●挿話・昔話『桃太郎』 昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある時おばあさんが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこと大きな桃が流れてきました。 おばあさんが桃を持って帰り割ると、中から元気な赤ん坊が出てきました。 桃太郎と名づけられた子供はすくすくと育ち、青年になった時に言いました。 「おじいさん、おばあさん。私は鬼退治に行こうと思います」 餞別として黍団子を持たされた桃太郎は道中で犬、雉、猿をお供にして鬼ヶ島へ辿り着きました。 そして桃太郎は見事に鬼を退治し、宝物を持ち帰りましたとさ。 めでたしめでたし。 ●鬼怨む 「――とまあ、めでたくもなし。ここがあの憎き男が奉られてる神社ってわけよ」 岡山県。そこには古い伝承がいくつか残っており、この神社もまたその一つである。 吉備津彦神社。そこにはその名の通り、吉備津彦命と呼ばれる人物が奉られている。 彼こそ、桃太郎のモデルと呼ばれた人物であり、実際にそれに順ずる物語もあるのだが…… 今現在、その神聖なる境内に集っているのは――鬼、である。 大小様々な鬼。頭部より伸びる角に人にあらざる巨体、そしてその体躯から放たれる暴力的な空気。 まごうことなくその全てが、日本の伝承によく残される鬼の姿であった。 「生意気だろ? 人間の分際で神と同じように奉られている。脆弱な人間が、だ」 キシシ、と歯から空気が抜けるような奇妙な笑いをあげつつ同行の鬼達に語るのは、その中でも特に奇怪な外見をした者であった。 巨体を誇る鬼の中ではやや小柄……とはいえ、並の人間より頭一つは高い長身ではあるが、猫背のせいで若干低く見える。その身体は細く引き締まっており、額には一本の角。 その身は貫頭衣に包まれ、腰には柄頭が環状になった太刀を下げ。要所要所は漆で仕上げられた鱗状の鎧で保護されている。 そして何より特徴的なのは、全身に施された刺青である。 文様のような、呪文のような奇妙な幾何学模様は彼の肉体を覆い、他の鬼とは一線を隔した雰囲気を醸し出している。 その鬼の名は禍鬼(まがき)という。人を呪い人へと祟る、祟り鬼。それが彼である。 「さあ同胞諸君。ささやかな八つ当たりを始めようじゃないか! 思う存分、あの怨敵の社を破壊してやろう!」 禍鬼が高らかに呼びかけると、集った鬼達が一斉に雄叫びをあげる。 それぞれが手にした凶器が振るわれ、当たりのものを手当たり次第に破壊し始める。 灯篭が倒れ、石畳が砕ける。鳥居が折れ、手水小屋がめきめきと音を立てて崩れる。 鬼達が持てる腕力を思う存分振るい、自らの受けた屈辱を晴らすように暴れ、壊した。 ――その中、禍鬼だけは破壊に加わってはいなかった。 確かに彼にも怨敵に対する怨みはある。むしろ祟る事を存在意義とする祟り鬼である彼にとって、復讐は何よりも甘美な行為であった。 だが、彼の怨みはこのようなちっぽけな破壊で収まるものではない。より大きな復讐の為に彼は今、ここに来たのだ。同じく頸木より解き放たれた同胞達を焚きつけ、ここまで来たのは単純な暴力で気分を晴らしにきたのではない。 「より大きな、一世一代の復讐を、ってね。キシシシシ……」 禍鬼は暴れる同胞を尻目に向かう。本殿の中へと。 ●ブリーフィングルーム アークのブリーフィングルーム。召集を受けてリベリスタ達はそこへと集まっていた。 今回は珍しくも『戦略指令室長』時村 沙織(nBNE000500)直々である。 彼が直接リベリスタへと召集をかける時は、総じて何らか特殊な事例が起きたことが多い。今回もまた、そういった事例の一つなのだろう。 「よぉ、来たか。さっそくだけれど本題といくかね」 沙織は早々にリベリスタ達へと話を開始する。 「最近西日本で頻発してる事件については把握してるか? そう、『鬼』が多発してる件だ」 歪夜の傷跡も冷めやらぬ現在、西日本――岡山県を中心に多数のアザーバイド事件が発生している。それらに共通していたのは、全てが伝承にある『鬼』に順ずる固体であるということだ。 関連は掴めはしなかったが、妙な共通点のあるその事例に対してアークはリベリスタを投入し、解決を行ってきていた。 「連中が何らかのアザーバイドで、これまでは休眠状態にあった。それは確実なんだがね。 今回はちょっと特殊な個体を万華鏡が感知したんだ。 どうやら今回の奴は、これまでのただ暴れていた連中とは違って何かを企んでいるように見える。また、強力な個体だとね」 その言葉にリベリスタ達がざわつく。 今まででもそれなりに強力な個体がいた。だが、それより強力だと万華鏡が補足したというのだ。 「というわけで、さっそくだけどそいつらの討伐、また企みを調べてきてくれよ。少々三高平よりは遠くなってしまうがね」 例え遠かろうと、強敵であろうとも倒すことがリベリスタの務め。 さっそく向かおうと踵を返すリベリスタ達へ――沙織が再度声をかけた。 「そうそう、今回の件だが。アークとは別のアプローチで調査していたリベリスタが居る。 かなりの有名人――と言っても、彼女そのものじゃないが――だぜ」 突然のその言葉に、リベリスタ達の足が止まった。 「アシュレイとも対戦経験がある、ナイトメアダウンの際にも大暴れしたって記録が残っている『あの』クェーサー夫妻、そこの一粒種だ。名前は深春・クェーサーって言う」 クェーサー夫妻。ハインツ・クェーサーと深雪・クェーサー。 ナイトメアダウンの際に正面から彼のミラーミスとぶつかり合い、最後まで立ち――そして帰ってこなかった、と言われるリベリスタである。 「当然アーク発足の際にも彼女に声はかけたんだが……すげなく振られた経緯があるんだがね。 兎に角、その深春・クェーサー率いる部隊がこの特殊な個体の情報をキャッチして動き出しているらしい」 アークとアザーバイドとクェーサー。三つの勢力が今回の戦いでは入り乱れることになる、という事らしい。 「深春はアークへの協力は拒否したが……まあ、彼女もリベリスタだから。敵の敵は味方で連携は出来るかもしれない。尤も状況次第になると思うがね」 どうやら今回の一見は、想定以上に入り組んだことになりそうだ。 やや重い気持ちを抱えつつも、リベリスタは発つ事となる。 西の地、中国地方。岡山県へ。 ●クェーサー ――境内に破壊音が響く。 思う存分に人外の者が暴れまわる吉備津彦神社。そこに今、ある一団が辿り着いた。 その一団の先頭に立つのは一人の少女。ブレザーのような服装の上にケープを羽織り、耳にはヘッドフォンが装着されて少女だけにサウンドを届けている。 「――伝承通りに野蛮極まりない」 暴威が振るわれる神社を前に、少女がそっとヘッドフォンを外し、呟いた。 その声は抑揚は控えめに、だが騒音響くその場においても澄んだ響きで伝わった。 「やれやれ、ここまで来ちまった。そして相手は鬼ときた。怖い怖い」 少女の後ろに立つ、白いスーツに身を包み、頭には純白のパナマ帽。目つきが細く鋭い、神経質そうな男がおどけた調子で嘯いた。 「恐れは関係ない。貴方には十分な報酬を約束している、それに見合うだけ命を賭けて貰う」 白スーツの男にむべもなく少女は言う。その言葉に別の男、ひょろりとした調子の男が無言で頷いた。 「旦那は実直なことで。俺はただでさえここにいるのは気が進まないんだぜ? しかも寡兵で。何のためにわざわざ海外まで高飛びしてたんだか」 日本国内で事件を起こし、ほとぼり冷ましに逃亡していた経歴を持つ白スーツの男はあくまで惚ける。それが彼なりのスタイルなのだろう。 その様子に他の同行者達から笑いが浮かぶ。 「何、名門たる俺がいるんだ。大船に乗ったつもりでいればいいさ」 「しっかり連携をとっていけば大丈夫ですよ。深春さんの指揮に従っていれば」 板金鎧を着た青年が、西洋の錫を手にした女性が。白スーツの男をからかうように、宥めるように口を開く。 「少数でも実力が確かな者ばかりを集めたつもり。そしてそれらを最大限に生かすために私がいる」 少女の口調は淡々とすれども、その言葉には高い自信と自負が込められている。白スーツの男も彼女の事は信用しているのだ。自分より高い指揮官としての能力を持つ彼女のことは。 ただ、怖気づいたかのようなその態度もまた味方の緊張を解す為。もしくは自らの緊張を解すための行為なのだ。 「オーケーオーケー、信頼してますよ。報酬分はきっちり働きますって。 それに――期待してるぜ? 最高の指揮ってやつを」 細い目をさらに細く鋭く、値踏みするように白スーツの男は先頭に立つ少女へと向ける。 その不躾な目線に対し、少女は一瞥もせずに答えた。 「戯け。クェーサーの名に敗北は無い」 一団は進軍する、渦中となった神社の境内へと。 ――こうして三つの運命は交錯する。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月10日(金)23:51 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●ARK & Qursar ざり、と踏みしめる足が砂交じりの土を鳴らす。 歴史ある神社である吉備津彦神社。その名の通り吉備津彦が奉られたこの神社は荘厳な外観で観光地としても価値のある建造物である。 だが、今現在その場所から響くは破壊音。多数の鬼が押し寄せ、腹いせとばかりに片っ端から構造物を破壊しているのだ。 土を鳴らした足音の主、社を前に待機するは七人の人物。 西洋の甲冑に身を包んだ一人の男。 大陸風の導師服に身を包んだ女性。 西欧の司祭服に身を包み、錫杖を携えた女性。 部分鎧を身に着け、巨大な盾と槍を構えた民族衣装の少女。 白いスーツに二丁の軽機関銃。目つきの鋭い伊達男。 ひょろりとした長身ながらも筋肉質な肉体をスーツに包んだ男性。 そしてケープを羽織りブレザーのような服装に、首へとかけたヘッドフォンの少女。 すでに臨戦態勢を整え、好き放題に暴れまわる鬼達へと襲撃をしかけんと、彼女達が踏み出そうとした時。 『お待ちください』 ――声を掛ける者達がその場に辿り着く。 かけられた声は思念。ケープの少女にのみ伝えられたその音声に、彼女は足を止める。同時にハンドサインを送り、一団はそれに従い足を止めた。 思念の主は、一人の少女。隻腕に輝く金髪。隻眼を覆う眼帯が彼女の外見をアクセントとして引き立てる。『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は思念によってコンタクトを試みる。 『こちらアークの戦場ヶ原です。万華鏡の情報をお伝えします』 後より辿り着いたアークのリベリスタ達は、彼女達への接触を試みようとしていた。その為の手札は、予知の内容である。 アークの誇る万華鏡は、最高の精度を誇る予知装置。他のリベリスタにとっては万華鏡の紡ぎだす情報は貴重な物である、という判断からだ。 「……口頭で。私達は念話の類を得手とする者はいない」 振り返った少女はそう告げる。同様に振り向いた一団のうち、白スーツの男が肩を竦めて口を開いた。 「さすがアーク、ここの事件も察知済みってやつかね。万華鏡、相変わらず凄い性能だねえ」 フォックストロット。以前、相模の蝮と呼ばれる一連の事件の際にアークと交戦したフィクサードである。その為、彼は嫌というほどに知っている。アークの誇る万華鏡の性能を、身に染みて。 「私達はアークのリベリスタです。深春・クェーサーさん。万華鏡の予知によって私達はここに来ました」 小鳥遊・茉莉(BNE002647)が率先して口を開く。情報の出し惜しみはしない。望むのは鬼を討つにあたっての共闘。もしくは障害とならぬ不干渉である。その為には手札を早めに吐き出すことが最良と考えたが故に。 深春と呼ばれた少女はアークのリベリスタ達を値踏みするように見る。睨み付けるように、品定めを行うように。実際に彼女は分析しているのだろう、彼らの実力を。 「万華鏡の存在は知っている。その情報を私達に流すことで、貴方々の得る利益は?」 「鬼が多すぎるから……手伝わせて欲しいかな」 断定的に、彼女は事実のみを要求する。対して『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は願望を口にする。 「それは貴方々の利益ではない。当然、私達の利益でもない」 「放っておけば『日常』が多く失われるかもしれん」 深春の言葉に『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が口を開く。 全ての者が日常を護ることを望んでいるとは言えないだろう。だが、鬼を倒すという目的に関してはこの場にいるリベリスタ、全員に共通している目的である。 「俺にはそれを見て見ぬ振りは出来ん……頼む、力を貸してくれ、クェーサー!」 だからこそアークのリベリスタ達は望んだのだ。共闘という道を。 「『正義の座』の新城、か。こいつの実力は確かだよ、クェーサーのお嬢さん。以前に蝮の旦那が抑え切られたことがあったから、よく知っているさ」 フォックストロットが口を挟んだ。 「それに『戦姫』の戦場ヶ原。こっちは確か、バランス馬鹿のあいつが追い返されたこともあったっけな。お嬢さん、俺が保障してやるよ。アークは役に立つぜ?」 さらに一瞥し、深春へと自らの知っていることを伝える。同様に長身の男――青大将が頷く。実際に敵として相対したことがあるからこそ、保障するのだ。アークの実力を。 伊達男に促され、しばし思考した後に深春は促す。アークへ手土産の提出を。万華鏡が予知したという、相手の情報を。 ――わずかな時間で取引は行われる。 相手の物量、性質、挙動。そういったデータは全て深春へと渡され、リソースと変えられていく。 「――即席の連携がさほどの効果を発揮するか、それを適えられるだけの実力があるかは知らない。だけれど」 再び踵を返し、深春は進軍する。神社の境内、鬼の荒れ狂う戦場へと。 「従う気があるならば、運用してみせよう。クェーサーの名に敗北はないのだから」 アークとクェーサー。二つの勢力が一時的にも手を結び、進む。 共通する目的は鬼の撃破。 (クェーサー……か。我とて名前くらいは聞いた事がある) クェーサーという名は日本におけるリベリスタの活動において認知度のある名である。 ナイトメアダウンにおいて降臨したミラーミスと戦い続けたリベリスタの中に、その名を持つ者がいたからである。 「一つ手綱を任せてみるのも一興」 不敵なる馬上の男。『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)は期待する。自らを最大限に運用出来る存在であるかを期待する。 ――かくして幕はここに開く。 ●現代絵巻・鬼退治 境内の中は散々たる状態であった。 立派であった門構えは砕け、無残に穴を晒している。巨大な石灯篭は引き倒され地面に横たわり、わずかながらの石畳も砕けて割れ、浮き上がっている。 広々とした敷地内には多数の鬼が集い、思い思いに破壊を振りまいていた。 柱に刃が叩きつけられ、石壁が打ち砕かれる。下卑た笑いと破壊に酔った矯正が響き渡り、神社を見る影も無くしていた。 「ハッハァ! ザマア見ろ、吉備津彦が!」 「積年の怨みは思う存分叩きつけてやるぜえ!」 思うままに破壊を楽しむ鬼の集団。その饗宴を引き裂くのは一つの異質な音であった。 それは硬いものが地面に叩きつけられる音。二つでは少なすぎるし三つでも足りない。四足の動物が立てる音。蹄が響かせる走行音。 「……あん?」 怪訝そうな表情を浮かべる鬼達。そこに迫るのは一頭の騎馬。馬上に跨るは刃紅郎。 「化け物の分際で王の前に経ち、神殿を荒らすか!」 「な、なんだ貴様!?」 疾風のように駆け抜ける騎馬は跨る王の威風を纏い、鬼達を威圧する。 「生意気だな、卑賤な化物が!」 怒号と共に刃紅郎が手にした愛剣『獅子王「煌」』を振り抜いた。狙われた大鬼も戦いの中に生きた種族、その一撃を咄嗟のこととはいえ手にした得物で受け止める。 金属と金属がぶつかり合い、甲高い金属音と火花を上げる。馬上の突進による突進力により、受け止める大鬼の足元の石畳が割れ、反動で馬の突進が止まる。さしもの鬼の膂力とはいえ、馬上突撃の威力を支えるのは困難であった。 その激突の最中に飛び込む一つの影。二つの巨影とは対照的に小柄なその影は『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)。 「こちらアークの光狐、リュミエール。ヨロシクナー」 抑揚の定かではない棒読みで自己紹介を行いつつ、リュミエールは一気に駆け抜けると同時にその左右の短剣を振り抜いた。 彼女自慢の速度を載せた刃が大鬼を切り裂き、傷つける。 「襲撃だ! 迎え撃て!」 俄かに色めき立つ鬼の集団。先陣を切った二人により鬼達は激しく動揺する。そもそも襲撃者がここまで早くやってくるという予想もしていなかったのだろう。 「――総員突撃」 深春の号令と共に、リベリスタ達は動き出した。 割れた石畳を、乱れた砂利道を、仄かに湿った土を踏みしめリベリスタが攻め寄せる。 「弓共、射るのだ!」 大鬼の一体が叫び、呼応した鬼弓兵が一斉に矢を放つ。大量に解き放たれた矢は矢襖となり天から降り注ぐ。 「各員散開せよ!」 さらなる指示が飛び、リベリスタ達は散り散りとなった。各リベリスタの立ち回りに深春から飛ぶ号令は適切なポジションを与え、各自の被害を減らしていく。 「突入!」 深春が腕を振り下ろすと共に攻撃命令を飛ばす。半ばカウンター気味に敵陣へと突入するリベリスタ達は、それぞれの狙うターゲットへと牙を剥いた。 「御伽噺の火器と呼ばれようと、相手はそれより更に古い御伽噺。その邂逅もまた一興!」 『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)の手にした銃の火縄が焼け、轟音と共に弾丸を吐き出した。その鉛玉は火縄銃の常識を超え、流星雨の如く鬼弓兵達へと襲い掛かる。 「炎よ!」 茉莉の手中に生み出された炎もまた、弓兵の最中へと投げ込まれ爆炎を巻き上げる。銃弾と炎が荒れ狂い、弓兵達へと痛打を与え炎に包み込んだ。 その最中に飛び込み、『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)が不敵な笑みを浮かべる。 「鬼退治は武芸の誉れと古来より言うが……」 源一郎が拳を握り込み、全身の筋肉が隆起する。鬼達と比べても遜色のないその肉体は伝えられた力を正確に発揮する。相対する鬼達へと。 「日ノ本に産まれし無頼が一人、荒ぶる鬼の首を獲りに馳せ参じた!」 豪腕一閃。腕力から生み出される威力が、研ぎ澄まされた正確さを以って叩き込まれていく。一匹、二匹、三匹と自らの領域内にいる鬼達へ。 「数が揃おうと統率が甘ければ烏合の衆だな」 手にした『Rule-Maker』の光刃を煌かせ、『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が歩兵へと襲い掛かる。刃が振り回される度に正確に歩兵が刻まれ、幻惑されていく。 クェーサーのリベリスタ達も各々の実力を発揮していく。 「我は欧州が名門、キッシー家が三男ダンである! 東洋の悪鬼よ、我が剣を受けるがいい!」 板金鎧のキッシーが吠え、鬼へと切りつける。導師服の美鳳が行使する式が多数の鳥へと変化し、その爪が鬼を傷つけていく。 「さて、俺らも始めるかね旦那!」 フォックストロットの両手に構えた軽機関銃から大量の銃弾が吐き出され歩兵へと叩き込まれる。その銃弾の雨を追撃するように青大将が切り込み、拳を振るい歩兵を叩き伏せる。 アークとクェーサー、両者の強襲は確実な効果を伴い鬼達を傷つけた。だが、鬼もただ黙ってはいない。 「囲め! ぶっ殺してやる!」 怒りも露に歩兵が飛び込んできた者を囲み、刃を振るう。一撃々々の重さはそこそこだが、数が揃い刃によって生み出される傷からの失血が生命を削っていく。 「布陣! 後にバックアップ!」 深春の端的な指示が飛び、リベリスタ達は陣形を組みなおす。半円の陣を成し、相手よりの包囲へ備えてリベリスタ達は迎撃体制を整える。 「みんな、頑張って……!」 「すぐ癒します!」 あひると司祭服の女性、クローセルが祈りを捧げる。高次の息吹がみなの傷を塞ぎ、放つ光が切りつけられた出血を止める。 じりじりと狭まる包囲。それらの鬼に対し、拓真が二刀の長剣を構え高らかに宣言した。 「どうした鬼共。破壊する力に恵まれた存在なんだろう? それならば俺を壊してみろ!」 「ならば望み通り挽き肉にしてやる!」 見え透いた挑発ではあるが、鬼の闘争本能と自尊心を刺激するには十分な言葉。鉄槌を振り上げ大鬼が拓真へと迫る。 「行かせはしない!」 その大鬼の出鼻を挫くように振るわれるのは舞姫の手にした短刀『黒曜』。冷気に包まれた刃が大鬼へと突き立てられるが、されども大鬼は突き進んでいく。 「残念、凍っちゃえ!」 そこへ畳み掛けるように『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)のナイフが突き立てられた。二人の刃を伝い冷気が大鬼へと浸透し、凍てつかせその動きを封じていく。 「むぅぅん!」 「それじゃ、アバヨー」 そこへ刃紅郎とリュミエーヌの刃が襲い掛かり、大鬼の一体は地へと崩れ落ちた。 一体が倒れようと鬼達は押し寄せてくる。それらをリベリスタはいなし、衝突し、ぶつかり合う。 深春や後衛も狙われるが、それらは大盾のコーデリアやアークの前衛達が押さえ込む。だが、それも完全ではない。いくつかの矢が潜り抜け、癒し手すらも傷つけていく。 「カアアアァァァッ!」 鬼の咆哮が物理的な威力を伴いリベリスタへと叩きつけられる。衝撃が動きを抑え込み、大鬼が隙をついて巨大な得物を振り回す。じわじわと積み重なる傷は癒し手により塞がれ、一進一退の戦闘となる。 「どうした、獲物を逃しているぞ? 図体だけ大きい無用の粗大ゴミかね、お前さん達は?」 最中、包囲を抜け鬼の只中に湧き出したのはオーウェンだった。研ぎ澄まされた魔力の一撃を叩きつけつつ、挑発的な言葉を大鬼へと投げつける。 「矮小な人間風情が!」 その名の通り、鬼の形相そのものの表情を浮かべ、大鬼の一体が怒りに任せ手にした得物を振り抜いた。その一撃はオーウェンと共に多数の鬼兵を巻き込み、弾き飛ばす。 「ハハッ、案の定だ。巻き込んだ者達を見てみたまえ?」 「弱者が強者の戦いの邪魔となるならば些細なことだ!」 挑発に告ぐ挑発。生み出した同士討ちは鬼達の陣形を切り崩し、数を削り取る。 「おっと、今のうち!」 その隙に終が本殿へと駆け出す。 アークのリベリスタの目的は撃破だけではない。鬼達の目的を量ることも重要な任務なのだ。そしてそのキーとなる相手は本殿内に存在するのである。 一人、二人、三人と。次々と本殿へと駆け抜けていくリベリスタ達。どぷりと地面に沈み込む者もいる。 「お前ら、戦いの最中に逃げ出すか!」 獲物を逃がすまいと追おうとする鬼達。だが、その進軍を止める者がいる。 「我らの仲間の道、追わせはせん」 「一匹たりとも通しはしない」 源一郎と龍治、そしてクェーサーのリベリスタ達もまた鬼を通すまいと布陣し、封鎖する。 「――全てのアザーバイドはクェーサーの怨敵。殲滅せよ」 深春の宣告と共に、再び境内に衝突が生まれる。 ●禍ツ鬼 吉備津彦神社本殿内。 そこは敷地面積に相応しいだけの広さがあり、時折行われる祭事の為のベンチが多数置かれている。 外とは違い、中には粗暴な鬼は侵入していないようで建物そのものには特に破壊の痕などは存在していない。 本殿へと入り込んだリベリスタ達が目にしたのは、祭壇であった。 御霊が祭られた祭壇には多数の祭具が並んでいた形跡があるが、それらは無残に破壊されていた。いや、今現在破壊されている最中であった。 祭壇の前に立ち、一つ一つ祭具を破壊しているのは一人の鬼である。 ひょろ長い長身を猫背に曲げ、着衣は古風な貫頭衣。一本角に全身には呪印の如き刺青が施されたそれこそが万華鏡に補足されし鬼、禍鬼であった。 手にした環頭太刀をゆらりぬらりと振り回し、祭壇の上の物を砕き、切り捨てる。 (ああ最高じゃねえか、あの安定していた世界がグズグズのボロボロだ! おかげで封印が緩み、こうして自由の身になれた。こいつはもっと崩していくと楽しそうだな) キシシと鬼は笑い、楽しげに破壊を行う。自らの身に訪れた自由、それを謳歌するように。一個祭具を破壊しては愉悦の笑みを浮かべ、次の祭具を打ち砕く。 歪んだ快楽を満たす禍鬼、その側へと迫る者がある。 「貴様が総大将か」 刃紅郎が禍鬼へと声を掛ける。馬より降りて本殿に立つ彼は、不躾に禍鬼へ視線を送り値踏みする。 「あん? 誰だテメェ」 怪訝な顔をする禍鬼、その視線と刃紅郎の視線が交錯する。そこから感じるは、淀んだ感情。人としても鬼としても異質で、ねっとりと纏わり付くような不快感を伴っていた。 「……はっ、いくら着飾ってもその醜悪さは隠せぬものよな?」 「いきなりご挨拶じゃねえか、獣交じりの人間風情が。俺はテメェらに構ってる暇なんてないんだよ、シッシッ」 見下す王に邪険に払う鬼。なんとも異質な空気が漂う中、他のリベリスタも続々と集う。 「何を狙ってるかは知りませんが、むざむざやらせるわけにはいきません」 「貴方は一体何をしようとしてるの?」 「さあな? 人間には何の得もないことだけは確かだがな。キシシッ」 舞姫が、あひるが、問い掛けを投げかけるが、禍鬼はにまにまと気味の悪い笑みを浮かべたままのらりくらりと応対する。 ――だが、次の問い掛けで。彼の表情が変わった。 「かつてこの地では温羅という鬼を吉備津彦が退治したという伝承があるですが……貴方が温羅、ですかぁ?」 茉莉の問い。彼女はその外見とは違い、それなりの長きに渡り生きている。その中で得た知識の中には吉備津彦伝承に纏わるものも存在していた。 あくまで推測の域を出ないその言葉。それを聞いた時に……禍鬼の表情が固まり。 「キシ、キシャシャシャシャ! 俺が!? 俺如きが温羅!? 怨みに満ち、人を呪うだけの俺が、あの偉大な王だって!?」 悪質な冗談を聞き、楽しくて仕方ないかのように、禍鬼は笑う。 「有名だというのも考え物だなぁ? まさか俺と一緒にされるなど、関連付けにもほどがある!」 腹を抱えて笑う、笑う。その哄笑はどこまでも、耳障りで姦しく。 そして笑うことは隙となり、一人の男が動き出す。 オーウェン・ロザイク。彼は緩んだ禍鬼の心の隙を突き、読み取る。 「――――これは」 オーウェンが読み取ったモノは、呪詛。どこまでも深く、理由もなく。ただ、存在するが故に人を呪う怨念。祟り鬼たる彼の存在そのものである、ねばりつくような怨みの塊。 その最中にわずかに見える断片。『鬼の王』、『温羅』、『封印』。そういった単語が呪詛に混じり伝わってくる。 「なるほど、封印か。お前さんの目的というやつは」 そのリーディングが禍鬼に発覚しないわけもなく。ぴたりと笑いを止めた禍鬼が、再び気持ち悪い笑みを浮かべた。 「――見たな?」 ぬらりと環頭太刀が下げた鬼が動く。ゆらりゆらりと身体を揺らし、緩慢に。 オーウェンが読み取ったもの。それはここ、吉備津彦神社を始めとする様々な県内の霊的な場所に安置された祭具や神器が全て、岡山一帯に施された鬼の封印の一部、それもバックアップのようなものという事実。そして禍鬼はそれを破壊することで更に封印を緩めようとしているのだと。 自らが開放されたのと同じように、より霊的に不安定にすることで封印を崩そうとしているのだ。 迫る禍鬼と抜き放たれた太刀、その両者から凄まじいまでの妖気と殺気が迸る。リベリスタ達もそれぞれの武器を構え、迎え撃つ体制に入る。 「さあ禍鬼サン、お腰につけた環頭太刀、一つワタシニクダサイナッテカ」 誰よりも早く動き、飛び掛ったのはリュミエーヌだった。真っ直ぐ禍鬼へ向かわず壁へと走り柱を蹴り、一気に天井まで駆け上がり、アクロバティックに飛び掛かる。 「はっ、人間程度にこの鬼鳴丸は扱えねえよ!」 凄まじい速度で振り抜かれたナイフと環頭太刀がぶつかり合い、甲高い金属音と共に太刀が軋み耳障りな音を立てる。それはさながら生物が哂うかの如く、軋んだ音を高めていく。 リュミエーヌが切り返した逆手の刃がさらに襲い掛かり、禍鬼の肌を浅く切り裂く。そこにオーウェンがすかさず切り付けた。 「人に退治され恐れを成し、ヤツが居なくなった今頃帰還したお前さんが、今更何を企むというのかね?」 光刃が強かに禍鬼の手にした鬼鳴丸を打つ。再び金属音が響き、嘲笑うかのように刃が哭く。 「ああそうだよ、今頃還ってきたのさ、千年を超える時を跨いでな! 溜まった怨み辛みは、是非とも人間どもに余剰で過剰な利子をつけまくって返さないとなぁ!? キシシシシシ!」 禍鬼の纏う怨念が増大する。誰に向けられたわけでもない怨念を自ら纏い、積み重ねていく。それは彼の持つ性質か、精神性か。 「恨まれる様な事など、幾度となくやって来た……俺はそれだけの物を斬り捨てた」 拓真が二本の刃を振るい、リュミエールと同じく壁や天井を使い三次元的に攻め掛かる。 「故に、止まれない! 祟られた程度で止まる様な物ではない!」 剣が交差し、禍鬼を切り裂く。決して浅くは無い傷を受ける鬼だが、例え細身に見えても鬼。余裕を湛えた笑みを浮かべ、ゆらりゆらりと立ち回る。 「じゃあたっぷり受け取れよ! 積年の怨念の断片をよ!」 ――凶眼が煌き、本殿内に呪詛が吹き荒れた。 禍鬼が溜め込んだ恨み、禍鬼に殺された者の無念、リベリスタ達が向けた敵意等。様々な負の感情が吹き荒れ、リベリスタ達の動きを縛り付ける。 向けられた悪意を返すとは言うが、その正体は異なる。彼は自分に向けられていない悪意すら勝手に汲み取り、自分が向けた悪意すら飲み干して相手だけに返すのだ。復讐を本懐とする鬼は、復讐以上に身勝手で嗜虐的である。つまりそれはより『悪辣』という事だ。 「ほら、お前らがたんまり寄越した悪意だぜ? 熟成しすぎてずっしり重みが増しちまったよ。キシシシシ!」 痺れ、呪詛、呪縛。それらの圧力がリベリスタを拘束し圧迫する。動けぬ相手へ悠々と近づくその表情には愉悦、嗜虐、優越感。そういった感情が満ちて下卑た雰囲気を与えている。 「例えどれだけの悪意を以ってしても、戦場ヶ原の刃は折れはしない!」 だが、彼女はその悪意に耐え切った。舞姫は手にした黒曜を構え、冷気を纏いて禍鬼へと切りかかる。 「はぁ!? テメェあれを防いだのかよ!」 禍鬼はその刃を受け、いなしつつも傷を増やす。悠々たる追い討ちはからくも阻害され、じりじりと下がっていく。 「あひる達は負けるわけにはいかないから……」 庇われ呪詛を逃れたあひるが呪縛を破邪の光を以ってかき消していく。 「ほらほら、凍っちゃえよ!」 終が飛び掛り、切り付け禍鬼を凍りつかせていく。舞姫と終、二人の刃が冷気と氷片を撒き散らして踊る。踊る。 舞姫は自らの覚悟を刃に込め、立ち続ける為に。そして終は仲間達を護るため、自らの身体を張り続ける。 「ああ、くそ! 面倒臭ぇ!」 はりついた氷片を砕き散らし、禍鬼がさらに怨念を纏う。が、その怨念が光によって吹き散らされる。 「!?」 驚愕する禍鬼。それはあひるの放つ浄化の光。一か八かで行った怨念破壊、それが効果を発揮したのだ。 勢いに乗るリベリスタは重ね、連ねて禍鬼へと襲い掛かる。刃が振り回され、交錯する。魔術の刃が太刀へと打ち付けられ、衝撃を与える。怨念の刃が振り下ろされてはリベリスタ達に深い傷が刻まれ、さらなる反撃が禍鬼を傷つける。 「まったく、こんな所でテメェらと遊んでる暇はねえんだよ!」 禍鬼が叫び、屋外へと飛び出した。 突然の戦場の融合に、境内にいた面々が驚いたような表情で禍鬼の姿を見た。それと同時に本殿内よりリベリスタ達が飛び出してくる。 「そいつを逃がすんじゃない!」 「――! 包囲!」 誰が叫んだのかは定かではないが、警告が飛ぶ。即座に深春が指示を飛ばし、交戦可能な面子が禍鬼へと向かう。 「姿が見えるのならば、外しはせん!」 屋外において鬼と戦っていた龍治の火縄銃が轟音を立てて銃弾を吐き出す。銃弾は常軌を逸した正確さで禍鬼を貫き、その上体を傾かせる。 「誠残念だが我が拳剣戟に非ず。されど其の腕――是が非でも貰い受ける!」 源一郎が腕を突き出すと同時に、フィンガーバレットより銃弾が吐き出された。それは禍鬼の手にした太刀を打ち付け、金属音を響かせる。 「おいテメェ、壁になれ!」 「!? 禍鬼、貴様ァ――!」 生き残っていた大鬼を盾にするように禍鬼は隠れ、怨念を練り上げる。 多少の時間があれば十分。練り上げた怨念を下卑た笑みを浮かべつつ撒き散らし……混乱収まったその時には。すでに禍鬼の姿は戦場から消えていた。 境内における鬼の殲滅が終了したのは、ほどなくしてである。 ●間章 「殲滅確認。残ってる敵はいないみたいよ?」 クェーサー陣営の導師、美鳳が言う。 「ふん、醜悪なりに戦う力はなかなか持っていたということか。低俗にして卑劣な力ではあったが」 「どうにも面倒ナ相手ダッタナー」 刃紅郎が吐き捨てるように言い、リュミエールが気だるげに呟く。 戦禍過ぎし吉備津彦神社はかつての威風を留めておらず、残骸の如き箇所多数。アークとクェーサー、二つのリベリスタは境内にて再度対峙する。 「えっと、今回はお疲れ様。貴女達とこうして会えたこと嬉しく思うわ」 自分達だけではもっと大変だったと思うとあひるは言う。 「単に戦場と目的が一致しただけ。別にそれ以上の事など存在しない」 深春は淡々と応える。すでに彼女にとってここに用はなく、滞在することそのものに意味はないとでも言うばかりに。 「だとしても、少なくとも万華鏡の力はご理解頂けたかと思います。リベリスタとしての目的は同じはず、協力させて頂けませんか?」 舞姫は深春へと協力を求めている。それは今回のものだけではない、より長期的な要請だ。 「同じようで同じじゃない。クェーサーの求める所はあらゆるアザーバイド及びエリューションの討伐。五百年に渡るクェーサーの家名はその為に存在し、手段において差異がある為にかつて要請を断っている」 目的の為に手段は選ばず、それ故にかつてアークに加わらない判断をした深春。今になっての要請にも、素直にはいと言う理屈はない。 「今、日本には貴女が必要なの。今回以上の事件も、起きると思う……」 あひるは求める、深春達の力を。その協力があることでより日常が護れると信じて。 「良かったら……一緒に来て欲しい。あひるは、クェーサー達と――友達になりたいな」 そしてなによりこの行きずりの出会いを大切にし、共に歩みたいと願い。 「それによるメリットは万華鏡。……ふむ」 深春は思考する。そのメリットとデメリット、なにより自らの策と理論においてどれほどアークが有用であるかを。 「ナイトメア・ダウンで亡くした両親の志を継ぐならば、私と同じかもしれない。だから……」 舞姫が漏らしたその言葉。深春はその言葉にハッとしたように舞姫を見……睨み付ける様な表情となり。 「両親は……あのミラーミスに勝利することは出来なかった。それはクェーサーの家名の汚点であり、私はその雪辱を雪がなくてはいけない」 深い憎悪と屈辱、その他複雑な感情が入り混じったその声音。同時に彼女は踵を返す。 「考慮する。それでは」 「可能ならばアークに一度顔を出して貰えれば最上」 クェーサーは去る。その背にかけられた源一郎の言葉に深春は微かに頷き、ヘッドフォンを再び耳へと装着して歩き去る。その後ろでは白いスーツの伊達男が肩を竦めていた。素直じゃないねぇ、と言わんばかりのにやついた表情で。 残されるはアーク。鬼は駆逐し、祟り鬼は姿を消す。 そして残るはいくつかの情報の断片。 「温羅――鬼の王、ですかぁ」 茉莉の呟きが風に混じり、消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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