●雪やこんこ 鬱蒼と樹木が生い茂る。 人里離れたその場所は、人の侵入することも余りなく自然がふんだんに残されている。 だが、一つだけおかしなことがある。 しんしんと降り積もる雪。それは森の一面を覆っていた。 別に雪自体が珍しいわけではない。だが、そこに降っているのは明らかにおかしいのだ。 何故ならばその地域はここ数日の間、気温が温暖で雨は降れども雪が降るわけがないのだから。 ぴょこり、と雪の中から一体の動物のようなものが姿を現した。 三十センチぐらいの大きさの白い塊。まんじゅうのような丸い身体に緑のはっぱのような耳が二つ。そして南天のように赤い瞳。 それは雪で作る雪うさぎの姿にとても似ていた。 ぴょこり、ぴょこり。 その雪うさぎは次々と雪の中から姿を現し、あちらこちらへと跳ね回る。 それは穏やかな戯れの光景。 雪うさぎ達の通ったあとは凍りつき、鏡面のような地面へと変化していたが。 ●ブリーフィングルーム 「いやー、最近寒いですねぇ。そろそろ冬も本格的ってやつですか。もう二月ですって? 寒ければ冬ですよ、冬。ハハハ」 寒い冬空の下、凍えながらもブリーフィングルームへ集まったリベリスタ達へと『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)べらべらと語りかけた。暖房が効いた本部にいるためその舌は快調に回り続ける。 「今回は違うチャンネルからやってきた来訪者の対処ですよ。はい、モニターをどうぞ」 ブリーフィングルームのモニターに映し出されたのは白くて丸い妙な生き物。それはまさにでっかい雪うさぎ。 「見た目まんまの白うさぎですよ。彼らはこのチャンネルにやって来て、雪を降らしては勝手に遊んでいます。 また、歩いた後の地面が凍りつくのでよく滑るようですね、気をつけないと」 資料を配りながら四郎は説明を続ける。 「基本的に無害な生物ですが、害を与えようとすると抵抗はするようです。尤もあまり力も強いわけではないので体当たりしてくるくらいでしょう。当たり所が悪くなければ大怪我はしませんよ。 また、近くに彼らが入り込んできたバグホールも存在しているはずです」 その間にもモニター内の雪うさぎ達は飛んだり跳ねたり自由気ままに遊んでいる。 ふかふかしてそうなその見た目がぽよんぽよんと柔軟性のある弾力を発揮している。 「というわけで駆逐するなり追い返すなりお任せします。雪うさぎ達をなんとかしてくださいね。凄く現場は寒いですけど、まあ、皆さん元気ですから大丈夫ですよね。寒いですけど」 二回言った。 リベリスタ達は追い立てられるように暖かいブリーフィングルームから退室し、向かうことになる。 モニターにも写っていた、あの雪に埋もれた寒げな森へと。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月17日(金)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●銀世界にて 冬真っ只中。地方によっては雪が降り、豪雪などに悩まされる地域もある時期である。 現在リベリスタがいるのはどちらかというと温暖な地域。ここ数日の間は天候にも恵まれ、自然の猛威との戦いはない地域である。 だが、眼前に広がる光景は一面の銀世界。場所が森なために一見ではそこまででもないように見えるが、実際は奥に行けば行くほど雪と氷が増えてくるのを予感させる景色であった。 「この景色に雪うさぎ、なかなか相応しい光景ですね」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が眼前の白い森を見つめながら呟いた。 リベリスタ達がこの地に訪れた理由が、雪うさぎである。 バグホールの向こう側よりやってきた存在である雪うさぎ。彼らは特に何をしているわけでもないが、この森の中に存在しているらしい。 だが、世界にはルールがある。フェイトを得ていない超常の存在は崩界を進める為に、世界から排除しなくてはいけないのだ。 だが、排除の方法にも色々ある。当然穏便な手段も取れるわけで。 「うさぎの数は三十匹、全て元の世界へ還してあげましょう」 「正しいやり方はないですし、それならば愛される還し方でいいと思います」 アリーセ・B・桐村(BNE003536)が、『敗北者の恋』甘咬 湊(BNE003478)が言うように、別に駆除する必要はないのである。要は向こう側に帰ってもらえばいいのだ。 「同じうさぎだしね。別に可愛いわけじゃ……。いや、可愛いと思って悪い?」 別に誰も責めてはいないのに、言い訳を行っているのが『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)。彼も立派な兎耳が生えているので、何かしらのシンパシーもあるのかもしれないが。 「一通り遊んだら帰ってくれると嬉しいんだけど」 離宮院 三郎太(BNE003381)のぼやきも尤もである。しかしアザーバイドではあるが本質的には動物。聞き分けがいいか、コントロール出来るか。わりとそれらは怪しいわけで。結果として追い掛け回し、捕まえて送り返す。そういったシンプルな手段に走ることになるのだ。 「足元がすべりやすいので気をつけるのです。そあらさんはしっかりものだから絶対に転ばないのです」←フラグ 今日もキリッと『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)は、これから始める大捕り物に備えて準備万端。だが運命は時として容易に人を裏切るので油断は禁物だが。 かくしてリベリスタ達は森へと踏込むこととなる。彼らを待ち受ける運命やいかに。 次回へ続く。 ●森のうさぎ はい、ここから次回。 森へ侵入したリベリスタ達は、手分けしてそれぞれ捜索を開始する。 地面はうさぎによって凍結し、表面に雪も積もってより一層滑りやすくなっている状態であった。 宙を舞う加護がなければ、対策が万全だとしても多少のスリップの可能性はあったであろう。 ←フラグ回避 うさぎを探すもの、うさぎを誘い出す作戦を行うもの、そしてバグホールを探すもの。 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)はどことなく寒さに震えつつ、バグホールを捜索していた。 「やはり寒いのは堪えるな。さて……」 普段より厚手の服を着込んだ疾風はその目を凝らす。千里眼を宿す彼の目は、森の中の樹木をも見通し目的の物を見つけ出す力がある。 されど、森は広大。いくら近くに存在すると分かってはいても、発見までは少々骨が折れそうであった。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)もまた、バグホールの捜索を行おうとしていた。だが、彼はその前に一仕事終えていた。 「フゥ、これでよし、と」 彼が作成していたのは雪うさぎであった。 アザーバイドのことではなく、本来の意味でいう雪うさぎである。雪の塊に草の葉と南天の実で耳と目をつける。伝統的な雪遊びの一つである。さすがに南天は見当たらなかったため、手近な木の実で目の部分は代用しているが。 その雪うさぎが、生命を持ったかのように動き出した。ぼてんぼてんと跳ねるその姿は、雪故の重量感を感じさせながらも軽やかであり、生き生きとしていた。生きてるけど。 「どうだ、かわいいだろ? さて、オレも探すとするかね」 式神となった雪うさぎを誰ともなしにアピールし、フツも捜索を開始する。探索の基本は足、それを示すかのように堅実に。 「おや? あれは……」 ほどなくして、疾風が捕捉したのは、森の草陰に存在するバグホールであった。さほどの大きさではない、だが情報通りの雪うさぎの大きさなら通れるであろう穴。 その穴の情報は即座にGPSを、AFを通じて仲間達へと伝えられる。残るはうさぎの探索のみ。 さて、ここにもう一人雪うさぎを作っている者がいた。 「賑やかにしたら、一緒に帰ってくれないかな?」 三郎太はひたすらに雪うさぎを作る。一個や二個ではない。全部だ。ではなくて、次から次へと作っていくのだ。 バグホールの周囲に次々とつくられる雪うさぎ達。様々な大きさをしたそれらは、増やされて集団となっていく。 いつしかバグホールの周りは手作りの雪うさぎで埋め尽くされていた。 これらの雪うさぎに釣られてくれないか、仲間と思って喜んでくれないか。真心込めて、三郎太は作り続ける。 そんな状態のバグホールの周囲では、リベリスタによる懸命な捜索が行われていた。 「さて、このへんにうさぎが隠れそうな場所はないかね?」 フツは散策するように歩き回りつつ、周囲の木々に耳を傾ける。言葉無き樹木達から伝わる気持ちは、確かに雪うさぎ達がこのあたりに居り、遊びまわっていることを告げている。 「……っと、興味を持ってくれたみたいだな」 フツが意識を向けたのは、先ほど作った雪うさぎである。それにアザーバイドは興味を示し近づいていたのが、共有された視覚を通して伝わってきたのだ。 そこに映っているのは、一匹の白い生き物であった。一見した限りは現在視覚を共有している物体と変わらない。だが、デカい。三十センチはわりとでかい。そしてそれが思いっきり覗き込んでいるのである。 それこそがアザーバイドの雪うさぎであった。好奇心に駆られて出てきたのである。 その後ろからそっとフツが近づく。小さい雪うさぎに夢中のアザーバイドはその存在に気づかず……。 「よっし、捕まえたぜ!」 フツがそっと雪うさぎを抱き上げる。突然のことに硬直するアザーバイド。そして。 「って、ぐはっ!」 思いきり顔面に体当たりをされた。だがフツはしっかりと捕まえて雪うさぎを離さない。そのままバグホールへ投げ込んで、まず一匹。 こちらはこちらでうさぎを追いかけている人がいる。 持ち前の直観により様々な場所に隠れている雪うさぎを見つけ、追い込もうとしているのはそあらであった。 牧羊犬の如く、雪うさぎを見つけては追い込もうと角度を変え向きを変えて雪うさぎを追い込もうとするそあら。 「そっちじゃないです、こっちにいくです」 そあらが追いかけ、うさぎが逃げる。狙った角度はあっさりとうさぎの気まぐれによって変えられ、また追い込み直しとなる。 「いうこときくです!」 聞きません。うさぎは自由に走り回り、そあらはその分だけ余計に走り回る羽目になっていた。 「がうっ!」 一方同じ犬科のビーストハーフでも、アリーセは狼である。 吠え声を上げ、獣の因子を前面に押し出して雪うさぎを追いかける。うさぎは恐れ、逃げ回り、自らバグホールへと飛び込むものも中にはいた。 先ほどまでは何匹かをそっと捕まえては撫でていたアリーセであるが、本気を出せばこの通りである。室内犬と野生の狼、二人の犬科の状態にはそれほどの差があった。何が二人の命運を分けたのかはわからないが。 「さて、やりましょうか」 凛子が気合を入れなおし、AFから何かを取り出していた。それは一見すればうさぎの着ぐるみのようで……どう申し訳しても見まごうことはない、兎のぬいぐるみであった。 至極真面目な態度で凛子はそれを着込んでいく。手が、足が、身体が。そして全身が兎の着ぐるみと化した凛子は真顔でこう述べた。 「草食動物は群れで一番大きなものをボスと思う習性がありますから、きっと雪うさぎも……」 科学的見地に基づいた作戦なのである。一見すると着ぐるみを着込んで真顔の変な人かもしれないが、真っ当に考えられた作戦なのだ。 「はいぴょんぴょん、と」 雪うさぎ達の注意を引くように、うさぎのごとくぴょんぴょんと飛び跳ねる凛子(28)。正直その、こう。ねえ? (……さすがにこれは恥ずかしいですね) 自覚はあったようだ。 「ほらおいで。お腹すいてない?」 「普通のうさぎと同じエサでいいのでしょうか?」 こちらは平和的解決法。綾兎と湊の二人は雪うさぎへと餌付けをして捕まえる方向の作戦を行っていた。 しかし彼らはアザーバイド。一体何を食べるのかがわからない。 野菜だろうか、お菓子でいいのだろうか。それとも雪っぽいからアイスなのだろうか。あれこれ試し、うさぎの感情を感じながら二人で模索していく。 雪うさぎは食い意地がそれなりにあるのか、餌には素直に近づいてきて食べていた。心配を他所に、出された食べ物は大体なんでも食べたのである。案外雑食な生き物であった。 そんな雪うさぎを撫でようと、綾兎が手を伸ばすと雪うさぎは一瞬びくりとなった。 「ほら、大丈夫。傷つけたりはしないし落ち着いて」 そのままぎゅっと雪うさぎを抱っこする綾兎。 「ほら、俺も兎仲間。安心しなよ」 一瞬暴れそうになる雪うさぎに対し、自らの耳を揺らしながら頬を摺り寄せる。敵意がないのを理解したのか、その雪うさぎは大人しく彼の腕に収まったまま与えられた食物を齧っていた。 その毛並みは柔らかで、ふわふわとしている。だがその温度は氷のように冷たく、長時間抱きかかえているのは厳しいように感じた。 「こちらにいてはいけないんですよ。だから帰りましょう、ね?」 湊も雪うさぎを抱きかかえ、そっとバグホールへと運んでいく。餌に気をとられているのか、湊が気を遣っているのを理解したのかはわからないが、雪うさぎ達は激しく暴れるようなことはなく。 「あまり迷い込んできては駄目ですよ」 こうしてまた、新たな雪うさぎはバグホールへと送り込まれた。一瞬振り返り、新しい遊び場であったこの地に未練を残すような態度を見せたが……するりと穴に入り、その雪うさぎは消えた。 ●バイバイ 「あと何匹残ってる?」 「やっと半分ぐらいかもしれないよ」 「今が丁度十五匹ぐらいですね、半分だ」 リベリスタ達はお互いに連絡を取り合いながら、雪うさぎを追い立てていく。 「そっちに行ったよ!」 「ここには二匹いる!」 探せば探すほど見つかる見つかる。優れた耳が、見通す目が、心を読む力が。様々な場所に隠れている雪うさぎを見つけ出していく。 危険を感じてか、遊びと思っているのかはわからないが、雪うさぎは追いかけるリベリスタ達から飛び跳ね、逃げ、隠れようとする。通った場所には氷が張り、森の冷気をあげて地面の抵抗を減らしていく。翼の加護の力がなければ今頃は何人も転倒していたことであろう。 「あいたぁ!」 「ちょ、ちょっと。落ち着いて」 さらに抵抗もする。大人しい個体は大人しいが、中にはアグレッシブな個体も混じっている。捕まえようとすれば抜け出し、追い詰められれば飛び掛り、捕まっても暴れ回る。 「基本的に無害ではあるけど……ちょっと抵抗が激しいね」 いくら疾風が鍛えているとはいえ、それなりの重量のある丸い物体が何度も激突してくれば決して楽なわけではない。打ち身、青あざ、色々出来る。気を練って自らを癒しながら、ひたすらに追いかけ、追い詰め、捕まえては体当たりされていた。 だが、疾風も含めリベリスタ全員が地道に活動することによって、なんとか雪うさぎ達はバグホールへと追い返されていった。 最後の一匹がバグホールへと運ばれる。その頃にはすでに日は傾き始め、銀世界の森は暁に染まりつつあった。 「還ってからも元気でいてよね?」 「次ははぐれないようにしてくださいね?」 綾兎が、凛子が、最後の一匹に言葉をかける。短時間で大変な捕り物ではあったが、敵意があるわけではない彼らとの追いかけっこはこうして終わるとなると、寂しくもある。楽しかった部分もあるのだろう。 「それじゃ、バイバイ。楽しかったよ」 三郎太が最後の一匹を離し、促した。開放された雪うさぎは、きょろきょろしながら鼻をピスピスと動かし、ゆっくりとバグホールへと向かっていく。仲間の匂いを追っているのだろうか。 進む雪うさぎを見送るのはリベリスタ。それとたくさんの作りものの雪うさぎ達。 ぴょん、と雪うさぎがその身体をバグホールへと躍らせる。白い毛並みが溶けるように消えて行って、それを追いかけてフツの作り出した式神の雪うさぎがバグホールへと飛び込んだ。 「これで三十匹。それでは閉じますね」 アリーセが手にした細剣でバグホールを突いた。その一撃により、実体の存在しないホールは縮小し、ぱちんと消えた。 「あんな可愛い生き物を倒しちまうことがなくて、本当に良かったなァ」 フツが仏のような笑顔でしみじみと言う。一丸となってうさぎを追いかけ、事を荒げることなく終わらせる。効率的とは言えないが、皆が望んだ結果だ。フツの言うとおり、これでよかったのだろう。 「しかし長く寒い場所に居すぎたかな。冷えて風邪を引いたら堪らないな」 疾風の言葉も尤もで、リベリスタ達は心身共に冷え込んでいた。一面の雪と氷の中をあれだけ走り回って、平気でいられるのは犬か風の子ぐらいである。 「そう思って持ってきていたのです」 そあらが誇らしげに取り出したものは、魔法瓶であった。蓋を開けると保温された飲料が立てる湯気と一緒に、はちみつティーの甘い香りが森に広がる。 「あら、そあらさんも。実は私も……」 凛子もまた、紅茶の入った魔法瓶と、様々な果物が挟まれたフルーツサンドを取り出す。 「奇遇ですね。では温かいスープもいかがですか?」 湊も魔法瓶を所持しており、その中には温かな湯気を立てるスープが入ってる。 偶然の一致ではあるが、似たような準備をしていた事実に皆は顔を見合わせ……笑う。 雪の森の追いかけっこはこうしておしまい。 そして降らせていた主無き森の、名残雪の中のお茶会が始まる。 それを見守るのは、たくさんの作られた雪うさぎのみだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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