●おはよう 最初は退屈だったけど、いつしかこの白い壁にも慣れた。 何をしてもいい、っていうから、クレヨンで壁にたくさんの絵を描いた。 Mr.スターライト……ミスタは私が描いた絵を見て、上手だねって褒めてくれる。 パリッとした黒い服に、帽子から零れる輝く金の星の髪。 深い藍色の目は夜空の色。 私の大好きな、ミスタ。 お星様の形をした顔に、黒い帽子と服を着た夜の守り人。 ぬいぐるみのミスタとは違って人の形をしているけれど、夜空から皆を見守る黒い翼だってついている。 お父さんとお母さんにはまだ会えないけれど、ミスタがいるから大丈夫。 もうすぐ会えるって、言ってくれるから。 ミスタが持ってくるお薬は甘い甘いシロップに金平糖に似た錠剤。 お薬は美味しくないと思ってたけど、まるでおやつみたい。 そう言ったらミスタは、良い子には甘く感じるんだってウインクした。 最近は病気のせいで、変な形になった爪で壁を傷付けてしまったりするけれど。 それでもミスタは、私を良い子だって言ってくれる。 ミスタの元のお顔も金平糖みたいにトゲトゲしてて、傷付けちゃうから気持ちは分かるって。 ぬいぐるみのミスタの角は柔らかかったけれど、本物は違うんだって。 だから私は安心する。ミスタがそう言ってくれるなら。 ミスタは強い。 この間、掌にまるで包丁で切ったみたいな大きな傷があった。 痛い、って聞いたら痛くないよ、って言った。 『悪い人』と戦った時に怪我をしてしまったんだって。 ミスタが掌をぎゅっと握って、次に開いたらもうその傷はなかった。 ほらね、ってミスタは笑ったけど、怪我は痛い事だから悲しかった。 そんな『悪い人』がいるのも怖かった。 でもミスタは、そっと私の額に手を翳してこう言った。 「君にはね、星の力を授けてある。だから、もし私が見逃した『悪い人』がここに来たら、私が来るまで、ちょっとの間だけ頑張ってくれるかな。絶対に、Mr.スターライトは君を助けに来るから」 私はやっぱり少し怖かったけれど、ミスタの力があるなら、助けに来てくれるなら、きっと大丈夫だと思った。 私の力は大切な誰かを守る為にあるんだ、と言うミスタが私に嘘をついたことはない。 だから今回も、大丈夫。 私が寝るまで、ミスタはお母さんの代わりに傍にいてくれる。 ベッドの横の椅子に座って、素敵な物語をしてくれる。 彼が空の上から見続けた、色んな人の話。 幸せだったり悲しかったりするけれど、いつだって優しい物語。 他の人が懐かしくなって、いつ外に出られるのか私はよく聞いてしまう。 するとミスタは膝をついて私と目線を合わせ、 「君が運命に愛されるまで」 そう言って優しく笑うのだ。 ●おやすみ 「廃病院の一角に、フィクサードが少女を閉じ込めている。 名は、橘・優花。七歳」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉に答えるように、モニターは少女の姿を映し出した。 白の少女よりも幼い、茶色の髪の女の子。 星形の顔に人間の手足がついたぬいぐるみを抱き、はにかみながらも笑うその顔は屈託ない。 フォーチュナはすっと、指差した。 「けれど、あなたたちに頼むのは、フィクサードじゃない。殺して欲しいのは、この少女。 ――彼女はノーフェイスだから」 次いで画面に現れたのは、少女の面影を残した別の物。 桜色の唇は裂け、奥にはぞろりと牙が並ぶ。 細い白い手は節くれだって歪に曲がり、折れた枯れ枝の如く尖っている。 はにかむ笑顔は元のまま。充血したように真っ赤な瞳がこちらを見ていた。 「革醒後、故意ではないけれどその力で両親を殺害している。 彼女自身は覚えていない、……もしくは殺害した事実に気付いてはいないけれど、ね」 溜息と共に吐き出された言葉は、小さく消えた。 「フィクサードは彼女が大事にしているぬいぐるみ、『Mr.スターライト』を名乗って彼女を部屋から出さないようにしている。 でも、もう限界。フェーズは2へ進行し、更に進もうとしている。これ以上の放置はできないの」 イヴが端末を叩くと、黒い翼に燕尾服、シルクハットの男が現れる。 その格好は、少女が先ほど抱いていたぬいぐるみと酷似していた。 「……Mr.スターライトも、彼女を閉じ込めているだけならばフィクサードとは呼ばない。 結果的に、他の人間をエリューションから守る事にはなっていたから。 けれど、彼は先日彼女の討伐に向かったリベリスタ三名を殺害した。今回も、確実に妨害に入ると思う」 画面の男の瞳の色は深く、リベリスタを見通すように深く。 「彼については、討伐も捕縛も任せる。ただ、倒す場合は、少女よりも先に。 ……彼が執着しているのは少女を守る事だから、彼女が倒れれば動ける限り逃亡を図ると思う。 彼女がいなくなれば、彼がリベリスタと対抗する理由はなくなるから。 復讐の為に無謀な戦いをする程に彼は愚かに――或いは聡くは、なれない」 自分の命が大事なのではなく、争っても戻らない事を悟ってしまうから。 それでもなお戦って感情を晴らそうと思える程、真っ直ぐにもなれないから。 「……二人は皆を恨むかも知れないけれど他に方法がないの。 遠からず彼の手にも負えなくなって、強力なノーフェイスが町に解き放たれる事となってしまう」 男が向ける笑みは、少女の元に。 人によっては、似た経験もあるかも知れない。 守りたくても守れなかったものを思い出すかも知れない。 だが、アークは他の被害を最小限に抑えなくてはならない。 だからイヴは、彼と彼女の偽りの平穏を絶つべく言葉を乗せる。 少女だったものに対する死刑の宣告。 数々の悲喜劇をその細い肩に負ったフォーチュナの少女は、左右で異なる色鮮やかな瞳で、真っ直ぐにリベリスタを見た。 「Mr.スターライトは『運命』の到来を待っている。こない運命を。 いずれ訪れる破滅の運命からは目を逸らし、理想的な運命を待ち望んでいる。 ……けれどもう、リミット。彼の望んだ運命に、終わりの合図を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月12日(木)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●お別れの時間 「アレっすかね」 「そうだな。何か聞こえるか?」 ほとんどのカーテンが取り払われ、もしくは開かれたままになっている中、一つだけ閉められたそこを『新米倉庫管理人』ジェスター・ラスール(BNE000355) が指差せば、焦燥院 フツ(BNE001054) が頷いて問う。 神経を集中させ一つの音も聞き漏らすまいとする彼の姿を、他のリベリスタは黙って見守った。 病室を見上げる彼らの心境は、一つ一つ違う。 多くは少女に対する憐憫、そしてリベリスタとしての使命の天秤。 『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315) や『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334) のように、より多くを救う為に自らがやらねばならない、と誓う者もいる。 『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194) や『祈跡の福音』鳳条 クローディア(BNE002301) のように、少女を思うからこそ終わらせねば、と思う者もいる。 そして『無情』ブルーノ・ブオーノ(BNE002296) の様に、然したる興味を持たぬ者も。 どれも悪い事ではない、彼らの目的は共通しているのだから。 しばし風の音だけが鳴っていたが、耳を済ませていた本人が溜息を吐いた事で沈黙が破られる。 「多少は聞こえるんすけど、小さ過ぎてどっちが立ててる音かは分かんないっすね……」 申し訳なさそうに頭を掻いたジェスターが、判断を求めるように『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207) を見た。 顔を上げた少女は、金の髪を夜風に靡かせながら目を眇める。 「Mrはまだいるわ。……勘だけど」 断言した少女の根拠は乏しくも、リベリスタ達はそれが特化された才覚の一つだと知っている。 だから、彼はほぼ確実に中にいるのだろう。 だが、病室近くの木で休む鳥と五感を共有したクローディアも動きはない、と首を振った。 「うーん……なら出直すべきか、」 「! ちょっと待って欲しいっす!」 眉を寄せて一時撤退を告げかけたフツを遮り、ジェスターが再び耳を澄ませる。 羽ばたきの音だ、と彼は呟いた。 クローディアが使う小さな鳥やカラスではなく、もっと大きな羽ばたき。 だが、すぐにジェスターの顔が曇った。 「おかしいっすね。本当にちょっとしか聞こえなかったっす。地面に降りたなら足音が聞こえるはずなんすけど、それもない。……窓の閉まる音、かな、それは聞こえたんっすけど……」 夜目と遠目の利く者がいたら、窓から出た後のMrも捉えられたかも知れない。 今回その役割はクローディアの『目』に委ねられた。 しかし少女も、困ったように頬に手を当てる。 「……彼は出ましたけど、……どうやら上階の部屋に入ったみたいです」 「上階? なんでまた――」 言いかけたフツが、理由を悟って額に手を当てる。 「もしかして、Mrもここで休んでるんっすかね……」 彼と同様悟ったジェスターの言葉に、他の仲間も多少苦い顔をしながら頷いた。 「さて、幾ら行動がヒーローだったとして、フィクションのヒーローではない以上Mrとて休息を取らねばならないでしょうからね」 ブルーノが軽く腕を組みながら口にした言葉はある意味当然の事。 そして彼が守るべき対象の少女から遠い場所で休息を取るだろうか。 答えは共通、否。 ましてや別のリベリスタから一度襲撃を受けている状況で、最も危険であろう夜間にMrが少女の傍を離れる可能性は、低い。同じ病室ではないのがまだ幸いだったろうか。 「ま、どちらにしてもオレらがやる事は変わらない、な」 「そうね、ハントの時間よ」 袈裟を整えるフツの横、エルフリーデが指先で己の得物を撫でる。 なるべくならばMrが不在の時間に。 その算段は崩れたが、リベリスタ達の切り替えは早い。 共にいるならば、抑えながら戦うのみ。 世界を、地球を救うという壮大な使命に静かに燃えたキャプテンが、その口火を切った。 「――オペレーションスタートだ」 ●おみまいに 息を殺し、気配を断ち、音を立てぬようにただただ静かに迅速に。 そっと病室を覗き込んだリベリスタ達は、新たな問題に気付き顔を見合わせた。 病室内の照明は、眠る少女の為に落とされている。街の明かりは些か遠く、心許ない。 障害のない廊下を移動する程度ならばそこまで支障はなかったのだが、戦闘を仕掛けるとなればまた違う。 フツが幻想纏いに入れていた照明を点ければ、或いは通っているか分からないが病室の電気を灯せば問題はなくなるが、それは少女を起こす事へと繋がるだろう。 逡巡したリベリスタ達は、恐らく最も無難と思えるものを選択する。 即ち、初撃を見舞ってからの光源確保。 真っ先に動いたフツの指先が印を描き、薄く光ったそれは空中で弾け皆の護りとなる。 ジェスターが捉えたカタカタという音は、異常を感じ取ったおもちゃの兵隊のものか。 「おもちゃ箱に帰ってもらうぞ」 ささやかなささやかな、レンの呟き。 どうにか見えた、自分よりもだいぶ小さな、それでも通常のおもちゃよりも大きなそれにナイフを滑らせた。 エルフリーデの放った無数の光、夜空の星の様に煌くそれがレンを追い掛ける様に暗闇を走る。 「あう!?」 おもちゃと共に攻撃に巻き込まれた少女が、全く予想していなかった痛みに悲鳴を上げた。 聞こえた声に僅かに目を細めながら、跳んだジェスターはおもちゃの一体の首を刺す。 ベッドから落ちるようにして起き出した少女の影が、見えた。 彼女が顔を上げた時に見たのは、再び現れた星の光。 だが、それは少女を守護する『ミスタ』の齎したものではなく――英美の放った、少女を害する一撃。 わるいひとだ、と、少女が呟いた。 答えるように、ガラクタとなりかけたおもちゃの兵隊が笛を吹く。 緊迫した場面には似つかわしくない、どこか間抜けな音。 クローディアが再び鳥と感覚を共にする。 大丈夫、まだ来ない。 頷く彼女の隣を走り、ブルーノの破滅を導くオーラがおもちゃの頭を粉々に砕いた。 「すまない少女よ。ユーの為に地球が苦しんでいる」 おもちゃの、そして少女の傍へ寄ったキャプテンが、宇宙で輝く地球の様な光の守りをその身に下ろす。 少女は意味が分からないように瞬いて――ただ、目の前の『悪い人』に噛み付いた。 手持ちの照明を付けたフツが、ついでだと病室の電気スイッチにも手を伸ばす。 幸いにして電気はMrがどうにかしていたらしく、一瞬にして部屋が人工の眩い光に包まれた。 そして露になった優花の姿に、幾人かが息を吐く。 映像で見たよりも、異形化は進んでいた。 長い髪は絡まった糸のように縺れ、床を引き摺る。爪先は毒々しい色に偏食し、リベリスタたちを見詰める目はまるで充血、いや流血した様に真っ赤。 「……悪い人だ」 各々の得物を構えたリベリスタを見て再び呟いた少女の牙が、かちりと噛み合わされる。 「もう、無理はするな。父と母が待っている。眠れ」 レンのナイフが少女を掠める。そこに偽りはない、ただ少女を楽にしたい。 だが、優花は裂けた口を歪ませ嗤った。 「嘘つき。お父さんとお母さんが待ってるのはお家だもの。嘘つきだから、君はやっぱり悪い人」 けたたましい哄笑にも似た笑い声に、最早少女の面影はない。 一層苛烈さを増して叩き付けられた爪の斬撃に、レンは舌打ちをして膝をついた。 嘘つき、と呟きながら尚も執拗にレンを狙おうとする少女の肩口に、エルフリーデの銃弾が飛来する。 残っていたおもちゃの兵隊も全て四散させた弾丸は瞬間で消え、凛とした射手は口を開く。 「悪い人、か……否定も言い訳もしない。私が貴女に送るのは、弾丸だけよ」 目的の為に感情を殺す事に慣れた瞳は、冷徹なまでの鋭さで少女を捉えた。 イヴは言っていた。少女は最早看過できない所まで来ていると。 つまり、それだけ強力になっているという事だ。 不意打ちは確かに少女の力を大きく削った。 だが、未だ倒れる気配はない。 そしてジェスターの耳に、羽ばたきが聞こえた。 「来るっす……!」 「窓よ!」 「西側です!」 何が、という必要もない。 英美とクローディアの心得た言葉に、わき目も振らずキャプテンとブルーノが窓に走る。 「優花!」 訪れた夜の――少女の守り人を、止める為に。 ●ミスタ、ミスタ 「申し訳ないがMr.スターライト、ユーを通すわけにはいかないのだよ。地球の嘆きを無くすため、このキャプテン・ガガーリンがな!」 唐突に立ちはだかった壮年の男性の宣言にMrは怪訝そうな顔をしたが、少女の前で武器を構えたリベリスタを見て、彼は微かに顔を歪めた。 「何故、貴方はこんなにもこの少女を気に掛けるのでしょうね?」 問いながら放たれたブルーノの気糸。彼は答えずうっとおしげに剣でそれらを切り払う。 向く先はただ少女一人だけ。 「今助ける!」 間にキャプテンとブルーノを挟み、少女に近寄れないMrは舌打ち一つ。 振るった刃は攻撃ではなく光を生み、彼の体を覆う守りとなる。 その間にもリベリスタの攻撃は続いていた。 笑いが止まらなくなった様子の少女に向けて、ジェスターが偽りの姿を見せて斬撃を。 「……運命に翻弄される可哀想な子」 青色の瞳を痛ましげに細め、白の令嬢は魔方陣を展開した。 彼女の放つ魔力の矢と合わせるかの様に、英美の寸分狂わぬ射撃が少女を射抜く。生きた証を、せめても自分たちに残していけと祈りながら。 少女の攻撃は猛攻というのに相応しいものだった。 そしてMrの一撃も。 頑なに両者を近付かせまいと身を張って守るキャプテンとブルーノに、倒れそうになる前衛に、フツが駆け回り癒しを施す。 それをうっとおしく思ったのか、長い髪が足をその絡め取った。 「くっ……!」 振り払うのにフツが時間を要した一瞬の内、少女の爪がレンを抉る。 深く深く。倒れかけたレンは、それでも寸での所で踏み留まった。 目前で血を撒き散らす少年を前に、傷付くリベリスタ達を前に、優花は笑った。 「ミスタ、ミスタ、大丈夫、わたしつよいよ」 ほら、ね。 かぱりと自らも血を吐きながらも少女は笑う。 「退け……!」 彼女の身を守る光を届けたくとも届かないMrが、歯噛みしてリベリスタを睨め付けた。 振り下ろされた剣は、ブルーノの腕を強かに打つ。 「叶えられません。恨むは貴方のご自由に、ヒーロー」 だが、ブルーノは引かない。軽く両腕の動きを確認し、さしたる感慨も込めずMrを見返す。 揶揄ですらない、彼は思った事を述べただけだ。 一人の為に世界を危険に晒すのはヒーローの法。 たった一つの命でも、救う為に全力を尽くすのがヒーローならば、自分らは正しく悪者。 だからどうした、彼は実際少女も世界も救えていない。 Mrが噛む唇に、血が滲む。 「まだ頼むぜ」 髪を振り切ったフツは、それを見ながらレンに駆け寄り癒しの符を貼り付けた。誰かがやらねばならない事。 誰かがやらねば別の誰かが更に苦しむ、一人の為に多くの人が苦しむならば、それは防がねばならないから。 レンもそれは知っている。役目を果たしひらりと舞い落ちる符を背後に、彼は静かに頷いた。 迷っている暇はない。 跳んだ少年の刃は少女の腕を深く裂いた。 痛いとも叫ばない。 ただ少女は笑っている。 ●さよならを、少女に 高らかな哄笑を終わらせたのは一本の矢。 「安らかなる眠りにて、夢の続きを永遠に……」 目を閉じたクローディアの片手の先、少女の胸に突き立った。 最期に少女が向いたのは、己の守り人。 「ミスタ、」 「優花!」 伸ばされた手は床を打って体ごと一度跳ねた後、動かなくなった。 真っ赤だった目はあっという間に白く濁り、少女の炎が消えた事を物語る。 Mrの武器を握る手に力が篭もり、血の色を失う。 「投降してくれ、Mr.スターライト」 「私達は貴方とは争うつもりはありません」 それを見たキャプテンが呼びかける、クローディアも続きを紡いだ。 奥ではフツが彼を呼び止める言葉を探す為、戦闘の際に飛ばされたMr.スターライトのぬいぐるみを拾い上げる。 彼が読み取ったのは、ほんの断片。 今とは違い、特徴のない服装をしたMrが座り込んでいるのに、少女が近付く。 何事かを彼と少女は喋ったようだった。 ただ、断片過ぎて説得に使えるようなものは見付からない。 少女と男の間に交わされた、他愛無い会話が読めるのみ。 ――こわいの、ならMr.スターライトが守ってくれるよ。 ――うん、私はこわくないよ。 ――だってそのはね、ミスタと同じだもん。 その間にもMrはただリベリスタを睨み、カーテンの隙間から見える空を仰ぐ。 「待って」 今にも逃亡の為に振り下ろされようとしたMrの一撃を止めたのは、英美の静かな声。 抱き上げられた優花の骸に攻撃の行く先を変えかけたMrだが、続いた言葉にそれが止まる。 「もし、あなたがこの子を連れて行くのを望むなら」 一瞬目に過ぎったのは戸惑い。 警戒と疑心。 が、歩み寄る英美を見て、一度震えた手は下ろされた。 せめて戦闘の間は、と押さえていた涙が、彼女の頬に伝っていたから。 レンは警戒を解かず、エルフリーデの銃口も微動だにせずMrを狙ってはいたが、リベリスタ達は目を合わせて数歩、彼から身を引いた。 英美の腕の中の少女を覗き込んだジェスターがフツからぬいぐるみを受け取り、バイバイ、と呟きながらその胸に乗せる。 一歩一歩近付きながら、英美はMrへと語り掛けた。 「救えない命はある。傷つき癒やされない命も。それでも、アークは命の為にあるんです」 だから、すぐには無理でも。自分たちに協力してはくれまいか。 少女の体を間に挟み、抱き渡す青と紫の視線が一瞬絡む。 それは、深く下げられた帽子のつばに拒絶の様に遮られる。 「……いずれ、この分は」 だが、少女ではなくリベリスタ達にそう告げた彼は、ほんの僅かに頭を垂れた。 次の瞬間、革の靴は床を蹴り一直線に窓に向かう。 エルフリーデの反応は素早かった、その銃弾は狙い違わず翼を撃った。 他のリベリスタとて多くは立って眺めていた訳ではない。 それでもMrは一瞬たりとも止まらなかった。 翼を持つ彼が逃亡のみに力を注ぎ、窓の外へと身を躍らせれば地を行くリベリスタに追い付く術は最早ない。 しかし、先程の態度から見る限り、少なくとも彼が他の人間を襲ったりする事はあるまい。 そう感じ、フツは己の手を見下ろす。 ――Mr.スターライトは君を守るから。 ――うん、信じてるよ、ミスタ。 病室に残っているのは、果たされなかった約束の余韻。 それは星の輝きと、リベリスタたちだけが覚えている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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