●寒い温度で笑いましょ 一つの夜を一つのトラックが駆け抜ける。 道路にはそれ以外に無い。景色は最早ただの線。そんな速度。 「……ねぇ。何だか妙に寒くない?」 「あぁ。でも、暖房は全開だぜ」 運転席と助手席。吐く息は白、唇は震えて。 可笑しい。寒い。寒い。剰りにも――そう思って、何気なしにサイドミラーを見遣って。 瞠目。 物凄いスピードで、走って追ってくる者が……!? 「……チッ!」 車に飛びつくつもりか――ぐんくん距離を詰めてくるそいつを振り払う様にハンドルを切る。 斯くしてそれが命取り。 スケート会場さながらに凍り付いたアスファルトの上で思い切りスリップしたトラックはいとも容易く横転する。 「くそっ……!」 命辛々トラックから飛び出した二人が見たもの。 それは氷原と貸した道路。幾つもの氷の人形と、幾人もに分身した例の奴が……自分達を取り囲んでいるという光景。 ●それから少し遡る 「寒い!」 「寒いな!」 「寒いよあんちゃん!」 「寒いな弟よ!」 妙な二人組が氷原の上に立っていた。羽を生やし、防寒具を着込み、しかしガタガタと寒さに震えている二人組。 「寒くて寒くて死にそうだよあんちゃん!」 スケート用シューズを履いた男が身を抱えて叫ぶ。毛皮のコートにガスマスク、表情は決して見えない。 「うむ、寒くて寒くてたまらんな弟よ!」 エスキモーの様に着込んだ男がガチガチと寒さに歯を鳴らして応える。白熊の毛皮を被り、表情は決して見せない。 「さっさと用事を済ませたら、ウォッカで一杯やろうじゃないか弟よ!」 「ああ、ああ! それが良い、それに尽きる、それに万歳大賛成よあんちゃん!」 「それでは行こうか、奴らが来た!」 「合点了解出発進行!」 「Go Ahead――」 「Make My Day!!」 ●それからそれから 「『今日の仕事は素敵な仕事だ。』――と、逆貫様は仰いました」 そう言っていつもの事務椅子をくるんと回し、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がいつもの様にリベリスタへと振り返る。 「フィクサードの恐山派、は御存知ですよね? それの所持する『賢者の石』の一つが、実験施設への輸送中に謎のフィクサード達に狙われる事を察知しまして。 それも一つだけではなく……皆々様の中には、お知り合いが他のフォーチュナ担当任務に就いたって方もいらっしゃるかと。 サテサテ。件のフィクサードですが……彼等は様々な手段で慎重に隠蔽がなされた、正に『謎の』フィクサードでして。主流七派のどれかなのかそれ以外のフィクサード組織なのか身元は一切不明です」 そこでフォーチュナは軽く首を傾げた。「何故フィクサード同士のいざこざに我々アークが」という質問。確かにそうだ、メリットや理由なんて……。 「そうなんですよ。ま、じっくり説明しますんで耳かっぽじってお聴き下さいな。 単刀直入に言えば皆々様の任務は『謎のフィクサード達に賢者の石を奪わせない事』です。 ところで……恐山とアークが停戦中なのは御存知ですよね? それでまぁ、その、石。謎のフィクサードが入手したそれは――言わば、『誰の物でも無い』という解釈も可能っちゃ可能でしてな」 苦笑めいた表情。察してくれと言わんばかりに。 「謎のフィクサード達に賢者の石を奪わせない事、それはつまり恐山の方々がそのままお持ち帰りして頂いてもOKって訳です。アークは既に沢山持ってますしね、石。恐山の皆々様とのイザコザも回避できますし、向こうも悪い気はしないかと。『恩を売る』って事ですかね、それに今後のイニシアチブを握り易くなるかもしれません」 その辺りの判断は任せますぞと凶相を笑ませる。 まぁ、全ては『ちゃんと石を奪われなければ』と言う事が大前提なのだが。気は抜けない――謎のフィクサードや恐山のフィクサードの説明をすべく準備を整えたメルクリィを見遣った。 「資料にも纏めてありますが、私の口からも一応。 謎のフィクサードは二人、兄弟らしいようでして……その所持したアーティファクトによる能力はどれも厄介、そして連携もバッチグーです。彼らの狙いは賢者の石――正確に言えば『賢者の石を収めたケース』ですぞ。 賢者の石の奪取が不可能と悟ったり劣勢と感じれば撤退すると思いますが……二人の実力は本物である事を明言しときますね! 舐めてかかっちゃあいけませんぞ。その辺のフィクサードとは一癖も二癖も『濃ゆい』ですからね。 一方、恐山のフィクサードは二名。実力は……まぁ、低くは無いのですが、例のフィクサードによってキツイ手傷を既に負っているでしょうな、皆々様が到着した頃には。 彼等は皆々様がアークだと分かれば手出しはしてこないでしょう。ほっとくか、協力するかは任せますぞ。ただし停戦中なので彼らへの攻撃は厳禁ですぞ!」 それから現場なのですが。 「しもやけジョニーの所持アーティファクト『ツンドラで過ごす冬休み』よって現場はもんのすごーーーく寒いです。エリューションの皆々様の体力にも堪える位にね。 そこで……こちらで防寒具を用意させて頂きました。着れば寒さはヘッチャラですが若干動きが阻害されるでしょう。逆に着なければ動きは阻害されませんが寒さに徐々に力を奪われていく事でしょう。どうなさるかは皆々様にお任せ致しますぞ!」 さて、と息を吐く。それは説明終了の合図。 ゆるりと皆を見渡してメルクリィは緩やかに笑んだ。 「要素が多く危険な任務ですが――皆々様ならきっと大丈夫! お気を付けて行ってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月17日(金)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●寒々風 ビュゥと吹き抜けた風は肌を引き千切らんばかりに冷たかった、夜の橋上。 「やーれやれ、謎が多い上に厄介すぎる敵だネェ。ま、せいぜい恩を売らせて貰おうじゃないか」 咥え煙草の『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)は安全靴で氷を蹴り一直線に駆けていた。紫煙を吐き出す唇は蒼く、震えている。寒い。一体マイナス何度だろうか。速度の為に防寒具を選ばなかったので仕方がないのだが。 「あー寒イ寒イ……」 小生冷え性なんだがね、と愚痴を一つ。ともあれ全速力で現場に向かわねば。颯と並走する『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)も防寒着は着ず、ゴシックドレスと猫尻尾を夜に靡かせ超バランスの俊足にて駆け抜けていた。 (謎のフィクサード……一体何者なんじゃ!) そう息巻きたい所だが、 「さ、さささ……さーむーいー!!」 走れば身体を撫でる風は何処までも無情。普段は血色の良いレイラインの肌は、今や寒さに蒼白くなっている。 「や、やっぱり防寒具着てくるべきじゃったかのぅ……でも身のこなしがウリのわらわじゃし、妥協するわけにはぶえっくしゅ!!」 「大丈夫かネ……小生も人の事は言えないガ」 「まずい、考えてたら凍え死ぬ……動いて動いて動きまくるしかなさそうじゃのぅ!」 「同意だョ」 ぐんと速度を上げる。 斯くして俊足の二人に見えてきた景色、それは―― 「っぐ、がは」 氷原に散る赤。横転したトラック。その荷台を守らんと立ち向かうも、かじかみテリーとその残像による澱み無き連続蹴撃に圧倒され蹌踉めく恐山のフィクサード二人。 「クソ、こんな所で……!」 「ヒャッハハー、さっさと諦めて賢者の石ィ寄越しやがれぇぇい!!」 「やってしまえ弟よッ!」 動けぬ彼等に追撃せんと。迫り唸る返り血スケートシューズが無防備な咽元を狙う――が! 「へろう、正義のアークお助け部隊だョ」 何処か間延びした声、氷に響いた玲瓏たる音、恐山一派を守るべくかじかみテリーのホワイトランデブーを受け止めた颯のクローにその凛然としたオッドアイが映り込む。双眸は真っ直ぐ正面、ガスマスクのフィクサードへ。 「アーク……!?」 傷を抑え一歩飛び退く恐山一派、更にその前へ護るべく背を見せ立ちはだかったのはレイラインだった。油断なく剣を正眼に構えて背後の二人へ声を張る。 「大丈夫かえ!? わらわ達はアークのリベリスタじゃ!」 「リベリスタが、何故」 「曲がり形にも『友軍』じゃて、助太刀するぞよ……へっぷし!!」 寒さによるくしゃみ、取り敢えず恐山一派へは敵意が無い事をちゃんと示した為か彼らが背後から襲いかかって来る気配は無い。ならば、仲間達が辿り着くまで徹底的に守り通す! 「アークの……、あー! お前知ってる! レイラインだ! スピードキャット!」 跳び下がった残像の内、恐らく本体――かじかみテリーがレイラインを指差した。その後方にて氷人形に身を守らせるしもやけジョニーもホゥと興味の声を上げる。 「これはこれはリベリスタ諸君! こんな寒い日にお遭い出来るとは恐縮だねぇ!?」 「あんちゃんあんちゃんこいつらも殺っちまっていいのかい? いいのかい?」 襲い来る幾つもの。 ヒュゥ、と颯は薄く笑った。 「さてま――頑張って削り倒そうか」 ●追寒風 手筈通り、颯とレイラインが全速力で駆けて行った後方。6人のリベリスタが駆け抜ける。 「今回は防衛戦ですか。叩き潰すとか殴り倒す方が性に合ってるんですけどねえ」 冗談です。と、黒い蹄で白い氷を踏み締め『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)は駆ける。摩擦の無い氷上だがハイバランサーの能力で問題は無い。 「バッチリ守りきってなんちゃってイージスの汚名を返上しますよ。恩を売れるというのも気分がいいですしね」 「これからのバロックナイツとの戦争を考えれば、味方は多いほうがいいしな」 少しでも恩を売っておくとするかと『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)はセルマの言葉に同意の頷きを示し、剣をその手にひた走る。最中に思考――しかし恐山がこんな簡単に情報を漏らすんだろうか?本物が1つ混じってるかも怪しいもんだな。 だが、任務は任務だ。何かが起こりそうな予感がするが、「今は自分に出来る事を精一杯やるだけです」と『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)も続ける。 「恐山の方は味方というわけではありませんが……袖摺りあうも、ですね」 それに誰ともわからない相手に賢者の石を渡すのは恐山が所持するより危険な気がします、と『不屈』神谷 要(BNE002861)は震える唇を引き結ぶ。彼女はこの六人の中で唯一防寒具を着用していなかった。黒いコートを引き寄せる。 「見えてきました」 『第15話:突撃…隣のバンババン』宮部・香夏子(BNE003035)が指を差す――満身創痍の恐山一派二人、彼等を守るリベリスタ二人。誰しも息を飲んだ。庇う、即ち防御態勢とは言え流石にあの大人数から攻撃を受けてはタダでは済まない。それでも凛然と立ちはだかり、猛烈な氷点下に震え凍え滴る血すら凍り付かせながらも颯とレイラインの踏み締めた脚は揺るがない。 急がねば――理由はもう一つ、防寒着の無い恐山一派は今この瞬間も寒さに心身を衰弱させて行く。死んでしまう。このままでは。 その刹那、氷点下の夜に赫く揺らめいたのは邪斧の禍き睥睨であった。 「フン、我々アークは強者の気配を辿って来ただけであって、お前達の為なんかじゃないんだからなー」 ツンデレライバルっぽく。冗談の様な物言いで『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)は漲る戦気のままにアンタレスを振り上げつつ強く地を蹴った――通り過ぎ様に恐山一派へウインクし、 「此処は任せて先にいけー!」 振り払う一閃、メガクラッシュ。それはテリーの残像を真横から思い切り漆黒に切り裂き、霞の様に消滅させた。 「!」 テリーが岬を見遣る。構える。油断なくも、楽しげに。 「レイラインの次は……『アンタレス』の岬! こりゃ~愉快だねあんちゃん!」 「あんちゃんって呼び方、なんだか三下っぽいー」 「な、何だとー!」 「フフン、ご苦労だった……と言いたいところだが、テリー。貴様には消えてもらうー」 「消し返してくれるわー!」 互いに氷を蹴り、交差の一閃。ぶつかり合う。 ルカの祝詞が生み出した聖神の寵愛が柔らかく氷上の仲間の傷を癒し、直後に香夏子が生み出した滅びの赤い月光が有象無象を破滅を以て薙ぎ払った。眩い紅に山羊の双眸を細ませて――滑って転ばぬよう慎重に、しかし迅速にセルマは恐山一派の元へ駆けつける。 「こちらアークのリベリスタ、助太刀します!」 大地から生命力を借り受け、巨大で節くれだった禍くも美しい祭器「化身の樹」を構え凛乎と言い放った。 「やっと来たかネ……待ちくたびれたョ」 「頼んだぞよ!」 「香夏子とセルマさんに任せて下さい」 作戦通り、颯とレイラインは癒しの歌に傷を癒しながらセルマ、香夏子と恐山一派の庇い役を交代する。傷は癒え切っていないが、四の五の言っている場合でも無い。 「数もあるのに弱くないって超反則臭いと思わないカネ」 「ふう、無事任務かんりょ……へっくしょ!! い、いかん……気を抜いたら本格的に意識が……」 あぁ、コタツが見える。なんて、寒さに震え精神力をすり減らしながらも己が身体のギアを強く強く高めた。反撃開始。超速で跳び出して往く。 リベリスタの強襲によって残像は既に残り3体、しかしそれを補う様に氷の人形が前に出る。先ずの狙いはテリー、そしてその残像。 クロスジハードにパーフェクトガード。手番を消費した分、十全な準備を整え終えた要は本体と思しきテリーへカラーボールを投げ付けて見たが外れてしまった、スキル並みの精度を持たぬそれが、ましてや高機動力を誇る相手に当てるなど。致し方ないか。寒さに震えながら戦場を見渡し、ジョニーが降らせた冷たい雨に苦しむ仲間を救うべく破魔の光を清らかに放った。 猛激戦。運命を使う者も見える。氷上を照らす聖なる光に右の焔眼を煌めかせ――零児は襲い掛かって来た残像へ剣を薙ぎ払う。躱される。だが直感する。こいつだけ妙に動きが良い。それに要も気にしてカラーボール投擲を試みた相手。身を刺す寒さは氷人形の冷たい吐息。防寒着を着てこれなのだから、着ていない面々にはそれは苦しい事だろう。寒気に震える奥歯を噛み締め、動きの良いテリーから目を離さない。そして白い吐息と共に大きく声を張った。 「おい、寒いな!」 寒がるのは本物ぐらいだし、話しかければ反応が返ってくるか、と。 斯くして。 「おう、寒いな!」 答えた。それへ、振り上げるのは正に破滅的な破壊力を誇る闘気の刃。 「火力だけなら自信があるからな――俺の持つ最高火力で、倒す!!」 生か死か、必殺の一撃。破壊の爆裂。叩きつける。テリーが吹っ飛ぶ。直撃はしなかった、が――その恐るべき威力は掠っただけでも決して軽くは無いダメージを与えたようだ、空中で受け身を取ったテリーがガスマスクの下でにやりと笑う。 「やるなぁ~」 「どうも。もう一回やろうか?」 「いいねぇいいねぇ――往くぜーー!?」 駆けだすテリーの姿がブレた、否、残像を生み出したのだ。飛び散る光の飛沫の様な速撃。それは彼だけでなく、周りの者にも。撹乱、魅了。僥倖は本体を特定できた事、連続で残像を生み出す事が出来ない事か。 氷にまた一つ赤が散る。頽れる者が出る。歌が止まったのは、ルカが倒れたのだ。庇おうと思っていた要であったが、彼は後衛の一番後ろ。自分は前衛。離れ過ぎている。 膝を吐く、氷土に伏す。冷たい魔の雨。 寒いから動きまくる。徐々に混沌として来た戦況を見渡し思う。作戦がいまいち詰め切れていない実感――上手く通い合わぬ心、舌打ち。それでも退く訳にはいかぬのだと、悴む手で剣を握り氷原に突き、レイラインは運命を燃やし前を見澄ました。颯の残像の武舞、岬の真空刃、零児の破壊の剣、迎撃する残像と氷人形。頬を伝う血がイヤに温かく――凍って、氷人形の吹雪に皮膚ごと引き剥がされていく。構うものか。氷を蹴って一直線、その先のテリー。 「本物みーっけ、なのじゃー!!」 寒さに削られ切った精神力を掻き集め、閃かせるは渾身のソニックエッジ。迎え撃つテリーも同じ技、一瞬刹那でいて無限にも近い攻撃の遣り取り。ただ煌めく刃だけが白く軌跡を残して相手に赤を刻みこむ、此処は速度に惚れた者達だけに許される舞台。 戦いは未だ、混沌。 ●ゆきどけない テリーの傷はジョニーが癒すも、その蓄積値は徐々に溜まってきている。一度に生み出す残像の数も減ってきている。消耗している。 しかし消耗しているのはリベリスタ側も同じだった。既に2人が力尽き、運命を燃やした者もあり、そして――恐山一派の男が遂に冷たく凍り付いた骸となってしまった。庇い役が同じ相手を庇ってしまったその一瞬の出来事であった。 血みどろの長期戦、泥沼の消耗戦。 それでも唯一の望みは――庇い役が健在、恐山一派も一名健在、残像がトラックに近付けていない事。石はまだ、此方の手に。 「ハイ、へっぽこスケーター! 私を殺してからでなければケースは持って行けませんよ!」 祭器「化身の樹」でテリーの残像が放ったツインストライクを受け止めセルマは不敵に笑む。その機動力に幻惑されぬよう視線は用心深く、一回転させた薄気味悪い風貌の祭器を振り上げた。 「暖を取るならウォッカでなくスコッチに決まってますよ――ねッ!」 叩いて叩いて叩き潰す。打ち据える。追い払う。その傍らでは仲間を庇うべく奔走する香夏子の姿。 「地面寒くて寝てられないよー。此処を通りたかったらボク達を倒していけー」 運命を燃やし、アンタレスを手に、岬が漆黒の真空刃を放った。邪斧の大火、それは貪欲な悪魔の如く残像を貪り喰らい消滅させる。 ある程度残像も減って来た。テリーの本体を見澄まし――ながら、岬はふと思う。氷人形を生産続けられると厄介だからとある程度注意を向けていたジョニー、氷人形。残像の事ばかり考えていたのだが……、そう言えば。そう言えば氷人形は? (数が合わない……?) 皆の標的はテリーとその残像。故に、そんなに氷人形が撃破されている所を見ていないのだがそれは明らかにぐっと減っている。おかしい。おかしい…… それは唯一岬だけが氷人形にまで気を配っていた為か。気付けたのは幸運か。 「――トラックの後ろー! 氷人形が回り込んでるよー!!」 張り上げる声に誰もが弾かれた様に顔を上げた。 しまった――テリーは囮だったのか? 食い止めるべく走る。が……氷人形は荷台を破壊し、件のケースを確保する。高く放り投げる。それは翼を広げ飛び上がったテリーが受け取った。 絶望的な状況。だが、一縷の望みをかけて零児はジョニーの傍へ着陸したテリーに声をかけた。 「これはカレイドで捉えた真実だが、そのケースの当たりは一つだけ。偽物が混ざってる場合もあるんだ。 石の入手が目的ならそもそも達成できるか怪しいんだ、無い物にお互い命を懸けるのは馬鹿らしいだろ? もしケースの入手が任務ならこれじゃダメか?」 見せたのは用意したケース、それからウォッカ。 「今ならウォッカもつける。どうだ」 「フン、戯言を。貴様らなんぞこのジョニーが『ディープフリーズ』で一網打尽に――」 「ちょっと待ったあんちゃん!」 端からこちらを信じていないジョニーは殺意を以て呪文を唱え始めたが、それを制したのは他ならぬテリー。兄にケースを預けズカズカ、零児の真正面へ。警戒する颯、レイライン、岬の視線を零児はアイコンタクトで制する。残像達も氷人形も襲って来ない。 「何だ」 「ウォッカ」 「え?」 「ウォッカ寄越せ」 「……、」 差し出される手の儘に、零児は酒瓶をテリーに手渡してみる。と、彼は上機嫌。 「へへへへへ、ウォッカを持ってるたァ気が効くな、気に入ったぜお前。喧嘩も強いし。今日の所は、このウォッカとお前の腕っ節に免じてこのまま退いてやるぜ」 目を見開く零児へ、テリーは指を突き付ける。 「勘違いすんじゃねーぜ、お前ら俺が止めなかったらあんちゃんがバーンしてたもんな、あんちゃん強いんだぜ」 その言葉に言い返せる者が居ただろうか――最早こちらの精神力もほぼ限界、これ以上の戦闘は被害が増すばかり。どうしようもない。零児の機転でこれ以上の被害が出なかった事を奇跡と呼ぶべきなのだろう。 飛び去って行く謎の兄弟、氷が消えていく夜、それでも冷え込んだ夜。 余所余所しいまでに冷たい風が佇む最中を吹き抜けて行った…… 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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