●崩壊ナルキッソス 「……」 ある山奥の水辺に、花を抱いた少女がいた。 何をするでもなく、ただ、ただ放心したように座り込み、俯くその姿は、美少女と言えようものであった。但し――健康な状態であれば、の話だが。 少女はもう何日も食事を摂っていないようで、酷く痩せ細ったその様相は色白の肌と相俟って酷くやつれているように見えた。原因はそれだけではない。髪も伸び放題、しかも汚れ放題でボロボロになり、元の美少女の面影は文字通り見る影もなかった。 それでも彼女は、ただひたすらに、花を抱いてぼんやりと眼下の水面を見下ろしていた。 恋した自分自身の姿を見つめ続ける、神話の美少年ナルキッソスが如く。 けれども彼女の“理由”は、自己愛などではなかった。 ●回想リアリスト 「二ヶ月前に起こった行方不明事件。覚えてる?」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が唐突に切り出す。 「成希筝子。十六歳。某有名校K学院高等部一年の女生徒で、大人しいけれど才色兼備として学校内ではかなり有名人だったらしい。けど、ある日を境に突然失踪。当時は彼女に嫉妬した女生徒の行き過ぎたイジメとも、自分の現状が嫌になった彼女自身の雲隠れとも噂されたけど、一ヶ月も経つと噂も風化していった。勿論、彼女はまだ発見されてない」 けど、とイヴは続けた。其処まで聞いて今回召集されたリベリスタ達は、彼女の言わんとしている事を察した。 「そう、皆も察してる通り。万華鏡によって、彼女が発見された……但し、フィクサードとして。それも、特殊なアーティファクトを所持してる」 そう言い放つイヴの口調は、矢張り淡々としたままで。それでも、一人の人間がフィクサードとなり、アークによって発見される事になろうとは。その現実に少なからず驚きを隠せない者もいた。 それでもなお、イヴは戸惑う様子もなくゆるりと動く。 「フィクサードと化した彼女についての詳しい資料は、これ。目を通してね」 だがその刹那――イヴの瞳に僅か、悲しみの色が宿る。 「……彼女は既に、捜索に来た人間を二人、殺してる。今回の任務は、彼女の討伐。そして、彼女の所持するアーティファクトの“破壊”。彼女の生死は……問わない」 ●初恋エゴイズム 成希筝子は、大人しい性質だった。 積極的に人と関わろうとする事は殆どなかったし、独りでいたがる事が多かった。故に、孤高だった。友達と呼べる人間は、殆どいなかった。 それでも、内に秘めていたものがあった。それこそが――自分の美への、揺るぎない自信であった。 日本人離れしたプラチナブロンドの長髪、ペリドットのように煌めく双眸。雪のように透き通った白い肌。小柄ではあるがすらりとした細身の身体。彼女を見て言い寄ってこない男はほぼ皆無。その環境が、彼女に絶対的な自信を与えた。決して口に出すことはなかったけれど、自分は美しいのだと、密かに誇りに思っていた。自分に酔ってすら、いたかも知れない。 そんな彼女が、自分以外の人間を好きになった。相手は部活のOBであった。それは、誰が見ても明白な恋であった。相手も彼女にある程度の好意は抱いていたらしいが、それは恋ではなかった。 彼は見た目だけの美しさだけで人を見ないタイプだった。温かく優しくも、凛とした女性が理想なのだと。彼女は、自分の容姿にこそ自信を持っていたものの、彼の理想たり得る自信はなかった。だから彼女は努力した。少しでも彼の理想に近付こうと、それはもう、必死で。 だって、彼女に靡かない男はいなかったから。必死に、彼の理想に近付こうとする事以外に、方法を知らなかった。だから、たった独りで。 それでも、その必死さは彼に異常と受け止められた。結果、恐怖した彼は今までの好意すら捨てて彼女を拒んだ。拒まれた彼女は、その強い想いの向ける先を失って―― 彼女が失踪する以前に、そんな事が、あったらしい。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月09日(木)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●到達 (これもフィクサードか。少し、やりにくいね) 現場に到着したリベリスタ達が一人、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)がそんな感想を抱くのも、無理は無かっただろう。何せ、目の前にいるのは一見すれば一人の少女。けれど彼女は紛れも無く、フィクサード――成希筝子なのだ。 感情の籠っていないその双眸で、ぼんやりとリベリスタ達を見つめてくるその姿は、矢張り酷くやつれていた。かつては美しかったのであろうその髪も、瞳も、肌も、今となっては生の輝きを失い、まるで死人のようである。 ふと、『リベリスタ見習い』ネロス・アーヴァイン(BNE002611)は師の言葉を思い出す。 ――花は愛でられてこそ美しい。 それは女性の事も指していたのだろう。今の筝子はまさに、枯れた水仙。 「良い感じの泉ですね」 そんな彼女に、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)は『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)を伴い、言葉を掛けて歩み寄る。筝子は、応えこそしなかったものの、近付かれる事を拒みはしなかった。 ●思惑ミクスチャー ――タイムリミットは一時間。 それを過ぎれば、筝子は“罪を犯した罰せられるべきフィクサード”として、討伐されなければならないだろう。勿論、人を殺めている以上、償いはせねばならないが、筝子をただの罪人で終わらせたくない。その思いから、説得しようという試みがなされている。 だから、自分達はもし筝子がそれを望まなかった時の為に。 「……さて、ノンビリマッテヤルカ」 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は、仲間達が説得を試みる間、精神を集中させる事に専念する。筝子が本当に立ち直れるのかという懸念もあるが、今は様子を見るしかない。 待つのは、彼女だけではない。ネロスもまた、複雑な思いを秘めながら、自らの気を静かに高めてゆく。 (……俺ならそんな風にはならなかった) どうしても、そう思ってしまうのだ。もっと他にやりようがあった筈なのだと。同情はすれど共感は難しい。だから、説得の役割からは身を退いた。 彼と似た思いを抱きつつも、はっきりと筝子とは共感出来ないと感じている者もいた。ユーキ・R・ブランド(BNE003416)だ。 (女の子が一人振られてヤケになってるだけじゃないですか。何と言いますか、怒るやら呆れるやら) 本当ならこの周りの見えていない甘ったれた少女に喝の一つでも入れてやりたい、とすら思っていた。当然、貶すつもりは一切無い。ただ、何処かで鞭を入れてやらねばずっとこのまま、という事もあり得たから。自分の目の届く範囲で、そうなられるのは不本意だ。それでも、今、筝子にそれをぶつければ、説得が水泡に帰す可能性もあると考え、内に秘めるだけに留めたが。 そんな彼女の心境を察してか、『廃闇の主』災原・悪紋(BNE003481)は苦笑しつつ、呟く。 「確かに繊細過ぎるきらいはありそうじゃが。まぁ……それも若さって事かの?」 「そういうものでしょうか」 解せない、といった表情のユーキ。尤も、彼女にしてもネロスにしても、意見の相違は仕方無いのだ。性格が違えば考え得る事も違う。それも悪紋は判っている。ただ、筝子はユーキやネロスに比べ、矢張りまだ少しばかり精神的に幼いのだろう。 「よく判らないが、成希筝子はきっと運が悪かったのだろう。色々と」 自らも集中を重ねつつもぽつりと呟く、ハイディ・アレンス(BNE000603)のその言葉は、酷く的を射ているように、リュミエールには思えた。巡り合わせとは時にその人間の人生を左右する。 (……今更考エタッテシカタネェカ) 「説得は若いもんに任せて……我は我のできることをするとしようかの」 今はただ、成り行きを見届けるだけ。その先に戦いが避けられないというのなら、応じるまで。 ●真心エコー クルトが淹れたジャスミンティーを、筝子はおずおずと受け取った。彼女の表情に未だ変化は無いが、戸惑っている様子が窺える。 「美味しいですね」 「……ええ」 螢衣の言葉に、矢張り静かに頷く筝子。其処に声が、言葉が織り込まれた事に、ラインハルトも安堵の溜息を吐く。少しではあるが、落ち着きと安定の傾向は見られるようだ。だが、まだ油断は出来ない。 極力刺激しないように、ゆっくりと、螢衣は言葉を紡ぎ始める。緩やかに、少しずつ。思いを籠めて。 「さて、独り言でも始めましょうか」 きょとんとした表情で、螢衣を見つめる筝子。 「わたしは世界一の男性を探しています」 其処で一度言葉を切る。筝子の、余裕の無いのであろう心にも、少しでも、沁み渡ってゆくように。時間がかかっても、少しずつ。 「もしかしたら、もうその男性に会っているかも知れません。でも」 世界の人口は、七十億。その半分が男性だとすると、世界には三十五億人の男性がいるのだと、螢衣は言った。 「その中でわたしが直接知っている男性は多分千人もいません」 ならば、三十四億以上の男性の順位はどうなるのだろうかと。それを考えると、知っている範囲に世界一がいる可能性はかなり低いだろうと。 けれど。 「世界に必ず一人はいるはずです」 だから、その人を気長に探すのだ、と。 見つかるでしょうか。筝子に問えば、彼女は、自信無さげに首を傾げる。 「……難しい……ですね。けれど……確率を考えれば、見つからないとも言い切れない、でしょうか」 彼女なりに、必死に絞り出した言葉。其処にはプロアデプトらしさがあり、つまり、筝子という人間らしさがあった。 その言葉に螢衣は、確信めいた予感を抱く。本当は――筝子の心の何処かに、何もかも嫌になって、自分の世界に閉じ籠った自分を嫌悪する気持ちがあったのではないか、と。 かつては自らに少なからず誇りを抱いていたからこそ。 筝子の心が少し、傾いたと見て、ラインハルトも筝子に言葉をかける。 知りたいのだ、と。筝子の心を。同情も憐憫もいらない、ただ、筝子の思いが、知りたいのだと。 「わたしからも、お願いします。話そうと思って下さる範囲で、構いませんので」 螢衣も、やんわりと同調する。 筝子は、暫く俯いていたが――徐に、口を開いた。 「……何度も、この泉を血に染めた……」 そう語る筝子が三人に見せたのは、自らの白く細い左手首。其処には、刃物で幾重にも斬りつけた跡が、くっきりと残っていた。 よく見れば、筝子の手が届く程度には離れた場所に、カッターが撃ち捨てられている。しかしそれは最早、錆びついていて使い物にならないようであった。 「……死にたかった、死ねなかった。運命は、私を殺してはくれなかった……」 恐らくはその時にフェイトを得たのだろうが、筝子にとってはそれは希望ではなく絶望であったのだろう。その表情に、僅かに悲痛の色が宿る。 「生きて、前を向け。運命にすら、そう言われているような気がして、けれど……今の私には、前は余りに暗くて、見えなくて……」 「後ろを向き過ぎるのも良くない。けれど、前ばかりを見ていなくてもいいのではないかな」 それまで、筝子の瞳を見て、聞きに徹していたクルトが、口を開いた。 「前だけでなく、もっと広く周りを見渡して、見えてくるものもある。俺たちみたいに、まだ君を諦めてない人間もいるわけだけど、それでも、そのまま一生1人でいるつもりかい?」 「……私を、諦めない……?」 驚きに僅かに目を見開いた筝子。きっとそれは、予想だにしなかった言葉だったのであろう。クルトは頷く。 「それは君を理解し、愛してくれる誰かに出会える可能性を放棄することだよ」 螢衣も言った。世界には何十億もの人間がいるのだ。世界は筝子と、筝子が愛した人間だけで出来てはいない。二人だけの世界なら、人間から見てこのように広い星に在る必要など無い。 「……生きていれば、諦めないでいれば」 筝子の瞳に光が宿る。瞬く間にその頬を伝い、温かな露になる。 「……生まれ変わる事が、出来ますか」 甘えも驕りも全て捨てて。自分が狭めた世界から抜け出して。手を伸ばして。それを強く望むなら。 決して未だ強くはない、寧ろ弱々しい、それでも確かな、一筋の希望が、筝子の中に差したのだ。それを悟って――しかし、三人は直後、その表情を強張らせた。控えていた五人も、一斉に身構える。 筝子の腕の中で、硝子の水仙が光を帯びた。同時に、筝子の口から呻き声が漏れたのだ。 「……う、あ、ああああああああああ……!」 即座に、三人が飛び退く。 そして――信じられない光景を目にした。 僅かながら生への望みを見出した筈の筝子の周囲に――それはもう鮮やかな黄の、水仙の花弁が舞っている! 「攻撃はしていない……説得も概ね、上手く行っていた筈だ……なのに、何故……!」 思わずネロスが声を上げる。誰も筝子に危害など加えてはいない。筝子に投げかけられた言葉だって、確かに筝子の心に響いていた筈だ。しかし目の前で展開される花の結界は、紛れも無い本物! 「まさか、これが代償なのか……!?」 首筋を伝う嫌な汗を拭いつつ、ハイディが零した言葉。 神話と矛盾した、代償。 ――筝子も、神話の美少年ナルキッソスも、周りが見えていなかった。 前者は他者を、後者は自らを愛したその過程の違いはあれど、他を省みなかった結果は同じ。 だが、筝子は自身を取り巻く周囲に耳を済ませて聞こえる声に気が付いた。そして、きっと生き続ける。 それは神話とは全く別の展開で―― 「神話ノ筋書きノママ所有者ヲコロスツモリ、ってトコカ……」 冷静に分析するリュミエールには、今の筝子はアーティファクトの水仙に体力を吸い取られているように見える。 今の筝子は二ヶ月にも渡る飢えと渇き、冷えによって体力が著しく奪われているに違いない。ならば一刻も早く結界を破壊し筝子を救い出さねば、今度こそ筝子は死んでしまう! 「……ああ、嫌だ嫌だ。つまらないにも程がある。さっさと終わらせましょう」 忌々しげにかぶりを振って、ユーキはその身に黒き闇の加護を宿す。悪紋も溜息を吐きつつ、道力により浮遊させた剣の陣を敷く。 「いよいよ力尽くしか無いのぅ……」 「何とか結界を破壊しなければ、彼女も危うい、アーティファクトも……そんな事にはボクがさせない」 瞬時に、ハイディが踏み込み、そのダガーに朧気なる黒の輝きを宿して、花弁と花弁の間に張られているのであろう、透明な障壁に、斬り掛かる。 苦しむ筝子の前で、火花が散る。腕に響く衝撃と筝子に手を差し伸べられないもどかしさが、募る。 打ち砕く。その意志は一つ。螢衣も式神の鴉を飛来させ、ネロスも結界破壊後に戦闘は無いと見て、澱みの無い連撃を撃ち込んでゆく。 「絶対に、死なせはしない!」 ネロスの言葉に応じるが如く、ラインハルトも聖なる十字の光を撃ち出した。 次の瞬間にはリュミエールも怒涛の連撃を浴びせ掛け、構えを取っていたクルトも風の刃を見舞う。ユーキは紅き刃で以て斬りつけ、悪紋も二羽目の鴉を向かわせた。 そうして、粘り強く障壁と打ち合っている内に――感じていた手応えが弱くなる。 もう少しだ。そう、リベリスタ達は直感する。だが、同時に焦りも生じ始めていた。筝子が、既に虫の息なのだ。 (まさかまた、希望を失ってしまうのでは) そんな悪い予感が、ハイディの脳裏を過ぎる。これで楽になれるのだと。 だが――声が、その思考を、掻き消してゆく。 「周りを省みなさい! 見ず知らずの他人の集団である我々にも、こうやって入れ込む人がいるぐらいです。貴方が気付いていないだけで貴方の事を見ている人も何人かはいるでしょう!」 堪忍袋の緒が切れたのか、ユーキが叫んだ。筝子の双眸が、再び見開かれる。 「テメェはコロサネーヨ、死ヌニハ安スギンダヨ……生キテミヤガレ」 リュミエールも、ぶっきらぼうながらに投げかけて。仲間達の言葉を、何より筝子の未来を棒に振るつもりは無いのだから。 それでも――筝子はゆるりと地に伏した。未だ迷ったままの自分の意志を、何かによって押さえつけられているかのように。 「愛されたい、でも拒絶されるのが怖い。故にそこから動けず、自ら拒絶する」 矛盾を抱えた筝子の心理が、今、彼女自身を苦しめている。 ならば、今の自分に出来るのは。 「壊してやることだけだ」 いつの間にか、クルトは筝子の眼前へ。 そして、筝子を閉じ込める花の檻を、燃やし尽くすが如く――その拳に宿す、焔で、穿った。 「やったのか……!?」 ネロスが拳を握る。 だが、筝子には既に、限界が訪れていた。 必死で、向き合ってくれたリベリスタ達から目を逸らさずにいたその瞳も、今や瞼に覆われ尽くそうとしている。身体も、最早動かない。 だが、それでもクルトは手を差し伸べた。 「さぁ怖がりなお姫様、そろそろ外の世界に出ておいで!」 ――刹那、 筝子を愛した運命が、燃えた。 その双の翠玉ははっきりとクルトの姿を捉え、その手は最後の力を以て、伸ばされた。 ●覚醒リ・ブルーム アーティファクトも悪紋の手によって無事に破壊され、筝子が三高平市内の病院に搬送されたその日の夜、ハイディとリュミエールは彼女の病室を訪れていた。 今回の件で筝子は一皮剥けたものの、未だ精神的には不安定であり、カウンセリングを行いつつ、拒食症患者に対する療法によって体力と気力を回復させる事になったらしい。 面会も断られかけたが、筝子が自ら招き入れてくれた。 「アーティファクトを手に入れた経緯を、教えて欲しい」 ハイディが問うと、筝子はぽつぽつと、話し始めた。 「……山に籠ってから、一ヶ月が経った頃……だと思います。どうやって私の居場所を知ったのか……白衣の女性が、私の下を訪れてきたのです」 「白衣の……?」 「……ええ、彼女は……『貴女を楽にしてくれる人に巡り合う為の御守り』と言って……あの花を、私にくれました……フェイトや、リベリスタ、フィクサードの事も……彼女から」 「ナンダッテ、ソンナ真似シタンダロウナ? 聞イテネェノカ?」 だが、そのリュミエールの問いには筝子は申し訳無さそうに俯いた。 「……聞いたんだけど、笑って、はぐらかされてしまって。女には、秘密の一つ二つあるものだ、と」 「……そうカ」 筝子から得られる情報は此処までのようだ。ハイディは礼を言って、リュミエールと共に踵を返した。 帰り際に、ハイディはユーキと、そして悪紋と鉢合わせた。 「ユーキが飲みに行くと言うのでそれに付き合う事になっての。この姿では入るのが大変じゃった……まぁ勿論、若者ではあるんじゃがの!」 「と、いう事でして。忘れるまで酔う事にしたんです」 ユーキの口ぶりからして、これからもう一軒行くようだ。 「そう言えば……何故ユーキさんは、成希筝子にあそこまで?」 ただ気に入らないにしては、彼女の今後を考え過ぎているように思えて、ハイディは尋ねた。するとユーキは、自嘲気味に微苦笑を返した。 「……仕事柄ね。好いた人に先立たれる事が多くてね。ちと古傷が開きました」 本当につまらない。そう独りごちるユーキの背中は、何処か弱々しく見えた。その様子に、悪紋は静かに微笑み、呟く。 「筝子がお主に認められるようになるには、少し時間がかかりそうじゃの」 (まァ、後ノコタ本人シダイダナ。ドウナルコトヤラ) ――そう。今は筝子が再び生に希望を見出すのを、信じるのみだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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