮されている漆黒の波動が一気に膨れ上がる。
「ぐほッ」
 圧倒的な闇の奔流が九十九の身を包み込み、強烈な瘴気に体が蝕まれる。身動きがとれない。
「おのれ、そんなことをしても、カレーは出ませんぞ」
 プロアデプトの技ではない。独自の技法だろうか。記憶の片隅がちりちりとする。
 どこかで受けたことがある。それは、何かにひどくよく似ていた。
 更に少女は間髪をいれず、再び多数の気糸を放つ。その一撃は九十九、冴、霧香、虎鐵に突き刺さった。
 九十九は余力のほとんどを奪われたとは言え、まだ倒れたわけではない。
 足止めには成功しているのだ。
「すまないでござるが……」
 ハットを黒く濡らすのは、血だ。
「切り拓かせてもらうでござる!」
 どれだけ傷を負おうが、これしきで虎鐵は倒れない。
 たくましい腕と共に、鬼影兼久が少女を思い切り跳ね飛ばす。
「かはッ」
 未だ炎上を続けるヘリに背をたたきつけられ、少女が血を吐く。ころころと笑っている。
「いくでござるッ!」
 切り開かれた道に、リベリスタ達が滑り込む。

「此処は私達と“荻野さんが”抑えるわ」
 クリスティーナの二連装殲滅砲が次々に火を噴き、一面に激しい雷撃を撒き散らす。
「貴方達は退避を優先して」
「強いね。最近の女共は」
 荻野が口の端を歪める。
 少女達が絶大な威力に、次々と打ち倒されていく。
 ここまでの威力を見せ付けられては、背を預けるしかない。
「分かったぜ、殲滅砲台さんよ!」
 アマリリスが再びインドラの矢で戦場を染め上げる。
 更に一人の黒服が倒れた。戦況は激しい消耗戦が開始され始めていた。
 荻野がプリムローズに向けて走る。満身創痍の少女達が、次々に銃撃を放つ。
 男のスーツがドス黒く染まっていくが、その突進はとまらない。
 対するプリムローズは翼を広げ天空に舞い上がる。狙うのは鈴ヶ崎の鞄だけだ。
「させないよ!」
 空だけは飛ばせたくない。陽菜の8.8 cm FlaK 37から放たれる砲弾が少女の翼を荒々しくもぎ取る。血が爆ぜる。
「飛べないフライエンジェはなんとやらってね~……クスクス♪」
「咲いてたのに!」
 片翼の少女は地に打ち付けられてうずくまる。白い羽が雪のように舞う。
「怒られちゃう」
 震えている。少女達の反応は、どこか人のものとは思えない異質さを孕んでいる。何かの価値観に染まっているのだろうか。
 ともあれ、今それを考えている暇はない。
「鈴ヶ崎、走れ!」
 リベリスタ達がこじ開けつつある突破口に、鈴ヶ崎が走る。

 アーリィは迷っていた。
 これだけの強烈な潰し合いの中で癒しを、僅か一度でも怠れば、被害が拡大することは間違いない。
 彼女はこの場では癒し手である。さらに重い装備に身を固め、余りに身動きがとりづらい。
 しかし駆ける鈴ヶ崎の前には、一人の名もなき少女が立ちふさがろうとしていたのだ。
 とめるべきか、癒すべきか。
 だが。彼女は決意した。絶対に負けられない。それに、癒し手は一人ではないのだから。
「邪魔は」
 少女がありったけの力を振り絞り、クォレルを放つ。
「させないよ……!」
 その一撃は強烈に魔力に支えられ、ウィーズと呼ばれる少女の背に深々と突き刺さる。
「あはっ!」
 少女はこぽりと喀血しながら振り返る。口元に笑みを貼り付けたまま、その瞳は怒りに震えていた。
 小さな銃口がアーリィに向けられる。放たれた呪いの弾丸が彼女の胸を貫く。
「皆の命がかかってるんだから……」
 僅か一撃で一気に奪われる意識を、少女は組み伏せる。
「倒れてられないもんね……!」
 小さな少女が奮った渾身の勇気、その決意が鈴ヶ崎の道を切り開いた。

 胸元のペンダントを握り締めて、黒いドレスの少女が哂う。
 その指先は、長い爪は、鮮血と共にゆっくりと己が胸に滑り込んでゆく――

●死体の花
「咲いた!」
 ウィーズ達が歓声をあげる。
 鮮血に浸ったペンダントから、漆黒の波動があふれ出す。
 天から幾重もの闇が戦場に降り注ぐ。禍々しく運命を焼く音がする。死者達が次々に起き上がりはじめた。
 全身を打ち抜かれた姿のまま、虚ろな瞳で銃を構える。
「こっからは耐える戦いでござるか……頑張るでござるよ!」
 虎鐵が吼える。眼前の敵を切り裂く。それは数十秒前までは生者だったのだ。そこには敵の少女等の仲間も混ざっていたのだ。
 冴の危惧が現実のものとなってしまった。戦いを続けられなくなった味方を殺していたのは、敵の少女達だ。
 こんな外道に、このまま負けるのだろうか。それだけは絶対にさせない。
 運命を捻じ曲げてもいいとすら思う。死ぬかもしれないなどとは、考えていない。
 必要なのは、あとほんの僅かな一押しなのだ。ならばまだ、その時ではない。
 起き上がったウィーズにはホーリーメイガスも混ざっている。生きていた時の力は使えるのだろうか。
 翼の加護だけは使われたくない。最悪の危険は真っ先に排除するまでだ。作戦を変更する必要もない。
「貴様らのような外道の――」
 全力で斬るまでだ。
「――好き勝手にさせるものか!」
 きな臭いイオンを散らせて、紫電を纏う怒りの太刀が走る。僅か一撃で死者の首が宙を舞う。

 勝てる。陽菜はまだ、負ける臭いなど感じ取っていない。
 レイチェルの閃光が戦場を焼き尽くす。
 癒し手を失って久しい敵型と、健在なアーリィによって力の天秤はようやく傾きつつある。
 九十九が、陽菜が、次々に敵を撃つ。死者も生者も霧香が切り裂く。
 シズルの一撃を受け、荻野がひざを折る。
「嬢ちゃん達」
 血を吐く。シャツが真っ赤に染まる。
「……恩に着とくぜ」
 間髪いれずに、虎鐵はシズルに鋭い連撃を打ち込む。
 鈴ヶ崎が一心不乱に走る。迫る草花の少女達を、アンデッド達を、リベリスタ達が食い止める。
 やがて彼の姿は見えなくなった。
「ここら辺でいいでござるか……」

「賢者の石はもう無い。これ以上不毛な戦いを続ける心算?」
 銃弾の雨の中で、クリスティーナが高らかに言い放つ。
 ここまでだ。長い長いただの四十秒が、趨勢の全てを決めていた。
「私達は矛を収める。貴方達はどうするの」
 じりじりとした、わずか数瞬の間。一滴の汗が少女の頬を走る。

 赤く彩られた醜悪な花園の中で、黒ドレスの少女が哂った。
「キミ達は……」
 どこから来たのか霧香は問う。素性が気になる。
「そうね。クリスティーナさん、霧香さん」
 一々名を呼ばねば気がすまない性分なのであろうか。
「ヒミツ」
 くすりと哂う。血にぬれた細い腕が戯曲の終焉を伝える。
「次は、面倒事無しの真っ向勝負をお願いしますね?」
 ネームレス・ソーンは答えない。
 ただ笑顔のまま銃弾の雨が止む。
「ねえレイチェルさん。こんなに派手な経路で、あなたは『あれ』が本物だと思う?」
 返された言葉は別のものだった。
「すっぱいぶどうの真似ですか?」
「どうかしら」
 ころころとした笑顔に包まれ、終劇の帳は下りた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 この戦場の『賢者の石』は『偽物』でしたが、敵の情報はアーク本部の貴重な資料となることでしょう。

 初動数ターンに勝敗の全てが集約されていました。
 一手一手が、戦いを白にも黒にも変えうるような状態でした。
 制御しきることが出来たのは、精度の高い素晴らしいプレイングだったからだと思います。
 被害も驚くほど少なく、かなり良い連携だったのではないでしょうか。

 際どい場面も見受けられましたが、HARDというのは、そういうものかと思います。
 ままならぬ状況の中でリベリスタ達は最善の戦略で勝利を得たのではないでしょうか。

 字数をかなり超過してしまいましたが、お楽しみいただければ幸いです。
 それではまたお会いできる日を願って。pipiでした。