●斬鉄八本刀 真剣が人を斬る音が、青空の下で遠く響いた。 刀を振り血を払う。 一瞬遅れてチンピラ風の若者が仰向けに倒れた。 雑草の生えた土の上に、小さなナイフが転がり落ちる。 その様を『彼』は細目で見下ろしていた。 白くなった眉。 禿げ上がった頭。 長く伸びた顎髭。 紛うことなき老人の顔でありながら、目には若々しい闘志が燃えている。 老人は刀を鞘に納めると、頭を撫でつけるようにして摩った。 「若者は、いつもこうさな」 「然様……」 「刃物を見せれば相手が弱ると思い込む」 「数で囲めば楽ができると勘違う」 「『腕っぷし』ばかりで強さと言うモンが無い」 「その辺の若者に期待するだけ無駄だろうて」 「然様然様」 老人の後ろには、これもまた老人然とした男達が立っていた。 しめて八人。刀の数も、八本である。 翻って、周囲に倒れるチンピラ風の若者は――五十七人いた。 「居らぬものかな、老いぼれた魂を震わせる、若者が」 ●アーク・ブリーフィングルーム、午前八時。 「以上が、フィクサード組織『六道』の武闘派、『斬鉄』の八名です」 ある程度の説明を終え、和泉は手元のバインダーを閉じた。 主流七派と呼ばれ、数多のフィクサード組織の中でも力を持つ集団。その一つ『六道』。研究や鍛錬に生きる求道者の集いで、達観した個人主義が特徴とされている。 今回はそんな六道の内、武闘派のひとつが起こしている活動が事件に関わっているのだった。 その集団の名を、『斬鉄』と言う。 「斬鉄のメンバー八名は、小さな不良グループを回っては片っ端から道場破りを行っているようなんです」 「道場破り?」 「……と言えば多少は聞えがいいでしょうか」 目を逸らす和泉。 彼らは不良グループのアジトに直接踏み込み、彼らを真剣によって皆殺しにしているというのだ。 「何か狙いがあると思うのですが、先述したように個人主義の組織ですから……恐らく彼らはその目的すら知ってはいないでしょう」 単純に、そして淡淡と不良グループ潰しをしているのだ。 いや、つまらなそうにと言っても良い。 「これ以上の被害を出す前に、皆さんの手で止めて下さい。お願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月11日(土)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●斬鉄八本刀 風に塵が転がったとあらば、古今東西宿敵との死合と相場が決まっているものだが、生憎と今日鉢合わせた八人と八人は完全な初対面だった。 男が言う。 「俺はアーク所属のリベリスタだ。斬鉄の代表者、もしくは一番強い剣士との対戦を希望する! 俺が勝ったら、一般人への凶行は――」 「あいや分かった、一番強い者と言えばわしと」 「待てい、いつからお前が最強になったんじゃい」 「然様。ここは拙者が」 「漁夫の利を取るな。公平に私が出ると言うことで」 「あんだと、納得できんなあ」 早速睨み合いを始める斬鉄八本刀。 普段から個人行動を好むと言うだけ合って統率は全くとれていなかった。 男は両手を上げる。 「分かった、では、各人一対一でどうか」 「……ほう」 一様に振り向く八本刀。 ある一点においてのみ、彼等の行動は一つだった。 それはつまり。 「わしらを満足させられると……言うんじゃな?」 ●『紅炎の瞳』飛鳥 零児 刃の走る速度が、一度たりとも見えない。 冒頭の申し出をしたのは零児だったが、大それたことをしなくて本当に良かったと内心思ってはいた。 「どうした、一番強い奴とやりたかったんじゃろ。うん?」 老人は鞘をどこかへ放ると、突如五人に分裂した。 「残像――」 「違うわ」 五人一度に斬りかかる。零児の全身と言う全身から鮮血が噴き出した。 歯を食いしばる。 「ほれほれ、もっと行くぞ」 分身が消えては生まれ、零児を四方八方から攻撃する。 自分の力量を考える。 闇雲に揮って剣が当たるとも思っていなかったし、真っ向から斬り合って勝てるとも思わない。 等身大で、全力で戦うには……これしかない。 「一対一と言われた時は心躍ったものじゃが、ううむ惜しい……惜しいが、死ねい!」 分身が一体に纏まる。 「ぐううっ!」 刀が突き出される。 身を捻る零児。 しかし現実は無常。零児の脇を刀が貫通しドトメとした。 ――と、思われた。 「ううううううううううううう!」 目いっぱいに歯を食いしばり、零児はフェイトにより倒れることを拒否した。 世界はそれを認めざるをえない。 「肉を切らせて、骨を――断つ!」 淡く輝く右目。 老人とは『逆側に』捻っていた身体からフルスイングを繰り出す。 ただのフルスイングではない。彼の全身全霊を駆けた、文字通りのデッドオアアライブである。 「ぬかった……!」 「この一瞬を待っていた!」 上下に分断される老人。 最後まで刀を手放さなかったのは、彼なりのプライドだったのだろうか。 がくりと膝をつく零児。 彼もまた、剣から手を離すことは無かった。 ●『LawfulChaticAge』黒乃・エンルーレ・紗理 紗理と書いてシャーリーと読む。 彼女はひどくストイックだ。 そんな彼女の相手は、仙人じみた寡黙の老人であった。 「準備はいいですか?」 「……」 得意のカトラスを抜いた紗理を前に、老人は黙する。 そしてあろうことか、その場で静かに正座をした。 両手は腰。刀の柄には触れもしていない。 片目を顰める紗理。 斬りたくば斬れと? 良心の痛みは無視した。 すたんすたんと跳ねる。 「私の仕事はあなたの殲滅です。ご理解を」 地に踵をつけたのは三度目だろうか。 それだけで……としか言いようがない程唐突に、紗理は風の速度を超えた。 老人の首へ奔る一文字。 ただの一瞬で老人は首から上を切り落とされる……筈だった。 「……」 老人はいつのまにか抜いていた剣で、紗理の刃を受け止めていた。 半分までしか抜いていない。 そして再び正座の姿勢に戻る。 「――っ!」 紗理の表情には出ないが、よく晒された額に静脈が浮き上がった。 身を翻す紗理。 後退ではない。畳み掛けるためである。 「この剣閃が虚実どちらかっ」 死角から幻影剣。ゆらりと歪んだ紗理の姿が複数に乱れ、老人へと斬りかかる。 しかしそれも受け止められた。 口調がやや乱れる。 「消えて下さい――っ!」 再び歪む紗理の姿。複数に乱れはしたが、今度は真正面からの突きだった。 これまで多くの相手がこれに惑わされ、騙され、命を落としてきた突きである。 それが、老人の鞘口に差し込まれた。 無論収まる筈はないが動きを封じるには十分である。 咄嗟にもう一本のカトラスを振り込む。 弧、一閃。 次の瞬間、紗理の肩に大きな刀傷が開いた。 一本だけではない、三本以上の刀傷である。 蹲る紗理。 戦闘が続行できる状態では無い。倒れなかったのは意地だった。 対して、老人は。 「……」 頬から目の脇にかけて、ばっくりと傷が開いていた。 刀を収める。 「……よきかな」 老人は其れだけ言って立ち上がった。トドメを覚悟する紗理。 しかし老人は素早く背を向け、一目散に遁走したのであった。 去り際、小さく述べる。 ――また会おう。幼くも強い剣士よ。 ●『幸せの青い鳥』天風・亘 ナイフを構えた亘と、小太刀を構えた老人が対峙していた。 「一対一の死合、受けてくれたのですね」 「ふん、こちとら所詮はチャンバラ贔屓のチンピラよ。仕事の途中で遊びもするさ」 「これは仕事の内ではないと?」 「そりゃあチョット言えねえなあ」 でしょうね。亘は小さく呟くと翼に任せて突撃した。 人による突撃ではない。鷹が獲物を獲るような、素早く鋭い突撃だった。 対して老人は機敏にバックステップ。突き出された亘の手首を狙って円を描くように斬りつけてきた。 手首の力がダイレクトに奪われる。 回避性能には自信のある亘だったが、あからさまな部位攻撃をそのまま受けたことに驚きが……ないわけでもない。 ここで適当に驚いて見せるのが天風亘の天風亘たる所以であった。 「流石ですね、ご老人」 「あんたもな」 老人は肩にできた傷を親指で拭う。 亘は空中でターン。トップスピードからのソニックエッジを繰り出した。 交差。 鮮血が二つ飛ぶ。 今度は間髪無しでターン。 交差。 交差。 交差。 交差。 交差。 その度に鮮血が飛び交った。 ぺっと血の混じった唾を吐く老人。 亘は胸を割かれながらも、フェイトで意識を食い止める。 「ふ、ふふ、これからが本番ですよ」 傷ついた翼を無理やり羽ばたかせる。インメルマンターン。 何か強化されたわけではない。 しかし亘は魂の底から咆哮した。 「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 「うおおおおおおっ!」 螺旋に走るソニックエッジ。 老人は素早く小太刀を繰り出した。 最終交差。 地面に頭から滑り込み不時着する亘。 対して老人は、その場にうつ伏せに倒れた。 ひゅうひゅうと喉を鳴らす。 老人は、穏やかに目を瞑った。 「満足、頂けましたか」 そして亘も、目を瞑った。 ●『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛 予述。陣兵衛は金髪赤目の美女である。 しかし身体は生傷だらけ。アイパッチと咥え煙管も相まって、大抵の人間は面食らう。 そんな彼女が低く、やや掠れた声で言う。 「斯様な小者どもを甚振ることが剣の道か。ご老体なら隠居していればいいものを」 「若気の至りで年金出なくてな。嫌な仕事もせにゃならん……が」 無骨な斬馬刀を抜き放つ陣兵衛。 やたらに長い太郎太刀を担ぎ上げる老人。 「嫌な仕事を黙ってこなすと、こんなイイこともある」 「……今までの連中と、同じと思うでないぞ」 「分かるさ、別嬪さん」 オーララッシュが同時に炸裂した。 二人の剣は弾き合い、互いの体勢を崩し合った。 衣擦れの音。 陣兵衛は砕かんばかりに煙管を噛みしめると、再び斬馬刀を叩きつけた。 「高説なぞ死合うに不要!」 「剣で語れか、イイ女だ!」 火花が飛び散る。 二人は反動で一回転。反対側から再びのオララッシュを繰り出した。 「何物にも揺るがぬ矜持こそ我が刃。一太刀の重み、篤と知るが良い!」 「あっ、それ俺が言いたかったのに! こんにゃろう!」 がしりと足を踏みこむ。 土が一気に抉れる。 老人は全身の筋肉を漲らせると、破壊的なオーラを身にまとった。 凄まじいスイングが陣兵衛を襲う。斬馬刀で受け止めようとする……が、あまりの衝撃に陣兵衛は剣ごと吹き飛ばされた。 樹幹に背中からぶつかる。 追撃。土ごと抉る強烈なスイングで、背後の樹幹が真ん中からへし折れた。 大量の血を吐きだす陣兵衛。 迷わずフェイトで復活。唇の端から血を流しながら笑った。 「この身体の傷は伊達ではないぞ」 斬馬刀に激しい紫電が奔る。 陣兵衛はそのまま老人へ叩きつけると、一気に押し込んだ。 「ぐおっ!」 剣を叩き込んだまま押し切る。走る。轢き潰す。 別の樹幹をへし折った所で老人は止まった。 音をたて太郎太刀が転がり落ちる。 「冥途の土産にはこれで充分かのう、ご老人」 「いやいや……もう一発」 にやりと笑う老人。 陣兵衛もまた笑い、老人を文字通り叩き潰した。 ●ツァイン・ウォーレス 突然だが、ツァインはガードが固いことで知られている。 アーク広しと言えど、彼程のガード性能を誇る男は居ないとされる程である。 故に。 「うおおおおおおおおおおおおっ!」 老人の目にもとまらぬ凄まじい連撃を前に、彼は固い防御を保っていた。 彼の機械部位は神経と骨格のみと言われ、外見は生身の人間と変わらない。 しかし彼を覆う全身装甲は、盾は、固い剣は、まるで身を護ることを目的とした機械のように、固く刃を弾いていた。 「いかん、そのうちこっちが刃こぼれするわい」 「そうなのか?」 「……嘘じゃ」 言うと、老人は光の飛沫をまき散らした。そう見えたが、実際には突きである。 ツァインの防御をゆうに上回るダメージを叩き込まれ、固い防御姿勢が崩れる。 それでも執拗なまでに防御を固めるツァイン。 「ひとつ聞きたい。アンタ達、今回の理由は?」 「言うないそんなこと」 「そうだな、野暮だった!」 老人はクイックターン。ツァインの剣が相手の刃を弾いた。 攻撃が逸れる。 「今だ!」 防御に使っていた盾を押し込むツァイン。間合いを詰め込まれた老人はバックステップをかけようとするが、背中にはツァインの剣が回されていた。 「ラップショット、西洋剣術か!」 「中々見れるもんじゃねえ、冥途の土産に持って行け!」 勢いよく剣を引っ張り込み、盾と挟むように裏刃で斬りつけた。 「こなくそっ」 老人は身体を回転させると剣のエリアから離脱。再び高速の突きを繰り出した。 盾で受けながら剣を突き出すツァイン。 ラップショットなんて繰り出してはみたが、ツァインの真骨頂はこうした泥臭いぶつかり合いにこそあった。 なにせ彼の体力が半分まで減る頃には、老人との決着はついているのだ。 「見事だった」 「…………」 老人の剣はぽっきりと折れ、代わりに肩から深々とツァインの剣がめり込んでいた。 「手合せ、感謝する」 崩れ落ちる老人を前に、ツァインは剣を収める。 ●三芳・琥珀 三十三歳男性、三芳琥珀。 彼が強いのかと問われれば、正直首を横に振らざるをえない。 しかし彼が『したたか』かと問われれば縦に振ってもよかろう。 具体的に述べるならば。 「今回は拳で勝負したかったからな。装備もしっかり変えて来たぜ」 ブレードナックルである。刃は畳んでいた。 彼はぎゅっと握った拳から人差し指だけ突き出すと、老人へ向ける。 「タイマン勝負と行こうじゃないか。分かり易いだろ?」 「分かり易いかといったら否……だが」 こきりと拳を鳴らす老人。 鞘に納めたままの刀を、その辺に放り投げた。 「その気概、買おう」 踏み込み一瞬。 振り抜き一刻。 凄まじいスピードで繰り出されたパンチが琥珀の頬を捉え、次の瞬間もう一発の拳でアッパーカットが叩き込まれた。 倒れそうになる身体を踵で堪える琥珀。 「う……っし!」 無頼の拳炸裂。 老人の顔面に彼の拳が叩き込まれた。 対して老人は背筋で体勢固定。琥珀が拳を引くより早く、顔面にストレートパンチを叩き込む。 今度ばかりはこらえきれない。琥珀は後方に半回転した。後頭部を地面にぶつける。 力不足は否めないか、などと考える。 考えたはいいが、だからどうするかってワケではない。 もう一発殴っとこう。 「うおおおおらっ!」 起き上がりざまのアッパーカット。 顎にクリーンヒットしたパンチで思いっきり仰け反った。 「……うむ」 半歩後ずさり。首をこきりと鳴らす。 そして再びのストレートパンチをぶち込んできた。 強制的にぶっ倒される。鼻血が吹き上がり、意識が一気にブラックアウトした。 ……が、フェイトでもなんでも使って起き上がる。 「そうそう、簡単には、倒れねえよ」 真っ赤になった顔で起き上がる。 もう一発、無頼の拳。 しかし彼の拳は、老人の拳で受け止められた。 その途端、老人は淀みない連続パンチを叩き込んできた。 またも押し倒される琥珀。 今度は身体がマヒして動かない。 老人はくるりと背中を向けると、放っていた刀を拾った。 殺されるか……? 己の半生を振り返る。ろくなことなかったなあ。 「強くなれ」 老人はそう言って、その場から逃げ去った。 「……あ?」 やっと自由になった身体で起き上がる。 どうやら、もうしばらく生きられるらしい。 ●『アリスを護る白兎騎士』ミルフィ・リア・ラヴィット 刀を二本、抜き放つ。 「わたくしも憚りながらも剣を嗜む身。然らば一手」 「……おう」 老人は懐から腕を抜くと、逆手で刀を抜き出した。 指でもってくるりと回す。 その途端、大きく踏み込み光速の二連撃を繰り出してきた。 ほぼ同時に繰り出された剣を撃ち弾くミルフィ。 「わたくしに不意打ちは通じませんわ!」 返す刀でヘビースマッシュを叩き込んだ。 老人は刀を逆手に持ったまま斬撃を打ち払う。 しゃらんと音が鳴り、ミルフィの刀が不意に浮きあがった。 途端、腹部に押し付けられる靴底。 「遅いわっ」 まさかの喧嘩キックである。 ミルフィは強制的に態勢を崩され、二歩三歩と後退する。 再び斬りかかるミルフィ。 「何故そのような」 「あん?」 逆手刀で打ち払うも、もう一本の刀が老人の胸を切る。 老人は身を反転。再びミルフィを蹴り飛ばす。 「そのような修羅の道を、歩もうとしますの。剣は斬るだけのものにあらず」 「やかましい、斬ってから言えそういうことは!」 老人、低姿勢で突撃。ミルフィの脇腹を深く切り裂く。 ぎりりと歯を食いしばるミルフィ。 「心を失っては、名のある刀も熟練の技も、児戯に等しきものと」 「……ちっ!」 手の平に唾を吐きつけ、順手に持ち変える。 「おめぇいくつだ」 「は?」 「歳だ歳」 「今年で十六に……」 「なら知っとけ。人間長く生きると、遣りたくないことも遣らにゃならんのよ。自由で呑気なおじいちゃんってのは漫画の中だけの話だぜ」 鋭い打ち込み。 ミルフィは刀二本で無理矢理受け止める。 「貴方様の剣が、泣いておりますわ!」 「ぬかせぇ!」 回し蹴り。ミルフィは無理矢理体勢を固定。 肩から相手に体当たりを仕掛けた。 「その凶行、おやめください!」 ●『求道者』弩島 太郎 さて、何の因果か最後に語るのが彼。弩島太郎となった。 見る者がガッカリせぬよう予術するが、彼は打ち合いにはめっぽう弱い。 元々が回復担当である上に、経験も浅い。本来ならこんな達人どもと一騎打ちなど、自殺行為以外の何物でもないのだ。 故に。 「すまないが、少し話をさせてもらえないか」 と言う彼を無理矢理遮って切ろうとまでは、思わなかったようである。 老人は刀を腰に納めたまま、腕組みをして見せる。 隙だらけのように見えるが、多分不意打ちをしたところで瞬時に対応できるのだろう。そういう連中だ。 太郎は両手を軽く広げて、攻撃の意思が無いことを示す。 「あんた達だって分かってるはずだ。一般人相手に刀を抜いた所で虚しいだけだ」 「……」 続けろと顎を上げる老人。 太郎の手にじっとりと汗がにじむ。 「俺やあんたの覚醒に意味があるとすれば、それはもっと大きな何かと戦うためだろう。こんな争いは無意味だ。あんた達の力が優れてるのは承知してる。だからこそ、つまらないモノを切るためになんて使って欲しくない!」 言い切る。 「アークに強力してくれ。高望みは承知の上だ。無理ならせめて、この件から手を引いてくれ!」 正直、心臓は激しく波打っていた。 ここでNOと言えば、最悪殺されるだろう。どんな抵抗も無意味な程、全力で刈り取られるだろう。 老人は腕を組んだまま、目を細める。 「今、リーディングを用いた」 「…………」 太郎には自覚できている。つまり、この場にいる全員への申告ということになる。 片手を高く上げる。 「今生きている八本刀、手ぇ上げて」 「ああっ!? 今取り込み中だ!」 ミルフィと撃ち合っていた老人が、罵声を浴びせながら手を上げた。 その後、やけに遠くの方で二人ほど手を上げる。 「四本か……こりゃあ大変だな。一度戻ってホワイトマンに報告せんと。あと腰痛い」 顎をさする老人。 そして、くるりと太郎に背を向ける。 「じゃ、そういうことで」 ついっと指を振ると、老人は全速力でその場から遁走を始めた。 「あっ、コラてめぇ! 待ちやがれ!」 ミルフィと撃ち合っていた老人も、全身から血を流しながら遁走した。 一同が、太郎の顔を見る。 太郎はうーんと言って仰向けに倒れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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