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鬼ごっこ、しましょ

●鬼ごっこ、しましょ
 逃げる、逃げる。後ろから、人ならざる者の足音が追いかけてくる。
 恐ろしい。
 振り返りたい。振り返ってはいけない。二つの本能が鬩ぎ合う。
 ああ、誰か助けて。
 その喉は恐怖に潰れ、悲鳴すらも絞り出せない。
 もう足は限界を迎えていた。逃げなきゃ。逃げなきゃ。殺される。
「あっ……!」
 もつれる。転ぶ。掴まれた細い腕に血が滲む。痛い。痛い。痛い。
 不意にその力が緩んだ。逃げるなら今しかない。
「いや! いやあ! 来ないでっ!」
 立ち上がって、また走る。すんでのところで、『鬼』に捕まるところだった。
「ヒャハハハハハッ! 待テ、待テェィッ!」
 逃げ回る、走り回る。少しずつ、消耗してきていた。
(あの角を曲がれば……!)
 逃げ切れば、きっと助かる。あそこに隠れれば、きっと――。
 曲がった先で見たものは、もう一匹の鬼の姿だった。
「ツカマエタ」
 ぐしゃり、と自分の体がひしゃげる音を、聞いたような気がした。

「来るなっ! こっちへ来るなぁっ!」
 俊敏な青い鬼に追われる人。彼もまた、逃亡劇の最中に傷を負わされていた。無意味な抵抗と分かっていても、そうしないではいられない。足下の小石を掴み、青鬼へ向かって思い切り投げる。
 石をぶつけられた鬼の、目の色が変わった。
「貴様……」
 途端に青鬼はその男を執拗に追い回し始めた。逆上した青鬼の速さは異常に速く、とても逃げ仰せるものではなかった。じわりじわりといたぶられ、息絶えていく。
 もう一人、鬼への抵抗を試みる者がいた。
「くそっ! この野郎!」
 持っていたナイフで、赤鬼へ切りかかる。しかし、赤鬼はびくともしない。反撃をして来た小さな存在に一瞥をくれた後、その体を叩き潰した。
「捕マエタラ、殺ス。ソレガ『鬼ゴッコ』ノルールダ」

 そうして、暫くの後。
 穏やかな風が柳を揺らす美しい白壁の街は、人々の血で塗り尽くされていた。

●鬼退治
「岡山県において、鬼のような姿をしたアザーバイドが確認されました」
 しかめっ面をして、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がリベリスタ達に語る。
「数は二体。赤鬼と青鬼、です」
 響きだけならさながら岡山の地に古くからある伝承のようだったが、無論現代に鬼などいるはずがない。この鬼達、どこから現れたかはっきりしないようなのだ。
「鬼達は『鬼ごっこ』を求めています」
 赤鬼と青鬼。和泉が見た二体は、対称的な特徴を持っていた。
 青鬼は非常に足が速く、逃げる相手を追いかけ回すことを楽しんでいる風だった。鬼にしては力が弱いものの、その驚異的な速さで相手をいたぶるように追いかける姿を和泉は見ていた。
「青鬼は低能かつ残忍です。先回りや誘導をするといった細工は見られませんでした」
 青鬼にとって、自分の身を守るということは念頭にない。人間風情が、自分ごときに反撃できるとすら思っていないのだろう。抵抗を受けると逆上し、執拗に付け回すようだった。
「もう片方……赤鬼の方は足が遅いですが、鎧を纏わぬ一般の方を叩き潰す……程の腕力を備えています」
 やや言い難そうに口ごもりながら、和泉は続ける。
「こちらも知性はありません。青鬼は随分とハイテンションでしたが、こちらは寡黙なように見受けられました」
 赤鬼は青鬼に比べて鈍重だが腕っ節は強い。足が遅いため地道に探して回り、結果的には青鬼から逃げて来た相手を叩き潰していたようだった。
「耐久力もそこそこあるようです。少々の攻撃はものともしない、と言うより、気づきもしないでしょう」
 頑丈な肉体を持つ厄介な鬼だったが、和泉の見た中で、崩壊した建物の瓦礫に足を取られ、ずんと音を立てて横転する様子が見て取れていた。
「推測に過ぎませんが、赤鬼は足下が弱点なのかも知れません」

 場所は観光地の裏手に当たる。二匹の鬼は丑三つ時に現れて徘徊を始めるが、その時間帯に駆けつければまだ一般人と接触する前に倒すことができるかも知れない。夜半ということで当然視界も悪く、建物もまばらながら存在している。
 鬼ごっこという彼らの用意したゲームに、リベリスタ達は乗るしかないのだ。
「説得など無意味でしょう。必ず、屠るべき相手です」
 和泉は意志のこもった目で、リベリスタ達を見つめた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:綺麗  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月23日(木)22:55
 こんにちは、綺麗です。
場所は岡山県のある観光地の裏手。時間は丑三つ時。
皆様には、現代に突如現れた『鬼』を討伐して頂きます。
鬼達は必ず鬼ごっこの形を取って来ます。
捕まれば即ち死。それが彼らのルールです。

人通りはありません。結界を張れば万全でしょう。
夜であり、建物もいくつかあるため視界は悪いです。留意して下さい。

●鬼
 知性が低く、鬼ごっこにあまり作戦らしい作戦はありません。
 素手ですが鬼らしく怪力を持ちます。
 青鬼の速さは重装甲では追いつけず、赤鬼の力は軽装甲では耐え難いものです。
 速さと装甲のバランスをよく考えて対処して下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ソードミラージュ
★MVP
アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
ソードミラージュ
ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)
ソードミラージュ
黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)
ホーリーメイガス
護堂 陽斗(BNE003398)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
ダークナイト
レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)

●草木も眠る丑三つ時
 しんと眠った冬の街に、リベリスタ達の靴音が響く。少し裏路地に入れば、頼りなげな街灯はところどころ明滅して、夜の空気に不安を加える。
 刻は丑三つ時。待つは鬼。来るべきその時に備えて、夜の闇よりも黒いドレスを纏った、『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)は、自分達の戦場にふさわしい場所を探していた。
「ここに誘い込んでやりましょう」
 見上げた街灯は少々心許ないけれど、大丈夫。手に持った懐中電灯が、幾分散らかって不安定な足場を照らした。リベリスタ達はそれぞれ暗がりに適した装備を持っていたし、何より彼らには足場の悪さを克服する算段があった。
「まったく、趣味の悪い鬼ごっこがあったものね」
 依頼の折に聞かされた惨劇を思い、レイチェルはそう言って軽く息を吐いた。
「僕は少女だからそんな悪趣味は遠慮したいものだが」
 そうは言っていられないのだろう、と14歳の少女は言う。おさげ髪の『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が印を結ぶや否や結界が広がり、リベリスタ達に守りの加護を施していく。
「皆さん、準備はいいですか?」
 人払いを終えた『LawfulChaticAge』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が、入念に作戦を繰り返す。黒に身を包んだ彼女もまた少女と呼んで差し支えない年頃だったが、纏う雰囲気は努めて大人びていた。
「鬼相手に本当に鬼ごっこをするとは、貴重な体験というべきでしょうか、何ともはや……」
 彼女達の父親程の年齢だろうか。普段は何より家庭を大切に生きる『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)もまた、この鬼ごっこの参加者の一人だ。対するは赤鬼に青鬼。さながらおとぎ話のように対照的なそれらと、これから戦うことになるのだ。
「鬼か……相手はまさしく怪物ですね。だけど負けるわけには行きません」
 犠牲者を出すわけにはいかないんだ。そう心に誓い、『剣を捨てし者』護堂 陽斗(BNE003398)は深く息を吸った。
「本物の鬼と鬼ごっことか、どんな皮肉やねん」
『√3』一条・玄弥(BNE003422)は、いつもの彼らしい含み笑いを浮かべた。
「しやけど阿呆そうやから、さっさっと始末しましょ」
 幸か不幸か、聞いた話ではあまり鬼達に知性は見受けられない。不意に、彼の目が鋭く光って闇の向こうを捉えた。
「あっちからきよる感じするわ」
「おーけー」
「場所みうしなわんようにGPS情報送るさかいよろしゅうの」
 合流地点の打ち合わせも抜かりない。玄弥の声に飄々として答えたのは『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)。
「鬼ごっこ、ね……」
 言葉を転がして指先でひょいと小石を拾い上げると、彼は笑みを浮かべる。
「かははっ、この俺様に鬼ごっこで挑もうたあ上等だぜ」
 最速伝説を築くためにこの地を訪れた彼にとって、鬼ごっことは血が騒ぐ。自身に満ち溢れたその表情は、リベリスタ達に頼もしささえ感じさせた。
「遊びは、みんなで楽しくしなくちゃ。そうでしょう?」
 そんなアッシュを見て、ふわりと述べたのは『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)。腰に留めた懐中電灯の光が、彼女の影を作り、揺らす。
「こんな夜遊びも、たまにはいいかもしれないわ。さあさ、鬼ごっこを、はじめましょう」
 そんな彼女の言葉にちょうど呼応するかのように、遠くない場所の夜空が避けた。
 命がけの鬼ごっこが、今、始まる――

●鬼さん、こちら
 程なくして、アッシュの目はその巨体を捉えた。家々を超えてまで見通すことはできなくとも、透視能力を持ち合わせていたことは彼にとって有利に働く。全神経を速く走ることにのみ集中させ、身体もそれに適応していく。わざとその巨躯の前に躍り出るようにして、アッシュは挑発的に声を張り上げた。
「よお、てめえが鬼ごっこの“鬼”か? 随分と駿足に自信があるみてえじゃねえか」
 挑戦的な声の主の方へ、青鬼がぎろりと目玉を向ける。
「小癪ナ。矮小ナ人間風情ガ、我々ニ敵ウトデモ?」
 鬼は豪快に嘲り笑う。足下に立つ小さく無力なその生き物に劣るなどとは露程も思っていないような口ぶりだった。
 アッシュはそれにたじろぐ様子もなく、口角を上げて高らかに言い返した。
「だったら、競ろうぜ青鬼。どっちが速いか、よ!」
 小石を放り投げ、挑発的に舌を出す。
「かかって来いよウスノロ! 鬼さんこちら手の鳴る方へ、なんてなー!」
 ぱんと手を叩き、言うが早いか地を蹴り駆け出す。速い、速い。目を見張るような速度で飛び出した灰色の狐は、初動でぐんと距離を開ける。
「何ヲ……!?」
 なるほど、ただ者ではない。そう見て取った青鬼の方もスイッチが入ったのか、大きさに見合わぬ加速を始める。
(とくと見せてやるよ、雷帝様の最速をな!)

「来よったでぇ」
 玄弥の指した方向には、のそり、のそりと歩を進める赤鬼があった。
「鬼に捕まらないよう、ひらりひらりと避けられるかも知れません」
「全力疾走する時は地に足をつけましょう」
 京一と陽斗の二人が手際よく翼の加護を施せば、足場の不利も緩和される。ゆっくりと歩を進めて来た赤鬼に、初撃を与えたのは玄弥だった。黒き閃光がその巨体を容易に捉え、穿つ。建物の陰に隠れて背後を取ったその攻撃に、赤鬼は視線を巡らせる。
「おっと赤いやつはおいちゃんらが相手しちゃろ」
 ぱち、ぱち。リベリスタ達が手を打つ。
「おにさんこちら、手のなるほうへ、だ」
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
 雷音が、陽斗が、誘う。ずしり、ずしりと足音を響かせながら、赤鬼はその誘導に従った。
「こちらです……!」
 陽斗が事前にロープを張っておいた場所へと、走る。建物の陰からちくちくと放たれる玄弥の魔閃光は、鈍重な鬼を少しずつ苛立たせ、リベリスタ達を皆押し潰さんとする意思を増していった。
「鬼のパンツはばっちパンツ~汚いぞ~破れてるぞ~変態だ~。死ね」
「……コノ、下衆ナ……!」
 赤鬼の纏っていた雰囲気ががらりと変わり、声が怒気を孕んだものへと変じた。
「貴様……二度ト其ノ口、開ケヌヨウニシテクレヨウ」
 大きな拳を振り下ろそうとしたその時——
 赤い拳は玄弥に届かず、ずんと土煙を立てて赤鬼の巨体が沈んだ。陽斗の張っておいたロープに、足を取られたのだ。
(追いかけっこですか。なかなか愛嬌があるといえなくもないですが――)
「倒させていただきます!」
 先陣を切って相手の懐に飛び込んだのは紗理だった。軽く上下に跳ね、一気に踏み込む。
「この剣閃は虚実どちらか……!」
 ひらり、ひらりと速度に乗せた剣戟を幾度となく繰り返し、相手の身体に刻んでいく。
(殲滅を行うのが、私の仕事です)
 元よりこの程度で倒せるなどとは思っていない。この場には自分だけではない。戦線を共にするリベリスタ達がいるのだ。間髪入れずに麗しい吸血鬼の少女が、幻惑の剣を振るう。
「ぼくが知っている鬼ごっこのルールは、捕まったら鬼が交代だったはずだわ」
 戦いの場には不相応にふんわりとした唇に白魚の指先を添え、ポルカは首を傾げる。
「本物の鬼とひととでは、鬼ごっこのルールが、違うのね」
「斯ク弱キ貴様ラノ取リ決メナド、我ラニハ無ト同ジ」
 ぱらぱらと瓦礫を落としながら、ようやく赤鬼が立ち上がる。その大きく飛び出た目に睨まれても、涼しい顔でポルカは続けた。
「さて、それで。提案があるの」
 ここは人の世界。ぼくに翻弄されるのは、あなた。
「ひとのルールに乗っ取って、鬼、交代しましょう? 逃げてばかりじゃ、つまらないもの」
 リベリスタ達の攻勢は続く。刀儀陣を纏った雷音が作り出した式神の鴉が、夜を切り裂いて鬼を射抜く。鈍重な赤鬼に対して、速度の面では圧倒的にこちらが先手を取っていた。ならばと彼女も攻撃の手を緩めない。
「桃太郎という柄でもないが、鬼は倒されるものだ」
 この地の伝承のように。人の物語では、鬼は滅すべきなのだ。彼らが屠るべきはこの一体のみならず。持久戦はあまり得策とは言えないだろう。いつの間にか京一は仮面を身につけ、その下から覗く口元からも表情はほとんど読み取れなかった。呪印が幾重にも展開されるが、それは思い通り敵を束縛するに至らない。ならばと京一は次の手を打つ。一度で駄目なら、二度目は集中を高めれば良い。静かに彼は、次の機を待つ。
「闇よ、喰らえ!」
 レイチェルの生命力が禍々しい瘴気へと変じ、赤鬼へと襲いかかる。微かに命が削り取られる気配を感じるが、この程度、レイチェルは物ともしない。
「私達がただ追い立てられ、狩られる獲物では無い事……教えてやらないといけないわ」
 気味の悪い沈黙を保っていた赤鬼が、ぶんとその太い腕を振るった。瞳には静かな憤怒の色が灯り、対峙していた者達の幾人かを吹き飛ばす。
「玄弥さん、そちらのカバーを……!」
 咄嗟に紗理が叫び、呼応して玄弥がポルカとレイチェルとの身体を後ろに控える陽斗に引き渡す。
「やれやれ、今時肉食系じゃモテやせんぜ?」
 大仰な溜息を吐いてみせ、玄弥が鬼を一瞥する。まったく洒落にならない剛力だ。さりげなく回復手を庇うように立ち、そして前線からも距離を置いていたが故に大事には至らなかった。速さを捨てた分、策略で補う。
「大丈夫ですか」
「一旦下がるのだ」
 陽斗に続き、手で制する構えを見せながら雷音が二人の治癒に加わる。争いを好まない陽斗の優しい声に応えて、清らかなる存在が福音を響かせる。落ち着いて……大丈夫。彼女の癒しの式符も加われば、また戦える程に回復させることはできた。しかし、未だ油断はならない。
「消えて、ください……!」
 二人を下がらせた隙を補わなくては。紗理は再び絶え間ない剣戟を降らせる。先程と違うのは、それが全て幻などではなく、本物だということ。
(吸血って、キライなの。でもまだ終わりに出来ないから、)
「……ん、ぅ。美味しくない」
 ほんの少し、端正な顔が歪む。ふわりと飛んだポルカが赤鬼に襲いかかる光景は、不思議に神秘的だった。
「もうすこし、ぼくと遊んでちょうだい?」
 戦況は拮抗しているかに見えた。仮面の京一の幾度目かの呪縛が、赤鬼の足を止めるまでは。こうなってしまえば、主導権はリベリスタ達のもの。毒が麻痺が鬼を蝕み、玄弥から放たれた暗黒の衝動が収束し、赤鬼を捉える。
「少し早いが鬼は外、福は内でさぁ」
 大きな振動と共に赤鬼が地に沈み、その土煙が消えた頃。
「よう、待たせたな!」
 快活なアッシュの声が戻る。そしてその後ろに、青鬼がいた。

●物語の結末
「鬼が捕まえたら殺すのが鬼ごっこ。だったらよ……捕まえられなかったら殺されるべきだよな!」
 一度も青鬼に捕まることなく駆け抜けて来たアッシュは、疲れた様子もなければ傷一つなかった。他の者達が次の戦いに備える時間は、彼が与えてくれた。ぐんと加速し、青鬼に向き直る。
(俺様がいる限り、誰一人指一本触れさせねえ)
 対等?否、それ以上。
 スピ―ドに乗せたアッシュの『痛みの王』が、『迅雷』が、残像を描くより速く速く、空気を裂いて青鬼へ降り注ぐ。
「ガァァァァァッ!!」
 苛立ちの滲む拳を青鬼が振るうが、それはアッシュの頬を掠めることすらままならなかった。
「遅ェ! 遅ェ! 遅ェ!!」
 二度三度、続けざまにアッシュは鬼へのペナルティを下していく。初めは青鬼を翻弄していた彼の澱みない連撃は、次第に一方的なものへと変じていた。雷が爆ぜたように、ひゅん、ひゅんと軽快な音が鳴り、飛ぶような彼の速度が頂点を迎えた。
「そんな速度で、そんな執念で、この俺様に追い着けるか!」
 至近距離で攻撃の手を決して緩めないアッシュ。流れは完全に彼の、リベリスタ達のものだった。仲間の自分達ですら息を呑むアッシュの猛攻を見ていた陽斗が警告を発した。そう、これまで追う側だった鬼が、今初めて追われる側へと転じたのだ。
(ここで逃がしたら何時か誰かが殺されてしまう)
 守りたい。彼の強い意志が十字の光となって鬼の背を打った。それは不殺の攻撃にして、怒りを齎す一撃。足止めには十分過ぎた。
「行かせない。ここで仕留めます!」
 不意に鬼の手がポルカの細い体へと伸びた。
「ポルカさんっ!」
 アッシュに続けて追撃を加えようとしていた紗理の手が止まる。ポルカを盾にするかのような姿勢に、そうせざるを得ないと咄嗟に判断したのだ。
「この、卑劣な……!」
 紗理は小さく歯噛みする。己の若さを呪った――しかし、それも杞憂だったとすぐに気づかされる。
「……乱暴はおよしになって?」
 背中の小さな羽がふわりと羽ばたいて、青鬼から距離を取る。いつもの青鬼なら捉えることができただろうが、アッシュの素早い猛攻を相手にしながら他の者にまで注意を向けることは敵わない。
「青鬼さんの方が、鬼ごっこらしいわよ、ね」
 でも、もう逃げる必要もないかしら。そろそろ本当に、終わりにしましょう?
「あなたも、ずっと遊び続けていたら疲れちゃうでしょう?」
 我が身に迫るポルカの幻影剣を背に、青鬼は再び強硬突破を試みる。
「この目から逃れられるとでも?」
 レイチェルの赤い左目から閃光が放たれ、京一の呪縛が飛ぶ。もう逃げられない。
「最後には鬼は人に狩られるものと相場は決まっているのよ」
「青鬼様もおしまいでやんすなぁ」
 ぐるりと見渡して逃げ場を探す青鬼の前に、下卑た笑いを浮かべた玄弥が立ちはだかった。
「君たちは誰に呼ばれたのかな? どうしてここにいるのかわかるかい?」
「我等ハ遂ニ自由ヲ取リ戻シタノダ! 貴様等ニ邪魔ハサセン! 退ケェ!」
 問いかける雷音を押しのけようとする鬼に、最後の鉄槌が下された。
「どこへ行くんだよ」
 つと鬼の顔の真ん前に現れたアッシュが、巨体にナイフを突き立てた。
「雷より速く走れるようになってから、出直しやがれェ――!」

 陽斗から治療を受けた面々がそこを離れる頃、既に空は白みかけていた。
「結局、奴らの出所はつかめなかったわね」
 レイチェルの言葉に、雷音が頷く。昨今のこの鬼退治の連続は不穏だ。
「なにか禍々しいことが起きる前兆ではないだろうか?」
 動きを見せるフィクサード達との関わりも、もしかするとあるかも知れない。懸念は尽きなかったが、今は一先ず休息の時だった。おぼろげな明かりを頼りに、雷音は養父にメールを打つ。
『鬼ごっこ、本当の鬼とやっちゃう場合はなんというのでしょうか?』
「夜が明けるわ……」
 建物の隙間から漏れる光が、レイチェル達を優しく包み込む。ついでに散策していくのも良いかも知れない。鬼の手がかりが掴めなかったのは口惜しいが――と思っていたレイチェルの目に、信じられない光景が飛び込んで来た。
「ちょ、ちょっとそれ」
「マニア垂涎の一品。腐女子に適当な妄想煽ることいえばええ値でかってくれるやろ」
 くけけっと笑う玄弥の手に握られていたのは、そう。
「鬼のパンツでさぁ」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
大変お待たせして、参加していただいた皆様にはご迷惑をお掛けしました。

役割分担が上手くできていたと思います。
一歩間違えば力で押し負け、回復が追いつかない可能性もありましたが、
スピードに溢れた方が多かったのも、強化・拘束の手段があったのも、勝ちに繋がったと言えるでしょう。

MVPは戦場を稲妻の如く駆け抜けた貴方に。

ご参加ありがとうございました!