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【雨業の衆】雨降る里、夢間の帳

●都市伝説、という呪い
「確かここら辺だぜ、この間『最恐スポット五十選』に載ってたの!」
「いいねー、何ていうか、幾つか回っても面白い場所なかったし? やっぱちょっと歯ごたえないとっていうか?」
 夜の水辺、というのは往々にして恐怖心を煽る場所である。
 そこに、何らかの因果を纏う伝承があればそれはより濃密なものとして、人の感覚に纏わり付く。
 車という文明の利器があっても、人間の心理は本能的に神秘に惑わされるのだ。
 故に――彼らの無謀さを咎めるほどに、人は賢くはない。
「ドキドキするわね。二人共、内心ビビってんじゃないの?」
 後部座席の女が、男たちに笑いかける。
 ああそうだ、この女も随分な美人である。そう二人は思っていた。
 何せ、彼女は旅程に於いて偶然会っただけの間柄だ。
 この場所だって、偶然知り得た情報を基に来ただけだ。
 偶然だ、本当に。

「ばっか、雨が降ってる降ってないだけでビビったりするもんかよ!」
「まーね。血の雨だったら少しは怖いけ 」
 助手席の男の軽口が、途切れる。
 視界の端に、赤が見える。フロントガラスが赤くそまる。内側から? いや――『どちらからも』。

「なん、」
 男の驚愕は其処で終わる。男達の人生もそこで終わり。
 操り手を失った車は、男の体重をアクセルに込め、ただただ暴走する。

 だが、それもせいぜい数百メートルのこと。道から外れかけた鉄の棺は、真正面に現れた男の拳ひとつをして沈黙し、吹き飛ばされた。
 落下し、転がるそれの傍らに、ぽつりと現れたのは車の中の女。艶然とした笑みを浮かべ、男へと視線を投げかける。その圧は、常人には耐え難く。

「やーねェ、せっかちじゃない『加賀峰』?」
「お前の手の早さにはほとほと参っているのだよ、『黒居』」
「まあ、言いっこなしでいいじゃない? 仕事は、やってるわよ?」
 黒居、そう呼ばれた女が車を指さす。加賀峰、と呼ばれた男は呆れたように首を振るだけだ。

 ごとり、と。
 ひっくり返った車から、音がしたようなきが、した。

●贄集う
「――『雨業の贄』。既に事件として行動を重ねること四度、情報は既にほぼ出揃った形になります。彼らの、本拠地も」
 今までに起きた『雨』、ないし『贄』に絡む事件の報告書を並べ、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は話を切り出した。
「ですが、その地点、及び周辺の地理データがあっても、現地での直接アプローチは難しいと思われます。『万華鏡』で観測できても、現地での磁場の影響や彼らのアーティファクト効果を突破するには、やはり捕捉できた相手を撃破するのが最短かと。具体的に、さきの二人ですね」
「今までのことだ。アーティファクト持ちなんだろう? それも、厄介なのを」
「そうですね。彼らの特性含め、話して行きましょうか。
 男性、『加賀峰』はジーニアスのクリミナルスタアです。クリミナルスタアでも特に接近戦仕様のスキルを用い、威力も高い。
 クリミナルスタアの例外に漏れない性能を持っていると思って頂いて差し支えありません。
 アーティファクト『幻痛生成器』の効果により、フェイクの攻撃を繰り出すことで余剰効果として相手の精神力を削ることができます。
 女性、『黒居』はフライエンジェのインヤンマスターで、遠距離攻撃と状態異常に関して長けていると思われます。
 アーティファクト『夢幻歩測』の効果により、移動の際の前動作が見えません。動き出したと思ったら、既にそこに居る。超直観などの感知系統でも、予測は困難でしょう。距離を測るクレバーな戦い方は、彼女相手に通じないと思われます。
 ……そして、最後に。黒居が襲った男性二名とその車両も、殲滅対象です」
「何ていうか、予想通りだな。全部、フェーズ1なんだな?」
「ええ。彼らに関しては単純戦闘しかできませんから、脅威らしい脅威ではありません。少なくとも、神秘面では。
 ただ、乗用車は乗用車なりの重量がありますし、その行動原理を確実に予見することも難しい。警戒は、十分にお願いします。
 最大を以て最善を。彼らを超えた先に、恐らく――その『答え』があるはずです」

「……ところで、現場は?」
「静岡県富士市、奥地……存外、敵は身近にいるものなのですね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月09日(木)22:40
【雨業の衆】もいい感じに大詰め感が出て参りました。
 気を引き締めてまいりましょう。
※【雨業の衆】タグが付いた過去依頼の予備知識があると、より楽しめるかと思われます。

●達成条件
・フィクサード『加賀峰』『黒居』、及びエリューションフェーズ1『クビナシ』『チフブキ』『クレイジーアクセラ』撃破
・『結界』の発見及び破壊

●エネミーデータ
○『加賀峰』-ジーニアス×クリミナルスタア。怪力の持ち主であると推察される。戦闘スタイルはナイフと『幻痛生成器』の二刀流。
・クリミナルスタアRank2までのうち、「装制格」及びパッシブスキルを取得済み。幾つかを活性化。
・ナックル型アーティファクト『幻痛生成器』の効果により、攻撃全てに『MアタックX』追加。
・二刀流、格闘武器熟練Lv2、ジャミングを所有。

○『黒居』-フライエンジェ×インヤンマスター。狡猾な美女。
・インヤンマスターRank2までのうち、遠距離、かつバッドステータス付与系のスキルを多用します。
・ハイヒール型アーティファクト『夢幻歩測』の効果で、彼女の移動に関する予備行動を予測出来ず、距離感覚を掴むのが困難です。
・ステルス、気配遮断、神秘武器熟練Lv2所有。

○エリューションアンデッド『クビナシ』『チフブキ』-OPで殺害された男性二人組。
・主に通常攻撃しか使いません。
・『黒居』を庇うこともあります。

○エリューションゴーレム『クレイジーアクセラ』-半壊した乗用車。
・物近貫『突進』を用います。
・ブロックには2名必要です。

○結界
 戦闘終了後、行動可能なリベリスタが3名以上『破壊する』と宣言することで破壊可能です。

●戦場
 静岡県富士市、森林部。
 常に『赤い雨』が降っていますが、肉体には悪影響はありません。
 相応の環境に対する対策は必要です。

 なかなかに面倒くさい相手ですが、お相手頂ければ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ナイトクリーク
★MVP
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
デュランダル
蘭堂・かるた(BNE001675)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
マグメイガス
オリガ・エレギン(BNE002764)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)

●嗚呼、血が降り注ぐ
 雨が、枯葉を叩いて静けさを奪っていく。
 人の気配は一切無く、所々剥げたアスファルトが忘れられた場所としての寂寥感を感じさせ、
 そこが『踏み行ってはならない場所』であるという忌避感を強めていた。
 雨は、止まない。朱に染まったそれがそこらじゅうを染め上げて、血まみれの園であるかのように。

「雨の日に会う人は、大体僕にとって不運しか運んでこないんですよね」
 尤も、この奥に潜む者達に今まで不運は愚か、凶運を運んできた『不幸自慢』オリガ・エレギン(BNE002764)にとって、その台詞は皮肉である以外の理由はない。
 結界という存在そのものが、自らの秘匿を声高にしているのだから世話は無い。

「雨は嫌いだな。眺める分にはいいが、浴びるには今の季節は冷たすぎる」
 生贄の血を頭から被るような不快感は、できるだけ避けたいという意思があった。
『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は、左目の眼帯の奥で像を結ぶ十字線の向こうに、現れるであろう敵の姿を探っている。
 その感情が昂ぶれば、己の感知の網にかかるであろうという腹積もりだ。

(濡れて、気分がわるくなるんだよね……錆びつく)
『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492) は、雨を眺め、次いで自らの得物を眺めた。
 逸脱者、と名付けた巨大な鋏のその片刃。想いを馳せる過去よりは、これから起きる衝動のままの殺戮に思いを寄せる。
 そうでなければ、錆び付いたまま軋んでしまう。動けないのは真っ平ごめんだ。
 意識の切り替えは素早く、感情は正常化。何ら問題ない。

「あまり、いい気分はしませんね……特に、こんな雨では」
 暗視ゴーグルの調子を確認しつつ、蘭堂・かるた(BNE001675) はICレコーダのスイッチを入れる。戦場の情報を正確に報告する為には、齟齬のない情報交換が不可欠であることは語るまでもない。故に、有効な手段のひとつとして考えられたのだろう。
 アスファルトですら不安定であるこの環境下、足場に不自由しない優位性は高いとも言える。

「赤い雨が結界として機能しているのか?」
 怪訝な表情で空を見上げたのは、『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658) だ。その目に振りかかる雫は、ことごとくゴーグルが弾く。
 雨と、森。光の流入を遮るふたつの要素を以てして、彼の視野を遮ることはない。遮ったとするなら、それは敵の姿ということになるだろう。

「知らずとも、問題のあることではないだろう。明確な意思を以て踏み入った貴様等は、既に我らの『贄』なのだからな」
 崩れ落ちる樹の影から、重厚な質量を持った声が響く。隆々たる筋肉を侍らせたその姿は、鈍重そうに見えながらもその一撃の重さは考えるまでもない。
 示威行為として巨木を叩き割るほどだ。革醒者には造作のない行為とて、わざわざ示しただけの意味があるということだろう。
「ならば貴方を打倒し、深奥への足がかりとしましょう」
 その一撃に応じるように刀を抜いたのは、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536) だ。全身を取り巻く戦意を一気に爆風として吹き散らし、
 臨戦の構えであることを示している。意思の強い眼光は、それだけで相手を撃ちぬくが如くの勢いだ。
「いいわ……さっさと潰して終わらせましょう……」
 言葉少なに、然し確かに撃破の意思を相手へと向ける『深紅の眷狼』 災原・闇紅(BNE003436) の刃が傾けられ、臨戦態勢を敷く。
 初手の速さは先立つ者に及ばずとも、肩を並べるに値する最高速度を叩き出す。その意思が強く、爆ぜる。

「余り気色ばむものじゃないわよ、加賀峰」
 殺気を撒き散らす両者に割って入る様に、涼やかな声が響き渡る。姿を見せぬその声の主とは真逆に、
 木々を破砕しながら迫る、半壊した車両――それがエリューションであることは疑いようもなく。
「最悪の『偶然』……せめてもう眠りなさいな」
 その影から飛び出してきたアンデッド二体に、一切の躊躇もなく『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382) が肉薄する。
 一期一会のためだけにある己の刃を、安らぎを呼び込むために振り上げ、撒き散らそうと。
 その身に、そして周囲に張り巡らされた『結界』が、護りではなく攻めのために張り巡らされたことを、
 振り抜いた刃の向こうで理解する。一拍の間をおいて迫る重圧。頭の先から爪先までを鉛に沈めたような圧力。
「……ッチ」
「あら、おしゃべりが過ぎたかしらね? この結界を受けて動きが変わらないコが居るだなんて」
 忽然と現れた女性の感情が、雑音を垂れ流しにしたかのような異音に満ちていることに、杏樹は寒気を覚えた。
 近づいてはいけないものだ、という意識。反射的に弩を掲げようとしても、身体がとても追いつかない。
 その場の影響ではなく、明らかに『黒居』と呼ばれる女が行使した鈍化の結界を逃れ得たのは、おろちのみ。
 唯一の救いは、エリューション達の行動が攻撃ではなく、フィクサード二人のカバーリングに回されたことだろう。
 そうでなくとも、先手を献上してしまう状況下。
 森林の戦場は、異常なほどの静けさから幕を開けた。

●贄たるかな
「貴女達も、『贄』? それとも『贄』を利用するもの?」
「あなた達にどれほどの知識があるかは知らないけど、根本的な話なの。
『彼女』を置いて他の全ては須く、その『贄』になるもの。
 捧げられるべくして産まれた私達が、そうならないための手段。
 力を授かったその時に既に心を捧げ、生き長らえるために他を捧げる。簡単な構図よ」
「随分とおしゃべりなのねん。負けないという自信かしらん?」
「……冥土の土産、って聞いたこと無いかしら?」
 黒居の前に立ちはだかったアンデッド、加えて近傍の木々をなぎ倒しながら、おろちは彼女へと言葉を投げかける。
 利用する側だろうとされる側だろうと、互いの命を預け合い殺しあうことに変わりはない。
 冷静なようで居て狂っている彼女の言葉は、おろちに僅かな寒気を感じさせ。
 直後、彼女へと荒れ狂う嵐の如くに、鴉の群れが襲いかかる。
 百闇を冠された、式符の発展型。遠間を狙うはずのそれを至近で放たれれば、さしものおろちの反応も追いつかない。
 全身を啄むその嘴は、彼女の守りに甚大な不利を呼び込み、その運に僅かなケガレを与えていく。
 
「――そこの娘、そして神父もどき。貴様達については、知らぬ訳ではない。寧ろ、」
 憎い、と。加賀峰の咆哮は紅き雨を震えさせ、踏み込んだアスファルトを沈ませる。
 だが、その勢いのまま生み出された広域破壊、暴れ大蛇と呼ばれるそれは、憎しみを向けた冴とオリガには届かない。
「しばらく俺に付き合ってもらうぜ! 憎いってんなら俺もだろ、違うか!?」
 辛うじて彼の間合いに踏み込んでいたモノマの黒拳が加賀峰の拳と打ち合い、軋みを上げる。
 荒れ狂う拳を皮一枚で回避しつつ、重々しい肉体に鞭を打って、彼は加賀峰の進路を塞ぎ切る。
「そのアーティファクトも、贄の奴らが持ってる物と一緒なのか?」
「『彼女』に対する冒涜にしか、聞こえん。二つと同じものがあるわけがなかろうが……!」
 喉の奥から搾り出すように放たれた言葉は、なるほど確かに、信仰対象に心酔しているであろう口調だった。
(『彼女』……アーティファクトじゃねえのかよ?)
 だからこそ、根源的な意思を言葉として吐き出すわけであり。その言葉の隙は、モノマに思考する余裕を与えていた。

「っ、この……!」
「厄介な……!」
 そして、フリーになっていたクレイジーアクセラは、加賀峰の言葉を代弁するように冴へと突進し、その肉体を打ち据えつつ転身する。
 二人の反応がもう少し遅ければ、双方がマトモにその一撃を受けていてもおかしくはなかった。
 僅かな差、だがそれが戦場の趨勢を握るならば、一手の後れが致命的になることだって十分にあり得るはずだ。

(一回死んだイノチをもう一度殺し直すのも面倒くさい……殺すなら生きている方がいいんだけどなぁ)
 身に纏った瘴気をアンデッド達へ傾け、葬識は一気に解放する。大型の鋏を振り下ろしたそれが射線を確保するには
 些か方向が確定できなかったとはいえ、鈍重なアンデッド一体を巻き込むには十分すぎる狙いでもある。
「邪魔なゾンビも潰しておきましょう……」
 構えた刃を振り上げ、闇紅は二度、三度ともう一方のアンデッドへと振り下ろす。
 おろちの攻撃を受け止めたアンデッドたちに、葬識と闇紅の攻撃を受け止めて立ち続ける程の余力など存在しない。
『贄』の悪女を打ち据える射線は整った、といっていい。
「趣味のいい靴を履いてるな。履きたいとは思わないが」
「嫉妬してもダメよ? 壊そうだなんて、美学が足りない証拠ね」
 杏樹の弩が重々しい一撃を撃ち出し、慮外の精密さでそのヒールを打ち据える。だが、壊れない。
 破壊力としても精度としても圧倒的なそれをして、未だそのアーティファクトは健在だ。
「『その』アーティファクトを装備しているなら、既に心は」
「無体なことを聞くのね、シスターのお嬢ちゃん。心を『侵されている』と思うなら信仰者として三流よ。
 言ったでしょう、心を『捧げる』と。例えば私達の心が潰えても、それは『彼女』の目覚めにつながるなら、
 それが無理だなんて思わない。素敵じゃない、それも?」
 信仰心の為に己の心を汚し、自らの精神死すらも恭順に受け入れる。
 彼女たちは狂っている、などと指を差し糾弾することこそ愚かだったのだ。

「自分を捨ててまで信じるものなど、それこそ信仰として三流です。あなた達こそ、それがわからないのですか?」
「そんな狂ったものに他人を巻き込むことは、正義に反します――私が討つに、値する!」
 だが、届かないと知っていても、その妄言はかるたの意思を刺激するに十分であり、
 冴の正義を侵食する悪であるに足る歪みであったと言っていい。
 彼女たちの連携は、クレイジーアクセラを順当に打ち伏せようとするが、しかし相手は無機物だ。
 その全力をしても、たった一手での討滅はとてもではないが難しいといえるだろう。
 それでも構わない、それでも十分に傷つけた。勝利は決して遠くない。

「罪も無い人を殺して戦力にするような真似は、許してはおけません」
「許す許さないの次元じゃ、ないわね……っ、貴方も、加わればいいわ?」
 肩口を奔る魔の旋律をすんでのところで回避し、黒居は余裕を崩さない。
 数的有利など、有利不利の一側面に過ぎない。それをひっくり返す程度には、力を蓄えてきたのだ、と。

「――加賀峰!」
「皆まで語るな、黒居!」
 互いの矜持と信頼は、その一声に全てがあった。その間のとり方ゆえに、二人があった。
 その速度を取り戻したリベリスタ達は――『贄』の地力に舌を巻かざるを得なかった。
 終わらず朽ちず折れず、唯真っ直ぐに。
 加賀峰の拳が、モノマを強く打ち据える――!

●無垢なればこそ呪いあるべし
「がっ……!」
「語らせるに値せん、潰えろ……!」
 単純に、真っ直ぐ打ち出されただけの拳だったはずである。
 速度が異常でもないが、しかし単純作業の延長線上に存在する一撃は、純粋にして狂気。
 モノマの守りをしても撃ち貫いて痛撃を与えるほどのそれが、他のリベリスタへと向けられなかったのは、
 十の不幸をして一の幸いに他ならぬ。
「この、程度で……!」
 だが、彼とてそれだけで倒れるほどのやわな鍛錬、やわな覚悟の上で立っているわけではない。
 味方に背を預ける覚悟をして、加賀峰を抑えると断言した。炎を纏った拳を振り上げ、その顎を痛打する。

「もっと、殺しあうんでしょう? この程度じゃ、アタシイけないわね……!」
 痛みを切望する絶叫のように、おろちの声が刃に乗る。
 黒色のオーラを乗せた一撃が黒居の頭部を痛撃し、大きくその身をのけぞらせた。
「死ぬなら貴方一人になさい……いえ、『あなたたち』だけに!」
「真っ平御免です。一方的に死を告げるような相手は、それこそ死ぬべきでしょう」
 絶叫に重ねて氷雨を撃ち放つ黒居に、しかしリベリスタ達の気負いはない。
 かるたの蛇腹剣――ファレノプシスブレードがクレイジーアクセラのサイドミラーを絡め、引き千切る。
「私の信じる正義の為に――絶対に、倒す!」
 冴の鬼丸が、紫電を纏って叩きつけられ、クレイジーアクセラを今度こそ沈黙させる。

「僕達が本当に用があるのは、貴方達が後生大事に守ってるものです。
 ここでやられる訳にはいきません」
「……っ、何度も、何度も……!」
 オリガが繰り返し放った魔曲は、今度こそ黒居を縛り、四重の苦痛を叩きつける。
「殺戮衝動が止められなくてごめんねー殺人鬼だからさっ!」
「めんどうね……あんたさっさと潰れなさいよ……」
 嬉々として『生きた人間』に迫る葬識、憂鬱そうな口調のまま、全力の刃を揮う闇紅。
 どちらの一撃も手応えがあったとは言い難いものの、それでも蓄積するには重すぎる。
「イきなさいな……『贄』が待っているわよ!」
 まさに、会心のタイミング。
 おろちの生み出した爆弾が、狂気的な炸裂音を残して爆発し、黒居の意識を刈り取った。

「やはり、お前達とは相容れないな。そんな『神様』は本物より先に、倒しておいてやろう」
「づ……っ、調子に乗るな俗物が!」
 皮肉を口にした杏樹、その得物であるアストライアの放つクォーラルは加賀峰の拳へと突き刺さる。
 悲鳴も上げず、即座にそれを引きぬいてみせる彼の胆力は凄まじいものがあるが、
 モノマを前にしてその隙は余りにも無用心に過ぎる。
「俺に付き合ってもらうっつたろうが! 余所見してんじゃねえ!」
 既に数合の打ち合いを経て、モノマの胆力も尽きつつあった。
 だが、体内の気を練り上げる術を持つ以上、拳の炎は尽きることがない。
 故に、その心胆に点った熱を吹き消すことは、生半可な攻撃では出来はしないのだ。
「貴、様ァ!」
 黒居が倒れ、怒りに声を震わせる加賀峰だったが故に。モノマのその行動に気付くのが遅すぎた。
 その拳をすんでのところで回避した彼が、背後に回るなど。
 既に、眼前におろちが迫っていたなど。
 捧げたはずの精神を露呈した、それこそが彼らの欠点だった、などと――

「ワリィな、仕事中なもんでね、タイマンって訳にもいかねぇんだっ!」
 耳の奥に炸裂する、モノマの声を最後に。
 加賀峰は、爆風の中に沈黙を選択せざるを得なかった。

●雨止まず
 ばきん、と崩れ落ちる音がした。
 それほどまでに単純に、二人の手から離れたアーティファクトは脆く朽ち、破壊されたのだ。
 紅の雨は、未だふりやむ気配を見せない。
 しかし、その中に秘められていた指先ほどの宝玉が崩れ落ちた瞬間、既に『それ』は始まっていた。

 遠雷のように響く、何かの咆哮のような大音声。
 物理的な干渉はなく、しかし「何か」が毀れた感覚。

「この哀しい……狂った妄執にも終止符を」
 終焉が、始まる。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 ……いや、もう、実に。
 回復手抜きで絶対一人は倒れるだろう、フェイト減るだろうと。
 正直、黒居と加賀峰はそれくらいの相手として設定していました。
 でも、加賀峰は近接しか使えず、モノマ君のブロックに遭い、練気法のせいでEP枯渇に持ち込めない。業炎撃オンリーだから問題もない。
 黒居は黒居で着実に護衛役のアンデッドを落とされて、単体攻撃にリソース振った隙を総攻撃される。
 僅かでもバランスが悪ければ半数重傷も在り得た戦いでしたが、メンバーの配置を含め、
『役目をわきまえている』戦いだったといえるでしょう。
 故に、大成功でもいいのではないかと思うのです。
 MVPは、加賀峰を見極めて両者のフィニッシュにハイアンドロウを選択したおろちさんに。
 幾つか目を瞠る戦術はありましたが、やはりドラマ復活を殺されたのは大きかったなあと。

 さて、雨業もいよいよ最終局面。
 全力で参りましょう。