●Level:III 紙が一枚灰に変わった。それには名前が書かれていた。 言葉ではうまく説明できないが、あまり良い気分にはならない。 煙が匂う。それは割と心地良い。 手続きはたったこれだけ――。 実にふざけた話だぜ。 ●Playful Smile 「やはりアークに嗅ぎ付けられたようです。相馬さんらも……」 部下からの報告に男は別段驚いた様子も見せず、手元の器から上等のウィスキーボンボンを取り出して一粒口の中に入れた。 「――次のスケジュールは?」 訊きながら男は美味そうに舌を転がす。 「あがっています」 と、部下は答える。 「連中は?」 「来るだろう、と」 男は一瞬、思案するように天井を睨め上げ、そして目で笑った。 ●ブリーフィングルーム 「よく来てくれたな。先日からの流れで黄泉ヶ辻の一派がまた新たに動く気配を見せた。すまん、そういう訳で追加の仕事を頼みたいんだが、……まずはこれを見てくれ」 その日集まったリベリスタ達は、モニターに映される不可解な光景を目の当たりにすることになる。 ------------------------------------------ ディメンション・ホールからぬいぐるみのように愛らしいアザーバイドが現れ、真紅のスーツを纏った男が一人、大きな石炭の塊を持って近寄って行った。 男は石炭をアザーバイドへ手渡して交渉を持ち掛ける。 音声が欠落していて会話の内容までは定かでないが、果たして合意は得られたと見え、異界からの来訪者は自らすすんで男の後に付いて歩き出した。 ------------------------------------------ 「む、この男?」 「まさか……相馬 慶壱楼……!?」 「そう。先日の依頼で死亡が確認され、遺体もアークで処分されたはず。――にもかかわらず、だ」 「そんな……」 「双子や兄弟である可能性も考え身元を洗ってみたが、少なくともそういったデータは無い。他人の空似ってのも考え難い。……まあ、何か裏があるというのが妥当な線だろう」 死んだはずの相馬がなぜ再び活動しているのか。黄泉ヶ辻が復活の秘術でも編み出していたというのなら、これは由々しき事態である。 そして、なお継続しているアザーバイドへの接触。 しかし、今回の映像をみる限りでは強行的な手段で相手を拉致しているわけではなく、周囲に対して何らかの 『悪事』 を働いているようにも見えない。 「そこがミソなんだ。両者合意の上での友好関係なら、黄泉ヶ辻といわず俺等アークだって結んでいる。さすがにそれを妨害したとなれば、こっちが正当性を欠くことになる。他の組織だって黙っちゃいないだろう」 『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)は苦い表情をつくったまま、しばらくモニターを睨み続けていた。 「――に、してもだ」 伸暁は言う。 アークが斯かる事象を捉えたことには何か意味があるはずだ、と。 「対症療法的なことを繰り返すだけじゃ埒が開かない。どうにかして奴等の尻尾を掴んでおきたいところだが……さて、どう出る?」 現場に姿があるのは相馬一人だけの様子。場所は東京の奥多摩湖畔とのこと。 今回の愛らしいアザーバイドと黄泉ヶ辻との間で、一見、平和裏に交渉が成されているのは事実だ。 相手はこの世界の人間と対話によって友好を結べるほどであるから、我々と荒事になる可能性も低いと考えて大丈夫だろう。 しかし、問題は黄泉ヶ辻の真意である。 相馬が言っていた 『アザーバイドとの協調』 は、果たしてどこまでが本当なのか。 伸暁は再び画面を睨み、そこには映っていない何かを見通そうとでもするかのように低く唸りながら眉根を寄せ、首を傾げる。 「たしかにイヤな予感はするんだよなぁ。ただ――」 独り言してリベリスタ達へ向き直った。 「イヴも、『気をつけた方がいい』 とは言うんだが、具体的に何なのかアイツにも掴みきれないらしい。不安ばかり煽るようで悪いな。一応用心だけはしといてくれ」 ――アークのリベリスタは彼らに対し、どう向かい、何をするべきか。 * ●依頼目的 相馬 慶壱楼および黄泉ヶ辻について何かしらの情報を持ち帰ること。 フォーチュナ達曰く、「嫌な予感がする」。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:小鉛筆子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月19日(日)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●【Soma】(ソーマ) 古代インド神話に登場する神々の飲料。 活力と霊力をもたらす霊薬。 祭式における供物。 「特に異常なしかな。とりあえず退路の見当はバッチリだよ。オレも今から合流するね」 上空から不審な人影等がないか見通す『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)は、現状を先のとおり仲間へ報告した。 生憎の曇り空。風も吹いていて、空の上は身を切るような冷たさが覆っている。 野鳥の群れがウルザの頭上を横切ってゆく。背景は淀んだ灰色の空だった。 (それにしてもなぜ、今、相馬なんだ?) ウルザはそこに引っ掛かりを覚えていた。 連中が再び相馬 慶壱楼を引っ張り出す理由は何だ――? (相馬は、オレ達の好奇心を刺激するための餌で、これは取引以外にもオレ達を狩る意味もあるのかも) そこに黄泉ヶ辻がアザーバイドから得た利益が絡んでいるのだとしたら――? (殺した相手を複製する能力……?) 「ダメだ、ここから先にいったらパラノイアだ」 次々と去来する妄想を振り払うようにウルザは頭を振った。 「ただの百面相かもしれないし……とにかく現地で確認しないと」 ●黄泉ヶ辻の書いたシナリオ 服を着た齧歯動物を思わせるアザーバイドは相馬から受け取った石炭を抱えて異界の言語で謝辞を述べていた。 リベリスタ達が現場に到着した頃には相馬とアザーバイドの交渉はすでに同意の方向で纏まっていた。 ≪この世界では石炭が豊富に手に入ります。こちらとしても是非友好を結び、互いの協力関係を築いていきながら相互発展のために末永いお付き合いをと考えてまして……≫ 相馬は相手の言語を用いてこのような内容を伝えていた。首から提げた奇妙な石をマイクのように使っているところから、あれは翻訳の機能をなすアーティファクトか何かであろう。 (相馬…… ”死んだ” 筈のオトコ) 『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)は耳で向こうのやり取りを探る一方、刺し通すような眼で相馬の姿も観察する。 幻想殺しの瞳に映る相馬に変化は無い。少なくともあの外見はまやかしの類によるものではないようだ。 ということは、やはり……? 「黄泉ヶ辻め。妾らアークに黙ってアザーバイドと仲良くやっておるとは!」 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)は自分達を出し抜かれた事が面白くない様子である。 ≪歓迎のしるしに、これから私どもの館へご招待します。きっと気に入ると思いますよ≫ 黄泉ヶ辻からの誘いに快く同意を示したアザーバイドは、とうとう相馬の手引きに応じて足を踏み出した。 ≪今度はそのコを喰いモノにして利用するつもり? そのコから離れなさいな≫ 口火を切ったのはおろち。 異界語を用いたのは勿論アザーバイドへの警告を強く含めてのこと。こうしてリベリスタ達は二人の行く手に立ちはだかった。 「アーク、だな?」 フン、と鼻を鳴らす相馬。後ろ手でブレイクゲートを行使し早急に穴を塞ぐ。 「……いま接客中なんだよ。分かるだろ? 営業妨害は勘弁して欲しいね」 横にいる客人を意識してか、相馬も穏便な態度を崩さぬ姿勢でおろち達を見渡した。 ≪ソーマさん、彼らは?≫ ≪なあに。私どものちょっとした商売敵でしてね。何かと因縁付けちゃあ、こうやって邪魔をしに来るので困ってるんですよ……≫ 「俺達は戦いに来たわけじゃねーんよ」 話し合いに来た、と『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)はこちらの意向を伝える。ついでに愛嬌のある笑顔をアザーバイドへ向けて敵意の無い旨を強調しておくことも忘れてはいない。 当のアザーバイドは僅かに鼻を動かしたものの、自分の取るべき態度を決めかねて相馬を見上げた。 相馬は大きな溜息を吐く。うんざりした様子を露わに俊介達へ答えた。 「お客さんをよそにのんびり世間話っつーわけにはいかねえだろ。悪いがこっちゃ急ぎなんでね。退いてくれって」 ≪なら質問に答えることね≫ すかさずおろちが異界語で切り返す。 「おい……そういう嫌がらせは止めろっつってんだろーが」 アザーバイドは不安げな表情でおろちと相馬を交互に見やっていた。 「ほら見ろ! 怖がってんぞ」 相馬はアザーバイドの背をさすって彼を落ち着かせながら耳元に囁いた。 ≪申し訳ない。こういう手合いがこっちの世界には多いもんでしてね……私どもも大変なんですよ。もしかするとお見苦しい所を見せなきゃならないかもしれませんが、ご容赦願いますよ≫ 相馬にそう吹き込まれたアザーバイドはリベリスタ達に対する警戒の色を強めたようで、石炭を抱える腕にぎゅっと力を込めて注意深くこちらを見始めた。 「……あいつ、俺達を悪者に仕立てる気かよ?」 相馬の言葉で態度を硬化させたアザーバイドを見て、俊介はおろちへ尋ねた。 「そういう魂胆らしいわね」 『メイド・ザ・ヘッジホッグ』三島・五月(BNE002662)はじっと相馬を見詰めている。先の依頼で直に相馬と対峙しているため、その記憶を頼りに前回との違いがないかを見極めようとしているのだ。 「先日はどうも。私のこと、覚えていますか?」 五月は一歩進み出て相馬に声をかけた。 「さて誰だったかな。イイ女ならともかくガキには興味無いんでね」 ぞんざいに答える相馬。 「この間は貴方の蹴りで倒されましたね。痛かったんですよ」 と、五月は鎌を掛ける。 実際に五月を倒したのは蹴りではなく、銃撃だった。もし相手が覚えている風を装って帳尻を合わすならば、ここにいる男は ”別人” という疑いが強まる。 そして相馬は鼻を鳴らした。 「いちいち覚えちゃいねえよ。俺に謝れってーのか?」 どうでもいいという風な態度で五月を見下ろす。 「違います」 しかし五月は相馬を見据え、きっぱりと答える。 「貴方達の真意を知るために来たんです。答えて頂くまではこちらも退くつもりはありません」 ●バードウォッチング 相馬と接触する班とは別に、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は単独で現場周辺を巡回していた。 ”予期せぬ事態” に迅速な対応をするためである。 辺りにはレジャーを楽しむ一般人の姿もちらほらと見受けられる。今のところ特に不審な気配は感じられない。 人々の様子を横目に見ながら竜一は今回の黄泉ヶ辻の狙いについてひとしきり考えを巡らせる。 ……前回までの報告によれば、黄泉ヶ辻は ”アザーバイドとの協調” を望んでいるとのことだった。おそらくこれに嘘偽りは無い、と竜一は思う。 奴らとしては、協調した先にある利益の確保が目的だろう。 (アザーバイドたちの世界の技術ってのは、厄介なものだしな。穏便に手に入れられるなら手に入れたい筈だ――) 更に憶測の域へ踏み込んで云えば、そうして築いた幾つかの関係からは既に何かしらの恩恵を得ていると考えるべきで、相馬に関するカラクリもそこに答えがあるような気がしている。 ふと、妙な場所にワンボックスカーが停めてあるのを発見して、竜一は不審に感じた。 見た目はどこにでもありそうな自家用車だが、万が一ということもある。中を確かめるため慎重に近寄って行くと、その途中で不意に後ろから呼び止める声がした。 「あの、すません何か……?」 怯えたような、しかし明らかにこちらを怪しんだ目の男性が小型一眼レフを携えて竜一を追ってきた。 * そのやり取りは、更に別の場所で集音しながら有事に備えて待機している『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)の耳にも届いていた。 (一般人か……) 一瞬、敵の伏兵かと気を揉んだだけに、龍治もほっと胸を撫で下ろす。 相馬とアークの仲間達は数十メートル先でやり取りを始めている。龍治の居る場所は一段高い山の斜面であり、群立する木の陰にもなっているので、相馬に発見される可能性は低いだろう。 交渉はひとまず仲間達に任せて、龍治は周囲の不審な音を拾うほうに意識を向ける。 きれいな鳥のさえずり。 湖畔のせせらぎ。 あるいは人々の足音。そして他愛も無い会話。 人の足音――。 『あそこにいる』 そんなひそひそ声が比較的近い所から聞こえた。 こちらへと向かってくる足音。 二人組か。 龍治は音のする方へ顔を向けて注意を払う。茂みを掻き分けて近寄って来たのは同じ顔の男性だった。 「便追(ビンズイ)だなあれは」 言った後、男は龍治の視線に気付いたのか、軽く会釈を寄越した。 「こんにちは」 バードウォッチングをする双子だった。 ●予定不調和 エネミースキャンによる『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の見立てでは、相馬に同行するアザーバイドに過度の攻撃性は無いと判断された。 とは云え、上位世界の存在である以上、彼女の眼力を以ってしても全てを見極められたとは言い難い。 さて、次はいよいよ相馬の思考を視覚化して隠された情報を読み解く番である――。 「閉鎖主義の黄泉ヶ辻の割には随分活動的ですね。捕まえたアザーバイドは六道あたりで実験動物ですか?」 「妾らも混ぜるのじゃー。情報の共有じゃーシェアじゃーっ。シェー!!」 五月に続いてメアリが香炉を手にして叫ぶ。 「相馬サン、あんた何人目の相馬サン?」 俊介の問いに相馬は口角を吊り上げるのみ。 「シェア、とはなんだ? 何を、誰と共有するのか?」 「てめえらネタが欲しいんなら、それなりの誠意を見せろよ」 「ふふん、アークは万華鏡があるんだからお見とーしだぜー」 「ならそいつに訊け」 ”万華鏡” という鎌掛けは通用しないようだ。 「あいにく時間が惜しいもんでな。そっちに退く気がないんなら押し通るぞ」 相馬は先手を切った。 ≪お客さん、ちょいと失敬≫ 傍らのアザーバイドに断りを入れると、俊介目掛けて得意の蹴りを放った。 仰け反った俊介をおろちの豊かな胸がクッションのように受け止めた。 ウルザのトラップネストが放たれ、相馬を絡め取った。 「チッ!」 「今度は前回みたいには終わるものですか」 五月の拳が相馬を殴り付ける。 おろち、エーデルワイスと攻撃が続く。 アザーバイドは完全に怯えてしまい、石炭を抱えて近くの茂みに飛び込んだ。まさに ”脱兎の如し” とは、このことであろう。相馬を置き去りにして彼は一目散に逃げてしまった。 「なっ!?」 既に姿はもう無く。 逃亡したアザーバイドの行方を目で追いながら相馬は駆け出そうとするも、網に捕らわれた体は動かすことが出来ない。もう一度舌打ちし、リベリスタ達を罵った。 「てめえら自分が何仕出かしたか分かってんのかッ!! ヤツはとんでもねえ疫病神を呼び込むかもしれねんだぞ!」 「なに?」 相馬の言葉を疑うリベリスタ。だが、エーデルワイスは彼の発言に嘘は無いことを確認した。 「最初に手を出してきたのはそっちだろう!」 「てめえらが横槍入れなきゃこうはならなかった! ……いいか、よく聞け。アイツはな、自分らとは違う世界に通じる虫喰い穴を掘っちまうケースがあんだよ。そんなヤツを放っておけばどうなる?」 その場がしんと静まり返る。 「でも、それを利用しようと企んでるのがあんた達じゃない。……自分達がしてるコトのリスクを承知のうえなの?」 「たりめーだろ! それを昇華するために俺らはヤツとの協調を目指してたんだからな」 「協調? ”搾取”……”寄生” の間違いでしょう? 命を粗末に扱う連中の唱えるお題目なんて大体どんなモノか分かるわよ」 「あんたが生きてるのもその協調とやらのおかげなわけ?」 と、俊介。 「フン……だったらどうする?」 「便利なんなら紹介しろよ! 水臭いぜ~」 メアリは一枚噛ませろとけしかける。 「クソ、予定が狂っちまった……。おい、網を退けろ! どうなっても知らんぞ!!」 「それを口実にまんまと逃げおおせるハラじゃないのか?」 「ほう。……じゃあてめえらはヤツをこのまま放って置く訳だな?」 「アザーバイドはオレ達で見つけます」 『鷹の眼光』ウルザはそう言って上空へ羽ばたいた。 後ろでは俊介がAF(アクセス・ファンタズム)を使って別行動中の仲間に連絡を入れている。 「フン、アークがヤツをどう扱うのか見物だな!」 気糸の網の中で相馬はリベリスタ達を睨め回す。 おろちは相馬を蹴倒し、彼の腹を踏み付けながら剣で顎を掬った。 メアリ、五月、そしてエーデルワイスも相馬の周りを取り囲む。 「彼があのコを探してる間、あんたには色々白状して貰うわよ」 「オゥ、大胆だねおネエちゃん。イイモン拝ましてもらえたぜ」 相馬は顔をもたげておろちの股座を覗き込む。 「あら、ずいぶん余裕じゃない?」 おろちはヒールを食い込ませ、男の喉を薄く裂いた。 「死にたい? それとも喋りたい? アタシはどっちでもいいんだけど」 舌舐め擦りする彼女の眼光に妖しさが灯る。 「わぁ~った、わかったよ。……降参する。俺の負けだ」 ●追撃 「大体の経緯は聞こえていた。俺の方でもいま音を頼りに追ってるところだ」 ウルザのAFに龍治から連絡が入った。 「了解です。竜一さんもいまそっちに向かってくれてます」 「分かった」 龍治が違和感を覚えたのは通話を終えて間もなくのこと。 誰かが自分を追ってきている気配があった。 (結城か? ――いや、違う) 一定の距離をあけながらそれはどこまでも追随してくる。 かなりの速度で飛ばしているため、一般人にこんな芸当は出来るはずもない。 (やはり伏兵か) 逃走するアザーバイドの足音が近くなってきた。直角ターンで方向を変えながら、更に逃げる相手。 そしてちょうど対向する方角からの足音が接近する。竜一のものに間違いない。 相手も気配を察知したのか、再び方向転換し、その隙間を縫うように逃れる。 「捕まえたっ!」 滑空してきたウルザが絶妙の位置取りでアザーバイドを抱え上げ、そのまま空へ舞い上がった。 「よし!」 しかし、その時――。 銃声が轟き、短い呻きと共にウルザは墜落した。 ずっと龍治を追ってきた気配が背後から飛び掛り、リベリスタ達を襲撃する。迎え撃つ龍治と竜一。 地に打ち付けられたウルザとアザーバイドを狙って二人が襲い掛かる。 計、四人。――内、二人は先程龍治の前に姿を現した、鳥見をする双子の男だった。 ……いや、違う。全員同じ顔だ。 「なんだこいつら!?……」 その不気味さに竜一が思わず声をあげた。 「くそ、はなせ!」 ウルザとアザーバイドは引き剥がされ、羽交い絞めにされている。竜一も龍治も目の前の相手が行く手を阻んで助けに入ることが出来ない。 「うおおおおぉぉぉっ!」 鉄球が飛び、ウルザを押さえる男が吹き飛ばされた。後を追ってきた俊介が乱入し、状況は一転する。 「……なっ!? 何コイツら!」 フィクサードの顔を見て、俊介も同じ事を口にした。 「考えるのは後だ。とにかく蹴散らすぞ」 勢いを得たリベリスタは渾身の戦いでフィクサードを撃破する。 アザーバイドを捉えた一人が逃走を試みた。 「逃がすか!」 ウルザの戒めが男を絡め取る。しかしその隙にアザーバイドは逃げてゆく。 「あれも討つしかないな」 面倒な事になる位ならば、致し方無いが、殺す以外に方法は残されていない。 四人は身動きの取れなくなったフィクサードを置いてアザーバイドの追跡に走った。 ●レベルIII 「――今の俺はそう呼ばれる存在だ」 「それが ”シェア” するということ?」 「そういうこった。だから仮に此処でこの俺を殺ったとしても、代わりの俺は他にいくらでもいる。何度潰しに来ようと無駄だぜ? ま、いわば俺達は不死身ってことだな」 「前回挽き肉になった貴方は別のスペアという事ですか」 「ふむ。アザーバイド捕獲はそういった技術革新のための素材集めということじゃな」 ”シェア” ――それはとあるアザーバイドによってもたらされた技術であり、あらゆる生命の複製を行う力。そうして増やされた存在は管理の都合上、『レベル』 で区分されているという。 「……でもいくら不死身といっても、負うべき代償が無いわけじゃないでしょう?」 おろちの問いに相馬は不思議そうな顔をした。 エーデルワイスは見逃さなかった。 「もしかして貴方、シェアに支払う代償について聞かされていないのかしら?」 一層怪訝な顔つきになる。 「俺は知らん」 乗り込んだ豪華客船に実は穴が開いていると唐突に聞かされたような、掴み所の無い猜疑心が相馬の思考を掻いた。 「知らん、って……」 五月の目は未だ疑念の火を焚いたまま。 「貴方はそれで良いのですか?」 「そういうモンだろ」 じわじわと浸み込んだ水はやがて足元を攫う。 いや、これは豪華客船だ。 沈む事など有りはしない。 * 逃げたアザーバイドはリベリスタの手で討伐された。 相馬 慶壱楼はアーク関連施設にて拘束。重要参考人として監視下に置かれている。 追加情報は以下の二点。 ・シェアを行うためのアーティファクトの名は 『Installment』と呼ばれ、 ・幹部のひとりである印南 辰近(いなみ ときちか)が行使権を握っているという。 シェアされた人員や、今後の動きについては相馬も知らされていない。 しかし、黄泉ヶ辻工作員の中ではそれなりの地位にあったと思われる相馬が、何故こうも簡単に情報を漏らすのか。 事件はまだ終わりそうにない。 この時すでにリベリスタ達は新たな事件の影を予期せずにはいられなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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