● 冬の夕暮れ。 ドレス姿の少女が、真逆様に空から落ちてくる。その背には翼。 異常な事態をジュブナイルと分け隔てている要素は二つある。 一つ。それは少女が持つ炎のように波打つ刃の両手剣を握り締めていること。 もう一つは、少女の眼下に見据えられているのが黒塗りのヘリであることだった。 刹那の交差。あどけなく透き通る笑顔で、少女は刃を振るう。 「――イィイヤッホーウッ!!」 ただの一撃でプロペラをもがれ、大きく傾くヘリは、そのままゆっくりと森中に開けた草地へと舞い落ちていく。 ガラスの破片が飛び散る。鉄の巨体が鉄板を散らせながら横滑りし、冬枯れの野草達が引き裂かれた。 激しい振動を伴う不時着は、いっそ墜落と表現したほうが適切かもしれない有様だ。 ヘリコプターから転げるように飛び出した人影は、皆スーツやコートを纏っている。 アタッシュケースを抱えて起き上がる男が頭を振る。額から血が流れる血が、彼の白いスーツを汚した。 このケースだけは死守しなければならない。この中には『賢者の石』がおさめられているはずだ。 男達はケースを『恐山』の施設に移送しなければならないという任務を帯びていた。 その背をヘリコプターの爆発が更に彩る。 事態はそれだけでは済まなかった。 男達を取り囲むのは十名を越える少女達。いずれも華やかなドレス姿で、武器を帯びている。 「ヘタクソ!」 「大丈夫だって」 「バランス眼鏡が居なけりゃ、こんなもんかよ」 「余計なこと言わない!」 「あはっ!!」 華やかで姦しい罵声に混じり、銃弾が男達に振り注ぐ。 「テメェ等、どこのモンだ」 何故こんなことになったのかと、男達には思案を巡らせる暇もない。 男達とて神秘の世界を生きる者達だ。かなりの実力者も混じっているはずだが、不意打ちとはいえあまりに一方的な展開だった。 「きゃははッ!」 「ヒミツ!」 銃弾をかわしながら反撃を試み始めるが、数も実力も明らかに劣勢過ぎる。 「鈴ヶ崎、行けるか?」 中年の男が白スーツに目配せした。どちらも見るからにその筋の人間だと分かる。 「どうにもねえ」 少女達の二人をかわし、一人に銃弾を叩き込み、男達が走る。鮮やかである。熟達した手並みだ。 だが、そして。程なく吹き付けられる銃弾の雨に、男達は踊る。 墜落してからわずか三十余秒の出来事は、それでお仕舞いだった。 ● 「状況を。その。説明します」 生真面目そうな少女が、ぺこりと頭を下げた。 無機質なブリーフィングルームに、桃色の髪が揺れる。 新人フォーチュナの『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)だ。 緊張しているのだろうか。モニタを指差す手付きは、どことなくぎこちない。 「恐山が所有している『賢者の石』を輸送中に、謎のフィクサード組織に襲撃されました」 恐山は、日本のフィクサード主流七派の一つで、あの千堂が所属している派閥である。 『謀略の恐山』等と呼ばれ、キレ者の千堂まで抱える彼等が、早々謎の組織に醜態を晒すとも思えない。 「これってアークからの輸送なの?」 そんな話は聞いてもいなかった。 「いえ。恐山が拠点から別の拠点へ石を搬送している際の出来事です」 なるほど。 「また今回、輸送中の襲撃が数件同時に起こっています」 どういうことだろうか。 「アーク本部は、移送中の賢者の石が、多数ダミーである可能性を推測しています」 どれが本物か偽者か、わからないということか。 「あるいは、全て偽者かもしれません」 なるほどね。 「状況から、千堂さんが関わっている可能性も、極めて薄いようです」 それだと最早単純に、フィクサード同士の食い合い出しかないのではないかとリベリスタ達は思う。 アークがわざわざ手を出すまでもないように感じられるのだが…… 「アークと恐山は停戦協定を結んでいますが、その終りが近づいています」 そう言えばそうだった。もう、そんな時期になるんだった。 「協定期間中ですし、石はあくまでも恐山のモノですから、持ち帰らせてあげるのがいいと思います。が」 「が?」 「でも、場合によってはアークが確保すれば。……えっと」 「その後の交渉の材料なんかになるかもしれない、と。そういうこと?」 「はい。そのままアークのモノにするという選択も、ないわけではありません」 なるほど。もちろん石を無理矢理ブン盗るわけにはいかない。難しい所だが、これも政治というやつだろうか。 石がアークに与えた恩恵が非常に大きい以上は、一つでも余計に確保したいものではある。 「結局、どっちのほうがいいの?」 「そのあたりは、現場にお任せするという判断です。謎の組織にだけは、渡さないで下さい」 「それじゃ、あとは」 謎のフィクサード組織について、知れる限りのことが知りたい所だ。 「敵の構成や能力は、可能な限り割り出しましたが、全てを判明させることは出来ませんでした」 ごめんなさいと、少女が首と垂れる。きつい条件ではあるが、致し方ない。 「それじゃ、やってみようか」 桃色の髪の少女は、静謐を湛えるエメラルドの視線をリベリスタに送る。 「どうか、ご無事で……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月21日(火)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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