●招福来来! 昔々、あるところに物を大切にする老夫婦がおりました。 もう随分と古く、ぼろぼろになった我が家を愛し、何十年と使い込まれた万年筆を愛し、古時計を愛し。 多少の不自由さすら好ましいもの、と笑っては多少の故障や破損なら自らの手で直し日々を営んでいました。 絶えずやわらかな笑顔とお茶の香りが漂う、皆の憩いの場所。 だけどそんな老夫婦も寄る年波には勝てず、時々親戚の人が老夫婦の家だった場所に訪れては掃除をして帰るという生活を続けて数年。 やがてその足も絶えて久しくなり、まるでそこだけが時間の流れから切り離されたかのように、静かに佇んでおりました。 「……どうせ産まれるなら、お爺さんやお婆さんが居た頃に産まれたかったなぁ」 そこに、いつの間にやら一人の少女が住み着いておりました。 「まぁ、愚痴っても仕方ないわよね。それに二人にこの家の子達を託されたんだと思えば、寂しくなんてないもん」 少女は負け惜しみのように、しかし意味のよくわからない言葉を呟きながら、戸棚に仕舞われた湯呑み茶碗などを丁寧に布で磨きあげていきます。 「よし、今日のお仕事終わりっと……」 戸棚を丁寧に閉めてから、やれやれっと体をほぐしながら家の奥の部屋へと続く襖を開けます。 そこは、老夫婦が毎日お供え物を捧げていた部屋。 かつての名残である空の器を寂しそうに見つめてから、少女は体を小さく丸くして眠りにつきます。 ――かちゃ。かちゃ。 眠りについた少女の周囲で、あるはずのない音が響きます。 「んぅ、何よぅ……お婆ちゃん、もう起きたの……?」 寝ぼけ眼をこすりながら、老夫婦の姿を幻視する少女。 あの人はいつも人が寝静まった頃に起きてはお供え物をくれていたなぁ、なんてぼんやりと考えながら。 「……って、そんなことあるわけないじゃないっ!」 ようやく思考が働き始めたのか。少女は慌てて飛び起き、襖を開けて音の鳴る方を睨み付けます。 「そこにいるのは誰っ!?」 ですが、そこにはいくら目を凝らしても人影はなく。 「……あら?」 かちゃかちゃと音を立ててはしゃぐ、空の器だけがありました。 ●愛された家 『座敷童子。 元来(がんらい)、座敷童子が住まう家は栄(さか)え、去った家は衰退(すいたい)するとされる日本古来から伝わる妖怪(よーかい)。』 「今回の事件は、正確に言えばまだ事件じゃないわ」 どこから用意したのか、ホワイトボードに座敷童子について書きながら(ただし、難しい漢字はひらがな)、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)がそう告げる。 「今回のエリューションは、家それ自体がエリューション化したみたい」 ざわめく周囲。 エリューション化した家。もしそんな物が動き出せば、周囲に甚大な被害を与えかねない――。 「だけど安心して。言ったでしょう?これは、正確に言えばまだ事件じゃない、と」 そんな周囲の不安を感じ取り、イヴが安心させるようにこくりと頷く。 「どうやらこの家は、まだ現段階では自身の中……つまり家の中に自身の分身を生み出して活動する事くらいしかできないみたい」 それに……と、わずかに躊躇いを見せたイヴ。 「この家は昔、とても穏和なお爺さんとお婆さんが暮らしていたみたい。仲睦まじく、家を愛して、物を大切にする。そんな二人を象徴するように、この家自体もあまり好戦的な性格じゃないみたい」 ぶつぶつと文句を言いながらも迷い込んだ人には一夜の宿として部屋を提供し、毎日家や物の手入れを怠らない。 「だけど、老夫婦が大切にしていた物を壊そうとする相手にだけは容赦がないみたい」 そこが今回の問題点なんだけど……。 イヴはホワイトボードの方へと向き直り、くるりと板を反転させる。 『九十九神。 大切にされてきた多種多様(たしゅたよう)な万物(ばんぶつ)が長い時間や経験を経(へ)て神に至(いた)る物。』 「今回は妖怪オンパレード。どうやら家の中の色んな物もエリューション化しているみたいなの」 もしそれらを破壊しようとする場合、家エリューションはその体内にあるありとあらゆる手段を用いて対象を排除しようとするだろう。 「この家エリューション自体は未熟そのもので、分身を破壊してしまえばそのまま消滅する。でも分身は、他の子を守ろうと……老夫婦の想い出を必死で守ろうと、全てのエリューションゴーレムが壊れるまでは決して滅びないわ」 逆に言えば、それさえ壊しきってしまえばあとは一人のか弱い少女だ。 「……今回は、多分。説得するにしても、問答無用で叩き伏せるにしても、とても後味の悪い終わり方になると思う」 だって少女は悪いことをしているわけじゃなく、ただ二人の想い出を大切にしているだけだから。 「だけど、今刈り取らなければ……いずれ、大きな災いになるのは目に見えているわ」 だから。 「お願い。彼女の全てを、壊してきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月13日(金)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●訪れ ぽつん、ぽつん、と自らを叩く水の音。 障子は動けぬ我が身の紙を僅かに震わせて、雨の到来を家の中へと告げる。 家の中には今日も変わらぬ日課として家の手入れを行っている少女がいた。 「~~~っ♪」 鼻唄交りのその様子は、障子の僅かなサインに気がつかない。 そんな少女に畳がやれやれという風にその身を軋ませて家鳴りを起こし、古時計が続いてごーん、ごーんと低い音を鳴り響かせる。 「きゃうっ!? な、何? 皆してまた私を驚かせようとしたってそうはいかないんだからねっ!」 びくっと体を震わせつつ、畳と古時計を叱っていく。 強い口調とは裏腹の表情に苦笑するように、急須と湯呑み茶碗がかたかたと音を立てて障子の声を伝える。 「え、雨? 大変、急いで雨戸を閉めなきゃ……!」 少女が慌てて縁側へと移動して雨戸を閉め始める。 「あぁ、もうこんなに濡れて……気がつくのが遅れてごめんね」 そして雨の滴を含んだ障子から水を丁寧に拭き取っていく。 ――と。 じりりりん。じりりりん。と、黒電話の鳴る音が玄関から響く。 「あぁ、もう。本当にこういうことって一気にやってくるわね……! はーい!」 それは、誰か人が入ってきたという黒電話からの合図だった。 ●邂逅 今ではすっかり聞かなくなった、懐かしい黒電話が鳴り響く。 玄関を入ってすぐの場所。雨に濡れて湿った髪をかるく撫でつけていた『アクマノキツネ』九尾・黒狐(BNE002172)がその音に反応してびくんと肩を揺らす。 「……思ったよりも雨が強くなってきたな」 持参していたハンカチで額に滴る水滴を拭いながら、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が僅かに苦い表情を見せる。 しとしとと降りしきる雨に、始めは軒先で雨宿りしていたリベリスタ達だったが、軒先に8人を収容するスペースがあるはずもなく、雨が強くなってきたため無礼を承知で家の中に入ってきたのだ。 「……あら。今日は随分とたくさんいるわね」 黒く厚い雨雲に、電気のついていない家。 その暗がりの廊下の先から現れた少女が少し驚いた声で8人を迎える。 「これはこれは……。中に人が住んでいるとは露知らず、申し訳ありません。本当なら軒先だけをお借りしようと思っていたのですが、予想以上に雨が強く玄関をお借りしていました」 現れた少女に対し雪白・万葉(BNE000195)が失礼を詫び、一礼する。 「構わないわ。そもそもこんなに暗いのに電気も付いてないし、鍵だって開いてるんだもの。廃屋と思われても仕方ないわ」 いつの間にか鳴り止んでいた黒電話をそっと一撫でしてから、少女が8人の顔を見渡す。 「雨宿り、と言っていたわね。ここは電気もガスも水も通ってない訳あり住宅だけれど、それでよければ雨が止むまで寛いでいきなさい」 それだけ言うと、少女は廊下の奥へとゆっくりと進んでいく。 付いてくるのもここに留まるのも自由、ということだろう。 「……どうする?」 念の為の確認、と『威風凛然』千早・那美(BNE002169)が他の仲間に意見を求める。 「決まってるやない。折角の好意やし、願ったり叶ったりや」 『武術系白虎的厨師』関・喜琳(BNE000619)がそれに首肯して少女の後について歩き出す。 他の者もその後に続き、最後方に『龍の如き規範を為さん』龍伝・あいら(BNE001481)が周囲を警戒するように目を配りながら歩く。 もしかしたら近くに動くエリューションがいるかもしれない。 頭の片隅にその思考を置きつつ視線を動かして適度に緊張を解す。 「大丈夫、ですよ」 そんなあいらに『蛇巫の血統』三輪・大和(BNE002273)がそっと微笑む。 「この家からは敵意のようなものを感じませんし、そんなに緊張しないで大丈夫ですよ」 「でもだからってだらだらのし過ぎも駄目よ?」 『正義を騙る者』桜花・未散(BNE002182)にそう釘を刺され、あいらが苦笑を漏らす。 「とりあえずここで雨が止むまでしばらく休んでればいいわ」 少女に連れられやってきたのはやや広めの客間だった。 「でもその前に、これで服を拭いて頂戴ね。畳が痛んじゃうから」 差し出されたのは8枚の清潔そうなタオル。 「面倒見がいいってのは本当みたいだな」 「ん、何か言った?」 「いや、ただの独り言さ。それよりも、一時とはいえ世話になる身だ。自己紹介させてもらってもいいか?」 「別にこんなの世話の内に入らないけど……ま、まぁこれから色々と家の掃除を始めるつもりだから、手短にだったら聞いてあげてもいいわよ」 拓真に真摯に見つめられて照れたのか、そっぽを向いてしまう少女に苦笑を浮かべつつ、各々が簡単な自己紹介を始める。 少女は視線をずらしたまま、ちらちらとこちらを伺っては何度か目が合い、その度に慌てて目を逸らすという行為を繰り返す。 「そういえば家の掃除って言ってたわよね。もし良ければ私達にも手伝わせてちょうだいな」 膝を折り、その長身を少女の背丈と合わせるようにして未散が提案を持ちかける。 「え……そりゃ手伝ってくれるならありがたいけど、でも……」 「それはいいわね。私達は雨露を凌げる場所を借りる。あなたは私達の手を借りる。立派なギブアンドテイクね」 そんなぽっと出てきた那美の言葉にどう言い返したらいいものか。少女は考えあぐねて他の者に助けを求めるように視線を泳がせてから、肩を竦ませた。 「私が断っても、皆勝手にやる気満々じゃない。ならいいわ。精々こき使ってあげるから覚悟しなさいよ?」 「うへ……きつすぎるのは勘弁だよ」 あいらのぼやきが場を和ませつつ、少女先導による大掃除が始まる。 「畳は目に沿って乾拭き、ですね……」 「そうそう。ただ、埃が落ちるから畳は一番最後にお願いね」 「あ、そうですね……畳は最後、と」 少女からのアドバイスを丁寧に反芻しながら大和が一つ一つを確かめるように綺麗にしていき。 「神棚……届かないの……」 「あら、それじゃあ私が肩車してあげましょうか?」 一生懸命背伸びをして神棚を綺麗にしようとしていた黒狐を未散が肩車して手助けをする。 「これ、とっても、手入れされてるね……」 高い位置から見た神棚は清潔に保たれており、少女の日々の手入れを思い伺わせて黒狐が感心するように呟く。 「そりゃ……ね。お爺さんが毎日拝んでた場所だし。きちんとしなきゃ罰が当たっちゃうわ」 「へぇ……お爺さんと一緒に暮らしてたんや?」 「正確にはお爺さんとお婆さん、ね。毎日言われもしないのに掃除やら手入れやらしてたお節介焼き夫婦」 憎まれ口ではあるが、その表情は穏やかで、どこか寂しげで。 「凄く優しいお爺さんとお婆さんやってんな……」 「なんでそう思うの?」 「そんなん、あんさんの顔を見れば一発で……な」 「すぐに顔に出ちゃうのは、あの人達譲りかしら」 あの二人は人を騙すということを知らない人達だったから。 「もし良ければ、私達に聞かせてくれないかしら?そのお節介焼き夫婦と……あなたとの思い出を」 黒狐をそっと降ろしながら、未散が少女の方を振り返りつつ言う。 「そんな大それたものじゃないわよ。本当に平々凡々な日々……。それでも良ければ、語ってあげる」 そうして少女がぽつり、ぽつりと自らも思い出すようにゆっくりと語り出す。 畳に残った僅かな染みにまつわる、鴛鴦夫婦唯一の夫婦喧嘩。子供が悪戯したタンスの落書きや、子供の成長を刻んだ柱の傷を見ては幸せそうに微笑んだ親馬鹿な一面。二人で肩を並べて立っていた台所。 皆で移動しながら、掃除と一緒に少女の思い出に耳を傾ける。 そして最後にやってきた玄関。 「そういえばさっき、電気もガスも水も通ってないって言っていましたが……私達が来た時、この黒電話が鳴っていませんでしたか?」 万葉が黒電話を磨きながら――そしてタイミングを見計らいながら、少女に尋ねる。 「そ、それは……ほら、流石に女一人でこんな所に住むなんて危ないでしょ?だから防犯用というか、ちょっとだけ細工をして人が来たら鳴るようにしてた……っていう言い訳じゃあ駄目?」 その指摘にあからさまに動揺した少女が、上目遣いに聞き返す。 「……これがこの家の訳ありの理由、だよな?」 その顔に、僅かに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、拓真が更に追い打ちをかける。 「……あぁ、やっぱり。皆、始めからここがどんな場所なのか知ってたわね?」 少女の顔に寂しげな影が差す。 その姿を見て、大和の胸がちくりと痛む。 「騙すようなことをして、ごめんなさい。でも私達には、あなたに伝えなきゃいけないことがあるんです」 だから、聞いてください。 ただの人としての時間は終わり。ここから先は、世界に仇なすを討つリベリスタとしての時間だ。 リベリスタ達は残酷な事実を告げる。 少女が生まれてしまった理由を。黒電話達が辿るだろう、最悪の末路を。 少女は俯いたまま、静かにそれを聞く。 「だから、単刀直入に言うな……二人の思い出を汚さん為にも、壊れてもらえんやろか?」 喜琳の言葉で締めくくられた最後の単語に、少女がびくりと怯えるよう震える。 「たった一人残され、大切なものを守るために立ち止まれなかった。そうして新たに生まれたもの達の為に、更に突き進むしかなかった……。そんな君の足を、俺達は止めてやることしかできない。……その思い出が、何れ壊れて失くなってしまう前に」 拓真がその身を切るように。 「きっとお爺さんやお婆さんも、貴女方が……大切な子供達が、血にまみれるのを良しとはしないでしょう」 万葉が楽しげに二人との思い出を語った少女の姿を思い出しながら説得を続ける。 「壊した後も、悪いようにする気はないわ。お二人がずっとそうしていたように、私達もずっとずっと貴女達を直して繕って使い続けてあげる。……貴女達と、お二人の想いがずっと生きられるよう、手助けさせてもらえないかしら?」 その為の準備もしてきた。 那美が少女に見せるのは物を分解し、修理する為の道具の数々。 「あの、思い出……壊したくないの。だから、お願い」 拙いながら、今口にできる言葉に全てを乗せて、黒狐が訴える。 ずっと一緒だった人達。その人達がいなくなって、寂しくて……それでもずっと耐えていたその最期は、何も悪くないのに消えなくちゃいけない運命で。 だからせめて。自我がなくなってしまう前に、自らの意志で。 「ずるい、わ……。何で皆、そんなに悲しそうな顔をするのよ……自分のことみたいに、そんなに泣きそうな顔をするのよ……!」 ずるい。ずるいよ……。少女が顔を上げて叫ぶ。 どこにぶつけていいのかわからない、激情を吐露する。 「……他人事じゃないからよ」 貴女は、かつての私と彼女のようだから。未散が一歩進み出る。 「大切な物を守りたいのは当然ね。でもね、放っておいたらその大切な思い出も貴女から消える。今度こそ、本当の一人ぼっちになっちゃうわ」 それでも。 「それでも過去の思い出と一緒に居る事を望むなら、私はそれを否定しない。貴女がそう望むのなら、私は私のエゴで、貴女の全てを壊すわ」 誰よりも先に一歩進み出た、覚悟の言葉。 辺りを暫しの沈黙が包む。 少女が考える時間。今は誰も邪魔をしてはいけない、彼女だけの時間だから。 「……壊すならいっそ、思い切りやってよ」 ぽつりと呟かれたのは、そんな言葉だった。 「生きたまま解剖されるのは痛いし怖いし……それに、この子達なんかは解剖も分解もできないし」 そう言って少女は、いつの間にか傍らにいた食器類のエリューション達を撫でる。 「ずっと使ってくれるって言ってくれて……ありがとう。できればこの子達の破片でもなんでもいいから、お守りとかに入れてくれれば嬉しいわ」 「貴女は……?」 「私? 私は、どうせなら悪者として退治されたいの。私は、あの人達の築いてきたものに害を為す存在。貴方達はその思い出を守る為にやってきた存在。過去に縋るしかない私を倒し、明日へと繋げてくれる存在。……この子達を解放してくれる人達。単純明快で、シンプル」 悪者の遺物なんかを持ってたら体裁が悪いでしょう? と。 「だから私の答えは否、よ。最期くらい……悪者らしく、駄々をこねさせてよ」 少女がそう言って、無理矢理顔を歪ませる。 「……馬鹿な子ね」 こんな時まで他人を気遣わなくったっていいのに。 「性分よ。気にしないで」 ――それじゃあ。 「行くわよ――!」 少女の叫びと共に、戦闘が始まる。 いや、それは戦闘ではない。逆らえない未来に、少しでも抗おうとする一人の少女の駄々だった。 そしてリベリスタ達の負担を少しでも減らそうとした、少女の悪あがきだった。 黒電話が最期に一度だけ大きく鳴って壊れる。 勢いよく飛んできた万年筆が横腹から叩き割られる。 その都度、少女の表情が歪み……振り払うように家を駆け、エリューション達を呼び続ける。 ――そして最後に残った一室。 そこは奥の間と呼ばれた、少女の心臓部とも言える場所。 粉々になった器。枠が外れかけた写真立て。ぼろぼろの姿の少女。 もうそこに、動くエリューションの姿はない。 あいらの放った一撃が、少女へと向かう。 「――っ!」 少女は目を瞑り、その瞬間を待つ。 ――だがいつまでも経っても衝撃は訪れず、少女がそっと目を開けば……そこには、巨大化した写真立てが佇んでいた。 もう壊れて動けなかったはずの、写真立て。最期の最期でフェーズが移行したのだろう。 「……ばか。こんな風に守ってくれなくても、大丈夫なのに……」 物言わぬがらくたと化したその額縁にこつんと額を当てる。 「……ありがと」 俯いた少女の表情は伺えない。 だけど震えるその肩から察することはできる。 リベリスタ達は何も言わずにただ待ち続ける。 「貴方達も、ごめんね。私の我儘に付き合ってもらっちゃって……」 「いや……」 首を振りながら、拓真が剣を抜く。 これを最期の一撃と定めて。 「……最期に、何か言い残すことはあるか?」 「そうね……」 迫る刃を見つめる瞳に、もう恐れはない。 「――皆、ありがとう。やっぱり人間は素敵ね」 願わくば、私もいつか――。 ●思い出の欠片 「こんなものでしょうか」 万葉や那美を中心に、家中に散らばった破片を丁寧に集め、利用できそうな物を確認していく。 「お供え物、してきた……」 出来れば一緒に食べようと思って持ってきた団子。せめて、かつてのお婆ちゃんがしていたように置いていこう。 「それじゃあ、行きましょうか」 リベリスタ達が歩き出す。 付き物が落ちたようにがらんとした家を最後に一別し、背を向けて歩き出す。 雨は止まない。 だけどその身を濡らす滴は先ほどよりも優しく。 ――ほんのりと温かく、少しだけ涙の味がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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