●侵食するモノ ガシャァン! 重量のある物が叩きつけられて割れる、ガラスの音が校舎に響いた。 「てめぇやりやがったな!?」 「そっちが先に絡んできたんだろうが!」 突然の破壊音に静まる学校に、二人の少年の怒声が響く。 切欠はほんの些細な事のはずだった。だが気づけば口論はエスカレートし、拳を振るう事態に突入している。 余りにもスムーズに暴力へと移行したことに、本人達は何の疑問も抱いてはいない。そのような事態になるような内容ではなかったはずなのに。 降って沸いた騒ぎに学校は騒然となり、生徒達はそれぞれ思い思いの行動を取る。事態に泣き叫ぶ者、教師を呼びに走る者。そして、我関せずでいつも通りに過ごす者。 「まただよ、今月に入って何度目だよこういうの」 騒ぎからやや離れた教室で、雑談をする一団。彼らはいつも通り過ごす側だった。 「この間、D組の林が大森先生と殴り合いしたよな。他の学年でも結構あるらしいけどさ。」 ――そう、最近校内で暴力事件は頻発していた。彼らの学年だけではなく、全ての学年、教員を含んでまで。 「なんだか知らないけどよ、最近学校だけじゃなくて街中で暴力沙汰増えてるらしいぜ。なんか妙らしいんだけどよ」 「へ? まじかよ、そんな多いの?」 携帯を弄りながら、深く興味を示した様子もなく話を続ける少年の一人がこともなげに呟いた言葉に、他の少年達が食いついた。 「新聞で見たんだけどよ、頻繁に起きてるらしいぜ? 家庭から会社までどこでもござれ、ってかんじで警察も戸惑ってるとかなんとか。」 彼の言う通り、今この街では傷害事件が多発していた。そのほとんどが、通常であればなんの問題もないはずの、些細な原因で引き起こされているのである。 「怖いなぁ……。いつ揉め事に巻き込まれるか分かったものじゃないや。ところでさっきから何携帯弄ってんの? 彼女にメール?」 話題を切った突然の問いかけに、携帯を弄っていた少年は渋い顔で答えた。 「ちげーよ。なんか最近携帯の電波の入りが悪くてさ、ダチにメール送ろうとしても上手くいかなくて……。お前のとこはそんなことねぇの?」 「俺のは別にそんなことないけど……。お前のメーカーだけじゃないか?」 諍いの騒音を他所に、少年は画面を見つめていた。 アンテナが三本表示されているのに、電波の入りの悪い携帯を。 ――街よりほど離れた山中。 そこには一基の鉄塔が立っている。全長は二十メートルほど、特定の企業の携帯の電波を送受信するために建てられた電波塔だ。 それなりの年月を積み重ねた鉄塔は、多少の赤錆を浮かせて独特の雰囲気を放っている。だがその佇まいには明確な違和感が、そこにはあった。 鉄塔を囲む金網の周りを徘徊するは、熊、鹿、猪など野生の動物。肉食草食問わず、そこには存在しており、お互いに恐れることもなく食い合うこともなく。鉄塔を守るように集まっていた。 そして金網の中にはさらなる異質があった。 さらに蹲る巨獣。全身を剛毛に覆われた、熊のような姿をした獣。筋肉は常軌を逸した量に達し、並の熊より二周りも大きい体躯は油断なく周囲を伺っている。 上には鉄塔を止まり木とする怪鳥。二メートルほどある大鷲のような姿をした異形の鳥は、首をぎょるりと動かし、間断なく周囲を見回す。 もっとも日常を感じさせるものは中央の鉄塔だが……その日常こそが、異変の中心だった。 聳え立つ鉄塔の先端、各地に電波を送るアンテナ。その部位が、不自然に帯電し、不気味な振動を行っている。 アンテナはそこに在る。いつものように世界に電波を送り続ける。 ――粛々と。ただ、粛々と。 ●ブリーフィングルームにて 「携帯、便利だよな?」 アークのブリーフィングルーム。『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は操作していた携帯を机の上に投げ出した。 「だけどな、便利なものってのは裏があると俺は思ってるんだ。何か大事なものを犠牲にしているような気がするのさ。例えば……人に縛られない孤高さ、とかさ?」 こんなことを言う伸暁だが、彼はよくファンの女の子から電話番号を聞いたりしているのをリベリスタ達は知っているし、有名な事である。 「まあ、携帯に関わるんだけどさ。かなり厄介なエリューションが見つかったんだ」 やれやれといった風に頭を振り、ポケットに捻じ込まれていた今回の依頼に関する資料を伸暁はテーブルに放った。 「今回発見されたヤツは、某市の山中にある電波塔……能動的に破壊活動を行わない引き篭もりだった為に発見が遅れたんだ。その結果……なかなか育ってしまったのさ」 伸暁はうんざりとした風で口を開く。どうにもいつもの余裕な態度が若干足りないように感じる。よほどこの状況は深刻なのだろう。 「フェーズの進行したエリューションは周囲へと影響を広げる。こいつは、広域への電波で周囲の生物の精神を削り、暴力的衝動を活性化させてるのさ。携帯の電波帯も使ってさ」 テーブルの上に転がる携帯電話を指でカツカツと叩きつつ、言葉を続ける。 「主に影響を受けてるのは一般人。エリューション能力のあるお前達には大して影響を与えないが……近づいた場合は保障出来ないな。後、厄介なことに周囲の野生生物がその影響を受けて、電波塔を守るオーディエンスになってるのさ」 封筒の中の資料をぐしゃぐしゃと広げつつ、彼は説明を続けていく。ここまで彼が自分の口で詳細に内容を語ることは余りない。余裕のなさの表れなのだろうか。 「さらに、侵食が進んで発生した二体のE・ビースト……熊と鳥のやつがいる。こいつらが強力なボディガードになっている。塔自体は大した戦闘力はないが、先ほども言った電波が面倒だな。あと、塔の先端のアンテナが核だから、そいつを砕かないと無駄なのさ」 そこまで説明すると、伸暁は席を立った。 「あの市は、電波の影響で暴力事件が頻発している。あの電波塔がなくならない限り、被害者は増える一方さ。侵食も広がってしまう。頼んだぜ、ヒーロー。グレートミッションさ」 言い残し、伸暁はブースを去っていく。 ――ミッションスタート。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月12日(木)01:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●電なる領域へ ざり、ざり。 登山道の砂利を踏みしめる音が山へと響く。あまり名所でもないこの山、普段登る人はあまり多くは無い。 そのような場所に集団が訪れる事は余りない。だが現在、目的あって山へと立ち入る一団が存在した。 (直き時計はさま頑く 憎に鍛へし瞳は強し) 山道を上りつつ、詩の一節を脳裏に浮かべるは『カムパネルラ』堡刀・得伍(BNE002087)。しかし脳裏に浮かぶそれを振り払う。 「さはあれ攀ぢる電塔の 四方に辛夷の花深き、か。でも」 「なんだそれ? なんかインテリっぽいな」 思わず口をついて出る詩節に、首を捻り問いかける『イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004)。得伍はその問いかけには答えることなく、ただ足を進める。 「しかしアークも無茶な仕事を回してくるよな。電波塔を壊せ、だって?」 今から向かう任務のスケールに、うんざりとした風情で口を開くのは『甘党まっする』祭 義弘(BNE000763)だった。 そう、現在彼らが向かっているのは山中の電波塔。周辺の地域へと暴力性を増す電波を送り続ける、エリューションだ。 「携帯の電波を使って汚染を広げるなんて、大問題よ。なんとかしなくちゃ」 まさにその問題の携帯を握り締めながら、覚悟を新たにする『ポプラの雪風』ルア・ホワイト(BNE001372)。まさに現代っ子である彼女も携帯の利用率は非常に高い。だからこそより身近な問題として、危機感を覚えているのだろう。 「制御が効くものならば利用価値もありそうですが、エリューションですからな。崩壊を導く以上、破壊せざるを得ないのでしょうな」 「壊しても弁償はアークがしてくれるのかな? 払えって言われたって、ボクには無理だよこんなの」 冷静に実利を考察する『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)に対し、自らの経済的事情に関わる心配をする『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)。彼らの足取りも口調も、これから行う任務に対しては軽く感じる。余裕の表れなのかもしれない。 ――だが、ある一点を越えた瞬間。世界は一変した。 「これは……くらくらくるかんじだな」 夏栖斗がこめかみを押さえ、ぐりぐりとする。 「これは凄まじい……放って置くのは、確かに危険ですな」 正道も眉間に皺を寄せ、耐えるような様子を見せる。 電波塔が僅かながら視界に入る地域。そのエリアに到達した時、彼らを凄まじい耳鳴りと頭痛が襲った。じわじわと神経を蝕むような違和感。それが場を支配している。 「なるほど……厄介。でも、面白そう」 一方、平然とした風情の『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)のような者もいる。この違和感を感じていない訳ではない、しかし鍛えられた彼女の精神力はこの影響をものともしない。 「この力……一刻の猶予もありません。この危険すぎる力、この父の弓で破壊しないと」 手にした洋弓を強く握り締め、『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207)が遠目に映る電波塔を睨みつける。その目には必ずこの塔を打ち倒そうという強い意志が見て取れた。 塔が近づく。赤錆の浮いた塔が大きくなり、柵が視界に入った。塔を護るように集まる動物達がちらほらと増え始める。その全てが彼らリベリスタ達を警戒の目を持って見つめている。しかしその視線から感じるは、野生の警戒心ではなく。ギラギラとした、無秩序な殺意。 「それじゃ、始めようか。ルアちゃん、気をつけてね」 「大丈夫よ、心配しないで。ちゃんと作戦通りやってみせるから!」 心配そうに声を掛ける悠里に対し元気一杯に応え、ルアは一足先に駆け出した。 「さあ、気を引き締めて行くわよ!」 ●不和の波ありて 「ほーら! こっち、こっち!」 鉄塔の回りを囲む柵、それを何かに操られるように護る動物達。その眼前に無防備にもルアが飛び出してくる。一斉にぎょろりと彼女を睨む、感情無き獣の目、目、目。それに怯むことなく、ルアは携えた袋から一掴み、何かを掴み出す。 「ほらほら! 鬼さんこちら!」 掴み出した何かを動物に向かって投げつけるルア。その何かは豆だった。決して傷つけることはないが、注意を引くために彼女が用意したものだ。 当然それによる被害はないが、動物達は害意と判断する。じりじりとルアに近寄る動物達。 「おっと危ない危ない。ほらこっちだよー!」 再度豆を投げつけ、踵を返してルアは森の奥へと駆け出す。動物達は動く外敵を逃そうとはしない。全てではないが、かなりの数がルアを追いかけ森へと入り込んでいった。 「ルアの姉さんは上手くやってくれたみたいだな」 「そうみたいだねぇ。ボクらも行くよ」 義弘の言葉に悠里が頷く。それを合図にリベリスタ達は一斉に駆け出した。 「――――!」 残った動物達がざわめき、飛び掛かってくる。だが数を減らした動物達は彼らの足を止めることは叶わない。 「あったぞ、こっちに抜け穴だ!」 義弘が素早くフェンスに空いた、進入に十分な穴を発見する。彼の誘導に従い、次々とリベリスタ達は柵の中へと入り込んでいった。 「そっち……お願い」 「あいよ、任せて!」 全員の侵入を確認した天乃と夏栖斗が素早くフェンスの穴にワイヤーを通し、補修を行う。追撃をかける動物達はそのワイヤーを潜る事は叶わず、外で唸り声をあげるのみ。 封鎖作業と同時に他のメンバーはそれぞれ内部のポジションへ散開する。内部にいる敵は電波塔だけではない。そこには塔を護る、なによりも手強い猛獣がいるのだ。 当たりに咆哮が響く。電波塔を守護する巨獣。熊だった獣。それが進入者に今、照準を向けたのだ。 「ほら、掛かってこいよ!」 威勢の良い掛け声を上げ、義弘が熊を挑発する。悠里と二人で熊を引きつけ、各自が展開するまでの時間を稼ごうとした、その時。 ――ぐにゃり。 義弘の視界が歪む。目標としていた熊の姿がぶれ、味方の位置が掴めない。いや……味方が分からない。まずい、敵が側にいるかもしれない。戦わないと。やられる―― ぱぁん! と鋭い音と背中に走る痛みを感じ、義弘は我に返った。視界は戻り、正面に迫る熊の姿をはっきりと捉える。 「気を確かに。祭さんが要でございますので」 正道の声が隣から聞こえる。一瞬、電波の呪縛に囚われかけたその時、正道が引き戻してくれたのだ。 「すまん、助かったぜ」 短く感謝の言葉を返し、義弘は熊に再度向かう。また、同時に向かっていた悠里の冷気を纏う拳が熊を強かに打ち付けた。 「大人しくしててよね!」 されど熊はさほど堪えた様子は見せず、腕を振り抜き悠里を弾き飛ばす。凄まじい膂力にタフネス。一筋縄では行きそうにない相手だ。 彼ら以外もただ黙っていた訳ではない。得伍や英美、その他のアシストとして来ているメンバーもそれぞれ所定の位置に向かう。 得伍が塔へと駆け抜け辿り付く。射線を確保しようと塔へ手を掛けたその時。――空からそれはやってきた。 甲高い奇声を上げつつ、鉄塔の上から降下してくる影。並の鳥を遥かに凌ぐ大きさを持ったその怪鳥は、鋭い爪を構え得伍を餌食にしようと襲い掛かる。 だが、その攻撃は直前に飛来する矢によって防がれる。寸分違わず狙いを定められた矢をギリギリ爪で弾き、再び鳥は空へ舞う。 「鳥のくせになかなかやりますね……」 その矢は英美の放った一矢。危険な一撃を阻止した彼女は、油断する事なく次の矢を番えて鳥に狙いを定める。 「この物語はなかなか危険が大きいな」 持ち前のバランス感覚で鉄塔を登り、狙撃台とする得伍。着々と布陣は整っていく。 「お待たせ! さあ森の熊さんこちらへどうぞ!」 「……行く、よ」 柵の補修を行った夏栖斗と天乃も戦線へと合流する。電波塔、熊、鳥。三つのターゲットを巡る乱戦が、ついに開戦の狼煙を上げた。 ●三つの暴域 戦場に三つの領域が展開された。巨獣を足止めし、戦う者達。空を舞う怪鳥を狙い撃つ者達。そして塔を制覇しようと駆け抜ける者。 天乃は他の全てを無視して真っ直ぐ鉄塔へと駆け抜ける。狙うは一つ、塔の中枢。彼女はそのまま鉄塔へ足を掛け、真っ直ぐ地面と変わらぬように駆け上がっていく。 平地でも疾走すれば二十メートルはこともなく駆け抜けられる。天辺へたどり着くのは一瞬。と思われたその時。 「……!?」 天乃の身体を衝撃が突き抜ける。地上から放たれた一撃が駆け上る天乃の背中を貫いたのだ。それは認識を狂わされた英美の一矢。味方ならば頼りになる一撃だが、自らに向けられると一転、最悪の痛打となる。 ぐらりと傾き、地上へと落下――いや。落ちることはなかった。天乃の並外れたバランス感覚はそのような時でも体勢を崩すことを許さない。咄嗟に鉄塔に捕まり、落下を免れる。 「負けたりは……しない」 浅くない傷を意に介さぬように、天乃は再び鉄塔を駆け上がる。 よく見渡せば、認識を狂わされているのは一人だけではない。そこら中で大なり小なり、同士打ちが発生していた。敵を討つ頼れる一撃が味方へ向けられる。その状況は次々と被害を拡大させていく。 「お前達、気をしっかり持て!」 「すぐ治すからね、しっかりして!」 義弘の両の手より生み出された光が皆の狂った意識を正気へと引き戻し、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)の歌声が傷を和らげ、掻き消して行く。 「くっ、私としたことが……!」 完璧を志す英美が、攪乱されていた事実に唇を噛む。支援があれど、どのエリアも状況は一杯一杯だった。 駆け上がる天乃を感知し、鉄塔が撒き散らす電波を寄り強化する。 「……call object TrapNest」 それを阻止せんと得伍が鉄塔のアンテナへ向けワイヤーを飛ばす。狙いは違わず、アンテナへと掛かり、一瞬電波による耳鳴りが止まる。 ――だが、一瞬。即座に電波の発信が再び始まった。 「あまり効果はない、か」 得伍は電波塔の再始動を確認すると、目標を鳥へと変える。駆け上る天乃を狙う鳥に対し、地上から次々と射撃が行われている。彼もその攻撃に合流した。 「邪魔させて貰うわね」 「そちらよりこちらの方が邪魔ではございませんかな?」 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)の雷撃や正道のワイヤーによる攻撃。怪鳥はそれらの攻撃に対し、苛立ちを増す。怒りに駆られ目標を変えた鳥は急降下し、地上より狙う狙撃手達へと襲い掛かる。 「……やっとついた。お待たせ」 その隙を突いて天乃は塔を上りきり、ワイヤーを括りつけ降ろす。天乃が任された目的は一つ、達成。引き続き、短剣を振るいアンテナへと切りつける。 ぎぃん、と金属のぶつかり合う音が響き、短剣が弾かれた。まがりなりにも金属で仕上げられたその鉄棒は、簡単に断ち切ることは出来ない。単独ではかなりの時間がかかるのを感じる。 一方、熊の相手をするメンバーも苦戦であった。多くの人数で囲み、攻撃を散らしつつ戦ってはいるがその一撃は重く。また、電波の妨害により合間合間に同士討ちも発生している。誰も彼も傷は深く、状況は悪化しつつある。 「お待たせーっ! ヒロインは遅れて登場するのよ!」 その時、ニニギアの手を借り手早く柵を乗り越えてきたルアが熊の戦場へと疾風のように飛び込んできた。即座に高速の連撃を叩き込む。 一撃一撃の重さはあまりない。だが、熊の注意を逸らすには十分だ。 「んじゃ、熊は任せたぜ!」 間隙を突いて夏栖斗が熊から離脱、電波塔へ下げられたワイヤーを掴み一気に登っていく。一人よりは二人。固いならば手数で補えばいい。 しかし怪鳥も黙ってはいない。新たに接近する敵に対し、再度滑空し襲い掛かる。 「まだ足掻くか。縛らせて貰おう」 その鳥へと拘束のワイヤーを繰り出し、妨害を行う得伍。だが重なる阻害に鳥も我慢の限界がきたのだろう。その嘴の目標を得伍に変え、貫く! 「っ……だけど。逃がしはしない」 自らを深々と貫いた怪鳥に対し拘束を掛ける得伍。さすがにこれほどの至近から仕掛けられる技に逃げることも叶わず、共に塔上から墜落する。 「借りは返します! 父の弓は……パーフェクトです!」 転落する両者に対し、狙いを定めた英美。その弓はまさにパーフェクトだった。正確に怪鳥の喉笛を貫き、地に落下する時にはすでに鳥は絶命していた。 ――塔上。 夏栖斗と天乃。戦場を見渡せる最も高い位置に居座る二人は、只管アンテナへ攻撃を加えていた。 「かってーな!」 夏栖斗がぼやく。二人の攻撃にアンテナは目に見えぬ悲鳴を上げる。戦場に響くは金属の軋む音と、激しさを増す電波。意識と音の二種の波。 しかし頑丈とは言えどもその耐久性は無限ではない。延々と叩き込まれる二人の攻撃により、ついにその時がきた。 「いい加減……黙れ」 極限まで研ぎ澄ませた天乃の一閃。それが、打撃により疲労した金属を断ち切った。 ――――! 戦場に響く激しい耳鳴り、それが電波塔の断末魔だった。音にならぬ波を最後に、場に満ちていた重圧が消えうせる。 突如消えうせた支配者たる電波が消えた事により、残された巨獣が戸惑う素振りを見せる。 「隙ありっ!」 その戸惑いを狙い、ルアが連撃を加える。現在の熊にはそれをかわす事は出来ず、大きく体勢を崩した。経験を積みつつあるリベリスタ達が、それを見逃す訳がない。 「さっすが、皆頼りになるね。ボクも……決めるよ!」 大きく振り被った悠里の拳が熊の頭上から振り下ろされ、叩きつけられる。衝撃に地面へと叩きつけられる熊。 「さあこれで……仕舞いだ!」 地に伏した熊に対し、義弘の鉄槌が振り下ろされる。その一撃は一切の遠慮なく、熊の頭部を打ち砕き。ここに三つの戦場は全て集結を迎えた。 ●呼び出し音が鳴らなくて 「うーん、やっぱり入らないね。修理されないと」 たまたまこの電波塔の管理会社の機種だったのだろう。ルアが携帯を見つめ、圏外なのを確認していた。 「まあそこは何とかするだろう。俺達の任務はこれで終わりだ」 「仕方ないことですな。不運だったと思う方が健全でございます」 義弘や正道が彼女のぼやきに相槌を打つ。電波塔の故障として、この地域は復旧までの辛抱を強いられることとなるが。 「もこもこ……」 逃げ散った動物達に未練があるのか、悠里が森の奥を眺めている。動物達も支配から逃れ、元の自然へと帰って行った。 「僕達も帰ろうぜ! 働きすぎでお腹減っちゃったよ」 夏栖斗が疲労感を隠す気もなく、帰還を促す。それには誰も依存はなかった。 「ほら……帰ろう」 「ありがとう。しばしは穏やかな物語で有りたいものだ」 特に深い傷を負った得伍に、天乃が手を貸す。リベリスタ達は帰還する。暴なる空間より、ささやかな日常へ。 破壊された電波塔。やがて彼は老朽化として処理され、新たな鉄塔へと建て替えられる。 そして再び皆の心を繋ぐため、正しく電波を受け取り、送り続けるのだろう。 ――粛々と。ただ、粛々と。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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