●金の卵ってなんでしょう? 「あんたにとっておきの仕事をやるよ。『金の卵』を見つけといで」 言われたナオトは面食らった。 ねぐらにしている古い事務所にひょこっりと顔を出した配島から『三尋木さんが呼んでいる』と言われた時は、正直焦った。何かどえらい失態でもやって叱責を喰らうかと思ったのだ。あの配島だけがうっとりと小娘の様な顔で呼ぶその人は、フィクサード主流七派のひとつを束ねるボスなのだ。穏健派と外に聞こえてはいるけれど、それは他の派閥と比べた時の事であり、決して荒事をしないわけでもないし本当の意味で穏健なわけでもない。 「地獄のお仕置きだったらもうナオトとは会えないね。僕もそのうち行くかもだから、東京湾の底で待っててよ。あ、それともバラバラになって良さそうな臓器売られちゃうかな?」 「止めてくださいよ! 配島さん。それ冗談じゃないでしょう!」 「手術台で再会出来るね♪」 「……行ってきます!」 気怠げに手を振る配島に見送られて事務所を出たのが30分前だ。薄い紗のカーテンの向こうで全身マッサージを施されている三尋木の姿形を見る事は出来ないが、その声は張りがって力強い。 「あの、きんのたまごというのは……」 全身全霊、ありったけの勇気を振り絞って聞き返したナオトの言葉は微かに震えている。下っ端のナオトからすれば目の前にいるだろうボスは雲上人だが、それでも聞かなかったら東京湾まっしぐらだ。 「おや、最近の若いのには通じないのかい? 浅場、悪いけど詳しく説明してやんな」 「はい、ボス」 カーテンのこちら側で控えていたダークスーツの男が小さく一礼する。取り立てて特徴のないサラリーマン風の男だが、三尋木では集まる情報を一手に掌握しているという。 「それでは別室で……」 「ちょっとお待ち」 浅場に従って部屋を出ていこうとするナオトに声が掛かる。軽く空気の流れカーテンが細く開いた。そこから白い肌と赤い唇が覗く。更にその先に細い喉と鎖骨が……でナオトは思わず深く一礼した。 「いいかい、最高の人材を捜しておいで。最高の才があるなら多少の疵は構やしないよ」 「はい!」 最敬礼のままナオトは後ずさりして部屋を出た。その後、浅場の説明を受けたナオトは三尋木のスカウトマンとして全国行脚の旅へと向かう事になるのだった。 ●飢餓の鬼 空間を引き裂く不思議な亀裂からのっそりと出てきたのは巨大な体を持つ者達だった。 「のけ! わしが先じゃ!」 「わぬしは後じゃ」 「その様な事、たれが決めた!」 最初の1体が出る前に次の一体の手が伸びる。つまり我先にと争うように無理矢理押し通ろうとしているのだ。ごちゃごちゃとデカイ手足が振り回される。それでもなんとか1体が通過し、続いて2体……更に3体が後に続く。暗い洞窟の中に5対の光る眼が輝く。途端に今までのいざこざを忘れたのか巨大な者達は互いに手を取り喜び合う。 「おおぉ。とうとう忌々しい封じを破りしか」 「しかり、しかり。吾も我も自由よ」 「まずはここな獲物で喉を潤し腹を満たさねば」 「一番に喰ろうてやるのは吾よ!」 「競うてみしょうぞ」 巨大な者達はまたしても我先にと暗い洞窟を走り出す。風の匂いが外界とその先にいる獲物の存在を教えるかのように、一心不乱に走り出した。 ブリーフィングルームで『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はつぶやいた。 「岡山に行ってアザーバイドを処理してきて」 イヴは伊倉洞の奥にアザーバイドが巣くっていると言う。その数は5体。どれも同族らしく炯々と光る獣の目に頭には角があり、毛むくじゃらで巨大な体躯をしている。手には金属っぽい光沢を放つ巨大な鈍器を持っている。 「つまり鬼と聞いて連想するイメージ……それに近いの」 まだ節分じゃないのに、とイヴは小さく言う。 「アザーバイドだけどちょっと変。出現したディメンションホールが判明しない。でも、鬼達は洞窟から出て人間を襲って食べるつもり。だから、放っておけない」 最初に狙われるのは観光客相手のレストハウスの従業員達だろう。鬼達が外に出るのは早朝だが、丁度早出のアルバイトが1人出勤しようと向かっている頃だ。 「まだ起こっていない未来は変えられる。だから、急いで向かって。それから……」 イヴは一瞬口ごもる。わずかに眉をよせたがすぐにいつも通りの表情のない顔をリベリスタ達に向ける。 「アルバイトは女性で控えめに言っても凄い美人。それとは別に三尋木のフィクサードがいるみたい。あそことは休戦期間中だし派手な悪事はしていないみたいだから、こっちから先に手を出したりしないでね」 念のために、とイヴは言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月10日(金)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●月詠みの麗人 静謐なる朝の静けさをうち破り、空気を振るわせるのは大地の底から響く破壊の鳴動。それは生きている惑星の活動などではなく、突如この世界に出現した巨大な5つのイレギュラー。いずこより出でたのか出自のわからぬ異形の巨人――鬼であった。彼ら5体は出現した時と同じように、岩肌に穿った巨大な裂け目から我先に出ようと罵倒しあいあがきもがく。 それよりも少し前、すっかり明るくなった朝の道を人が歩いている。黒いダウンコートを来た女性は特徴のないトートバッグを手に慣れた様子で足早にレストハウスへと向かっている。 遮る物もない一本道をやって来る彼女の姿をレストハウスの影から見守る者達がいた。 「あの人?」 さも嫌そうに眉をよせ、それでも強靱な意志の力を見せ『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は傍らに立つチャラそうな男に声を掛けた。なんとか実力行使は堪えているものの恐ろしく汚いものでも見るかのような表情だけはこれ以上修正出来ない。 「えー、多分そうじゃないかなっ」 他人事の様につぶやくのはフィクサード主流7派の1つ三尋木に属するナオトという男だ。幾多の戦いでリベリスタ達の前にれっきとした敵として姿を見せた若者だが、今は協定のおかげで互いに微妙な関係を保っている。 「多分って……!」 「ビンゴだろっ! すっげえ美人だ。わかってるぜ、ナオト。お前の狙いはあの超美人のナンパだろ? ちょっと不幸そうな感じがまたそそるって感じだぜ」 急にテンション高くアルジェント・スパーダ(BNE003142)はナオトの背をバンバン叩く。身に着けている物はまったく野暮であか抜けていないが、それでも彼女自身が持つ強烈な美しさが損なわれる事はない。太陽を受けて輝く昼の花ではなく、月光に映し出される寂しい妖花かもしれないが、それはそれで人を強く惹きつける。 「本当に彼女に手荒な事をするつもりはないんだな?」 何度か聞いた同じ質問をもう一度『求道者』弩島 太郎(BNE003470)は口にする。穏健派の下っ端フィクサードが無実無害を訴えてもどうしても信用しきるものではない。太郎に気圧されるように1、2歩下がったナオトはそこで持ちこたえて必死に食い下がる。 「だからないって! 俺はやっと見つけたあの子とごく普通にお話をして……そっちこそ、こんなところにどうして居るんだよ!」 やっと思い至ったのか話題を変えたいのか、ナオトはむきになって大きな声を出す。 「僕たちがここにいるということは何をするか、聞くまでもなく普通ならお分かりですよね? そう、アザーバイド撃退です」 ナオトの答えを待たずに浅倉 貴志(BNE002656)は正解を口にする。更に小声で何事か続けたがその声はあまりに小さくナオトには聞き取れない。 「な、なんだって?」 「アザーバイドの鬼が来るッスよ。もしかしたらあの女性を狙っているのかもしれないッスね」 「え? まさかもう知られている?」 決して『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)の言葉は嘘ではない。けれど空腹の満たす餌としてである事には言及しない。それを聞いたナオトは明らかに顔色を変え不用意な発言をした。それだけでリルの夜明け前の色を映す瞳はナオトが彼女を手中にしたがっていると言う事が如実に映し出される。 「ナオトさん、大変そうだけど頑張って!」 少しも親身になっている風ではない口調で『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)が激励の言葉を掛ける。 「今日はアザーバイドなんていう邪魔が入っていますし、ノーコンテストと致しましょう」 太郎とナオトの間に割って入るようにしてユーキ・R・ブランド(BNE003416)が進み出た。長い黒髪をすっきりとポニーテールでまとめ、長い黒のロングコートを愛用している。 「今だけ彼女の勧誘を止めて頂ければ、我々も今回彼女を直接保護するような事はいたしません。いかがでしょうか?」 互いに休戦協定はまだ生きているし、丁度良い落としどころだろうとユーキは迫る。だが、下っ端らしくない様子でナオトは東京湾がどうのこうのと言い訳をして拒絶する。 その時、鈍い振動と遅れてどーんと重低音が空気を振るわせ伝わってきた。どうやら猶予はないらしい。 「そういうどーでもいい話はいいです。じゃ先に行ってますから……」 歩き始めた『絶対鉄壁』ヘクス・ピヨン(BNE002689)はふと足を止め、なにやら小さな紙片を取り出して確かめ、頑丈そうな防具の内側に隠しいれる。 「とにかくナオトさんにとってもあの人は大事な人なんだよね。後でしっかり守ってよ。絶対だからね」 一方的に念を押した智雄はナオトの返事は待たずへクスの後を追って雑木林の方へと走っていき、他のリベリスタ達も打ち合わせした通りの立ち位置を崩さずに移動していく。 「あの人にはわたしが避難するよう伝える。アンタが近づくのは許さない!」 涼子はナオトの返事を待たずに仲間達とは少し違う方角へと走っていく。 「弱ったなぁ。でも休戦協定もあるしなぁ」 ナオトは困惑した様に頭を掻いて散っていくリベリスタ達と例の女とを交互に見やり、肩をすくめて雑木林へと向かっていった。 ● 「助けて!」 涼子は黒髪の女に駆け寄り背に隠れるようにした。うつむき勝ちに歩いていた女が驚いた様に顔をあげる。女の涼子の目から見ても、小さく整った顔の中で黒目勝ちな瞳が印象的で美しい。 「どうかしたんじゃか?」 「知らない人に追いかけられていて……怖い!」 「こちらじゃ、早う」 女は涼子の手を取りレストハウスへと走り出す。女を戦場から遠ざけたかった涼子だが、声を掛けても走る女は止まらない。僅かな違和感が涼子の胸に淡く灯る。 8人のリベリスタ達と1人のフィクサードが雑木林を抜けて駆けつけた時、巨漢揃いの鬼達は斜面の岩肌に穿たれた不格好な亀裂からようやく争いつつも全員が通り抜けたところであった。 「やれ嬉しや」 「いかにも、いかにも」 心なしかいかつい表情を和らげ鬼達は戒めを解かれた互いを言祝ぐ。だが、その穏やかな空気は一瞬で薙ぎ払われる。 「まずは仁義上等! お次はこいつだ、喰らいやがれ!」 空を渡る疾風の様にアルジェントが木々を最速で走り抜け鬼達へと攻撃を向けたからだ。あまりの速さにまだ味方の体勢は整っていないが、止める者もまだ追いついてきていない。 「いっけえぇええ!」 気合いのこもった声と共に5体の鬼達の足下へと遠隔攻撃が連射される。突然の攻撃に鬼達が騒然となる。出し惜しみのない潔くも豪快な攻撃の半分ほどは鬼達に命中しているが、痛打となっている様子はない。 「あなや、こそばゆいのぉ」 「ぬしはたれじゃ?」 「何いぃ?」 アルジェントの引き締まったどこか少年っぽさを残す顔に驚愕がにじむ。それほどに鬼達は痛痒と感じていない。 「たれでも良いわ。わずかなりとも吾の喉をうるおさん」 1体の鬼が耐えきれなかったのか、飢えてひび割れた大きな口を更に開きそのままアルジェントへと迫り来る。巨体とは思えない素早さに攻撃を終えた直後のアルジェントは回避が遅れパクリとくわえられてしまう。 「は、離せぇええ!」 猛烈な悪臭に思わず顔を背けながら必死に噛み砕こうと迫る上下の歯列に抗う。 「わずかなりとも生き血じゃ! 肉じゃ!」 「吾にも分けよ」 「我もじゃ!」 他の鬼達がアルジェントをくわえた鬼に殺到する。 「大変! 喰われちまうッスよ!」 リルの目には鬼達の貪欲で狂おしいまでの餓えが見える。僅かな猶予もないと感じ最も近い距離にいる鬼めがけて思いを糸に変えて放つ。 「あな嬉しや。こなたは吾の物ぞ」 1000年を経た大木の様に太い腕は確かに傷つき体液が流れ出ているというのに、鬼は新しい獲物であるリルへと向き直る。さらに隣の鬼が何事かとゆるりと首をめぐらせてゆく。 「そちらには行かせません! あなたの相手はこの僕が務めます」 しなやかな流れるような所作から変幻自在の動きで戦況に対応しようとする貴志の身体はごく自然に動き、鋭い襲撃が風を切り裂き刃となって空間を渡る。 「関係ない人が入ってこないようにしたから、みんな思いっきり戦って平気だからね!」 人払いの力を使った智夫は皆に報告し、自分も腕に傷を負いながらも向かってくる鬼へと冷たい凍気をまとった拳を放つ。 「ぐあぁああ!」 噛み裂かれたアルジェントの身体が勢いよく地面に叩きつけられ跳ね上がり、駆けつけた太郎やユーキの頭上を越えて地面を転がり……少し遅れて霧の様な血飛沫が降り注ぎその先のへクスの足下でようやく止まった。 「足りぬ! 更なる餌を」 「吾等に供じよ!」 口元を赤く染めた残る3体の鬼達も先行する2体に負けじと巨体を揺らし地響きをたてて駆けてくる。 「気力よ……巡れっ!!」 倒れた仲間も迫る敵への対処も一刻の猶予もないが、焦る思いを押し殺して太郎は体内の魔力を活性化させていく。髪の先から指先まで、身体の隅々に高いエネルギーが行き渡っていくような爽快に包まれていく。だが、後続の3体の行軍はいきなり崩された。側背からポニーテールを揺らして飛び出したユーキが1体に飛びかかったのだ。いかにも不潔そうな鬼の身体に委細構わず牙を立てる。 「……人食いが常であるならば、偶には喰われる気分も味わって見ると良いと思いますよ」 「うっおおおおっ!」 闇のオーラに守られたユーキの黒い瞳が妖しくゆらめき、振り払おうと振り回される野太い鬼の腕を2度3度とすり抜け、余裕を持って身を翻して後退する。 「知ってますか? 向こうの鬼が、内緒で人をすでに食べていたみたいですよ」 出来る限りの強化を済ませたへクスは先行する2体の鬼の1体と真正面から向かい合い、その進行を止め秘やかなる声音でそっとつぶやく。 「なんじゃと!」 あっさりと看破されそうなへクスの虚言は、いとも容易く鬼の胸に不和の種を蒔く。 「しょうがねぇ!」 遅れてきたナオトもなし崩しに戦闘に加わり後方から銃を構え弾を放つ。さして強い攻撃ではなさそうだが無いよりはマシだろう。 「くっそぉ! 俺は餌じゃねぇ!」 倒れ臥し動かなくなったアルジェントだったが、目に見えぬ対価を支払い条理をねじ曲げ奇跡的な復活を果たす。 「奴ら食い気しか頭に無いッスよ。先ずは貴志さんの敵に集中攻撃を掛けるッスよ!」 目の前に鬼に再度気糸を放ちながらリルが叫び、その貴志も再度蹴撃により風の刃で斬り付ける。 「吾に喰らわれるか、そこをのけ!」 「それは出来ない相談ですね」 貴志の攻撃は鬼に届くが逆に鬼の金棒は貴志の身体を捉えられない。 「あれ、ナオトさん涼子さんにあのひと任せてこっちに来てくれちゃったの? フィクサードなのにいい人っぽいね」 一瞬後方のナオトを視界の端に捉えつつ笑った智夫はその先にあの女がいない事を確かめ、心おきなくその冷気をまとった拳を貴志の前に立つ鬼へと放つ。同じく瞬時に新手の敵の出現を警戒して視線を巡らせた太郎の祈りは歌となって解き放たれ編み上げられた言葉達は清らかなる癒しの微風を喚び出していく。その優しくも心地よい清浄なる風はアルジェントの傷だらけの身体を回復させていく。 「のけ! のけ!」 飢餓が絶え間なく苛むのか焦れた鬼の行動は単調で、ユーキは難なく1体を足止めする。敵の範囲攻撃を警戒してやや後退して戦う位置をずらしたけれど、それ以上通すつもりはない。敵の血を啜っても倒れる事はない。 「ここはそんなわがままが通る世界ではないんです」 涼やかな目元には堅い決意が見て取れる。同じくへクスも別の1体を完全に抑えこんでている。先ほどの囁きで気もそぞろになったのか攻撃に彩はなく、へクスは背に智夫やアルジェント、そして成り行きでナオトまで射線を防ぎつつ戦っている。 「確かめにはいかないんですね」 「こたなを喰らえば同じ事也」 「っつっ! ここから先は通しません」 鬼の金棒が唸りをあげ、周囲の木々もろともリベリスタ達を薙いでいく。勿論、真っ先に攻撃にさらされたへクスだが、持ち前の高い防御力で踏みとどまる。 飢えを満たす事の出来ない鬼達はしびれをきらし、更に攻勢に出ようとするが貴志が対峙する鬼の右目が真っ赤に染まる。 「うぉおおおお!」 野獣の咆吼の様なうめき声がその場の空気を振るわせるが、射手である涼子は冷ややかな青い瞳で暴れる鬼を見据えている。 「戦場に遅れてしまったみたいだけど、それはこれから挽回する」 「おい! あの女は……」 「レストハウス! それ以上逃げてくれないから……急いで鬼を倒す」 女は頑固で責任感が強いらしく、上司と連絡が取れるまでレストハウスから離れるわけにはいかないの一点張りなのだ。後はこのアザーバイド達を早急に処理して、この場にある危険を根本から消す以外に手段はない。 「わかった」 ナオトは即答返答して向き直り、皆が集中攻撃を掛けている鬼へと連射する。 「がああはああっ」 飢えに苦しむ鬼達は見かけよりもずっと疲弊していたのかもしれない。最初こそ膠着状態が続いたが、貴志が前進を阻んでいた鬼が倒されると攻撃の手が増えるリベリスタ側が優勢となった。それでも鬼達は互いに協力して戦うという事はせず、リルの眼前の敵、そしてユーキが足止めしていた敵、更に智夫が対峙していた鬼が次ぎ次に屠られていく。 「喰わせろぉおお!」 自暴自棄になったかのように最後の鬼が金棒を振りまわる。 「僕はいい! 他の人を……」 敵の懐に入り込んだ貴志が鬼の身体に牙をたて、智夫の清らかな天上の調べが仲間達の失われた力を補填していく。 「もうちょっとだよ、みんな!」 「ふんぬっ!!」 気合いを込めた太郎の唱和が智夫の歌に重なり響き、皆の失われた力を更に回復する。 「絶対に……外さない!」 涼子の放つ弾丸が鬼の眉間に命中し、背後から飛びかかったユーキの牙が鬼の首筋を思いっきり深く噛む。苦しみもだえながら死への舞いを踏む鬼の暴挙を最後までヘクスが押さえ込む。 「もう観念したほうがいいですよ。これ以上苦しみを引き延ばしても意味はありません」 「否! 否! 吾は……」 「もういいッスよ。葬送のダンスはリルが踊ってあげるッスから」 情熱的な激しいダンスと共にタンバリンに仕込まれた凶爪が鬼の巨体を深く深くえぐり、逆側へと突き通る。体液が吹き出し雨の様な水音が地面を叩く。 「きゃあああ!」 水音を遮るように若い女の悲鳴がかぶる。絶命した鬼以外、その場にいた誰もが振り返った。強結界を越えてそこにあの黒髪の女がいた。 「や、谷木……篝火」 ナオトが女の名をおそるおそる口にするが、女は自分の名を呼ばれた事をわかっていなかった。目の前に広がる凄惨な光景に驚愕し……別の存在へと変貌している。圧倒的な力を内包しつつ世界に愛されざる者。我身を贄に世界を壊してしまう不幸なる者……ノーフェイスだ。力の奔流が彼女の内から湧き起こり、燃えるように放射される。 「いやああああ!」 悲鳴をあげて走り去る女の姿はあっと言う間に雑木林の木々に隠れて見えなくなる。慌ててナオトが後を追い、顔を見合わせていたリベリスタ達も少し遅れて走り出す。だが、黒髪の美女、谷木篝火(やぎ・かがりび)には追いつけず見失い、その後レストハウスにも自宅にも戻ってはこなかった。 めざましい成功と小さな痛み……岡山でナオトと別れたリベリスタ達はそのままアーク本部に戻る。けれど不思議なほど疲労感はなく、戦いで受けた傷もいつの間にか跡さえ残らずに消えていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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