●懺悔室 廃墟と化した教会にも懺悔室はある。 ただし入ったとしても、罪はあなたを赦さない。 ●罪と罪 覚醒した『懺悔室』の対応が、今回の依頼だった。 具体的には懺悔室の椅子がアーティファクト化したのだと言うが、効果諸々を総称した『懺悔室』で良いだろう。 対応とは簡単なことで、室内に入り、特定の戦闘をこなし、現れる敵を殺せばアーティファクト化は解け、何物でもないガラクタに戻るという。 それを聞いたリベリスタ達はリラックスした表情を浮かべたが、次の内容を聞いて表情をこわばらせた。 「現れる敵は、あなたの『罪の意識』です」 たとえば、大事な人を失ったことがあるだろうか? たとえば、誰かを犠牲に生き延びたことがあるだろうか? たとえば――。 たとえば――。 たとえば――。 人の数だけある『罪の意識』を鏡のように顕現し、あなたを殺しにかかる。それがこのアーティファクトの能力だった。 罪の再認識と、死である。 不思議なことに、部屋に入った時点で懺悔室内の仮想空間に跳び、一人一人バラバラに分断されるようだ。 『罪の意識』はあくまでアーティファクトによる再現でしかないので、単純な遠・近距離攻撃しか持たないが、こと戦闘能力に関してはかなり高いと言う。 「自分の罪と向き合って――殺してください」 それが、今回の依頼だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月17日(金)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003) 白い翼を大きくして、雷音はゆっくりと螺旋を描いていた。 万有引力に抵抗をしながら、地上二十五センチの所で爪先を立てる。 顔を上げ。 目を開ける。 ひび割れたステンドガラスに、羽を広げた天使が描かれていた。 「天使、か」 良い気になったものだ。 ボクは何度、手の隙間から他人の涙を零しただろう。 ボクは何度、他人の伸ばした手を掠めただろう。 ボクは何度、声にならない他人の悲鳴を聞き漏らしただろう。 こんな奴が天使なものか。 足手まといの、お荷物だ。 「だから、君か」 「そうだよ」 目を開け。 顔を上げる。 黒い翼の天使は一言、声のない声で囁いた。 「――罪(ボク)だよ」 教会の長椅子の上を滑空し、雷音は身体の上下を反転させた。 ぴったりと追いついた天使が、表情もなく手を伸ばす。 鼻と口を塞いだ右手が、そのまま雷音の頭を地面に押し込む。 長椅子を三つ破壊しながら引き摺られる。 回転して飛ぶ木片。 突き出した護符が瞬時に鴉と化す。 しかして鴉は首を握られ、握力でもって千切られた。 「無駄だよ」 声のある声で言う。 雷音の真横に流れ落ちた血が頬に跳ねた。 もう一枚の護符を突き出――。 手首が跳ね飛んだ。 「ぃぅ――!!」 悲鳴が出ない。 喉に相手の手が食い込んでいるのだ。 顔が暖かい。 噴水のように飛んだ血が自分にかかっているのだ。 天使の顔を濡らして、万有引力にそって落ちているのだ。 混濁。 ――雷音は――の。 朦朧。 ――の――で。 湾曲。 ――拙者の――よ。 暗転。 意識消失。 ――雷音は、拙者の癒しでござるよ。 フェイトが廻り、目が開く。 ぽたり。 顔が暖かい。 万有引力で落ちているのだ。 だがこれは、血液じゃない。 雷音はそっと天使の胸に触れた。 「君は、きっとボク自身なんだ」 嫌われるのが怖くて。 いい子でいた。 腕を相手の背中に回す。 「否定して、ごめんなさい」 天使の背を食い破り、白い鴉が飛び立った。 身体の上から重みが消えた。 雷音は目を瞑る。 白い羽が一枚、頬にかかった。 ●『外道龍』遠野 御龍(BNE000865) 遠野御龍という女の話を、僭越ながらさせてもらえないだろうか。 神社の境内で煙草を咥え、榊を放って剣を抜く。破戒も破戒。乱暴者で横着者で、ひとたび戦となれば悪鬼羅刹もさながらに斬っては踏んでは潰してはの傍若無人。 誰もが彼女をそう言う風に、思っている筈だ。 ゆえに今一度、遠野御龍の話をする。 大活劇をご所望であれば、ご期待に添える保証はない。 「くっ……ううう……!」 御龍は歯を食いしばった。 痛み故ではない。悲しみ故ではない。 傷もなければ、涙もない。 知る者に月龍丸と呼ばれる、タタラ場の大窯を塞ぐ程の鉄塊を、つい先ほど振り下ろしたばかりである。 そうであれば、恐らく敵か何かを叩き潰し、いつもの顔でぎらぎらと笑っていようものだ。 しかし。 「うううう……ううううううう……!」 鉄塊の下に男が敷かれていた。 体格から分かるが、頭は潰れている。 御龍が鉄塊を振り下ろしたが故、落ちる壺が割れるが如く、只当たり前に砕けたのだ。 顎の力が無くなる程に奥歯を噛み、御龍は振り返る。 胸の前で手を合わせて、女が一人立っていた。 「――」 何か言う。 片耳を強く叩いて、御龍は叫んだ。 「所詮まやかし! 我は罪有る外道巫女! 蔑まれるは、覚悟の上……!」 鉄塊を振り上げ、掲げ、振り下ろした。 落ちる壺が割れるが如く。 女が鉄塊に敷かれていた。 御龍は着物の襟を引き乱し、自分の胸に爪を立てた。 痛みだ。 痛みを感じるのだ。 刺された時も、殴られた時も、撃たれた時も、撥ねられた時も、潰された時も、落とされた時も、こんな痛みは無かった。 うつ伏せの女が、形の残った頭でこちらを見た。 「うう……うううううう……!」 唸っているのか。 泣いているのか。 呻っているのか。 啼いているのか。 「血を……」 歯を食いしばったまま、唱える。 「血を呪い神を呪い、運命を呪う。悪鬼羅刹の、外道龍巫女なり!」 振り上げて、掲げ、振り下ろす。 壺が割れるが如く。 女は消えた。 「…………」 御龍は煙草に火をつけて、その場にどかりと腰を下ろした。 「運命なんてものは、無い」 されど選ばれる時はある。 「所詮あたしは、悪党さねぃ……」 煙はよれて、天井を撫でる。 ●『虚実の車輪』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082) 影が走り、足音が鳴る。 黄金色の髪が二房浮き上がり、肌色の多い胸元を翻し、シルフィアはヘビーボウガンを構えた。 照準曖昧。無造作発射。 窓から入る日差しを突き抜けて走る矢が、影に入りかけた所で叩き斬られた。 「撃つなよ、シルフィア」 陽光に照るナイフエッジ。 影から浮くように現れた男は、肩をすくめてそう言った。 「やはり……エリックなのね」 だったらどうする。 囁きは大気に紛れ、シルフィアの頬には一筋の紅色が走った。 切れた髪がゆらゆらと舞う。 背後5時方向に着地音。ボウガンを片手持ちに代え、右腕を後ろへ振りかざした。 「先ずはこれで!」 零距離、ポイズンシェル。 肩を抜けた弾丸が背後の窓を割った。 外へと砕け飛ぶ硝子片。 ボウガンを持っていた手を離し、シルフィアは180度反転。今度は左手を男の顔面へ突きつけた。舞い広がる二房の髪。 躊躇いなく発砲。 男は大きく仰け反る。 ボウガンが床につく前に踵で柄を蹴り上げ、右手で引っ張り込む。 先端を男の胸に突きつけ、体重をかけて押し倒す。 ボウガンの先に足をかけてリロード。 ガチンという独特の音が鳴り、矢の先端が男の胸へ向いた。 男が何か言う。 女は何かを言う。 男は笑い、女は笑わなかった。 「越えて見せる」 魔方陣が展開。 男は最後に、聞きなれた言葉を言った。 「――――ぜ、シルフィア」 「私もよ」 シルフィアは、マジックミサイルを放射した。 ●『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434) 楠神風斗は人を殺したことがある、と言ったら語弊があるだろうか? 時にして一週間程前、8歳になるノーフェイスを殺害した。 ノーフェイスだ。 アークの依頼である。 正当性のある、正義故の、妥当な悪者退治だった。 楠神風斗は、それを今でも引き摺っている。 埃の浮いた教会だった。 風斗は周囲を見回して、誰もいないことを確認する。 「こいつは俺にどんな罰を与えてくれるんだろうな」 ああ受けてやるとも。望む所だ。 剣を握りしめて言う。 誰にか? 自分にだ。 「どれだけ自分勝手と言われようと、オレはオレの居場所を護る。必要なら子供だろうとなんだろうと殺すさ。オレは死ぬまで止まらんぞ!」 「だよな?」 声がして、風斗は振り向いた。 「オレは理由があって殺してるんだよな? だから、大丈夫だよな?」 風斗が、風斗と同じものが、そこに立っていた。 万年筆と紙が、はらりと落ちる。 べっとりとついた血で、書かれている内容は読めなかった。 そして彼は、子供の足首を持っていた。 「俺がこんなことしたのも、皆のため、なんだよな?」 持っているものを顔の前に翳して、一歩二歩と歩いてくる。 風斗は無言で首を振る。 「ノーフェイスを救うことはできない筈だ。俺はちゃんとそうやって『感傷』をした。だから俺は、悪い奴じゃないよな?」 「いや……」 「最大多数の最大幸福のため、俺はノーフェイスを狩った。オレは勿論キツかったが、世界の平和が守れて素晴らしい。そんな考えをしてる自分に反吐が出る! ……そうやって、俺はちゃんと考えてるんだぜ? だからさ、悪くないだろ?」 「やめろ」 剣を振り上げる風斗。 男は持っているものを翳した。 「…………っ!!」 そのまま持っているものを叩きつけてくる。 大した衝撃でもないのに風斗はよろめき、その場に倒れ伏した。 痛い。 痛い。 痛い痛い。 「感傷か。感傷だよな……分かってるさ、そうだ、オレは、可哀そうになりたかっただけだ!」 誰が言ったのだろう。 自分か? あいつか? どちらおも同じか? 「可哀そうだって、悪くないって、嫌いじゃないよって言われたい。それだけのために死んだ子供をこうやって引きずって来たんだ。それが俺の――」 「罪だ!」 巨大な音がした。 風斗が床を叩いた音だ。 怒りによって、悲しみによって、悼みによって、死によって、彼の腕は今、血に汚れていた。 それゆえに、彼には力が沸いていた。 転がった剣をそのままに、風斗は立ち上がる。 相手の襟首を掴み、想いきりぶん殴った。 殴る。殴る殴る殴る殴る殴る! 「その通りだ。言う通りだ。でもなァ――!」 拳を振り上げ、相手を目一杯の力で殴り飛ばした。 仰向けに転がり、動かなくなる。 「オレは『可哀そう』になんてならない! オレ達が選んだ昨日だ。オレ達が決めて、オレ達がやった。だからこうして……出てきたんだろ」 「……そうさ」 目だけが開き、風斗は風斗を見た。 「だから絶対、忘れないんだ」 それはどちらの言葉だったのか。 風斗は消え。 部屋は風斗だけになった。 ●『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007) 愛し合うことは人生で一番大切なこと。 愛するために生まれて、愛し合うために生きていく。 でもそれが、上手にできないものなのよ。 だから罪姫さんは、皆をアイしてあげられない。 ちゃんとアシしてあげられないの。 これが罪姫さんの罪。 これが罪姫さんの愛。 だから向き合い、アイし合いましょう? 薄暗い教会だったわ。懺悔室に入る前も、とても暗くて怖ぁい所だったけれど、此処ほどじゃなかったわね。 こんな場所なら出てきても仕方ないと思うの。 罪状たっぷり選り取り見取り、罪悪だらけの罪姫さんの、いちばんさいしょの罪の塊。 誰って? 私のアイした、お父さん。 あの日もそう、こんな風だった。 外は雨が降っていたかしら? 風が吹いていたかしら? もしかしたら、雪が降っていたかもしれないわね? でもよく覚えていないの。 だってそうでしょう? 罪姫さんは、首をきつぅく握りしめられていたんだもの。 あの日と同じように。 あの日と同じ人に。 それからどうしたかって? 随分急かすのね。 アイしたわ。 ……それではだめ? だって、言葉が他に見つからないんだもの。 そうね……強いて言うなら、二人ともぎゅってし合って、アイし合って、アイしあって、アイし合ったわ。 あ、そうそう。 お父さんはこうも言ってたわ。 愛してる。愛してる。愛してから一緒に――って。 変なことじゃないわ。ちゃんと罪姫さんをアイしてくれようとしていたもの。 有言実行。 でもね、アイされてあげるわけにはいかなかったの。 罪姫さんはまだ、贖罪の途中だから。 もっと沢山、世界中の全ての人をアイしてあげないといけないから。 だから、ごめんなさいって――。 「アイ(殺)してあげたのよ」 ●『LawfulChaticAge』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329) 紗理は裕福な少女だった。 『だった』と言うよりは『だと思っていた』と述べた方が楽だろうか。 パンとスープを食べ、しっかりと勉学に励み、誇りをもってお稽古をしていた。 それが貧困の民の上にあったことを知った時のことを――。 「思い出し……ましたよ」 紗理は今、怯える人々に囲まれている。 ずきりずきりと頭が痛む。 紗理は眉間に皺を寄せて、周囲の光景に目を走らせた。 「罪の意識。私の罪は……」 ずきりずきりと頭が痛む。 ぼろきれを着た少女が。 泣く赤子を抱え、頬をこけさせた女が。 腹だけが異様にふくらんで見える少年が。 松葉杖を地面に横たえた老人が。 紗理をじっ……と見つめていた。 それだけだ。 頭を抑える。 カトラスは抜いていない。 抜けと言うのか? 無辜の民を斬るためにか!? 「これが、罪による攻撃。痛むのは……心だとでも……」 ずきりずきりと頭が痛む。 ずきりずきり。 ずきりずきりずきり。 ずきりずきりずきりずきりずきり。 ずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきり。 ずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきりずきり。 血管が千切れたのだろうか。額から血が溢れ片目を濁らせる。 紗理は、自分が両手を地につけていることに、漸くにして気づいた。 頭を振る。ずきりと痛む。 目を瞑る。 痛みが引いていく。 ああそうか。 死ねば、痛くないのか? ――待て。 目を開ける。 視界が既に赤かった。 襟から血が流れ込んで気持ちが悪い。 息を吐こうとしたら血が吐き出た。 それでも立つ。 私が腰にカトラスを下げたのは何のためだった? 世界に運命を握られてでも悪しき神秘を相手取ったのは? いつ死ぬかもわからぬ命を、戦場に投げ打ったのは!? 「その罪科、受け入れましょう。そして――」 瞬間、紗理は複数に分裂した。 それも一瞬のことである。 カチンとカトラスを鞘に納めた時には既に、紗理は一人だけだった。 少女が。 女が。 少年が。 老人が。 血を吹いて死んでいく。 降りかかる血をそのままに、紗理は目を閉じた。 「乗り越えます」 ●『ペインキングを継ぐもの』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499) ユーニアが立っていたのは、窓の割れた教会だった。 恐らくお綺麗な装飾品であったろうステンドガラスは端に濁った色の欠片が残っているだけだった。 じゃらりと硝子片を踏む。 同時に背後で同じ足音が聞えた。 「お前が、俺を罰してくれるのか? なあ――」 眼帯を外す。 振り向くユーニアは、頬を雫で濡らしていた。 「親友」 少しだけ、語る。 ユーニア・ヘイスティングスは自らをガキと称する程度には世の中を知っていたが、その切欠があろうことかエリュージョン事件だった。 その際彼は右目に傷を負い、親友も失った。 彼はそれを、自分の所為だと思っている。 「――」 少年が両手を広げる。 馬鹿みたいだろ、俺が死んでお前が生きてるんだぜ。 そんなセリフでも言いたげだったが、彼の右手に硝子片が握られていたことで全てが台無しになっていた。 ああ、台無しだとも。 ユーニアは右目を手首で拭うと、少年へと飛び掛った。 三十センチ程の棘を、叩きつけんばかりの勢いで少年へ突き刺す。 対して、ユーニアの胸には同じくらいのガラス片が突き刺さった。 「懺悔する気なんてねーよ」 引き抜き、再び突き刺す。 今度は呪いを帯びさせてやった。 「許されたい奴のやることだろ、懺悔って。許されたくって、こんなトコまで来たんじゃねーんだよ!」 再び突き刺す。 深く刺して、抉り込んで、引き抜いて、また刺す。 少年の血が飛び散るたび、自分の血も飛び散った。 「俺はただ――」 突き刺す。 「俺はただ――!」 腕を大きく振り上げる。 「罰してほしいだけなんだよ!」 振り下ろす。 棘が少年の眼球前2センチの所で止まった。 同じく止まるガラス片。 「――」 何か言ったのだろうか。 声はよく聞こえなかったが。 唇の動きは分かった。 「ああ、そうだな」 ユーニアは腕を押し込んだ。 「悪いけどな、おれが会いたい奴はお前じゃなかった」 ぐじゅりと音が鳴る。 ユーニアは左右非対称に笑って、少年を突き飛ばした。 「消えてくれ」 眼帯をつけ直す。 もう当分、外すことは無い。 ●『祓魔の御使い』ロズベール・エルクロワ(BNE003500) お祈りは、いつもしている。 いつもやっていたことだ。 赦されなくても、お祈りはちゃんとしていた。 だって少年は分かっているのだ。 自分はきっと、悪いことをしているのだ。 凄まじい金槌音と共に火花が散る。 身体中がビリリと振動するのを、ロズベールは全力で抑え込んだ。 「やっぱり、同じですね」 十字架のようなハンマーを振り回した状態のまま、半回転で飛び退く。 黒羽の少年が大股で踏み込み、ハンマーを振り下ろした。 砕け散る床タイル。 弾け飛ぶコンクリート。 ロズベールは小刻みに後方へ跳ぶ。その度に椅子が砕け、床が砕け、綺麗な置物が砕け、絵画が醜くへこんだ。 パイプ式でもないオルガンを叩き潰した所で、ロズベールは足を止めた。 「主よ――」 ハンマーの柄。その先端を地面に立てる。 両手で柄を握り込み黒い闇を渦巻かせる。 しかし落ちたガラスに映り込んだのは、墓に縋る幼子のシルエットだった。 シルエットは翼を広げる。 迎えに来た天使のように。 もしくは、殺しに来た悪魔のように。 「罪を喰らうことを、お許し下さい」 十字架は赤く染まり、反射した光がロズベールの頬を照らした。 人を恨みました。 妬みました。 呪いました。 そんな感情をみな、呑みました。 ひつようあくで、呑みました。 ごめんなさい。 ロズは――。 「ぜったい、負けません」 振り上げた十字架が、万有引力で振り下ろされる。 黒羽の少年を叩き潰し、轢き潰し、砕いて弾いて拉げさせ、殺しに殺して、手を離す。 「……」 胸で十字を切る。 お祈りは、いつもしている。 廃墟の教会で八人の男女が目を覚ます。 そこには、壊れて砕けた懺悔室が、跡形もなく落ちていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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