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コーリングベルは聞えない

●何月何日、雨。
 カラカラと風車が回る。
 ほこりの積もったソファに腰掛けて、少女は少女に頬を寄せた。
 今日は何をしようかと少女は言う。
 少女は何も答えない。
 携帯電話を見ているのだ。
 今日は何をしようかと少女は言う。
 少女は何も答えない。
 携帯電話を見ているのだ。
 今日は何をしようかと少女は言う。
 少女は何も答えない。
 何をしようかと少女は言う。
 少女は答えない。
 少女は言う。
 答えない。
 答えない。
 答えない。
 答えない。
 答えない。
 答えない。
 答えない。
 カラカラと風車が回る。
 今日は何をしようかと少女が言った。
 少女は何も答えず、携帯電話を見ていた。

●何月何日、晴天。
「フィクサードを殺してください」
 和泉は一言そう述べた。

 町はずれの雑木林に、古い蔵があると言う。
 そこにはひとりの少女と、ひとりのフィクサードがいるのだと。
 フィクサードはこれまで8人の一般人を殺害。凶悪な人間であると資料には記述されていた。
 フィクサードはごく僅かな戦闘能力と、幾ばくかの対神秘眼力をもっているとされている。
「情報は以上です。フィクサードは必ず殺害して下さい。お願いします」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月10日(金)22:55
八重紅友禅で御座います。
フィクサードを殺してください。
簡単でしょう?

●少女と少女と蔵
蔵には電気が引かれておらず、フィクサードの彼女と一般人の彼女とも、どちらも蔵を出ていく気配はないと見られています。
ただし蔵には鍵がかかっていないため、自由に出入りすることができるでしょう。

この依頼はあなたにとってこれ以上なく容易な筈です。
意味は主観に頼ってください。
今は、あなたの主観が全てです。
逆を述べれば、あなたの主観以外は意味を持ちません。

では、よい一日を。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
クロスイージス
東・城兵(BNE002913)
ダークナイト
レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ダークナイト
セルペンテ・ロッソ(BNE003493)
ダークナイト
ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)
ソードミラージュ
鎹・枢(BNE003508)

●君よ我に帰れ
 『鋼鉄の老兵』東・城兵。
 『赤蛇』セルペンテ・ロッソ。
 二人には20ほど歳の差があったが、少年少女にとってみれば同年代も同じだった。
 60を超えた人間の考える事など、30も生きていない人間に分かるべくもない。
 そんなは二人が、ディーゼル式の二両列車に揺られながら会話を交わしていた。
 『少女』と『少女』はとても親密な仲なのではないかと城兵が言えば、セルペンテが先を促す。
 城兵はこう述べたいのだ。
 『携帯電話の少女』は心身の傷によって反応を失ったのではないか。
 セルペンテは概ね同意した上で、スムーズに、そしてストイックに言った。
 『携帯電話の少女』は既に生きていないのではないか。
 フィクサードを前に逃げない一般人など、いるものだろうか。いてもよいものだろうか。
 か弱い少女を凶悪な殺人鬼から救うヒロイズム溢れるお話が、アークの依頼のセオリーではなかったのか。
 しかし城兵はこうも言った。
 『フィクサードの少女』は本当に殺人鬼なのか。
 過去に犯したと言う八人の殺害は、『携帯電話の少女』のためのものではないのか。
 二人の意見は、やはり60を超えた人間らしく統一の見解を見せないまま、目的の無人駅へとたどり着いた。
 開く扉を前に、一番大事なことを思い巡らせる。
 フィクサードは世界を愛していない。

●無補給のバッテリー
 暗闇に一筋の光が漏れた。
 卵の殻を破るように押し広げられた光りには、人型の影が一つ。
 こんにちは。
 蔵の閂を抜いて、両開きの扉を押し開いて、『黒姫』レイチェル・ブラッドストーンは囁いた。
 逆光が眩しいのか、少女は片目を瞑ってこんにちはと言った。
 『携帯電話の少女』は応えない。
 けれど、二人は片手をぎゅっと握り合っていた。
 二人掛けのソファによりかかって、見ようによっては仲睦まじい、しかしどこか不自然な、奇妙な光景だった。
 首を捻るレイチェル。
 どうだろうか。今、携帯電話の少女を強引に掴み上げて少女から引き剥がすと言うのは。
 難しいだろうか。
 レイチェルはつかつかと足音をたてて歩き、『携帯電話の少女』の後ろに回った。画面を覗き込むようにして身を乗り出す。
 友好的にしようというのではない。妙な動きをした時に首を切れる位置をとったまでだ。
 しかし彼女は友好的に言う。
 何処に連絡を取っているのかしら。それが――。
 言葉が止まった。
 目が細く細く、気持ちの悪さを表に出した。
 少女が振り向いて、何事もないかのように笑いかけてきた。
 そこへ新たにもう一人。
 死にたくないなら妙なマネすんなよ。
 十代半ばの少年が、開き切った扉を背もたれにして立っていた。
 とても強引な言い方をするならば、彼の一言がこの後の流れを決めたようなものだった。あくまで強引に言えばだが。
 少女は、趣の違う笑顔を浮かべた。

●コーリングベル
「へえ、怖いじゃん」
 『死にたくなければ』というセリフを聞いた途端、少女は表情を変えた。
 いや、多分表情自体は何も変わってはいないのだろう。
 変わったのは、場の空気だ。
 ユーニアは本能的な殺気を感じて肩を震わせた。恐怖故ではない。
 羽を鳴らして扉を潜る『ジェットガール』鎹・枢。
「おじゃましまーす! 質問しても?」
「どーぞ?」
 顎を上げて見せる少女。
 枢は頭の中で四つほど質問を考えて、その順番も考えて、結局全部いっぺんに言うことにした。
「ずっとここに? その子は喋らない? あと、二人は仲良しなのかっていうのと……あと」
 覚束ないながら、両手の指を絡める枢。
「ボクは仲間に入れませんか?」
「『NO』」
 見知らぬ大人に問いかけたなら眉間に皺を寄せられるような問いかけに対して、少女は表情を変えずにそう言った。
 NO、だ。
 全てに対して、か?
「……と言ったとして、信じるの?」
「それ、は」
 ぱさり、と音を立てて後ろに下がる枢。
「信じるさ。それが対話だ」
 『覇界闘士』御厨・夏栖斗。
 『百の獣』朱鷺島・雷音。
 二人は兄妹である。そう言って良い。
 夏栖斗に手を引かれるようにして、雷音は扉の下を潜る。
 枢と同じ、翼を大きくはばたかせてだ。
 目を細める雷音。
 『携帯電話の少女』は、携帯電話を見つめたまま顔を上げない。
 もう一人の少女は微笑みと無表情の中間にある顔で二人を見ていた。
 ストン、と両足を地に下す雷音。
「名前を聞いてもいいかな」
「名前を聞いてもいいかな」
 全く同じことを言われて、朱鷺島雷音だと応えた。
 少女は名指し難い表情を浮かべて、名前は教えられないよと言った。
 言わないでもない。
 無いでもない。
 教えられない、だ。
「信じる?」
「……ああ」
「対話だね」
「次だ。君は神秘の力を使って、人を殺したことがあるかい?」
「『NO』」
 ソファーに背を預けたまま、顎を上げたまま、少女は言った。
 NO、だって?
「嘘……って言っても、信じる?」
 雷音が次の言葉に詰まった。
 夏栖斗が前に出ていく。
「誰かから、メールを待ってるの?」
 借りるね。
 そう言って、夏栖斗は『携帯電話の少女』から携帯電話をひったくった。
 画面を見て眉を上げる。
 いくつかのボタンを数回押して、目を細めた。
 『携帯電話の少女』に返す。
 そしてポケットから自分の携帯電話を出して、耳に当てた。
「こんんちは」
 応えは無い。
「君は、人を殺したことがある?」
 応えは無い。
「僕も、あるよ」
 応えは無い。
 無いが。
「今でも、辛い思い出だ。君は……どうなの?」
 応えは、無い。
 夏栖斗は携帯電話をポケットに戻す。
 そして、もう一人の少女を見た。
「君は――」
「殺人鬼?」
 『殺人鬼』熾喜多 葬識が、何か面白い事でもあるかのように言った。
 ソファーの背もたれに手をついて、『携帯電話の少女』に顔を寄せる。
「人間を八人きり刻む気持ちはどう? 最っ高だろ? 生きていた命をさ、自分の手で刻めるんだ」
「あのさァ」
 ふと、隣の少女が口を開いた。
 手を伸ばす。
 強い力で、葬識の襟首を引っ張った。
「八人殺したら、殺人鬼?」
「……ハハ」
 こつんと額が当たった。
「俺様ちゃんの殺人は、生き様だ。明確な殺人衝動でもって、愛する人を殺すわけ。それは誰にも壊せない美学だ。ねえ……」
 ソファの背もたれに、少女の頭が深く沈む。
「君がどう思おうと、八人殺したら殺人鬼だよ」
 その一瞬。少女がうっすらと笑ったのを、葬識は横目に見た。

●多重真実
 答えが出ない。
 そう判断したユーニアは、背もたれにしていた扉から離れた。
「どっちがフィクサードか明確にする方法があるぜ。簡単に」
「……」
 老兵とセルペンテが、目だけを動かして彼を見た。
 両手を翳すユーニア。
「いいか、こうするんだよ」
 『暗黒』というスキルがある。
 瘴気で人を殺す技であり、複数人を一度に殺せる技である。
 彼は迷うことなくそれを放った。
「「っ――!」」
 咄嗟に二人を庇う雷音と夏栖斗。
 ユーニアは舌打ちした。
「何してんだよ」
「それはこっちのセリフだ」
「いいか、二人撃って庇った方がフィクサードだ。庇わなくても、生きてた方がフィクサードだ。だろ?」
「…………」
「庇わなかったら、こいつらの関係がその程度だってことだ。説得なんて意味ないぜ」
 簡単だろ?
 そう言うユーニアを、雷音は僅かな理解を孕んだ目で睨んだ。
 たぶん……いや、かなり明確に、彼のやり方が『正しいやり方』なのだ。
「俺はさ、一般人の方が主犯なんじゃないかって思ってるんだけど。だって逃げないのが怪しいだろ。ほっといたらまたどこぞのフィクサードを誑し込むかもしれないぜ。そんな面倒事放置するくらいなら、いっそここで片付けた方がいいと思うけど?」
「そんな言い方、するなよ」
「私は賛成だけどね」
 と言って、レイチェルは剣を抜いた。
 『携帯電話の少女』の、携帯電話と首の間に差し込む。
「フィクサードじゃない方には悪いけど、判断がつかなければ両方殺すわ」
 首に吸い込まれる刃。
 ぷつりと湧き出る血液。
 それ以上力を込めようとした途端。
 剣が誰かに捕まれた。
「……あれ?」
 少女でもない。
 確かに少女ではあったが、彼女は枢だった。
 携帯電話にも、首にも、どちらにもつかないように剣を握り込んでいた。
 指から血が漏れる。
 二度、三度、唇を開けたり閉じたりして、そして枢は漸く言った。
「ここには、フィクサードなんて、いないんじゃ……ないですか?」
「どういう意味?」
 目を細めるレイチェルに、枢は目を逸らして言う。
「彼女は何をしたんですか。フィクサードって、なんですか。ボクは彼女の罪をしらないし、フィクサードなんて見えないし、殺すべき人なんていないんじゃないですか」
 そうだ。そうだ。
 二度呟いて、枢はトーンの高い声を出した。
「この中で、ここだけで完結するなら、それでいいよ!」
「良くないんだなァ……これが」
 隣の少女が頭を上げた。
 強い力で葬識を突き飛ばし、リラックスした風に両手をだらんと下す。
「フィクサードは、私だよー」
 趣の変わった笑顔で、少女は言う。
 私を殺さなくちゃ、完結しないよ。

●君よ死を想え
 空気が再び変わった。
 いや、戻ったと言うべきか。
 枢はひとこと、どうしてと首を振った。
 手の平に刻まれた二本の傷はそのままに、赤い雫がソファーに落ちる。
 雷音と夏栖斗が、『フィクサードの少女』を挟むように立った。
 よく通る声で雷音は言う。
 フィクサードをやめてくれないか。
 君がフィクサードをやめれば、完結できる。
 『フィクサードの死』にできる。
 甘いことを言っているのは分かってる。ボクは救いに来たんだ。
 夏栖斗は言う。
 人を殺すのをやめないか。
 殺すのに疲れたなら、やめていいんだ。
 テーブルの端からハニーシロップが流れ落ちるような、どこかゆったりとした、そしてどうしようもない顔をして、『フィクサードの少女』は笑う。
 でも君、人を殺すでしょう?
 痛み。
 たぶん、痛みを感じたのだと思った。
 フィクサードにしろ、ノーフェイスにしろ、所詮人なのだ。
 人殺しを、していたのだ。
 『フィクサードの少女』は優しい顔をして言う。
 言う。

●エンドロールは流れない
「やぁい、人殺しィ」
「否定はせん」
 『フィクサードの少女』の隣に、木箱を持ってきて座る。
 城兵は、腕組みをして言った。
「お主は優しい。それに純粋な子じゃ。少々不器用かもしれんが、ワシの孫にもそういうところがあった」
「…………」
 視線を向ける。
 視線が合わさる。
「確かに、命を奪うことは許されぬことじゃ。しかし、『この子』を救おうとした気持ちは、人を人たらしめる一番大事なものじゃよ」
 首を捻る『フィクサードの少女』。
「……今、なんて?」
「外の世界へ、ワシらと行こう」
 風で。
 光で。
 世界のすべてで、彼女を癒そう。
「どうじゃね?」

●スタッフロールは現れない
 『フィクサードの少女』から表情が消えた。
 お断りだよおじいさん。
 突き出した掌が、城兵を突き飛ばす。
 自分の上唇を舐める葬識。
 彼が地面に手をついたその時、セルペンテは既に動き切っていた。
 ざくりと刺さる剣。
 『フィクサードの少女』に刺さった剣が、ソファーの背から突き出した。
 伝えるべき言葉は無い。
 人を殺めてしまった以上、もう戻れないのだ。
 それが良き道であれ悪しき道であれ、それ以外のものであれ。
 幼くとも。
 無知であろうとも。
 殺すしかない。
 フィクサードとリベリスタは殺し合う関係。
 とても簡単で、分かり易い関係じゃないか。

●コーリングベルは聞えない
 『フィクサードの少女』が死ぬのは早かった。
「ああ、食いっぱぐれた」
 額に手を当てる葬識。
 雷音も夏栖斗も、レイチェルもセルペンテも、城兵も枢も、何も言わなかった。
 葬識はソファの端に刺さっていた風車を抜き取ると、息を吹きかけて回した。
「もう君には必要なくなったよね。貰って行くよ」
 そう言って、蔵を出ていく。
 外の光は眩しい。
 片目を瞑って、葬識は顔を上げた。
 もしかしたら、あの少女を喰わなくて正解だったかもしれない。
 もしかしたら。
 もしかしたらだが。
「まあ、いいか」
 彼に続いて、一人一人蔵を出ていく。
 ユーニアは一度振り返って、携帯電話を見やった。
「あれを回収したいんだけど」
「よせよ」
 背中を押して蔵を出る夏栖斗。
 雷音は二度ほど振り返ってから、蔵の扉を閉めた。
 ばたん、と暗闇に閉ざされる。

 蔵を出た所で、ユーニアは眉をしかめた。
「どうしてだ。あの携帯、何かあるかもしれないだろ。大体誰と通話してるのか……」
「してないわ」
 レイチェルが言う。
「どういう意味だ? ディスプレイ見たんだろ、何が映ってたんだ?」
 夏栖斗は空を見て、レイチェルは足元を見た。
 そして二人同時にこう言った。
「「何も」」

●退室のベルが鳴る
 暗い。
 次第に、天井近くの格子窓から差し込んだ光に目が慣れ始める。
 か細い光は、少女の携帯電話を照らしていた。
 既にバッテリーの電源が切れ、何も表示することのない携帯電話。
 ぴちゃりと少女の指から雫が落ちた。
 広がる赤黒い水溜り。
 天井を見つめたまま、口を開いた少女。

 少女の目が、動いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
calling bell call

――ded end