●夜渡家の食卓 豪邸と呼べる規模の家の、象が飼えるような居間の、豪華と形容詞がつくテーブルに、男女が合わせて6人。 スーツ姿で緊張した面持ちの青年を、その隣に座る若い女性は心配げに見守っている。二人の向かいには厳格な表情を見せる壮年の男性。更にその周りには男ばかり3人……どうやら兄弟のようだ。 もうおわかりであろうか。そう、YOMETORIである。 スーツの青年――瀬戸家継はこの家の一人娘夜渡瑠香と出会い惹かれ愛し合った。二人は愛を誓い永久を約束し……そして今、彼女の家族の前に座る。彼女を、嫁に貰う為に。 誰も何も喋らない。重い――重い空気の中、ついに彼は口を開く。 「お父さん、娘さんを私に下さい」 「貴様に父親呼ばわりされる筋合いはない。帰れ。てゆうか死ね」 ……あれ? 今何かおかしくなかった? 「そーだそーだ殺そうぜー!」 「奴には反骨の相が見えます、殺しましょう」 父、礼門の言葉を皮切りに三男房雄、長男利史が立て続けに反応。殺せコール始まった。 「さ、さすがに言いすぎじゃないか?」 苦笑して口を挟んだのは次男玖也だ。家族の反論に、父親達も少し落ち着きを―― 「貴様も裏切り者かああああ!」 「奴にも反骨の相が見えます、殺しましょう」 「そーだそーだ殺そうぜー!」 ダメだこの人達。 ダンッとテーブルを叩き立ち上がったのは娘の瑠香。元々きつめの瞳を更に吊り上げ怒鳴りつける。 「父さん達がなんて言ったって私は家継と一緒になる! もう決めたから!」 気の強い彼女はまっすぐに父親を睨み付ける。意思の強いその瞳は相手を怯ませ、一部の変態をそくぞくさせた。 「ねねね姉さん! 姉さんと俺は姉弟の禁忌を超えて一緒になる予定じゃないか! 野球チームを二つ作れるくらい子供が欲しいねって――」 「ちらしの裏に書いてろ。全部燃やしてやるから」 三男撃沈。 「瑠香。私の調査によるとそいつは身寄りもない前科持ちだぞ。また手を汚すに違いない」 「昔のことは関係ない。今の家継がどれだけ優しいかを知っているから」 長男の言葉にも揺るがない。 「あ……あーいらーびゅー、あーいにーちゅー」 「死ね」 当然。 「し、死ねだとぉ……?」 にべもなく扱われた礼門は怒りに顔を歪ませ叫んだ。 「そんなこと妻に言われて以来だ!」 「あ、俺一週間前にも姉さんに言われた! 言われたよー!」 離婚歴を持つ礼門と利史の二人の叫びに、房雄はなぜか嬉しそうに反応。 ダメな家族に対しため息をつき、もういいから二人で暮らそうと瑠香は言うも家継は首を横に振った。 「俺には家族がいないから、だからこそ家族ができたら大切にしたいと思っていた。お前の家族も、大切にしたいんだ」 家継――瑠香は幸せを噛み締め最愛の男性に抱きついた。何があってもこの幸せを手放しはしないと。 だがそこは娘命、姉萌えのダメな人達。怒髪天を衝く形相である。 「絶対に許さん! どうしても行くなら……父の屍超えてゆけー!」 ●うちのご飯 ……沈黙。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)も沈黙。 長い長い、間。 「……え? 終わり?」 耐え切れずリベリスタの一人が声を出すと、イヴは頷き口を開いた。 「行ってらっしゃい」 いやいやいやいや。 リベリスタの反応にため息をつき、イヴは再度説明を始める。 「状況は見ての通り。この後三人ずつに別れて盛大な殺し合いが始まる。死者総計四人の惨事」 まじで? 「夜渡家は実は代々リベリスタを産出してきた家系。アーク所属ではないけれどリベリスタ業界ではとても有名な一族だよ」 残念さはともかく実力は一人一人が折り紙つき。アークのランカー達とためをはる実力者揃いだ。 一方の家継はというと…… 「彼は元フィクサード。天涯孤独でフィクサード組織に拾われ事件を起こしてきた経歴を持つ」 けれど、と付け加える。自身の行動を悔い、リベリスタを招いて組織を壊滅に導いた。その上罪を大人しく認め自身も裁かれようと抵抗せず殺されようとした。 それをかばったのがリベリスタ側にいた瑠香。二人は認め合い、惹かれあい、フィクサードに憎まれリベリスタに見下されながらも愛を深め合った。 「その結果がこれ」 家継は三人に殺され、暴走した瑠香は三人を殺し、脳筋の兄と共にフィクサードとなる。 リベリスタは優秀な人材を四人も失った挙句敵を二人増やすことになる。 「阻止して欲しい。夜渡家は力こそパワーが信条の脳筋一家。戦って倒せば大人しくなる」 グッと親指を立てイヴは頑張れーとやる気なさげに送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月10日(金)23:01 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●突撃! 隣の蛮人飯 責められる覚悟はあった。フィクサードの過去は消えない。瑠香が気にしないと言ったって自分は忘れない。忘れてはいけないことだ。 死ぬことで罪を償おうとした。それは逃げだと今は知る。過去は重くのしかかり、それを背負うことが自分の贖罪。生きてこそ出来る償いもあるだろう。 そんな自分に瑠香は必要だ。決して譲れぬ大切な人だ。だから責められ否定されても、許されるまで通い続けるつもりだった。 だから――だから、だ。こういうことも想定―― 「死ねええええ!」 できるわけないだろう。 豪邸のその居間で、夜渡家の人々はすでに戦闘の構え。 「早く殺そうぜー! 俺もう我慢できないよー!」 あいつらどこの国の人? 核の影響とか受けてないよな? 向こうの面々は確実に話を聞くことはないと確信できてしまったので、家継は話を聞いてくれるだろう瑠香の肩を掴む。 「落ち着け瑠香! 親子で殺し合いなんてするもんじゃない」 「コロス。クビヲハネテコロス」 あ。わかっちゃった。こっちもダメだ。 デストロイヤーモードに入った恋人から目を逸らし、唯一良識を持つと信じ玖也に目をやる。 「ははは。お兄ちゃんはりきっちゃうぞぅ?」 ダメだこいつら、どうにかしてくれ―― その時、扉を蹴破り対立する二組の間に飛び出した複数の男女。 「やーん、この喧嘩はアークが預からせていただきま……ってええー!」 悠長にはしていられないと突入した『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は、眼前の光景に悲鳴を上げる。 両手を広げ口をかぱりと開き牙を剥く夜渡家の人々。吸血一族である夜渡家に代々伝わる秘伝の構えだが一見して異様。ぶっちゃけキモい。 何事かといぶかしがる夜渡家一同。 「こんにちは! 犬も食わない喧嘩にも丁寧に首を突っ込むアークです!」 答えたのは『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)、この子超楽しそう。 反応した家継に『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は柔らかな笑顔を向ける。 「元フィクサードならアークの万華鏡を知らない訳はないでしょう?」 未来を予知し事件を未然に防ぐ万華鏡。それを有するアークが来たというのなら―― うなづき言葉を紡ぐは『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)。 「家族の今後についてお伝えする事があります」 告げるは真実――家継を含めた四人が死亡すること。 あまりに突然な言葉にうろたえる家継。 本当にアークかどうか疑ったがその考えはすぐに霧散する。この場にアークを代表する名声を持った人物の存在を認めたからだ。 「喧嘩、止めに来たよ」 そう告げたのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。 「恋愛も嫁取りも勝手だけどさ、面倒事を他所に持ってくるのは勘弁して欲しいんだよね」 「あ、ぼっちの新田快だ」 「なんで知ってんだ!」 有名ですから。 (香夏子は考えたのです。戦いを止めるためにどうすればいいか) 『第15話:突撃…隣のバンババン』宮部・香夏子(BNE003035)は考える。考えて考えて―― (結論を出したのです。もう全員ぶっ倒しましょう) 早々に諦めたよこの子。 家族間通話不能です――それはあなたもです香夏子さん。 「毎度おなじみアークのリベリスタです。ケンカ両成敗に来ました」 「夜渡も舐められたものだ」 「祭と喧嘩は派手じゃなくちゃ!」 利史、玖也が楽しまんと威勢を上げれば―― 「姉さんを奪う気だなー!」 「貴様らも裏切り者であろう……」 房雄、礼門が怒気をみなぎらせる。 「クビ、ヨコセ」 問題外。 戦闘民族夜渡家一同、皆が不敵に笑い武器を抜いた。対するリベリスタ陣営も武器を構える。 仲間の前に立ち、快は高らかに宣言する。 「難しいコト言っても分からないだろうから簡潔にまとめる」 不敵に笑い、一言。 「夜渡家? 全員ぶっ潰してやるから纏めてかかってこいよ!」 ●出前と出会えは似ている、ことはない 戦場を誰よりも早く駆け抜けたのは『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)。床、壁、天井を多角的に利用し一瞬で距離を詰めると房雄に躍りかかる。 「皆さんご存知アークから参りました。御前ら少し自重しろ」 「気をつけろ房雄! 富永喜平といえばアーク有数の実力者だぞ!」 利史の言葉に苦笑を漏らす。危ないやつらに危ない扱いとはね――散弾銃を振り回し殴打、乱打、果ては至近射撃。喜平はまさにこの場において有数の危険な存在であろう。 「やるじゃん!」 全ては受けきれず傷を受けるも、痛みなど感じぬと豪快に笑う房雄。喜平を好敵手と認め、お返しと大剣を振り回す動きに喜平は目を剥く。 巻き起こる烈風が喜平の身体を切り刻み身体の自由を奪う。意外なことに房雄は神秘の力に精通したバランスの良い戦士だったらしい。いいね燃えるよ――喜平は楽しげに笑い痺れる身体をおして再び銃を向けた。 「このままでは家継さんは死亡し、瑠香さんがフィクサードになってしまうんですよぉ」 イスタルテの言葉に家継は唇を噛む。だが。 「――気をつける。だから引いてくれ! 家族に剣を向けるなら俺はお前達を倒すしかない!」 説得は簡単にはいかず、戦いはそれを待ってはくれない。 「とりあえず、まず落ち着いて話をしませんか?」 イスタルテは目くらましのつもりで家継を除く周囲に閃光を放つ。だがこれが…… 「ぎゃあああむ!」 「目が、目がああああ!」 あ、あれ……? うまくかかりすぎてしまい、阿鼻叫喚の騒ぎに思わず罪悪感に駆られたりするイスタルテ。吸血一族だけあって聖なる光に弱かったのかも。 「お、お前! よくも――」 ……や、やーん。 (愉快な家庭ねえ。子離れできないのは父親の専売特許かしら) くすりとこぼれる笑み。どんな時でも余裕を崩さないのがティアリアの強さといえよう。 「まずは房雄からよ。わたくしと快で娘側は抑えるわ」 仲間に指示を飛ばし、自身は瑠香に接近する。 「ふふ、異端ホリメ同士仲良くしましょう?」 瑠香の気を引くためそっと腕を回しその生気を奪うティアリア。 それに呼応するように瑠香も牙を剥きティアリアに突き立てる。 ちゅー。 ……なにこれ百合い。 (娘さんを私に下さい、ですか。何時かは言われる日が来るのでしょうね) 二人の娘を持つ明神 暖之介(BNE003353)にとって今回の事件の発端は他人事ではない。 その時は心静かに迎えたい……夜渡家を反面教師と定め、ブラックコードを手に房雄の後ろに回りこむ。 「その前に……成す事を成すと致しましょう」 微笑みは柔和に。好敵手との戦いに気を取られていた房雄に、暖之介はその首を一気に締め上げた。 微笑みは冷淡に。父親の顔は消え、暗殺者の顔がそこにある。 「ねぇねぇ何やってんの? とらも混ぜてぇ」 礼門の身体に飛びつくようにしてとらが迫る。とらは礼門の抑え担当だ。 「小娘! 邪魔だていたすなぁ!」 殴りかかるのも大人気ないと、とらを振りほどかんとする礼門にとらは連続口撃。 ここからとらのターン。 「瑠香ちゃんてママ似? どうやって奥さん騙したの?」 「騙してない! ちゃんと土下座しました!」 土下座したらしい。 「早く奥さん迎えに行きなよぉ。そしたら瑠香ちゃんについでで結婚式に呼んでもらえるかもよ?」 「迎えに行った! すでに再婚してました!」 再婚してたらしい。 「ところでお名前はれもんさんって読むの?」 「あ、はい。れもんです」 れもんらしい。 「喜平ちゃんファイト一発!」 とらの支援で麻痺を解除し、喜平は助かるよと手を振りながら再び銃身を房雄に叩きつける。暖之介に縛り上げられなすすべもなく傷ついていく房雄。 それを助けようと飛び出した利史の動きは、自身の身体能力を高め機会をうかがっていた彼女にとってうかつなものであった。 「チャンスを見逃さないのが香夏子です」 香夏子の放った気糸は利史の身体を見事巻き取った! そのまま強く縛りつけ動きを封じる。 「もう面倒になったので、このままぶっ倒しますね」 「どけ!」 「悪いがどけないな」 家継を抑える快は片手間に礼門の注意を引き付けるべく十字の光を叩きつける。 自分が狙われる内は仲間を守れるという思いがあったが、それを難なくかわす礼門の動きにその技量を推し量る。 (……当てるのは難しい、か) 思うが早いか、快は家継の前に立ちはだかる。それは家継の注意を引くと同時に、家継への攻撃を防ぐ心算でもあった。 「瑠香さんの身を案じておられるのも判りますが、家継さんを失った瑠香さんがどれほど悲しむかも考えて下さい」 イスタルテは説得を続けていた。考え込む家継。その家継を守るべく、再びイスタルテは意思を目くらましの閃光へと変えて放つ。 ――うまくいきすぎて閃光が二重に発生しました。再び阿鼻叫喚の夜渡家。 「……お前いい加減にしろよ」 や、やーん。 味方の優勢を感じていた暖之介は、ふいに危険を感じ飛びのく。縛っていたはずのコードが解かれ、房雄の巻き起こす旋風が身を掠めた。 奥を見やれば玖也が神秘を発揮し、無差別に状態異常を回復させていた。 「祭は派手にやってこそだろ!」 踊って楽しめと豪快に笑い、敵味方関係なしに力を振るう玖也。いい迷惑である。 ここからが夜渡家の本番だ。房雄は喜平と暖之介を、利史は香夏子とノエルをまとめて相手取る。 房雄の大剣は二人を麻痺させ、利史の放つ気糸は精密な動作で二人に癒しがたい傷を負わせる。さすがの夜渡家といったところ。 その後詰めのように、瑠香の放つ閃光が総計十一名を相手に眩く輝いた。 「わ、大変!」 各場所での仲間の悲鳴に、舌戦を続けていたとらが慌てて癒しの歌を紡ぐ。被害甚大。打たれ弱い面々はすでに膝をつきかけている。 (頭に血が上って力を使うなど、リベリスタとして言語道断です) 屈しかけた膝を奮い立たせ、ノエルは突出した利史をブロックし斬りかかる。 「さあ力比べと参りましょう!」 ノエルの槍が利史の身体を強く打ちその身を感電させた。 喜平の攻撃が房雄を魅了し、快の攻撃が利史を怒らせるも、玖也が落ち着かせ効果を出させない。だが両陣営ともその痛みは積み重なっていた。 ――戦況は動く。 ●美味しく焼けました イスタルテの癒しも房雄の重い一撃の前に暖之介の身体は耐え切れず、その運命を対価にして踏みとどまった。 (オーダーは全員の無力化、状況判断は慎重に。まだ倒れるわけには参りません) 更に瑠香の攻撃が来たなら被害はもっと出ていたであろうが、彼女は傷が積み重なってきた家継の回復を優先したため被害は少なくすんだ。 繋いだ命、拾ったチャンスを無駄にしない。とらの癒しの力を受けノエルは走り出す。 「実力は流石に、というところですが……終わりです!」 白銀の騎士槍を構え突進――目標は利史! 信念の名を冠したそれは、すでに深く傷ついていた利史の身体を捕らえ壁に激突。槍と壁に挟まれたままその身を打つ電撃! 「おぎゃああああ!」 断末魔を上げ失神した利史の身体を槍でそのまま窓の外へ放り投げノエルは微笑んだ。 「こんなのでもリベリスタですから、ね」 「兄貴ぃー!」 「おっと隙だらけですよ」 房雄の意識がそれたのを見逃さず暖之介はその身体を縛り上げる。 動きが止まったのを見るや喜平は空間を自在に使い駆け出す。 「お、おおお! は、速い!」 房雄さんそれ死亡フラグ。 喜平を見失い慌てる房雄、その身体に影が作られ――上空より迫るは大きく頑丈な打撃系散弾銃。 「お前さんは余計だから寝ててもらおうか」 そして――一際大きな音を立てて房雄は床にめり込んだ。 「さあこんなところかしら」 ティアリアは悠然と微笑み、ノエルも決然と続ける。 「もういいでしょう。このまま続けて誰も幸せにはなれません」 家族を望むならば――その言葉を遮ったのは礼門の笑い声。 「これからだろう」 不敵な笑みは全部で四つ。これまで戦闘に参加していなかった彼は地道に影人を増やし続けていたのだ! 夜渡家で一番の実力を持つ礼門、その影もまた高い実力を保ちリベリスタに襲い掛かった。 暖之介は気絶した房雄の身体をイスタルテに投げ渡す。 それを廊下に出そうとするが――次々と倒れた家族に、ついに今まで動かなかった家継が行動を起こした。 「やはり……見逃せん!」 言うや、イスタルテの身体に吸い込まれる凶弾。それは彼女が事前に切実に撃たれたくないと漏らしていた力でもあった。 「きゃんっ!」 断罪の魔弾はイスタルテの身体を撃ち抜いた。ふらつきながらも房雄の身体をなんとか廊下へと放り出す。 そのまま倒れかけるもその運命を消耗させ踏みとどまったイスタルテを、瑠香の放つ閃光が包み込んだ。 「まだ戦うつもりか」 快は倒れた仲間……イスタルテと暖之介を見やり言う。仲間が倒れるのは彼には屈辱的なことだ。 ノエルも倒れかけるがその運命を疲弊し踏みとどまる。 喜平は首の皮一枚でなんとか立っていたがこれ以上の戦闘継続は辛い――いっそ倒れたいもんだ―― そこまで考えたところで身体が癒される浄化の障壁に気づく。 心を見透かしたように悠然と微笑むティアリアに苦笑し、いっちょやりますかと影に向かって銃を放った。 「ひゃっはー!」 今この戦場で一番元気なのは間違いなく香夏子である。瑠香の放つ閃光を全て避け、強いといっても所詮単純な動作のくり返ししかできない影の攻撃などものともしなかった。 身をかわすと同時に繰り出した魔力のカードが影を突き破り霧散させる。 「まだまだ……香夏子のターンは終わりません!」 「あなたもリベリスタならもう少し状況を見なさい」 仲間を癒し敵を抑え……瑠香の牙を、玖也の輝く一閃を、果ては家継のオロチの如き一撃すら耐え切りティアリアは毅然と勝ち誇る。 快の万全のサポートもあったとはいえ、激戦の中悠然と立つ彼女の実力は本物だ。対する瑠香達はなんとかしのぐのが精一杯。 ティアリアと快、瑠香と玖也。ホーリーメイガスとクロスイージスのコンビによる対決はティアリア達に軍配が上がった。 「降参しろ――って言っても無駄なんだろ?」 快の言葉に笑い、玖也は最後の力で武器を輝かせ全力で叩きつけた。 結果は――無傷。快は柔らかな笑みをたたえたまま。 「俺がいる限り突破はできないよ」 「何せ守護神だもの」 楽しげにティアリアが後を続け、その牙が玖也の意識を断ち切った。 「オノレ――」 顔を歪めながらもなお飛び掛らんとする瑠香の肩がつかまれた。 「いい加減にしろ瑠香! 俺達の負けだ」 「イエ……継……」 瑠香の盾となっていた玖也が倒れた以上継戦は不可能だろう。家継は瑠香の目を見て優しく続ける。 「目的は親父さんの命じゃないはずだ」 瑠香が黙って頷くと、その頭をポンと撫でた。 「少しは頭も冷えたかしら? 力の無駄遣いするんじゃないわよ全く」 「やっと話を聞いてくれる気になったかい?」 くすりと笑うティアリア、快に、家継は深々と頭を下げた。 (こう言う方であれば歓迎なのですがね、私は――) 床に倒れながらも暖之介の脳裏に浮かぶのはやはり娘のこと―― ノエルの槍が、喜平の銃が残る影を消し去るといよいよ礼門一人。 しかしその牙で喜平もまた膝を付き、フェイトを燃やしてなんとか踏みとどまった状況だ。 たった一人で礼門は余裕を崩さない。攻撃を避け続け吸血をくり返し、再び影を生み出す……このスタイルで常勝不敗を誇ってきたのだ。 「わしは止められん! 死ねええええ!」 影が開いた道を駆け抜ける礼門の狙いはただ一つ、家継の首! その動きに家継達は気づいておらず、礼門は無防備な首を…… 「らめぇー! 瑠香ちゃんのお腹には家継君の子供が……!」 瞬間居間に響いた声に、礼門はじめ全員の動きが止まった。 「うっそぴょ~ん! キャハハ、驚いたぁ?」 とらが心底おかしそうにお腹を抱えて笑っているが――微動だにしなくなった礼門を訝しく思い、快がそっと近づいていく。 …… 「……死んでる」 ショックに耐えられませんでした。 ●うちで食べるご飯が一番美味しい 居間に並び正座をさせられる夜渡家一同様。あ、礼門は自己犠牲精神豊富なリベリスタの人工呼吸で蘇生しました。守護神涙目。 「拳で語る派なのは承知してますがね、言葉でしか伝わらない事もあるんじゃないんですか?」 喜平の言葉を夜渡一族は素直に受け止める。負ける前とは雲泥の差であった。 「それにしても若いわねぇ。これからの人生に幸あれって所ね。お幸せに」 家継と瑠香を立たせ笑顔で祝福を贈るティアリアに、礼門はまだ認めたわけではないと怒鳴るが―― 「わがまま言ってると将来孫が生まれてもハブられて休日に連れて来てもらえないよぉ?」 とらの笑顔にしゅーん。 「おめでとうございます。こんなでも家族はいいものですよ、きっと」 家族を持たないノエル。同じ境遇でありながら今家族を手に入れた家継。 瞳を合わせ想いは伝わる――ありがとうと、家継は言葉にした。 「やっと出来た家族だ。大切にするよ」 「そうそう。家継君、これからは毎日こんなよ? ガンバってね」 とらの無邪気な笑顔に家継の表情が引きつったのを香夏子は見逃さなかった。 (天下泰平なのです) もっともそんなこと気にする香夏子ではなかったのだけど。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|